TBS 1971年10月26日
あらすじ
堀田(花沢徳衛)の娘・ゆり子(丘ゆり子)が恋をした。相手はジャズ喫茶でベースを弾いているバンドマンの浩三(朝比奈尚行)で、軽井沢旅行に出かけた際にも、ゆり子に指一本触れなかったほど真剣なのだという。
2024.2.1 BS松竹東急録画。
尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。
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尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。
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堀田咲子:杉山とく子…堀田の妻。
中西敬子:井口恭子…施主の妻。
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堀田ゆり子:丘ゆり子…堀田の娘。
園部浩三:朝比奈尚行…ゆり子の恋人。
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堀田:花沢徳衛…鳶の頭(かしら)。
下小屋
健一が機械で木材に穴を開けていると、頭(かしら)が声をかけてきた。「おめえ一人か?」
健一「現場行ってるよ。遣形(やりかた)だよ」
造ろうとする構造物の位置、高さ、幅、長さ等の基準となる定規のこと。丁張。
もと子は中西家で赤ちゃんの世話に行っている。健一はかえって迷惑じゃないかと気にしているが、頭(かしら)はそんなことはないと否定する。健一が昼間現場に行ったら、ここは一日留守になると心配する。←橋田ドラマを見ていてもホントに昔は誰もいない無人の家の状態が異常事態みたいな感じだよね。
堀田「いいじゃねえか。向こうの嫁さんだって、すぐ動きださあな。産まれて21日ってんだ。もうすぐだよ」
健一「つまんないよ、俺は」
堀田「えっ? ハハッ、そういうことか。ハハハハッ」
健一「あ?」
堀田「健坊もいいとこあるぜ。おっ母さん取られたような気がしてんだろ」
健一「冗談じゃないよ」
堀田「へへへへ…だって今、本音吐いたじゃねえか。つまんねえってさ」
健一「口から出任せだよ」
堀田「まあ、いいやな。おっ母さん聞いたら喜ぶぞ」
健一「やだよ。母ちゃんに変なこと言ったら」
堀田「いいじゃねえか。何言ってんだよ。親子なんてものはそうありてえくれえなもんなんだぞ」
それにしても機械を操作しながらの会話は見ていて少し怖い。
健一は頭(かしら)に何の用事で来たのか聞くと、もと子に用事でいつも5時ごろ帰ってくるのは知っていたが、ゆり子のことを先に咲子にしゃべられると話がこんがらがると思っていた。
中西家
小さな一戸建てとはいえ、門扉も広くていいねえ。
買い物かごを持った咲子が訪れた。「ねえさん来てる? こんちは!」
口に指をあて窓から顔を出すもと子。
咲子「寝てんの?」
もと子「寝かかってる」
咲子「なあに? その顔、とろけそうじゃないの」
もと子「だってかわいくてしょうがないんだもの。フフッ。玄関から回る?」
咲子「いい。こっからで」
ほんじゃ、上がんなさいよって、ここ、中西さんち!
