公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
菊池(フランキー堺)の元へ学びに行くヨウ子(早川里美)は浮かない顔。マリ子(熊谷真実)とマチ子(田中裕子)はヨウ子のためにスーツを作ることにする。そこへ、呉服屋の金沢(西村淳二)がはる(藤田弓子)に頼まれた闇の缶詰めをもってきた。マリ子はスーツの生地を調達ができるという金沢にお金を託す。その後、久々に訪ねてきた大造(河原崎長一郎)に缶詰めをご馳走するが、帰宅したはるは三姉妹が食べたと怒りだし…。
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ヨウ子が菊池寛の所へ行く日。いつもおとなしいヨウ子だけど、いつも以上に元気がなくマリ子とマチ子は心配。
マチ子「ほかに何か直接的に励ましてやれる方法はないもんかしら?」
マリ子「うん…」
マチ子「代わってやれるなら代わってやりたい」
マリ子「マチ子じゃ菊池先生の方でお断りだわ」
マチ子「まあ!」
マリ子は何か思いついた風でタンスの引き出しを漁り始めた。
マチ子「スーツがそんな所に入ってるわけないでしょう」
マリ子「だからそのスーツのもとが入ってるの」
マチ子「イースト菌じゃあるまいし…」
マリ子が見つけたのは衣料切符。
マリ子「私は着物をガタガタ持ってるし、マッちゃんだって出不精だからこれ以上よそ行きは要らないだろうし。ねっ? パ~ッと4~5着いいスーツを作ってあげない?」
マチ子「いっぺんに?」
マリ子「いっぺんにだってぼちぼちだって同じことでしょう?」
マチ子「待ってよ。スーツって何点だった?」
マリ子「あっ、ちょっと待って。点数表が書いたのがあったから」
何もかも配給時代で衣類は一年間一人100点の点数制。参考までに申し上げますと
背広 50点
パジャマ・毛布 各40点
セーター 20点
ワイシャツ 12点
ズロース 4点
手拭い 3点
一人の切符では、もちろん以上のものを全部買うわけにはまいりません。
マチ子「へえ~、ツーピースが27点か。案外要らないのね」
マリ子「でしょう?」
マチ子「よし、作ってやろう、張り切って!」
ここからマリ子の物まねショー。似てるかどうかは分かりませんが(^-^;
マリ子「(東条英機のものまねで)意見の一致をここに見てまことにご同慶の至りであります!」
マチ子「マー姉ちゃん…」
マリ子「従って洋服とオーバーを作れば、もはや、その年には靴下一足、買えないのでありまするが、我々一億の覚悟は既に出来上がっておる。(立ち上がり歩きながら)50年、100年、この大東亜戦争を戦い抜き、勝ち抜くまでは、いかなる苦しみにも耐え忍ばねばならんのであります」
マチ子「よっ! そっくり!」
マリ子「(虚空を指さし)あの旗を撃て! 敵性は全て排除せよ。ベースボールなどはもってのほか。野球と言いなさい、野球と。(ジェスチャー付きで)ストライクは、よし一本。ファウルは駄目。水泳もまたしかり。クロールは速く泳ぐから速泳(そくえい)がよろしいのであります」
マチ子「(笑いながら)本当にバカみたい」
マリ子「(ウララのものまねで)しかたございませんでしょう。こんなバカげた時代にはバカにならなくては生きていけませんもの」
マリ子「(マドカのものまねで)生きていけませんものね、お姉様」
マチ子「ところでお金は?」
マリ子「(はるのものまねで)明日を思い煩うことなかれ。座して祈れば道は開けます」
マチ子「マー姉ちゃんったら、もう…」
ヒロインでここまでコメディに吹っ切れる人はいないような…。東条英機は分からないけど、ウラマド姉妹、はるは結構似てた。
↑東条英機の音声。似てるかも!? 今なら不謹慎とか言い出す人がいそう。はるのヒトラー呼ばわりもざわざわしてた人がいたしな。
マリ子「大丈夫。それくらいいざという時のためにちゃんとへそくってあります!」
マチ子「さすが~!」
そこに来たのは国民服を着た良造。
ポット出キャラのわりに天松屋という呉服屋の金沢良造というフルネームもあったけど、これからも出てくるのか!?
