TBS 1978年2月2日
あらすじ
美智(松原智恵子)は小野木(伊藤孝雄)から逃れて転職した横浜で、井波(中野誠也)と親しくなった。思想問題で大学中退の彼は出版社員で、松本(織本順吉)の印刷所で顔見知りだった。美智は物静かで誠実な彼にひかれた。前科者の父と小野木のことがあるためあきらめねばと思う。が、井波はすべてを承知で美智に求婚した。二人は松本の仲人でささやかな祝言をあげた。
2024.9.17 BS松竹東急録画。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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塩崎美智:松原智恵子…字幕黄色
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井波謙吾:中野誠也
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吉岡俊子:姫ゆり子
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大垣:長島隆一
のぶ江:岸井あや子
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管理人:西沢武夫
吉岡純子:神林由香
ナレーター:渡辺富美子
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小野木宗一:伊藤孝雄
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:今井雄五郎
前回の振り返り
水門の前に呼び出された美智。
井波「突然、お呼び立てして…」
美智「井波さん、どうかされたんですか?」
井波「実は、ちょっと塩崎さんにお話ししたいことがありまして。ほんとはもっと時間と場所を選んでからお話しすべきだったのかもしれませんが、僕はせっかちなもんですから。塩崎さん、僕と結婚してくれませんか?」
美智「結婚?」
井波「そうです」
ここまでが前回
何も答えられない美智。
井波「突然、こんなこと言ったりして、びっくりされたかもしれませんが急に今日、思いついたことじゃないんです。前から…前から考えていたことなんです」
石山はんも言ってたけど、前からって言われると、そうだっけ?って思っちゃう。
<井波の求婚は美智にとって全く思いがけぬことだった。そのことを前から考えていたという井波の気持ちに美智が気づくはずもなく今の美智は返す言葉もないまま、ただ動揺するばかりだった>
水門の脇の階段を降りるシーン、まさにこの角度!
河原を歩く2人。
井波「この前、塩崎さんを一度、僕の郷里の家にお呼びしたいって、そう言いましたね。あのとき、本当は塩崎さんを僕の両親に会わせたかったんです。というより会ってほしかったんです。そうすれば、僕がどんな人間か分かっていただける。そう思ったからなんです。でも、あのときは、そこまで言えませんでした。僕は思想犯として検挙されたという過去があり、そのために定職にも就けない僕に果たして塩崎さんを幸せにする力があるのかどうか疑問もありましたし、自信もありませんでした。でも、思想犯でも怖くないって、そう言いましたね」
うなずく美智。
このシーン風が強くて、美智の和服の裾がめくれるのを手で押さえながらのお芝居。
井波「塩崎さんのその言葉に力を得たのかもしれません。なんとなく、きっと塩崎さんを幸せにしてあげられるかもしれないって、だんだんそう思えてきたんです」
困惑している美智。
井波「塩崎さん、分かっていただけますね? 僕と結婚してください」
美智「…」
井波「塩崎さん」
美智「井波さん、お願いですから、これ以上何もおっしゃらないでください。私は井波さんのこと大変尊敬しております。それだけじゃありません。私のような者にお目をかけていただいて、ほんとにありがたいと思っております。でも、井波さんは私のことを買いかぶっていらっしゃるんですわ。私は井波さんの奥様になれるような、そんな人間じゃないんです。井波さんにふさわしい方は、ほかにいくらでも…」
井波「塩崎さん」
美智「お願いですから、それ以上、何も…正直言って、井波さんからこんな優しい言葉を頂いて、とってもうれしいんです。でも…」
井波「塩崎さん、あなた、ご自分に厳しすぎるんじゃありませんか? もし、障害になるようなことがあったら、なんでもおっしゃってください。僕はどんなことがあっても…」
美智「井波さん、私は一生結婚しまい。そう誓いを立ててます。意固地だとお思いになるかもしれませんけど、この誓いをも待っていくほかに自分の生きる道はない、そう思っております。井波さん、生意気なこと言うようですけど、どうか悪くおとりにならないでください。お願いします」
じっと美智を見る井波。「分かりました。もう何も言いません。でも、これだけは覚えといてください。僕は塩崎さんの考えが変わるのを待ってます」
井波に背を向け泣き出す美智。
<その夜、美智は遅くまで寝つくことができなかった。やはり、井波への思いが断ち切れなかったせいもあったろう。しかし、井波の求婚を断ったことには、なんの悔いも残っていなかった。京都にいたころ、父親の前科が原因で石山が自分から離れていったことを思うと、自分が背負っている暗い秘密を井波に告白する気にはなれなかったし、それ以上に井波に対して残酷であるような気がしてならなかったからである>
