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【ネタバレ】岸辺のアルバム 第11話

1977/09/09 TBS

 

あらすじ

東京郊外の多摩川沿いに住む中流家庭。一見すると幸せそうに見える家族4人。しかし、実はそれぞれが問題を抱えていた。母・則子(八千草薫)は良妻賢母型の専業主婦。だが、見知らぬ男から電話がかかってくるようになる。はじめは知らん顔をするも、やがてその男と会うようになり…。父・謙作(杉浦直樹)は有名大学出の商社マン。しかし、実のところ会社は倒産寸前の状態だった…。娘・律子(中田喜子)は大学生。なかなかの秀才で大学も簡単に合格したはずだったが、ここ一年は家族に対して心を閉ざしている。やがて、アメリカ人男性と交際するようになるのだが…。息子・繁(国広富之)は大学受験を控えた高校生。決して勉強のできる方ではないが、心の優しい性格の青年だ。だが、両親や姉の異変に気付き、思い悩むことに…。

 

第11話

謙作(杉浦直樹)が仕事で売春に関わっていることを耳にした繁(国広富之)。その後、久しぶりに雅江(風吹ジュン)と会った繁は、田島家に関する驚きの事実を聞かされる。

2022.9.14 日本映画専門チャンネル録画。

Will You Dance?

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ずぶ濡れの繁が絢子を連れて、いつものスナックに行った。席についた絢子は上着を脱いで水気を拭きとる。「水割りを頼んでくれる?」と言われた繁は、水割りとコーヒーを注文。絢子は話がしにくいから隣に座るよう促す。繁は絢子に父親のことで話があると言われて、いろいろ質問するが、言いたくなくなったという。繁は謙作の浮気相手かと聞くが、それは否定した。

 

繁「言わなきゃ勝手に想像しちゃうな。強姦でもしたのかな?」

絢子「お父さんがどんな仕事してるか知ってる? あんた」

繁「繊維機械部だけど」

絢子はコップに入った氷を灰皿に入れる。

繁「汚職でもしてるのかな?」

絢子「東南アジアからね、女を輸入してんのよ」

繁「そんな…」

絢子「ウソじゃないわ」

繁「そんなちゃちな仕事をあの商社がするわけないじゃないか」

絢子「するわけあるのよ。ある人間に会社が弱みを握られたのよ。簡単に言えば脅迫されたのよ」

繁「それで?」

絢子「『バラされたくなかったら東南アジアから女性が日本に来るのを手伝え』って」

繁「ひどいな…」

絢子「向こうに支社があるでしょ。女性をその支社の社員としてたくさん雇うわけ

繁「ええ」

絢子「その女性を本社研修っていう名目で日本に送り込むわけ。それなら旅券が出るのよ」

繁「で、その人たちは?」

絢子「クラブやなんかで働いて帰るわけよ」

繁「売春とかそういうこともさせたりするわけですか?」

絢子「ハァー。お父さんがさせるわけじゃないわ」

繁「そりゃそうだろうけど…」

絢子「受け入れ側の責任者ってわけ。クラブの経営者に引き渡す役なのよ」

繁「まいったな…。そりゃまいったな…」

絢子「羽田に迎えに行ったりね」

繁「どうして知ってるんですか? あなたは誰なんですか?」

絢子「イヤな、女よ」

繁「私立探偵なんかですか?」

絢子「こんなこと、あんたにしゃべる最低な女よ」

繁「まいったな…」

 

家に入ろうとした謙作に声をかけた繁。謙作は怪しげなサングラスをかけていた。

繁「なんだい? その格好…そのサングラスなんだい?」

謙作は黙って家に入っていくので、「お父さん!」と追いかける。

 

家の中に入り、謙作たちの寝室のドアを開けると段ボールやロープが雑然とあり、派手な格好をした5~6人の若い女性たちが下を向いて座っていた。

繁「お父さん、これなんだ? 会社のためだって、こんなことまで引き受けることないじゃないか! 『仕事ばっかで休めない』なんて言って、やってることはヤクザじゃないか! 人に『勉強しろ、勉強しろ』って言うけど、こんな仕事も断れないで勉強したってなんにもならないじゃないか!」

にやりと笑う謙作。

繁「笑ってるの? サングラスを取れよ! おかしかないぞ。サングラス取って言い分があるなら言ってみろ!」

謙作「お前は…」

繁「なんだよ!?」

謙作「まだ子供だ」

繁「陳腐なこと言うな! 大人ならどうだっていうんだ? こういうのを見ても驚かないのが大人かよ!? そんな大人なんかなりたかないぞ!」

謙作「お前は現実を知らない」

いきなりそばに立っていた紫色の服の女性の服をはぎ取ると片乳ポロリ! え!

