公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
もう一度アナウンサーにならないかと恭子(小島りべか)は元子(原日出子)を誘うが、元子は正道(鹿賀丈史)の武骨な優しさに触れ、今の幸せをしみじみと感じるのだった。この頃、食糧事情はますます厳しくデモ行進が頻発した。モンパリでは洋三(上條恒彦)もあきれるほどの大議論が、のぼる(有安多佳子)とハヤカワ(深水三章)の間で毎晩のように行われていた。お互いをまるで敵のように口撃するが、それはヒックリ返しで…。
大原家
悦子「それじゃあ、失礼します」
一同「おやすみなさ~い」
元子「どうもありがとう、今日は」
のぼる「ガンコ、体、気を付けてよ」
元子「うん、ありがとう」
恭子「あっ、立花室長や近藤女史にも声かけておくけど、お祝い何がいい?」
元子「嫌だわ、まだまだ先のことなのに」
のぼる「何言ってんの。その気になった時に言っとかなきゃ損するのよ。大原さんも一緒に考えといてくださいね」
正道「あっ、それではゆっくり考えさせていただきます」
ハヤカワ「それがいいですね。では、グッナイ」
正道「はい、グッナイ」
悦子・恭子「おやすみなさい」
元子「おやすみなさい」
のぼる「おやすみなさい」ハヤカワに肩を抱かれてる!
元子「気を付けてね」
しばらく見送ったのち、「さあ」と正道が家の中へ促す。
台所で後片付けをしている巳代子。
元子「もういいわよ。どうもありがとう」
巳代子「これだけやっちゃうわ。みんなが片づけてってくれたから、ほとんど終わったようなもんだけど」
元子「うん」
正道「みんなでやったからあっという間だったね。ああいうのをアメリカ的合理主義っていうのかなあ」
巳代子「そのかわり、手も動いたけど、みんな口もよく動くのねえ。やっぱりアナウンサー経験者は違うのかしら」
元子「私たち同期生は特別なのよ。何しろ生死を共にした仲なんですもの」
巳代子「あっ、向井さんの話、もったいなかったわね」
元子「変なこと言わないで。さあ、順平とお母さんに持ってってちょうだい」ビスケットを差し出す。
巳代子「あら、だってこれはハヤカワさんが赤ちゃんのためにと」
元子「赤ちゃんにはちゃんと栄養とってるから大丈夫よ。食いしん坊のくせに遠慮するなんて変よ」
巳代子「あっ…すいません。それじゃあ、順平にもらっていきます。フフフ。あっ、おやすみなさい」←巳代子のこういうとこ、好き。
正道「おやすみ」
元子「おやすみ」
障子を閉めながら「おやすみ」とにやりと笑う巳代子。
元子「おやすみ」
茶の間
宗俊「ふ~ん、それじゃあ、あれかい、その放送局へもう一度引(し)っ張り出そうってわけか?」ビスケットをつまむ。
巳代子「うん」
トシ江「で、元子は?」
巳代子「もちろん断ってたわよ」
宗俊「当たり前じゃねえか、お前、え。秋には何たって、お前、子が生まれるんだい」
トシ江「でも、元子も結構気が多いからねえ」
巳代子「うん。せっかく女性の場として活躍ができると思ったのに、ちょっぴり寂しいんじゃないかしら」
宗俊「バカ言うんじゃねえ、お前、結婚してるんだぞ、あいつは。な。もうそろそろ腹もせり出してこようってのに何が女性としての活躍だ」
トシ江「だから断ったんでしょ」
宗俊「おい、巳代子、お前もな、くだらねえ学校行って、お姉ちゃんの何でもやりたがり、まねするんじゃねえぞ」
巳代子「私はお姉ちゃんほど勇敢じゃないもの」
トシ江「元子だってね、正大さえ無事だったら、なにもこんなあくせくしないで奥さんに納まってられるのにねえ」
宗俊「バカ。正大はまだ戦死したって決まったわけじゃねえんだ」
大原家
着物に着替える正道とシャツや上着をハンガーにかける元子。
正道「しかし、元子の友達ってのは本当に気持ちのいい人たちばかりだね」
元子「でも、玉にきずは、そろっておしゃべりなことなの。うんざりしたんじゃない?」
正道「大丈夫、大丈夫。おしゃべりならね、日頃ガンコに鍛えられてるから」
お、元子と呼んだりガンコと呼んだりしてるんだ。
最初の頃はむしろ「ガンコさん」と呼ぶ方が多かった気がする。
元子「そんな! 私、そんなに正道さんの邪魔してるの?」
正道「フフフ…」
元子「何よ」
正道「うん? 生き生きしてるからさ。ここなら誰の邪魔もないんだから、たまにはおしゃべりパーティー開くといいよ。いながらにして新しい空気が吹き込んでくるんだから」
元子「でもあの人(しと)たち、これからは忙しくなりそうだわ」
