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【ネタバレ】木下惠介アワー 3人家族(全26話)#19-#20

1968/10/15~1969/04/15 TBS

 

あらすじ

TBS『木下恵介アワー』で歴代最高視聴率を記録した人気ホームドラマ。偶然の出会いから始まる大人の恋と3人家族の心あたたまる交流を描く。男ばかりの柴田家と、女ばかりの稲葉家の二つの3人家族の交流を軸に、ロマンスやユーモアあふれるエピソードを盛り込んで話は展開する。山田太一が手掛けた連続ドラマ初脚本作。1960年代、大家族ドラマものが流行る中で、シングルファザー、シングルマザーの世界がリアルに描かれたのも話題となった。

19話

朝、牛乳配達員と挨拶を交わすハル。

牛乳配達員「どこですか? 今日は早いね、バカに」

ハル「ううん、仕事じゃないの。ちょっとこの先へ」

牛乳配達員「なるほど…仕事なら10時だもんね」

すれ違ったのにわざわざ戻って「そんなこと誰が言ったの?」と配達員に詰め寄るハル。口ごもった配達員に「家政婦行った先の牛乳、みんなやめさせちゃうから」という。配達員が牛乳を差し出すと「馬じゃないよ!」とプリプリして牛乳は受け取らずに去った。

 

ハルは柴田家を訪れていた。今日は健の受験日。耕作は玄関にいた。

ハル「まあ、親ってありがたいわね。こうして玄関清めて」

 

耕作にまで今日早いねと言われてしまうハル。ハルは、いつもこのくらいには起きてる、自分のこと済ませてそれから出てくるから遅くなると言い訳。ハルは試験は運不運があると言ってお守りを差し出した。

 

ハル「年寄りみたいで若い私には似合わないでしょうけど」

年齢設定は30代後半から40代くらい? この頃の菅井きんさんの実年齢は42歳。ハルは昨日1日歩いて池上から川崎大師、羽田のおいなりさんから水天宮、浅草行って観音様となんとか合格してほしくてお守りを集めてきた。

 

耕作はハルに感謝した。そこに雄一が玄関に出てきた。試験前ということもあり、健じゃなく雄一がご飯を炊いたら芯が残ったと耕作に話すと、ハルがちょっと見ましょうか?と家に上がった。メモリ通りやったという雄一。

ハル「ダメダメ。おたくの電気釜はね少し水を多めにしないといけないの」

 

健が起き、ハルがいるので「もうそんな時間?」と急に眠気が醒めた。風呂場で水かぶって来いと言う雄一に、起き抜けにいかんよと止める耕作。ご飯は水を足したからもう大丈夫ってそんなものなの!? いつもご飯を炊いてる健も雄一がご飯を炊いたと知ると「ありゃ僕じゃなきゃダメなんだよ」という。

 

稲葉家も明子の受験の朝。キクがトーストを焼き、敬子がサンドイッチを作る。おっしゃれー! 

キク「面白かないよ、1年も浪人して」

 

サンドイッチを作った敬子がたくさん作ったからお友達と食べてねと渡す。遠足じゃないんだからとツッコむキク。

キク「おミカン買ってあるからね、それから水筒に紅茶が入ってるよ」

明子「それこそ遠足じゃないわよ」

キク「『ありがとう』って言えばいいの、女の子は」

明子「そういう女の子になんないために大学行くんじゃない」

キク「アア~、大変だ。お前がこれ以上ずうずうしくなったらお嫁にもらい手なんかありませんからね」

明子「残念でした。時代が違いますよ、お母さんとは」

 

敬子と一緒に出るつもりの明子はまだのんびりトーストをかじっている。

敬子「フフ…でも明ちゃんよくやったわ。頑張ってよ、今日」

明子「あっ…そういう言葉待ってたのよ。そういうね、優しい言葉に飢えてた」

敬子「まあ!」

キク「勝手なこと言って…」

明子「ねえ、お母さんも言って」

キク「フッ、バカだねえ。頑張るんですよ、しっかり。お母さんも一生懸命うちで祈ってるからね」

明子「はい、お母様」

 

