徒然好きなもの

ドラマの感想など

【連続テレビ小説】芋たこなんきん(96)「しもたっ!」

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

町子(藤山直美)の弟、信夫(西興一朗)が町子を訪ねる。1人暮らしの母、和代(香川京子)が仕事を辞めたことを告げ、体の具合が悪いのか、会って理由を聞いてほしいと頼む。そんなとき、和代が町子を訪ねる。仕事を辞めた理由を町子が聞くと、和代は「これからは好きなことをして暮らしていく」という。そしてハワイ旅行にでかけることを告げる。町子は「休みを取って一緒に行ける日まで待ってほしい」と和代に頼むのだが…。

昼、茶の間

健次郎、町子、純子、鯛子でうどんをすする。

鯛子「うん、やっぱりおいしい! 何か週1回ごちそうになるのが癖になっちゃいました」

町子「1人分ぐらい増えたかて困らへんのやから遠慮しなさんな」

鯛子「すいません」

健次郎「弁当もええけど、たまには、こう、ぬくいもん食べなあかんな」

純子「藪下さんも来ればいいのに…」

鯛子「『インスタントラーメン、待合室で食べるのやめなさい』って言ったら、今日は外に出ていきました」

町子「う~ん…そらまあ、インスタントラーメンもたまにはいいやろけどねえ」

 

「うわ! あっ! あ~あ~あ~あ~!」

藪下「あっ、すいません!」

 

鯛子「あっ!」

町子「えっ?」

 

玄関でスーツやかばんを拭く信夫とどんぶりを持った藪下。

鯛子「え~、どないしたん!? ちょっと…。(信夫の顔を見て)ああ」

信夫「あ~、どうも」

 

町子「あら、信夫!」

信夫「ああ」

藪下「お知り合いですか?」

町子「弟です」

 

藪下「ああ。あ~、びっくりした」

信夫「こっちこそびっくりしたわ! そっからもういきなり丼鉢持った子が出てくるんやもん」

藪下「いや『待合室で食べたらあかん』言われたもんで…。お天気もええことやし!」

鯛子「ちょっと、何考えてんのよ、もう! 中入りなさい、ほら! すいません、本当」

信夫「いえいえいえ…」

 

町子「久しぶりやないの!」

健次郎「元気やったか?」

信夫「あっ、どうも、こんにちは。いや、ちょっとそこまで来たもんで」

 

茶の間

健次郎「営業の途中かいな?」

信夫「ええ」

健次郎「大変やな」

信夫「いえ、もう自分のペースで時間やりくりしたら、こないしてお茶飲む時間もつくれますから」

 

町子「相変わらずひょろ長いけど、ちゃんとごはん食べてんの?」

信夫「何やお母ちゃんみたいなこと言うな」

町子「1人で暮らしてたかて、お台所ちゃんとついてるんやから、お料理ぐらい頑張ってやりなさいよ」

信夫「え~、だって面倒くさいやん。ねえ」

健次郎「ハハハハ。僕、そろそろ時間やから行くけど、ゆっくりしてってや」席を立つ。

 

町子「信夫、カステラ食べるか?」

信夫「うん」

町子「うん。ちょっと待っててや」台所へ。

 

信夫「お姉ちゃん」

町子「何や?」

信夫「あんな、僕、実は話あって来てん」

町子「話て、お母ちゃんのこと?」

 

信夫「え? 何か聞いてんの?」

町子「あんた来んの珍しいもん。そんなことかいなあと思ただけのことやけど」

信夫「あの、お母ちゃんさ、最近、仕事辞めてんで。お姉ちゃん、知ってた?」

町子「何にも聞いてないよ。先週、話、した時、そんなこと言うてなかったもん。で、何でなん?」

信夫「いや、それが理由聞こ思て電話しても留守がちやし、つながっても『忙しい、忙しい』言うて、すぐ切んねん。何かあったんかな?」

町子「何かって?」

 

信夫「体の具合悪うして働かれへんようになったとか…」

町子「そらまあ、お母ちゃんかてなあ…言うても年は年やからな」

信夫「僕らに言うたら心配かける思てんちゃうやろか。だから、お姉ちゃんいっぺん会うて話、聞いてみてよ」

 

町子「ねえ、孝子には何て言うてんの?」

信夫「孝子姉ちゃんには言うてへんよ! 孝子姉ちゃんに言うたら、話、ややこしなるやん」

町子「そやな。あの子、前のめりな子やからな」

信夫「うん」

町子「言わん方がええわ」

信夫「そやろ」

 

町子「こんなことでもこんななるやろ」

信夫「そやな」

町子「大騒ぎになるから絶対言いなさんなよ!」

信夫「分かった」

町子「孝子には絶対言うたらあかんよ!」

信夫「分かったて! あっ、ほな、僕、ボチボチ行くわ。だから、お姉ちゃん頼んだで!」町子が切って皿に載せたカステラを手に取り、台所を出る。

 

