徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】たんとんとん #5

TBS 1971年6月29日

 

あらすじ

健一(森田健作)が請け負った一軒家が着工となる。新次郎(杉浦直樹)からは叱られてばかりだが、それでも素直にうなずく健一の姿を、もと子(ミヤコ蝶々)は頼もしく思っていた。しかし健一と竜作(近藤正臣)の仲が悪く…。

君のいる空

君のいる空

  • 森田 健作
  • 謡曲
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2024.1.10 BS松竹東急録画。

peachredrum.hateblo.jp

尾形もと子:ミヤコ蝶々…健一の母。字幕緑。

尾形健一:森田健作…大工見習い。字幕黄色。

*

江波竜作:近藤正臣…大工。

生島とし子:松岡きつこ…新次郎の15歳下の妻。

*

中西雄一郎:中野誠也…新築の家を依頼してきた。

夏川朝子:岩崎和子…健一の元同級生。

中西敬子:井口恭子…中西の妻。

*

ボーイ:真崎竜也

ホステス:菊地恵子

ホステス:長沼美枝子

*

堀田:花沢徳衛…棟梁。頭(かしら)。

*

生島新次郎:杉浦直樹…健一の父の下で働いていた大工。

 

中西家

契約書に判を押すもと子。「おたくさんの判をお願いいたします」

中西「はあ、おい」

もと子「あの…割り印してくださいね」

中西「はい、ここと?」もと子の指示でハンコを押していく。

 

中西「しかし、こう言っちゃ失礼ですけど、これだけちゃんと契約書を取り交わしても、それでも大工さんにだまされるってことあるんですかね」

もと子「う~ん…それがありますねえ」

敬子「それじゃ、はっきりした契約違反でしょ?」

もと子「う~ん、でもそういう人たちには、そんなことなんでもないんじゃないですか」

中西「だって訴えられるでしょ?」

もと子「まあ、そうなるとのらりくらりとねえ。手に負えないんですよ」

 

例として

建て前が済み、柱をおごりすぎたから(豪華にし過ぎた?)いくらか金を出せと言う。そんなことは困ると言うと、今度は忙しいなどと言って仕事に来ない。待ってる者はジリジリして文句を言うが、向こうは開き直るため、しょうがないから金を出そうかということになる。

 

一番よくあるのは見積もり以外の材料を使った詐欺。見えないところで材料(の品質?)を落とされても相手は素人の旦那衆で手も足も出ない。

 

建て前のころ、柱を紙にくるんでいる。本来、傷つかないようにちゃんとするものではあるが、九分九厘出来上がったところで紙を剥がす。柱は節だらけのひどい物を使っているが、取り替えられないので泣き寝入りするしかない。

 

もと子は契約書を渡す。「わたくしども、おたくさんみたいな一生懸命なご夫婦だましたりはいたしませんよ」

中西「よろしくお願いします」

敬子「お願いします」

もと子「お若いのにまあ、おうち建てられるまで、よく頑張りましたねえ」

中西「はあ」

 

もと子「おたくら、恋愛ですか? 見合いですか?」

敬子「恋愛です」

もと子「はあ。で、どういうお知り合いですか?」

中西「なんだかテレビみたいだな」

敬子「フフッ」

3人で笑う。

 

ミヤコ蝶々さんは今でいう「新婚さんいらっしゃい」的なトーク番組をされていたそうで、それで「テレビみたいだな」というセリフだったんですね。

 

下小屋で電気カンナをかけている健一。朝子が「こんばんは」と声をかけるが気付かない。近くに行って「こんばんは」と声をかけ、ようやく健一も気づき笑顔になる。

朝子「ごめんなさい。何度も呼んだのよ」

健一「そりゃ悪かったね」

朝子「玄関閉まってたんで、木戸開けたら開いたんで入ったの」

健一「うん。俺しか今夜いないんでね」

朝子「すごいのね。こんな夜遅くまで働いてるのね」

健一「ああ…仕事じゃないんだ。練習なんだ」

朝子「それだって偉いわ」

 

健一「ああ…こんなとこじゃあれだね」

朝子「いいの、ここで」

健一「ちょっと上がっていけよ」

朝子「だってお母さんいないのに上がったら変でしょ?」

健一「ああ、そうだね。しかし、いないから上がるっていう考え方もあるぜ」

笑ってしまう2人。

 

