公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
町子(藤山直美)に、先輩作家の池内幸三(板尾創路)のテレビ番組の企画で、着物デザイナーの吉永東子(高田聖子)との対談の話が舞い込む。番組で、町子は東子と着物の話で盛り上がる。久しぶりに町子の好奇心が揺さぶられた出会いであった。一方、翌年高校3年になる由利子(邑野みあ)は、自分の進路のことで迷っていた。裁縫が好きで得意とする由利子に、晴子(田畑智子)が医大受験の問題集を渡すのだが…。
朝、茶の間
由利子「ごちそうさまでした」
町子「はい」
由利子「お父ちゃん」
健次郎「うん?」
由利子「これやねんけど」紙を渡す。
健次郎「何や? これ。ほう、進路相談」
由利子「来週やねん。保護者も出席やから頼むね」
町子「何とか行けるようにするわね」
由利子「お願いやからね。ほな、行ってきます」
健次郎「はい、行っといで」
町子「そうや、来年高校3年生なんや」
健次郎「あんた、何か聞いてたか?」
町子「何にも」
健次郎「ふ~ん。進路相談か…」
2人のやり取りを見ていた晴子。「大丈夫かいな」
徳永家の門を出ようとしている由利子。「はあ…進路かあ…」
仕事部屋
町子が電話をし、純子が電話を持っている。
町子「対談? 私が池内さんの番組で?」
池内「そやね。着物デザイナーしてる面白い女の人でね」
町子「着物デザイナー?」
池内「いっぺん花岡さんに会うてほしいね」
町子「ちょっと考えてからお返事させていただきます。ええ、はい。えらいすいません、どうも。はい、失礼いたします。すいません、どうも」受話器を置く。
何気に電話してる相手の声もちゃんと聞こえるシーンは珍しい。
純子「着物のデザイナーですか?」
町子「うん。何か吉永東子さんていう方…」
純子「私、存じてます。百貨店で見たことあります。もう斬新であでやかでした。確か東京の方で着物のお仕事のために京都にいらっしゃった方です」
町子「純子さん、何もよう知ってるんやね。で、その人ね、今の仕事する前、証券会社に勤めてはったんやって」
純子「また全然違うお仕事選ばれたんですね」
町子「面白いねえ」
純子「えっ、先生、あの…対談お受けになるんですか?」
町子「う~ん、どうしようかなあ…」
診察室
着物を整えるりん。「あ…」腰を押さえる。
鯛子「大丈夫ですか?」
りん「おおきに。ありがとうございました」
晴子「湿布、出しときますね」
りん「はい」
晴子「あんまり冷やさんようにしてください」
りん「う~ん…まあ、立ち仕事やからねえ、腰に来ますわ。年やろか?」
晴子「お大事に」
りん「はい。ありがとう」
診察室を出ていくりん。「どうも、お世話さまでした」
鯛子「お大事に」
鯛子「はあ~、一段落で~す。忙しかったですね、今日は。どないしはったんですか?」
晴子「りんさん、きれいな着物やったね。外国の方やのに、あんなきちんと着こなして」
鯛子「うん。ほんまですね」
晴子「私、着物着たん成人式の時ぐらいやわ」
鯛子「けど、りんさんて謎の人ですね。今までどんなふうに人生過ごして関東煮き屋さんしてはるんでしょ」
晴子「そやね。昔のこと聞いたこともあれへんわ」
鯛子「ねっ」
工藤酒店
CINE-SCENE
キネマ情景 12
雑誌をうっとり眺めているタエ。
次代のスター、エディー初来日目前!!
『荒野の二人』
チャールズ・ウェストウッドと共演
BSシネマで毎週金曜日にやってる西部劇っぽい感じだな。私は、馬が乱暴に扱われてるんじゃないかと勝手に恐ろしく思い、この手の映画は見ません。偏見?
