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【連続テレビ小説】本日も晴天なり(23)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

アメリカ軍がついに硫黄島に上陸。洋三(上條恒彦)は危機を感じ、絹子(茅島成美)と一緒に宗俊(津川雅彦)を説得しに向う。末っ子の順平(吉田紀人)とばあやのキン(菅井きん)を、荷物と一緒に田舎に疎開させてほしいのだ。洋三と性格が合わない宗俊は案の定大反対。トシ江(宮本信子)や元子(原日出子)の意見も聞かず「家族は最後まで生きるも死ぬも一緒」と言い切る宗俊を、金太郎(木の実ナナ)が説得しようとするが…。

放送に走り使いに防火対策に男子欠員を補って女子放送員は本当によく働きました。風船爆弾の仕返しでもないでしょうが、昭和20年になると敵の空襲もますます激しくなるばかり。

 

放送会館廊下

防火と書かれた赤いドラム缶に赤いバケツで水を入れる恭子。これまでいつも和装が多かったからスーツが珍しく感じる。のぼると元子は土嚢?運び。

 

悦子「選手交代! 六根の放送よ」

のぼる「はい、ただいま!」

元子「頑張って」

のぼる「はい! それでは、あとはお願いします」

元子「うん」

 

今度は元子と悦子で土嚢運び。

元子「よいしょ…」

悦子「ねえ、ガンコ」

元子「ん?」

悦子「今日の大本営発表、あまりいいニュースじゃないみたい」

元子「えっ」

悦子「本多先生、すっごく怖い顔でスタジオへ入っていったもの」

元子「本当?」

 

放送室

本多「大本営発表、敵は2月19日朝、硫黄島に対し、上陸を開始せり。同島守備の我が部隊は、これを要撃、激戦中なり。繰り返します。敵は2月19日朝、硫黄島に対し、上陸を開始せり」

 

茶の間

洋三「硫黄島といったら東京から1,200キロですよね」

 

今日はこたつの上に天板代わりかお盆の上に湯飲みが置かれている。

 

宗俊「だから、どうだってんだ」

洋三「1,200キロといったら東京から神戸へ行って帰ってくるぐらいの近さなんですよ」

宗俊「だからどうだと言ってるんだよ」

洋三「硫黄島はグアムやサイパンとは違うんです。あれは東京都の一部なんです。アメリカはいよいよ本土の玄関にノックしてきてるんですよ」

宗俊「だったら開けて、入(へえ)んなっつってやりゃいいじゃねえか」

トシ江「あんた」

絹子「兄さん」

宗俊「うるせえ、女どもは」

 

洋三「その女たちを守るのは私たちじゃないですか」

宗俊「そんなことぐらい分かってらぁ」

洋三「だったら、もっと真剣に疎開のことを考えてみたらどうですか」

宗俊「『下手な考え休みに似たり』ってな、知らねえか、おめえ」

洋三「何をおっしゃるんですか、本当に」

 

宗俊「ああ、どうせ俺ぁな、昔っから、おめえさんとは、お派が合わねえんだよ」

絹子「兄さん、真面目な話なんですよ、これは」

宗俊「誰がふざけて先祖代々のうちを捨てるなんて話ができるかよ」

絹子「そうじゃないのよ。せめて荷物とおキンさんと順平ちゃんだけでも疎開させたらどうなんですかって私たちは言ってるの」

洋三「義兄(にい)さんや私、それから、もっちゃんや巳代ちゃんは、今、職場を離れるわけにはいかんでしょう。だけど、順平君まで、この空襲のど真ん中に置いとくことはないでしょうに」

絹子「ね、少しは義姉(ねえ)さんのこと考えてやってよ」

トシ江「絹子さん」

 

絹子「ううん、空襲が来ると、この人やのぼるさんが帰ってくるまで私は一日だって安心する日(し)はないわ。まして、小さな順平ちゃんを抱えてる義姉さんの心配は私の何倍か分からないし」

トシ江「それはね…」

宗俊「大(でえ)丈夫だよ。順平だってな、3年生になりゃ、おめえ学校のみんなと一緒に疎開するんだ」

洋三「それまで日本がもちますか」

トシ江も絹子もハッとした表情。

トシ江「洋三さん…」

 

宗俊の驚いた顔。「危ねえ危ねえ。つい、この間もそういうことを言い触らすやからをごっそり警察が引っ張ってったばかりだ」

絹子「兄さん」

宗俊「冗談じゃねえ!」

トシ江「あんた」

 

宗俊「いいから帰(けえ)ってもらいな」

洋三「しかし、義兄さん、昨日のB29は100機編隊だったんですよ。その上、航空母艦が艦載機を乗せてくる。これで本当に日本が勝つと思いますか」

宗俊「そんなことは俺のせいじゃねえや」

絹子「そうでしょう。だったら、もう少し順平ちゃんのこと考えてやってよ。疎開っていったって別に信州や北海道みたいに遠い所へ行くわけじゃなし。埼玉県の熊谷に適当な所が見つかったのよ。ね、学校へはちょっとかかるらしいんだけど、それだけうちも少ない所だし。それに、会おうと思えば毎週だって会いに行けるじゃないの。ね、そこへおキンさんをつけてやれば何かと面倒は見てもらえるんだし。こんなこと言っちゃ何だけど、いざとなった時には足手まといにならないんだしさ」

