公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
東京行き、前日。マリ子(熊谷真実)とマチ子(田中裕子)は荷造りの確認をしている。そこへ、村田(園田裕久)と丸菱炭坑の支所長(柳谷寛)が餞別を渡しにやってきた。磯野家の屋敷を丸菱炭坑の寮として貸し出すにあたり、屋敷のあらゆるものを置いていくはる(藤田弓子)に今後の生活を心配する村田たち。一方、お隣の牛尾夫人(新井みよ子)は、気を利かせて東京・上野にいる兄に磯野家の新居を手配するよう働きかけて…。
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さて東京行きはいよいよ明日の朝に迫ってきました。
一日は汽車の中で過ごさなければならないのだから汚れてない服を着ていかないとと話すマリ子。歯ブラシを入れ忘れたと言うマリ子に明日磨いてから入れても遅くはないと返すマチ子。
磯野家に村田と丸菱炭鉱支所長がやって来た。今日寝るときに使う夜具と明日の朝、使う台所用品も残していく。皿や鍋もすぐ使うものだし、大体の物は送ってしまったというはるに村田はハラハラ。支所長は喜んでくれた。
村田や支所長が茶の間のテーブルにつくと、マリ子がお茶を出した。茶の間の紫檀のテーブルも置いていくと言うと若い者には立派過ぎると村田は反論。しかし、それなら村田か支所長に使ってほしいとはるは言う。村田は立派な応接セット、支所長は磯野社長の書斎机をもらっている。
今度の家はできるだけちんまりした家を頼んでいるというと、支所長は「そんなら誰もお雇いにならんおつもりで?」と驚く。マリ子も学校を卒業したし、できるだけ自分たちだけでやるというはるの言葉に村田は「マリ子さん。おいたわしゅうて村田はもう胸がいっぱいですばい…」と涙を浮かべる。
明日もお見送りに伺うと言って、支所長は餞別をくれた。
はる「どうかそのようなことはなさらないで。あなたには随分とわがままを申し上げました上にお家賃まで前払いしていただきましたでっしょう?」
支所長「いやいや、それはそれ。これはこれ。どうか私どもの気持ちとして受け取ってつかあっせ」
はる「そうですか。それではうれしく頂戴させていただきます」
前払いはOKだったんだね。
教会へ向かうはる。
加津子が磯野家を訪ねたが、千代しかおらず、娘たちもそれぞれお別れの会で不在。加津子の兄から速達が届いたので、その話をしたかったらしい。
はるは西村神父に支所長からの餞別をそのまま渡した。
はる「ここに100円ございます」
神父「えっ、100円?」
当時比較的恵まれていた公務員の給料が50円くらいの頃の100円でした。
神父「あなたはこれを教会に寄付なさるとおっしゃるのですね? いや、あの奥さん、あなたの気持ちは実に美しいのですが、あなたはこれからまだ年端も行かないお嬢さんたちを連れて見知らぬ土地へいらっしゃるのではありませんか。ましてや失礼だが何の定職もお持ちではないし」
はる「でもございましょうが『明日のことを思い煩うな』と教えてくださったのは神父様ですわ」
神父「いいえ、それは神のお言葉です」
はる「ですからそのお言葉を広める教会のためにお役に立てていただきたいのです」
神父「しかしですね、奥さん…」
はる「お言葉を返すようで申し訳ないんでございますけれども主人が患いました時、私、すがれるものなら何でもよかったんです。日蓮様でも、おしゃか様でも、お地蔵様でも。でもそんな時に主人の書斎に一冊の「聖書」がございました。何気なく開きましたそのページにございましたのが『明日のことは思い煩うな』そのお言葉でした。『明日は明日の風が吹く』私、そう解釈いたしました。今日一日をいかに充実して生きなければならないか。私、その思いで主人の看護を続けましたの」
神父「そのとおりです。あなたのお考えに間違いはないのですが…」
はる「『貧しき者は幸いなり』そうも神父様に教えていただきました。私、あんまり貧乏は好きではございませんけれども一生懸命やればすばらしい将来への夢が持てる豊かになれるなんてすばらしいことではございませんか。それに今のところ私どもにこの100円がなくても一家が飢え死にするようなことはございませんので、どうぞ、神父様」
神父「分かりました。信仰上のことにつきましてはもう少しお話ししなければいけないような気もいたしますが…。分かりました。これがあなたの支えになるのでしたら、このご寄付ありがたく頂きましょう」
はる「神父様…」
この人には申し訳ないのですが、当時の彼女の「聖書」解釈はかなり自己流のものであったようです。しかし、己の信ずるところを楽天的に生きる姿が3人の娘を底抜けに明るくめったなことにはへこたれない精神の持ち主に育て上げたと言えましょう。
神父様もナレーションもちょいちょいはるにツッコミを入れるスタイル!
