公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)が、藤井(赤塚真人)が書いたものらしい手紙を発見する。正道(鹿賀丈史)に読ませると、中身はなんとラブレターだ。正道は、藤井が元子に宛てて書いたのでは?と怒るが、しだいに、誰かとの間を元子と正道に取り持たせるために、わざと落としたものではないか?と分かる。モンパリに藤井を呼んで真意を聞くと、意中の人は巳代子(小柳英理子)だと告白する。元子はさっそく藤井の気持ちを巳代子に伝えるが…。
大原家
天板のないこたつの上に置かれた手紙。
手紙はどうやら藤井が落としていったものと思われます。
正道「ただいま」
元子「あっ、お帰りなさい。お疲れになったでしょう」
正道「ん…はい」カバンを渡す。
元子「はい」
正道「あっ、お義母(かあ)さん、今日、病院に行かれたんだって?」
元子「あら、寄ってくださったんですか?」
正道「うん。だいぶいい方、向かってるってね、お義父(とう)さんも喜んでらした」
元子「あっ…どうもすいません」
正道「どうだ? 体の調子は?」
元子「ええ、大丈夫。2度目だからかしら、つわりも軽いし」
正道「うん、顔色もいいな」
元子「うん」
正道「うん」
元子「あっ、お食事は?」
正道「お茶漬けぐらいでいいな」
元子「はい。そいじゃ、すぐに支度しますから。あっ、そうだ。その手紙、ちょっと読んでみてくださいな」
正道「うん? 何だ、これ藤井君の字じゃないか」
元子「やっぱり?」
正道「うん」
元子「宛名書きがないから中身を確かめてみたんですけどね、藤井さんのだとしたらちょっと気になることがあるんです」
正道「うん。え…『思い切って書きます。ですから、どうか驚かないで最後までお読みください。はっきり申し上げます。この度、あることに直面して僕はずっと前からあなたが好きだったことに改めて気付いたのです』。何だよ、これ!」
元子「多分、ラブレター」
正道「ラブレターって…。ラブレター落とすやつがどこにいるんだよ!」
元子「いいから、その続きを読んでみてくださいな」
正道「断るよ!」
元子「正道さん?」
正道「僕にはね、妻に来たラブレター読む趣味なんかないよ! そりゃ、隠し事しないっていう精神はうれしいけども…。いちいちこんなの見せてほしくなかったよ」
元子「ちょっと待ってよ。宛名がないんですよ、このラブレターには」
正道「それは他人に見られた時に驚かないようにっていう藤井が君に対する誠意だよ」
元子「だからどうして私に決めちゃうんですか? 藤井さんに断りもなしに読んでいただいたのは、あなたに心当たりがあるんじゃないかと思ったから」
正道「心当たり?」
元子「そうですよ。あなたと藤井さんとは、もう4年越しのおつきあいなんでしょう。藤井さんがこれだけの熱烈な手紙を書く相手が誰なのか見当くらいつきそうなもんだわ。もしも見当がつかないんだとしたら、あなたって、相当冷たい人(しと)なのか勘が悪いのか、そのどっちかです」
正道「いや、だって…」
元子「だから、おしまいまでちゃんと読んでください」
正道「うん。え…」
藤井の手紙「実はこの度、見合いの話を持ち込まれました。ということは、いくらかは他人にも僕の仕事と生活力が認められたということではないでしょうか。となれば、僕はもう結婚を申し込んでもいい資格がある男だということです。お願いします。僕を結婚相手と考えていただけませんか。しかしながら、どうしてもその気になれないとおっしゃるのなら僕はおとなしく旗を巻いてくにへ戻るつもりでおります」
正道「何だ…情けないなあ、もう!」
元子「あ…。『ただそうすると、今、お世話になっている大原さんに申し訳ないことになるので僕としてもつらい立場にはなるのですが、お返事は決して急ぎません。待つことは慣れておりますので、あなたがそのお気持ちになってくださるのなら何年でも待つことは、いといません』。ねっ」
正道「うん。脅迫だ、これは」
元子「えっ?」
正道「分かった。やっぱりね、これは君に対するラブレターだよ」
元子「あなた」
正道「君に読ませて、それから君が僕に読ませるようにしむけた恋文だよ」
元子「もう、いいかげんにしてください!」
正道「いやいや、我々2人にね、ある人との仲を骨折ってもらおうっていう策略に満ちた藤井の作戦だよ」
元子「作戦?」
正道「うん…。あ…失礼なこと言ってすまなかったね」
元子「当たり前です」
正道「あ…ハハ。そのかわりっていうわけじゃないけども、この際、藤井の作戦、乗ってやろうか! まあ、策略っつっても、どうせ考えた末のことなんだろうし…」
元子「ええ。私も何となくそんな気がしないでもなかったから。だから…」
正道「それで、心当たりないの?」