健一「じゃあ、掛けなよ、ここいら」

朝子「いいの。立ってるの好きなの。このごろ受験勉強で座ってること多いから、太りそうで困るわ」

健一「そう。よく来てくれたね」

朝子「私、自分でも不思議なの。尾形君がやめたら…なんて言ったらいいのかな」

健一「僕んちへ来てくれるなんて全然思ってなかったよ」

朝子「ホント?」

健一「優等生じゃないか」

 

朝子「私、尾形君のこといいなって思うのはね」

健一「うん」

朝子「私たちが一生懸命勉強しているのに、全然関係なくてケンカばっかりしてたでしょ?」

健一は頭ポリポリ。

朝子「そんなことで大学へ行けるかって、先生、怒ったでしょ。私もそう思ったの。あんなことで社会へ出て生きていけるのかしらって。そしたら、大学どころか高校もパッとやめて大工さんになっちゃうなんて、とても尾形君なりに一貫してるんだなって感心しちゃったの」

健一「ああ…理屈なんかないよ、俺は」

朝子「でも、人と同じことだけしようとしている受験生なんかより、ずっと私、立派だと思うわ」

健一「うれしいけどさ。そう言ってくれんのは」

朝子「とても話がしたくなっちゃったの。だからおとといも来たの。今夜も来たの」

健一「そう」

朝子「うん」

 

竜作が作業場に入ってきたが、2人の姿が目に入りニヤニヤして2人の間をすり抜ける。

 

それにしても失礼だけど1970年代とは思えないサラサラヘアなんだよな。「あしたからの恋」の直也だって同じような髪型だったけど、こんなつやつやサラサラヘアじゃなかったよ。髪質の問題?

 

健一「なんだよ?」

竜作「忘れ物(もん)だよ」

健一「早く行けよ」

 

ゆっくり上着を着て、歩く。

 

健一「早く行けったら!」

 

スローモーションで歩きだす竜作。「焦るな、焦るな」

健一「この野郎!」

竜作「おう、やるか? また。いつでも相手になってやるぜ、この新米。ハハハハ…」スローモーションのまま作業場を出ていくのが面白い。

 

健一「ちくしょう! ただじゃおかねえからな、あの野郎!」

朝子「尾形君って、時々野獣みたいね」

健一「えっ? ああ…」

朝子「男の世界ね、大工さんって」

健一「そんなんじゃないよ」

 

朝子「じゃ、私、残念だけど…」

健一「えっ? もう帰っちゃうのかい?」

朝子「父がうるさいの。一人っ子でしょ?」

健一「うん」

朝子「私が歯医者にならないと継ぐ人いないからうるさいのよ」

健一「歯医者になるのかい?」

朝子「ええ。じゃあまたさよなら」

健一「さよなら! ありがとう」

 

「たんとんとん」界は一人っ子が率高いね。健一、朝子、ゆり子。

 

中西家が建つ場所

堀田「おう。ねえ、奥さん」

敬子「はい?」

堀田「海の物、山の物、里の物っていってね」

敬子「ええ」

堀田「こいつを拝んだあとでうちの中心になる所へ埋める。これが地祭りってやつ」

敬子「はあ」

堀田「それからいよいよ建築が始まるってわけだ。ヘヘッ」

 

敷地前に車が止まる。

堀田「おう!」

中西「ご苦労さま」

敬子「あなた!」

新次郎「おお、よく来られましたね」

中西「ええ。やっぱり自分のうちの地鎮祭には出たくってね。とうとう課長に頼んで2時間抜けたんですよ」

堀田「ああ、それは結構だ。じゃ、ジャンジャンやっちまおう。さあさあ、こっからここらで並んで並んで」

新次郎「あなた方は真ん中ですよ」

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堀田「おい、健坊!」

健一「はい」

 

中西「ああ、間に合ってよかった。とにかく電話かけようもないからハラハラしちゃったよ」

堀田「ハハッ、ヘヘッ。そりゃ自分の金で建てるうちの地祭りだ。出たいのは人情でさあね、ヘヘヘッ」

 

堀田がかしわ手を打ち、神主さんのように祝詞を言う。えっ、堀田さんが!?

 

(祝詞)と字幕で出るのみで、堀田の言葉は耳で聞く限り「高天原の~」と言ってる。

shinto-bukkyo.net

天津祝詞というものなのかな。

 

地鎮祭後、基礎作り。堀田は土建屋さんなのかい?