「こんちは」と縁側から上がった咲子だが、もと子は「今、返事できないの」とこっそり家の中へ。もと子が「頭(かしら)んとこのお咲さん」と声をかけると、赤ちゃんが寝ている布団の隣で敬子も布団を敷いて横になっていたが起き上がって「いらっしゃい」と応じた。
もと子「目、覚まさない?」
敬子「大丈夫。もう寝ついたらしいわ」
咲子「こんちは。いかが?」
敬子「ええ、おかげさまで」カーディガンを引っかけて起きようとする。
咲子「ああ、寝ててちょうだいよ。私なんかお客さんじゃないんだから」
もと子「そうよ、いいのよ。こんな人で」
咲子「こんな人ってことはないでしょ」
もと子が笑う。
敬子「いいんです。少し起きたいわ、もう」
もと子「じゃ、なんか食べる?」
敬子「困るわ、ちょくちょく食べたくて」
咲子「あら。困ることなんかないわよ」
もと子「そうよ、あんた。2人前食べなきゃならないのに当たり前よ、ホント」
敬子「あっ、やりますから、私」
もと子「いいから、いいから。なんかおかずないかなあ」
咲子が旦那と夕飯にどうかと思ってと、うなぎのかば焼きをお土産として持ってきていた。これは夕飯用として…と冷蔵庫をチェックするもと子。
敬子「ホントに昆布かなんかで1膳食べればいいんですから」
もと子「ダメダメ。そんなことじゃ栄養とれませんよ」冷蔵庫の中から「ゆうべ食べなかったの?」とタッパーに入ったおかず?を取り出した。敬子は主人がお刺身買って帰ったもんだからと言うが、「ダメじゃない、こういう物食べないと」と文句を言う。
咲子「うるさいのね、ねえさんは」
敬子「いただいたんですよ、少しは」
もと子「ちょっとしか食べてないじゃない。それじゃ力つきませんよ」
咲子「いいじゃないの、なにも子供じゃないんだからさ」
もと子「そんなことないわよ。こちらはね、おしゅうとさんがいらっしゃらないし、誰かが世話を焼いてあげないとね、どうしても栄養が偏るのよ。いいお乳は出ないし、従って赤ちゃんの健康も損なうというわけよ」
下を向いてしまう敬子。もと子はタッパーのおかずを台所に持っていき、鍋に開けている。温め直してるのかな。
咲子「たまんないでしょ、これじゃ」
敬子「いいえ」
もと子「何がたまらんのよ。あっ、奥さん座ってなさいよ」
敬子「ええ」咲子が椅子を引き、座らせる。
咲子「ねえさん、あんまり首突っ込むとイヤがられるわよ」
敬子「そんなことありませんわ」
もと子「そうよ、ねえ? お咲さんの悪い癖よ。お世話すんのは年上の者(もん)の役目じゃない」
咲子「いや、そりゃこちらが喜んでんなら文句はないけどさ」
敬子「それはもちろん喜んでますわ」
もと子「そうよねえ? あんたはね、すぐ人が冷たいもんだと思うのがいけないのよ」
咲子「そうでもないけどさ」
もと子「あんた、突っ立ってないで座ってなさい。お茶入れるから」
台所でもと子の隣に立っていた咲子はヤカンに水を入れながら、相談があるんだけど…と話を切り出す。うちの人が一緒にいると面倒くさいから早めにと思ってとゆり子の話をする。私はいいけど、お父ちゃんがへそ曲げちゃった。
尾形家
健一「どうして分かったの? そんなこと」お茶を出しながら。
堀田「うん? いやな、うちのヤツがお前、手紙、見ちまったんだよ」
健一「ひでえな。頭(かしら)んとこは人の手紙、見んのかい?」
堀田「いやいや、めったに見やしねえよ。どうも妙だってんでな、開けてみたら、お前、外は女名前で中、男だ。これが」
健一「ハハッ。今どきバカみたいな話だな」
堀田「いや、後ろめたいことしてるから、そういう細工するんだよ」
健一「それで書いてあったの?」
堀田「ああ。懐かしい夏とかなんとかな」
健一「なにも隠すことないじゃないかね」
堀田「そりゃ隠すさ。男と2人っきりで軽井沢行ったんだ。怒るもん、俺たちが」
健一「ゆりちゃん、そうだっていうの?」
堀田「あいつが一緒に行ったっていう女友達にうちのヤツが電話したのさ。夏休みに軽井沢に行ったのは本当にあんたとゆり子ですね?って」
健一「違うっていうの?」
堀田「そこが娘だよ。友達のために一生懸命ウソついてやろうと思うんだけども、何しろうちのあのガラガラがすごい剣幕で言うもんだからよ」
中西家
ゆり子の友達への電話を再現する咲子。「本当のこと言ってちょうだい。娘の一生のことなんだから!」
もと子「ちょっと声が大きいわよ」
2人は引っ越しのとき竜作と健一が運んだソファーに座ってる。ここがリビングか。
