徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】金子みすゞふたたび/みすゞと雅輔

先週買ってどちらも読破しました。

 

これまで映像化された金子みすゞさん関連の番組

知ってるつもり?! 1994年

NHKスペシャル「No.853 こころの王国 童謡詩人 金子みすゞの世界」(NHK制作、演出:今野勉、主演:小林綾子)1995年

・明るいほうへ 明るいほうへ(TBS制作、プロテューサー:石井ふく子、主演:松たか子)2001年

金子みすゞ物語〜みんなちがってみんないい〜(TBS制作、プロテューサー:石井ふく子、主演:上戸彩)2012年

 

金子みすゞさんのことはNHKスペシャルで知ったのかと思ってたけど、放送された年代を見ると、多分「知ってるつもり?!」が最初かもしれない。詩も素晴らしいんだけど、ドラマチックな人生もまた印象的だった。

 

金子みすゞふたたび」はNHKスペシャルで演出をした今野勉さんが書かれていて、自らが手掛けた番組の10年後に再びみすゞの故郷の仙崎をたずねて当時疑問のまま残っていたことなどを解き明かしています。こちらは詩の引用や図も多く、読みやすかった。

 

前にも書いたけど、金子みすゞさんのファミリーヒストリーともいうべき、どういう先祖がいたかという話から、金子みすゞさんの詩の解釈など。無縁墓というのも初めて知ったし、みすゞの父の死因、みすゞの母の父への思いなど、新事実がいっぱい。

 

TBSでドラマ化されたものは、松たか子さんバージョンは見た記憶があり、後にCSで再放送されたものを録画したりもしたのですが、上戸彩さんのも見たかなあ? 「金子みすゞふたたび」は2007年に発売され、これまで見ていた金子みすゞさん像とはちょっと違っているけど、多分、上戸さんのも松たか子さんと同じような話の流れだったんだろうな。松たか子さんの兄役が野村宏伸さんで優しいけど優柔不断という感じの役でした。

 

母親役というと高橋ひとみさんの印象だったけど、これはNHKスペシャルでの配役だった。1回見たきりのスペシャルだしドラマメインでもないんだけど、小林綾子さんのみすゞ、山本耕史さんの正祐が印象に残っています。

 

いちばん印象が変わるのは、みすゞの夫かな。ドラマでは、みすゞの詩作を一切禁止したり、遊郭通いから性病をみすゞにうつしたり、子供の親権を主張して子供を取り返そうとしたり、みすゞを自殺に追い込んだりと、とにかく酷い夫として描かれていますが、性病をうつしたのは事実としても、みすゞの方もあまり夫に心を開いてないこともあり、夫の目が外に行ったということらしい。そんな夫に心開けるか!っていうのもあるけど。仕事から帰って来ても、明るく迎えるタイプではなく文机に向かって詩を書いたり、詩作仲間と文通したり、人好きの夫としては妻として物足りなく感じていたのかも。

 

夫はみすゞの死後に再婚したが、再婚後に生まれた子供にみすゞの写真や童話集を見せたりしていたという。そして、母を早くに亡くした夫は、みすゞには詩作より子育てを優先させてほしいと思っていた。いろんな思いがすれ違ったまま。

 

わりと夫に同情的に書かれてるのは、作者の祖父が自殺していて、自殺の原因ともなった財産を食いつぶして放蕩した祖父の義理の息子がその後人が変わったように真面目に働いている姿を見ていたかららしいけど、本を読んだ直後はそういうもんかなあとも思ったけど、やっぱりムカついてきたな。淋病のせいで、床に臥せりがちになり、詩も作れなくなるほど気持ちが落ち込んでしまったのは事実だよ。

 

「みすゞと雅輔」は、弟・正祐(筆名・雅輔)から見たみすゞ像。死後、正祐の日記が見つかり、その日記や「金子みすゞふたたび」などの本を参考に紡いだフィクションとなっている。

 

おとなしく慎ましい女性として描かれてきたみすゞの芸術家としての面を見せてくれた本でした。自分の詩をまとめた冊子を尊敬する西條八十と弟の正祐に送ったみすゞの意図は自分も詩集を出版したいと思っていたから。死の前日、写真館で撮った写真は遺していく子供のためではなく、自分の詩集に載せて欲しいから。←この辺りの解釈は「みすゞさんはそんな女性ではない」というようなAmazonで低評価付けてるレビューも見ました。

 

