公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
間引き疎開の中止を求め、福岡市役所に直談判に行ったマリ子(熊谷真実)。帰りが遅いと心配する千代(二木てるみ)に、軍に逆らって銃殺されたのではと言い出すマチ子(田中裕子)。だが、マリ子は見事、磯野家取り壊し中止の約束を取り付けてくる。翌日、新聞社の物々しい雰囲気を悟ったマチ子は、明日天皇の御言葉によって戦争が終わる、という情報を聞く。日本が戦争に負けたことが信じられない一平(益田喜頓)たちは…。
[rakuten:book:10973793:detail]
福岡市役所の外観が映し出される。
これが現在の福岡市役所。辛うじて戦災にも焼け残り外形はほとんど当時の様子と変わってはおりません。マリ子はここへ間引き疎開免除の嘆願に乗り込みました。
昭和54年現在の市役所前は車もガンガン通っていて、その中をもんぺ姿のマリ子が歩くというシュールな映像。でも50年後くらいに見たら、戦争中でも車が走ってるんだーって思う人も出てくるのかな。
前にもこんなの見たことあったと思ったら、昭和55年1月放送の帝銀事件です。「マー姉ちゃん」放送の半年ほど後か。事件自体は昭和23年で戦後だったけど、その当時の服装のまま犯人とされた平沢役の中谷昇さんが事件が起こった街を歩くというシーンがあったのです。このドラマにはマリ子の義父・戸浦六宏さんも出てたな。
福岡市役所は昭和46年に建て替えが決まり、昭和57年に議会棟、昭和63年に行政棟が完成。「マー姉ちゃん」であの市役所が映し出されたのは結構貴重だったね。
夕方の磯野家前では千代が庭先に出ていた。マチ子が帰ってきて声をかけると、お昼前にマチ子と一緒に家を出ていたマリ子がまだ帰ってこないという。
千代「いや、大変な勢いでお出かけになったですけん、もしかしたら市長さんに何か失礼なことば言うて…」
マチ子「お千代ねえや…」
千代「いんや言いんしゃる分には構いませんけど、万が一、つかみかかりでもしたら…」
マチ子「変なこと言わないで!」
千代「ばってん何よりもヨウ子お嬢ちゃまのためを思ってのことですけん。そういうこととなるとマリ子お嬢様も何をしでかすか分からんとですからね」
マチ子「大変よ。そんなことをして軍の命令違反だなんてことになったら…」
千代「どういうことになるとですか?」
マチ子「銃殺なんてことになんないと思うけど…」
千代「そげな!」
マチ子「私、ちょっとどっちにしても行ってみる!」
千代「うちが参ります! うちが参ります! マチ子お嬢ちゃままで銃殺されたら、磯野のこのおうちはあとどうなるとですか!?」
マチ子「だからといって…」
千代「いいえ。追い腹切るとはお千代一人で結構です!」
マチ子「お千代ねえや…!」
マリ子がニコニコ笑顔で帰ってきた。
マリ子「成功ばい! 見てんしゃい、マー姉ちゃんの貫禄を!」
家に入り…
マチ子「よかった…それじゃあけんか腰でやりあったわけじゃないのね」
マリ子「当たり前でしょう。こっちはお願いに行ったんですからね。お願いをする方が辞を低うするのが当然じゃないの」
はる「そうですよ。それが礼儀というものです」
マチ子「だからって礼儀が通じるご時世じゃないでしょう」
はる「こういう時だからこそなおさら礼儀を大切にしなければならないんですよ」
マチ子「だって遅すぎるんですもの。お千代ねえやなんて銃殺されたんじゃないかってそれは青い顔で」
マリ子「銃殺!?」
千代「いいえ、それはマチ子嬢ちゃんが言うたんじゃありませんか!」
マチ子「あらそうだった?」
千代「そげんですよ! もうお千代なんか心臓が止まるかと思いました」
マチ子「それはごめんね。だって…!」
