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ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(20)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

元子(原日出子)は、空襲で下宿を焼かれた同期ののぼる(有安多佳子)に、仙台放送局に行ってしまったトモ子の代わりに叔父の洋三(上條恒彦)のカフェ・モンパリに下宿するよう勧める。寂しがっていた叔母の絹子(茅島成美)も喜んでのぼるを迎え入れた。ほっとしたのもつかの間、翌日の11月29日の真夜中から、東京は初の夜間焼夷弾攻撃を受ける。宗俊(津川雅彦)たちは消火に駆け回り、金太郎(木の実ナナ)を救い出すが…

台所

茶箪笥から食器を出すトシ江。サツマイモをふかしているキン。

 

元子「ただいま」

キン「お帰りなさいまし! というところなんでしょうけど、まあ、お嬢が昼帰りするとは全くねえ」←夜勤明けということね。

トシ江「しかたないわよ。あの父親の娘なんだもの」

元子「いいわよ、せっかくいいものお土産に持ってきてあげたのに」

キン「あら、何でしょ」

元子「はい。分かった? これで私の許可がないうちに新聞切ったらもう二度と持ってきてあげないから」

peachredrum.hateblo.jp

昨日、のぼるが言っていた毎日もらう冊子(進行表?)をキンに手渡す。

 

キン「あらまあ、いい紙じゃありませんか。まあ、大助かりですよ。そんじゃ、すぐお茶いれますからね」

元子「本当に現金なんだから、おキンさん」

 

空襲警報が鳴る。

トシ江「空襲だよ!」

元子「警報が出たらスイッチ入れっぱなしにしとけってラジオが言ってたでしょ!」

 

爆撃音

キン「高射砲です!」

トシ江「浜町公園の陣地で撃ってるんだよ、きっと」

元子「見物はあと! 早く2人とも防空ごうへ入って!」ラジオに耳を澄ます。

トシ江「そうか…さあ、おキンさん、先に…」防空頭巾を取り出す。

キン「あっ、すいません」

トシ江「かぶって、かぶって…。はい…元子、何してんだい! 早くしないと! ほら、早く早く…何してんだい!」

 

B29による東京第2回目の空襲でした。

tokyo-sensai.net

その翌日

 

放送員室

元子「入選者発表音楽会の枠アナ終わりました」

立花「ああ、お疲れさん。まだ『ヒ』と『シ』が少しおかしいよ」

元子「どうも申し訳ございません」

立花「いやいや、それはいいが、このあとの少国民の時間も君にやってもらうから、十分下読みをしておくように」

元子「はい。六根清浄…じゃなかった、立山さんはまだ来ないんでしょうか?」

立花「ああ、立山君のことだから何かあったら連絡はあるはずなんだが…」

元子「はい、あの人(しと)が無断で休むようなことは絶対にないと思います」

立花「だから、かえって何かあったんじゃないかと気にしている…」

 

のぼる「遅くなりました。申し訳ございませんでした」

髪もぼさぼさ、顔もススだらけで出社。

 

元子「六根!」

立花「昨日の空襲でかね?」

のぼる「はい」

立花「け…けがは?」

のぼる「いえ。帰り着いた時はちょうど下宿が燃え落ちるところでした」

元子「そんな…」

立花「いや…とにかく座りなさい」

 

のぼる「昼間でしたし、男手はないし、下宿の奥さんもほとんど何も持ち出す暇がなかったようで、とりあえず防空ごうに入れてあった品物だけ一緒に掘り出して、登戸のご親戚を頼るっておっしゃったもんですから送っていったり、焼け跡を片づけたりしていて遅くなりました」

立花「そうか…それは大変だったな」

のぼる「でも、この腕章の威力には感激しました」左腕に「報道 日本放送協会」の腕章をしている。「昨日は帰る途中、ドカンドカン来てたんですけれども、これを巻いて手を上げたら新聞社の車が家の近くまで乗せてくれましたし、今日、登戸から帰ってくる時も優先して電車に乗せてくれました。ですから、ついでに少し取材もしてきました」

