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ドラマの感想など

【ネタバレ】別れて生きる時も 第十章「孤独の影」その二

TBS 1978年1月17日

 

あらすじ

前科者の娘と知って愛してくれた石山(速水亮)が理由も告げずに去った。絶望した美智(松原智恵子)は小野木(伊藤孝雄)の求婚を受け入れた。が、小野木の性格は異常だった。美智を家にとじ込めて友人とのつき合いも禁じた。夫を愛そうとした美智だったが、彼が卑劣な手段で石山との間を裂き、その上、母をだまして満州に行かせたことを知って、美智は家を出た。

愛の花

愛の花

  • provided courtesy of iTunes

2024.8.30 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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小野木美智:松原智恵子…字幕黄色

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井村さき:津島道子

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堀井陽子:種谷アツ子

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ナレーター:渡辺富美子

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小野木宗一:伊藤孝雄

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

ラジオから「壺坂霊験記」が流れている。このドラマでラジオから曲が流れる演出って10話にして初めてじゃない!? 

 

♪頃は六月 中の頃

夏とはいえど片田舎

壺坂霊験記

壺坂霊験記

  • 浪花亭綾太郎
  • 演歌
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

木下恵介アワーでも時々出てきた曲。

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亀次郎や鶴吉が一節歌う。

 

店の奥の机に寄りかかってうたた寝しているさきを起こさずに見ている小野木。

 

♪木立の森も いと…

 

小野木「おばちゃん」肩を軽くたたく。

さき「あっ…ハハハハッ。いや~、小野木はん、こら、お珍しい」

小野木「どや? あんじょうやっとるか」

さき「まあ、あんじょうやってるわけおへんやろ。もう何もかも小野木はんが言わはったとおりになってきましたわ。だんだんお菓子が出回らんようになってきたさかい、もう、うちらの商売、あがったりどすわ。ハハハッ」

 

小野木「早いとこ商売替えするこっちゃな」店のラムネを勝手に手に取る。「大体、今年いっぱいで食い物(もん)ちゅう食い物は、みんな配給制度になるさかい」

さき「商売替えするっちゅうたって、うちらではな…小野木はん、その節は、あんじょう頼んますさかいに」

小野木「ハハハッ、おばちゃんには、いろいろお世話になってるさかいな。ああ、止めてくれ」自分でラムネを開けて飲み始める。

 

さきはラジオを消した。「そりゃそうと、みっちゃん、お元気どすか?」

小野木「ああ、なんとかな」

さき「みっちゃんによう言うといておくれやすな。お嫁に行ってから、全然、お見限りやさかい、おばちゃん怒ってたって。いっぺんぐらい顔見せてくれてもよさそうなものを」

小野木「なんや、あいつ、体の具合が悪うて、外、出歩くのしんどいらしいんや」

さき「へえ、そうどすか。そら、あきまへんなあ。小野木はん、あの…ご住所教えてもらえまへんやろか?」

小野木「住所? 俺の住所聞いてどないすんねん」

さき「いっぺん、みっちゃんの顔、見に行きたい思うてますねん」

小野木「ああ…そら、やめといたほうがいいわ」ラムネを飲みながら、店の外へ出て玄関の表札を見る。「ほう、今度の間借り人、高見澤っちゅうんか」←”高見”じゃなくて”高見澤”だったか。

 

さき「小野木はん。なんで、みっちゃんに会(お)うたらあかんのどす?」

小野木「ああ…あいつ俺ん所来てから、急に暮らしが楽になったもんやさかい、ここで貧乏暮らしをしとった自分のことは思い出すのもイヤやっちゅうとるわ。そやさかい、おばちゃんが会いに行っても、けんもほろろと違うやろか」

さき「まさか、あのみっちゃんが…」首を傾げる。

 

みっちゃん、自分でも働いてたし、お母ちゃんだって家賃3か月前払いするほどのお金はあったし、貧乏暮らしって程じゃないだろ~。そういえば、あの父ちゃん、娘に金をせびったりもしなかったな。

 

小野木「ハハハハッ。俺みたいな木っ端役人の女房のくせに、まるで偉いさんの奥さんになったような気でおるよって、俺のほうが手ぇ焼いてるぐらいや」

さき「ふ~ん、あのみっちゃんがな…」

 

