TBS 1971年7月6日
あらすじ
早く一人前になるため竜作(近藤正臣)の態度にも我慢し、自分の仕事に精を出す健一(森田健作)と、そんな息子を見守るもと子(ミヤコ蝶々)。しみじみと通い合う母子の情を横目に竜作はなぜか寂しそうで…。
2024.1.11 BS松竹東急録画。
尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。
尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。
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江波竜作:近藤正臣…新次郎が引き抜いてきた大工。
石井文子:榊原るみ…竜作の恋人。
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中西雄一郎:中野誠也…新築の家を依頼してきた。
堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。
中西敬子:井口恭子…中西の妻。
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堀田:花沢徳衛…棟梁。頭(かしら)。
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生島新次郎:杉浦直樹…健一の父の下で働いていた大工。
下小屋
電気ノコギリの音が響く。字幕で(電気ノコギリの音)と書いてあるのがありがたい。竜作と健一で電気ノコギリを使い、手前で新次郎がカンナがけをしている。共同作業しつつギロリとにらみ合う健一と竜作。
「あしたからの恋」の大出俊さんと林隆三さんも確かにカッコいいんだけど、近藤正臣さんと森田健作さんは、より今っぽいイケメンに見える。どっちも髪がサラサラだからかもしれない。髪型というか髪質?
仏壇に手を合わせる咲子。「棟梁が亡くなっちまったなんて、ホントにこうやっててもウソのようだわ」
もと子「ねえ」
咲子「下小屋からノコギリの音は聞こえてくるし、ねえさんそこでお茶入れてるし、こうやってるとお弔いなんかあったのかしらと思うわね」
もと子「ホントね」
咲子「考えてみるとつまんないわね。人間なんて」
もと子「お咲さんっていいご身分じゃない?」
咲子「ん~、だけどさ、人一人死んであとに何が残るかっていうと頼りないもんね」
もと子「そんなことないわよ」
咲子「いや、そりゃ棟梁の場合はさ、ねえさんの胸の中にいつまでも大きな穴開けてるんだろうけど、いや、私なんか死んだって、うちん中、何一つ変わんないで、みんなケロケロッとテレビでも見てんじゃないかと思ってさ」
もと子「お咲さん。私、ケロケロッとしてるように見える?」
このケロケロするという言い方、今のケロッとしてると同じ意味だと思うけど、この時代特有の言い回し? 「あしたからの恋」(1970年)、「岸辺のアルバム」(1977年)、「心」(1980年)で登場。まあ、「心」は1980年のドラマだけど橋田ドラマは古い言い回しを普通にするからね。1980年だって若い子が”こしらえる”は言わないと思うよ~。同時期の金八でも言ってなかったし。
咲子「やだ、ねえさん。私は自分のこと言ってんじゃないの」
もと子「そりゃ分かってるけど。うちの人はね、ホント言うとこんなときには2週間でも3週間でもボーッとしてるような女房がよかったんじゃないかと思うのよ」
咲子「そんな、ねえさん。身上持ちの若奥様ならともかく生きてる者(もん)は、あしたから食べてくこと考えなきゃなんないんだもん。そうそう気を抜いてられますかって」
もと子「まあね。おかげさまでしばらくは今のままの請負をやっていけそうだし。でもね、そうなってみると改めてここへきて、あっ、そうだ、うちの人は死んじゃったんだなあと思うとね。なんかこう立ってても座っててもね、スーッとなんかね、気が抜けていくようなのよ」
