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ドラマの感想など

【ネタバレ】木下惠介アワー 3人家族(全26話)#5-#6

1968/10/15~1969/04/15 TBS

 

あらすじ

TBS『木下恵介アワー』で歴代最高視聴率を記録した人気ホームドラマ。偶然の出会いから始まる大人の恋と3人家族の心あたたまる交流を描く。男ばかりの柴田家と、女ばかりの稲葉家の二つの3人家族の交流を軸に、ロマンスやユーモアあふれるエピソードを盛り込んで話は展開する。山田太一が手掛けた連続ドラマ初脚本作。1960年代、大家族ドラマものが流行る中で、シングルファザー、シングルマザーの世界がリアルに描かれたのも話題となった。

三人家族

三人家族

  • あおい 輝彦
  • 謡曲
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

今回はナレーションを太字にしてみました。

5話

横浜駅

 

晩秋の朝であった。相も変わらぬ混雑の朝であった。しかし、その朝、雄一と敬子は初めて言葉を交わした。

 

満員電車

 

奇妙な出会いであった。行きずりに幾度か遠く目にした相手といきなり抱き合うようにして向き合っていることがおかしかった。

 

横浜新橋間は26分である。間に川崎と品川で停車する。

今の横須賀線でも23分だからそんなに変わりないんだね。

 

川崎でさらに混んだ。雄一の前に彼女の髪があった。かすかな香料と娘の髪の甘い匂いが優しく彼を包んだ。敬子は背広の匂いがすると思った。ナフタリンとタバコの匂いが彼女を混雑から控えめにかばっていた。

 

2人はほとんど動かず、口も利かなかった。雄一は心に何かせきたてるものを感じていた。黙っていていいのか何も言わずに終わっていいのか。しかし、話しかけてどうなるというのだ。自分は今忙しいのだ。気にかかる人などできて気が散るのは困るのだ。

 

品川ではかなりの人が降りた。車内はだいぶゆとりができたが、雄一は敬子との距離をあまり開かなかった。敬子はそれがイヤではなかった。それにしてもこの青年は何と無口なのだろう。内気なのだろうか。普通の若い男性はこんなものなのだろうか。

 

敬子「お降りになるの新橋?」

雄一「ええ。乗り損なった電車にあなたが乗ってましたね。その前にも何度かお会いしました。ほんとに何度も」

 

今日で5度目だと敬子は思った。

 

雄一「今日が…7度目だな」

敬子「そんなに?」

雄一「確かに7度目。ハッ…」

敬子「誰かのいたずらみたいに何度も」

雄一「ええ」窓の外を見ている。

敬子「どうしたんでしょう、こんなにお会いするなんて」

雄一「…」

 

答えなかった。敬子はその沈黙に自分を拒む意志のようなものを感じた。

 

雄一は自分を抑えていた。会話がたちまち恋のやり取りめいてくることに驚いていた。いけない、いけない。今月の17日には留学試験の第一次。試験に合格すれば独身が条件の2年間の海外生活。それだけが今の自分の目標なのだ。

 

この青年の態度は冷たすぎると敬子は思った。あれほど幾度も出会ってようやく今日初めて言葉を交わした2人ではないか。それなのにこの青年はその機会を少しも利用しようとしないのだ。勤め先も名前も住まいも聞かない。それほど魅力のない女ではないつもりだけれど。

 

新橋駅を出て移動しながらしゃべる。敬子が勤め先を聞くと、田村町だと答える雄一。自分から霞が関だという敬子。

敬子「またお会いするかしら?」

雄一「さあ? 会うでしょう、近いから」

敬子「そうですね、きっと…」

雄一「じゃあ…」

 

まあ失礼な、と敬子は思った。まるで逃げ出すような別れ方ではないか。それなのに私ときたら勤め先を聞いたり、また会いたいようなことを言ってしまったり、今度会ったら知らん顔をしてやるわ。

 

