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ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(29)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

親しい人たちを次々と奪われ思い詰めた元子(原日出子)は、正道(鹿賀丈史)に手紙を書いていた。本土決戦になったら大原の戦車に乗せて欲しい、一緒に戦うと。大原から返事の手紙が届いた。しかしそれはゆったりした文学的な内容で、元子は戦争以外にも、世界にはいろいろな物事があることに、もう一度気付くことができた。そんなとき、幸之助(牧伸二)に赤紙が届く。幸之助は妻の小芳(左時枝)に黙って出征すると言い出し…。

吉宗

元子「ただいま」

トシ江「おや、お帰り。手紙が来てるわよ」

元子「誰から?」

トシ江「ん、大原さんから。あんたの机の上に置いてある」

元子「はい」

 

2階へ駆けあがる元子。文机の上の手紙を開ける。

 

正道の手紙「拝復 お手紙拝見。演習に出ておりましたので、ご返事遅くなりました。演習地は○○ 自分が戦車に乗っていることを忘れれば辺りの風景は、まことにのどか。途中、あちこちの農家の庭にへんぽんといくつかのこいのぼりを散見。眺むれば生まれたばかりであろう男児の元気な顔まで想像できるような心地でした」

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ほのぼのとした内容に首をかしげる元子。

 

正道の手紙「それにしても抜けるように青い空といい、五月はまことに男児の祝いにふさわしく、弥生もまた優しき菜の花かれんな桃の色ともども女児の節句にふさわしいものと古人の考えにほとほと感じ入っております。弥生の節句といえば、小生の松江の家には曽祖母の代より伝わるひながありますが、この内裏びなの顔、まことに優しきこと匂やかで、一度、元子殿にもお見せしたいものと思います。小生など、よく飽きもせず見とれていて男のくせにと祖母よりお小言頂戴したものですが、不思議と心が和む、あの顔だちは一体何なのでしょうか。一度、ご意見を伺いたきものと思います。さて、元子殿には土の匂いはお好きでしょうか」

 

階段をゆっくり下りてきた元子。

トシ江「どこ行くの?」

元子「うん、ちょっとね」

トシ江「ちょいとって、どこ行くの?」

元子「だから、ちょっとね」

トシ江「ねえ、元子。大原さん、何か言ってきたのかい?」

 

モンパリ

元子「それが変な手紙なんです」

のぼる「変って?」

元子「おひなさまの顔がどうとか、土の匂いは、ものをはぐくむ匂いではないかとか」

のぼる「文学的だわ」

元子「さあ、文学的かどうかは知らないけど、つまり何の返事にもなってないんです」

 

のぼる「ということはガンコ、もっと勇ましいことを期待していたわけ?」

元子「ううん、勇ましい雄たけび調なら放送局に来る将校さんたちでたくさん。かぼちゃの作り方なんて放送やってる時でも、スタジオから出てくるともっと勇ましい読み方をすればよかったのにってこうなんですもの」

のぼる「じゃあ、何がご不満なのよ」

元子「それが何だか分かんないんです」

のぼる「しっかりしてよ、ガンコ」

元子「でも、ここへ来る道々考えながら来たんだけれど」

のぼる「うん」

 

元子「なぜだか分かんないけど何となく、そのおひなさまの顔が見てみたいなあ…とか改めて土の匂いをかいでみようかしらって。つまり世の中にはいろいろな物や事があるんだなって、もう一度気が付いたみたいな」

のぼる「よかったじゃない。もしかしたら、その大原中尉さん、道を誤ったのかも分からないわね」

元子「どんなふうに?」

のぼる「軍人さんにならずにお医者さんになっていたら、案外、名医になる人物みたい」

元子「ん、嫌だわ。私、別に病気なんかじゃないもの」

のぼる「こっちの病気の人に限って私は病気じゃないって言うそうだから」←自らの頭を指さしてたけど、今こんなジェスチャーはマズいだろうな。

元子「そんな」

 

のぼる「フッ…ごめん。そのとおりよね。私たちの年であまりいろいろ見聞きしたらヘラヘラしていられる方がおかしいのよ。だからってね、ガンコ、最後まで絶望したら駄目よ」