はるに頼まれたと言って、リュックにたくさん缶詰を持ってきた。
マチ子「へえ~、呉服屋さんだとばかり思ってたけど」
良造「もちろんさようでございますよ。けどね、切符の品じゃろくな商いもできませんのでね、もうお得意さんから頼まれた品をこうして便宜を図らせていただいてるんですよ」
マチ子「じゃあヤミ屋さんというわけ?」
マリ子「マチ子」
良造「まあ普通では手に入らない品を探すんですから普通のお値段じゃございませんし、まあヤミ屋といやぁ、確かにヤミ屋でしょうね」
マリ子「すいません、それでは置いていってくださいな」
良造「いえ、構わないんですよ。ほかにもいろいろ頼まれておりますんですからね」
マチ子「いや、そんな嫌み言うことないじゃないの」
良造「嫌みをおっしゃったのはお嬢さんの方じゃございませんか」
マリ子は今日来ることをはるから聞いていなかったと話すと、おととい持って上がる約束をしていたが間に合わなかったという。いかほどでしょうかというマリ子の手元の衣料切符を目ざとく見つけ、「何かお召し物でも?」と聞いてきた。
マリ子が一番下の妹に服をこしらえてやろうと思ってというと、女子大に進んだことも知っていた。菊池寛の所に通っているからパリッとしたものを作ってやりたいというと、本職はヤミ屋じゃなくて呉服屋だという良造。
マリ子「だってツーピースといったら洋服でしょう?」
良造「もちろん、それは分かっておりますよ。私の申し上げてるのは生地のことなんですよ。当節、変なお店へ行ってごらんなさいましよ。スフ混紡なんてのを押しつけられるのが関の山ですよ」
マリ子「じゃあ、いい生地がある所を?」
良造「へえへえ。純毛でも絹物でもね、昔のいい品をお得意様のために取ってある店をちゃんと知ってるんですよ。ええ? どうかお作りになるんならね。しかも、菊池先生の所、お出入りなさるんなら思い切って一級品でお作りになった方が先行き結局はお得でございますよ」
マリ子「そうね~」
マチ子は終始疑っているような表情。結局、マリ子は4人分一年間の切符を渡した上に前金まで良造に渡した。マチ子は何となく天松屋を信用できない。マリ子がお人よしでマチ子がうたぐり深くてつり合いがとれているというマリ子。
「人が困ってる時に同じように困るべきです」が決まり文句と思っていたはるが、缶詰を買い込むことがマリ子には信じられなかった。マチ子はコンビーフをヨウ子のお弁当に入れてやろうという。
菊池寛宅で勉強中のヨウ子。
菊池「はい、今日はこれでおしまい」
ヨウ子「どうもありがとうございました」
菊池「疲れたようだね」
ヨウ子「いえ、あの…それでは」
菊池「あっ、ちょっと待ちなさい。今日これから一緒に飯を食っていきなさい」
ヨウ子「はい。でも…」
菊池「なに、大したもんじゃないんだよ。実はあるところからね、牛肉をこんなにもらったもんだからね。君、牛肉は嫌い?」
ヨウ子「いいえ」
菊池「ああ、だったら遠慮することはないよ」
ヨウ子「はい。でも、私、お弁当持ってきてますので」
菊池「お弁当?」
ヨウ子「はい」
菊池「おお~、ちょっと見せなさい」
ヨウ子「はあ?」
菊池「見せなさい。お弁当とはまあ懐かしいね。(弁当を見て)ほう~、なかなかかわいいハンケチで包んであるんだね、女の子というのは。(お弁当を広げて)ねえ、この梅干し食べていい」
ヨウ子「はあ」
菊池「ちょっと待っててね(胸元から脱脂綿?を取り出し指先を拭く)。代わりに肉をお土産に持って帰ってもらうから」
ヨウ子「いえ、そんな貴重なものを…」
菊池「いや、いいじゃないか。ちょっと待っとってね」
ヨウ子「あ…先生…」