正道「いや、だからそこでガンコが気合いを入れたりね、おしゃべりで気晴らしさせてやればいいんだよ」
元子「駄目。だってそれを口実に毎晩遅く帰ってこられたら心配だもの」
正道「ハハ…ばれたか」
元子「まあ」
笑い声
大原さんの元子の前では少しくだけた感じがよい。
元子「ねえ、その箱何?」
正道「うん? これはね、玉手箱」
元子「わぁ、おもちゃ箱をひっくり返したみたいだって言葉があるけど、まさにこれね」
正道「これは大事なサンプルだからね。本当にひっくり返されると困るんだけどさ」
元子「サンプル?」
ちゃぶ台の上に次々置かれるブリキのおもちゃ。
オープニングに出てくる香月泰男さんの作品かな? 今回初めて調べて香月さんが1974年にはこの世を去っていたことを知る(ドラマは1981年)。
正道「これがね、我が社の第2弾になるんだよ」
元子「第2弾って今度はおもちゃ屋になるんですか?」
正道「フフ…そうじゃなくてね、この間のは『意あって言葉が足らず』っていう意見が多かったから、今度は図解をもっと多くして出してみようかと思ってんだ」
元子「ええ」
正道「どう思う?」
元子「どうって?」
正道「うん、このおもちゃだよ」
元子「うん。すばらしいと思う」
正道「僕の考えとしてはね、おもちゃとは必ずしも買うだけのもんじゃないっていうことを提唱したいんだ。材料だってこのとおり、わざわざ買いに行かなくたっていいんだし、むしろ落ちてる板切れの中にあるイメージを作り出して、それを独創的な創意で自分のおもちゃを作るっていうことなんだよ。順平君なんかもね、結構受け入れて楽しんでやってくれてるんだけども、これからの子供っていうのは自分で目的を持って物を工夫して創造の精神、養っていくっていうのが大事なんじゃないかな」
元子「すてきよ、正道さん」
正道「ん?」
元子「私、今ね、竹とんぼを思い出してたの」
正道「竹とんぼ?」
元子「ほら、こうやってスイッて飛ばせる、あれ。あんちゃんがね、昔、善さんに…ほら、善さんっておキンさんの息子」
正道「うん」
元子「その善さんに教わったんだけど、そのうち、あんちゃん自分で作るようになって干し場で得意になって飛ばすのよね。それで私がどうしても作り方教えてってだだこねて切り出して、ここんとこ削っちゃって…ワーワー泣いちゃった。つまりね、そうやって父親が子供に教えてやるっていうのもすてきだと思うのよ。それに…そうだ! いっそのこと学校でも教材用として利用してもらったらどうかしら」
正道「学校へ?」
元子「そうよ。新学期から新しい教科書がそろったっていうけどゼロから出直すならば身の回りにあるがらくたを使って新しいものを作り出すっていうのが一番の教育じゃないかしら」
正道「いやぁ、そこまでは思いつかなかったなあ」
元子「だったらすぐにも行動に移すべきよ。私はいけると思うわ」
正道「はぁ、参ったな。女性代議士が大量当選するわけだ」
元子「どういうこと? それ」
正道「いや、ハハハ…」
元子「嫌だわ、私はただ…ただ、正道さんが私たちの赤ちゃんにもそうやって手作りのおもちゃを作ってくださるとしたら、どんなにすてきだろうって…」
正道「うん」
元子「さあ、今度は正道さんの番よ。私は言うだけ言ったんだから」
正道「うん」
元子「ほら」
正道「体は大丈夫か?」
元子「ええ」
正道「うん」
恭子の誘いにちょっぴり焦りと寂しさを感じた元子でしたが、武骨な正道のいたわりにあえば、やはり、今の幸せをしみじみとかみしめる元子でした。
吉宗
郵便配達員「吉宗さん!」
元子「あっ、どうもご苦労さまです」
千鶴子宛に出した元子の手紙が戻ってきた。
元子「宛先人不明…?」
桂木家2階
巳代子「もう一度手紙出してみる? やっぱり売り食いしてんのかなあ、千鶴子さんの家」
昭和31年の映画にも「売り食い」って出てきた。昭和31年でもこちらはかなり貧しい。
元子「やっぱりやめる」
巳代子「えっ?」
元子「これは偶然なのかも分かんないけど、この手紙が千鶴子さんに届かなかったってことは千鶴子さん、あんちゃんの戦死を認めたくないんじゃないかな」
巳代子「うん…」
元子「そうよ。きっとそうよ。そうに決まってる」
巳代子「お姉ちゃん」
元子「もし、私だったらって考えてみたのよね。もし私だったら威勢のいいことは言ってても生活が苦しい時にこんな知らせ受けたら、きっと何かがぽっきり折れて、それで崩れてしまうかもしれないもの」