謙作「人生を知らない」

繁「やめろ、そんなことするな!」逃げるようにカナリアのかごのあるリビングへ。謙作も後を追う。

 

謙作「お前は本当の人間を知らない。本当の社会を知らない」

繁「決まり文句じゃないか」

謙作「キレイ事だけでは社会は動かない」

繁「ああ、またしても決まり文句じゃないか」

謙作「お前はもっと人間を知るんだ」謙作の前にはオレンジ色の服を着た女性が立っている。その洋服を破ると両乳がポロリ! わお!

謙作「人生を知るんだ!」

繁「なんてことするんだ!」

謙作は女性の肩を持って、繁の方へ歩み寄る。階段へ逃げる繁。

謙作「女ども何をしてる!? 早くこいつに人生を教えてやるんだ」

繁「お父さん、やめろ! 俺はこんな形で人生を知りたかないぞ! 止まれ! 止まれ! お父さんごまかすな! お父さん体験しないぞ! ああっ、体験したくない!」

胸を出した女性が近づいてくる…で目が覚めた繁。ま、夢だよね~。設定としては東南アジアの女性たちみたいだけど、単に派手な服を着た日本人女性たちで、うなだれて顔はあまり見えないようにしてました。そりゃ再放送ないわけだ。

 

雨の降る朝、繁は律子の部屋へ行き、眠れないと言って律子を起こす。そして、律子に絢子から聞いたことを話す。繁は仕事を辞めなくても断ればいいというが、律子は信用されて任された仕事なんだから断れば運命が変わる。アフリカ辺りへ転勤ということになりかねないという。こういうセリフも今ならアウトか。お父さんの稼ぎで食べているのだから避難する資格はないという律子。宮部さんか中田さんに聞けば分かるな?と繁がいえば、律子は秘密なのだからしゃべるわけないと返す。

 

1階では謙作がトーストを食べていた。緒方専務の奥さんが鎌倉で染め物の展覧会をやっていて、今日までだが人が来なくて腐ってるから行ってやってくれと専務に頼まれたと則子に話す。則子は鎌倉なんて久しぶりだと行くことを了承する。いや~、こういう人付き合いちょっとめんどくさいね。

 

則子不在。繁は出かけるのでまだ家にいる律子に「チャイム鳴ったら出ろよな!」と言い残し、出ていった。

 

雨の降る中、傘を差して歩いていた繁は公衆電話で電話している則子を見かけた。

 

繁のナレーション「どうしてうちでかけないんだ?」

 

則子「ええ。だから今日は急に鎌倉行かなくちゃならなくなって」

 

則子に近づく繁。

 

則子「じゃ、明日3時、ルミエール」

 

則子が受話器を置いたので、早足で通り過ぎる繁。電話ボックスタイプじゃなく店先に置かれた水色の公衆電話なので会話は聞こえる。

 

繁のナレーション「明日の3時、ルミエール? 『ルミエール』ってなんだ? まさか…まさかラブホテルじゃないと思うけど、とにかくうちでかけない電話なんて怪しいじゃないか。ルミエール、ルミエール、ルミエール、ルミエール…。まったくなんて忙しいんだ。お父さんのことを聞いたと思えば、すぐまたお母さんだ。邪魔してるのかよ? 神様かなんかが僕の受験勉強をからかってるのかよ?」

 

遮断機の前に立つ繁。なぜか手に持っていたレモンを落とす。

 

謙作の会社近くの喫茶店ルビアンで繁は中田と待ち合わせていた。最初はアメリカンコーヒーを注文した中田だったが、コーヒーの飲み過ぎだと言ってトマトジュースに変えた。繁はよく考えたら親父の仕事を知らないと中田に聞きに来た。