柴田家は男3人とハルで出勤。温泉旅行に行こうなどと話している。ハルと道が分かれ、健はハルを追いかけてもう一度お守りのお礼を言った。

 

お守りを腹にしまって試験開始。

 

別の家で家政婦の仕事をしているハル。仕事の合間、その家の神棚や庭のおいなりさんに柏手を打っている。しかし、庭に掃除した水をバケツでぶちまける。雑だなあ。その家のおじいさんが読経をしている後ろで仏壇を拝む。

 

恋の季節を歌いながらせっせと布団カバーをかけているハルをじっと見ていた安造じいさん。ストーブはあるけど首にマフラーまいて豪邸とはいえ、寒そう。

ハル「あら…旦さん、お勤め終わったんですか?」

安造「うむ…」おもむろに近づく。

ハル「なんですか? 家政婦の所へ来て。やですよ、変なことなすっちゃ」

安造「バカを言いなさい」

 

安造はハルをほめてやろうと思ってと、今まで家政婦は何人も来たけどあんたみたいに信心のある者はいなかったと言った。ハルは普段は拝みもしないし、仏壇なんかジャンジャン掃除機でやっちゃう方だけど、どうしても合格させたい子がいてと話した。

 

息子さんかね?と言われて笑って肯定するハル。親が悪いと子がいいとか普段のハルを全く評価してないっぽいが、言いたいこと言いますねと笑顔で返せるハル。いい母ちゃんと言われてまんざらでもない。

 

柴田家。夕食をとりながらハルの話題。雄一はハルが耕作と結婚したがっていることを危惧し、ただの親切じゃ済まないと言った。

雄一「こっちが黙っていればだんだんおばさんだってその気になるし、最後になってうっちゃり食わすようなことはかわいそうじゃないか」

耕作「うん。そりゃ雄一の言うとおりだ」

 

健も以前何となくだけど耕作と結婚したいと言っていたのを聞いたことがあった。

雄一「つきあいは今までどおりでいいんだからね。お酒飲みに来たっていいんだし、愚痴だって聞いてやればいいんだもん。ただ、働いてもお金を取らないってのが困るんだよ。そういうふうに僕らの中に入り込んでくると、いつかおばさんをひどくがっかりさせちゃいそうだからね」

耕作「うん、一応言っとくべきかもしれんな」

健「かわいそうだな、おばさん」

雄一「うん、そりゃそうなんだけど…」

 

そこにハルがやって来て、健の試験のことを聞いた。

耕作「すみませんでしたね、今朝は」

ハル「いいえ、楽しんでんですよ。どうせ自分のことしかすることがないでしょ。お宅へ来てすることがうれしいんですよ。なんだか坊ちゃんなんか他人でない気持ち、フフフ…」

一瞬、けげんな表情の耕作。

 

柴田家に来る事が幸せだというハル。耕作は明日の日曜日の予定を聞き、ハルさんにはいろいろお世話になったし一席設けたいと言って横浜に食事に出かけようと誘った。健も試験が残っていて、雄一も調べ物があるから二人で行こうというとさらに喜んだ。ますます勘違いさせてるような…。

 

稲葉家の女性3人は外食に出かける準備をしていた。レストランオーナーのキクなので、洋食じゃなく中華街なんてのもいいわねと提案する明子。

キク「湯沸し器ついてないかしら?」

あ、湯沸かし器あった。

 

横浜中華街。耕作とハルが食事をしていた。お礼にごちそうしてくれるのはうれしいけどちょっとがっかりだというハル。坊ちゃんにつくすのはお礼をしてほしいからではないという。親切には感謝の心、これだけでいい。水くさいともいう。

 

こんなところに来たのは久しぶりだという耕作。5年前に忘年会で来たきりで、女房はもったいないと出たがらないほうだったからと話す。独りが長いですねというハル自身は半年しか所帯を持たなかった。

