TBS 1973年5月8日
あらすじ
北(藤岡弘)が現れたことで、桂(松坂慶子)や多美(上村香子)にささやかな恋心が芽生え始めたことは事実だった。だが北の考えていることが、自分たちの意図していることとは全く違うと感じることもあった。
2024.2.16 BS松竹東急録画。
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中西良男:仲雅美…鶴吉の息子。
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大須賀伸(しん):荒谷公之…織庄の一人息子。
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山下幸子:望月真理子…自殺未遂後、「二上」で働きだす。
静子:相生千恵子…「二上」の仲居。
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呉服屋:太宰久雄
田代:島津元…多美の見合い相手。
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ナレーションがなくなった。
長瀞舟下り。崖から大きく手を振りシャッターを押す桂と舟の上で気まずそうな多美と北。
桂「こっち向いて!」
多美「イヤな子」
北「桂ちゃんってのは、だいぶんサービス精神が過剰ですね」
多美「ご迷惑かけて申し訳ありません」
北「いや、僕のほうはかまわないけど」
多美「桂のおせっかいなんかに私、決して乗りませんから、どうぞご心配なく」
北「僕のほうもご心配なく」
単にカメラの関係だと思うけど、割と大きい舟に隣り合って座る多美と北。舟が揺れて少しよろけた多美を支える北だが、多美は振り払うように背中を向ける。
長瀞駅前で車から降りて誰かを待っている伸。助手席から顔を出したのは田代。伸は駅のホームを見に行くが、入れ違いに車に来たのは桂。「あら、田代さん」
田代は助手席から降りてきて、桂に伸にお花見に誘われてきたのだと言う。駅から戻って来た伸。
田代「さてはお前、桂ちゃんが来てるの知って俺をダシに使いやがったな」
伸「いえいえ、そんな、違いますよ」
ジュースを飲みに行こうと桂を呼ぶ伸。桂はダメよ、約束じゃないのと耳打ち。二人の様子に田代は「もうそういうところまでいってるの」とニヤニヤ。
伸「あっ、いえいえ、違いますよ。ただの職場の同僚ですよ」
桂「同僚? 資本家と使用人じゃないの」
伸「それが使用人の態度かよ」
田代「近頃は労働者も強くなったからな」
田代はタバコを買いに行き、伸と桂が先に車に乗り込む。桂は北と舟下りしている多美の姿を田代に見せつけようとしていた。ノリノリの桂に空手を使われるよりいいかとちょっとあきれ気味の伸。もちろん多美には伝えておらず、多美には分からないようにと伸に頼む。
戻って来た田代を川下に誘う桂。舟も川下へ向かう。遠くから映すとカメラマンはもちろんいないから顔アップで舟に乗ってる北と多美の映像とは別に何回も舟下りしたんだろうか。
車を降りた桂たち。
田代「ここは子供の遊び場だよ」
桂「そうね。でもたまには子供に返るのもいいんじゃない?」
伸「そうだな」
田代「ハッ…だからガキとつきあうのはごめんさ」
田代の見た目は「兄弟」の信吾の頃と全然変わりないけど、「思い橋」は「兄弟」から3年半後だから20代後半くらいの役かな。
舟を見かけた桂は崖を降りていく。
桂「あら? あれ、姉ちゃんじゃないかしら」
伸「そうらしいなあ。一緒にいんのは誰だろう?」
桂「さあ? 誰にしたって関係ないわ。さあ、あっち行きましょう田代さん」
サラッと見せつけて帰るつもりだったらしい桂だが、田代は桂の手を振り払い、舟の着く川岸まで歩いていった。
桂「伸ちゃん止めてよ」
伸「おれの力じゃ止まんないよ」
舟を降りた北は手を差し出すが、多美は一人で降りた。
田代を止める伸だが、グイグイ多美たちに近づく田代。足をくじく桂。
田代「心配しなくていい。ちょっと挨拶するだけさ」
伸「だってもう正式に断ったんでしょ、田代さん」
田代「やあ、しばらく」
多美は無視して歩きだす。
田代「多美さん」と腕をつかむ。
多美「離してください」
田代「ごめん、悪いと思ってんだ」
北「君、何してるんだ?」
田代「あんた、誰ですか?」
北「いや、誰でもいいけど、イヤがることはしないほうがいいんじゃないかな」
田代と北の間に入る伸。
多美は小走りで行ってしまい、北も追いかける。桂はヒールが折れてしまい、舌打ち。
北と多美、伸と桂がそれぞれ車に乗ってるけど、田代は?
