公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)たちが東京へ戻って7年がたった。正道(鹿賀丈史)は建設現場監督が板につき、元子は主婦業のかたわら童話などを書く日々だ。トシ江(宮本信子)もちょくちょく顔を出せる距離に住んでいる。ある日、巳代子(小柳英理子)から、宗俊(津川雅彦)と順平(斎藤建夫)の親子喧嘩を仲裁して欲しいと頼まれる。宗俊は、映画の仕事で不規則な生活をしている順平が我慢ならないのだ。正道は話をしてくるというが…。
昭和38年
まことに早いものです。元子たちが東京へ出てきて7年がたち、ここが元子たちのうちです。
一気に7年飛んだ! 前みたいにあの時はこんなことがあって~は、なしか。もう視聴者の人も昔のことって感じじゃないか。昭和57年の1月から見た昭和38年じゃあ、大した昔じゃないしね。
狭い路地を歩いてきたトシ江が洗濯物を拾って縁側から声をかける。
トシ江「元子、いるの?」
元子「は~い!」
トシ江「ああ、何だ、いたの」
元子「ええ、いましたよ」
ダイニングテーブルで何か書いている元子。
トシ江「不用心だねえ、本当に」
元子「あら、そう?」
トシ江「ほら、洗濯物、飛んでたわよ」
元子「あっ、すいません」
冷蔵庫がある台所。手前に映し出されたシンクには水に浸された食器がそのまま。
元子「買い物してる途中で急に思いついちゃってね、忘れないうちに書こうと思って、今、急いでやってるとこなの」
トシ江「まあまあ、勉強するのも結構だけれども、けどまあ、うちの中がだらしがなくなるのは、お母さん嫌いだね」
元子「ちゃんとやってるわよ。ちゃんとうちの中のことをやった上でただいま童話を執筆中なんです」
トシ江「えっ、童話?」
元子「うん、ほら言ったでしょう。ブルースが書け書けって、お尻たたいてるって」
トシ江「ああ、あれ、まだ仕上がってないの?」
元子「だってPTAはあるし、バーゲンだって見逃せないし、うちの中もいろいろあるし」
トシ江「いい年して、相も変わらず売れないもの書いてんだから、結構なご身分だよ」
元子「人(しと)聞きの悪いこと言わないでよ。出来さえよければね、推薦してくれるってブルースだって、そう言ってくれてるんだから」
トシ江「出来さえよければね」
元子「放送されたことだってあるじゃないの」
トシ江「ああ、そういえば1回はあったかね」
元子「お母さん…」
トシ江「いや、私はね、別にいけないとは言ってないんだけど、けどさ、商売やってるわけじゃないんだから子供にさみしい思いをさすことだけは、お母さん承知しないよ」
元子「そんなことはしておりませんよ。それよりどうしたの? 今日はやたらにめかし込んじゃって」
トシ江「ちょいとね、小唄の会があるんだよ」
元子「へ~え、それは広いご趣味をお持ちですこと」
トシ江「親からかうもんじゃないわよ。娘の頃にさ、一緒にやってた友達が今度、会、開(しら)くっていうんでね、手拭いとか浴衣の注文を頂いたの。だから、まあ、いわばね、お店のおつきあい」
元子「そう」
トシ江「あっ、そうそう、巳代子がクッキーをね」
元子「へえ~、クッキー?」
トシ江「うんうん、ほら」冷蔵庫の上に置いた巾着から紙袋を渡す。
元子「へえ~、どれどれ。うわぁ、おいしそうねえ」
トシ江「何やってんの」
元子「えっ?」
トシ江「子供にだよ。朝からそれで巳代子、クッキー焼いたんじゃないか」
元子「あっ…駄目なのよねえ。私たち物のない頃を知ってる世代っていうのは食べ物はさ、食べられる時に食べておかなきゃっていうのが全然抜けないのよね」
トシ江「どうりで近頃太めだね」
元子「貫禄が出てきたって正道さんは言ってくれてますよ」
トシ江「あっ、そういえば旦那様はどうなの? 近頃、とんと顔を見せないけど」
元子「うん、忙しいのよ、朝早くから夜遅くまで」
トシ江「あ~、そう…そりゃ結構なことじゃないか」
工事現場
足場がグラグラ揺れてる。事務所から出てくる大原さん。
正道「はい、ご苦労さん。お~い、足場足場! 足場、気を付けろよ!」
石原「大原さ~ん!」
正道「はい」
石原「大原さん、ちょっとこれ見てください。ここんとこなんですけどね…」
工藤「大原さん、ちょっと電話に出てもらえませんか」
正道「どこから?」
工藤「資材の河井さんですよ」
正道「分かった、すぐ行く。ちょっと待ってもらってくれ」
工藤「はい」
石原…藤田安男さん。wikiによれば、1950年代後半に映画に出演したり、1977年~82年は教育テレビの「理科教室小学校3年生」に出演してたり、声優もやってたり、今日、このドラマに出てる人と同じ人なんだろうか?