ハル「ええ、胸くそ悪いから思い出さないんですけどね」

昔からある言葉だけど、最近よく聞くからちょっと上品な口調に挟み込まれてて面白い。

 

ハル「男なんてアテになりませんねえ。さんざんおいしいこと言ってサギに遭ったようなもんで貯金を全部、着物も全部半年たって逃げられたときには着のみ着のままワンピース1枚でしたもの」

耕作「ふ~ん」

ハル「もう結婚なんかイヤ! つくづくその時そう思いましたけどね」

耕作「ふ~ん」

ハル「やっぱり年を取ってくるとねえ、大阪に姉が1人いるだけなもんでなんだかさびしくなってきちゃってね」

耕作「うん」

ハル「やっぱり結婚したほうがいいのかななんて…思うんですよ、このごろ」

様子をうかがうようなハルに耕作は驚く。

ハル「お宅が息抜きなんですよ、なんだかお宅で働いてると所帯持ってるような気がしてきちゃって」

耕作「うちなんかでよかったらいつでも遊びに来てくださいよ。殺風景なうちだけどみんなおハルさんが好きなんだしね」

ハル「ほんとですか? それ」

耕作「ほんとさ」

ハル「旦さんも?」

耕作「うん?」

ハル「旦さんも私がお好き?」

耕作「好き好き。いい人だもの、おハルさんは」

ハル「まあ、夢みたい。フフフ…」

 

耕作「しかしね、おハルさん」

ハル「なんですか?」

耕作「これは別な話だけどね。子供なんてものはあるところまで育っちまうとつまらんもんだね」

ハル「いい息子さんに何を言ってるんですか」

耕作「結局は自分のことを考えてるだけなんだ。まあ、そりゃいいけどね。親なんてものはアテにしないつもりでいてもね、ふと子供の優しさなんかアテにしてるもんでね」

ハル「優しいじゃありませんか、2人とも」

耕作「こんなこと言うのはおハルさんから見たら贅沢かもしれないが、このごろ私は独りがよくなったよ。兄弟ゲンカをしてるのを見てもなんか煩わしくってね、この先、独りでひっそり暮らすのが楽しみみたいな気分でね」

ハル「そりゃ旦さん、定年のせいですよ。定年が来るとガタっと老い込むって言うじゃありませんか。旦さんもいっとき気が弱くなってるんですよ」

耕作「そうかねえ」

ハル「なんですか、55ぐらいで『独りがいい』なんて仙人みたいなこと言って」

耕作笑う

ハル「思い切って結婚でもしてパアーッて新しい生活でも始めたらどうなんですか?」

耕作「いやあ…とても結婚なんて、あんた、とんでもない。もう私ダメですよ。結婚なんて。いや、とてもとても…」

ハル「そうなんですか」

耕作「気力もないし、カネもなしだ、ハハハ…」

ハル「ウソ」

耕作「え?」

ハル「亡くなった奥さんでしょう?」

耕作「何が?」

ハル「奥さんのことが忘れられないんですね?」

耕作「まさかあんた…」

ハル「いいんですよ、そんなふうに言ってくれなくったって」

耕作「おハルさん…」

ハル「やんわり断ってくれたんですね」

耕作「いやあ…そういうつもりじゃないんだよ」

ハル「ヤボなことは言いませんよ。よく旦さんの優しい気持ちは分かりましたよ」

耕作「しかしね、おハルさん。健も雄一もみんなおハルさんが好きなんだよ。今までと変わりなく気軽にいつでも来てくれなくちゃ困るよ」

ハル「旦さん」

耕作「うん」

ハル「今日は酔わせてもらいますよ」

個室から飛び出して店員を呼び出そうとしたハルの肩を抑える耕作を偶然店に入ってきた稲葉家の面々に見られてしまい、キクは軽蔑の表情。子供たちはさっさと個室に入って行った。「なんでもないのに」と泣きながら料理を食べるハルだった。

 