菊池寛 梅干しを含んで酸っぱい顔。これ見てるだけでも面白い。
菊池「梅干しだ~!」
そこはかとなく変態っぽい感じもあるよな~。
磯野家には大造が訪れていた。パイナップルを出すと、「こいつはありがてえや」というもののばあさんに持って帰りたいという。
マリ子「(はるのものまねで)分かち合えることこそ幸せと思いなさい」と大造の前にパイナップルの缶詰を置いた。ウメは三吉が出て行ってから気落ちしているとは言い、最初は遠慮したものの大造はその缶詰を受け取ることにした。
しかし、皿に出されたパイナップルはヨウ子ちゃんのおやつにとまた遠慮。
大造「辛党がこんなもんによだれを垂らしちゃ江戸っ子の名が廃る!」
マチ子「大丈夫。ヨウ子のはヨウ子のでちゃ~んと取ってありますから」
マリ子「じゃあこれもどうぞ」ともう一缶追加。
大造「いや、これはすごいな~! アハハッ、やっぱりこっちは方角がよかったんだ!」
マチ子「多分、そういうことでしょう」と笑い合う。
ところがその晩のこと
缶詰を食べたという話にはる激怒。
はる「冗談ではありませんよ! あれはあなたたちに食べさせるために天松屋さんにお願いしたんではありませんよ」
マリ子「ええっ!?」
はる「まあなんという娘たちなんでしょう!」
マチ子「だから嫌な予感がしたんだ、私」
はる「お黙りなさい! 自分たちで勝手に食べておいてなんという言いぐさですか!」
マチ子「お母様こそ天に恥じるべきでしょう?」
マリ子「マチ子」
マチ子「だって小さい時から食べ物のことでもめるのは一番みっともないって教えてくださったのはお母様なのよ」
はる「それはそうですよ。だけどどうして私が天に恥じなければいけないんですか?」
マチ子「世間には配給物が足りなくて、ろくにお乳も飲めない赤ちゃんだっているというのに、あんないかがわしい天松屋からヤミの缶詰なんか買い込んで私たちに食べさせるつもりじゃなかったとおっしゃるのなら分かち合いの教祖のくせにまさか一人隠れてこっそり召し上がろうとなさったわけじゃないでしょうね」
はる「なんという罪深いことを」
ヨウ子「お母様…」
マリ子「マチ子、謝りなさい。いくら何でも言い過ぎよ」
はる「ああ…(泣き出す)」
ヨウ子「お母様ったら。お願い、私たちが悪うございました。どうか、どうか許して」
マチ子「放っときなさいよ。ちゃんと弁明できないもんだから泣いてごまかすのは女がいくつになっても使う奥の手なのよ」
マリ子「私がいけないんです。私がつい、いい気になって酒田のおばあちゃまに勝手に持っていっていただいたものだから、これだけになってしまって…」
はる「(涙が止まる)そうですか。酒田さんに差し上げてくれたんですか」
マリ子「ええ。おじさんがお寄りになって、このところおばあちゃまが元気がないと言われたものですから…」
はる「(にっこりして)それならいいんですよ」
マリ子「でも…」
はる「いいえ、これはね、今度オネスト神父様のご面会の時に持っていこうと思って天松屋さんにお願いしたもんだから」
マチ子「えっ!?」
はる「大丈夫よ。私はまたあなたたちが勝手に食べてしまったのだとばっかり思ったもんだから。ああ、そうですか。おばあちゃまに持っていってくだすったんだったら、オネスト神父もきっとそれでよろしいとおっしゃるに違いないわ。マチ子、ごめんなさいね。お母様の早合点でした」
マチ子「いえ…」
やっぱりはるは天使でした。それにひきかえおなかの中に入れてしまった3人の後ろめたさもまた格別というところでしょう。
マチ子が手をついて「ごめんなさい!」と謝ると、マリ子、ヨウ子も続いた。娘たちが少しくらい食べたっていいじゃんねえ?