 

下小屋

機械で穴を開けていた健一を見かけた新次郎は作業を止めさせた。「あ~あ、やっちまったな」

健一「何を?」

新次郎「これは穴じゃないよ、ホゾだよ」

健一「そうか」

新次郎「よく考えてやんなくちゃダメじゃないか」

健一「すいません」

新次郎「出すもの引っ込めたら、あんた、合いやしないよ」

健一「うん」

 

新次郎「いいよ、いいよ。他へ使うから。いやね、もう一回、設計図、よ~く見て、一本一本見当つけてやれよ」

健一「ああ」

新次郎「そりゃね、まあ、そういう間違いは誰だってやるけどさ。柱はタダじゃねえんだからな」

健一「うん」

 

新次郎「おい、カンナのことだってそうだよ」

健一「うん?」

新次郎「荒シコあんなに研いだってしょうがねえんだよ、このごろは」

健一「そうなの?」

新次郎「そうなのって、電気カンナは荒シコだろ? あんた、粗削りだろ? だからカンナってものはね、中シコと仕上げを研いどかなくちゃ、あんた。役に立たねえんじゃねえか」

健一「うん」

新次郎「若いうちはなんだぞ。そんなものカンナの1丁や2丁、研ぎ潰すつもりじゃなくちゃダメだよ」

健一「うん」

新次郎「まあ、いいや。その穴…穴、いいからね。カンナ研ぎなよ」

健一「ああ」ムスッとしてその場を動かない。

新次郎「カンナ研ぎなよ」

健一「うん」

 

もと子「新さん」縁側に顔を出す。

新次郎「へい」

もと子「お三時、ここ置いときます」

新次郎「あっ、どうも。おい、行こう」

健一「俺はいいよ」

新次郎「ハハハハ…なんだよ? 何、すねてんだよ」

健一「すねてなんかないよ」

新次郎「じゃ、なんだよ?」

健一「ああ」奥へ。

 

最初に注意された時はニコニコ、次第にムッとして…師匠でもある新次郎に対して舐めすぎじゃないか?

 

もと子「ねえ、新さん」

新次郎「あっ…」

もと子「あの…竜作さんのことなんだけどね」

新次郎「はあはあ、いや、ちょっと私、手洗わせてもらいます」

もと子「あの…井上さんとこの増築、随分、長引きそうね」←あれっ、ここだけ字幕白。

新次郎「ええ、なんだか途中で板の間増やしてくれなんて言われちゃったもんですからね」

もと子「だけど、どうなんでしょうね?」

新次郎「えっ?」

もと子「棟上げの前にね、竜作さん向こうへ行っちゃったら、こっち困るんじゃないかな」

新次郎「いやあ、なんとか健坊間に合いますから」縁側に座る。

 

もと子「一度ね…」

新次郎「は?」

もと子「まあ、健一と竜作さんはいずれ一緒の仕事をするんだから、あんたから2人呼んでなんとか言ってもらえないかしら」

新次郎「ええ」

もと子「だって、ああ会う度にケンカしてちゃ仕事にならないもの」

新次郎「ハハッ、そうですね」

もと子「今夜にでもね、2人を呼んでこっぴどく叱ってやってくださいよ」

新次郎「ええ」

もと子「いつまでも別の仕事をさして引き離しておくわけにいかないんですからね」

新次郎「そうですね。まあ、2人呼んで今夜にでも叱ってやりますよ」

もと子「分かってますか? こっぴどくですよ」

新次郎「ええ」

 

割と広いキャバレー

ホステス「あら、新さん」

新次郎「えっ? ああ」

新次郎のあとから店に入ってきた竜作は戸惑いの表情を浮かべている。

 

ホステス「どうしたのかと思ってたのよ」

新次郎「調子いいね、まったく。この間、呼んだとき、来やしなかったじゃないか、あんた」

ホステス「あそこにいたお客さんでしょ? 離さなかったのよ、しつこくて」

新次郎「ホントかい?」

ホステス「大きな声出して笑っちゃってさ」

 

しかし、新次郎は常連っぽいし、手馴れた感じね。

 

新次郎は席に座り、ビール3本注文。隣に座ったホステスのほか、あけみ、ルリ子を指名する。

 

ホステス「バカに景気いいのね、今夜は」

新次郎「当たり前さ。お前、連れがいいだろ? 連れが」

ホステス「あら、ホント。いい男だわ、2人とも」新次郎の右隣にホステス、竜作。左隣に健一。

新次郎「ハッ、2人ともモテるぞ~、おう、飲めよ、今晩は」

 

竜作はちょっと笑顔を見せるが、健一はやって来たホステスになれなれしく触られムスッ。

 

ボーイの真崎竜也さん、ホステスの長沼美枝子さんも「二人の世界」出演者。どっちも何の役か分からなかった。真崎竜也さんは3、12、25話。長沼美枝子さんは25話。真崎さんはもしかしたら麗子の父の運転手で長沼さんは客かなあ?