 

繁「いえ、その…他のことはしてないんですか?」

中田「他のこと?」

繁「不況なんでしょう? 繊維は」

中田「学生運動かなんかやってんの?」

繁「いえ、ノンポリです」

中田「君がどう思うか知らないけど繊維機械部だけじゃ工場がやっていけないんだよ」繁「ええ」

中田「で、間に立って、お父さんや僕たちがいろんな注文を取ってきたりしてね」

繁「ええ」

中田「中に自衛隊向けの武器もある」

繁「そうですか」

中田「カッとするほうかな? こういうこと聞くと」

 

学生運動やってるかと聞いたのは、学生運動やってる人は戦争反対派だからかな?

 

繁「いえ、どうせどこかが作ってるだろうと思ってたから」

中田「まっ、概略はそういうことだな」

繁「あの…もっとですね、他の仕事もしてるんじゃありませんか?」

中田「うん?」

繁「東南アジアからの…」

中田「(目つきが変わる)うん?」

繁「研修生の受け入れとか」

中田「お父さんがそんなことを?」

繁「いえ」

中田「誰に聞いたんだい?」

繁「本当なんですか?」

中田「誰に聞いたんだ? そんなこと」

 

ドアが開いて店に入ってきたのは絢子。繁は驚く。

絢子「中田さん、岸田工業見えたわ」

中田「この人かい? この人に聞いたのかい?」

絢子「何を? 一体、フッ」

中田「彼に何を話したんだ?」

絢子「何って、私、別に…」

中田「全部根も葉もないことだよ。お父さんは一所懸命働いてる。信用するんだ。ジュース飲んでくれよ」テーブルにお金を置くと、絢子と一緒に店を出ていった。

繁「あっ、いいんです」

 

絢子の二の腕をがっちりつかんでる中田。

絢子「ちょっと誤解してるのかもしれないけど…」

 

喫茶ルミエール

仏像の写真集?を見ている。

北川「鎌倉か。僕も随分行かないな」

則子「八幡様のそばで用事が済んで北鎌倉まで歩いたの」

北川「車がすごいでしょう?」

則子「昔の静かな記憶があったんで驚いたわ」

北川「建長寺円覚寺

則子「ええ」

北川「修学旅行が行くんだろうな」

則子「バスに会ったけど大人の団体だったわ」

北川「そう…いい本お買いになったな」

則子「小さな古本屋なんですよ」

北川「ありがとう」

則子「えっ?」

北川「いや、持ってきて見せてくださってありがとう」

則子「いえ」

ゆっくりコーヒーを飲む2人。

則子「すみませんでした」

北川「えっ?」

則子「こんなふうに来ていただくなんてだらしがないわ。見損なったでしょ? フッ」

北川「僕だって電話したんです」

則子「自分が情けないわ。せっかく気持ちよくお別れしたのに…」

北川「息子さん、大学どうでした?」

則子「落ちたわ」

北川「そう」

則子「あのころ大変で勉強、追い込みだったでしょう。そんなときに母親がいけないと思ったの。それに合格すれば入学金や授業料高いし、少し内職で用意する必要もあったし、そのうえ、主人の会社がちょっと大変になったの。そんなとき、主人、裏切りたくなかったし、第一、長いのはよくないと思ったの。長ければ、きっと何か起こるわ。お互いに家庭は壊したくないんですもの。長いのはよくない…そう思ったの。ホントに冷静に、かなり冷静にそうできたのに、どうして…どうして電話をしたのかしら…怖いわ。断ってくださればよかったの」

 

渋谷の歩道橋の下でそば屋の配達バイクの男にルミエールの場所を尋ねる繁。この辺は喫茶店が多いから分からないと言われしまった。今みたいに簡単に調べられないもんね。

 

喫茶ルミエール

北川「確かにあのころがやめる潮時でした。長くなれば奥さんの言うように、きっと何か起きるでしょう。うまいときにやめたんです。僕たちはとてもうまく浮気をした。2人とも自分をなくさなかったし、いわば…フッ、完全犯罪だった。ところが、あなたをこの間、電車の中で見て懐かしいと言ったら…アハッ、あまりキレイ事かな」

