公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
元子(原日出子)は、入営した正大に合格を伝えに行きたいと、宗俊(津川雅彦)に話す。宗俊は自分も一緒に行くというが、元子は必死に説得して諦めさせ、ほかにも行きたいという者を押しとどめ、自分一人で行くことに。実は兄の恋人の千鶴子(石井めぐみ)と一緒に行き、二人を会わせるための策だった。しかし、正大はいるはずの千葉の隊におらず、途方に暮れた元子たちは、陸軍中尉の正道(鹿賀丈史)を頼ったが…。
台所
トシ江「お砂糖じゃないの。こんな貴重なものを」
絹子「うん、業務用のため置きよ。明日面会に行くのなら、これで正大さんに甘いものをうんと作って持ってってやってくれって、うちの人が」
トシ江「ありがとう、絹子さん」
絹子「うちの人もねえ、正大さんとは一番気の合った叔父と甥だし」
トシ江「ええ、正大もどんなに喜ぶことか。本当にありがとうございました」
絹子「うん、フフフ」
元子たちの部屋
巳代子「どうしてよ」
元子「どうしてもなの」
巳代子「そりゃあね、お姉ちゃんがお父さんを敬遠する気持ちは分かるわよ。だけど、私や順平には防空演習なんて関係ないんだもの。なのにどうして一緒に面会に行っちゃいけないのよ」
元子「いけないなんて言ってやしないじゃないの。私はただお願いだから、この次にしてくださいって頼んでるだけ」
巳代子「嫌です!」
元子「巳代子」
巳代子「勝手だわ。どうしてお姉ちゃんにあんちゃんの面会を独り占めにする権利があるのか教えてよ」
元子「私は独り占めにしたくないからこそ」
巳代子「駄目よ、そんなこと言ったって。お姉ちゃんの口のうまいのにはごまかされないんだから」プイっと横を向く。
元子「困っちゃったなぁ」
巳代子「いい気味だわ。どんなことがあっても私は行きます!」
元子「じゃあ、本当のことを言うわ」
巳代子「結構です」
元子「実はね、私には一緒に行く人があるの」
巳代子「誰よ、それ」
元子「あんちゃんの恋人」
巳代子「あんちゃんの?」
元子「うん」
巳代子「まさかお姉ちゃん」
元子「私も今度知ったばっかりなんだけど…。名前は池内千鶴子さんっていうの。年は私より1つ上」
巳代子「本当の話なの?」
元子「うん。あんちゃんが帰ってきた晩、2人はモンパリの叔父さんのとこで会えたんだけど、何せゆっくり話す時間もなかったし、入隊の日(し)は東京駅のホームから送ってくれることになってたんだけど警戒警報が出ちゃって、結局、バラバラになっちゃったらしいのよね」
巳代子「それで、その人…」
元子「私もね、まだ2度しか会ったことないんだけど、とってもきれいな人(しと)。あんちゃん、あんまり詳しいことは話してくれなかったんだけどね、その人には昔、親が決めた婚約者があるんだって」
巳代子「そんな…」
元子「だから、あんちゃん諦めるために北海道へ行った節もなくはないみたいだって洋三叔父さん言ってたけど…。とにかく一度は結婚できないからって別れたらしいのよね。でも…」
巳代子「でも、どうしたの」
元子「うん。これが別れになるかもしれないって、あんちゃん入隊のことだけは知らせたらしいのよ。それでその人この家まで訪ねてきて」
巳代子「いつ? いつのことよ、それ」
元子「偶然、私が会えてね、それで叔父さんとこに手引きができたんだけど…」
巳代子「知らなかった、そんなことがあったなんて…」
元子「随分迷ったのよ。別に隠し事するつもりはなかったんだけどさ」
巳代子「それじゃあ、明日はお姉ちゃん、その人と?」
元子「ごめんね。でも巳代子たちにはまた来週って機会もあると思ったから」
巳代子「うん…だけど順平には何て言うつもり?」
元子「頭痛いのよね。あの坊主には話しても分かんないだろうし、話したところでみんなにしゃべくり回られたら、また一(しと)騒動だし」
巳代子「いいわ、私が引(し)き受ける」
元子「え?」
巳代子「とにかく、朝、3人一緒に出かけるの。そして、私と順平がなぜか迷子になっちゃうの」
元子「巳代ちゃん…あんたできるの? そんな大芝居が」
巳代子「やってみなくちゃ分からないでしょう」
元子「驚いたぁ。私、あんたのこと食いしん坊の優等生だとばっかり思ってたのに」
巳代子「これでも河内山の娘です。それにあんちゃんが好きだもの」
元子「ありがとう。本当にありがとう」
巳代子「そのかわり、来週の日曜は絶対に譲りませんからね」
元子「もちろんよ。いくら恋人だからって、あの人にばっかり独占なんかさせやしないわ」