元子「六根…」

のぼる「あなた、この間、言ってたじゃないの。確かに生きた人間として何かしたいって。おじさんは恋をしろっておっしゃったけど、私は残念ながら、まだ恋らしい恋もしていないし、確かに生きた人間としては自分の力で放送員になれたこと、そして、マイクを通じて、いろいろな人の命と関わっているっていう実感が今のところあるだけ。でも最後まで私は、それが何であるか探すつもりよ」

元子「うん」

 

のぼる「案外、ガンコと友達になったっていうことが人生における一番の収穫だったってことだったりして」

元子「まさか」

のぼる「でも、大原中尉さんには感謝しなさいよ。ぬるま湯みたいな手紙で本当によかったわ。この先、まだ長いんだもの。毎日あんな顔していたら、それこそ最後の時が来るまでに、ガンコ、ぶっ倒れてたもの」

元子「そうかしら」

のぼる「そうよ。私が保証する。ねえ、戦争が好転したら一度、連れていってもらいなさいよ。そのおひなさまの顔、見せてもらいに」

元子「そうね、戦争が好転したらね」

のぼる「うん」

 

絹子「あっ、ガンコちゃん、今、お母さんから電話があってね、もし行ってたら、すぐに帰ってきてって何だか随分慌ててたみたい」

元子「全く心配症なんだから」

絹子「ううん、何かあったみたいな様子」

元子「何かって?」

絹子「さあ。私も叔父さんが帰ってきたら行ってみるから何かあったらすぐに電話頂戴ね」

元子「はい」

絹子「ね」

のぼる「それじゃ気を付けてね」

元子「ありがとう」

のぼる「じゃあね」

 

路地を歩いている元子。

友男「おっ、もっちゃん、一大事(いちでえじ)だよ」

元子「お父さんがどうかしたの?」

友男「いいや、そんなんじゃねえんだ。秀美堂に赤紙が来たんだ」

元子「何ですって!?」

友男「で、やっこさんな、今、おめえんちの河内山んとこに行ってら」

 

茶の間

宗俊「幸ちゃん、そりゃあ、いけねえよ。かみさんに黙って行っちまうなんて、そんなべらぼう、どこにいる」

幸之助「けどよ、俺、とても言えねえよ」

トシ江「そんなこと言ったって夫婦じゃありませんか」

彦造「ああ、そりゃもう、そんじょそこらの夫婦と訳が違いやしょう。口さえききゃポンポン言い合うってんだって、ありゃあ仲のいい証拠だって町内知らねえ者はいねえ、おしどり夫婦じゃありませんか」

元子、友男も茶の間に入ってくる。

 

幸之助「だからさ」

宗俊「だからもヘチマもあるもんかい」

幸之助「けど言ったら、あの野郎、泣いちまうよ」

宗俊「泣いたっていいじゃねえか。それが夫婦ってもんだろ」

トシ江「ねえ、清々したなんて言われたら、それで秀美堂さん、うれしいの?」

幸之助「バカ言っちゃあ困るよ」

 

宗俊「だったらお前、夜逃げじゃあるまいし、な、女房に黙って兵隊に行くなんざ、何とぼけたこと抜かしやがんだ」

幸之助「だからさ、俺ぁまだ死にたくねえんだったら」

友男「バカ野郎、兵隊行ったからってな、なにも死ぬとは限っちゃいねえんだよ。代わりに防空ごうに隠れたってな、直撃でお前、おだぶつになっちゃうご時世なんだぞ」

幸之助「いや、けどさ、あの野郎、この間、寝物語でな」

宗俊「何だと?」

幸之助「いやいやいや、だからさ、いいあんばいに年だから、万…万が一、赤紙が来ねえだろうけれどもだよ、仮に迷い込んできた、その時は…」

彦造「その時は?」

幸之助「アメ公に殺されるくらいなら、私がこうして殺してあげるなんて、ブチュ~ッて来やがって、息もできないで、もう苦しかったから、もう…」

友男は元子に聞かせたくなくオロオロ、元子は下を向いてしまった。

 