則子「懐かしかったわ」

北川「懐かしかった」

則子「でも、今がきっと大事なときね。ここで気を許してはいけないんだわ」

北川、何度もうなずく。

則子「呼び出したりして、こんなこと言うの、ホントに勝手ですけど…お嬢様、何年生?」

北川「…」

則子「3年生ぐらいかしら?」うつむいてしゃべる。

北川「…」

則子「(顔をあげて)えっ?」

北川「今日だけの…今日だけのことにしたほうがいいでしょうね。今日だけのことにしましょう。しなければいけません。これから先は僕にも自信がない。自信がありません」

則子「ありがとう…」

 

赤い公衆電話からルミエールに電話した繁。喫茶店だと確認し、道順を尋ねる。

 

喫茶ルミエール

北川「ハハ…それでターザンは船でジャングルを出ていくんです。あっという間に文明開化してしまう」

則子「そう」

北川「イヤになるぐらい早くイギリスの紳士の節度やモラルを身につけてしまう」

則子「そう」

北川「ハッ…裏切られたような気がするのは、たぶん当時の読者より僕らのほうがストレスが強いからなんでしょう。せめてターザンぐらいは善だの悪だの言わないで暴れ回ってほしい。せっかく20年もジャングルで育ったんじゃないか」

則子「ホント。せめてターザンぐらい…」

 

喫茶ルミエールに到着した繁。則子たちがいた席にはもう誰もいなかった。ウェイトレスに2階はないか確認し、待ち合わせに遅れすぎて…と謝って店を出た。

 

デパート?のアクセサリー売り場

ネックレスを選んでいる。

則子「こっちのほうがいいわ。これ、頂く」

北川「安月給でも1万円ぐらいは出せるんです」

則子「いいの、ウフッ…これでいいの」

北川「無理にもらってもらうんです。せめてこのぐらいはさせてください」

 

ガラス張りの建物から外を見ている繁。

 

ネクタイ売り場

北川「おかしな心理かもしれないけど、僕の痕跡を持っていてもらったほうが諦めやすいような気がするんです。何もないと妙に気持ちが騒ぎそうだ」

則子「優しいのね。優しくしないで」

北川が選んだネクタイをなでる則子。

 

国鉄渋谷駅

向かい合って立つ二人。

北川「じゃ」

則子「じゃ」

北川「ホントに…」

則子「ええ、ホントにさよなら」

 

周りを歩いている人はチラ見してる人が多いような。

 

北川が去り、則子が立っている。それを見つけた繁。立ち去った則子ではなく北川を追いかける。北川は路地の黄色い公衆電話で会社に電話をかけていた。公衆電話の色って何か意味あるのかな? 私は緑のテレホンカードが入るタイプぐらいしか知らない。

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北川が使っている黄色い公衆電話は100円も10円も入れられるが、100円に満たなくてもおつりは出ない。会社に電話するだけなのにリッチだね。

 

北川「ああ、北川だけど。今日はそっちに戻らないんで、黒板消しておいてくれるかな?」

 

電話している北川を陰で見ている繁と、電車に乗っている則子。

 

バーテンダーのいる店に入った北川。まだ開店前? 

北川「水割り1杯いいか?」

バーテンダー「どうぞ」

北川「なんだか…無性に飲みたくなってね」

カウンターは立ち飲み? 椅子はないみたい。

 

店に入った繁。ビールを注文。北川の顔をじっと見つめる。北川は気付かず、水割りを飲み始める。

 

北川「何か?」

繁「ええ。俺、田島です」

 

水割りもビールも瓶とコップを出すお店。

 

北川「田島? 息子さん?」

繁はコップに注がれたビールを一気飲み。

繁「そうです」

北川「そう」

繁「どんな話か分かりますね?」

北川「つけてたの?」

繁「今日だけのことじゃないんです。僕はもっと知ってるんです」

北川「マズいよ、ここじゃ」

 

繁はバーテンに奥に行っててくれるよう頼む。

北川「いや、いけないよ、そんなこと」

バーテンは気を利かせ、客は来ないし、缶詰を買いに行く、5分ばかり留守にすると店を出ていった。

 