咲子「ねえ…」
もと子「あんただってそうよ。あんたがいなくなって誰がケロケロすんのよ。頭(かしら)にだってゆりちゃんにだってかけがえのない人なんだもの」
咲子「そんならいいけどさ」
もと子「そうに決まってるじゃない」
咲子「まあ、人間ってそういう人がいるかいないかで成仏のしかたが違ってくんでしょうね」
もと子「そりゃそうよね。フフフ…」
咲子「やだやだ。私、今日、ねえさん、よく頑張ったと思ってそれでやって来たのに」
もと子「フフッ。頑張ったのは私じゃないもん」
咲子「だけどあしたが建て前だって?」
もと子「うん」
咲子「ホントに棟梁がいなくて、よくまあトントンこぎ着けたと思ってさ」
もと子「新さんがよくやってくれたのよ」
咲子「ねえ。こう言っちゃなんだけどさ、競馬だっていうと、まあ腰がフワフワしちゃったりして、どういう人なんだろうと思ってたけど、やっぱり男はやるときゃやるもんね。そういう立場になると」←新さんギャンブルもやるのか。
もと子「そうね」
咲子「だけどあれだって? なんだか渡り職人みたいの連れてきたんだって?」
もと子「ううん、そんな子じゃないのよ。大森のなんとかいう工務店に働いてた子なんだけどね。新さん朝から出かけて、そこの社長と掛け合ってね、とうとう一日であの子を引き抜いてきちゃったのよ」
咲子「やるわね、新さん」
もと子「あの人、時々、思いがけないことをスポーッとやるのよ」
咲子「だけどあれだって? あの…その職人と健坊とこれ(人差し指同士をぶつける)だって? しょっちゅう」
もと子「そうなのよ。それが頭(あたま)痛いのよ」
咲子「一体どういうつもりなんだろう? 雇われた先の息子に絡んだりして」←健一のほうが先輩に生意気な大工見習いとはならないんだね。
そういや、杉山とく子さんは「ほんとうに」で敬太の母だった。「ほんとうに」なんて「たんとんとん」のわずか5年後なのに20代の敬太の母の割にすごいおばあさんみたいな感じだったな。
もと子と咲子の会話でこれまでのあらすじを軽く説明した感じ。
下小屋
竜作「よし。削りはお前やっとけよ。おい」
健一「なんだい?」
竜作「垂木と桁の数、当たっとけよ」
健一「ああ。新さん」
新次郎「うん?」
健一「俺は今みたいなこと新さんに命令されたいね」
新次郎「竜作だって健坊の先輩だよ」
健一「分かってるよ」
新次郎「言ってることも間違いじゃないよ。垂木の数の見当つけるのも仕事のうちだよ」
健一「ハァ…」手ぬぐいをTシャツの中に入れ汗を拭く。
新次郎「竜作」
竜作「あっ?」
新次郎「しかし、お前の今の言い方は意地悪だな。おい、健坊。垂木ってものはな、建て前には多めに持ってくもんなんだよ。だからあそこにも多めにある。まあ、足りない心配はないんだ。余りはな、壁の下地の間柱(まばしら)にも使えるしな。竜作。健坊に垂木の数の見当つけさせるのはいい。しかし、指図するんなら、今、俺が言ったことぐらい、ついでに教えて指図しろ。いいな?」
ホースから水を出して、飲んでる竜作。
いやあ~、新さん大変。学校の先生みたい。
夜、尾形家の木戸の前に文子が来ている。下小屋から電気カンナの音がするので、文子は木戸を開け、下小屋へ入っていった。
文子「ごめんなさい。間違えたんです」
健一「ハハッ。うちをですか?」
文子「ううん、あの…江波さんがいるんだと思ったの」
健一「へえ」
文子「帰ったんですか? もう」
健一「ああ、飯前にね」
文子「表通ったら、その音がしたでしょ。だからきっといると思っちゃって」
健一「ああ、新米なんでね。仕事終わってからも練習してたんすよ」
文子「そうなの」
健一「へえ、あんた恋人?」
文子「うん」
健一「へえ。ああ、アパート行ってみたら?」
文子「うん」
健一「帰ってるかどうか分かんないけどさ」
文子「うん」
健一「あの…アパート知らないの?」
文子「入れてくれないのよ」
健一「どうして?」
文子「あの人、私を好きじゃないの」
健一「そう」