 

酔っ払った新次郎を肩を貸して帰ってきた健一。アパートの階段を上りながら新次郎は歌う。

 

♪おふくろさんよ おふくろさん

空を見上げりゃ 空に…

おふくろさん

おふくろさん

  • provided courtesy of iTunes

森進一「おふくろさん」1971年5月5日発売。

 

ほえ~、新曲だね。このジャケットの森進一さん、「兄弟」の静男みたい。

 

テーブルに突っ伏して寝ていたとし子。テーブルの上には編み機。

 

新次郎を送り届けて帰ろうとした健一だったが、新次郎が家に上げる。ドアを開けたとし子はムッ。

 

新次郎「今夜は健坊とハハッ、飲んじまってな」

とし子「だからってねえ」

新次郎「うん?」

とし子「飲んだくれていいってわけじゃないんですからね」

新次郎「いや、なに、ちっとも飲んだくれてなんかいないよ。いや、健坊なんかさ、ほんのちょっとしか飲んじゃいないしね。俺はお前、出されちゃったものはしょうがねえじゃないかよ。だからちょっと…ハハハッ」健一に入るよう手招きする。

 

健一「お邪魔します、ちょっと」

とし子「どうぞ」

新次郎「おい、早くここへ座れよ。ねっ、掛けな。ちょっとちょっとこれ片づけろ、片づけろ、ほら」

 

新次郎宅のドアのドアスコープ、内側に小さなピンクのカーテンがかかってる。

 

とし子「これね、片づけんのは大変なんですよ」

健一「あっ、いいよ、新さん」

新次郎「えっ?」

健一「あっ、奥さん、こんばんは」

とし子「いらっしゃい」

健一「あっ、水1杯ごちそうになって帰りますから」立ったまま。

 

なんだよ、とし子にはちゃんとした言葉遣いでさ。

 

新次郎「なんだよ、そんなこと言うなよ。いや、ブランデーのいいのがあんだよ、なっ?」

とし子「あっ? 飲む?」椅子から立ち上がる。

健一「いや、ホントに水でいいんです」

とし子「うん」座る。

新次郎「いや…」

 

健一「ちょっと俺、新さんに話があるんです」

新次郎「なんだい? 話ってのは」

健一「うん。ホントは奥さんがいないほうがいいのかもしんないけど。でも、その気になったから言うよ」

新次郎「ああ…よし、じゃ、ここへ掛けろ。おい、うん?」

 

健一「今日だけのことに限って言うよ」

新次郎「ああ。あっ、ちょっと水。俺も」とし子は編み機を片づけていたが、ムッとしながら立ち上がる。

 

新次郎「うん?」

健一「今日、新さん、おふくろに俺とあいつをこっぴどく叱ってくれって言われたんじゃなかったのかい?」

新次郎「ハハハッ。まあ、そういうことだな」

健一「じゃあ、なぜ怒んないでキャバレーなんか連れていったんだよ」

 

とし子「あんた! キャバレーなんか行ったの?」

新次郎「いや、行ったって、ただ行っただけじゃないか。別に何もありゃしねえんだからいいだろ?」

とし子「お金たまんないじゃないのよ。キャバレーなんか行ってたら」

新次郎「ま…待てよ。今、別の話をしてんだからね。横から…なんか言うなよ、もう」

とし子「んっ!」雑に水の入ったコップをテーブルに置く。

 

新次郎「おい、健坊。お前、何もそういうこと女房の前で言うこたないだろ? わざわざ」

健一「うん」

とし子「言ったほうがいいのよ」

新次郎「うるさいな、お前は!」

とし子「な…何よ、偉そうに!」新次郎のコップを取り上げた。

新次郎「ちょっと、水…あっ…いや、あのね、健坊。男ってのはね、相手が困るようなことは場所を選んで言うもんなんだよ、ホントに」

健一「うん」

新次郎「いやね、そういう心配りがね、どこまでできるかってことがだな、その男の値打ちを決めるってぐらいのもんなんだぜ」

 

せきばらいしたとし子がムッとしたまま、奥へ。

 

とし子が悪妻っぽい描写が続いてたけど、新さんも女も酒も好きな男で、こんなふうに夜遅くに帰る日もしょっちゅうだとしたら、とし子が午前中眠いのもなんだか分かるけどな~。竜作ともバーで知り合ったんだもんね。

