1961年 日本
あらすじ
米アカデミー賞外国語作品賞ノミネート。阿蘇の大自然を背景に四半世紀にわたる女の憎悪の念を情熱と哀愁のフラメンコに乗せて描く、名匠・木下惠介監督の“闇のクロニクル"。
上海事変の頃。阿蘇の小作人の娘、さだ子(高峰秀子)には、隆(佐田啓二)という恋人がいた。隆は大地主の息子・平兵衛(仲代達矢)とともに応召したが、平兵衛は負傷し除隊。そして、かねてさだ子に恋情を抱いていた平兵衛はさだ子を犯してしまう……。
2024.3.25 BS松竹東急録画。この映画は昨年11月にも放送されるはずだったのに直前になり急に別の番組に差し代わっていました。木下恵介監督・脚本だったし、すごく面白そうで楽しみにしてました。
昭和三十六年度 芸術祭参加作品
蒸気機関車が走る。車内には若い男女が乗っていて、和服の女性が待っている。
さだ子:高峰秀子…字幕黄色
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隆:佐田啓二…字幕水色
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豊:石浜朗
直子:藤由紀子
力造:野々村潔
草二郎:加藤嘉
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兵左衛門:永田靖(俳優座)
栄一:田村正和
守人:戸塚雅哉
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脚本・監督:木下恵介
オープニングは日本人の歌うフラメンコ調の歌。音楽はもちろん木下忠司さん。
一章
昭和七年
プラスバンドの演奏でかなり長い行列があぜ道を歩く。青年が名誉の負傷で凱旋帰郷。父親は楽団を買い込み、近所の子供たちも歓迎した。
地主でかなり大きな家の小清水家は夜も大騒ぎで手伝いに来ていた近所の小作の娘・さだ子は負傷した息子・平兵衛からさだ子の恋人・隆と上海で会ったと聞かされた。平兵衛はさだ子を気に入っており、さだ子を襲うが、そのときは逃げることができた。
小清水家はさだ子の父・草二郎や隆の兄・力造から土地を半分取りあげると脅すなど、さだ子を平兵衛の妻にしようとしていた。
ある夜、足を引きずった平兵衛がさだ子を訪ねて家に来て…直接的な描写なんてなくても分かるからこれくらいがいいな。
小清水家
平兵衛の父・平左衛門から酒を勧められる草二郎だが頭を抱えた。平左衛門は笑って千両塚の嫁になれる、本来ならこんな玉の輿に乗れるものじゃない、息子のわがままを叶えさせてやりたいと酒を勧めた。平兵衛も同席し、親子の杯だと酒を勧めた。
草二郎は「帰らせていただきます」と帰り、さだ子と大声で叫んだ。草二郎は力造にも声をかけ、さだ子を捜した。川にいたさだ子を力造が見つけた。
ブラスバンド演奏に乗って軍服姿の青年・隆が帰ってきた。
隆は力造からさだ子に会うことを止められ、「さだちゃんは昔の娘じゃなか。若旦那に無理やりに…」と聞かされ、さだ子の口から聞くなよと止められた。
それでも、軍服姿のまま会いに来た隆は二人で逃げようと抱き合った。夜明け前に地蔵前で待ち合わせることを決めた。
夜明け前、家を出たさだ子の前に現れたのは馬に乗った草二郎で力造から隆の手紙を預かっていた。隆は自分と出て行って苦労するより千両塚の嫁として幸せに暮らしてくださいという内容の手紙を書いていて、一人で出て行った。
二章
昭和十九年
力造に赤紙が来た。足が不自由な村長の馬も戦争に行くことになっており、日本も危ないと草二郎は言う。
小清水家
力造は、さだ子に出征の挨拶に来た。自分の妻子と1週間前から疎開している隆の妻子をよろしく頼むと言う。平兵衛は力造に隆の嫁をうちに手伝いに来るように言い、さだ子には隆の恋人と妻を養ってやってるとイヤミっぽくさだ子に話しかけた。大阪に住んでいた隆も昨年からまた出征していた。
今は寝たきりの平左衛門の介護、息子の栄一、娘の直子の世話をするさだ子。
隆の妻・友子が手伝いに来ていたが、さだ子が親切にしても冷たい。平兵衛から全て聞いた。
平兵衛の足を揉んでいた友子に夕飯の支度をするよう指示するさだ子。平兵衛も平左衛門も足が悪く、村人は千人塚の祟りと噂していた。
友子と平兵衛は、それぞれの伴侶に好かれてないと共感し合うが、隆の妻を盗むと言って、今度は友子に襲いかかる平兵衛。おいおい…さだ子に見つかり、さだ子が友子をビンタ。妬いてくれてるのかと喜ぶ平兵衛に隆さんがこれ以上傷ついたら可哀想だとさだ子が言う。