彼女は怒っているだろうかと雄一は思った。しかし、ほかにどうしようがあったろう。あのまま甘い会話のやり取りを続ければ自分は次に会う日を約束してしまったかもしれない。美しい人だ。しかし、今、恋愛は困るのだ。試験があるのだ。留学があるのだ。

 

そう思いながら昼休みになると雄一の足は霞が関のほうへ向かっていた。彼女は勤め先を霞が関だと言った。官庁だろうか。どこかの会社の秘書だろうか。あるいは洋装店のデザイナー。雄一には見当がつかなかった。女の人を知らなかった。どこへ置いても彼女は似合うような気がした。

 

昼休み、外の公園でランチしている敬子と明子。明子が電気スタンドを買いに来たという。明子の説明だと製図なんかに使う上げ下げできるやつらしい。そんなの横浜にも売ってるだろうと敬子に突っ込まれると、神田の方が安いというのもあるけど、イライラしてるので気分を変えたいというのもあったし、敬子に2000円借りるためでもあった。

 

スタンドは3000いくら。敬子は怒って貸すのは嫌だというが、明子はめげずに1000円借りて映画を観て帰ると言った。一人で部屋にいると気が変になると言って、敬子と別れた。

 

健「1598年 秀吉、醍醐で花見を行う」

健も独り自宅でお昼を食べながら勉強していた。そこに訪ねてきたのはハル。今日は近所の豪邸の二宮邸に来ていて、昼間からうま煮、ビフテキ、タコ酢だのを無駄にたくさん作るので、もったいなくて抜け出して柴田家に届けに来た。ハルは、健をしっかりした目標があっていいとほめる。

 

ハル「私なんか食べるために働いてるだけだもん」

本当は家政婦なんてガラじゃなく、三味線がうまいので芸者でも生きていけるけど、「ほれた腫れた」が面倒だという。健はハルを「海千山千」と評す。

 

会社でため息ばかりついている雄一。同僚で同じ留学試験を受ける佐藤は、試験前だからと思っていた。

 

無意識にため息をついているのは意外だった。大体今朝の自分の態度がこれほど気にかかることが予想を超えていた。

 

佐藤「300人受けて15人だよ。落ちて当たり前さ」

雄一「そういうこと。フフッ」

 

そうだ。帰りに彼女に会ってみよう。帰りの電車で彼女を見たことがある。OLの帰宅時間がなかば習慣化されているとすれば今日もあの電車に彼女が乗る可能性は強いわけだった。乗る位置はそうあちこち変えないものだ。もう一度会うのだ。こう気になるのでは素気(すげ)なく別れたことが逆効果ではないか。

 

敬子は残業だった。所長の八木沢は7時なので、その辺で夕食を食べていこうと敬子を誘った。最初は妹が待っていると断った敬子だったが、八木沢がうちはバラバラだと言い、若い娘さんの気持ちがつかめず、遠慮してるのかほんとにイヤなのか分からないという。

 

八木沢「昔はどっちだってよかった。こっちの気持ちだけで強引に誘ったもんだがどうもこのごろは敏感になってね。ちょっとしたそぶりで『ああ、イヤなんだな』と思っちまう」←敏感になるべき!

 

敬子はごちそうになると言い、「何食べる? フランス料理か?」と聞かれて、「そうですね、中華料理もいいかしら」。ジジイ転がしだなー。

 

金曜日の夜。雄一のいつもより早い帰宅に健は簡単な物しか用意していなかった。お茶いれてくれたりかいがいしいなあ。今日は英語の講習を休んだと聞き、健は驚く。試験までいくらもないから独りでやった方が能率がいいと言い訳。健は今になって予備校に行こうとしていた。健も独りでいることが寂しくなっていた。

 

健「兄さんにさみしいなんて感情、分かる?」

雄一「分かるもんか。女みたいなこと言うな」

 