ええ~? 石山はんは美智の父親のことは知ってたし、そうじゃなく小野木がウソついて許婚だと言ったからじゃない!? まあ、裁判官を目指す石山には結果的には美智の父のことは引っ掛かっただろうけど。
朝、吉岡家
学校へ行く準備をしている純子と手伝う俊子。
純子「今日からおねえさん、会社に行くんでしょ?」
俊子「そう。でも大丈夫かしらね、塩崎さん」
純子「平気よ、病気なんて。今度の日曜日に公園に連れてってくれるって言ってたもん」
俊子「ふ~ん」
純子「いってきま~す」
俊子「はい」
昭和の子役って坂上忍さん、松田洋治さん並みにうまい人はレア。でも「岸壁の母」の小学生新二もまあ、うまいほうだよね!? 純子ちゃんはかわいい子役。
美智「純子ちゃん、途中まで一緒に行きましょうか」
俊子「塩崎さん、大丈夫? 病み上がりなんですから気をつけてくれないと」
美智「はい、分かってます。いってきます」
俊子「いってらっしゃい」
美智は青いスーツで東横工藝印刷へ出勤。「おはようございます」
のぶ江「あら、塩崎さん。あなた、もう大丈夫なの?」
美智「はい。心配かけてしまいまして、すいませんでした。もうすっかりよくなりましたから」
のぶ江「でも、あんまり無理しないでちょうだいね。また松本さんに叱られちゃうからさ」
美智「ホントに大丈夫なんです。長いこと休ませていただいて、ご迷惑かけてしまいましたから、これから頑張ろうと思ってます」
大垣「塩崎さん」
美智「あっ、おはようございます。お見舞い頂いて、ほんとにありがとうございました」
大垣「いいんだよ。そんなこと気にしなくたって。うちが塩崎さんを病気にしちゃったようなもんだから。当分は体、第一でいってもらわなきゃね」
美智「はい」
のぶ江「あっ、そうそう、塩崎さんね。つい2~3日前だったけど、お友達からお電話があったわ」
美智「お友達? なんていう方ですか?」
のぶ江「あ~、うっかりして名前聞くの忘れちゃったけど女の人だったわよ。病気で休んでるって言っといたけど」
美智「はあ」
のぶ江「手紙を出したいから住所を教えてくれって言われたんだけど、分かんないって返事しといたの。塩崎さんの住所、誰にも教えないことになってるから」
俊子が買い物から帰った後ろ姿を見ている…小野木ー!
駅で井波に再会した美智。前に井波が吉岡家に行ったときも辺りが真っ暗だったけど、駅構内も暗いね~。
美智「井波さん」
井波「どうしたんです? こんな時間に」
美智「今日から出勤なんです」
井波「出勤はいいけど、こんな遅くまで残業じゃ体に障りますよ」
美智「今日は仕事じゃないんです。私の全快祝いに大垣さんがお食事をごちそうしてくださって、こんな時間になってしまったんです」
井波「そうですか。そんならいいけど、自分の体は自分で気をつけなきゃね」
美智「はい。ありがとうございます。井波さん、今日も夜間中学ですか?」
井波「いえ。実は今日、会社の同僚に召集令状が来ましてね、いろいろ話し合ってたもんですから…」
美智「召集令状?」
井波「ええ。そのことで塩崎さんにお話ししたいことがあるんです。よろしいでしょうか?」
美智「はい」
帰り道
井波「このままだと日本がアメリカやイギリスを相手に戦争するというのは、もう時間の問題ですね。今日、召集令状が来た同僚っていうのは、僕の大学の1年先輩で僕を有信書房に紹介してくれた人なんですが、婚約者がいましてね。来月、式を挙げることになっていたんです。彼はそのことで真剣に考えていました。どうしたらいいだろうかって。すぐ戦場に駆り出されていくんじゃ、結婚したって形だけになってしまう」
美智「でも…」
井波「なぜって、戦争に行くということは単に離れ離れになるということだけじゃなく生きて帰れるかどうかも分からないことでしょ? だって、戦争っていうのは人と人との殺し合いですからね。はっきり言えば、そういうことでしょ?」
美智「…」
井波「ですから…ですから、僕なら結婚しません。塩崎さん、この前、あんなことを言いましたけど、今では言わなければよかったって、そう思ってるんです。僕だって、いつか召集令状が来て戦争に駆り出される身なんですからね。そしたら生きて帰れるかどうかも分からないんです。それなのに、大体、僕にあんなことを言う資格なんてなかったんですよ。結婚してほしいなんて。ですから、僕が言ったことは、みんな…みんな、なかったことにしてほしいんです。結婚のほうは断られたからいいようなもんですけど、僕はあのとき、いつまでもあなたを待ちますって言いましたね。考えてみれば、あれも全く無責任な言葉だったと思うんです。ですから、みんななかったことにしてほしいんです」
目を潤ませる美智。
井波「すいませんでした。うちまでお送りしましょう」
吉岡家前
井波「じゃあ、おやすみなさい」
美智「…」
井波「塩崎さん。握手していただけませんか?」
潤んだ目で井波を見た美智は首を横に振る。「私、イヤです。今日の井波さん、お友達に召集令状が来たことで興奮されてるせいか、なんだかとても考えすぎてらっしゃるような気がするんです」
見つめ合う2人。
美智「おやすみなさい」
井波は帰ろうとするが、振り返り、美智の部屋の明かりがつくのを見ていた。
<井波が自分に握手を求めたのは一体どういう意味なのか。もう二度と会わないという決別を意味しているのだろうか。美智は今ほど井波を身近な人に思ったことはなかった。できることなら、あらゆる障害を乗り越えても井波の妻になりたい。美智はそう思ったのである>
井波の帰り道をつける…小野木ー!