咲子「私だって真剣よ。一人娘が夏休みに軽井沢に男と2人で行ってたなんてさ」
もと子「えっ? やっぱり行ってたの?」
大きくうなずく咲子。「その女友達がね、すいませんって泣きだしちゃってさ。ホントは私は行きませんでしたって」
もと子「まあ」
咲子「それからゆり子呼んで大変よ」
回想
堀田家が出てくるのは初めてだね。
堀田「入(へえ)って、そこへ座れ。後ろ、閉めろ! 後ろ。なんの話だか分かってるな?」
うなずくゆり子。
堀田「バカ野郎が。どうして隠すんだよ? ええ? なんでコソコソこんなことしちまったんだい」
ゆり子「だって、五郎ちゃんがさ」
堀田「五郎が?」
ゆり子「やってみろ、やってみろって言うから」
堀田「五郎がなんでそんなこと言うんだよ」
ゆり子「だって、五郎ちゃん得意じゃない」
堀田「なんの話、してんだ? おめえは」
ゆり子「逆立ちだよ」
堀田「逆立ち? とぼけんじゃねえよ、この野郎!」
咲子「ゆり子。ふざけてる場合じゃないんだよ」
ゆり子「ふざけてなんかいないじゃない」
堀田「じゃ、逆立ちとこれとどういう関係があんだよ?」
ゆり子「どういうって…はしごの上で逆立ちしてみないかって言うから五郎ちゃんが持ってるはしごの上へ上ったのよ」
堀田「そんなことできるわけねえだろ、お前に」
ゆり子「五郎ちゃんが下から見上げてさ、ああ、よく見えらあって言うから」
咲子「ゆり子!」
ゆり子「だから飛び降りたのよ。そしたら、はしごが倒れて鉢植え割っちゃったの」
堀田「鉢植え割っちゃったって、おい、あの松か!?」
ゆり子「えっ、そうだよ」
堀田「そうだよって、おめえ、あれ割っちゃったのか、お前!」
咲子「あ~、あんたそれどこじゃないだろ、今」
堀田「だって、おめえ、ありゃ中国の山東省の…」
咲子「何言ってんだよ。中国どころじゃないんだよ。軽井沢だよ、問題は。ゆり子」
堀田・咲子「ゆり子!」
ゆり子「そのことだったらほっといてよ」と茶の間を出ていった。
回想ここまで。
尾形家
ゆり子「おばさん」
もと子「うん?」
ゆり子「私、誰にも信じてもらえないだろうと思って隠してたんです。あの人と私、軽井沢で3泊しましたけど、なんにもなかったんです。そういう約束で行ったんです」
もと子「そう」
ゆり子「約束どおり、私たち純潔なんです」
健一「だって好き合ってたんだろ? そんならなんにもないほうが変じゃない」←健一っぽい意見だね。
もと子「何言ってんだ、お前」
健一「なんにもないことなんか自慢になんないんだよ」
もと子「子供が生意気なこと言うな」
健一「子供じゃないよ、俺は」
もと子「純潔がどうしていけないんだよ。このごろはね、誰でも彼でもすれっからしになりたがって、とんでもない話なんだ。純潔は大切なものなの。おい、妙な週刊誌を読んでのぼせ上って人さんの子になんかしたら承知せんぞ!」
健一「なんにもしてねえじゃねえか、俺は」
もと子「当たり前や。18ぐらいからされてたまるか」
健一「あのね、今は俺のことじゃないだろ」
もと子「あっ、そうか。お前、関係なかったんや。ごめんね、ゆりちゃん。ハハハ…じゃ、まあ、結局はその人とはなんにもなく手を一つ握らずに帰ってきたというわけね?」
うなずくゆり子。「あの人、私に真面目だってこと証明したかったのよ」
もと子「うん。で、どこの人? あんた、どうしてもその相手のこと言わんそうだけど」
ゆり子はジャズ喫茶でベースを弾いている人だと明かす。
ニッコリ笑う健一と「えっ? バンドマン?」と驚くもと子。
ゆり子「ほら、すぐそういうふうに思うでしょ? でも、バンドマンだから女性にルーズだなんて全然ウソなのよ、おばさん」
もと子「いや、そりゃね、たくさんいるんだから、そりゃまあ、いろいろだろうけどねえ」
ゆり子もプレイボーイだと思っていたが、真剣な証拠に指一本触れないと言い、軽井沢で3泊してホントに何もしなかった。「でもそんなことパパたちが信じると思う? そのうえ、その人がバンドマンだなんて言ったら、また一騒ぎだと思うの。それじゃ、隠してるよりしょうがないじゃない」泣きだす。
もと子「そう。それでゆりちゃん、もちろん、その人好きなのね?」
泣きながらうなずくゆり子。
もと子「そうだったの」
健一「なかなかやるじゃない。ベース弾く人なんてよく知り合ったね」
ゆり子「友達がドラムの人の恋人なのよ」
それで紹介され、結婚も申し込まれた。時々、地方巡業に行き、手紙をくれるが、女の名前にしてくれと頼んだのはゆり子。地方巡業…今なら全国ツアー?