伸「前の2人、全然話もしないじゃないか」
桂「最悪の事態だわ」
伸「下手な芝居を打つからだよ」
桂「一石二鳥だと思ったんだけど」
伸「まあ、何を言っても後の祭り。切れた糸は元へは戻らないってね」
桂「んっ、そんなに面白がらないでよ」
何だかんだつきあってくれる伸はいいヤツだな~。良男は早々に幸子に乗り換えちゃったもんなあ。
運転席の北の後ろに座る多美はうつろな表情。
部屋の掃除をする良男と幸子。
良男「要するに気持ちの問題じゃねえのかな。傷ついたと思えば傷ついたんだし、傷つかなかったと思えば、傷なんかついちゃいないんだよ。それが人間関係ってやつかな。失恋していちいち傷ついたと思ってたら、俺なんか満身創痍、傷だらけだよ」
拭き掃除をしていた幸子のぞうきんを「俺やったる」と取り上げて、バケツの水につけるが、だいぶぬるくなってきたと替えに行こうとして、幸子に止められる。風呂の湯担当だからと行こうとするが、鶴吉に呼ばれた。
厨房
鶴吉「裏へ行ってネギを抜いてこい。それが済んだら養鶏場へ行って卵100個もらって、それから大根の千切りだ」
静子たちは昼寝をしていると不満を言う良男に「見習いが大きな口利くんじゃねえよ」と叱る鶴吉。
玄関
彩子「ダメよ。いくら薦めたってとても買える状態じゃないだから」
呉服屋「ご冗談を。聞いてますよ。二上さんじゃここんところ、すっかり悦に入(い)ってらっしゃるって」
彩子「なんで?」
呉服屋「かわいい女中さんを入れたりして、女将さん、この…相当やる気になっていらっしゃるって」
彩子「バカらしい。あの子はね、わけがあって預かってるだけですよ」
呉服屋「とにかくあの…見るだけでいいんでございますけども、お願いできませんでしょうかね?」
彩子「じゃあ、見るだけよ」
呉服屋「はい、もうせっかくね、女将さんに見ていただこうと思って足を運んだんでございますから。じゃあの…失礼いたしまして、はあ、どうも」と家に上がる。
帳場
呉服屋「これなどいかがでしょうね? おかみさんにぴったりだと思うんですよね」鬼太郎のちゃんちゃんこみたいな黄色と黒の縦じまの反物を見せる。
彩子「派手よ、もう」
呉服屋「そんなことはございませんよ。ねえ? 旦那」
タバコを吸いながらのぞきに来た鶴吉に同意を求める。「さあね」
彩子「いくらおだててもダメ。逆さに振ったって一滴も出やしないんだから」
呉服屋「そんなことおっしゃって、まあ」
鶴吉「そうかもしんないよ。この人はもうカサカサだから」
彩子「何よ、鶴さん」
呉服屋は太宰久雄さんで「たんとんとん」の頭(かしら)と安さん。
玄関
多美と北、足を引きずった桂が帰宅。幸子が出迎える。
桂は北に謝り、帳場へ来てお茶を飲むように言う。
北「お見立てですか」
彩子「見るだけ。立たないの」
呉服屋「援護射撃をお願いいたします」
上のお嬢様にいかがでございましょうと見せた反物に桂が食いつく。「これから単衣(ひとえ)の時期でございますからね、結構でございますよ」と呉服屋が乗る。さっき呉服屋が彩子に勧めていた黄色と黒の縦じまを女将さんにいいですねと北も乗り、絶対買っとくべきだと思いますねと彩子に言う。反物を何本か置いて帰った呉服屋。
帳場に来た幸子に反物をあててみる彩子。遠慮する幸子に「どうせ買わされるだから、さっちゃんのにするわ」。なおも遠慮する幸子に「そうはいかないわよ。うちは日本旅館だから。お座敷はやっぱり着物のほうが映えるわよ」。まあ、でもここの仲居さん(女中と呼ばれてるけど)、いつも洋服に前掛け姿で着物なのは彩子と多美だけ。
厨房
彩子はなぜ北が着物を買えと勧めるのか分からない。桂は土地を買ったお金がごまんとあってお金の始末に困ってるとか株で儲かりすぎて困ってるのかもと勝手に推察し、北に着物を買ってもらえばいいと言う。
ご飯を食べに来ない多美を心配する彩子。「まさか間違いなんてことはないでしょうね」
桂「間違いなんて間違いは間違っても起こりようがないわよ。姉ちゃんじゃ」
彩子「冗談事じゃないわよ、桂ちゃん。あとでせせらぎ行ってみなくっちゃ」
せせらぎの間
桂は北に今日のことはお母さんには黙っててと口止め。北は桂がどういう理由があって多美とひっつけようとするのか理由を聞いた。桂は「理由なんてなんにもない。ただ、北さんと姉ちゃん似合いだと思ったし、それ以上に姉ちゃんが北さんのこと好きだってことが分かってたから」と答えた。