敬子は老酒(ラオチュー)を飲んで、少し酔って帰宅。所長と飲んだというと、明子が怪しんだ。からかうような明子の口調に敬子はイライラ。お水ちょうだいとか言っときながら「1人にしてほしいんだったら!」と怒りをぶつけた。

 

2~3杯飲んだ酒のせいであろうか。敬子は今になって自分が思いがけぬほど今朝の青年の態度に傷ついていることが分かった。わざととしか思えぬ冷淡さで青年はせっかくの機会を利用しなかった。私なんか眼中にないのかしら。好きな人がいるのかしら。いやいや…そんなふうにあの青年のことばかり考えてしまう自分が腹立たしかった。

 

敬子は明子の部屋へ行き、ちょっと悔しいことがあったのと謝った。お茶でも飲もうかと誘い、明子も笑顔で応じた。

 

明くる朝、敬子はいつもと違う車両に乗った。自分が追いかけているように思われる気がした。

 

一体自分は何をしているのだろう、と雄一は思った。初めて言葉を交わした女性に冷淡な態度をとったからといってそれがなんだろう。もう一度会ってどうするというのだ。昨日は冷たくしてごめんなさいなどと言ったら彼女はなんのことか分からず笑いだすかもしれないではないか。

 

どうしたというのか。なぜこんなに彼女のことが頭を占めるのだ今はそれどころではないのに。試験なのだ。いわばビジネスマンとしての一生に関わる試験があるというのにこの気の散り方はどうしたのだ。

 

昼休み、公園で勉強する雄一。

 

敬子はあの青年のことは忘れることにした。偶然、何度か出会ったに過ぎない男性である。忘れようと思えば簡単なはずではないか。

 

写真家の40男、沢野と会う敬子。沢野は敬子が半分ここにいないようなもんだと敬子の心がないことを見抜いていた。

 

忘れること。おかしなことだが2人はお互いを無理やりに忘れようと努めていたのだった。

 

6話

雄一の留学試験があさってに迫った。勤続3年以上の独身男子300人の中から会社が15人を選ぶのである。雄一はほかのことは忘れようと努めた。

 

夜、雄一が勉強しているので、同室の耕作はまだ起きて、リビングでイヤフォンをさしてテレビを見ている。一戸建てっぽいのに部屋数が少なすぎないか? 何でいい歳した息子と親父が同じ部屋なのだ?

 

健もリビングに来て、話をする。

健「いつだって秀才の兄貴にとんまの弟なんだから」

耕作「そんなこと、いつ言った」

健「感じんのさ」

耕作「その割にはのんきじゃないか」

 

雄一も勉強を切り上げ、こたつに当たる。集中力が高く、簡単に雑念を払える雄一は冷たいのだと健は言うが、「冷たいもんか。お父さんの子供が冷たい人間のはずはないさ」と耕作は言った。うーん、やっぱり優しいなあ、このお父さんは。

 

確かに俺は少し冷たいのかもしれない、と雄一は思った。

 

会社で作業する雄一。

 

一時、あれほど気になった彼女が試験が近づくにつれて急速に頭から消え去っていった。とにかく試験だ。一生を左右するかもしれない試験が明日の日曜日なのである。

 

敬子は昼休みに同僚の孝子と田村町を歩いていた。何か探してるみたいと言われた敬子はちょっとした知り合いがいると答え、日比谷公園を通って帰ろうと言う敬子。

 

雄一も同僚の佐藤と日比谷公園で勉強中。ふと目を上げた先に敬子が歩いているのが見えた。

 

まずいときに会った、と雄一は思った。あさってなら声をかけに立ち上がるだろう。しかし、今日は困る。明日の試験を前にして彼女のことで頭がいっぱいになるのは困るのだ。

 

敬子が探している知り合いが男と分かり、孝子もそれとなくハンサムな男を探す。

 

昼休みは残り15分。佐藤がそろそろ行くかと声をかけたが、雄一はトイレに行くと言って先に行くように言った。

 