巳代子「それでこそお姉ちゃん」
元子「うん」
巳代子「じゃ、代わりに手紙書くから持ってってね」
元子「あっ、それがいいわ」
人の恋路にこれほど協力できるのも、恋路そのものに憧れる年頃の2人だったからでしょうか。
吉宗前
順平「行ってきま~す!」
巳代子・元子「行ってまいります!」
彦造「おっ、順坊! こん次はこの彦さんと旦那と一緒に行くからって、あんちゃんにそう言ってくんな」
順平「うん!」
キン「くれぐれも生水には気を付けるようにってね」
元子「大丈夫よ」
トシ江「ねえ、順平、お姉ちゃんと迷子になるんじゃないんだよ」
順平「分かってるってば、うるさいなぁ」
巳代子「行ってきま~す!」慌ただしく走っていく。
キン「行ってらっしゃいまし!」
トシ江「行ってらっしゃい!」
さて迷子の一件、順平と千鶴子との入れ代わりは無事に成功したのですが、ここはあんちゃんのいる佐倉の連隊ではなく、なぜか稲毛の戦車隊でした。
同じ千葉県内といっても結構距離はある。
応接室らしきところ
元子「大丈夫ですよ。きっと私がなんとかしてみせますから」
千鶴子「でもこのまま会えないなんてことになったら…」
元子「失礼ですけど、千鶴子さんは会いたいんですか? それとも会いたくないんですか?」
千鶴子「それは…」
元子「だったら会いたいっていう一念で押し通すべきだと思います」
千鶴子「そうですよね。ごめんなさい。恥ずかしいわ、私、自分が」
ドアが開く
元子と千鶴子が立ち上がる。
元子「あっ、大原さん!」
正道「ああ、やっぱりガンコちゃんでしたか。いや、桂木さんって人が会いに来てるって当番兵が捜しに来たもんですから。ささ、どうぞ座って。剣道の試合が近いんで練習をしてたんですが、日曜なんで連絡が下宿の方へ行ったらしいんです。それでだいぶん待ってるんじゃないかと思って、とにかく走ってきました」
元子「そうでしたか。それはどうもすいませんでした」
正道「いえ、それよりどうかしましたか?」
元子「ええ、先に会いに佐倉の方へ行ったんですけど兄に会えなかったんです」
正道「会えなかった?」
元子「はい。今日は面会できないって。だけど、せっかくはるばる来たんだし、そんなことでは帰れないから何度も衛兵所の人に理由を聞いてみたり、頼んでみたりしたんです。そしたら、今日は演習に出てるとか、その隊はもうここにはいないとか人によって言うことが違っちゃってるし、もう何が何だか分かんなくなっちゃって。それなら大原さんに聞けば、少しは事情が分かるんじゃないかと思って、それで私たち…」
正道「ああ、そうでしたか…」チラッと千鶴子を見る。
千鶴子「池内千鶴子と申します」
正道「大原です。隊が違うんで自分にもよく分からないが、そういうことならば明日にでも詳しく事情を調べて責任持ってお宅へ知らせましょう」
元子「どうして明日なんですか? せっかく今日こうして来てるっていうのに」
正道「いや、もう間に合いません」
元子「間に合わないって何がでしょう」
正道「面会時間にです。まあ、今から千葉へ行く便はいくつかあるでしょうが、そこから佐倉への汽車にうまく乗れるかどうかです。今からじゃとても面会時間には間に合わないんじゃないかな」
千鶴と元子、顔を見合わせる。
正道「残念でしたねぇ。まず自分を思い出してもらえればよかったんだが、向こうじゃ随分粘ったんでしょう」
元子「そりゃあもう」
正道「とは言っても本当に演習に出ていたのかどうかも分からないし、自分が連絡を受けてもどうにもできなかったかもしれませんが」
元子「ごめんなさいね。私がもっと機転を利かせてればよかったんだけど」
千鶴子「そんなことないわ。元子さん、私がハラハラするぐらいしつこく係の兵隊さんに聞いてくださったし」←”しつっこく”とちょっと強調していた。
元子「あ~あ、せっかくここまで来たっていうのに」
正道「ところでガンコちゃん、お昼は食べましたか?」
元子「いいえ。あっ、あの、これ、おはぎとのり巻きなんです。兄の代わりといっては失礼なんですけど、大原さん召し上がってください」
正道「いやいや、おはぎなら順平君に持って帰っておあげなさい」
元子「でも」
正道「今、飲み物を持ってこさせるから。二人とも汗でげっそりした顔をしてるよ」
元子「あの、大原さん」
正道「はい」
元子「あの…もし、家の方に連絡を下さるんでしたら、どうかこの方のことは…」
正道「分かりました」
元子「勝手を言ってすいません。でも兄の恋人なんです」