しかし、北には多美のそんな気持ちが見えない。桂は姉ちゃんみたいな女は素直に表現できない、好きだからそっけなくしてる、意識してる証拠だと言う。彩子が部屋に来たので桂は退散した。
彩子は今日の反物のこと言うと、北は3~4本買えばいい、代金はあの着物で稼ぐ。やり方によっては結構稼いでくれると答えた。「まず、資本を投じて利潤を上げるんですよ」
もし僕がここの主人だったら、2カ月ぐらいで今の収益の6倍にして見せる自信があると言う。今の状態は収支はトントン、何のために営業してるか分からない。うまくいって家族の生活費ぐらいがどうやらひねり出せる程度。夏と冬には無理だと踏んでると話すと、彩子は「どこでお調べになったの?」と言い当てられて驚く。
今、言ったのは旅館の経営面の話で旅館の良しあしではない。旅館として居心地が悪ければ二度まで泊まりに来ないと北は言う。
彩子「教えてください。どこが間違ってるんでしょう?」
帳場
桂によるアートコーヒーいれかた教室
桂「お湯の温度に気を遣うことが大切ね。コーヒーは酸味と苦みと渋み。もちろん香りを逃がさないことよ」
良男「まるで理科の実験だな」
テーブルの上にアートコーヒーの商品が並べられている。樹脂製のコーヒーシェーカーにお湯を入れる桂。「そう。真心込めて」
静子、幸子ともう一人の女中は竹子? 今日のキャストクレジットには名前のない着物を着た女性も見ている。
コーヒーのにおいにつられて鶴吉も顔を出す。
桂「幸子さんの買ってきてくれたコーヒーよ。世界で初めてデビューしたコーヒーシェーカーで入れたんだから」
香りだけで十分だと鶴吉は去り、入れ違いに彩子が来て、せせらぎの間に2つ持ってくるように言う。
桂「お母さん、これ高いのよ。本物(もんもん)だから1杯150円。それでもいい?」
彩子「いいわよ。いくらでも。これからどんどん稼ぐんだから」
彩子は静子たちに気に入った反物があったら買ってあげるから見といてちょうだいと言って、帳簿?を持ってせせらぎの間へ。
コーヒーを飲んだ幸子はおいしいと言うが、良男は濃すぎると言う。
鶴吉「ヘッ。そんな苦(にげ)えもんのどこがいいだろうねえ」
静子「苦いところがいいんですよね?」
桂「そう。苦みのないコーヒーなんて塩気のない塩鮭みたいなもんよ」
鶴吉「俺は塩抜きの鮭のほうがいいや」
桂「これからはこのコーヒーシェーカーで我が家も近代的に生まれ変わらなくっちゃ」
アートコーヒーの宣伝回!?
今あるこういうのと機能は同じなのかな?←コーヒー飲めないので詳しくない。
せせらぎの間
帳簿を見ている北。「いいですか。もう客が来るのを待ってる時代は済んだんですよ。客は来るんじゃなく呼ぶんですよ」
秩父という風土を最大限に活用する。例えば、若い人には奥秩父探索コース、家族連れにはハイキングコース、団体客には巡礼コース、織物見学コースというようにそれぞれ楽しめるコースを作って招待する。巡礼コースは宗教団体に働きかけ、織物見学コースは秩父織物即売会と組み合わせる。そうすれば問屋に卸すよりも高く売れて買うほうも安く買える。
話を聞きながらコーヒーを飲む彩子。夜中にふと、目が覚め、反物を見る。
幸子も静子も目を覚ましていた。
幸子「こんなに効くもんだとは思ってなかったわ。フフッ」
静子「なんだか鼻血でも出てきそう」
ロビーに集まる彩子、幸子、静子。彩子は眠れないのは「公害のせいかしら。秩父もとうとう公害にやられるようになったのかしらね」と言い、静子と幸子に笑われる。「あっ、そうか、春だもんね」とまたズレた回答。
帳場に戻った彩子は桂も起きてきて驚く。彩子は着物を作ることが興奮するほどうれしいもんかねえと言い、私のコーヒーが原因だと桂に言われて、ようやく気付く。
コーヒーを飲んでない多美もまた眠れない夜を過ごしていた。
せせらぎの間
北・心の声「北晴彦。お前はこんなに信じやすい人たちをだましてそれでも恥ずかしくないのか? それでも人間か?」←改造人間だろ!とツッコむ人多数
北を改造人間にしたのは織庄の社長だった。(違)
多美の顔が浮かぶ北だった。(つづく)
おとなしい性格というのもあるけど、ちょっと多美の影が薄いね。単純に出てる時間も少ないし。