何をしているのだ、俺は、と雄一は思った。しかし、何かしら強い力が彼女の後を追わせるのだった。話がしたいのではない。ただ彼女が自分を認め、自分も彼女に軽い会釈でもすれば気が済むのだ。このまま彼女を行かせてしまうのは自分を抑えすぎる気がした。寂しすぎる気がした。

 

敬子は雄一に気付かず歩いている。

 

一体これはなんだろう。これほど自分を駆り立てるものはなんだろう。

 

雄一が立ちつくしていると佐藤が声をかけた。佐藤もトイレに行こうと思っていて、「オレをまいたな」と言った。「こっそりなんの勉強だ」と言われて「誤解だよ」と答えた雄一。「5階6階、目指すは7階社長のイスだよ。ほいのほいのほいさ」という佐藤に笑ってしまう雄一。

 

せんべい屋と寿司屋のおかみさんたちがおしゃれして旅行の計画を立てに敬子のもとにやってきた。お隣同士でハワイとか行っちゃうんだね。敬子の職場は旅行代理店みたいなところかな。

 

仕事中、明子から電話がかかってきて、今からは入れる予備校を探してると言われたが、仕事中だからと早々に切ってしまう敬子。仕方ないね。

 

健は予備校の受付で申し込もうとしていたが、「今まで何してたの?」「遅かない? 今からじゃ」などと散々嫌味ばかり言われて、それを横から口をはさんだのが明子。「横で聞いてたら随分失礼じゃない?」などと言ってくれて、結局健も入るのをやめた。

 

すぐに腹が立たないという健。

明子「つまり鈍いのね」

健「ずけずけ言うな。美人でもないのに」

明子「相当ね、あんたも」ほんとにね。

お互い自己紹介し、浪人生だけど予備校は嫌い、だけど一人で勉強してると孤独になると今までの行動がぴったり一致して意気投合。時々この辺で会おうと約束した。

 

いつもより帰りの遅くなった明子は夕食の準備も遅れた。帰ってきた敬子に予備校に行くのはやめたと報告。

 

健もまた夕食が遅れ、帰ってきていた耕作も待っている。ちょうど夕食が出来た時に雄一が帰ってきたが、雄一がシュウマイを買ってきたことにムッ。

健「どうして僕のおかずじゃ満足できないのかな」

 

雄一は明日の試験に備えてぐっすり眠るために酒を飲む。そのおつまみにシュウマイを買ってきた。

 

遅くまで起きていても妙に彼女のことを思い出すだけだと雄一は思っていた。それにしてもなんて邪魔をする彼女なのだ。どうして大事なときにちらりと現れたりしたのだ。

 

明子は今日知り合った健のことを敬子に話した。明日江の島に遊びに行く。

 

健も雄一に江の島行きを話していた。浪人だろと正論を言う雄一に我慢ばっかりしてらんない、誰かとしゃべりたくてたまらない気持ちなんて分からないだろと返された。

 

今の自分がそれだ、と雄一は思った。ただし、誰とでもいいから話したいのではない。電車で会い、公園で見かけたあの女性を求めているのだった。おおげさに聞こえるかもしれないが、この世にあれほど美しい人がいるのにそっぽを向いて勉強に励むことがひどくむなしい気がするのだった。

 

敬子も青年のことを考えていた。忘れることに決めたはずなのになぜ自分は今日田村町へ足を向けたのだろう。そう敬子にも心の飢えがあるのだった。穴の開いたような寂しさが絶えず心の隅にひっそりとあるのだった。

 

日曜日。明子と健が待ち合わせ。健はおにぎり、明子はイカの照り焼きを作ってきた。そして明子は連れがいると言って敬子を連れてきた。

 

雄一は試験を受けていた。

 

今回はいつも以上にナレーションが仕事してたなー。初回だったか本人が心の声を言ってたけど、ナレーションの人が全部言うのが面白い。敬子の心の声まで言っちゃう。もう少し要約しないと―(^-^; 疲れた。