公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)が帰宅すると、トシ江(宮本信子)に連絡するようにと、道子(川上麻衣子)のメモがあった。トシ江は、先日、大介(木下浩之)が「5カ月過ぎたら中絶は無理だね」と聞いてきたという。大介は付き合っている女性を中絶させ、手術から回復するまでの期間一緒にいるというのか…。あまりのショックに言葉を失った元子だが、大介の連絡先を道子から聞き出す。これは命の問題、緊急事態だと元子は思い詰めて…。
BSのない環境にいたため、遅れ視聴しています。この回は2023年3月8日(水)放送。
夜、封筒を抱えて帰ってきた元子。家の中も真っ暗。
ダイニング
テーブルの上に道子が書いたメモがあった。「お夕飯、お先に頂きました。お父さんよりTELあり、11時ごろになるそうです。それから人形町のおばあちゃんが帰り次第、お母さんに電話してくれるようにとのことです。お風呂、沸いてます。では、おやすみなさい」
壁の時計は午後9時34分。
電話をかける元子。
吉宗
電話が鳴る。
順平「はい、吉宗です」
元子「私。お母さん、いる?」
順平「うん、いるよ。何だい?」
元子「うん、ちょっとね」
順平「巳代子姉ちゃんのことだろ」
元子「巳代子の?」
順平「あれはね、巳代子姉ちゃんの方がきついんだよ。俺、絶対、祐介さんの味方するからね」
元子「何言ってんのよ。私は仕事のことでちょっとお母さんに聞きたいことがあったから」
順平「そんならいいんだけど。おい、母さん! 電話だ」
トシ江「あいよ。俊平がね、グズグズ言ってた…ほら、ねっ、ちょいと見てやってよ。ねっ、ほらほら、ほらほら…。もしもし」
元子「電話くれたそうだけど」
トシ江「うん、ちょいと気になることがあってね。近頃、大介どんなふう?」
大原家茶の間
元子「えっ?」
トシ江「別に変わったことないの?」
元子「あの子、お母さんに何か?」
吉宗
トシ江「うん、昨日ね、あんたが出かけたあと大介が帰ってきて、私にいきなり変なこと聞くもんだから、私、慌てちゃったわよ」
大原家茶の間
元子「何よ、変なことって。あの子、お母さんに何聞いたの?」
トシ江「だから何でもなきゃ、それはいいんだよ」
元子「嫌だわ、そんな奥歯に物の挟まったような言い方やめてください」
吉宗
トシ江「5か月過ぎても中絶は無理なのって、いきなり聞くのよ」
大原家茶の間
ショックを受ける元子。
トシ江「もしもし…もしもし?」
元子「それで?」
トシ江「それだけ」
元子「お母さん」
吉宗
トシ江「いきなり聞かれたから私だってオロオロしちゃってね、それでああって、そう言ったら、まあ、いつもと同じ顔で世間話したから、私、ホッとして」
大原家茶の間
電話を聞いている元子。
トシ江「それでただ聞いただけなんだなって思って、帰ってきたんだけど、ちょいと気になってね。ねえ、元子?」
元子「あっ…本当にご心配かけて申し訳ありませんでした」
吉宗
トシ江「だったら何でもないんだね」
元子「ええ」
大原家茶の間
元子「どうもありがとう。じゃあ、本当に心配いらないから。ねっ。それじゃ…」受話器を置きながらため息をつく。
ラジオから音楽が流れる。
ドラマなどで耳にすることが多く、割とおなじみ。時代のせいか洋楽がバンバンかかる朝ドラって珍しい。
道子の部屋
⚟元子「道子」
勉強の手を止める道子。電気スタンドのみの明かりで結構暗い。
元子「ただいま。メモ読んだわ。ありがとう」
道子「いいえ」
元子「お兄ちゃんの行き先の電話、教えて。道子、電話番号教えてちょうだいな」
道子「私、緊急事態があった時にって言われて預かってるの」
元子「だったら教えてちょうだい。その緊急事態っていうのは一体、どういう時のことなの?」
道子「それは…」
元子「例えば、お父さんがまた事故に遭って大けがをしたり、お母さんが急病でぽっくりと死んでしまった時のことなんでしょ」
道子「別にそんなに大げさに考えることないわ」
元子「でも、人間、何が起こるか分からないのが現実ですものね。そういった事態に直面した時、もし道子がいなかったら、お兄ちゃんにどうやって伝えたらいいの?」