ゆり子「パパたちに話してくれるわね? 真面目だってこと」
もと子「そうねえ」
ゆり子「私が言ったって信じてくれないもの」
もと子「ええやろ。おばさんはゆりちゃんを信じてるもん」
ゆり子「ありがとう」
健一「見ろよ、ゆりちゃん。俺が前に言ったろ? きっといい人が見つかるって」
デパートでお見合いして、健一とレストラン?で飲んだ日ね。
ゆり子「おかしいでしょ?」
健一「うん?」
ゆり子「私が恋愛してるなんて」
もと子「どうしてよ?」
ゆり子「だって似合わないんだもん」
健一「そんなことあるもんかよ、ねえ?」
もと子「そうよ。何言ってんの、ゆりちゃん」
ゆり子「そんならいいけど」
健一「ハハハッ」
こういうとこホントに健一は性格いいなと思う。さげすむ感じが全くない。
堀田家をもと子が訪れた。今日は急いで産湯をつかわせて、お昼ご飯の用意をして帰ってきた。まだ21日経っていないからこれからも通うつもりでいるもと子に、拭き掃除やなんかはともかくお昼の支度ぐらいもうやれるという咲子だったが、自分でやると言っているが、お産のあとは体が弱っていてバカにならないから3週間ぐらいゴロゴロしてたほうがいいと返すもと子。咲子はもと子が赤ちゃんがかわいくて離れにくくなるのではないかと心配している。もと子は人の子だから離れなきゃしょうがないと割り切っている。
ゆうべ、もと子からの電話のあと、3時過ぎまで夫婦で話し合った。ゆり子は帰ってくると2階へ行ってそれっきり。咲子はゆり子の話を信用しようと思っている。よっぽど変じゃなかったら、ゆり子の思うようにしてあげたい。「まあ、親の口から言いたかないけどさ、あの子の器量じゃ、これから先、どういう縁が見つかるか見当つかないしさ」
もと子「そんなことはないわよ」
咲子「話壊して一生恨まれでもしたら怖いもん、私」
もと子「何言うてんの、親が」
しかし、頭(かしら)は「なんでもないのがホントなら、そんなヤツは男じゃねえ、3日も一緒にいててなんにもないんじゃ、よほどの意気地なしだ」と言っているものの、何かがあれば余計気に入らない。
咲子「大体、あの人、精力強いでしょう」←知りたくなかった頭(かしら)情報。
もと子「ハハハ…」
咲子「3日も泊まってて、そんなの信じらんないのよ。人間じゃないような気がするらしいのよ」
若いうちは大人が考えてるより、ずっと純真なものがあると言うもと子。咲子もゆり子の言うとおりならなかなかいいのを捕まえたと思っている。咲子ももと子もどんな人か会いたくなったと話し合い、咲子はもと子に会ってくれないかと頼む。
そば屋の座敷席
まずは一杯と日本酒を浩三の杯に注ぐもと子。浩三は長髪、ヒゲのヒッピースタイル。
↑そう! 子門真人さんみたいな感じ。