町子「お母ちゃんにはね、ちゃんとお姉ちゃん連絡するから、あんた心配せんでええから」

信夫「うん。あっ、そや! あれ、面白かったわ! 一番最近の小説」

町子「ああ」

信夫「何やったっけ? あの…『ふんだりけったり』や!」

町子「『降ったり照ったり』や」

信夫「あ、そや…。あっ、まあ、お姉ちゃんも頑張って! ありがとう!」カステラを頬張る。

 

町子「気ぃ付けて行きなさいよ!」

信夫「うん!」

町子「ねえ!」

信夫「うん!」

 

しかし、結局、その日は連絡がつかず…

 

廊下

純子「はい」

 

翌日の午後のことでした。

 

玄関に和服姿の和代が立って、純子の顔を見ると頭を下げた。

 

茶の間

純子「どうぞ」お茶を出す。「つい、今し方お出かけになられたところなんです。原稿の打ち合わせで梅田のホテルに…」

和代「そうですか。タイミング悪かったですねえ…」

純子「大先生も…あっ、健次郎先生も午後は往診で出かけられまして」

和代「健次郎さんもいてはれへんのですか。2人とも家で仕事してんねやから、いつ行っても大丈夫やと思い込んでしもてて…。ちょっと相談事があったんやけど…」

 

純子「私、ホテルに電話入れます。町子先生、仕事が終わったら、お母様のとこに行かれるおつもりだったんです」

和代「え? あ、そうなんですか…。あの子が?」

純子、電話をかける。

 

亜紀「聞いて聞いて、おばちゃん! あっ、おばちゃんの…お母さん!」

和代「こんにちは。いや~、亜紀ちゃん、また大きなったんと違う? 何年生やったかな?」

亜紀「2年生」

和代「ああ、そやった、そやった」

 

純子「あの『夕方には戻りますので待っててください』とおっしゃってました」

和代「そうですか。どうもすいません」

純子「いいえ」

 

亜紀「町子おばちゃん、お仕事?」

純子「そう、お出かけしてるの」

亜紀「漢字テストで92点取ったから見せよ思て走って帰ってきたのに…」

和代「いや~、亜紀ちゃんすごいわ! 後で町子おばちゃんに見せてあげて。喜ぶわあ」

 

純子「亜紀ちゃん、おやつは?」

亜紀「先、宿題してから」

 

和代「あっ、矢木沢さん」

純子「はい」

和代「町子、帰ってくるまで、私、ちょっと時間潰してきます」

純子「あの、ここでお待ちになったら…」

 

和代「いえ、その辺、ブラブラしてきますわ。あっ、そや…商店街に薬局てありますやろか?」

純子「はい、ございます。映画館の隣に1軒。あっ、お薬でしたらここで…」

和代「あ、いえ…。そういうのと違うんです。ほな」

 

夕方

台所にいる純子と健次郎。町子は茶の間にいる。

町子「相談事って言うてました?」

純子「はい。あっ、何か大先生にもお話しなさりたいご様子でした」

健次郎「ふ~ん」

 

町子「やっぱり何かあったんやわ」

健次郎「わざわざ来はるのも珍しもんなあ」

町子「仕事のことかな?…って、けど、健次郎さんにも相談てねえ」

健次郎「うん。どっか具合悪そうでしたか?」

 

純子「あっ、そういえば、あの『薬局はどこか』って聞いてらっしゃいました」

町子「薬局?」

純子「はい」

 

そして、しばらくして…

 

夕方、茶の間

和代「悪いわね、忙しい時間に」

町子「いや、それはええねんけど…お話しって何?」

和代「うん…。健次郎さんは?」

町子「まだ診療時間。けど、もうすぐ終わります」

和代「そう。ほな後でちょっとお時間もろて…」

 

町子「ねえ、お母ちゃん、お仕事辞めたんやてね?」

和代「仕事? いや…あんたに言うてへんかった?」

町子「私、何にも聞いてないもん。心配した…。このごろ遅う電話したかていてないでしょ。何があったの?」

和代「『何が』って何?」

 

町子「いや『何』って…。いや、そやから、ほらあるでしょ。調子が…体の調子が悪いとかって」

和代「体?」

町子「うん」

和代「いいや、健康そのものやけど」

町子「はあ?」

 

和代「この年やし、これからは好きなことしよ思て」

町子「好きなこと?」

和代「こないだから長唄習てんの」

町子「長唄!?」

 

和代「若い時から習いたいと思てたん。週2回、お稽古行ってる。それと、お習字な」

町子「いや…これのお習字?」

和代「お母ちゃん、字、うまいことないやろ。おばあちゃんもバアバアばあちゃんも上手やったから、若い時からお母ちゃん、それが恥ずかしかってん。あんたも字、下手やし、こら、私のせいやな思てつらかったわ」

