TBS 1968年3月19日
あらすじ
鶴家では皆、イライラしながら武男からの電話を待っている。武男が敬四郎の合格発表を見に行ったからだ。しかし、いつまでたっても連絡はなく、落ちたと思って諦めるしかないと言う愛子。そんな中、気落ちした武男が帰ってきて…。
2023.7.25 BS松竹東急録画。11話までモノクロ。
鶴家
亀次郎:進藤英太郎…大亀建設株式会社を一代で立ち上げた。2月5日で61歳。
妻・愛子:風見章子…5月で56歳。
長男・武男:園井啓介…亀次郎の会社で働いている。3月3日で30歳。独身。
次男・洋二:西川宏…ピアノや歌が得意。空襲で足を悪くした。28歳。
長女・秋子:香山美子…出版社勤務。26歳。
次女・幸子:高梨木聖…女子大生。1月の成人式に出席。
四男・敬四郎:あおい輝彦…浪人中。
三女・かおる:沢田雅美…4月から高校生。
*
お手伝いさん
初子:新田勝江…亀次郎と同じ誕生日2/5で30歳。
お敏:菅井きん…愛子の4つ下。6月で52歳。
*
正子:小夜福子…亀次郎の兄嫁。高円寺の伯母さん。
*
田村:曾我廼家一二三…亀次郎の運転手。
電話のアップから。お敏が掃除をしていると、洋二が電話がかかってきてないか聞き、母のいる茶の間に向かった。
茶の間
愛子はたんすの引き出しの中を整理している。武男が敬四郎の合格発表を見に行ったが、まだ連絡はない。きっとダメだったんでしょうと愛子は諦め気味。発表を見に来る人はいっぱいいるんだからウロウロしてるだけと洋二は言うが、ダメだと思った方がいい、ただお父さんに怒鳴られるのが嫌だと思っていた。
洋二は、お母さんは昔から心配事があると変なところを片付け始めると指摘。
愛子「ごまかしてるのよ。女って大きな声を出せないしね。お父さんみたいに好き勝手な顔もできないし、我慢我慢よね」
敬四郎が帰ってこなかったのは愛子の指示。発表が分かったら電話すると連絡していた。
電話が鳴る。お敏が出ると魚一という魚屋からだった。
お敏「だってまだ鯛になるか鰯になるか分かんないのよ」
ジリジリ待ってもしょうがないから僕のピアノを聴かない?と洋二は愛子に「おいでよね」と言い、先に広間へ向かう。
お敏が熱心に電話を拭いていると、また電話が鳴る。亀次郎からの電話で「どこと電話してたんだ? 武男じゃなかったのか? 何をしてるんだ武男は」と怒鳴って切られた。
受話器を置くとまたすぐ電話。今度は高円寺の伯母さんから。愛子が電話を代わる。
広間へ行った洋二はピアノの前に座る。電話を切った愛子も入ってきて、鯛を頼んだのは正子だったと言った。今日はいらなくなったと言えば、言いふらしようなものだと言う愛子。
洋二「そういうとこやっぱり他人だからね」
正子の配慮のなさのことを言ってるんだろうけど、橋田ドラマもしょっちゅう、他人が入ると~というセリフがあり、昔の血の濃さを感じてちょっと怖い。
洋二が静かにピアノを弾き始めると、三郎と幸子が本宅へやってきた。台所でタバコを吸って一服しているお敏を見かけた三郎は「お前、のんきそうにタバコふかしてるけど今に雷が落っこちるぞ」。母親ほどの年上女性にお前呼びはやめろよ~。
電話が鳴り、今度は秋子から。三郎も幸子もあきらめ気味。幸子はもっと楽なところを受けりゃよかったんだわと言い、三郎も二流だって三流だって、どうせ入ってしまえば勉強するわけじゃないし同じだと言う。
幸子「それは兄さんの言うことよ。する人はしてるわ」
三郎「君はどうなんだい? 今度のデモはいつあるの? ハハハハッ。まあ、ケガをしないようにするんだな。お母さんが心配するからな。ねえ、お母さん、そうでしょう?」
愛子はあきれ顔。
幸子「一度もデモに参加したことないくせに」
三郎「えっ? そうですよ。僕には勇気も情熱もありませんからね、つまり僕には」
愛子「だけどいちばん心配したのはあんたですよ。3回ですからね、今日みたいなこんな思いをしたのは」