タエ「『時代のスター、エディー』。初来日か~」
エディー・スペンサー
単独インタビュー
チャド・マレーンさんの役どころは少しあとなら厚切りジェイソンさんがやりそう。今は、これといった人が思い浮かばないな。
タエ「エディー…」
俊平「またエディーかいな? そんなに好きやの?」
タエ「声かけんといて。現実に戻ってまう」
俊平「ああ、まあ確かにな。この大スター、チャールズとがっぷり四つやもんな。大したもんや」
タエ「そやろ。脇役で出てきた時からもう『この子は絶対売れる。スターになる』て思ったもん。私のエディーは」
俊平「アホくさ。ご主人様は?」
タエ「配達」
貞雄「ただいま。おっ、来てたん」
俊平「おう」
タエ「また油売りにな」
俊平「あら、そんな言い方してええのんかいなあ。ほれほれ、ほれほれほれ。ポスター多めにもろてきたから持ってきたんやけど持って帰ろうかな~!」
「荒野の二人」の大きなポスターを広げる。
十字架ジャックのもとに現れた謎の男早撃ちジョニー
無法者はびこる荒野の町で二人の行き先に敵は無し!
荒野の二人
”Two men of GOD”
名匠・ジョン・サード監督
タエ「いや! いや…いやいやいや~。俊平ちゃん、ほんまにもうおおきに。よう来てくれたわ。もうサイダーでも何でも好きなだけ飲んでや」
俊平「ほんまに好きやねんな。大した美男子でもあれへんのに」
貞男「何でやろな?」
俊平「なあ」
タエ「何言うてんねんな! アクションの時のあのキレのいい身のこなしと時折見せるコミカルなしぐさがたまらんのやないの。かいらしいのにかっこええのよなあ!」
俊平「まあまあまあ確かに愛きょうはあるわな。今までの二枚目スターとはちょっと違うタイプや」
貞男「愛きょうやったら、お前、俺かてお前…」
タエ「なあなあ、俊平ちゃん。今度あれやろ。キャンペーンで日本、来はんのやんな。大阪、来はんのかな? 映画会社の人に聞いてくれはらへん?」
俊平「え~、そやな…。東京だけとちゃうか?」
貞男「どうせな、チャチャッと宣伝だけして、すぐ帰ってしまうて!」
タエ「そんな薄情な人と違います」
貞男「アホらし」
そして、その数日後、町子たちはデザイナー・吉永東子の着物のファッションショーに行ってきました。
たこ芳
パンフレットを見ている純子と町子。
純子「きれい! ねえ、先生、ほら」
町子「ほんまにええ柄ばっかりやの」
純子「ねえ。あっ、ねえ、りんさん見て。ほら」パンフレットを手渡す。
りん「あ~、ほんまやね。うわ~」
町子「けど純子さん、すばらしいファッションショーでしたね」
純子「楽しかったです。でもほんとにここに吉永さんいらっしゃるんですか?」
町子「うん。あの、池内さんが連れてきますて」
純子「うわ~」
りんがパンフレットを純子に返す。
町子「あら!」
池内「あ、いてた、いてた! みすずちゃんも来るよ」
東子「こんばんは」全身黒のライダースジャケット着用。
池内「花岡さん、こちら、吉永東子さん」
吉永「初めまして、吉永です」
町子「あら…。まあ初めまして、花岡でございます。あ、あの…」
純子「秘書の矢木沢でございます。初めてお目にかかります」
吉永「あ…楽しんでいただけました?」
町子「ええ。そらもう…。けど、いや、さっきと全然格好が違うもんやから」
池内「あっ、座らしてもらおうか」
吉永「あ、すいません」
町子「どうぞ」
吉永「失礼します」
池内「ふだん大きなオートバイ乗ってはるんですよ」
町子「オートバイ?」
池内「うん。こんな大きな」
純子「うわ~、かっこいい」
吉永「オートバイって立ち姿が美しいから大好きなんです」
池内「着替えて出てきたら、いっつも誰も気ぃ付かへん。僕の番組でもちょっとこう乗ってる姿見せてもらお思てんねやけどね」