立花「ああ、ご苦労さん。じゃあ、ゆうべはろくに休んでないんだろう」

のぼる「はい。やはり奥さんが興奮していましたし、その相手や何やでちゃんとは眠れませんでした」

 

立花「分かった。とにかく向かいの宿舎へ行ってひと休みしてきなさい」

のぼる「いえ、大丈夫です。それに、私の放送時間もすぐですから」

元子「それなら私が読むことになったわ」

のぼる「大丈夫よ、私、読めるわ。それに読むために出てきたんですもの」

立花「いいから、とにかく顔を洗って食堂行ってきなさい」

のぼる「食堂へ?」

立花「腹が減っては戦はできぬ。すいとんぐらいは食わせてもらえるだろうさ」

のぼる「はい…」深く頭を下げる。

 

宿舎

悦子がのぼるが寝ているベッドをそっと見る。

恭子「じゃあ、きれいさっぱり焼けてしまったわけ?」

元子「まあね。下宿の奥さんもほとんど何も持ち出せなかったくらいだから、六根清浄、全くの着たきりすずめで着替えの下着もないんじゃないかしら」

恭子「ひどい話」

悦子「でも、現実に私たちの誰かが空襲に遭うなんて、まだまだ想像もしてなかった」

恭子「明日は我が身よ。みんなでなんとかしましょう」

元子「そうね。私も使ってないもの持ってくるわ」

 

由美「けど…私たちで持ち寄れないものも焼いちゃったんでしょうねえ

元子たち?という表情。

由美「写真とか日記とか本や思い出の品とか…。気が強いから何にも言わないけど、ご家族は満州だし、六根清浄、それが一番こたえてるんじゃないかしら」

元子「今まではピンと来なかったけれど、焼けるって、そういうことだったんですね」

のぼる「そういうことだったのよねえ」ベッドから体を起こす。

 

元子「大丈夫?」

恭子「ごめん、起こしちゃったみたい」

のぼる「ううん、ガンコやみんなが代わってくれたおかげで、ぐっすり眠れて、おかげですっきりしました」

元子「六根…」

ベッドから降り、みんなのもとへ。

のぼる「ありがとう」

のぼるが座って今までと微妙に元子たちの座り位置が変わる。

 

のぼる「いいもの見せましょうか」

悦子「何よ」

のぼる「焼け出された人しか持っていないもの、さあ、何でしょうねえ」

由美「何か焼けあとから出てきたの?」

のぼる「いえいえ、はい、これです」

元子「『罹災証明書』?」

由美「『右 罹災者たることを証明す…』」

のぼる「サバサバしたっていうと変ですけど、いずれそうなるんなら早いか遅いかの違いだけで内地には家族もいないし、この身一つって思ったら、何となく度胸が据わった感じなんです」

元子「強いわぁ、六根」

 

恭子「それで、下宿の方はどうなるの?」

のぼる「見つかるまではここにいてもいいって言われてるんだけど…」

悦子「それは駄目よ。仮に空襲がもっと激しくなったとして、ここになんかいてごらんなさい。出勤してくる人の代わりにこき使われるのが関の山よ」

のぼる「それはいいの。一回でも多くマイクに向かうのは望むところなんだけど、ここにずっと暮らすとなるとねえ…」

由美「大丈夫よ、私も心当たり聞いてみるわ」

恭子「うちでも一番下の弟が疎開して部屋が1つ、空いてることは空いてるんだけど」

 

元子「もしよかったら、私、叔母に相談してみます」

悦子「えっ、おばさんって?」

元子「モンパリの叔母です。ふれちゃんが仙台に帰ってちょうど寂しがってるとこだし」

のぼる「あっ…でも悪いわ」

恭子「だけど、モンパリなら近いし、歩いて通えるじゃないの」

のぼる「何よ、実は私をだしにして、またまたモンパリにたむろしたいんでしょ」

恭子「ばれたか」

笑い声

 

元子「それじゃあ、明けたら叔父が工場へ出る前に早速交渉してみます」

恭子「頑張って!」

元子「うん」

 