三郎「頼みます。もうそれだけは言わないで」
また電話が鳴る。三郎が出ようとするとお敏にぶつかった。「なんだよ、お前は!」口が悪いな。三郎が電話に出ると、かおるが中学校から電話をかけていた。「敬四郎、ダメだったんでしょ?」とかおるの言い方をまねした三郎は妹のくせに生意気だと言い、幸子もこのごろ少しいけないわねと心配そう。
お敏や愛子も加わり、電話の前で話していると、布団を抱えた初子が「あら! 敬四郎さん、落っこっちゃったんですか?」と階段を降りてきた。初子はゆうべ、敬四郎が走ってるカバの背中から落ちる夢を見たと話し、お敏はまだ落ちたかどうか分からないと話すと、初子は驚く。
今度はインターホンから呼び出し音が鳴る。裏口から入って来たのは武男。やっぱりダメだった。「疲れたでしょう?」と武男をねぎらう愛子。
広間では洋二がピアノを弾いていた。三郎、幸子は広間へ。
愛子は茶の間へ。亀次郎には武男から連絡した方がいいだろうと愛子が言う。電話が鳴り、武夫が正子に応対した。魚屋のことも正子から断ってほしいとお願いした。
広縁の窓を開け、「あの子だって一生懸命やったんですよ」とつぶやく愛子。
武男は会社に電話した。恐らく社長秘書であろう女性にわざわざ”美代”と字幕に出たもののそれらしい人はキャストにはクレジットされてなかった。
台所
初子はカバの夢なんて変、逆さまに読むとバカだとお敏に話す。お敏はカバなんて見たことない、馬や鹿なら何度も見たけどってなんちゅう会話だ。
武男が亀次郎に報告していると、電話が切れた。
茶の間にいる愛子は肩を落とし、武男は1年予備校に行きゃいいんだからと励ます。愛子は大学へ入らない方がいつまでも子供みたいでいいと話す。みんながどんどん大人になっちゃうのは嫌だともいう。1人くらいいつまでも子供でいてくれた方がいい。武男は敬四郎は男の末っ子だからかわいいのだろうと言う。
愛子「かわいいのはみんな同じですよ。子供のほうでだんだん遠くに行っちゃうものね」
武男「そばにいますよ、みんな」
橋田壽賀子ドラマ「道」に通じるものがあるね~。
またたんすの引き出しを整理し始める愛子。武男が大学1年生の時に初めて名刺を刷った時の名刺入れ、敬四郎が中学の時に使った浣腸器の残り、秋子のために買ったイボを取る絆創膏…一つ一ついとおしそうに話す愛子に早く敬四郎に電話した方がいいと武男が言う。愛子は敬四郎がかわいそうでなかなか連絡できない。
武男は敬四郎の居場所を愛子に聞き、愛子は石打のTBSロッジだと電話番号を渡した。愛子は今にも泣きだしそうな表情になる。
武男がTBSロッジに電話した。敬四郎が出るとすぐ愛子に代わった。広間から聴こえる悲しげなピアノの音に「おい、ちょっと静かにしてなさい」と止める武男。
愛子「敬四郎かい?」
敬四郎「やっぱりダメだったんでしょう?」
愛子「そうなの。惜しかったけどしかたがないわね。だって受ける人が多いんだもの。落ちる人だってどうしたって多いわよガッカリしちゃダメよ。もしもし?」
敬四郎「ガッカリするけど自分のしたことだからしかたありませんよ」
愛子「お母さんはね、別にガッカリしちゃいないわよ。武男さんだって一遍落っこちたし三郎だって二度も落っこちたんだものね」
電話をそばで聞いて顔を見合わせる武男と三郎。武男も一浪してたか~。
愛子「でもね、あんたスキーに行っててよかったわよ。お母さん、あんたの泣き顔見るの嫌だものね」
敬四郎「そんなこと言っててお母さん泣いてんじゃないの?」
愛子「泣いてなんかいるもんですか。お母さんはね、あんたさえ元気でいてくれたらそれでいいのよ。毎日元気で滑ってたんでしょ? もしもし? どうしたの、あんたは」
敬四郎「お母さん、お元気ですか?」