 

宗俊「その、いざという時が来たらどうするんだ」

絹子「えっ?」

宗俊「やつら何だってな、日本のことを野球やったら向こう側に球が落ちるだろうって言うそうじゃねえか。物を知らねえにも片腹痛(いて)えや。『山椒は小粒でもぴりりと辛(かれ)え』ってな、ずうたいでかけりゃいいってもんじゃねえんだ。河内山のセリフにもあらぁ。『大男総身に知恵が回りかね』。バカめってんだ! え! アメリカなんぞにやられてたまるかってんだい!」

絹子「そんなこと言ったってね…」

 

宗俊「うるせえ! これだけは俺はおめえたち夫婦に言うのは遠慮してたんだが、そういうの子供がいねえから思いつくんじゃねえのか?」←大大大炎上発言

トシ江「ちょっとあんた…」

絹子「逆ですよ」

宗俊「いいや! やつらが攻めてくるとなりゃ何も海から上がってくるばかりとは限らねえ。俺が人形町のここで敵を守ってる間に、もしも熊谷、落下傘部隊が降りてよ、おキンや坊主、殺しにかかったらどうなるんだ」

トシ江「やめてやめて。私、そんな話聞きたくない…」

宗俊「だからそういう時にこの俺がいて、やつらたたっ斬ってやらねえで何が旦那だ、何が父親だ。どこへ逃げたってな、この国は島国なんだ。とどのつまりは追い詰められて万歳よ。そうならねえように俺ぁ、この人形町を守り抜く覚悟さ。家族は最後まで家族一緒。ああ、生きるも死ぬも一緒のほか、ねえんだ。せっかくだがこの話、おキンにも坊主にも俺から因果含める。そのつもりでいてくれ」

dictionary.goo.ne.jp

重苦しい空気が流れる。

 

宗俊の言ったことはそのままこの前の年、逃げ場を失い、マッピ岬に追い詰められて次々と断崖から南の海に身を投じたサイパンでの婦女子非戦闘員の姿、そのままの情景でした。

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朝からすごいものを見せられた。白黒の資料映像では、女性たちが崖から飛び降りる映像から現在のサイパン島”マッピ岬”のカラー映像。岬には「大東亜戦争戦没者碑」が立つ。バンザイクリフって何か嫌な名前だな。

 

モンパリ

洋三「けど、やつらが女子供まで殺すとは、叔父さん、どうしても考えられないんだけどな」

金太郎「だからって上陸をしてきたら何をされるか分からないんでしょ?」

洋三「そりゃ女だって抵抗している限り殺される可能性はあるよ」

元子「ということは白旗掲げろってこと?」

洋三「力の限り抵抗して、それでも駄目だった時は降伏する。これは欧米の考え方ではちっとも恥にはならないんだよ」

金太郎「冗談じゃありませんよ。その時、私はもう舌をかみ切って死んでやります」

元子「叔父さん…」

洋三「うん?」

元子「本当にそんなとこまで行くのかしら?」

洋三「さあ…。なってみなけりゃ誰にだって分からないんじゃないだろうか」

 

のぼる「もう、満州には逃げられないんでしょうね」

金太郎「そうよ、満州なら広(しろ)いし、逃げる奥地ならいっぱいあるしさ」

洋三「けど、所詮、よその国さ。あそこは日本じゃないんだ」

みんな言葉をなくす。

金太郎「あの~…こちらの旦那、アカなんですか?」

絹子「冗談じゃありませんよ。めったなこと言わないで!」

金太郎「どうもすいません…」

 

洋三「だけども日本人なら日本の将来のことを真剣に考えるのは当たり前じゃないか」

元子「日本の将来…」

洋三「うん。少なくともこの戦争に手を貸さなかった子供たちだけは生き残る権利があるはずだよ。すると、その子供たちを育てていく人が必要だ。それはやっぱり女でしょう。私は順平君も巳代ちゃんもおキンさんもそれから金太郎さんも殺したくないね」

金太郎「この2人は?」

元子「駄目なのよ、おねえさん。私たちは放送員を辞めるわけにはいかないの」

金太郎「そんな」

 

のぼる「ううん。今、ラジオの存在そのものが国民の命を守るたった一つの情報源だって私たち、本当にそう思ってるんです。だから、どんなことがあっても私は絶対、マイクと一緒にいるつもりです」

元子「私もよ、おねえさん」

金太郎「もっちゃん…」

元子「そして、本当に大げさでなくそういう仕事をしてるってことに生きがいを感じてるの」

金太郎「そう…。分かったわ、私が一(しと)肌脱いでみせます」

絹子「金太郎さん…」

 