みすゞが床に臥せりがちになっていたころ、東京の出版社で働いていた正祐に何とかしてほしいという思いがあったのだというのはちょっと納得。死後、正祐は西條八十に会って出版の相談もしたが、軍国主義に向かう時代、もう童謡の詩集は売れないだろうと判断された。「金子みすゞふたたび」だと、二人ともみすゞの詩にかつての勢いがないから出版しようと動かなかったという解釈だった。西條八十は大正時代は童謡も書いてたけど、流行歌を作る作詞家になり、戦時中は軍歌や軍事歌謡を作ったり、時代の適応能力が高かったという事も分かった。

 

それと、みすゞの詩は西條八十が選者となった雑誌では高い評価を得るが、西條八十が選者から外れると途端に選ばれなくなるというのも意外だった。西條八十以外あまり評価してくれる人がいなかったみたい。雑誌では、読者からの便りでもみすゞの詩を楽しみにしてる人もいたみたいだし、私も何度読んでも好きだけどな。投稿仲間の中から本職の詩人になれた人もいたが、みすゞは最後まで常連の投稿者の一人だった。

 

こっちもこっちで新解釈だったのは、みすゞの夫にと正祐の養父が経営する本屋で働いていた店員をすすめたが、みすゞはあっさり承諾。正祐の養父やみすゞの母もみすゞがその男性を憎からず思っていた事を見抜いていたってこと。別に親の勧めのままイヤイヤ結婚したわけではなかったらしい。

 

それよりびっくりしたのは、正祐さんです。もー、放蕩に次ぐ放蕩三昧。商業学校卒業後、東京の本屋で奉公。しかし関東大震災に遭い、半年ほどで実家に帰省。実家の本屋ではみすゞの夫と折り合いが悪く、仕送りしてもらいながら東京で働き始める。いずれ独立して店を持たせてやると言われていたみすゞ夫が正祐が東京に行ったのはお前のせいだと正祐養父に言われ、店を辞めた。正祐は養父が亡くなり、本屋を継ぐが、店の金を持って芸者遊びばっかりやってついに店員から嫌われて店から追い出され、再々上京。しかし、以前上京した時の仲間がいて仕事にありつけた。

 

女性関係はホントに酷い、地元の芸者で初恋の同級生、東京で同棲していたバリバリのキャリアウーマンとしばらく二股状態で、結局選んだのはキャリアウーマンで、一緒に劇団若草を立ち上げた。

 

正祐さんの日記や手紙が遺されていたせいで詳細が分かったけど、こんなに赤裸々に書いていいものか!? 正祐さんは平成元年に84歳で亡くなり(亡くなった4月11日はみすゞの誕生日でもあります)、妻も娘さんもすでに亡くなっている。娘さんには子供がおらず、直系の子孫はいないらしいが、それでも…。

 

みすゞの実家の金子文英堂も正祐の実家の上山文英堂も戦前には倒産してしまったそうです。「あぐり」のエイスケさんが仕送りをもらって好き勝手してるけど、これは本当にマイルドに描いてるんだろうなと正祐さんの日記を読んで思いました。

 

みすゞの事は話の合う文芸仲間という感じで、割と金子みすゞさんの詩が知られるときに語られたような姉と弟の禁断の関係という感じではなかった。確かに周りから見てもみすゞと正祐は仲が良く、だからこそみすゞの結婚話が持ち上がり、正祐は「家のために結婚するなんて!」と大反対したりもしてるけど、みすゞは承諾してるし、正祐はその間も初恋の芸者がいたりするしね。男女の仲を超えた大親友みたいな感じだったのかも。

 

そして、結婚して子供をあやしてるみすゞに対して「平凡な女になりましたね」なんて言葉も投げつけたりして、それに怒ったみすゞが13枚の手紙をよこし、正祐がその弁明に13枚の手紙を送り返す。みすゞが夫婦関係で悩んでいる事や病名を伏せて調子の悪い事を手紙に書くと、夫婦のいざこざ話なんてどうでもいいよみたいな返事を返したり…後々正祐はそんな態度を反省するんだけど遠慮のない関係です。みすゞ自身の手紙は残ってないのか?

 

どっちの本もみすゞの言葉はほとんど詩だけなので、周りの人の推察でしか人物像が分からなかった。正祐さんはこれまで見てきたドラマだとみすゞを姉とは知らずに一途に思う青年として描かれてきたので、真実の姿にちょっとショックだった(-_-;) エイスケさんは好きだけど、あれは野村萬斎さんが飄々と演じてたから好きだっただけで、クズ好きではありません。

 

詩が読みたい。詩集も買うぞ。吉行あぐりさんの本も朝ドラの原作本じゃなくてももう一度探してみよう。