小野木「そりゃそうと、あいつ、2階におった大学生、なんぞ便りあるんか?」

さき「それがな、この前、ひょっこり訪ねてきはりましたんどす」

小野木「この前? いつのことや?」

さき「この月初めやった思います」

小野木「月初め?」

さき「うちの2階出てから、体壊して、ずっと信州へ帰ってはりましたそうで」

小野木「うん。それで、あいつ今どこに住んどるんや?」

さき「『今度は大学の寮にお世話になります』そない言うてはりました」

小野木「一体全体何しに来たんや? あいつは」

さき「うちの2階にいたころが懐かしいて、そない言わはって」

 

小野木家

美智「この月に入ってから?」

小野木「そや。この月に入ってから誰ぞ訪ねてこなんだか?」

美智「誰も来はらしまへんえ。いつか陽子ちゃんが訪ねてきてくれはったのと、それから隣の奥さんが何べんか、それだけどす」

小野木「ほんまやろな? 胸に手ぇ当てて、よう考えてみ」

美智「ほんまどす。誰ぞ大事なお客さんが来はることになってましたん?」

 

小野木「お前はどこにも出かけなかったんやろな?」

美智「へえ、うちはどこにも…ただ、お買い物に行くだけで、なんぞあったん?」

小野木「お前…なんぞ俺に隠してることがあるんやないやろな?」

美智「どないしはったん? そんなイライラしはって」

小野木「ええか、美智。どんなこまいことでも俺に隠し立てすんなよ。どんなことでも包み隠さず、ちゃんと俺に話すんだ。ええな?」

 

美智「あんた、どうかしたんやおへんか? なんでうちがあんたに隠し事せんならんのどす? うちはただのいっぺんでも、あんたに隠し事した覚えはあらしまへんえ。そんなこと言われたら、なんや情けのうなってきます。うち、これでもあんたのええ奥さんになろう、そない思うて一生懸命努めてきたつもりどす。それやのにわけも分からんような疑いかけられたら、うちの立つ瀬がおへんやないの」

小野木「いや、そうやない。別にお前を疑ってるんやない。ただ、世間には根も葉もないことを言うヤツが大勢おるよって、気ぃつけなあかんちゅうこっちゃ」美智の手を握りながらしゃべる。

 

美智「うちのことでなんぞありましたん?」

小野木「そういうわけやないけど…うん…まあ、ええ。この話は、これっきりにしとこう。うん? あっ、お茶入れてくれ」

美智「ええ」

 

翌朝、弁当を詰めている美智。ネクタイを結びながら美智を見ている小野木に「もうすぐ出来ますさかい」と声をかけた。場所を変えてもなお美智を見ている。

 

小野木「ああ、そや。お前に言うとくの忘れとったな。今夜、役所の会合で遅くなるよって、晩ご飯、いらんさかい。なんやったらお前、先に寝てたらええわ」詰めたばかりのお弁当を薄いカバンにそのまま立てて入れる。ひ~、汁が…

 

美智「そんな遅うなりますの?」

小野木「うん…帰るのは終電車ギリギリやろな。ほな、行ってくる」

美智「あっ、気ぃつけて」

小野木「あっ、鍵は忘れんよう、きちんとかけとけ」

美智「はい」

 

配達員「小野木はん、速達でっせ」

美智「はい」

配達員「小野木美智さん、こっちやな?」

美智「ええ、うちどす」

配達員「はい」

美智「ご苦労さんどす」

 

配達員役は顔も出てセリフもあるのにノンクレジットなのね。

 

葉書を受け取った美智は玄関の鍵を閉め、読み始める。

 

陽子の手紙

「結婚式には来てくれるて、あんなに固い約束をしてくれたのに、とうとう来てくれへなんだな。えらい恨んでるさかい。うちな、お伊勢さんに新婚旅行に行って帰ってきたとこなんやけど、結婚式の気疲れが出たんやろか、ここんとこ病人みたいに寝込んでしもうて、大したことはあらへんのやけど、毎日退屈してるさかい、いっぺん遊びにきてほしいわ」

 

<今日は遅くなると言った小野木の言葉が、実は美智と石山への疑惑におびえる小野木の罠であったことを美智は気づくはずもなかった>

 

美智はハガキの住所を見ながら陽子の家を訪ねた。「ごめんやす」

 

陽子「みっちゃん!」

美智「陽子ちゃん…なんや、えらい元気そうやないの」

陽子「病気は病気なんやわ。心の病いうのんかもしれへん」

美智「心の病?」

陽子「うん。でも、よう来てくれてうれしいわ。さあ、早(はよ)う上がって」

美智「お邪魔します」

陽子「さあ、どうぞ」

 