金太郎「そうよね、何も順平ちゃんまでそんな苦労させることないし、無事に善吉さんが帰ってきても母親のおキンさんが空襲で死んでしまったりしたら申し訳ないもんね」

絹子「そうなのよ。だからお願い。兄さんときたら私たちの言うことは何から何まで反対なんだから」

洋三「いや、義兄さんの言うことにも一理はあるのさ」

金太郎「大丈夫、この一件はお任せください」

元子「お願いします、金太郎ねえさん」

洋三「お願いします」

 

ところが、この一件には思わぬ伏兵がおりました。

 

吉宗2階

キン「いいえ、とんでもない。おかみさんやお嬢が残るってのに、どうしてこの私がこのお店を離れることができるんです?」

元子「そういう気兼ねならいらないのよ」

キン「気兼ねで言ってんじゃありませんよ。私がここで目ぇ光らせてるからこそ金太郎さんだって、うちの旦那にちょっかい出す隙がないんだ」

金太郎「ちょいと! 何てこと言うんだよ!」

元子「おキンさん」

 

キン「いや、私は知ってんですよ。昔、うちの旦那がこの人に結構入れあげてたのも、この人の方だってまんざらじゃなかったってのもね」

金太郎「あんたね、子供の前じゃ言っていいことと悪いことがあるんだよ」

キン「お嬢はもう子供じゃありませんよ。だから大恩のある、このお店とおかみさんのためには、このおキンばあやがついてるんだってことをよ~く分かっといてもらいたいんですよ」

金太郎「ああ、そうかい、分かったよ! これでも芳町の金太郎って言われた女だ。痛くもない腹を探られて泣く泣く軒下を貸していただこうなんて、そんな情けないまねはいたしませんよ。えぇえぇ、えぇえぇ、たった今からだって出てってやりますよ」

元子「おねえさん!」

 

金太郎「そのかわりね、けんかは両成敗。おキンさん、お前さんもこのうちから出ておゆき」

キン「バカお言いじゃないよ! なんで私が出ていかなきゃなんないんだよ!」

金太郎「鈍いというのかずうずうしいというのか、あきれて物が言えないね。何がおかみさんをお守りするだ? 聞いたふうなこと言いやがって、え? この食糧難にあんたみたいな穀潰しがここにいたら、それだけもっちゃんや巳代ちゃんの食いぶちを削ってるっていうことが、お前さんにゃ、それが分かんないのかよ!」

キン「あ…あんまりだよ。それじゃあんまりじゃありませんか」

泣きだしたキンにつらそうな顔をする金太郎。

 

「ひょうたんから駒」というのでしょうか。金太郎の機転で結局、荷物と順平、おキンの疎開話はバタバタと決定。

 

吉宗前

トシ江「いいかい、順平。お母さんね、すぐ会いに行くからね。分かったね」

順平「うん」

トシ江「絹子さん、あとお願いします」

絹子「はいはい、確かにお預かりしていきますよ」

キン「おかみさん…」

彦造「いいかげんにしねえか。これが今生の別れじゃあるめえし」

キン「うるさいんだよ、お前は」

 

宗俊「だからよ、そんなに慌てて、お前、疎開なんざすることねえっつってんだろ」

キン「いいえ、そうはいかないんです」

宗俊「ああ、そうかい。なら、その勢いでせっせと大根でも作るんだな」

トシ江「あんた」

 

元子「順平、近いんだからね、すぐに会いに行くからね」

順平「ああ、泊まりに来てもいいぜ」

巳代子「かっこつけちゃって」

トシ江「順平、ばあやの言うことね、よく聞くんだよ」

順平「うん」

トシ江「いいかい? ね」

 

宗俊「おい、順平、グズグズしてると、またB公が来るぞ」

宗俊に抱きつく順平。

宗俊「よし。なあ、ほら行けよ」

 

絹子「さあ、行こうね」

トシ江「おキンさん、お願いしますよ」

 

このころ、東京から地方へ疎開した人々は約200万。もはや、ドイツの敗戦は疑いのないものとなったこの2月、チャーチルルーズベルトスターリンの3首脳はクリミア半島のヤルタで会談し、日本についての重大な決定をしていたのですが、「知らぬが仏」とは日本の一般国民でした。

 

元子たちの部屋

正大の写真を前に元子が心の中で語りかける。

元子の心の声「順平もおキンさんも金太郎さんもいなくなっちゃって何だかさみしくなっちゃった。お父さんもお母さんも気落ちしたみたいだけれど、でも、どこかでホッとしてるんじゃないかな。あんちゃんは満州でよかったわね。満州はこれほどの空襲はないって話だし。とにかく風邪にだけは気を付けてくださいね。おやすみなさい」

 

電気スタンドを消し、布団に入った元子。

 

いろいろと辛い回だった。洋三叔父さんは、これまで軍歌を歌うシーンで歌っていなかった。あの声で軍歌聞いてみた~いなどと思っていたが、戦争反対で歌わなかったのかな。子供のいない人というのは今の比じゃないくらい、何かありゃあ、子供がいないからと言われたんだろうな。疎開についてはどちらの考えも分かるんだよな。