マリ子「しかたないでしょう。とにかく相手は忙しい市長さんなんだし、こっちは無理を承知でお願いする身なんですもの」
はる「それじゃあ市長さんじきじきに?」
マリ子「はい。目標は一つに絞るべきだし絞った以上は粘る意外、手はありませんから、もう廊下に根の生えたごとくの座り込みでした」
千代「それで市長さんは?」
マリ子「もちろん『うん』とはおっしゃらなかったわよ。でもうちには寝たきりの病人がいますの一点張りで、そりゃあもうひたすら頭を下げ抜いたの」
マチ子「そしたら?」
マリ子「とうとう言ってくれたわね。『う~ん、やむをえんでしょう。ただし』…」
マチ子「『ただし』?」
マリ子「焼け死んでも責任は持てませんよって」
はる「上等です。責任はこのうちに残る者が取るべきものです」
マチ子「やった~! マー姉ちゃん!」
ヨウ子「マー姉ちゃん、ありがとう!」
マリ子「何よ、きょうだいじゃない、水くさい!」
はる「そのかわり、このうちに残ることで焼け死んだとしてもしかたがないことですよ、ヨウ子」
ヨウ子「はい。でもどうせどこかで死ぬのならこのうちで死ねた方がどんなに幸せか分かりません」
千代「まあ、ヨウ子お嬢ちゃま!」
ヨウ子「でも、大丈夫よ。ここに残る限り、私、何だか悪いことにはならないような気がするのよ」
マチ子「私もそう思う! 本当にそんな気がする!」
はる「それでご近所の方々は一体どうなるの?」
マリ子「それがこの一角が全部取り壊されるんですって」
はる「まあ、それじゃあその中にこのうちだけが一見ポツンと」
マチ子「いいじゃないですか。その方がかえって覚悟が決まるというものです」
千代「あっ、だけどお隣の牛尾さんは、それじゃあどこに行きんしゃるとですかね?」
はる「決まってるじゃありませんか」
千代「えっ?」
はる「このうちですよ。延焼する心配がなくなるわけでしょう。だからあちら様さえ『はい』と言ってくださったら、このうちで一緒に暮らしたらいいじゃありませんか」
マリ子「さっすが、お母様! やっぱりひらめきの天才ね!」
はる「えっ?」
マチ子「いえいえ、こっちのことです」
はる「それじゃあ、早速お隣へ行ってきますからね」
マチ子「はいはい、行ってらっしゃい! よかったね、ヨウ子」
ヨウ子「はい!」
マチ子「よかった、よかったマー姉ちゃん!」
笑いながらはしゃぐ三姉妹。
千代「あなたらいいかげんにしんしゃい! ヨウ子お嬢ちゃまのお熱が出たらどげんすっとですか!」
間引き疎開という名前からぽつぽつと一軒おきくらいに家が取り壊されるイメージを持っていましたが、先日の空襲で残った一角にいた人たちもみんなどこかに疎開しなさいという意味でこの一帯を全部取り壊すということだったのか。
一応、この家が間引き疎開からお目こぼしに預かると決定したその翌日です。マチ子は新聞社で全く思いがけないことを耳にしたのです。
小田「修整ならあとで点検する。今、忙しいんだ」
マチ子「だから何がそんなにお忙しいんですか?」
小田「うむ? いや、別に…」
マチ子「いえ! 何かあります!」
小田「磯野君…」
マチ子「印刷へ行きましたが、あそこでも何か様子が変でした」
小田「いや、そんなことがあるもんか」
マチ子「あります」
小田「君…」
マチ子「私も西部日本の社員ですから、もしも町の人よりも先にある情報に接しても決して機密をもらしてはならないことだけは守ってきたつもりです!」
小田「分かった、分かったよ」
マチ子「でしたらどうか教えてください」
小田「それはだね…」
マチ子「印刷では今日の夜中じゅうに仕上げてしまわなければならない作業があるそうですね」
小田「君、一体、誰からそれを!」
マチ子「申し訳ございません。鎌をかけさせていただきました。事態によっては我が家は女ばかりですので最悪の時の覚悟を決めなければなりませんし」
小田「…」
巾着袋を振り回しながら帰ってきたマチ子。