巳代子「あんちゃんがいけないのよ、あんちゃんが」
元子「巳代子」
巳代子「だって…」
千鶴子のことは、いつも気にかけていた元子たちでした。
実際、このころの食糧事情はますます厳しく11年ぶりのメーデーには「食糧の人民管理」というプラカードが立ち、高まる労働運動の波と共に5月12日、市民や主婦たちが飢餓寸前のせっぱ詰まった叫びから米よこせ大会を開き、赤旗を立て皇居坂下門をくぐるという日本開闢以来初めての出来事が発生しました。
続いて19日にはインフレにあえぐ25万人の人々による食糧メーデーが爆発。これに対してマッカーサー元帥は農民デモを許さぬと発表しました。
大原家
洋三「いや、そのことでね、六根ちゃんとハヤカワが毎晩、大論議なんだよ」
元子「それで何かあったんですか?」
洋三「いや、さすがレディーファーストの国の人だから、ぶん殴ったりはしないけどもね」
正道「いや、そんなことしたらね、いくら戦勝国の人間だからって自分が承知しませんよ」
元子「正道さん」
洋三「まあまあまあ…。いや、ハヤカワって男はあのとおりディスカッションっていうのが大変好きな男だから、まあ、それには若くて弁の立つ六根ちゃん、格好の相手なんだろうけどね。叔父さん、もうひとつよく分からないんだ」
元子「何がです?」
洋三「『口角泡を飛ばす』の感じから見ると両者とも本気なんだろうけどね、だけど、本当に敵だと思ってんなら顔を見るのも嫌だろうしさ、ああ飽きずに毎晩やってるところを見ると(顔にズーム)こりゃあもしかしたらのひっくり返しかもしれないと思ってね」
元子「もしかしたらのひっくり返し?」
モンパリ
のぼる「だって民主主義の大原則は自由、平等、平和でしょう。それなのに現実には隠匿物資や横流しでものすごくもうけている人たちがいる一方、上野の地下道ではこの冬、何百人っていう人が飢えと寒さで死んでいった。それも闇屋にもなれない弱い人ばかりがよ。こんな日本の一体どこに平等があるんですか。そりゃ、みんなだって日本は焼け野原になってしまったんですもの、苦しいのは当然だって思っています。でも、おんなじ苦しいんなら、みんな平等にって要求するのの、どこがいけないのかしら」
ハヤカワ「しかし、『朕は、たらふく食ってるぞ。汝、人民、飢えて死ね』。あのプラカードいきすぎですよ。天皇、人間宣言しましたね。しかし、国家の象徴です。象徴に対して失礼ですよ」
のぼる「日本には『衣食足りて礼節を知る』っていう言葉があります。礼を失したのは食が足りていないからです。おまけにあなた方が『自分の考えはどんどん言うべきだ』なんて奨励するから」
ハヤカワ「ノー。日本人は昔から礼節を尊ぶ国民です。その美しい心なくなるの、私、悲しいですよ」
のぼる「私だって悲しいわ」
ハヤカワ「この前、こういうことありましたね。3等の切符で2等に乗ってる人いました。車掌さん来て『ここは3等の切符で2等乗っちゃ駄目ね』と言いました。彼は言いましたよ。『日本は平等になったんだ。2等に乗って何が悪い』。うん? これ変ですよ」
のぼる「それは…」
ハヤカワ「民主主義は何をやってもいいということと違います。民主主義、ルールを守ることですよ。マッカーサー元帥、ルール守って要求しろの意味で言いましたね。要求と脅迫、これ、違いますよ」
のぼる「脅迫だなんて」
ハヤカワ「イエス。民主主義守るの難しいです。日本人せっかちですよ。民主主義は話し合いから始めること大切ですね」
のぼる「それは私もそう思います」
ハヤカワ「では我々のこともっと話し合いましょう」
のぼる「我々のことって?」
ハヤカワ「イエス。私、六根、愛しています」
驚くのぼる。
大原家
元子「それじゃあ…」
笑顔でうなずく洋三。
もしかしたらのひっくり返し、元子の心配の種がまたまた増えました。
つづく…まさか今日も!?
朝の前奏曲(プレリュード) 通算4回目(連続2日)。
朝の沈黙(しじま)きらめく陽ざし
それは季節の調べ告げる
昨日捨てて何処へ行くの
風の中の私 あー
愛のときめき燃えるあこがれ旅の始まり
空のかなた あー心ざわめく冒険
私からあなたへありがとう
想い出の青春(とき)を
明日も
このつづきを
どうぞ……
ハヤカワの民主主義話、面白かった。今のネット社会にも言えるような気がする。でも、私だと話をうんうんと聞いてしまってディスカッションにならない。のぼるとお似合いだと思う。尺余りといわれるけどセリフ量は多いんだよ。つめ過ぎだから歌流してるくらいだと思う。