友子は息子の豊を連れて、隆と住んでいた家でなく、自分の実家に帰ると息子の豊を連れて出て行った。
三章
昭和二十四年
成長した栄一は田村正和さんになり、平兵衛にカメラをねだった。さだ子と栄一は折り合いが悪く、栄一は学校で友達を怪我させるなど問題児になっていた。
隆は妻を亡くし、豊を連れて村に戻っていた。平兵衛と馬車に乗っていた次男・守人は豊に手を振るが、平兵衛は無視して馬を飛ばす。
さだ子と力造がバスで再会した。隆は戦争で体を壊し、長いこと広島の病院にいたと言う。
川にいた栄一に声をかけた隆。自転車に小清水と書かれており、隆は、さだ子の息子と気付く。
栄一は自転車に乗り、守人の前に現れ、自分のカバンを預け、はめていた腕時計もあげると守人の腕にはめた。
栄一の学校に呼び出されたさだ子は栄一が殴った生徒は5人や10人ではなく、次は警察に行くと騒ぐ父兄もいて、恥ずかしい思いをしたと平兵衛に話した。
帰ってきた守人から栄一の様子を聞いた平兵衛たちは栄一を捜すことにした。
栄一は平兵衛に手紙を残しており、出生の秘密を知ってしまったこと、お母さんがかわいそう、いなくなったほうがいいと書かれていた。栄一を一番かわいがっていた平兵衛はさだ子を何度も殴りつけた。
さだ子は家を飛び出し、隆と再会した。さっき、川上にいたから一緒に行こうと隆がさだ子の手を取り、走り出す。
川にはおらず、山の上にいた栄一が煙の出ている火口に走り出す。
四章
昭和三十五年
ここが冒頭の蒸気機関車のシーンにつながる。さだ子と草二郎は、隆の息子・豊とさだ子の娘・直子が出ていくのを見送っていた。
さだ子は平兵衛を起こし、事情を説明した。平兵衛は草二郎に隆を呼んでくるように言う。栄一が死んで以来、隆と顔を合わせていなかったさだ子。
隆と歩いていた草二郎の前に友子が現れた。友子は死んでおらず、男と逃げていたらしい。友子を拒絶し、興奮した隆は血を吐いて倒れた。
直子を連れ戻そうとする平兵衛。守人は東京の大学に行き、赤になって暴れているから、直子しかいない。
駐在が小清水家に来た。守人は安保反対の国会デモに参加し、逮捕状が出ている。出たー、全学連!
さだ子が家を出ると友子がいた。友子はいろんなところで働いたが、もうすぐ死ぬような気がすると言うので、さだ子が豊と直子が出て行った大阪の住所を書いたメモとお金を渡した。
バスで守人との待ち合わせの火口へ行ったさだ子。守人は地主の子供の自分が千人塚の供養をしているのだと笑う。さだ子から5万円を受け取ると、お母さんがお父さんを許さないように僕はお母さんを許さないと去って行った。さだ子が栄一を思い出して苦しくなる火口を待ち合わせ場所に選んだのも守人。
金もらって偉そうなことを言うな!とも思う。
五章
昭和三十六年
赤ちゃんを抱いた直子と豊が病床の隆のもとを訪れた。孫の名前は明。さだ子は、私とあーたの子供のような気がしてと隆に言い、涙を流す。友子は1月に死んだが、隆は許すと言えなかった。去年、村に来たときはガンになっていて、さだ子が豊の住所を教えたおかげで豊と直子に看取られて亡くなったと隆は、さだ子に感謝した。
さだ子は、ちょっとうちへ行くと走って小清水家に戻り、平兵衛に手をつき頭を下げ謝った。隆が生きているうちに直子を許してほしい。平兵衛は許さないので、さだ子は家を出て、直子のところに行くと言う。
やったことは人の道に外れていたが惚れていたと平兵衛が言い、さだ子が出ていかなかったのは貧乏に戻りたくなかっただけ、小作人のみみっちい根性があると指摘。平兵衛はひとりぼっちだと言う。
さだ子は栄一にすまなかったと平兵衛の前で涙を流し、家を出た。平兵衛も両方杖をついて追いかけてきた。さだ子が平兵衛を許すなら、直子のことを許すと言い、さだ子に先を急がせた。さだ子は先を走って行き、平兵衛がゆっくり歩いて行った。(終)
すごい話だったな〜。木下恵介作品には足の悪い青年が大体出てくるけど何かあるのかな。隆は、さだ子にとっては優しい男性だったのかもしれないけど、友子に対しては割と扱いは酷かった。しかし、全ての元凶は平兵衛! 仮に2人で逃げてたら、豊と直子のカップルは生まれてないけど、栄一はそれなりにかわいがられていたんでは!?と思わなくもない。栄一が不憫で…
全編、フラメンコ調の曲で熊本の言葉で歌われていて音楽も印象的だった。