マチ子「こんにちは」
早田「何かあったとですか?」
マチ子「はい…いえ、決して」
早田「だったらあんたもやまとなでしこたい。もうちっときぜんと歩きんしゃい。いつ艦載機が襲ってくるかも分からんとやけんね」
マチ子「はい、申し訳ございませんでした!」
小田には機密情報をもらさないと言っていたマチ子だが…
軍平「ほんなら、こん戦争が?」
マチ子「ええ、終わるんですよ。明日のお昼で」
マリ子「ということは?」
マチ子「多分、今夜か明日の朝のニュースで重大放送があるという通達があるはずなの」
加津子「重大放送?」
マチ子「つまり陛下様が自らラジオで国民のみんなに戦争を終えると」
一平「そげんバカな…。戦争ば終えるっちゅうのはどげんことね? 戦争を終えるっちゅうのは?」
マチ子「つまり日本が戦争に負けたということらしいのです」
一平「かっ! わしは信じんばい。絶対にそんなことは信じません」
軍平「私だって信じんばい。マチ子さん、あんたそげんデマ流したらどげんことになる思うとるとかね?」
マチ子「デマではありません。私も厳重に口止めされていますけれども、おじ様たちは別でしょう? だって明日からおうちを壊すことになってるんですもの。もし早まって朝からかかったりしたらそれこそ損ですから」
一平「損とは何ね、損とは! 日本は神国じゃけんのう。ええ? あの元寇の役に際し、我々は命を的にしてあの蒙古の大群ば追っ払った! はっ! 日本が負ける…負けるっちゅうことは、それは…それはこの世の中がぶっ潰れるということたい!」
加津子「おじいちゃま!」
一平は怒って出ていき、加津子も続く。
軍平「よかね? こん話は聞かんやったことにするけんね。めったなことば言いふらしたら、わしもただじゃおかん思うてつかあっせ!」
軍平もまた怒って帰って行った。
千代「旦那さん…」
はる「いいんですよ、お千代ねえや。今は何を申し上げても分かってはいただけないでしょう」
マチ子「そうよ。戦争が終わるのにうちが壊されては大変だと思って、私、お話ししたのに」
マリ子「それで、もっと詳しく話してくれる?」
マチ子「うん。詳しいことはよく分からないんだけれども社では明日、陛下様が放送あそばされる戦争終結のご詔勅を今夜中に刷り上げて、ご放送が終わると同時に発表する手はずらしいの」
はる「それでは間違いはないんですね?」
マチ子「西部日本新聞が間違いがあってたまりますか。だって…」
軍平が斧を持って自ら家を破壊し始めていた。
軍平「キエ~! ヤ~ッ!」
加津子「あんた~!」
軍平「アホたれ! なにも明日を待たんでも、こんうちはわしがお国にささげるとよ! これがわしらのご奉公たい!」
マリ子「おじ様!」
軍平「クワ~ッ! タ~ッ! クッ! この…! このにっくきアメリカ!」
柱に斧が刺さって抜けなくなった。
一平「この腰抜けが!」
軍平「お父さん、そげんな所でしゃべっとらんと…!」
一平「こげん柱一本でてこずって決戦の秋にはどげんすっとね!」
マリ子「おじいちゃま!」
マチ子「どうかお願いです! 早まらないでください!」
一平「心配せんでええ。あんたらはうちに帰ってんしゃい。貸しんしゃい! ん~…」
斧が抜けず。
軍平「お父さん? ん? 何ばすっとね? その柱」
一平「今、考えてとるんじゃ」
軍平「考えとるんやったらどいてつかあっせ!」
一平「そうだな。うん!」
斧を抜いて、また一振り。
軍平「ギャッ! テ~イ! クソ! アホたれ!」
という一幕もあって、その翌日。
玉音放送「然(しか)れども朕(ちん)は時運の趨(おもむ)く所、堪え難きを堪え…」
つまり8月15日の正午、全国民はそれまで現人神であった天皇の肉声をラジオを通じ、初めて耳にしたのでありました。
ラジオのアップから、正座して聞いている磯野家の面々。