なのに恋人?と思うけど、「3人家族」のハルさんは好きな人という意味で恋人と言ってたような気がする。
文子「さよなら。恥ずかしいわ。余計なこと言っちゃって」
健一「ああ、ちょっと待って。あいつに言うことあったら言っといてやろうか?」
文子「ありがとう。でも別にいいわ」
健一「そう」
文子「あの人、野心があるから、同じ施設を出た人間なんかとつきあいたくないのよ」
健一「同じ施設って?」
文子「あら、知らなかった?」
健一「何をさ?」
文子「ううん。お邪魔しました。ごめんなさい」
さよなら、と挨拶しあう健一と文子。
もと子「健一」
健一「うん?」
もと子「修業中やと思ったら、家ん中でデートやったん?」
健一「ハハ…つまんないこと言うなよ」
もと子「だから上がってもらえばいいじゃない? 母ちゃんはそんなことで目くじら立てたりしないんだから」
健一「そんなんじゃないんだよ、今のは」
もと子「今の誰よ?」
健一「誰だっていいだろ」
もと子「教えてくれたっていいでしょ」
健一「母ちゃんには関係ないんだよ」
もと子「悪かったわね。父ちゃんが死んで2人きりになったというのに母ちゃんをのけ者(もん)扱いすんだから」
健一「何言ってんだよ? ほら、あいつのだよ。竜作の恋人だよ」
もと子「あら、あの子また来たの」
健一「えっ? 前にも来たのか?」
もと子「教えてやらないから、ベーッだ」
健一「あっ、そうだ。ねえ、母ちゃん」
もと子「あんた関係ないでしょ」
健一「違うんだよ。施設ってなんだよ? 一体」
もと子「施設?」
健一「あいつ、施設に入ってたんじゃないの?」
もと子「知らんよ、そんなこと」
健一「雇うとき履歴書見たんだろ?」
もと子「そんなこと別に書いてなかったよ」
健一「はあ~」
もと子「ねえ、ねえ」
健一「うん?」
もと子「施設って感化院と違うか?」
健一「いやあ、彼女と一緒だっていうんだからね。女と一緒にいる鑑別所なんてないだろ」
もと子「ほな一体なんやろ?」
健一「まあいいさ。お互いに過去のことは言いっこなしさ」
もと子「何言ってんだい」
健一「そうだ。親のない子の施設かなあ」
もと子「親のない子?」
健一「そうか。あいつ、親がいないのか」
もと子「ねえ、健坊」
健一「うん?」
もと子「あんた、知らん顔してなさいよ」
健一「どうして?」
もと子「いや、そう言われれば親のない子の施設かも分からんから」
健一「だからってどうってことないじゃないか」
もと子「どうっちゅうことないよ。だけどさ、本人が隠してんだから、はたの者は知らん顔してやればいいじゃない」
健一「うん」
もと子「そうか。そういう苦労をしてたのか」
健一「まだ分かりゃしないよ」
もと子「分かるよ。そういえば寂しそうな顔してるもん。なんとなしにあの子が分かってきたような気がした」
健一「フッ、早合点だな。母ちゃんは」
感化院は鑑別所じゃない。wikiにも少年院とは異なると書いてある。今の児童自立支援施設。もと子や健一が言いたいのは児童養護施設のことか。
下小屋から材木を運び出す。男声コーラスのBGMが面白い。
もと子は敬子と電話中。
下小屋前のトラック
新次郎「おい、健坊! ベニヤ板が3枚道具棚の下にあんだろ」
運んできたのは竜作。「よっと!」
新次郎「おう、持ってきたか」
竜作「ああ、これで終わりだよ」
新次郎「ああ」
健一「ベニヤなんかないよ、新さん」
新次郎「あっ、いいんだいいんだ。今、竜作持ってきた」
竜作「おう、もう行くぞ」
健一「なんでえ。人をマヌケみたいに」
もと子「あら、もう積み終わったの?」
竜作「ええ」
もと子「ご苦労さん」
竜作「ええ、いってまいります」
もと子「どうも。あっ、新さんご苦労さん」
新次郎「いってまいります」
健一「行ってくるよ、母ちゃん」
もと子「ああ、行っといで。お前、初めての建て前だからね。ウロウロすんなよ」
健一「何言ってんだよ。俺にだってご苦労さまと言えよ」
もと子「バカ野郎。新米が苦労すんのは当たり前だ。ウロウロして、あの…屋根になんか上んなよ」