あ、ナレーションがない。

 

20話

朝7時。健はシジミのおみおつけを作った。試験が終わって発表がまだなんていちばんいいときだと健は言う。雄一もいつもより早く起きていた。今日あたり内示がありそうだという。留学試験の合格発表。最後の15人だからなんだか長引いている。

雄一「どうも今日らしいんだ。やんなっちゃうよ、じれちゃって」とお父さんに愚痴る26歳。かわいい。

 

新聞だけ取って、牛乳をとらなかった雄一に「まったく男はしょうがないな」と健。おみおつけとおたまを食卓に持ってくるよう雄一に言うと「おハルさん、来ないな」。

健「あんなこと言ったら誰だって来ないよ」

雄一「こだわらないで来てくれるといいんだがな」

健の合格発表も雄一の留学試験も気にしていたのに来ないということは結婚したかったんだねと話す健。おみおつけをよそう雄一。しかし、ぶちまけて「雑巾、雑巾」と慌てる。留学試験のことが気になる。

 

電信部で一次試験に合格したのは隣にいる佐藤と雄一の2人だけであった。どちらが合格するか2人とも落ちるか部内のひそかな好奇心がこの数日、2人の周りを何気なく取り囲んでいた。

 

電信部に帰ってきた部長が雄一を呼んだ。合格。

部長「おめでとう」

雄一「おかげさまで」

部長は雄一の希望通りニューヨークを推薦したが、行き先はまだ決まっていない。佐藤の手前、浮かれた表情はできず、佐藤にサラッと報告。一緒に行けなくて残念だという雄一に「うん…まあ、そういうもんさ」と返す佐藤。

 

昼休みになって初めて雄一は合格を喜んだ。突然世界が大きく広がる思いであった。

 

耕作の会社、自宅の健に電話をかけ祝福された。

 

もう1人知らせたい相手がいた。雄一の足は単純に敬子のほうに向いた。しかし、合格は少なくとも2年間の敬子との別れを意味してもいた。それを率直に敬子が喜ぶはずがなかった。いや、雄一自身そのことが心に広がると足が緩くなった。いくら興奮したからとはいえ単純に知らせに飛び出した自分が分からなくなった。

 

敬子の職場前の噴水前で同僚としゃべっている敬子を発見。

 

好きだからだ。好きだからうれしいときに喜びを分かちたかったのだ。

 

すぐ近くに敬子がいるのに声をかけられない雄一。

 

雄一は初めて自分にも隠さず敬子を好きだと思った。

 

電信部に戻った雄一は佐藤からお昼は何を食べたか聞かれた。ホットドッグの立ち食いだと答えた雄一。飲みに誘うが、お父さんだって待ってるんだろうと優しい佐藤。

 

営業部の小林が飲みに誘われたが、ちょっと今日は…と断る。クリスマスイブにも家に行ったのに。

 

家に帰って、明子から雄一の留学試験に合格を知らされた敬子。

明子「お姉さんもさっぱりしたじゃない。これであの人、2年だか3年外国行っちゃうんでしょう? 忘れるにはちょうどいいんじゃない?」

部屋に入ってしまった敬子を見て「アア~、じれったいな。思いっきりよくパッパッといかないもんかしらね」と明子。突然ドアを開けた敬子。

敬子「明ちゃん!」

明子「えっ?」

敬子「人を好きになるとね、かっこよくパッパッなんていかないのよ。割り切りのいい人なんてほんとに人を好きになったことないのよ。覚えときなさい!」

勢いよくドアを閉めた。

明子「何よ! 私に当たって」

 

柴田家では雄一のお祝いを親子でしていた。3月はいろんなことがあるねという健。雄一の合格、健の合格発表(予定)。耕作の退職。3月31日が退職の日。

健「暖かくなったら3人で遊園地にでも行こうか」

雄一「温泉だの遊園地だのいくつなんだ、お前は」

 