 

健一「帰るよ、悪かったよ」コップの水を飲む。

新次郎「いやいや、いいよ、いいよ、いいよ。おい、言いかけたんだから、みんな言っちまいなよ。そんなもん、どうせキャバレーのことは、みんなバレちゃったんだ」

健一「いいんだ。やっぱりここで言うことじゃないよ」立ち上がる。

新次郎「えっ? いや、おい、もうちょっと飲んでけよ、なっ?」

健一「ダメだよ。俺、酒が嫌いなんだ、きっと」←未成年だもんね。

新次郎「おい、健坊」

健一「うん?」

新次郎「俺…どなりつけたほうがよかったかな」

健一「うん、まあね。さよなら」←怒鳴りつけても反発するタイプに見える。

 

玄関のドアを閉めた健一に新次郎が「待てよ、健坊」と出てきた。「他にまだ文句あるか?」

健一「うん、ちょっとね」

 

二人はアパートの階段に並んで腰掛けた。

新次郎「確かにどなりつけたほうがよかったよな」

健一「うん」

新次郎「偉そうな顔してお説教するの俺は苦手でな」

健一「俺だってどなられたくはないけどさ。どなったって言うこと聞くか分かんないけどさ。酒飲ましたぐらいでニコニコするような俺じゃないよ。あいつだって、それでおとなしくなるようなヤツじゃないよ。今日、新さん下小屋で俺を怒ったろ?」

新次郎「ああ」

健一「だけど、ああいう気まぐれみたいな怒り方、俺、困るんだよ。教えんなら多少順序立てて教えてくれよ。ホゾを間違えたとき関係のないカンナの研ぎ方まで怒るんじゃ俺、ちっとも上手にならないよ」

新次郎「おっかねえな、おい、ハハハッ」

 

健一「今んとこ、やる気、十分だからね」

新次郎「うん。いや、だけどな、俺は自分ですぐずっこけちまうからね。人に文句言ってて、じゃ、自分はどうなんだいって、ハハッ、すぐそういう気持ちになっちゃうんだな」

健一「新さん、優秀じゃないか」

新次郎「いや、俺はどっか自信がねえんだな。どっかでね、俺は人をどなるようなガラじゃないっていう気持ちがあるんだよ。フフッ」

健一「割合神経が細かいんだね」

 

新次郎「まあ、ホント言うとね、自分の仕事だけちゃんとやってさ、あとは関係ねえってのが一番向いてんだけどな」←分かるぅ~!

健一「棟梁がそんなこと言ってどうすんだよ」

新次郎「うん? そうだな」

健一「ガンガン威張んなよ。ホントにいい腕してんじゃないか」

新次郎「いや、お…おう。うん、そうだな。ハハハハッ」

 

健一は「おやすみ。ごちそうさまでした」と帰って行った。

 

ちょっと前に旧ツイッターで見かけた新人の子がこんな怒り方では新人は委縮しますみたいなことを書いてた人を思い出した。今どきの若者は~というより、こういうことをいう若い人がどの時代にも一定数いるのだということだろうね。

 

下小屋

新次郎「そうだ、腰落として、おい、グラグラグラグラすんな。おい、手元見んだ、手元! よそ見してると手ぇぶっ飛ばすよ」

 

並んでカンナを研ぐ新次郎と健一。

 

電気カンナを使う健一の背中を支える新次郎。結局手取り足取り優しいよね。

 

現場から大工道具箱を肩に担いで帰ってきた竜作。近藤正臣さんも出演していた「カーネーション」の泰蔵兄ちゃんを思い出すよ。

 

健一を指導する新次郎を見て、唇をかみしめる。うらやましい?

 

新次郎「よう!」

竜作「どうも」

新次郎「終わったのかい?」

竜作「ええ」

新次郎「半日だったな」

竜作「ええ。ああ、あの…クズみたいの燃しといてくれっつったんですけどもね。燃やしきれないって言うから」

新次郎「ああ、そう。じゃ、車かい」

竜作「ええ。車であとで取りに行くっつったんですけど」

新次郎「じゃ、行ってくれるか?」

 

竜作「悪いんですけど、今日はこれで暇をもらいたいんですよ」

新次郎「うん、どうして?」

竜作「ちょっと人に会いたくて」

新次郎「あっ、そっか。そいじゃ俺が行くか」←やっぱり優しい。

竜作「すいません」

 

