公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
藤井(赤塚真人)と巳代子(小柳英理子)夫婦の引っ越しでヘソを曲げた宗俊(津川雅彦)をなだめに正道(鹿賀丈史)がやってくる。話を聞く気がない宗俊にたまりかねて巳代子が口を出そうとするのをトシ江(宮本信子)が抑え、正道は、両親を早くに亡くした藤井にとって、宗俊とトシ江は本当の父母のように大切で親孝行したいという思いがあると諄々と説き、引っ越し騒動は無事収まる。そんな矢先、思わぬ出来事が正道を襲う。
新たに起きた巳代子夫婦の引っ越し問題で元子に頼まれた正道は仕事の帰りに人形町へ顔を出しました。
夜、吉宗前を歩く人は浴衣姿。
桂木家茶の間
いつもの長火鉢の前にいる宗俊と向かい合って正座している正道、藤井。
宗俊「どこで示し合わせたか知らねえが、え、別にわざわざ大(でえ)の男ががん首そろえるほどのことじゃあるめえ」
正道「いえ、しかしですね…」
宗俊「俺はこいつに言ってるんだ」
藤井「はい」
宗俊「おめえがな、どこへ引っ越そうと俺んちにゃ何の関わりもねえこった。それを助っ人頼んでよ、何か言い訳しなきゃならねえってのは、どっか後ろめたいことがあるんじゃねえのか?」
藤井「とんでもないですよ。僕は決してそんな…」
宗俊「だからかえって、そういうふうに思われるだけだって、そう言ってるんだ」
巳代子「あんまりよ。祐介さんのことになるとどうしてお父さんはいちいちそう悪く取るのか。私はさ…」
トシ江「あんたの出る幕じゃないんだよ」台所から出てきた巳代子を連れ戻す。
宗俊「うるせえな。夫婦そろってガタガタわめくんじゃねえ」
藤井「お義父(とう)さん。それはないですよ、お義父さん」
正道「どうもすみません。出過ぎたことをして申し訳なく思っておりますが、先に祐介君から話を伺いました。それでですね、まあ、この件に関しましては、やはりお義父さんに祐介君と巳代子さんの気持ちを分かっていただきたくて、それで私もこうやって一緒にがん首そろえてるってわけなんですよ」
こういう落ち着いてるときの諭すような口調、やっぱり金八先生っぽいんだよな~。演じる人が違うと感じ違うし、金八先生はだんだん激昂してくるけどね。
宗俊「ガキじゃあるめえしな、もうすぐ自分の会社を持とうって社長さんなんだ、え。おめえがどこへ引っ越そうとな、俺ぁ文句言った覚えはねえんだ。言いたいことがあるなら、てめえで言えって、そう言ってるんだ。俺の言ってること、何か間違ってるか?」
またまた台所から出てくる巳代子。「ひきょうよ。自分の口から何にも言わないかもしれないけれど、秀美堂のおじさんたちに言いつけてさ、盛んにいろいろあおりたてているでしょう」
トシ江「巳代子! ほら…」また奥へ。
宗俊「女がな、男の話し合いの中にガタガタくちばし入れてお前、話、こんがらがすんじゃねえや」
藤井「お義父さん」
正道「いや、あの、それじゃあ足りないところがありましたら、私が補足いたしますんで。な、祐介君…」