正道「そうじゃないかなと思ってました。それじゃ、ちょっと待っててね」部屋を出る。
千鶴子「いい方ですね」
元子「はい」
多分に見当違いの面会を済ませて元子が帰ってくると、家には思いもかけない知らせが先回りしていました。
吉宗
元子「ただいま」
茶の間
元子「えっ、あんちゃん、もうあそこにいないって?」
トシ江「ああ」
元子「それ、どういう意味?」
洋三「うん、だからさ、ガンコちゃんが帰ったあと、すぐ大原さん、佐倉の隊に連絡取ってくれたんだよ。そしたら、正大君の隊はもうあそこにいないってことが分かったんだ」
元子「じゃあ、一体、どこへ行っちゃったの」
トシ江「それが大原さんにもよく分からないんだって」
元子「そんな…」
巳代子「まさかもう、この日本にいないなんてことは…」
元子「変なこと言わないで!」
洋三「巳代ちゃんに怒ることないだろう」
宗俊「だったら一体(いってえ)誰に怒ったらいいってんだい!」
絹子「兄さん…」
宗俊「そりゃあ、万歳と言って送り出したぜ。けど…」部屋を飛び出す。
元子「お父さん!」
トシ江「そっとしといておあげよ。どうせね、布団かぶって寝ちゃうしか何もできないんだから」
巳代子「でも、お姉ちゃんが行ってよかった」
元子「え?」
巳代子「私だったら大原さんを訪ねるなんてこと思いもつかなかっただろうし、そしたらあんちゃんがいなくなったことも分からなかったもの」
元子「うん…」
トシ江「まあ、足手まといの順平が迷子になってかえって動きが取れてよかったのかもしれないねえ」
元子「あ、そうだ。はい、順平。おはぎね、一つも手ぇつけずに持って帰ってきたからね。ほら」
順平「俺、もう泣いちゃったんだから」
絹子「とにかくすごかったらしいわよ。帰ってきた巳代ちゃんの顔も半べそだったんだから」
元子「ごめんね」
トシ江「さあ、いいからね、お箸とお皿持っといで」
元子「はい」
順平はもうお重から手に取って食べている。
トシ江「まあ、そういうわけですから洋三さんたちも召し上がってってください」
洋三「いやいや、どうもどうも」
2階
畳の部屋に大の字になっている宗俊。布団はかぶってなかったね。横になり考え込むような表情。美形だな~。
階段を下りてきた巳代子は辺りの気配を伺い、台所にいる皿洗いしている元子のもとへ。
巳代子「それでお姉ちゃん、どうだった?」
元子「そりゃあがっかりしてたわよ」
巳代子「やっぱりねえ」
元子「だけど、変な気がしたわ」
巳代子「何が?」
元子「うん…私とあんちゃんはきょうだいよね」
巳代子「そんなこと当たり前でしょ」
元子「けど、あの人見てたらきょうだいと恋人と一体どっちが余計悲しむんだろうって分かんなくなっちゃった」
巳代子「そんなに?」
元子「うん」
巳代子「でもさ、私たちは生まれた時からきょうだいなんだもの。それはやっぱり私たちに決まってるわよ」
元子「だけど、一緒にいる時間が短い分、あっちの悲しみの方が密度が濃いかなぁなんて思ったりもするし」
巳代子「うん…」
元子「要するに…質の問題なのかなぁ」
巳代子「う~ん…」
要するに2人にはまだ分からない世界なのでしょう。
元子「いいわ」
巳代子「何が?」
元子「どこにいたって、あんちゃんも頑張ってんだもん。私も頑張らなきゃ」
巳代子「そうよ。最後の面接で落ちたりしたら、それこそ目が当てられないから」
元子「大丈夫よ。私はマイクロホンを通し、絶対、お国のために頑張るから。ね、そしたら、あんちゃんだって、どっかで私の声、聞いてくれるかも分かんないじゃないの」
巳代子「本当だわ、うん」
元子「よ~し、これはなおのこと頑張る意味があるわ。うん。頼んだわね」
巳代子「ちょっと、ずるいわよ、おねえちゃん!」
皿洗いを巳代子に押しつけ、2階へ駆け出す元子。また戻って神棚にかしわ手を打ち、手を合わせる。
つづく
明日も
このつづきを
どうぞ……
巳代子がいい味出しててなかなかよい。巳代子役の小柳英理子さんは「3年B組貫八先生」で貫八先生が下宿するブリキ屋の長女役をやってたらしいのですが、このシリーズは見たことないなあ。
初期金八もリアルタイムじゃなく、90年代くらいまで何年かおきに再放送してたのでそれでハマったので他のシリーズは知らないし、金八以外の脚本は小山内美江子さんではないんだね。ただ、桜中学という舞台は同じで職員室の先生は校長、教頭、カンカン、上林先生など一部共通してる人もいる、と。
朝ドラ見てると脇を固めるベテラン俳優さんの方が今もおなじみで、ヒロイン周りの若い俳優さん、子役って意外とあんまり残ってないもんだね。