健は雄一の赴任先が決まらないのが気に入らないと言う。赴任先は世界の大都市でニューヨーク、パリ、ミラノ、ベルリン、ニューデリーバンコクアンカラ、カイロ、サンパウロ…早い者は4月にはたつ。

健「兄さんなんかゴチャゴチャうるさいもん。いないほうがいいや」

雄一「すぐお前は…」

じゃれ合う兄弟。耕作はニコニコしてるけど、心の中ではウゼェとか思ってたら嫌だな。

 

2人でのんびり旅行すると笑い合う耕作と健。雄一は酒を飲んでいて(まだ未成年では!?)こんなのとお父さんと2人で大丈夫か心配だという雄一。

 

そして、おハルさんどうしてるかね?という話題になる。寂しいのが嫌いな人だから独りでごはん食べてるかと思うとかわいそうだという健。

 

ハルが独りアパートでご飯を食べてる姿が映し出される。テレビもラジオもなさそうな部屋だもんな〜。

 

部長に呼び出された雄一は赴任先がカイロだと言われた。ニューヨークなんていきなり希望する所じゃないよって、お前も推薦しただろう!? アフリカはこれから伸びると励まされた。部長が行って1人になった雄一がつぶやく。「カイロか…」

 

定食屋でお昼を小林と食べながら、カイロの話をする。アフリカはいいぞという小林。ニューヨークでは土地の名士にはなれないが、カイロに5年いてやたらいい顔になったヤツがいる。やり方一つで出世コースになる。土地の言葉を覚えて、ヨーロッパ帰りの重役をキャバレーに案内すると土地の客が雄一にやたら挨拶すると「うん、柴田はすごい」と重役は思う。エジプト通で他には回せないとアフリカ専門…と笑った。おめーバカにしてるな!? ファイト十分だという雄一。

 

耕作や健にもすぐに電話で連絡した。会社に戻ると佐藤がおごってくれるという。そこへ雄一宛ての電話。敬子が妹から聞いたとして留学試験に合格したことを言った。

敬子「すぐに知らせていただけると思ってましたわ」

雄一「ごめんなさい。実はあなたのビルまで行ったんですよ、昨日」

敬子「まあ」

雄一「噴水の所であなたがお友達とご一緒に…」

敬子「どうして声をかけてくださらなかったんですか?」

雄一「考えてみるとあまりいい知らせじゃないような気がして」

敬子「いい知らせに決まってるじゃありませんか。おめでとうございます」

雄一「ありがとう」

敬子「帰りにお会いできますか?」

雄一「今日はダメなんです」

敬子「残業ですか?」

雄一「ちょっと友達と飲む約束があって」

敬子「そうですか」

雄一「僕もあなたと…」

 

「お安くないな、柴田君」と男性社員にからかわれ…そうです、ここはオフィスの電話。

 

雄一「とにかく僕のほうから電話します。じゃ、また…さようなら」

「遠慮すんなよ」と男性社員は言うけど、その男性社員のデスクの上の電話だからな〜。席に戻ると都合があるんならいいんだぞと佐藤。「いや、お前と飲むのがいちばんさ」と言ってた雄一だが…。

 

明子と健が会っていた。明子は雄一が敬子を好きだと認めたのに合格を知らせないのはおかしいと健に言っていた。今の健は気が抜けている。今年は4つも受けたからどこかには引っ掛かってると思っている。今まで勉強したこともスッパリ忘れたという明子。スケートに行く? ゴーゴー踊りに行く?と明子を誘う。突然、明子相手にシャドーボクシングを始める健。じゃれあいだけど今の感覚だとDVに見えちゃう。あおい輝彦さんが「あしたのジョー」をやったのは、これより後か。

 

生ギターの演奏があるバーで1人いる雄一。腕時計は6時30分過ぎ。店に現れたのは敬子だった。

敬子「ごめんなさい、遅れて」

雄一「早すぎたんですよ、僕が」

敬子「ほんとにいいんですか? お友達」

雄一「考えたんですけど、やっぱり今日はあなたに会うべきだと思って」

敬子「『会うべき』ですか。『会いたい』じゃなくて」

雄一「ハハ…」

敬子「フフ…」

敬子の注文は「ウイスキーお水で」。ご飯を食べる前に選んだ店。今は空いてるけど11時過ぎに混む。

 