元子「あなたにないもの私にあるわけないでしょう」
正道「ああ…」
元子「ねえ、取引先(とりしきさき)のお嬢さんとか会社の近くの娘さんとか」
正道「いや、そういう女性、僕はあんまり気にしたことないからね」
元子「ええ、あんまり気にされても困りますけどね」
正道「ん? ああ、そうだね」
元子「とにかくお茶漬けでしたよね」
正道「うん」
元子「ねえ、藤井さん、あなたのこと兄のように慕ってるんですから責任持って、ちゃんと考えてあげてくださいよ」
正道「うん」
その翌日、正道は早速、藤井の作戦に乗って一肌脱ぐことになりました。
夜、珈琲モンパリ
藤井「そうですか。見破っていただいて感謝してます。それであの…あの人の反応は?」
正道「あの人って?」
藤井「えっ…それじゃあ、まだあの人には何も?」
正道「だから、あの人って誰なんだよ?」
藤井「からかわないでくださいよ」
正道「いやいや、ちょっと待てよ。それ、僕の知ってる人かい?」
藤井「もちろん!」
正道「ふ~ん」
藤井「奥さんは何ておっしゃってましたか?」
正道「奥さんって、元子?」
藤井「そうですよ」
正道「元子はね、僕に心当たりがあるだろうって」
藤井「そんなあ…」
正道「そんな…何? じゃあ、元子も知ってるお嬢さんなのかい?」
藤井「もういいです!」立ち上がる。
正道「藤井君」
藤井「そりゃ、僕は自分でも慎み深い男だと思ってますよ。だからお二人なら当然分かってくれて、もしかしたらもう話をしてくれているか、あるいはあの手紙を渡していただけたかと思ったのに」
正道「いや、だってさ…」
藤井「いいんです! ご夫婦そろってそんな冷たい人たちだったなんて思ってもみませんでしたよ」
正道「いや、そんなこと言ったってね…」
藤井「あんまりです。きょうだいでありながら、あの人が気の毒です」
正道「きょうだいって…。あ~、それじゃあ…?」
洋三「ああ…へえ~、やっぱり? 相手は巳代ちゃんだね?」
藤井「マスター」
正道「おじさん…」
洋三「いやいや、おおっぴらに店を開けるようになってから、ずっと巳代ちゃんに来てもらってたんだけどさ、あの子、愛きょうがいいから彼女目当てのお客さんが結構多くてね、それをがっちりガードしてたのがこの藤井君ですよ。ああ、まさかと思ったけど、やっぱりそうか」
正道「そうだったんですか。いやぁ、元子も僕も巳代ちゃん、まだ子供だとばかり思ってたもんだから」
藤井「とんでもない。あの人は21ですよ。花の適齢期です!」
正道「じゃあ何で直接本人に言わないんだ?」
藤井「そんなことができればこんな面倒な苦労しませんよ」
正道「だって今日や昨日の知り合いじゃないだろう」
藤井「そういうことは関係ないんですよ」
洋三「あ~、分かった分かった。じゃあ、こうしよう。ねっ。ぼんやり姉さんの罰として、もっちゃんに巳代ちゃんの気持ちをきかせる。どうだい? これで」
藤井「そうですとも! 僕だって初めっからそのつもりでいたんだから」
洋三「フフフフフ…」
正道「おかげでこっちはとんだ勘違いしたよ」
藤井「何がですか?」
正道「いえいえ…いや、こっちの話だけどね」
藤井「そうですか。駄目なら駄目で諦めますから、どうぞよろしくお願いします」
正道「いや、今から諦めてんじゃ見込みないな」
藤井「いや、それは言葉のあやで…。そんな殺生な」
絹子「ところで藤井さんは巳代ちゃんと結婚したいって、どういうところでお思いになったの?」
正道「ああ、そうだそうだ。まず、それ聞いとかなきゃ、ねえ」
藤井、モジモジ。
正道「ん?」
桂木家2階
巳代子「それで藤井さんは何て?」
元子「食べるものの趣味がね、とってもよく似てるからって」
巳代子「それだけ?」
元子「フッ…細いお目々が気に入ったとか、あなたのかぐわしいお姿なんて言葉は、その気があるんだったら直接、本人からお聞きなさいな。私は藤井さんの気持ちを伝えるだけだから」
巳代子「意地悪! そんな恥ずかしいこと自分じゃ聞けないわ」
元子「巳代子が恥ずかしくて聞けないこと、お姉ちゃんに聞けるわけないでしょ」
巳代子「はい…。じゃあ、お姉ちゃんやお義兄(にい)さんは藤井さんのこと、どう思う?」
元子「そうねえ…。初めの頃はね、とってもうさんくさい人だなって思ったの。だけど、今じゃ半分はうちの人みたいになってるし…。だからピンと来なかったんだけど、それだけ抵抗がないっていうのかなあ。まあ、悪い人じゃないと思うけど」
巳代子「うん」
元子「でも結婚すんのは巳代子なんだから巳代子の気持ち次第だと思うのよ」
巳代子「うん…」
元子「よく考えてごらん。一生のことなんだから」
巳代子「うん。そうする」
元子「じゃあ、巳代子の気持ちが固まったら、お父さんとお母さんにはお姉ちゃんが話てあげるから。ねっ」
巳代子「ねえ」
元子「ん?」