宗俊「ふざけんじゃねえや、この野郎!」

幸之助「いや、本気だよ、俺は」

トシ江「私はね、反対ですよ。私だったらそんなことされてごらん。一生恨むどころか、すぐその場で夫婦の縁、切ってやりますよ」

宗俊「おい」

トシ江「だってそうじゃありませんか。どんなつらいことだって一緒に分かち合う。これが夫婦なんじゃないんですか?」

元子「そうよ、そのとおりだわ。もしよかったら、私、おばさんに話してみる」

 

宗俊「バカ野郎、これは大人の話だ。子供の口出すことじゃねえ」

元子「だって」

幸之助「あ~あ、俺、もう死にてえな」

宗俊「何を戦争に行く前から何てざまだ、そりゃ」

幸之助「ぼけなす! 俺がつれえのは、あの野郎の泣き顔を見ることなんだよ」

友男「あ~、どうしようもねえや、こりゃもう本当に」

 

彦造「そんなら、こうしたらどうでしょう」

宗俊「何だい、彦さん、おめえ、何かいい思案があるのかい」

彦造「いやその、いいかどうか分かりませんがね」

トシ江「前置きはいいんだよ」

彦造「へえ、だからそのいきなり言って驚かす前(めえ)に、うちの旦那が先に言い聞かすってぇのはどうでしょう。するってぇとあのおかみさんのことだから、多分、カ~ッと頭へ血がお上りなさるだろうから、そりゃまあ、一つ二つボカボカッと来るかもしれねえ」

宗俊「おいおい」

彦造「いやいや、そこは女だ。一旦起きたヒステリーでも、まあ、やりゃあ、おさまりますでしょうから気抜けしたところで秀美堂の旦那と選手交代するってぇ段取りじゃあ…?」

 

友男「彦さん」

彦造「へえ」

友男「おめえ、女房持ったこともねえくせに男と女のこと一番分かってんじゃねえのかい」

彦造「いえいえ、それほどのことじゃありませんがね」

宗俊「ケッ、鼻の穴膨らませることねえんだい。ボカボカッてやられんのは俺じゃねえか」

 

トシ江「いいじゃありませんか。私だって、ほかの女なら我慢しないけども、一つや二つのひっかき傷ぐらい、この際いいじゃない」

宗俊「おい…」

幸之助「宗ちゃん、頼むよ、このとおりだ。長(なげ)えつきあいじゃねえかよ。ここ一番は助けとくれよ。じゃなかったら、俺逃げるぜ」←”こうちゃん”に聞こえなくもない。

宗俊「おい」

友男「バカ野郎、そんなことしてみろお前。とっ捕まったらお前、銃殺もんだぞ」

元子「お願い! 私からもこのとおり、お願いします」

 

吉宗の扉が開く。

彦造「そんじゃまあ、お気を付けなすって」

宗俊「分かってるよ。何だか俺がお前、万歳三唱で送り出される心境だ」

幸之助「すまねえな。けど、なるべくあの野郎が肝潰さねえように、そこんところをできるだけうまく…何っつったらいいのかな」

宗俊「分かってるっつってんだろ、おい。いいから大船に乗った気で待ってろや、え。じゃ、行ってくるぜ」

トシ江「行ってらっしゃい」

友男「頑張れよ」

宗俊、道端のバケツに足を引っかける。「あっ!」

彦造「くれぐれも気を付けなすって!」

宗俊「てやんでぇ! おめえが悪いんだ、おめえが」

 

吉宗

幸之助「はあ…」

トシ江「でも、とんだことでしたねえ、秀美堂さん」

幸之助「まさかこの年になって来るとは思いも寄らなかったからな」

友男「幸ちゃん」

幸之助「うん?」

友男「おめえ、いくつだ?」

幸之助「42」

友男「厄年か、気の毒だな」

幸之助「ひと事みたいに言うんじゃねえよ。おめえだって、ここの河内山だって3人一緒の同級生じゃねえか」

友男「間違いねえ」

彦造「ということは…」

トシ江「嫌だ、嫌ですよ私、そんなこと、嫌だ…」

元子「お母さん」

トシ江「嫌!」

 

宗俊、幸之助、友男は同級生の42歳という設定みたいですが

津川雅彦 1940年1月2日生まれ(当時41歳)

牧伸二 1934年9月26日生まれ(当時47歳)

犬塚弘 1929年3月23日生まれ(当時52歳)