玉音放送「忠良(ちゅうりょう)なる爾臣(なんじ)民の赤誠(せきせい)に信倚(しんい)し常に爾臣民と共に在り」
千代は涙。お隣の牛尾家も一平はうなずきながら聞いていて、軍平、加津子は涙。
玉音放送「若(も)し夫(そ)れ情の激(げき)する所、濫(みだり)に事端(じたん)を滋(しげ)くし、或(あるい)は同胞排擠(はいせい)互に時局を乱り、為に大道を誤り信義を世界に失うが如きは、朕最も之を戒む。宜(よろ)しく挙国一家、子孫相伝(あいつた)え確(かた)く神州(しんしゅう)の不滅を信じ、任重くして道遠きを念(おも)い」
穏やかな海面が映し出され、テロップが出た。
太平洋戦争戦没者
戦闘員 230万人
非戦闘員 80万人
計 310万人
空襲等で失われた家屋 298万戸
罹災者 1,300万人
玉音放送「総力を将来の建設に傾け、道義を篤(あつ)くし志操(しそう)を鞏(かた)くし、誓(ちか)って国体の精華(せいか)を発揚し、世界の進運(しんうん)に後(おく)れざらむことを期すべし。爾臣民、其れ克(よ)く朕が意を体(たい)せよ」
朝ドラでもこんなに長く玉音放送を流すのは珍しい。
マチ子は、終戦の翌日、小田に辞表を出した。
マチ子「大変、お世話になりました。本当にありがとうございました」
小田「しかしだね、君…」
マチ子「はい」
小田「どうしたの? その髪」
マチ子「戦争が終わりましたものですから」
悔し紛れという言葉はありますが、この時のマチ子はまさにうれし紛れに辞表を提出したのです。
夜、覆いを外して電気をつけるマリ子。
マリ子「うわ~、明るい! 電気ってこんなに明るいものだったのかしら!」
マチ子「ねえ、見て! ヨウ子の顔色があんなによく見える!」
はる「そうですとも。さあ、みんなでおうちの電気を全部つけていらっしゃい」
千代「全部ですか!?」
はる「そうですよ! 2階も階段もお風呂場も台所もお手洗いも! それから電気…街灯の電気もつけてくるんですよ! 覆いはきっぱりと外しましょう!」
マリ子「はい!」
マチ子「それ!」
はる「ヨウ子、明るいというのはなんてすてきなことでしょう」
ヨウ子「本当に」
早田「磯野さん!」
はる「はい」
早田「これは一体何の騒ぎですか?」
はる「はあ?」
早田「日本は負けたとですよ! この先、日本がのうなるかもしれんっていうとに、あんたら戦争に負けたとがそげんうれしかとね!」
はる「いいえ。戦争が終わったのがうれしいんですの!」
早田「あんたっちゅう人は何ちゅう…!」
はる「さあ、お宅へお帰りになって早く電気をつけてごらんあそばせな。道が明るければ道に迷うことはございませんわ」
マチ子「そうよ、泥棒も入りにくいし!」
千代「つまみ食いだってできまっしぇん!」
マリ子「すてきよ、お母様! やっと我が家に電気が戻ってきたっていう感じ! こんばんは! どうです? 明るいでしょう。みんな美人に見えるでしょう?」
千代「まあ、お嬢様…」
早田「ああ~、ああ~…。団長さん、家の電気やけん、あんたに遠慮することはなかとですたいね。わしは電気ばつけてきますばい! ハハハハッ!」
警防団長「早田さん!」
マリ子「マッちゃん! よかったね!」
この夜の電気の輝きは長い苦しい戦争というトンネルをくぐり抜けたあとの輝きだったのでしょう。
↑終戦とはどういうことか分からず、ぼう然。夜、竜三と語らう。
↑庭で炊き出しをしていたかをるはラジオを聞いておらず、神山に聞く。
↑東京では尚久が明日ポツダム宣言を受諾すると淳之介に話していた。あぐりは放送を聞いていたものの意味は分からず。
涙を流しながら聞いてるというのはその当時風の表現なのかもしれない。あとの時代になるほど、意味わかんない!というリアクションが多い。「マー姉ちゃん」みたいにはしゃいでいるのも結構レアな表現なのかも。