巳代子「お姉ちゃん、大原さんと結婚して幸せ?」
元子「うん。幸せよ。ただ…」
巳代子「ただ?」
元子「少し早かったかなって思う時はあったけど」
巳代子「どうして?」
元子「何をやっても中途半端な気がして…。だから正道さんには申し訳ないと思ってるもん」
巳代子「ふ~ん」
元子「これはさ、巳代子もそうなのかもしれないけど、私たちって子供の時から母親がせわしなく働いてる姿を見て育ったでしょ」
巳代子「うん」
元子「だから、旦那様の仕事に参加できないさみしさって感じることがあると思うのよ」
巳代子「うん」
元子「藤井さんとよく話し合ってごらんなさいよ。今更、顔見ただけでモジモジって仲でもないんだから」
巳代子「うん」
元子「それじゃあ」
巳代子「う~ん…ただね…」
元子「何?」
巳代子「お母さんの具合がもう少しはっきりしないし、来年になればお姉ちゃんお産だってあるでしょ。だからそれまで結婚なんて考えられないの」
元子「あっ、巳代ちゃん…」←珍しい巳代ちゃん呼び。
巳代子「それこそ中途半端になるような気がして。だからそれまで藤井さんが待ってくれるなら、私だって藤井さんのこと嫌いじゃないし」
元子「分かったわ。どうもありがとう」
巳代子「そのかわり、今度はしっかりとかわいい赤ちゃん産んでちょうだいよ」
元子「うん」
さあ、この返事を聞いて藤井が喜んだのは無理もありません。
モンパリから出てきた藤井は店の前で「万歳!」と叫び、道でも「万歳! 万歳!」と叫びながら歩いていった。
桂木家茶の間
トシ江「そいじゃ、なおのこと私が早く元気にならないといけないわね」
正道「はい、そういうことですよ」
宗俊「あ~、まあ、けどな…」
元子「私の時みたいに土壇場になって反対されても困るんですからね。何か気になることがあるんだったら今のうちに言いたいことを言ってくださいな。ただし、新しい法律では結婚はあくまでも本人同士の意思次第ってことになってんですから、その点はお忘れなく」
宗俊「なにもそうけんか腰に突っかかってくることねえじゃねえか」
元子「だって」
正道「いや、そうだよ。本人の意志も大切だけれども、みんなに祝福してもらえない結婚っていうのは、どこかに無理があるっていうことなんだから。ねっ」←いい言葉。
宗俊「まあな、あの男もよ、何となくかわいげのあるやつだとは思っちゃいたんだがな、けど、おめえ、まあ、愚痴を言わしてもらえば一人(しとり)ぐらいは同じ紺屋に嫁がせたかったと思ってな」
トシ江「けど、善さんのことも考えなくちゃいけませんよ。ねっ、正道さん、いい娘さんがいたら、ひとつよろしくお願いします」
正道「あ…いや、私、あんまりそういうの自信がありません」
宗俊「お前も正直なやつだな、え? そういう時は仲人口ってのはな『はいはい』って調子合せときゃいいんだよ」
元子「だけど、私は正道さんのそういう調子のよくないとこが大好きなんだもの」
宗俊「ケッ!」
正道「あっ…」
宗俊「こりゃ、親の出る幕じゃねえな、おい。え」
正道「いえ…そんなことありませんよ」
宗俊「ハハ…本気になりやがって、お世辞だよ、お世辞」
元子「お父さん」
宗俊「何を? ハハハハ…ざまあ見ろ」
笑い声
幸い、暮れまでにはトシ江の体も回復し、元子のおなかも順調でした。
吉宗前の路地をでっかいケーキの箱を持った藤井が歩いてくる。バックに流れるのはジングルベル。昭和24年の12月か。
藤井「巳代子さん! 藤井です!」
巳代子「はい!」
藤井「きれいだ…。すてきですよ、巳代子さん」←巳代子、スタイルがいい。
巳代子「グフフフフ…」
元子「まあ、なんて笑い方」
トシ江「ひとつよろしくお願いします」
藤井「あっ、はい。あ…それでこれクリスマスケーキなんですけど皆さんで召し上がってください」
元子「どうもすいません。こんなすごいものどこで売ってたの?」
藤井「いえ、特別に焼かせたんです」
元子「まあ…」
トシ江「まあ、いつもいつもすみません」
藤井「巳代子さん、行かないんですか?」
巳代子「せっかくのケーキですもの、出かけるのは食べてからにしましょうよ。今、私が切りますから! アハハ!」元子が持っていた箱を持って奥へ。
さすが食いしん坊が見込まれて婚約した巳代子。こういう時でもその面目は躍如としておりました。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
いいね~、巳代子。「ゲゲゲの女房」が朝ドラ初の専業主婦ヒロインと言われていたけど、布美枝は自営業者の妻だからトシ江みたいなもんで、サラリーマンの妻とは違うと思うんだけどなあと思ってた。仕事が増えてプロダクション化したからまた違うかもしれないけどさ。
昔はこうやって独り者がいればみんなでくっつけるから大体の人は結婚してったんだろうね。