モンパリ

洋三「ああ、いいともさ。机も鏡もふれちゃんが使った時のまんまになってるからね。部屋はどうせ空いてるんだよな」

のぼる「ありがとうございます」

絹子「とんでもない。うれしいわ」

元子「よかった。叔母さんならきっとそう言ってくれると思った」

絹子「ただし、ごちそうはできないわよ。私とおんなじお雑炊だけは覚悟してちょうだいね」

のぼる「もちろんですとも。それではよろしくお願いします」

洋三「それじゃあ、引っ越しの荷物…といっても何もないのか。それじゃあ、今日からもうここに居ついちゃいなさい」

のぼる「はい! そうさせていただきます」

洋三「はい。それじゃあ、そういうことで行ってきます」

元子・のぼる・絹子「行ってらっしゃい!」

 

茶の間

風呂敷に衣類を重ねている。のぼるの着替え?

トシ江「そりゃあ、よかったわよ。不幸中の幸いっていうんだろうけどさ」

元子「だけど大丈夫なのかな。またまたお父さんには相談しなかったけど」

トシ江「何言ってんの、洋三さんと絹子さんがうんって言ったんだもの。うちの河内山が文句つけられる筋合いじゃないでしょう」

元子「うん…」

トシ江「でも、今日は明け番だったし、本当によかったわよ。何てったって畳の上で手足伸ばして寝ないことには芯の疲れはとれないんだもの。のぼるさんも今日は自分のうちに帰ったようにゆっくりできるんじゃないの?」

元子「私もそうだったらいいなぁと思って」

 

トシ江「あっ、ちょいと待って。私のね、革の手袋があるから、あれ、取ってくる」

元子「革の手袋? だってあれ、お父さん買ってくれた舶来の自慢の品じゃないの」

トシ江「だからっていって、あんなものはめてめかし込んで出かける時もなし、毛糸のが一つあればたくさんだよ」

 

確かに畳の上で手足を伸ばして寝られることほど幸せなことはないでしょう。ところがその翌日から、そのささやかな幸せさえも望めなくなりました。

 

11月29日の真夜中、東京は初の夜間焼夷弾攻撃を受けたのです。

 

空襲警報が鳴っている。

寝室

トシ江「あんた、頭の上、通っていくようだけど、ねえ、起きなくていいんですか?」

宗俊「うるせえな! こちとら昼間っからたっぷり働いてきてんだ。夜中くらいB公に静かにしろっつっとけ!」布団をかぶっている。

ja.wikipedia.org

ボーイング社の爆撃機でB公ね。

 

トシ江「だってそりゃ飛行機に通じる電話がありゃ言ってやりますけどさ、もう」宗俊がそのまま布団をかぶっているので、モンペを履き始める。

 

雨が降るような音

 

爆発音と地響き

 

トシ江「あんた!」

宗俊「近いぞ、こりゃ!」布団から跳ね起き、窓を開ける。外は真っ赤。「焼夷弾だ!」

トシ江「元子! 巳代子! 順平! 順平、起きなさい! 元子!」

 

空襲警報が鳴り続ける。

 

吉宗

鉄兜に半纏姿の宗俊が飛び出して火消し棒を手に取る。

 

幸之助「芳町だ! 芳町に火が回ったぞ!」

 

宗俊のところに幸之助が来た。「おい、芳町だ、芳町

宗俊「何、芳町だ?」

幸之助「ああ」

彦造「大将、小舟町の方も真っ赤ですぜ!」

宗俊「よし、そっちの方はおめえに任せたぞ!」

彦造「任せるっておめえさん!」

宗俊「出動だよ、出動! むざむざアメ公なんぞにやられてたまるかってんだい!」

 

元子「お父さん!」

幸之助「おい! 出ちゃあ駄目だ! もっちゃんはお母さんとチビ抱いて防空ごうに入(へえ)ってろ、おめえ」

元子「だって、芳町といえば金太郎ねえさんが…」

幸之助「大丈夫だよ。俺たちの町は俺たちで守るんだから」

「あっち、あっち、あっち!」←警防団員かな。

元子「あっ、おじさん!」

 

焼け出された、その金太郎ねえさんたちを救い出し、2度目の空襲警報が解除されたのは既に朝でした。

 