道子「お母さん…」
元子「今度のことでは道子ともよく話し合わなければいけないと思っていたわ。でもね、今がその緊急事態なのよ。だって、命の問題なんですもの」
道子「命の問題?」
元子「道子ももう子供じゃないし、いつそういうことに直面するか分かんないから、お母さんもはっきり言うわ。お母さんは男女間の手軽な解決、つまり中絶は反対なの」
道子「中絶ですって!?」
元子「だって10日間って限定して大介が出てったっていうことは、相手の人(しと)が手術をして体が元に戻るまでの期間なんでしょう」
道子「まさかそんな…」
元子「でも、現にお兄ちゃん、そういったことをある人に聞いているわ」
道子「ある人って誰よ」
元子「人形町のおばあちゃんです」
道子「そんな…」
元子「でも、まだ昨日の今日だから間に合うかも分かんないじゃないの。だから…ねっ、道子」
道子「うそよ、うそ! そんなことないわ!」突っ伏して泣きだす。
元子「道子…」
道子「お兄ちゃん、そんなこと言わなかったもん。お兄ちゃん…若者はいつか旅立たなくちゃいけない。だから…だから今、圭子さんの旅立ちに自分の力を貸してやりたいんだって、お兄ちゃん、そう言ってたもん」
元子「圭子さん…?」
紙袋を抱えてリンゴをかじりながらアパートの廊下を歩く大介。
ノック
⚟女性「はい」
大介「僕、大介」
⚟女性「ちょっと待って」
ドアが開き、そのドアで女性の顔は見せない。
大原家茶の間
正道の着替えを手伝う元子。くわえタバコの正道、危ないって。
正道「すると何か電話番号は道子が教えたのか?」
くわえタバコのままダイニングに移動する正道。
元子「ええ。で、電話局に住所を問い合わせてみたんですけど、電話局じゃ電話番号は教えても住所は教えられないっていうんです」
正道「ハハ…だったら、そんな面倒なことしないで何で直接かけてみないんだ」
元子「かけましたよ、もちろん! けど、電話は呼び出しで口止めでもされてるみたいに全然取り次いでくれないんですもの」
正道「じゃあ、しかたないだろう。あいつを信用して、じっと10日待つしか、ほかないな」
元子「その10日間で取り返しのつかないことになったらどうする気なんですか」
正道「どういう意味だ? その取り返しのつかないってのは」
元子「私ね、このところ若い親たちと子供の関係をずっと追っているの。それでつくづくと感じるんですけど、とっても気軽にその処置を考えてるってことに、もう寒気がするもんだから」正道の向かいの席に座る。
正道「じゃ何か、君は大介がそんなこと考えてるって思ってるのか」
元子「そうは思いたくないけど、そういう若い人たちの例があんまり多いから」
正道「冗談じゃないよ。君は何で大介がそんな間違いを起こすって決めてかかってるんだ」
元子「でも…」
正道「どうした元子、え」
元子「いいんです。お出かけなんでしょ?」
正道「それは…晴見で家具のショーがあるから出かけるけどさ」
元子「いらしてください。どうぞ」
電話が鳴る。
元子「はい、もしもし、大原でございます」
洋三「ああ、もっちゃん。私だ、洋三だ。いやね、お宅の若君のことでちょっとね」
元子「大介が何か?」
洋三「うん。急にモンパリで働かせてくれって言ってきたもんだからさ」
元子「モンパリで!?」
洋三「うん。それでね…」
老人ホーム
洋三「あそこは八木沢に譲ったようなもんだから、一応彼に挨拶をしなくちゃいけないとそう言ったんだがね…。うん、いいよ。うん、今日、東京行く日だからね。3時、モンパリ、うん…。じゃあ、その時にね、はいはい。うん? アハハ…聞いた聞いた。なかなかやるじゃないか。何でも大ちゃんのおかげで持ち直したし順調だって言ってたよ。すっごく張り切ってた」
廊下の赤電話で電話していてすれ違う老人に頭を下げる。ダンディな洋三さんが水色ジャージに首からタオル下げてるなんて珍しい。
大原家茶の間
受話器を持つ元子と傍らで聞いてる正道。
洋三「うん、若者だねえ、ハハハハハハ」電話が切れる。
元子「持ち直して順調なんですって…」
正道「ほら、見ろ。『案ずるより生むはやすし』っていうんだよ。じゃ、行ってくるからな」
元子「あなた…」
電話が鳴る。
元子「はい、大原でございます」