雄一「痩せたんじゃないのかな? 少し」

敬子「痩せるもんですか。ちょっとたくさん食べるとすぐこんな」頬に手を当てる。

 

敬子「おめでとうございます、合格」

雄一「すぐ知らせないで…」

敬子「思ってましたわ、合格なさるって」

雄一「とにかく最低2年間、外国ですよ。そのまま何年向こうにいるか…考えると寂しい商売ですよ」

敬子「フッ、ウソ」

雄一「えっ?」

敬子「ほんとはファイト満々うれしくてしょうがないんじゃありません?」

雄一「ハハ…意地悪だな」

敬子「ニューヨーク…毎日チケット作ってて一度も知らない街」

雄一「ハハ…違うんですよ」

敬子「えっ?」

雄一「行き先、言ってませんでしたね」

敬子「あら…」

 

雄一「アフリカなんですよ、カイロです」

敬子「まあ、そうだったんですか」

雄一「合格した15人を世界中にばらまくんですからね。希望どおりにはいきませんでした」

敬子「カイロだってステキじゃありませんか」

雄一「よく知らないんですけど」

敬子「気候はいいし見るものはいくらだってあるし、アフリカ第一の都会ですもの」

雄一「ハハ…よく知ってるな」

敬子「商売、商売」

雄一「気候がいいってほんとですか?」

敬子「ええ。冬だって10度。夏だって35度。湿度も少ないし地中海の風が涼しいし、ホテルだって立派なのがいくつもあるんですもの」

雄一「ハハ…行ったみたいだな」

敬子「フフ…それにヨーロッパに近いでしょう? マドリード、ローマ、ベニス、パリ」

雄一「そんなに遊ばせてくれるもんですか」

 

敬子「いただきます」ウイスキーを飲む。

雄一「あっ、気がつかないで…。そんなに急に飲んじゃ…」

敬子「おたちになるのいつなんですか?」

雄一「まさか4月ってこともないと思うんですが前にはそういう例もあったんです」

敬子「どっちにしてももうすぐですわね」

雄一「ええ」

敬子「時々お会いしましょうか」

雄一「いいんですか? 会っても」

敬子「どうして?」

雄一「いや…」

敬子「私、あなたを好きにならないでよかった。好きになってたら2年間も会わないなんて我慢できないわ。フフ…結婚しちゃおうかなんて思ってるんです」

雄一「誰と?」

敬子「誰でもいいわ。面倒くさくなっちゃった。ひとりって」

ギターの音色が店内に響く。

 

雄一「仕事のために結婚をしないなんて滑稽に見えるでしょうね。それも定年になれば辞めてしまう会社の仕事のために結婚しないでいるなんてバカに見えるでしょうね。はやりの言葉で言えば、こんなに疎外された男はいないかもしれない。そう思われてもしかたがないけどそんなんじゃないんですよ、僕は。思いっきり仕事をしたいんです。会社のためとか出世のためとかそんなことじゃなくて自由にどこへでも飛んでいって仕事をしたいんです。それは誰かを愛したいと思う気持ちと同じくらいに男にとっては強いもんなんです。ハハ…こんなふうに思いたいだけかもしれない。とにかく独りぼっちで2年間ですからね」

敬子「お元気で」

雄一「ハハ…まだ何度も会うじゃありませんか」

敬子「会ったほうがいいのか会わないほうがいいのか分からなくなりましたわ。どっちにしてもあと2か月足らずで2年間お会いできなくなるんですね」

雄一「2か月足らずか…」

敬子「2か月足らず…」

無言でお酒を飲む2人でつづく。

 

ナレーションで締めるかと思ったらそのまま終わってしまった。明日は祝日でなし。寂しい。