愛子「何言ってんの。お母さん、こんな元気じゃないの。もっと滑っていたかったら、もっといてもいいわよ。どうせ家へ帰ってきたって、お父さんの顔見てるの嫌でしょう。お母さん、分かるわよ、あんたの気持ち。お金なら送るからもっと遊んでなさい。それでさっぱりして帰ってきたほうがいいわよ。いいわね? 元気じゃなきゃダメよ。一遍や二度つまずいたって平気なんだから。いいわね。分かったわね? じゃあ、切りますよ」
敬四郎「はい」
愛子「お友達にもよろしく」
無言で通話が切れた。
涙声だった愛子が受話器を置いて泣き出す。敬四郎が泣いてるみたいだったと愛子が話すと、武男や三郎がだらしがないなどと言うので、お母さんが泣き声になっちゃったもんだからとフォロー。愛子は武男に心細いといけないからと敬四郎に3万円、電報為替で送るように言う。
三郎「すごいな、落っこちて3万円か」
愛子「あんただってドライブの旅行に行きましたよ。それも二度ですからね」
三郎「フフッ、やぶへびか」
武男「お前が敬四郎のこと言うことはないよ」
亀次郎が怒鳴るんじゃないかと武男たちが心配すると、お母さんだって怒鳴りますよと愛子。秋子に電話して知らせるように武男に言う。
また電話。会社からで亀次郎が家に帰ったという。怒鳴りに帰ってくるんだろうと恐れる三郎。愛子は三郎の中学まで車で行って知らせるように言う。あんた、中学生見たいでしょって。
広間に愛子が入る。
幸子「お母さん、ショックでしょう。どうして慰めたらいいの?」
愛子「さあね。あんたたちのほっぺたをつまみたいわね」
幸子の言い方がストレートでいいなと思った。
洋二は明るくなる曲を弾くと言い、愛子のリクエストにこたえる。愛子は自分が怒鳴られるより嫌だと言い、あのヒゲはなんとかならないのかしらと幸子に愚痴る。
幸子「愛嬌があって、私好きよ」
愛子「初子さんの夢じゃないけどカバがごろ寝してるみたいよ」
洋二が弾き語りで歌う。
♪朝から夜まで 鳴りどおし
みんなも今では こわくない
ドンドン ドドンド ドン ドドン ドドン
ドンドン ドドンド ドン ドドン ドドン
ご機嫌如何(いかが)か 大太鼓…
亀次郎は自宅に向かっていたが、前を走るサイレンを鳴らしている車(パトカー?)が邪魔に思え、運転手に追い越せ!と命じる。
田村「『慌てる…もらいが少ない』って言いますよ」←音声も消され、字幕にも出なかった。
慣用句なんだから別にそのまま言ってもいいように思うんだけどね。
お寿司が用意された。愛子、武男、洋二、幸子がテーブルにつく。また電話が鳴り、正子ではないかと噂しあう。
愛子「他に行くところがないからよ。お寿司やうなぎぐらいなら安いもんよ」
三郎も帰ってきて、まるで合格したみたいだと驚く。
初子が電話に出て、亀次郎はこれから箱根のいつもの旅館に行くから愛子もすぐにくるように言付かった。途中のドライブインから電話。
愛子はうちへ帰ってきたらどんな顔したらいいのか困っている亀次郎の心情を慮る。怒鳴らなきゃ格好がつかないし、あんまり怒鳴って分からず屋のおやじにはなりたくない。
武男「人は見かけによらないものさ」
愛子「なんですか『人』だなんて。あんたたちのお父さんじゃないの」
わさびが効いたツーン顔がおもしろかったよ、愛子さん。
三郎が運転し、洋二が助手席、後部座席に愛子と幸子が乗った車が走っている。武男は多分そのまま会社に戻って、かおるは置いてけぼり? まあ、秋子もいるしね。
三郎「一度、お母さんとみんなで旅行したいですね。おっかない人は抜きにしちゃってさ。フフフッ」
愛子「うちではババ抜きじゃなくてジジ抜きね」
子供たちが笑う。(つづく)
前にスリーエスとか言ってたからこの車じゃないかと思います。年代もぴったり。
高円寺の伯母さん、今回は声のみの出演だった。
受験に失敗して悩む人も多かったのかな。金八でもあったよね、浅井雪乃の兄。愛子さんの励ましが真に迫っててとってもよかった。おやじはトータルすると意外と出演時間短くない!? 「おやじ太鼓」というタイトルながら案外良妻賢母物語なのかも?
それにしてもお金があるっていいな~とつくづく感じる。