町子「勇ましいんですねえ」
吉永「おてんばなだけで…」
みすず「こんばんは」
池内「おう!」
最初の頃から思ってたけど、友近さんと板尾さんの組み合わせって、バラエティであまり見たことないせいか新鮮に感じる。
みすず「うちらね、いっつも一緒に遊んでんねん。人形作家をしてる友達でしょ。芦屋で主婦してる友達。で…帽子デザイナー。そんなんで女の子だけで集まっておいしいもん食べたりして…」
町子「そうなん。いや、けど、ほんまに今日は楽しかったですわ。男性もたくさん来てはったんですね」
吉永「はい」
池内「女の人は、ああいう華やかなもん着られて羨ましいなあ」
りん「いや、男の人かて着はったらよろしいわ」
池内「まあね」
吉永「まあ、男性向けの着物もね、これからいろいろやっていきたいなって思ってるんです」
町子「なるほどね。あの、京都においでになったんは、いつごろなんですか?」
吉永「え~っと…15年ぐらい前ですかねえ。最初は、あの京友禅の勉強に来たんですよ。で、来てみたら、もういろんなことが面白くって、ほら、京都の職人さんの世界って本当に奥が深いじゃないですか」
町子「はい」
吉永「着物1つ上がるまでいくつもの工程があって、で、その一つ一つに腕利きの職人さんがいる」
町子「うん。ほんとそうね。京友禅いうのは、もう見れば見るほど、その細やかな細工がふわ~っと浮き立って見えるんですよね」
吉永「そうなんですよ。あ~、私、ここで着物作りたいなあって思って、で、いろんなもの見てるうちに、もう京都から離れられなくなって…」
池内「京都どころかね、今や東子さんの着物はヨーロッパでも大人気でね。パリやロンドンでも引っ張りだこらしいからね」
町子「すご~い。いや、私もちっちゃい頃ね、曽祖母がものすごい着物が好きでね。もう家に呉服屋さん呼んでたくさんあつらえてもろたんですよ。このごろね、着物着るっていうのちょっと遠ざかってますけども、いや、けど着物ていうのは一番よろしいね」
吉永「はい」
町子「はい」
由利子の部屋
レコードを聴いている。そういえば、先週何度も流れた「花嫁」。発売は1971年1月だそうです。今は昭和45年の12月あたり? 微妙に先取りしてんのね。
由利子はジーパンに派手な柄の布を縫い付けている。
登「お姉ちゃん。お姉ちゃん、これ繕うて」
由利子「あんた、またけんかしたん?」
登「ああ! これ、僕のジーパン」
由利子「亜紀のスカートにしよ思て」
登「またやられた…」
由利子「お尻かて穴開いてたもん。文句言うんやったら繕うてあげへんで」
夜、茶の間
晴子「町子さん、まだ?」
健次郎「うん。ファッションショーに行く言うて出ていったんやけどな」
晴子「ファッションショー…。はあ…。お兄ちゃん、由利子の進路のことやけどどないすんの?」
健次郎「『どないする』言われてもな。う~ん…」
由利子「見て!」
晴子「え?」
由利子「亜紀のスカート。登のジーパン、作り直してん」
晴子「へえ~」
健次郎「登は泣いとったけどな」
晴子「器用やねんね、あんた」
由利子「ヘヘヘヘヘ」
晴子「由利子」
由利子「うん?」
晴子「進路どないすんの?」
由利子「ああ…。う~ん」
晴子「『う~ん』て…」
町子「ただいま!」
健次郎「あ、帰ってきた」
純子「ただいま!」
健次郎「はい、お帰り」
町子「ただいま。えらい遅なりました」
晴子「矢木沢さんも一緒やったんですか?」
純子「そうなんです」
町子「ちょっと、ちょっと見て。健次郎さん、えらいことになってんの、えらいこと」
健次郎「何や?」
町子「見てくれる? これが…。ちょっと見て。これ、由利子ちゃんどない? あんた。これ。これこれ」淡いピンク色?の反物を広げる。紫?