家に帰ったはるは千代から加津子が兄に頼んで家を探してくれたと言う。千代は何ば勘違いしなさったとかと言ってるけど、千代も東京に行くと思い込んで加津子にその話をしたから、東京の兄に手紙を書くと言う話になったじゃなかと?(テキトー方言)
東京・日暮里
酒田燃料店
勘違いの主がこの御仁です。
大造「ええ、ええ。数をまとめて買ってくれたら一車でも二車でも勉強させてもらいますよ。桜のつぼみがちらほらっていうご時世だ。ハハハッ。こっちだって秋まで倉庫に炭俵を寝かしとくだけが能じゃねえんだよ。今はお買い時ですよ。ハハハハハハッ! 値段はそっちの言いなりだ。えっ? そうですか? じゃあ早速手配させてもらいます」←電話中。小気味よい江戸弁。
大造は河原崎長一郎さん。「純ちゃんの応援歌」で純子の母親役の伊藤榮子さんとご夫婦だとは知らなかったなー。そしてお店の店員に三宅裕司さんもいたらしい。もっと出てくる日があるかな!?
そこに植木屋親子(江戸屋猫八・小猫)が店に入ってきた。
植辰「ごめんよ!」
大造「おう来てくれたかい」
植辰「てやんでえ、呼ばれたから来たんじゃねえか」
大造「道具はどうした? おう、いくらちっちゃい目ん玉だって2つついてんだろ?ん?」
植辰「せがれが担いでるお前これ大根に見えんの?」
大造「いちいちうるさいのがお前さんの悪いとこだよ」
植辰「小言くらいに来たんじゃないの、私は。ねっ? 私は植木屋なんですからね。ええ? 仕事がねえんだったら帰らせてもらう」
大造「おい、ちょっと待てよ、ちょっと待て! おい、またヘボ将棋に負けてやんなかったな、栄一」
栄一「そりゃあたとえおやじでも勝負の世界は厳しいんですよ、旦那」
植辰「ナマ言うなよ、この野郎。チャボのケツみてえな頭しやがって。頭刈っちゃうぞ」
大造「そっちを刈るのは後回しにして早速かかってもらいたいんだ。実は今度うちの隠居所に福岡に片づいた妹の知り合いって人がいるんだ。旦那には去年死なれたらしいんだが」
植辰「へえ後家さんかい。年はいくつ?」
大造「バカ野郎! くれぐれもよろしくって妹の亭主からお目付け役を頼まれてんだ。めったなこと言ったらお出入り禁止だぞ!」
植辰「んな怖い顔しなくたっていいじゃねえかよ。大丈夫だよ。別に何も言いやしないからよ」
大造「何でもね結構な暮らしをしてる奥さんらしいんだよ。まあ猫の額ほどと言っても女所帯にはむさ苦しい庭は似つかわしくねえだろう」
植辰「ああ~ねえとも」
栄一「ハッ、力み返ってらあ!」
植辰「生意気なこと言うんじゃねえ、この野郎。ガキのくせしやがって…!」
大造「へッ! でね、1本2本好きな木は後から植えてもらったとしてあさっての夜までにこの植え込みの手入れをしてもらいたいんだ」
植辰「あっ、そうかい。そうならね、私も植辰ですよ、男ですよ。たとえ火の中、水の底、やりが降ろうが何が降ろうが…」
大造「おっと! 一席始まると長いんだよ、お前さんは」
植辰「そう。俺それ言われっと弱いんだ。ヘヘヘヘヘッ」
大造「おい、誰かいないのか? お茶だよ。お茶だよ!」
どうものんきやぞろいの磯野家とは波長が合いそうもないのが少々心配ではありますが。
テンポの良い会話が面白くて全部書き起こしてしまいました。落語って一人で話すものだけど、落語家が3人いるみたいな感じ。
一方磯野家では、千代、大和田高男も一緒に夕食。どこでそんなふうにこんがらがったのかという話に、はるは事情をよく話せば分かってくれると結論付けた。しかし、マチ子は上野の方がいいと言いだす。マリ子も美術館が近いし、芸術の森だしと言えば、マチ子も動物園にはゾウもライオンもいる。ヨウ子も銅像の西郷さんや銅像の犬もいると言った。
麻布の兄からも近所に家が見つかったと言われたが、マチ子的には近所なのがよくもあり悪くもありと思っていて、千代は近所の方が大安心だと言う。千代が話し始めようとすると明日も早いと言って大和田高男が自ら食器を率先して片付け始めた。天海朝男といいデーンと座りっぱなしじゃないところがいいよね!
がらんとした家の中が映し出され、話し声だけが聴こえる。
結局、麻布か上野か新居の結論が出ないまま、福岡最後の夜を迎えました。明日はいよいよ東京へ出発となれば、まず目がさえて眠られないのが普通なのですが、この一家、何も思い煩うことなく、ひたすら未来に期待を持って布団に入るや勇躍、安らかな寝息を立てたのでした。
話が進まないこと、はるの後先考えない気前の良さにイラっとしてる人を見かけるようになりました。はるを毒親と表現する人もいたけど、毒親なら父親が亡くなった時点で娘を売り飛ばし、自分だけ贅沢して暮らすんじゃないのかな。
だけど、私は会話がすごく面白いのが好きです。人のために使ったお金ならやっぱりいつか自分のところに戻ってくるんじゃないのかねと思ってしまうのは性善説すぎるかな? お金の話題が出てくると途端にシビアになる人が増えたような気がする。