お若い方はウイスキーのほうがいいんじゃない?と聞くと、「そうですね」と言うものの「私はどっちでもいいんです。飲まなくってもいいし、飲んでもいいし、お酒でもいいし、テキーラでもいいし」とのらりくらり。
もと子「はあ。なんだかあんたと話してるとお坊さんと話してるみたいね」
浩三「アハッ、そうですか?」
もと子がお酌を頼むと、いいですよと注いでくれる。もと子はなんでもいいなら日本酒の方がいい、これが一番好きだと一気飲み。ビールは1杯目がおいしいと言うけど、日本酒も1杯目がおいしい。
もと子「あっ、あなた、どうぞつぎましょう」
浩三「はい」
もと子「あんた、いける口ですか?」
浩三「はい」
もと子「どのぐらい?」
浩三「どのくらいでもいけるんですよ」
もと子は「あの…あんたね、あの…妙なこと聞きますけどね、あんた麻薬かなんかのんでボーッとしてんじゃない?」
これは無音にならないんだ。結構やべー会話じゃない?
浩三「はい。私はここに来る前に」
もと子「やっぱりのんだの?」
浩三「はい。水を1杯飲みましたよ」
もと子「水を…じゃ、あんた、いつもそんな調子なの?」
うなずく浩三。
もと子「ふ~ん、なんだか幼稚園の園長さんみたいね」
浩三「そうですか?」
もと子は浩三を見て、あんたなら3泊しても、ゆりちゃんに手を出さないかもしれないわねと笑う。
浩三「私はセックスというものを大げさに考えないんです。人間の生活の中でセックスの占める部分も政治の占める部分も今、人々が言うほどには大きな部分を占めてはいないと思うんですよ」←顔をちゃんと見ると、りんたろー。みたいだな。
もと子「なるほどねえ。やっぱり大学生が惚れるだけあって随分難しいことおっしゃるのね」
浩三「そうですよ。私はなんでもしゃべるんです。難しいことも、それからうんと品のないバツバツ、バツバツ言葉でも、なんでもしゃべって、なんでもやって自由でありたいんです」
もと子「はあ。う~ん、そりゃまあ結構ですけども、じゃあんた、結局ゆりちゃんと結婚するっていうのはウソ?」
浩三「いいえ。ウソじゃありませんよ」
もと子「だけどね、結婚すればさ、どんな良妻だって、やっぱり縛られるもんよ。今、あんた、なんて言った? なんでもかんでも自分の自由にやりたいって言ったでしょうが」
浩三「私はこう思いますね。自由であるためには縛られていなければならない。拘束されていればこそ自由なとき、深く自由を感じることができるんです」
もと子「まあ、その…難しい理屈は分かんないけど、結局、あんた、ゆりちゃんのことをどない思うてんのよ?」
浩三「結婚したいと思ってますよ」
もと子「はあ…でも、そう事もなげに言うけどねえ。あんた養っていけんの? こんなこと言っちゃ失礼だけど」
浩三「私は大体月収が20万あります」
もと子「えっ? 20万? はあ、そりゃ養っていけるわね」
「あしたからの恋」正三8万、直也5万と思うとすごいぞ!