健一「なんでえ! どなりゃいいと思ってやがって」
もと子「ほらほら、お前が先に車に乗ったら誰がガレージ閉めていくのよ」
健一「うるせえな、分かったよ」
♪ブブンブンブンという男声コーラスBGM
トラックが走る。多摩川を越えて二子玉へ。
基礎作り。竜作の長い前髪が邪魔そう。せめてハチマキくらいしたらいいのに。
尾形家茶の間
もと子「なんにも知らんでええんですよ。普請なんてね、そう、あんた、一生に何べんもあるもんじゃないんですからね」カルピスを用意している。
しかし、中西家は平屋だから子供が増えたら狭くなりそうで、またすぐ増築やらなにやらしそうな気はする。
敬子「ゆうべからなんだか落ち着かなくて」
もと子「まあ、建て前なんて結構楽しんでらっしゃればいいんですよ」
敬子「でもいろいろしきたりやなんかがあるんでしょう?」
もと子「そりゃありますけど、でもお建てになる方がそんなに苦労なさらなくてもいいんですよ」
敬子「主人がもうワイワイ。もう尾形さんに行って手落ちがないようにしろって」
もと子「ねえ、おなかが大きくて暑いのに大変ですね、奥さん」
敬子「夕方のお料理は頼んでいただけました?」
もと子「ええ、ちゃんとあの…ゆうべのうちに」
敬子「それからお祝儀のことなんですけど」
もと子「ああ…それは私の口から言いにくいんですけど」
敬子「いいえ。主人がちゃんとそういうことはしておきたいと申してますから」
もと子「そうですか。そんなら…まあ、大変、安いお金じゃないんですけども、お宅様ほどのご普請でしたら、このぐらいだという相場がですね。まあ、棟梁と頭が5000円ずつぐらいじゃないでしょうか」
敬子「それから、あの…」
もと子「他の人は2000円ずつぐらいでいいんじゃないですか」
敬子「分かりました」
もと子「あっ、奥さん。あの角樽見てください」
仏壇脇に2つの角樽が置いてある。
敬子「お酒ですね」
もと子「ええ。今はもうああいう樽がなくなっちゃいましてねえ。しょうがないから酒屋さんで樽だけお借りしてきたんですよ」
敬子「あれも建て前用ですか?」
もと子「ええ。今もうみんな一升瓶で済ませちゃいますけどね」
敬子「あら、それじゃ、それお払いしなくちゃ」
もと子「いえいえ、そりゃいいんですよ。それはわたくしのほうで勝手にやらせていただいたんですから」
敬子「そうなんですか?」
もと子「まあ…わたくし事でおイヤでしょうけども、お宅様の建て前は、うちの息子が大工になりまして初めての建て前なもんですから」
敬子「そうでしたね」
もと子「はあ、親バカでしてね。なんとか励みになる景気のいい建て前にしてやりたい。そう思いまして、そして、勝手に用意さしていただきまして、お祝いにあやかりたいと思います」
敬子「そうですか。そんなに気持ちのいいことでしたら私のほうは願ってもありませんんわ」
もと子「ありがとうございます。あっ、奥さんちょっとあれ見といてください」
敬子「なんでしょう?」
平べったい箱と細長い箱が並んでいる。
もと子「こういう物をね、骨組みのてっぺんに飾るんですけどね。あとからご主人に書いていただこうと思いましてね。きれいなもんでしょ、ほれ」
敬子「へえ」
もと子「で、これをね、いろいろ、こう飾りつけてここへこうつけるわけなんですよ、ねっ? そしてここにね、祝う棟上げと書きまして、そしてここに日付を書きますね。そしてここにお名前の中西雄一郎と書いていただいて屋根裏にちゃんと打ちつけるわけですよ」
敬子「へえ、そうですか」
もと子「するとね、何年たちましても、そこさえ見ていただけば、どなたが建てたかすぐ分かるようになってますの」
敬子「拝見」←敬子が見てるのが”ぼんでん”ってやつね。
もと子「どうぞ、きれいでしょ? でも大変でしょうね。お若いのによくやりましたねえ」
敬子「もうどのくらい出来てるでしょう?」
もと子「そうですね。まだ3時間か4時間はかかるでしょうね」
敬子「主人、早引きして向こう行くはずなんですよ」
もと子「いや、ご覧になりたいんですよ」