町子、下を向いて何度もうなずく。

 

和代「そうそう、それより相談があんねやないの」テーブルの上にパスポートを出した。

町子「パスポート!?」

和代「来月、ハワイ行くね」

町子「ハワイ!?」

和代「お母ちゃんな、いっぺん海外旅行行ってみたかってん」

 

町子「ハワイって、このハワイ? これ?」ミニ予告で流れたフラダンスはここか。

和代「あんた、知ってる?」

町子「はい?」

和代「旅行会社でみんないろいろなお勉強させられんねや。外国行って気ぃ付けなあかんこととかマナーとか…。そうそう、英語の勉強かてせなあかんね。ほら」

町子「あら~!」

 

和代「もう、お母ちゃん、大忙し!」

町子「すごいね~! だけど、その相談て何なん? お母ちゃん」

和代「ちょっとちょっとこっち来て」

町子「は? 何? 何?」

 

和代「見てくれる?」

町子「え? あら!」

和代「大失敗!」パスポートの写真が上目遣い。「何かの犯人みたいやろ。そんなん見せたら税関で止められるわ。そない思たら心配で心配で…」

町子「ひょっとして相談ってこのこと?」

 

和代「旅行会社の人に聞くの恥ずかしいやろ。ああ…やっぱり撮り直して再発行してもらおかしら?」

町子「いや、そんな理由で再発行なんかしてくれませんよ」

和代「そうかて、税関で…」

町子「お母ちゃん、大体ねパスポートとか免許証というのは犯人みたいに写るのよ。ねっ。それよりも健次郎さんに相談って何のこと?」

和代「そうそう、それやねん」

町子「うん」

 

健次郎「すいません、お待たせしました」

和代「まあ、ご無沙汰しております」

健次郎「いやいや、こちらこそ」

 

町子「健次郎さん、お母ちゃんね、ハワイに行くんやて!」

健次郎「ハワイ?」

和代「それでね、ちょっと教えてもらいたいことがありましてね」

健次郎「ああ、は…はい」

 

和代「あの…向こうでは日焼け止めいうもんを塗るよう言われたんですけど、このお薬、一日、何回ほど塗ったら効きますねやろか?」

健次郎「は?」

町子「お母ちゃん!」

和代「何せ初めてなもんやから、お医者さんに聞いとかんとな」

健次郎「ああ…」

和代「あんまりようさんつけすぎて体悪したらあかんでしょ」

健次郎「はあ…」

 

和代「それより…大事なこと」

健次郎「え?」

和代「海外旅行の前には予防接種せなあきませんでしょ。それ、健次郎さんにお願いできませんやろか?」

健次郎「ああ、予防接種ですか」

 

町子「どこで打ってもろても一緒やないの!」

和代「そんなことありません!」

健次郎「分かりました。僕とこでどうぞ」

和代「ああ…」頭を下げる。

 

町子「ねえ、お母ちゃん、初めての海外旅行でしょ。1人で大丈夫なん? 心配やわ、もう!」

和代「団体旅行ですよ」

町子「団体旅行て周り見たかて知らん人ばっかりでしょ。向こうで道に迷うて迷子になって『ちょっとすんまへんけど、ここどこでっしゃろかいな?』言うたかて誰も言葉通じへんのですよ!」

和代「そのために勉強してんやないの!」

町子「それは分かってるけど! もう…」

 

健次郎「あの…どうですかね、たまには一緒にごはんでも」

和代「え?」

町子「そしたら、せっかくやから食べて帰る?」

和代「そうさしてもらおかしら」

健次郎「ねっ、是非!」

 

夜、茶の間

由利子「ええなあ、ハワイ!」

隆「うわ~、僕も行きたいなあ!」

立ち上がってフラダンスを踊り、一同笑う。

町子「何? それ」

和代「上手、上手」

健次郎「ちゃんと座って食べなはれ」

 

亜紀「お土産買うてきてな、おばちゃんのおばちゃん」

和代「もちろん! 待っててね」

健次郎「お前、おばちゃんのおばちゃんて何や?」

亜紀「町子おばちゃんのお母さんやもん」

町子「ああ。おばちゃんのおばちゃん」

健次郎「なるほど!」

 

町子「亜紀ちゃん、上手に言うなあ!」

亜紀「アハハハハ!」

 

たこ芳前

和代「あ~、すっかりごちそうになってしもて。もうこの辺でええよって」

町子「いや、ちょっとお母ちゃん、ほんまにハワイ行くの?」

和代「ほんまに行きますで」

町子「私もついていくから休み取れるまで待っててえな!」

和代「来月でないと意味あれへんの」

町子「え?」

 

和代の言葉の本当の意味を町子は、はかりかねていました。

 

ミニ予告

たこ芳でみすずが町子にお金のジェスチャーをしている。

 

久しぶりの信夫や和代の登場。和代さん、かわいいなあ。