北川「5分だそうだ」

繁「僕が知ってること、母は知りません。母から離れてください。僕が言ったから離れるっていうんじゃなく自主的に離れるっていう形で離れてください。でないとつけ回して、あんたをメチャメチャにしてやる」

北川「会わないよ」

繁「えっ?」

北川「もう会わない」

繁「会わないって?」

北川「もう…お母さんとは会わないよ」

繁「そ…そりゃ、あんまり簡単じゃないか」

北川「そういうことにしたんだよ」

繁「いつ?」

北川「今日だ」

繁「ホントだろうな?」

北川「本当だ」

繁「僕はその…あんたたちが、ただ会ってしゃべってるだけじゃないことも知ってるんだぞ」

北川「一方が『やめよう』と言ったときは、やめる約束だった。お互いに家庭を壊さない。無理はしないという約束だったんだ」

繁「それで?」

北川「うん。去年の暮れ、お母さんが『やめよう』とおっしゃった。あと会わなかった。今日は久しぶりで会ったんだ」

繁「どうして?」

北川「フフッ。とにかくもう会わないことにしたんだ。しゃべるだけにも会うのはやめようということにしたんだよ。終わりだ。君が騒ぎ立てなければ何も起こらない。ハァ…万事、終わりだ」

繁「終わればいいってもんじゃないだろう」

北川「なぜ?」

繁「お前がお母さんを汚したことに変わりはないんだ!」

北川「汚した?」

繁「来いよ、ここへ!」

北川「『汚した』という言い方はおかしいんじゃないか?」

繁「来いよ! 来いよ!」

動かない北川に近づいた繁の腕をとる北川。「いいか? 頭を冷やすんだ。終わったことに大声を出すな。取り返しのつかないことになる。そうだろう? 帰りなさい」

お札をカウンターに置いて出ていこうとする繁。

北川「待てよ。カネはいいよ。ビールぐらいおごるよ」

繁「てめえなんかにおごられたかないや!」

 

終始落ち着き払った北川さん。すげー。まだ30そこそこなのにね。傷心でそれどころではないのかな? 何で先週は冷たく見えたんだろう?

 

田島家

おなかすいたと2階から降りてきた律子。テレビがダイニングテーブル側ではなく、リビングに向いていることを則子に言う。音だけ聞いてるならラジオにすればいいとテレビに近づくとソファに寝転がって謙作がテレビを見ていた。

 

いつもなら絶対家にいない6時半に帰っていた謙作に驚く律子。珍しく柔らかい雰囲気の律子は則子にも同意を求めた。家族団らんっぽい雰囲気になっている田島家。

 

帰ってきた繁は「ただいま」とだけ言って2階へ上がった。

 

ダイニング

則子「『ホントかしら』って言ってんの、お母さんは」

謙作「フフッ、いや、ホントさ。そりゃもう日本にいたら想像もつかない土地なんだ。雨が降りだしたらとめどがない。国土の3分の2を水が覆って、海と川との区別もつかなくなっちまうっていうんだからすごいよ。それ見越して、道路が高くなってる。だから洪水になると、みんなその道路に逃げるんだ。あとはもう水だらけだ」

則子「久しぶりだわ、ダッカの話」

謙作「お前たちが本気で聞こうとしないからだよ」

律子「でも、単身赴任で3年だけ行って、あとは本社勤務だなんて、お父さんも抜け目ないのね、フッ」

謙作「話をそらすな、話を」

則子「稲が浮かんでるっていうんでしょう?」

謙作「ああ、稲を日本みたいにしてたら、たちまち水をかぶっちまう。『フローティング』つってな、あー、だから、この水が上がると一緒に上がるようにして栽培してるんだ。洪水のころ、朝、車で事務所まで行くだろ? 道に死体がゴロゴロしてる。飢え死にだぞ。人間が飢え死にするってのは大変なことだよ。ところがな、そんなのがゴロゴロしてるんだ」

「ごちそうさま」と席を立つ繁。きちんと食器を片づけて、洗ってる? えらいな。則子の教育がいい。則子や謙作からどうしたの?と聞かれても、そのまま外へ飛び出した。

 