工藤…中原由視さん。「金八先生」の第1シリーズの21、22話出演。何の役だろう? あとは特捜最前線など。
事務所では橋本が電話で話している。
橋本「あ~、分かった分かった。だから今、集計中だと言っただろう。うん…とにかくね、今、大原君も来るから、よく話し合ってよ。うん、だから…だからさ、今、代わるから。お前じゃなきゃ駄目だよ」
正道「何のことだ?」
橋本「ほかの現場に比べてセメントの発注が多すぎるんじゃないかっていうんだよ」
正道「冗談じゃないよ」
橋本「ああ、もう、数字のことしか頭にないカチンカチンだからな。頼むよ」
正道「はい、大原です。あ~、ちょうどよかった。例のリフトね、あれ、いつ着くんですか? そうだよ。出し惜しみしないでよ。それからね、セメントなくなってから発注したって、こっちはもう手が空くだけなんだから。そう思うんだったら現場の進行状況、見にいらっしゃい。そうだよ」
大原家
トシ江「今年は2だろう。男の厄なんだから、あんたが細かく気ぃ配らないとね、つまずくこともあるんだよ」
元子「ちゃんとやってるわよ。苦労性なんだから」
昭和31年に35歳だった正道は42歳。元子は37歳。
宏江「ごめんくださ~い、中村で~す」
元子「は~い、ただいま!」
トシ江「言ってるそばからこうなんだから。本当に落ち着きがないったらありゃしない」
玄関
元子「あっ、どうも」
宏江「こんにちは」
元子「こんにちは」
宏江「今、山里さんから電話があって、今度の土曜日、1時からいかがですかって言われたんですけど」
元子「え~、土曜の1時…ええ、結構ですわ」
宏江「あっ、そう? それじゃ奥さんから赤井さんに連絡していただける?」
元子「はいはい、承知いたしました」
宏江「あっ、それじゃあ」
宏江…溝口貴子さん。中村さんとしか呼ばれてないけど、オープニングの宏江が中村さんかな? 「イキのいい奴」にも出てたらしいが探されている。
ダイニング
トシ江「今度は何、首突っ込んでんだい?」
元子「うん、PTA」
トシ江「やれやれ」
元子「何事も勉強なのよ。お母さんたちの中にもね、いろんな人がいてね、もう口を開けば、おしゅうとさんの悪口を言う奥さんがいて、もう、話が面白いのよ」
トシ江「PTA、PTAって子供のためなんだか自分が面白がってんだか分かりゃしないわよ」
元子「えっ? もちろん両方ですよ」
トシ江「まあ…」
元子「ねえ、それより近頃、順平どうなの?」
トシ江「う~ん」
元子「やっぱりお父さんとこれ?」指でバッテンをつくる。
トシ江「まあね、お父さんが心配するのは分かるんだけど、けど、大学を出た時に『うん』って言っちまったんだからしかたがないと思うのよ」
元子「まあね、野球の選手になりたいって言ったと思ったら、山登りに夢中になって、それが映画やりたいって、いろいろ変わったもんね」
トシ江「ひと事みたいに言わないでよ」
元子「だからって、あの子がこれって決めたんだから応援してやるよりしょうがないじゃないの。子供の一人(しとり)ぐらいさ、変わり種が出たっていいじゃない」
トシ江「一人じゃありませんよ。元子だって巳代子だって、私のころに比べたら普通のおかみさんとは言えないわよ」
元子「だって時代が違うもん」
トシ江「だからさ、たまにはうちに来てお父さんに言ってやってよ」
元子「言ったわよ。映画の仕事っていうのは不規則なんだからって、いくら言っても夜は遅いの、朝はいつまでも寝てるのって文句ばっかり言ってさ、まあね、順平がかわいいのは分かるけど、もう大人なんだし、そういう仕事をしてるんだから」
トシ江「まあね」