明るいうちに帰ってきた小野木は玄関に鍵がかかっていることに気付き、イラつく。

 

お茶を運んできた陽子は庭を見ていた美智に声をかけた。「みっちゃん、どうぞこっちへ」

美智「おおきに。ええうちやなあ。陽子ちゃん、あんた、幸せな人やわ」

陽子「ちっとも幸せなことあれへん。嫁入り道具持って里に帰ってしまいたいくらいやわ」

美智「なんで?」

陽子「男の人って結婚した途端に急に態度ががらりと変わってしもうて、なんや、だまされたいう気がしてしょうがあらへんね。これやったら、お嫁に行くいうことは、まるで色町のおなごはんみたいにさせられたあげくにタダで旦那さんの身の回りの世話を焼かされてるようで損やないの」

 

美智「そやけど、陽子ちゃん。ご主人のこと好きやったんやろ? 愛してたんやろ?」

陽子「全然」

美智「ほな、なんでお嫁に来たん?」

陽子「親があんまりうるさいさかい、親孝行のつもりで来たんやけど。は~あ、今更、親の所に帰るわけにもいかへんし」

美智「そんなに嫌いな人やの?」

陽子「特別に嫌いでもないんやけど、やっぱり幻滅やわ」

 

美智「陽子ちゃん、うちな、こない思うわ。世の中には、ぎょうさんの夫婦がいはるなあ。そやけど、みんながみんな初めから愛し合(お)うてる夫婦なんていうのは、ごくまれやないやろか。現実の世の中は小説や映画のようにはいかへん。そやさかい、長い年月(としつき)のうちにだんだんとほんまの夫婦の情愛というもんが生まれてくるんやないやろか。うちはそれを信じたい思うてるんやけど」

陽子「みっちゃんは幸せやから、そんなふうに言えるのんえ」

美智「ううん。うちかて陽子ちゃんとおんなじやわ。ただ辛抱してたら、いつか幸せになれる、そな思うて」

 

暗くなって帰宅した美智が鍵を開けて家に入ると、外から小野木が歩いてきた。

美智「帰ってはったんどすか?」

小野木「ああ」

美智「すんまへん、帰りが遅うなる言うてはったさかい、陽子ちゃんのお見舞いに」

 

無言で家に入った小野木は部屋の明かりをつけ「ウソつけ!」と怒鳴り、美智を平手打ち! 「初めから試したんや。俺が遅うなる言うたら、お前はきっと俺の目盗んで石山に会いに行くに違いないとな」

美智「石山はん?」

小野木「どこで会うてきた? 今まで何べん会いに行った?」

美智「そんなことおへん。ほんまに…」

小野木「正直に言わんかい!」襟元をつかんでゆする。美智が苦しそう。

美智「陽子ちゃんのお見舞いに…」

 

また殴って、倒れた美智に馬乗りになる小野木。「言え! 言わんかい!」

美智「よしておくれやす。ほんまどす。あんた、よしておくれやす。やめておくれやす、やめておくれやす…ほんまどす、ほんま…ハンドバッグの中…」なんとか起き上がり、陽子から来た葉書を手渡す。

 

ようやく暴力はおさまったが、美智は泣き崩れた。

 

⚟小野木「ごめんください」

 

陽子の家を訪れた小野木。陽子は小野木の顔を知らないので、玄関の戸から顔を見てもピンと来ない様子。

 

小野木「あの…堀井さんの奥さんで?」ニッコニコの笑顔。距離、近くないか!?

陽子「そうどす。あの…どちらはんで?」

小野木「私、小野木と申します」

陽子「あっ、みっちゃんのご主人」

 

小野木「ハハハハッ、家内がいつもお世話になりまして」

陽子「さあ、どうぞ。どうぞ、お上がりに」

小野木「いやいやいや、ここで。ちょっとお尋ねしたいことがおますよって。昨日、うちの家内、お宅にお邪魔しましたやろか?」

陽子「ええ。おみえになりました」

小野木「それで、何時ごろ来ましたやろか?」

 

陽子「さあ…2時過ぎやって思いますけど。みっちゃん、なんぞ?」

小野木「ああ、いやいや。それで何時ごろまでお邪魔しましたやろか?」

陽子「うちの主人と一緒に晩ご飯済ませて帰らはったさかい8時ごろやって思います」

小野木「お宅のご主人とご一緒に…」

陽子「ええ」

 