モスバーガー

オレンジジュースだけ注文した繁は奥から出てきた私服の雅江と再会。

 

いつも信彦と行っていた、自動販売機がいっぱい並んでるところは、"自動販売機コーナー”と店先に書かれてた。サントリービールの500mlの缶を自販機で買い、飲む。雅江がどうして繁に声をかけたのか、あんたのうちに恨みがあったと話し始めた。執念深い雅江の父が川向こうから双眼鏡で繁の家を見て呪っていた。

 

雅江「あんたのうち、ホントは私のうちだったのよ」

繁「親父がとったってこと?」

雅江はそれを否定。家を買う頃が雅江の父の一番いい時だった。手付けは雅江の家が先で、まだ建ててるときに4人で土手に行って、のり巻き食べて見ていた。しかし、雅江の父は不良品を出して、工場は倒産。5人だけの工場で計算尺を作っていた。

うちを買うどころじゃなく解約して、手付けはパー。そのあとを謙作が買った。今でも雅江の父はあのうちは本当なら私らのうちなんだと言っている。倒産して9年、今でも川向こうのアパートに住んでいる。

 

雅江はいまいましくて見ていなかったけど、就職してから何となく土手を歩いて近くへ見に行った。繁が庭で素振りしているところを目撃。繁が店に来るようになり、初めは気が付かなかったが、「田島」と呼ばれていて気付いた。繁は手を下ろし、ビールが床に流れる。雅江は色仕掛けでフラフラにして大学落っことしてやろうと思った。

 

雅江「そしたら幸せなあんたんちもちっとは不幸になるかと思ってさ」

繁「幸せなもんか。俺んちなんか幸せなもんか」

雅江「でも、あんた、いい人だしさ、途中でやめたの。やめたのにやっぱり落っこっちゃったのね」

繁「俺んちなんか幸せなもんかよ。幸せなもんか!」

 

古びたアパート

雅江は自分の父親に繁を会わせた。雅江の父は布団に寝っ転がったまま。ラーメン丼にタバコの吸い殻が入っている。

 

2年前、雅江の母は男を作って出ていった。そこから立ち直れずに仕事もしないで寝てばかりいるという。繁は病気じゃないのか?と心配し、雅江は甘えてるだけというけど、今なら病気じゃないかな。

 

ようやく仕事がうまくいってきて、もうちょっとで独立できるかもしれないってときに雅江の母がブロック屋とできて離婚してくれと言いだした。父はブロック屋を刺しに行ったが、止められて、母は出ていった。2年寝たまま働かない。兄も愛想をつかして出ていった。雅江に何を言われても反論しない父。

 

外に出た繁と雅江。セット丸出しの川の土手に寝っ転がる繁。雅江の父親は人間らしいけど、繁の家族は平気な顔して暮らしてるという。雅江には分からない家族の事情を吐き出す。川に向かい、バカ野郎と叫ぶ。俺はロボットにならない、ロボットのバカ野郎!

 

繁「♪はるばるきたぜ 函館へ」と大声で歌いながら帰る。

函館の女

函館の女

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♪さかまく波を のりこえて

あとは追うなと 云いながら

うしろ姿で 泣いてた君を

 

寝室にいた謙作と則子は歌声に気付くが、酔っ払いだと思う。

 

♪とてもがまんが できなかったよ

 

律子と則子が繁の声と気付く。

 

函館山の 頂で

七つの星も 呼んでいる

そんな気がして きてみたが

灯りさざめく 松風町は

 

家に入って、則子や謙作に注意され、2階に上がって律子に「バカ、飲んだの」と言われても、何も答えずに部屋に入り、鍵をかける。

 

♪迎えにきたぜ 函館へ

見はてぬ夢と 知りながら

 

歌い続ける繁に謙作も則子も2階へ駆けあがる。

 

♪忘れられずに とんできた

どこにいるのか この町の

一目だけでも 逢いたかったよ

はるばるきたぜ 函館へ

さかまく波を のりこえて

 

ガンガン謙作と則子にドアを叩かれながら歌い続ける繁だった。

 

ついに繁が壊れた。でもあと4話あるんだよね。水害が起こるにしても、あと何があるというんだ。