敬子「でも、大工さんのご迷惑かしら」
もと子「いいえ。誰だってご自分の建て前はうれしいもんですよ。いえね、もう家族中で午前中からウロウロしてる方もいるんですよ」
敬子「まあ!」笑う。
中西家 建築現場
中西が来ていてケースに入った6本入り瓶コーラを上にいる新次郎たちに引き揚げてもらう。
新次郎「ああ、どうもすいませんね」
堀田「ありがたいね。冷たい物なんぞは」
中西「いやあ、めったに現場へ来られませんからね。来たときぐらいサービスしますよ」
堀田「いやあ、どうもどうも」
下にいる健一。「俺のもいいよ」
大工「どうもどうも」
中西は瓶ビールを一気に2本開けて1本を健一に渡す。「やんなさいよ」
健一「ああ、どうもありがとう」
しかし、健一と中西の前に上から材木が落ちてきた。
大工「あっ、危ねえ! バカ野郎、しっかり縛らなきゃダメじゃねえか、この!」
堀田「ボヤボヤすんじゃねえぞ、健坊!」
新次郎「ダメじゃないか、気をつけなきゃ」←やっぱり言い方優しい。
健一「ああ…すいません!」
堀田「あねさん、遅(おせ)えなあ。しょうがねえな。野地板打ったらおしまいなのになあ」
中西さんも材木を運んだり、手伝ってる。
新次郎「健坊!」
健一「はい!」
新次郎「それ上げたら、お前もちょいと上がってこい」
健一「えっ? いいんですか?」
新次郎「ああ。初めての建て前だ。野地板の5~6枚打ってみろ」
健一「すいません!」
中西「新さん」
新次郎「なんすか?」
中西「健一君、大丈夫ですか? 上がって」
健一「大丈夫ですよ」
堀田「ハハハッ。健坊、信用ねえな、まだ」
新次郎「私ら見てるから大丈夫ですよ」
中西「はあ」
堀田「中西さん、健坊が打ったとこから雨が漏れやしねえかと思って心配してんじゃねえですか?」
中西「いやいや、そういうわけじゃないけど。(健一に)そういうわけじゃないんだよ」
健一「あっ、いや…さっき材木落としたし、信用がなくてもしょうがないよ」
中西「危なくないかと思ってさ」
健一「すいません。でも気をつけますから」
中西「そう。じゃあ、気をつけてね」
健一「ええ。さあ、野地板いいですよ」
堀田「あいよ!」野地板を引き上げる。
健一「俺も上がります」
新次郎「おう!」
タクシーで現場に向かうもと子と敬子。それにしても手ブレがすごい。タクシーが止まり、後部座席からもと子が顔をのぞかせる。「あらあら、あらあら…健坊!」
釘を打つ健一。
もと子「健坊、初日から屋根上がるヤツがあるか」
堀田「あねさん遅いよ!」
健一「母ちゃん遅いぞ!」
もと子「調子に乗って落ちるんじゃないよ」
笑う堀田。
健一「チェッ! ホントにうるせえんだから、もう」
隣にいる竜作が健一をチラ見。
もと子「大丈夫か? ホントに」
健一も竜作も新次郎も堀田も口にくぎを加えて一心に打つ。
竜作が上(1階天井?)にぼんでんや角樽を並べて降りてきた。
堀田「じゃ、新さん」
新次郎「えっ? いや、私は祝詞はできませんよ」
堀田「分かってるよ。そんなこたあ」
新次郎「それじゃ」と上へ。
もと子「棟梁が1人上がって拝むんですよ」
堀田「新さんも1人で上がるのは今度が初めてだからね」
中西「ああ…」
新次郎がかしわ手を打つ。
ふと寂しげな表情を浮かべるもと子を見つめる健一。
骨組みが出来た家の中で中西夫婦が立ち、大工たちが囲んで拍手。ここから急に周りの風景がセットというか絵(?)になった。
中西「どうも皆さん。今日はホントにご苦労さまでした。え~、私と女房は何年も団地に当たるか自分の家を建てるまでは子供をつくるのを我慢しようといろいろ無理な貯金をして頑張ってきました。自分の家の建て前をするというのが何年もの間、私たちの夢でした。皆さんのような気持のいい職人さんに恵まれたことはホントに幸せだと半日ご一緒して心から喜んでいます。どうぞ、あの…粗末な料理ですが、召し上がってください。ありがとうございました」
拍手
う~ん、すばらしい夫婦だな。
堀田「じゃあさ、新さんからいこう、一杯」