藤井「小さな庭のついた赤い屋根の日当たりのいいうちは、はい、巳代子さんと結婚した時から、これが僕の夢でした。ところが幸いといったら何ですが、出版社が倒産し、大原のお義兄(にい)さんが松江へ帰られ、そのあと僕たちがあのうちへ入れていただいて、どれほど助かったか分かりません」
宗俊「それじゃ、お前、正道っつぁんに礼を言やあいいんじゃねえか」
藤井「それはもちろんです。しかしですね、屋根は赤くはありませんでしたが、弘美もそこで生まれ、おじいちゃんおばあちゃんにかわいがられ、面倒見てもらい、どれほどありがたかったか分かりません。巳代子にしてもそうしていただけたからこそ、近頃、料理の先生だなんて呼んでもらえるようになったわけですし、僕にしてもですね、ここでなんとか恩返しがしたい、そう思ったんです」
宗俊「じいさんばあさんが孫かわいがってな、なにも恩返しされる覚えはねえんだ」
藤井「しかし、男がいつまでも女房の実家に甘えっぱなしでいるということは親孝行にはならないんじゃないでしょうか」
藤井の言いたいことはここなんだろうけど、今の人には理解しにくいんだろうな。私だってそんなよく分かってないけどね。
宗俊「巳代子は、おめえにくれてやった娘だ、な。俺がいつ、おめえに恩返ししろ、親孝行しろなんてゆすりがましいこと言ったんだ?」
藤井「そんな…そんなことじゃないんですよ」
宗俊「やめだ、やめだ。俺ぁな、男の泣きっ面ってえのは大(でえ)嫌いなんだ。もう、よせ、よせ」
正道「ちょっと待ってくださいよ、お義父さん。祐介君には親はないんですよ」
宗俊「んなことは分かってらあ」
正道「だったらどうして分かってやってもらえないんですか。まあ、こいつのことだから、お義父さんに面と向かって言わないんでしょうが、巳代子さんと結婚して、お義父さんお義母(かあ)さんと呼べる人が出来た。義兄さんと呼んでくれる弟が出来た。一つ物をもらってきても5つに分けて食べる家族が出来たって心の底から僕に言ったことがありました。その時の彼の涙は本物でしたよ」
台所
正道の話を聞きながら涙を流すトシ江と巳代子。
正道「僕はこちらには何のお役にも立てませんでしたが、祐介君は早くに両親を亡くしたせいもあって、お義父さんお義母さんを本当の親だと思ってるんです。その言葉にうそ偽りはないって僕は信じてるんですよ。確かにタダ同然の家賃で置いていただいて経済的には助かってるでしょうが…」
藤井「お義兄さん、しかし、それは…」
正道「いや、分かってるよ。いずれ自分の力で赤い屋根の家を建ててみせたい。そう思って彼らががっちり貯金してるのも、みんなお義父さんお義母さんに安心していただきたいと思ってるからこそですよ」
藤井「そうなんです。そのとおりなんです。で、今までに土地の物件が何度かあったんですが、いざとなるとどうしても僕も巳代子もこの人形町を離れる決心がつかなくて…」
宗俊「そりゃまたどうしてだ?」
正道「いや、それは…ちょっと言いにくいことなんで、お叱りを覚悟で僕が言いますけれども」
たまらず巳代子がまた茶の間へ。
藤井「お義兄さん」
首を振る巳代子に「大丈夫だ」という笑顔の正道さん、かっけえ!