健一「車で行きゃ、わけないじゃないかよ。自分でやりゃいいじゃないか」

竜作「おう、おめえにそんなこと言われる筋合いねえぞ」

新次郎「おいおい、ちょっと待てよ。どうしてお前たちそう仲悪いんだよ、ええ? わけ分かんないじゃねえか」

健一「俺だってわけ分かんねえよ」

竜作「おめえが突っかかってきたんじゃねえか、今」

健一「いつもお前じゃないか!」

 

新次郎「いいから、待て。おい、竜作の増築は終わったんだよ。あしたから一緒に働くんじゃねえか。ケンカしてて仕事になるか、仕事に。自分の時間でケンカするのは勝手だけども俺まで巻き込まれるのはごめんだからな。いいな? 分かったな?」

健一「分かったよ」

新次郎「おい、いいな? 竜作」

竜作「分かったよ」

 

新次郎「よし、じゃ、片づけ俺が行ってくる。お前、会ってこい、彼女と」

竜作「女じゃないんですよ」

新次郎「ハッ、なんだ、そうか」

竜作「じゃ、お先に」

新次郎「はい、ご苦労さん」

 

竜作「おい、新米」

健一「俺の名前はな…」

竜作「俺のカンナも研いどけよな」

健一「ちきしょう、あの野郎」

新次郎「なんだい…お前らちっとも分かっちゃいねえじゃねえか」

健一「誰だってあんなこと言われれば怒るよ」

新次郎「健坊、俺だって無理してんだよ、ええ? ちっとはお前らも無理して俺の言うこと聞いてくれたっていいじゃねえかよ」

健一「聞くさ。だけどあいつ、ただじゃおかねえからな、絶対」

 

竜作が歩く後ろ姿のシーン。「兄弟」では紀子と静男が歩いていたところと同じらしい。尾形工務店は紀子の実家の近所なんだね。

 

夜、堀田が和服姿で訪ねた。

もと子「しばらく来なかったわね」

堀田「ええ。駅前の食堂会館の仕事なんか受けちゃったもんだからね。その打ち合わせやなんかで」

もと子「ああ、そう」

 

堀田「あねさん、風邪ひいたんですか?」

もと子「えっ?」

堀田「いやいや、声がおかしいじゃないですかい」

もと子は口に人差し指を当てる。

堀田「えっ?」

もと子「健坊が寝てるのよ」と家に上げる。

 

堀田「ハハハハッ、あねさんも甘いな、なんだかどうも」

 

茶の間に座布団を枕に寝ている健一に布団が掛けられている。

 

もと子「フフフ…ご飯食べたらすぐ寝てしもたのよ」

堀田「ヘヘッ、まるであねさん、生まれたての赤ん坊見てるようだねえ」

 

台所へ移動

堀田「まあ、あの健坊がくたびれて寝ちまうほど働いてんだ。子供ってのはあんまり恵まれすぎんのも考えものだね」

もと子「案外ね、親思いなんでホッとしてんのよ」

堀田「ああ、ところであねさん、建て前の日取りだけど…」

もと子はシーッと合図。

堀田「えっ? ああ。建て前の日取りだけどね」声を小さくする。

もと子「ええ。あっ、そのことでね、私、頭に電話しようと思ってたのよ」

堀田「コンクリはもういいですよ。あさってあたり固まっちまうから」

もと子「それね、新さんとも話してたんだけどね」

堀田「ええ、ええ」

もと子「あの…5日の月曜日が日がいいと思ってね」

堀田「そうか、5日。いやいや、私もそれがいいなと思ってたんだよ」

 

1971年7月5日(月)大安

 

もと子「すいませんね、心配かけて」

堀田「ヘヘッ、健坊の初めての建て前だ。こっちだって熱が入っちまうわな」

もと子「ねえ…お父ちゃんがいないんだけど、うまいことやってくれたらいいんだけどなあ」

堀田「やってけるさ。ああやって寝てりゃかわいいけども結構しっかりしてんだから、健坊は」

もと子「建て前だけは景気ようやらしてやりたいのよ」

堀田「そうだね。弔い合戦の建て前だもんな」

うなずくもと子。

堀田「いいさ。景気よくやってやるさ。励みになる建て前をな」

もと子「おおきに」

肩たたき

肩たたき

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肩たたきのインストバージョンが流れ、見守るもと子と堀田、健一の寝顔でつづく。

 

いや~、ホント、近藤正臣さんかっこいいよねえ。健一はもう少し年上への態度を改めた方がいいと思う。