新次郎「いやいや、それは旦那からいかなくちゃ」
中西「どうぞ。棟梁からどうぞ」
新次郎「いや、あの…今日、私、車なんですよ、残念ですけど」
堀田「あっ、そうか。車ってもんがあったな」
木下恵介アワーは日産一社提供だったらしいから、昭和中期でも飲酒運転はNG。
中西「ああ、しかし今日はホントに気持ちよかったな」
堀田「くたびれたでしょう?」
中西「いやいや」
堀田「ねえ、あねさん。この旦那がよく働くんだ」
みんなお酒が注がれたことを確認し、もと子が敬子に乾杯の音頭を頼む。
敬子「えっ? 私がですか?」
もと子「だってご苦労なさったの奥さんですもの。ねっ? 中西さん」
中西「あっ…ハハハッ。そういうことにしときますか」←そういう謙遜?いらん。
敬子「まあ」
堀田「景気よくお願いしますよ」
敬子「じゃああの…うちの建て前もですけれど、新さんが初めて棟梁になられたって聞きましたし、健一さんが大工になられて初めての建て前だそうですし、そういうことも一緒にお祝いして乾杯したいと思います」
もと子「それからもう一つ。竜作さんがうちへ来て初めての建て前でございます」
竜作「いやあ…」照れる
堀田「この建て前は全くめでた尽くしだ」
敬子「じゃあ、どうもご苦労さまでした。乾杯!」
健一たち「おめでとうございます」
健一はさすがにオレンジジュースかな。もと子と顔を見合わせて笑顔。
堀田の木遣り唄が流れる…ってさすがに口パクっぽい。
健一が隣に座る竜作に酒を注ごうとするが、竜作は自分で注ぐと一升瓶を持った。
竜作「なんだい、怒らねえのか?」
健一「俺だってそう怒っちゃいらんねえよ」
竜作「そうかい」
心配そうに様子をうかがっていたもと子も笑顔になる。健一が竜作の家庭事情を知ってのことだと分かったら怒りそう。
夜、尾形家
仏壇に手を合わせるもと子と健一。「めでたい、めでたいってあんなに言われちゃいい気持ちしなかったろ?」
もと子「そんなことないよ。建て前はめでたいに越したことないもん」
健一「父ちゃんの建て前、ちっちゃいとき二~三度行っただけで、それっきり見ずじまいだったな」
もと子「派手なことの嫌いな人でねえ。でも今日のとあんまり変わらなかったよ」
健一「ふ~ん」
もと子「ねっ? 父ちゃん。やっぱり頭が今日みたいに大騒ぎして、あんたは黙ってニコニコ笑ってお酒飲んでたわね」
健一「そう」
もと子「フフッ。ハァ…さあ、もう寝ようか」
健一は肩もんでやるよと肩を揉み始める。(つづく)
何度か書いてきたことだけど「あしたからの恋」から「たんとんとん」だとキャスト一新してる感じがするけど、放送順の「あしたからの恋」→「二人の世界」→「たんとんとん」だと意外と連投キャストはいる。
「二人の世界」→「たんとんとん」
スナックトムの客(21話)→磯田
スナックトムでアルバイトする若い女性(26話)→朝子
スナックトムの初めての客のアベック(20、22話)→ゆり子
敬子が働いていた会社社長(14、19話)→安さん
敬子が働いていた会社の課長(15話)→建重
二郎の父(5、13、26話)→町田
5話で出てきたキャバレーのボーイの真崎竜也さんも3、12、25話に出演(何の役だったか?)、ホステスの長沼美枝子さんも25話出演。みんな役名もないような役だけどさ。
今回ようやく気付いたのは
スナックフジのマスターの妻(10、11話)→敬子
麗子が近所で夫婦でやってるスナックがあると知って見に行ったのがスナックフジでそこの奥さんだったね。
敬子役の井口恭子さんはずっと女優活動を続けていて「やすらぎの郷」にも出演していた。やすらぎクリニックの看護師だそう。近藤正臣さんはゲスト扱いだけど何回か出てたし、共演シーンはないだろうけど、へえ~と思った。
思えばいろんな人が出てたね。
「おやじ太鼓」建設会社→「3人家族」→会社員→「兄弟」会社員→「あしたからの恋」和菓子屋→「二人の世界」会社員からスナック経営→「たんとんとん」大工と自営業者が主人公になるのって時代の流れなのかな?