台所にいた巳代子とトシ江は茶の間の隅に座る。
正道「僕も祐介君も男の兄弟がないせいがあって、順平君の将来がとても気がかりなんですよ」
宗俊「順平のことは、もうとっくに話はついてる」
藤井「確かにそのとおりです。僕たちが口を挟むことじゃないかもしれませんが、けれど、海のものとも山のものとも順平君の将来は決まってません。しかしですね、そういう彼の若さと純粋さを僕たちは大切に見守ってあげたいんですよ」
トシ江「祐介さん…」
藤井「しかし、お義父さんもお義母さんも失礼ですが、もう決してお若くありません」
宗俊「この野郎、それが大きなお世話だってんだよ」
巳代子「お父さん」
正道「いや…しかしですね、僕たちは、その順平君に納得のいく自己の追究をしてほしいんですよ」
宗俊「あのな、おめえの言うことは時々、難しすぎるんだよな」
正道「はあ…ああ、どうも申し訳ありません。しかしですね、2人が向かいのマンションに新居を構えようとしたのも順平君のこと、お義父さんのこと、お義母さんのことを考えた上でのことですし、僕も元子もそれには大賛成で祐介君に感謝してるんですよ。まあ、干し場に関してでもですね、多少、日陰になる程度は済むはずですし、まあ、その対策としましては、こちらの屋根を改築して屋上を使用すれば問題は解決するんじゃないかと思っておりましたもんですから…」
宗俊「分かった」
藤井「お義父さん」
宗俊「分かったと言ってるんだ」
巳代子「お父さん…」
宗俊「俺ぁ、分かったと言ってるんだ!」
トシ江「そうよねえ。独立すれば大きくなくたって社長さんだし、その社長さんが娘の実家の家作住まいってわけにもいかないしね。それにまあ弘美(しろみ)だって中学になれば、あのうちは手狭になることは分かってたんだもんね」
巳代子「それにね、やがてもう一部屋分買えたら、お料理学校だってできるし、何たって、この家まで、げた突っかけられて来れるっていう…」
宗俊「女が話に入(へえ)るとな、グダグダしていけねえや。おい、婿さんたちよ、俺と一緒に来な」
藤井「はあ、しかし…」
トシ江「お願いします、正道さん。多分、秀美堂さんたちもいることでしょうし、一緒に一杯飲んでよく説明して教えてやってくださいな」
宗俊「俺ぁなにも銀太郎へ行くなんて言っちゃいねえぞ」
トシ江「正道さん、祐介さん、本当にありがとう。あなたたちの気持ち、決してあだやおろそかにはいたしません」深く頭を下げる。
宗俊「おい」
藤井・正道「お義母さん…」
宗俊「2人とも俺と一緒に飲むのか飲まねえのか、どっちなんだい、え」
正道「ああ、はいはい」
藤井「はい…」
正道「はい、それじゃお供させてもらいます」
トシ江「行ってらっしゃい」
3人が路地を歩いていく。
大原家ダイニング
元子「はい」コップの水を差し出す。残り6分にしてようやくヒロイン登場。
正道「おう。あ~、うまかった」
元子「ごめんなさいね。でもそこまでつきあってくださらなくってもよかったのに」
正道「え~? いや、そうはいかないよ。しかしな…」
元子「はい?」
正道「もっと強かった人なのに酒は弱くなったし、絶対に無理を通さなくなったな、お義父さん」
元子「何だか寂しいわ、親が年を取っていくっていうのは」
正道「うん…まあ、昔から筋が通れば話の分かってくれる人だったから、祐介君の話、聞いてね、ビルが出来次第、マンションへ引っ越すっていうのを喜んでらしたみたいだ」
元子「ええ。でも、よかった。本当にありがとうございました」
正道「うん。さあ、明日も早いし」
元子「あら、お風呂入らないんですか?」
正道「もう面倒くさいな」
元子「駄目ですよ、疲れが取れませんよ。汗流すだけでもいいですからね、ザブッと入ってください」
正道「君もだんだんお義母さんに似てきたな、ハハ」
元子「えっ?」
正道「えっ…いやいや、何でもない」
元子「嫌だ、何ですか?」
正道「ん? 男はね、上手に手綱を引いてくれるかみさんがいると幸せですよ、ハハ…」
元子「着替え出しときますからね」
正道「おう」風呂場へ。
元子「ついでにお背中も流しちゃいますからね」
⚟正道「お…おう」
巳代子夫婦の引っ越し騒動も無事に収まり、マンションの完成を待つうちに新学期も始まって元子の実話手記が掲載された「女性時代」も発売されておりました。
大原家
茶の間のテーブルに置かれた「女性時代」10月号
特集一、秋の訪問着
二は読めなかった。
茶の間でノートに文章を書く元子。「順平から葉書が来る。私の当選手記に対して相変わらず青臭い感想文を書いてきたほかは、いつもと同じ元気でやってます、ということだけしか書いていない。でも、それが無事の証拠だと正道さんが言ってくれる。目下の悩みの種は巳代子で新居に備え、夢がどんどん膨らむことは分かるが、このところ、やたら家具やらカーテンのカタログを持ち込んでは相談相手を強要し、おかげで私はこのごろせっかくの万年筆を生かせず、まとまった随筆を書く余裕もないありさまである」
日記兼ネタ帳みたいな感じだろうか?
