公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
昭和21年4月。退院したヨウ子(早川里美)を連れ、早朝にこっそり出かけるマチ子(田中裕子)。帰るなり、畑のために馬糞を拾いに行ったら、誰かがすでに拾っていたと憤慨する。とられまいと起床の時間を早めていく中、西部日本新聞の小田(織本順吉)たちが訪ねてくる。夕刊フクオカという会社を作るので、その夕刊に載せる漫画の連載をお願いしたいと言う。全て自分に一任させてもらえるならと引き受けるマチ子だが…。
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昭和21年4月
午前6時直前、目覚まし時計が鳴り、マチ子が起き、隣で寝ていたマリ子は目覚まし時計を抱え込んでまた眠った。黒電話や目覚まし時計のけたたましい音が苦手で、最近、スマートウォッチにしてバイブで起こされるのが一番快適だと気付く…って自分語りなどどうでもいいわ!
マチ子は戦時中からよく着ていたサロペット姿で外へ出かけようとしていると、ヨウ子がマチ子に声をかけてきた。
ヨウ子「今朝は私もご一緒します」
マチ子「『ご一緒します』って、私は…」
ヨウ子「いいのよ。マッちゃん姉ちゃまはマッちゃん姉ちゃま、私は朝のお散歩ですから」
マチ子「だからって…」
ヨウ子「ううん、マッちゃん姉ちゃまの奮闘ぶりを見物するだけ。その方が1人でお散歩するよりずっと楽しそうだし」
マチ子「驚いた子。じゃあ、いいわ。ついてらっしゃい」
ヨウ子「はい」
療養所の先生の言葉どおりヨウ子の病気は順調に回復し、約半年の入院生活のあと、21年の春には無事に退院することができました。
肋膜炎と診断されたのは昭和18年あたりだと思うけど、結構長かった。「あぐり」も肋膜炎になって1年は療養しなさいという所、無理して仕事して倒れたりしたから若い人でも治るまでかなり長い時間がかかるのだと思う。
マチ子たちがこっそり出かけていったのを見ていたはる。
千代「よく続くもんですね、マチ子お嬢ちゃまも」
はる「本当に。あれであの子、思い込んだらなかなかしつこい方らしいわ」
千代「ばってん目下一番の早起きと思わせておくのもなかなか骨の折れることですよ」
はる「よかですよ。このうちには今んとこ学校へ行く子もお勤めに出る人もいないんですからね。少しはマリ子を見習うて、あなたも朝寝坊を楽しんだらいいのに」
千代「とんでもなか。ばってんまあ、よう、お休みになりますね、マリ子お嬢様も」
磯野家復興の悲願と睡眠とは全く関係ないことながら「寝る子は育つ」がマー姉ちゃんの看板でした。
帰ってきたマチ子は憤慨していた。一緒になって千代やヨウ子も怒っている。寝ていたマリ子も断片的に聞こえてきた話し声の”犯人”や”泥棒”に反応して、飛び起き、急いで階段を駆け下り、マチ子たちの所へ走った。
泥棒が入ったと騒ぐマリ子にはるが「あのね、マチ子が憤慨してたのは馬ふんのことなの」と話した。マチ子が毎日拾っていた表の道に出た角の所のホカホカは、今日誰かに拾われていた。そんなことにこだわらなくてもいいというマリ子に「畑には馬ふんが一番の栄養です!」と言い張るマチ子。
今日はそこでもよおさなかっただけでは?というマリ子に落とした跡と拾った跡が歴然とあったというマチ子。ヨウ子にも同意を求める。
はる「まあ、ヨウ子まで馬ふんコレクターの仲間入り?」
ヨウ子はあくまで早朝散歩についていっただけ。
マチ子「明日の朝、5時半起きして絶対に犯人の鼻を明かしてやる!」と息巻いた。
翌日、5時半起きして出かけて行ったマチ子。
マチ子「ただいま~! ほら、我が縄張りはかくのごとく奪回したわ!」
起きてきたはるに見せびらかす。
マチ子「ほら!」
はる「まあ、何でしょうね、朝っぱらからはしたない」
マチ子「だって『早起きは三文の徳』だっていうのをせっかく立証したのに」
はる「それはそうでしょうけれども、そんなものおうちの中へ持って入るもんではありません!」
マチ子「は~い」
ところがです。「敵もさるもの引っ搔くもの」。次の日は見事に先を越されているという始末。かくなる上はと、そのまた翌日という具合にシーソーゲームは次第にエスカレートして、ついに…
4時に目覚まし時計が鳴った。マリ子の方が先に起きて目覚まし時計を止めた。
マリ子「もういいかげんにしなさいよ、マチ子」
マチ子「なんのなんの。今日こそ見ておれ大和魂…」