女性時代編集部
福井「もしもし、福井です。今、出社したんだけれども机の上にあなた宛のメモが置いてあったものだから。児童相談所の武藤先生から幸男ちゃんの養子縁組みのことでね、新しい問題が起きたらしいの。これから相談所の方に回ってもらえるかな? そう、じゃ、よろしくね」
荒川児童相談所
所長室で待っている元子。
部屋に入って来た武藤。「ああ」
元子「お電話を頂きましたそうで」
武藤「わざわざ来てくださらなくてもよかったのに」
元子「でも、幸男ちゃんのことで何かございましたんでしょう?」
武藤「うん…まあ、どうぞ。かわいそうにね、あの子。せっかく引き取り手が現れたっていうのに、当分、養子縁組みはできなくなったわ」
元子「どうしてですか?」
武藤「父親が今になって自分で育てるって言いだしたの」
元子「育てるっていったって、彼は母親と同じように拘置所に入ってるんですよ」
武藤「ええ。駆け引きなのよ、父親の」
元子「何の駆け引きですか?」
武藤「裁判のための駆け引きですよ」
元子「そんなバカな」
武藤「ええ。誰に知恵をつけられたか知らないけど、恐らく判決を有利にしようと思って言いだしたに決まってるわ」
元子「そんな…。勝手に捨てといて、今度は減刑のために利用しようとしてるんじゃありませんか」
武藤「そうなの。これは親として本当に身勝手すぎます。でもね、最近、こういう親がとても多くなってるのよ。大原さんだって仕事しながらそう思うことがあるでしょう?」
元子「ええ…」
武藤「親としての自覚なんて全く持ち合わせてないのがいるんですからね」
元子「はい…」
武藤「そういうわけで幸男ちゃんは欲しいって人のところへ行けなくなってしまったの。だから先日取材したことを記事になさる前にお知らせしとこうと思って、それでお電話差し上げたんです」
元子「はい…」
武藤「けどね、考えてみればこういう若い親たちを作り上げてしまったのは私たちの世代なんですものね。責めてばかりいても問題解決にはならないわね」
モンパリ
洋三「冗談じゃないよ。そんな手合いと大介を一緒にする親がどこにいるんだ」
元子「でも…」
洋三「全く困った親だね。そんなに心配なら大ちゃんのアパートへ行ってみたらいいじゃないか。何なら叔父さん一緒に行ってやろうか?」
元子「けど、住所が全然分かんないんですもの」
洋三「そんなこと聞いてるよ、え。人を雇う時には、いかにめいの息子でもちゃんと履歴書をとる、そういうのが私の主義なんだから」
元子「それじゃあ?」
洋三「ここで働きたいってことは、まあ、恐らくその女性との生活費のことを考えてるんだろうけれども、まあ、その辺はうまく聞き出してやるから」
元子「お願いします、叔父さん」
洋三「いやいや…ベトナム戦争反対のデモに誘ったのも、この私だしね、その他、もろもろあって、私も多少責任を感じとるんだよ」
元子「はあ…よかった…」
洋三「しかし、羨ましいね」
元子「えっ?」
洋三「そうやって、もっちゃんほどの人が身も世もなく心配できるのも子供がいるからだからさ」
元子「叔父さん…」
洋三「ハハハハ。でもね、割り切れば子なしの夫婦もなかなかいいもんだよ。一緒に年を取って、それで一緒に死ねれば、それでいいんだから」
元子「本当に申し訳ありません。いつもいつも相談することばっかり多くて」
洋三「うん、いや…なるたけ余計なことは人形町のおっかさんの耳に入れることないよ。じゃあ、話によっては大介を雇うけれども、それでいいね?」
元子「はい。よろしくお願いします」
洋三「あっ、そうだ。どう? 私の見込んだ八木沢君のコーヒーだけど味は落ちてないだろ?」
元子「えっ、ええ…」
大介にいざ会えることになればなったで会うのが怖い思いの元子でした。
つづく
近頃の親は~となりがちだけど、前も書いたけど、どの時代にも一定数いるんだと思う。今もそういう事件あるから。昭和40年代はテレビや写真週刊誌がより身近になって目立ちやすくなっただけだと思う。
Twitter界隈じゃ元子がイライラカリカリしすぎという意見の方が目立つように思うけど、逆に正道や洋三の”大介がそんなことするわけない”というかばい方の方が悠長だな~って思っちゃうけどね。