大きくうなずく浩三。
もと子「でも、なんでしょう? バンドマンなんていうと随分女の子の誘惑も多いでしょ?」
浩三「多いですよ。まったく多くない人もいますが、私は多いです」
もと子「はあ…う~ん、するとね、あの…なんて言うのかな、いろいろ、その…つまり、あの…関係などしたり?」
浩三「そうです。いろいろ関係しますよ」
もと子「そりゃあんた、穏やかじゃないじゃない、あんた。一方でそんなことしといてよ、そして、ゆりちゃんと結婚したら、ゆりちゃん不幸になるじゃない」
浩三「そんなことありませんね」
もと子「ないことありますかいな」
女性店員が天ぷらを運んでくる。
浩三「夫婦っていうものはセックスだけじゃないんです。1日かぎりのセックスなんかで壊れるようなもんじゃありません。ご安心なさい」
もと子「そんなもん、安心できますかいな。それはあなたの理屈ですよ。人間というものは、そう簡単に割り切れるもんじゃない。あなたがよくってもよ、あなたの浮気をゆりちゃんが我慢できないでしょうが」
浩三「それだったら浮気なんかしなくてもいいんです。もともと、私はセックスを大げさに考えていないんです」
もと子「あんたの言うことは、どうもピンとこないねえ」
浩三「それはあなたが古い人間だからですね」
もと子「そうですかね。そりゃね、私は古いかもしれませんよ。しかし、なんだかね…あんたの言ってることは、なんとなく、こう、うさんくさいんだな」
浩三「私は人をだましたりはしませんよ」
もと子「それなのよ。あんた、そういうことを人の前で平気でぬけぬけと言うでしょ。そういうとこが私には信じられないのよ」
浩三「いいのですよ。私はあなたと結婚するわけじゃないんですから」
もと子「そりゃそうだけどね」
浩三「ゆり子さんさえ信じてくれればいいんです」
もと子「うん、そりゃまあそのとおりだけど。随分、あんたって変わってんのね、フフフ…」
笑顔でうなずく浩三。
もと子「なんやちょっとも分からへん。ハァ~。せっかく会(お)うたけど、なんにもなれへん。困ったな、こりゃ」
笑顔の浩三。
尾形家
浩三のことは子供の使いみたいで恥ずかしいけど、分からなかったと正直に言うもと子。人間は悪くなさそうだけど、腹ん中までグーッと見てやろうと思って行ったが分からなかった。ホントにゆりちゃんを欲しいこと、月収は水準以上、バカでもなさそう、優しいと言えば優しすぎるぐらいなものの言い方をするし、酒もタバコものまなくてもいい。髪が長いことやヒゲは商売柄仕方ない。言うことの筋も通っているが、どこかピンとこない。案外、いいんじゃないかなって気もする。
頭(かしら)は反対する。
スーツケースを持って夜道を歩いているゆり子。健一がどこへ行くんだい?と止める。あの人のよさは普通の人には分かんない、反対されるに決まってる、パパたちが喜ぶような人たちじゃない、私の恋を貫くとどんどん歩く。
ついに走り出すゆり子を追いかけた健一にゆり子は抱きついて泣く。焦る健一。
ゆり子「だって、健ちゃん優しいんだもん」
健一「うまくいくさ、大丈夫だって。絶対にうまくいくさ」
泣き崩れるゆり子を慰めていると警官が歩いてきた。俺じゃないよ、俺が泣かしたんじゃないと警官に説明しつつ、慰める。(つづく)
「あしたからの恋」のトメ子の扱いに比べると、ゆり子はいいね~。
今回のクセ強キャラ・浩三役の朝比奈尚行さんは「赤頭巾ちゃん気をつけて」ではヒッピー役。画像検索すると近影は白髪のおかっぱだったり今でもファンキー。
この映画、主人公の母が風見章子さん、謎の女に山岡久乃さん、主人公の友人役の富川澈夫さんは「本日も晴天なり」では富田浩史という芸名で川西アナウンサーだったり、結構いろんな人が出ていた。中尾彬さんが主人公の兄だったり。
そして、朝比奈尚行さんは1977年から1978年では「たのしいきょうしつ」という子供番組で歌のお兄さんをしていたり、80年代には「ロボット8ちゃん」や「バッテンロボ丸」というフジテレビの特撮番組に出演している。
どちらも設定が多少違うもののロボットの居候先の家主役で奥さんが「たんとんとん」界のサークルクラッシャー・文子役の榊原るみさん! 意外な取り合わせにびっくり。