裏庭に派手な着物がたくさん干してある。

金太郎「あ~あ、やだやだ。そんなに男をだましたわけでもないのに、一体何でこんなひどい目に遭うんだか。何もさ、芳町めがけて焼夷弾落としてくることはないんだよ」

トシ江「さあ、そりゃ分かんないわよ。案外、私たちの知らないところで毛色の違ったお客をこっぴどく振ってんじゃないですか」

金太郎「冗談じゃありませんよ。お~、お~、嫌だ嫌だ」

元子「けど、こんなに水かぶっちゃって。せっかくの着物も台なしだわね」

 

茶の間

宗俊「な~に、お前、また戦争が終わりゃ、な、勇の字がつづらいっぱいド~ンとこさえてくれるさ」

幸之助「おう、嫌だと言ったら俺が作ってやる。ハハハハ…」

小芳「お前さん!」金太郎の肩に手をかけた幸之助の手を払う。

幸之助「イテッ…バカ野郎。金太郎は罹災者なんだぞ、お前。そのくらい励ましてやんねえでどうすんだ」

 

金太郎「けど、本当にありがとうございました。だって、みんなで水かけたって間に合いやしないし、いきなりメラメラっと火(し)が障子をなめ上がっていくんだもの。もう腰は抜けるわ、『金太郎』って皆さんの声、聞くまではもう…。おかみさん、こういうのを生きた心地がしないっていうんだよね」

トシ江「ええ、大したケガ人がなくて何よりだった…。あら、あんた足は?」

宗俊「えっ、あれ? あの騒ぎで治っちまった」

笑い声

 

幸之助「けどよ、あの焼夷弾が脳天にでも落ちてみろ、お前。一発だぞ、おい」

小芳「本当だなあ」トシ江が持ってきたふかし芋を食べながら。

 

彦造「へえ、行ってまいりました」

宗俊「おう、どうだったい?」

彦造「へえ、神田がだいぶやられてますが、いいあんばいに早崎の旦那んところは無事でした」

宗俊「あ~、そりゃよかった。おめえ、けがはなかったか?」

彦造「へえ。けど、鎌倉町、小川町辺りもかなりやられて、死人が出たそうですよ」

キン「お~、怖い、嫌だね…」

 

縁側

巳代子「見なさい。だから寝ぼけてちゃいけないって言ったでしょ」頭をたたく。

順平「イテッ…」

 

茶の間

宗俊「ハハハハハハ…」

 

彦造「あっ、そうだ、表にお嬢のお友達って人が見えてますぜ」

元子「友達? 誰かしら?」

宗俊「誰でもいいからな、焼け出されの人なら、しばらく宿してやってもいいんだ。こういう時は相身互いだ。な」

元子「はい」

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絶対何かの朝ドラで見かけた…というかそれで知った言葉だと思ったのに出てこない。

 

トシ江「本当ですよ、金太郎さん。正大の部屋も空いてることだし何の遠慮もいらないんですからね。ね」

金太郎「ありがとうございます」

小芳「まあ、こういう時だからね、『猫に鰹節』ってことはないだろうけど…」じろりと幸之助を見る。

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幸之助「何を? この!」

 

トシ江も宗俊をチラ見。宗俊の無言の「なんだよ」みたいな表情が面白い。

 

吉宗前

元子「千鶴子さん!」

千鶴子「よかった…。日本橋が焼けたっていうから、私、心配で心配で…」

元子「それでわざわざ来てくださったんですか?」

千鶴子「とにかくよかったわ。でも気を付けてね」

元子「はい」

千鶴子「万が一、お宅が罹災したら、私、思い切って、父に全部話すから、その時は私のうちに来てくださいね」

元子「ありがとう」

 

この人を義姉(あね)と呼ぶ日が来るのはいつのことだろう…。元子はふっとそんなことを考えていました。

 

つづく

 

だんだん深刻になってきた。けどやっぱり所々笑いどころを作ってあるのがいいなあと思う。この間、Jアラートが鳴っても仕事に行く日本人みたいなつぶやきを見たけど、この時代も罹災証明書をもらっても仕事、仕事だからね。