マチ子のせいで家族みんな不眠症になっていることを咎めるマリ子。自主的に起きて、階段は細心の注意を払って下り、脱獄でもするように台所から表に出てるというマチ子だったが、マリ子は、マチ子が帰ってくるや「今日はやった!」「今日はやられた!」と自分の気持ちに忠実に叫んでいるため、たたき起こされたみたいに目が覚めてしまうと指摘する。
ヨウ子も退院したばかりだし、はるやお千代ねえやも連日4時起きが続いたらフラフラになってしまう。「だからいいかげん馬のお尻ばかり追いかけるのはやめて、その暇に本格的に絵の勉強でもしてほしいわ」というマリ子に、素直に頭を下げるマチ子。自分でもバカバカしいと思っていたと告白する。
しかし、相手が「今日はやった!」と叫んでるかと思ったら、もう我慢が出来なくてその顔を一度見るまではと思ってカッカしてしまう。せっかく起きたのだから行こうかというマチ子。マリ子も外で待っているという。
だが、マチ子は毎日眠くて死にそうだったともう一度布団に入った。マチ子の勝手さに怒ったマリ子だったが、当然はるに「今、何時だと思うとるの? こんな夜中に騒いでご近所迷惑になったらどげんすっとですか!?」と注意された。
マチ子「夜中だって。我が独裁者も相当に大げさね」
目覚まし時計は鳴ったが、腕時計は2時だった。
マチ子「『草木も眠る丑三つ時』だ。お化けが出る頃よ」
マリ子「嫌だ…」
マチ子「『屋の棟が三寸下がりギギギギギッ。生臭~い風がサ~ッ』」
キャーキャー騒ぐ怖がりのマリ子にさらに続ける。
マチ子「『どこで鳴るのか鐘の音が陰に籠もってゴ~ン』」
マチ子「嫌~! やだやだ~!」
はる「まだやっとるの!?」
マチ子「は~い、今、寝直すところです」
この馬ふん騒動で10分以上使うとは思わなかった。
昭和21年。磯野家のドラマは馬ふん大戦争から始まりましたが、それから1週間ほどしたある日のことです。
玄関に男物の靴。
マリ子「『夕刊フクオカ』?」
小田と石井先生が並んで座っている。
小田「そう。今度いよいよ夕刊が出せるようになってね。ただし朝刊を出している社で夕刊もというわけにはいかんので、まあ西部日本の夕刊版別会社と考えてもらってよかでしょう」
マリ子「なるほど」
小田「で、当然のことながらスタッフは僕をはじめとして西部日本の何人かが横滑りをして格好ばつけるわけですが、ひとつ連載漫画については磯野マチ子さんに依頼をしようということになって、実は今日はそのお願いで来たわけですたい」
マリ子「マチ子に連載漫画をですか?」
石井「どげんかね? マチ子さん。実は僕もせん越ながらこの人選の相談にあずかったもんやけん、ためらわず、あんたば推薦したとよ」
マチ子「はあ…」
小田「まあね、急な話だし引き受けてくれるとなら5月の頭の分からでよかとやが、それまでは私が急場をしのぐとして、そのあとをあんたに描いてもらいたいんですよ」
マチ子「はい」
石井「まあ、すぐ返事ばもらえばこっちも安心は、でくるとやけど、どげやろか? マリ子さん。今晩一晩ゆっくり皆さんで相談してもらえんかね?」
マリ子「あ…それはもう…」
マチ子「あの…」
小田「うん?」
マチ子「登場人物のキャラクターその他、全部私に一任させていただけるんでしょうか?」
石井「ああ、そりゃあもちろん、そういうことになるでしょう。なあ、小田さん?」
小田「ああ、そりゃあもう描きたいように描いてもらったらよかですよ」
マチ子「でしたらもう一つ」
小田「うん?」
マチ子「作品に修正なさりたい場合は掲載される前に必ず私に連絡していただきたいのです。それだけです」
小田「よっしゃ。ほんじゃまあそげんことにするか」
石井「よ~し、決まった! ハハハハハッ!」
マチ子「はい」
小田「そんなら細かいことの打ち合わせはまた伺うけんね」
マリ子「どうぞよろしくお願いいたします」
玄関
小田「そんならよろしゅう」
マチ子「はい」
マリ子「どうもご苦労さまでした」
石井「マリ子さん、たまには出かけてきんしゃい」
マリ子「はい、ありがとうございます」
小田たちが出ていき、マチ子はホッ。マリ子は、あんなにあっさり引き受けちゃって大丈夫?と心配するが、「夕刊フクオカ」の人たちは顔見知りばかりだし、疎開先でのことだから気楽に描けそうだという。マチ子にとっては故郷というより疎開先での仕事という感覚なのかなあ?
はる「気軽なのは大いに結構ですけれど期日だけはちゃんと守ってやらなければいけまっしぇんよ」と突然言いに来て去って行くはるにマリ子とマチ子は顔を見合わせて笑った。
おぉぉ、いよいよサザエさんに一歩近づいた!?