⚟巳代子「こんにちは」
元子「そら来た」
巳代子「ごめんください」
元子「はい、いらっしゃい」
巳代子「はい、これ。すじ肉ひいてね、試作品なんだけど、すじ肉ひいてソーセージ作ってみたのよ。子供にもいいし、コリコリッとすじが残っているのが意外と酒のさかなにも合うみたい。お義兄さんのお口に合えばうれしいだけど」
元子「どうもありがとう。けど、ここんとこ遅いのよ」
巳代子「あ~、大変ねえ、本当にビル工事っていうのは」
元子「そうなのよ。だから私も大変なの」
巳代子「けどさ、専門家としては、お義兄さん、カーテンはどっちの色がいいって言ってた?」
元子「うん、明るい色はね、それだけ日に焼けやすいけど、まあ、明るい部屋にしたいんなら明るい色にすればいいし、巳代子の好みにすればって言ってたわよ」
巳代子「ああ…だから悩んでんのに」
元子「まあ、安物はね、ちょくちょく替えれば気分も変わるって効用もあるけど、まあ思い切っていいものをって思うんなら下手にケチんない方がいいんじゃないの?」
巳代子「うん…」
元子「祐介さん、どうなの?」
巳代子「あ~、あの人(しと)もここんとこ遅いのよ。何たって新しい会社になるんだもの。まさに陣頭指揮です」
元子「巳代子もいよいよ社長夫人で新進お料理研究家ってわけね」
巳代子「お姉ちゃんだって、新進作家の切符が手に入ったってとこじゃないの、ハハ」
元子「フフフ…」
夜、雨の降る広林建設現場事務所前
作業員「お疲れさま」
作業員「お先に」
作業員「どうも、お疲れさま」
作業員…風中臣さん。どこで区切るのか読み方すらよく分からないけど、「ゴジラ(1984年)」などに出演したらしい。
工藤「どうしたんですか?」
正道「え…。どっかでスパナを見たような気がするな」
石原「スパナですか?」
正道「今、9階からずっと見て降りてきたんだけどもどこだったかな、スパナが1丁残ってたような気がするな」
工藤「それ、昼休みの時じゃないですか?」
正道「先に行っててくれ、ちょっと見てくるから」
工藤「じゃあ、僕行きますよ」
正道「あ~、いい。ついでにな、北口の方も確認してくるから」
石原「いや、しかしあっちは大洋組が入ったんですから」
事務所に入る工藤、石原。
石原「お疲れさま」
橋本「おう、お疲れさん」
工藤「お疲れさま」
橋本「おう…大原は?」
石原「ええ、再度点検というやつです」
橋本「ああ」
工藤「ついでに大洋組の現場も回ってくるんじゃないですかね。昨日も遅かったんだし、早く上がればいいのにな」
橋本「と言いながら、一杯誘うつもりなんだろ?」
石原「ばれましたか、ハハハ…」
橋本「よし、じゃあ、俺も上がるとするか」
けたたましい物音
橋本「こりゃ…!」
3人で入っていく。
橋本「大原~! 大原~! 大原! 大原!」
倒れている正道、発見。
橋本「救急車だ! 早く…早く行け! 大原! 大丈夫か! しっかりしろ!」
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
正道っつぁん! 実はナビ番組でもこの場面は見た。元子がこんなに出てこない日も珍しい。
トシ江と巳代子が肩抱き合って泣いてて、意味わかんない!のツイートが多かったけど、私の場合、今のドラマ見てるとそんな感情になることが多いから、あまり見なくなってしまった。