小野木「お宅のご主人、どちらのほうにお勤めですか?」

陽子「大日本飛行機の高槻工場に出てますけど」

小野木「ほうでっか。ほな、うちの家内は8時過ぎにおいとましたっちゅうこってすな」

陽子「そうどす。あの…みっちゃん、なんぞありました?」

小野木「ああ、いやいや…どうもいろいろお尋ねさしてもらいまして。ほな、これで失礼さしてもらいます」

陽子「ええ」

 

なんとなく小野木の様子がおかしいことに気付いた陽子は小野木の家へ向かう。「ごめんください! みっちゃん、うち、陽子よ。みっちゃん、いはらへんの?」

 

左頬にあざが出来た美智は初めは無視していたが、玄関に出た。

 

陽子「あっ、みっちゃん。さっき、ご主人がうちに来はってな。なんぞあったんと違う? みっちゃん、どないした? その顔」

美智「ううん、ちょっとぶつけて…どうぞ」

 

陽子「みっちゃん、あんた、たたかれたんやろ?」

美智「お茶入れるわ」

陽子「みっちゃん。うちにだけは、ほんまのこと言うて。なっ、親友やろ?」

泣き崩れる美智。

陽子「あんまりやわ。みっちゃんの旦那さん、なんで暴力振るうの? なんでやの?」

美智「うちがあかんことしたから」

 

陽子「そやかて、あんまりひどすぎるやないの。今日、うちに訪ねてこられたとき、きっとなんかあったんやないかって、そないな気がして」

美智「心配かけて堪忍え。いつか陽子ちゃんに聞いてもらうときもあると思うけど、うちは主人にこんな目に遭わされてもしょうがないような過ちを犯してるさかい。座って」

陽子「うん」

 

お茶セットを机に置いた美智。

陽子「うち、いつか小川課長はんが言うてはったことがやっと分かったような気がするわ。こないなこと言うて、みっちゃんには悪いかもしれへんけど、みっちゃんほどの人がなんであんな人と結婚するのか、ちっとも分からへんて。そない言うのも小野木はんいう人、7~8年前にいっぺん奥さんに逃げられたんやてな」

驚く美智。

陽子「もちろん、みっちゃんは遠い親戚になるいう話やから、そういう事情は承知してるのかもしれへんけど、みっちゃんをあんな男の後妻にするのは、もったいのうてかなわんて、小川課長はん何度も何度も言うてはったわ。みっちゃん、堪忍え。ご主人のこと、こないな言い方して。そやけど、あんまり気色の悪いことやさかい。うち…」

初めて聞いた話にショックを受ける美智。

 

小川課長はんも散々、小野木はんに融通してもらっただろうに、よく言うなあとも思ったけどね。

 

夕方、寺の鐘の音が聞こえる。

 

玄関の戸をノックして美智!と呼びかける小野木。鍵は開いており、美智はぼんやり座っていた。

 

小野木「ハァ…なんで鍵かけとかんのや? いつも言うとるやないか」明かりをつけてゆっくり美智に近付く。「美智、済んだことはいつまでも気にせんでええ」左頬のアザに手をやる。「そら、ぶったのは悪かったかもしれんけど、もといえば、お前のことが好きで好きでたまらんさかい」肩を抱く。「顔見せんか。何、泣くねん?」

 

美智「ゆうべのことは、うちが悪かった。そない思います。そやけど、悪気があって、あんたに隠し事するつもりは、これっぽちもあらしまへん。そやさかい、あんたもうちになんでも話してください。あんたに前、奥さんがいはったことも、うち、気にしまへん。そやけど、人から聞く前にあんた自身の口から聞きとうおした」

小野木「誰がそんなことしゃべったんや? そやけどな、お前。それくらいのことで俺を責めよう思うたら大間違いやで。そんな大きな口、利ける身ぃかどうか、よう考えてみ。貧乏学生に捨てられて、死に損なってるのを助けてやったあげくにやな、女房にまでしてやったんや。前科者(もん)の娘やっちゅうことには目ぇつぶってな。それ考えたら…」

涙があふれる美智。

 

小野木「早う飯にせんか!」←すぐ怒鳴るぅ!

 

<美智は、このとき初めて小野木との結婚に暗い影を見たように思った>(つづく)

 

この時代、お役所勤めで外面がよく、見た目も悪くない小野木はんは何度も結婚出来たんやね~。ただ、おかしなところは周りにはバレてたっぽいが。

 

陽子も悩んでいたみたいけど、陽子のほうも解決したかな? もう2週目も終わったんだね(リアルタイムだと3週目の途中)。早う小野木から逃げて!