由利子「きれい!」
町子「きれいでしょ? でね、そらまだ早いの分かってんねんけども亜紀ちゃんにこれどないかなと思て。亜紀ちゃん。あの、ほれ、裏のおばちゃんに縫うてもろたらええのんちゃうかなと思て」亜紀のは淡いパステルカラーの反物。「ほんで見て。これえらいもん買うてしもた。調子に乗ってえらいもん買うてしもた。お母ちゃん。お母ちゃんに似合わへんかなと思て。見てこれ」
健次郎「ええやん」
町子「見て、これええでしょ。粋でしょ、これ」グッと渋い色。
純子「あの、実は私も買ってしまいました」渋い色の格子柄の反物。
健次郎「ハハハハ! へえ~、着物か…」
町子「うん」
清志「何してんの?」
町子「見て! 清志君、着物きれいでしょ、ほれ」
清志「うん…。いや、何かないしょで食べてんのかと思た。おやすみ」
町子「おやすみなさい。あの人まだ着物より食べ物の方がええみたいね」
健次郎「お前もたまには作ったらどや?」
晴子「着る機会あれへんもん」
健次郎「え? 何を言うてんねんな。『大島紬なんかもうありゃ仕事着や』て、おやじ言うとったやろ」
町子「晴子さん、着物て意外と機能的なんですよ」
晴子「今どき病院で着物なんか着たら患者さんびっくりしはるわ」
町子「ねえ、手術の時なんかどうですか? 気合入れよ思て帯ビシッと締めてビシッビシッビシッと!」
健次郎「そや。こうやってたすきガ~ッとかけてやな、ビシッて!」
晴子「あだ討ちやあれへんねんから。のんきやなあ」
町子「由利子ちゃん、ちょっとかけてみな。ちょっとこれ肩に。うわ~、いいわ。顔映りがいい。パ~ッと華やかやわ」
由利子「ほんまに?」
町子「ほんまに」
夜も更け…純子も晴子もいなくなっている。
町子「けど懐かしいなあ。ちっちゃい頃ね、バアバアばあちゃんが自分で反物広げてあれやこれや見立ててくれんのよ。そしたらね、お座敷の中ね、サ~ッと反物がね、川みたいに…きれいな川が何本もサ~ッと流れたみたいになんの。私、もうそれ見てるだけでもうウキウキウキウキしてしもてね。お正月でしょ、おひなさんでしょ、夏祭りの浴衣。今日は久しぶりにそんな気持ち思い出させてもらえた。そう、健次郎さん、東子さんて面白い人やね。着物のデザインをしてはんのかなと思たら、普段は大きなオートバイ乗り回してはるんやって」
健次郎「ほう~」
町子「フフフ! こんなんしてられへん。こんな時間。私、仕事しますわ」
健次郎「これからかいな」
町子「東子さんとね、お話しが尽きひんので、明日も会う約束をしました!」
健次郎「はあ」
由利子「まだ仕事すんの?」
町子「今日遊んでしもたからね。徹夜ですわ」
由利子「徹夜…」
40代で徹夜。パワフルだなあ。
由利子の部屋
勉強机に向かい、ため息をつく。
晴子「由利子、入るよ」
由利子「何?」
晴子「うん」持参した本を机の上に置く。「はい。あんたは成績もええんやし、今からやったらなんとかなる。分からへんことあったら私に何でも聞いて」
医科大学合格読本
何としても医学部に入り医師を志す
医教出版
全国医大入試問題集
国公私立医学部受験ガイド
由利子「医大?」
将来を考える時期を迎えた由利子を揺さぶる出来事が待っているようです。
ミニ予告
女性たち「キャ~! あっちあっちあっち!」
りんさんの過去、由利子の進路、着物、エディ…どう絡み合う!?