吉宗
宗俊「あの野郎、どこで油売ってやがるんだ、え」
キン「夕方には帰るっておっしゃってました」
宗俊「おおかた、元子のところへでも行ってやがるんだろ、え。近頃あいつはどうも愚痴っぽくなっていけねえやな」
キン「そういう旦那こそ愚痴っぽくなってね、こりゃ、やっぱり年かなと思ってました」
宗俊「何だと?」
キン「フフフ…あっ、お帰りなさいまし」
順平「ただいま」
宗俊「大(でえ)の大人が日の高(たけ)えうちから、ただいまか」
順平「昨日は仕上げで徹夜だったんだよ」
宗俊「仕事だと言えば済むと思ってやがる。下宿屋じゃねえんだぞ。食って寝て出ていくだけたあ、どういうことだい」
順平「一休みしたら手伝ってやるよ」
宗俊「誰が手伝えっつった」
順平「だってそれが気に入らねえんだろ」
宗俊「バカ野郎。そんなことする暇があったらな、真面目に修業しろ」
順平「真面目にやってるから、この時間になったんだろうが」
宗俊「この野郎、親に口答えする気か?」
キン「何ですよ、店先で…」
宗俊「うるせえ! どなろうがわめこうがここは俺の店だ。気に入らねえやつは、とっとと出ていけ!」
順平「分かったよ。出ていけばいいんだろ、出ていけば!」
キン「ちょちょ…ちょっと待ってくださいよ、2人ともね、まあ…」
竹刀を肩に担いだ少年が歩いてきた。
大原家玄関
大介「ただいま」
道子「お帰りなさ~い」
大介「お母さんは?」
道子「今日は、いる」
大介「へえ~、珍しいの」
道子「でも、お勉強よ」
大介「ふ~ん」
道子「おばあちゃんがね、また巳代子叔母さんのクッキー持ってきてくれた」
大介「ヤッホ~!」
この春、中学生になった大介と小学3年生の道子です。
玄関に置いた学生かばんを道子が運んでる。
大介…中村雅紀さん。前年度に教育テレビの「明るいなかま」という番組や、「太陽にほえろ!」、時代劇に出ていた。
道子…川瀬香織さん。1970年代後半から1980年代にいくつかドラマに出演歴あり。
ダイニング
大介「お母さん、ただいま」
元子「お帰り。あら、もうそんな時間? まあ大変。おなかすいたでしょう。手ぇ洗いなさい。クッキーあるからね」
大介「おばあちゃんが来たんだって?」
元子「うん。顔見ていきたんだけどって言ってた。遊びに行くといいんだけど、大介だって暇がないもんね」
大介「そんなことないよ」
元子「あらそう?」
大介「暇がないのは、お母さんだけさ」
元子「まあ」
道子「だからお母さんはクッキーを焼かないの?」
元子「えっ?」
電話が鳴る。
道子「私が出るから」
元子「あっ…いい。お母さん出るから」
元子の原稿をチェック。
大介「何だ、昨日からまだ8枚しか進んでないや」
元子「はい、大原でございます」
巳代子「もしもし、私」
元子「ああ」
巳代子「またなのよ。順平ったら、お父さんとまたやり合っちゃったの」
元子「本当にどうしようもないわねえ」
巳代子「お父さんったら、祐介さんが順平を唆してるみたいに言うしさ、ねえ、何とか言ってよ。参っちゃう。うん…うん、だから一度、お義兄(にい)さんから何とか言ってほしいのよ。お願いします。そいじゃ、なるべく近いうちに。ええ…はい、じゃあお願いね」
元子「分かった。じゃあ。はあ…」
夜、台所
片づけをしながら子供たちの声を思い出す。
大介「暇がないのは、お母さんだけさ」
道子「だからお母さんはクッキーを焼かないの?」
廊下に出て階段を上る。だいたい日本家屋って似た作りのせいか「マー姉ちゃん」を思い出した。
2階の子供部屋
布団で寝ている道子。道子のテーブルには「サザエさん」の初版本!