第二やよい荘
管理人室に頭を下げる井波に管理人が「手紙来てますよ」と渡した。
井波「あっ、すいません」
管理人「はい」
井波が部屋に入っていったのを見ながら管理人室前へ。「おじさん」
管理人「えっ?」
小野木「あの…今、行かはった人、なんちゅうお方どす?」
管理人「井波さんのことですか?」
小野木「井波…」
管理人「うん」
小野木「あの人、どこにお勤めになってはりますんや?」
管理人「どこにお勤めって…あんた、一体、誰?」
小野木「…」
管理人「あっ、警察のお方ですか?」
小野木「ああ…」とあいまいに返事をしつつ、外へ。「警察のお方?」
東横工藝印刷
のぶ江がかかってきた電話に出た。「はあ、塩崎さんですか? ええ、今日は来てますけど…少々お待ちくださいね」と仕事していた美智を呼んだ。
美智「私にですか?」
のぶ江「ええ、女の声だから、お友達じゃないの?」
美智「ちょっとすいません」
美智が電話に出た。
喫茶店
ウエートレス「あの…ちょっとお待ちください。(小野木に)女の人出ましたよ」
小野木がゆっくり席を立ち、受話器を持つ。
美智「もしもし、どなたでしょうか? もしもし? もしもし?」
久々に美智の声が聞けて、目を見開く小野木。
東横工藝印刷
美智「もしもし?」受話器を置く。
喫茶店
小野木も受話器を置いたが、静かに興奮してる感じ。
<小野木の黒い影が刻々と近づきつつあることをもちろん美智は知るすべもなかったが、美智はどこか心の片隅でそんな予感がしてならなかった。しかし、今の美智の思いは、そのことになかった。井波がいつかは戦争に駆り出され、生きて帰ってくることができないかもしれない。だから、美智との結婚は諦めると、そう語ったときの言葉が、いつまでも美智の心を捉えて離さないのであった>
美智と純子がかごめかごめを歌って歩いている。この歩いている公園の木が茂ってるカットがオープニングタイトルが出てるところに見える。
♪かごめ かごめ
かごのなかの とりは
いついつ でやる
よあけのばんに
つると かめが すべった
うしろのしょうめん だーれ
美智「つかまえたわよ、純子ちゃん。フフッ」
手をつないで純子と歩いていた美智。
小野木「おい」
背後の木の影から小野木登場。「美智」
近づく小野木に純子が少し後ずさる。
小野木「子供は先に帰してしまえ」
美智「純子ちゃん、おねえさん、ご用があるから先に帰ってくれる? おねえさん、すぐ先に帰りますからね。いいわね? 分かったわね?」
小野木をじっと見ていた純子が立ち去った。
小野木「よう覚えてとけ。どこへ逃げ隠れしたかて必ず捜し出してやる。俺はそういう人間や」
美智「私、もう逃げたり隠れたりしません。お話があるんでしたら、ちゃんと伺います」
小野木「お話しやて?」
美智「ですから、はっきりおっしゃってください」
小野木「まあええ。ゆっくり話したるよって、ついてこい」歩き出す。
美智「ここで伺います」
驚いたように振り向く小野木。
吉岡家
俊子「怖いおじさん?」
うなずく純子。
俊子「どんなおじさんだったの?」
首を横に振る純子。
俊子「純子、ちょっとお留守番しててね。井波さんのアパート行ってくるから」
公園
小野木「ややこしいことは全部抜きにして俺の言いたいことは、たった一つや。何も言わんでおとなしゅう俺についてこい。そのかわり済んだことは水に流して、お前を大事にしたる」
美智「私、二度とあなたのとこには帰りません」
小野木「どアホ!」美智の左腕をつかむ。「お前を捜し出すためにどれだけの苦労したと思うとるんや。そんな返事聞いて、おとなしゅう引き下がる思うたら大間違いやで」
美智は小野木を突き飛ばし、反動で木の幹に背中をつけた。おお! ここはオープニングで松竹衣裳などのテロップが出てる場面!
小野木はナイフを取り出し、美智に近づき、ニヤリと笑う。(つづく)
あしたは小野木と井波の直接対決か!?
もう半分だけど、恐らく初回と同じずっと昭和15年の話をやってるんだよね? 両親が満州へ行き、石山にフラれ、小野木と結婚し、上京して…すごい1年だ。