実際はまあまあ年の差があるんだよね。いくら昭和世代でもやっぱり老けて見えるよね。役年齢と実年齢が近いのは津川さんだけで、あとは戦争をがっちり経験した昭和一桁世代だな~。

 

さて、話はどういう具合についたのか。ともかく小一時間はかかったでしょうか。

 

路地を歩いてきた宗俊はバケツを道端によける。

 

戸が開く音

幸之助「おっ」

元子「どうだった?」

宗俊「案外と落ち着いてた」

幸之助「本当かい!?」

友男「ああ、そうかい」

宗俊「まあな、俺ぁお前、涙出さなかったと言やぁ、こりゃ、うそになるがな、このとおりだ、お前、切られ与三にもならなかったしよ。お気を遣っていただいてありがとう、ピシッと両手ついてよ、いざとなりゃ、さすが大和なでしこだ、え。俺ぁ、本当に感じ入っちまったぜ」

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トシ江「そんなら、よかったけど…」

友男「幸ちゃん、送ってってやるよ」

幸之助「いや、いいってことよ」

友男「えっ」

幸之助「俺だって男だよ、お前。これ以上世話になるわけにはいかねえよ。ありがとう、宗ちゃん」

宗俊「代わりによ、たっぷりかあちゃんかわいがってやんな」←さすがにこれは、オエー!!!

幸之助「ふん、大きなお世話だい、ハハハハ…。そんじゃ、おやすみ!」

トシ江「おやすみなさい」

 

秀美堂

戸が開き、暖簾から幸之助が顔を出す。「今、帰(けえ)ったよ」

小芳は横を向いて座ったまま。

幸之助「まあ、そういうわけなんだよな」

小芳「何がそういうわけなんだい!」

幸之助「小芳」

小芳「このうそつき野郎! もうこの年だから兵隊なんか絶対行かないって言ったじゃないか」

幸之助「小芳!」

小芳「チキショー! 最後の最後に人をだましやがって! 何言ってんだい!」

幸之助「小芳!」

小芳「行かないって言ったじゃないか! お前、行かないって…何で行くんだ!」

幸之助「小芳…」

小芳「今頃になって何で…何で行くんだよ!」

幸之助「小芳!」

小芳「お前さん…お前さん、何で行くんだよ!」号泣

幸之助「小芳…。小芳」

小芳「お前さん…お前さん、死んじゃ嫌だよ…」

幸之助「死ぬもんか」

小芳「死んじゃ嫌だよ! 嫌だ…」

幸之助「死なねえよ」

小芳「死んじゃ嫌だよ! 死んじゃ嫌だ!」

 

こういう感情の出し方は80年代っぽい感じがする。80年代の視聴者に分かりやすくしたら、40年後の人間からすると、なんでそんな理不尽な怒りをぶつけるの?って感じるのかな…とツイッターを見ながら思う。

 

茶の間

布団を敷いて寝る準備。もうそれぞれの寝室で寝れないってことか。

宗俊「な、見ろってんだ。『案ずるより生むがやすし』といってな、何事も起こらなかったじゃねえか。なあ、彦さん」

彦造「へえ」

元子「でも…」

トシ江「子供が心配することじゃないんだよ」

元子「私はもう子供じゃありません」

宗俊「とにかく騒ぎは起こらなかったんだ。な、寝ろ寝ろ」

トシ江「さあ、それじゃ、彦さんもおやすみなさい」

彦造「おやすみなさいまし」あ、一応、彦さんだけ店側のスペースなのね。

宗俊「おやすみ」

布団に横になったものの眠れない元子。目が潤んでる?

 

いたましく

 夫と妻とを引き裂きて

  戦ふ国は滅べと思ふ

      森下寅尾

   ー昭和萬葉集よりー

 

ナレーションによる読み上げはなく、画面上に出た短歌。

inukai.nara.jp

つづく

 

明日も

 このつづきを 

  どうぞ……

 

元子や正道、正大もかな。それぞれ個性的な手紙で文章もうまい。そういえば、金八先生の第2シリーズ15話、フラワーボックスのさくらちゃんが金八先生に手紙の書き方を習って書いた手紙がまたいい手紙だったな~と急に思い出した。

peachredrum.hateblo.jp