道子の机と向かい合わせの大介の机では、大介が突っ伏して寝ている。
元子「大介」部屋に入ってきて、大介の握った鉛筆を机に置き、肩をそっと叩く。「大介」
大介「ああ…はい」
元子「着替えてちゃんと寝なさい」
大介「はい」
元子「ほら、風邪ひくよ」
大介「うん」
正道「ただいま」
元子「あっ…ちゃんとして寝るのよ」
大介「はい…」そのまま机で寝る。
ダイニング
水を飲む正道。「あ~…。祐介君も困ってたろう」
元子「うん。お父さんにあの調子でやられるとオロオロしちゃうんじゃないかしら。まあ、お父さんの方もね、順平とかみ合わないところを祐介さんに八つ当たりしてるんだろうとは思うけど…」
正道「うん…一度、両方に会ってみなきゃいかんな」
元子「すいませんね、あなただってお忙しいお体なのに」
正道「いや、今度、暇な時にぶらっと行ってみるよ。まあ、お義父(さん)だってね、頭じゃ分かってるんだと思うけどね」
元子「せっかちなのよ。私だって童話1本抱えてああでもないこうでもないってやってるのに、まして映画でしょう。助監督さんなんて聞こえはいいけど、初めは雑巾と金づち腰にぶら下げた下働きなんだし、10年に一本とれれば早い出世なんですってよ」
正道「まあ、好きでなきゃできない仕事だな」
元子「本当。まあ、それにね必ずしも監督になれるかどうか分からないっていうのが、お父さんたちの悩みの種だとは思うんだけど」
正道「うん、しかしね、やってみなきゃ分からんしな」
元子「そうなのよ」
順平の部屋
布団に寝っ転がり、ため息をつく順平。文机の上の灰皿はタバコでいっぱい。
しかし、燃える情熱と焦りとはいつも裏腹にあるものなんでしょうか。はけ口のない若さは青年の魂を焦がすものです。
ウイスキーをラッパ飲み! 部屋に貼られた「勝手にしやがれ」のポスター。
俺は最低だ…最低って俺のこと?というキャッチコピーが面白い。
もう1枚のポスターはエリザベス・テイラーの「クレオパトラ」かな?
↑全然こういう画像はないけど、フランケンシュタインっぽいのも見えるし、いろんな映画のコラージュかもしれない。
「勝手にしやがれ」のポスターを見ていた順平。「くそぉ…」
そして元子も大器晩成といわれ、のぼるや恭子に尻をたたかれながら新人ドラマ作家への修業に取り組んでおりました。
ダイニングキッチンに続く和室で原稿を書いている元子。
正道「何だ、まだやってるのか」
元子「シッ」
正道「あ~、もう3時だぞ」
元子「ごめんなさい。急にいい話を思いついたの。だから、そこだけでも忘れないうちに大急ぎで書いておこうと思って」
正道「それならいいけども、あんまり詰めて体壊すなよ」
元子「すいません、あなただってお疲れのところ、起こしちゃって」
正道「ううん、一眠りしたら目が覚めてね、何か腹減ってな」
元子「じゃあ、お茶漬けでいいですか?」
正道「いい、いい…自分でやる」
元子「すいません。じゃあ、お湯はポットの中ですから」
正道「うん」
元子「あっ、ごはんね、戸棚の中です」
正道「あ…いいよ、いいよ」
元子「たらこと昆布は冷蔵庫にありますからね」
正道「ああ」
原稿を書く元子の背中を見て、自分で準備する大原さん。台所に立つようになったんだ。夜中の3時に食べない方がいいとは思うけど。
さて、どんな名作が生まれるのでしょうか。
つづく
昭和31年から38年へ。当時からすれば約20年前。勝手な想像だけど、主婦やお年寄りが主な視聴者層なら昨日のことのような感覚かもね。みんなの老け方が自然。
PTAって今は、(ネットを見た限り)やりたくない人が多数なんだろうけど、元子の時代はまた違ったのかもね。否定的に描かれてなかった。
昭和のホームドラマっぽい家になって、「岸辺のアルバム」を思い出すなあ~。則子や謙作は元子夫婦よりちょっと下の巳代子と順平の間くらいの世代かな。昭和一桁生まれ。
順平は映画界に入ったみたいだけど、昭和30年代はもう津川雅彦さんもバリバリ活躍されてた時代。
こないだ観た津川雅彦さんが中学教師を演じてた映画は昭和37年。黒縁眼鏡の頼りになる先生だったけど、この時、津川さん20代前半と思うと貫禄あるな~。
前々から16期生なら、このドラマでいう恭子(ブルース)をモデルにした方がNHK史も分かって面白そうと思ったけど、長い専業主婦時代のある近藤富枝さんの専業主婦時代を描きたいのかなと思うようになった。内部を描くというのもなかなか難しそうだしね。大量退職の時だってNHKを悪く描けなかったし。