小津安二郎監督 1959/昭和34年
あらすじ
郊外の住宅地、長屋のように複数の家族が隣り合って暮らしている。林家の息子実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)はテレビがほしいと両親にねだるが、聞き入れてもらえない。子供たちは、要求を聞き入れてもらえるまで口を利かないというストライキをして、最終的に買ってもらうのだった。(wikiより)
以前見た、山田太一脚本のいくつかがツボだったし、笠智衆さんの演技もツボだったので”山田太一””笠智衆”でキーワード検索をしています。
↑この三部作はホントにおすすめです。
で、今回、”笠智衆”で引っかかったので録画して見たら私には大当たりでした。
昭和34年の日常モノですが、おしんの加賀屋の大奥様の長岡輝子さんが噂好きの普通の主婦(旦那さんは東野英治郎さん)だったり、まず笠智衆さんが中学生、小学校低学年の子供がいる父親というのも新鮮でした。
長屋というと江戸時代のつながった家屋を想像してしまうけど(私だけ?)、平屋一戸建ての住宅がひしめき合っていて、たとえは悪いけど、仮設住宅みたいな感じに見えます。玄関を開けるとお向かいの玄関から家の中が見えるみたいな。
中心は林家だけど、お隣やお向かいの家が次々出てくるので最初は誰が誰だか分からないけど、見ていくと不思議と癖になります。ホントに日常の些細な出来事が描かれていて、組長(○○組とかじゃなく近所の集まり)に婦人会費が届いてない、林さんが集めてたんじゃないんだっけ? そういえば組長さんちは最近洗濯機買ったんじゃなかったっけ?みたいな。
組長さんちに林さんが会費は届けましたよね?と話に行くと、もらってませんけど!と言い争いになるけど、組長の母が預かってたことを忘れてた。それぞれ中学生の息子がいる割烹着に着物のお母さんたちの年齢は、いくつくらいなんだろう? 今の感覚だと40~50代くらいに見えてしまうけど、そんなわけないよねぇ。
しかし、笠智衆さんと東野英治郎さんの会話が定年がどうのという話をしていて混乱しました。
林民子 - 三宅邦子 (大映)(1916/大正5年・43歳)
林実 - 設楽幸嗣(1946/昭和21年・13歳)
林勇 - 島津雅彦 (若草)(1952/昭和27年・7歳)
当時の実年齢で計算してみました。あ、見た目通り結構いい年した夫婦だったのね。実と勇は家の中でペアルック。勇は兄にいつもくっついている。近所の子供たちで英語を習ってるという設定で、勇が何かというと「アイラブユー」って言うのがかわいい。
福井平一郎 - 佐田啓二(1926/大正15年・33歳)
節子は、民子の妹で林家に同居している。平一郎とは仕事での知り合い(英語の翻訳)。平一郎は節子が好きだけど、結局言い出せないでいる。そこがいいんだけどね。加代子と平一郎は姉弟でアパートで一緒に暮らしている。
原口みつ江 - 三好栄子 (東宝)(1894/明治27年・65歳)
原口きく江 - 杉村春子 (文学座)(1906/明治39年・53歳)
原口辰造 - 田中春男 (東宝)(1912/明治45年・47歳)
原口幸造 - 白田肇
原口家にも実と同じ年の息子がいる。軽石を削って飲むとおならがでやすいという噂を信じて飲み続けているので腹が弱く、しょっちゅう漏らすという描写があります。当時は笑えるギャグかもしれないけど、今だと軽石を飲むという衝撃がまずあって心配になる。ここが組長の家で、おばあちゃんは産婆さん。旦那さんはひとり関西弁。
「今朝の秋」では笠智衆さんと杉村春子さんが元夫婦の役でした。「冬構え」では笠智衆さんと沢村貞子さんが共演してました。
富沢汎 - 東野英治郎 (俳優座)(1907/明治40年・52歳)
富沢とよ子 - 長岡輝子 (文学座)(1908/明治41年・51歳)
この家には子供はいない(もう独立してるのかも?)。笠智衆さんと定年後の話をしていたけど、実年齢は東野さんの方が年下だった。定年後また仕事を探さなくては、と話してたけど、電気製品を売る外商になったと言ってました。さっそく林家にカタログを持ってきて、子供たちが欲しがっていたテレビを売った(ナショナル14型)。
この時代だと、「ごめんください」と言った瞬間、引き戸を開けて玄関に座り込んでるのが普通なんだよね。隣の奥さんも「こんにちは」って言いながら戸を開けてたからね。今の感覚だと怖い~。鉛筆、ゴム紐などを売りつけに来た。殿山さんは70~80年代の古いドラマを見てるとよく見かける顔でこの頃は結構太ってたんだな。
この押売りの男と産婆さんのやりとりが面白かった。三好栄子さんという女優さん、インパクトあるなぁ。
丸山みどり - 泉京子(1937/昭和12年・22歳)
いち早くテレビを持ってるので子供たちがテレビを見に来ているが、池袋の夜の店で働く夫婦で昼から寝間着でいると周りの奥さんからの目が厳しい。おしゃれでいつも歌を歌ってる人たち。結局、終盤どこかに引っ越しの準備をしていた。子供達には優しい。みどりと平一郎は顔見知りで、引っ越したいけどこのアパート空き室ない?とか聞いてた。
大久保しげ - 高橋とよ(1903/明治36年・56歳)
大久保善之助 - 竹田法一
大久保善一 - 藤木満寿夫
この家のお父さんがおならを出すのがうまくて子供たちが真似していた。ガス屋で働いてるとか言ってたな。
伊藤先生 - 須賀不二夫(1919/大正8年・40歳)
ちょっと怖そうな実の担任の先生。学校でもしゃべらなくなったので心配になって家を訪ねてくる。
おでんやの女房 - 櫻むつ子
すんごいおっかさんの感じがするけど、昔の人だからなぁ~と思ってたけど、実際、年齢結構いい歳の人たちじゃないか。中学生の子たちが長子ってわけじゃないかもしれないけどね。
カメラ目線でしゃべったりする独特な演出だけど引き込まれました。ちょっとしたすれ違いから民子さんが近所の奥さんから孤立しそうになるけど、あっさり誤解が解けたり、結局出ていくみどりみたいな人がいたり、ご近所付き合いが当たり前だった時代だけど面倒くささも表現されてて面白かった。ご近所で貸し借りもビール1本とかもありだったんだ。
住宅に住んでいる5組の家族のうち、池袋で働いてる若い夫婦だけは違うけど、他は旦那さんが働いていて女性は専業主婦。昔の女優さんすごいなぁと思うのは、普通に繕い物も編み物も慣れた手つきでセリフをしゃべりながらやってる。「おしん」の現代パートの初ちゃんもそうだった。
昔の女優さんの方がお付きの人が何人もいて何にもできないイメージだけど、できるできないのレベルが違うのかもね。昔は一般の女性でも和裁、洋裁を習って自分で服を仕立てる人もいたくらいだもんねぇ。昭和の風景と言えど、母も実と同世代くらいだけど、懐かしいという言葉は出なかった。東京と地方ではまたまったく生活レベルが違っただろうな。
しかし、「ゲゲゲの女房」を見ていたせいか、昭和34年にテレビを買うってかなり金持ちに思える。