公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
漫画を休載したマチ子(田中裕子)が畑を耕したり、人形をつくる中、はる(藤田弓子)の湯河原のホーム通いが増える。マチ子の様子を見にきた塚田(日下武史)が、ヨウ子(早川里美)と正史(湯沢紀保)のデートの失敗談を無邪気に笑ったり、マチ子が仕事を辞めたことで、磯野家に流れる空気は平和そのものだった。そんな中、マリ子(熊谷真実)の元にサザエさんカルタ発売の話が舞い込み、マチ子のやる気に火がつくが…。
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新聞に載った小さな囲み記事
お断り
好評を頂きました「サザエさ
ん」は筆者の健康上しばらく
休載します。
というわけで作者の方は…
鋤を担いで植辰さんと帰ってきたマチ子。ダイニングにいるタマとマリ子。
タマ「お帰り。戦果の方はどんなあんばいでござんしたかえ?」
マチ子「嫌だわ、戦争を思い出しちゃうじゃないの」
植辰「全くさ、もうせっかく植木屋としてね、仕込んでやろうと思ってんのに、まあ、先生と来たら、もう、やれ南京豆だとか芋がいいだなんて、まあ食い気一方なんだから」
マリ子「それはどうもすみませんでした。あっ、手を洗ってくださいな。お茶にしましょう」
植辰「へいへい、恐れ入ります」
タマ「見ましたかい? 植辰さんのあの顔」
マリ子「そうなのよ。俺は一級の植木職人だっていうのがご自慢の種なのに、それが何で一級の植木職人が落花生なんか作んなきゃいけないんだって、もうそりゃあ愚痴ばっかり」
タマ「けど、太平楽な顔ですよ。本当にあれが岸壁の父かね?」
植辰「何だと?」
タマ「うわっ、びっくりするじゃないか」
植辰「おい、あのね、表、出歩いてね、嫁の悪口ばっかり言ってるのが能じゃないだろ」
タマ「すっとこどっこい。嫁の実家に来てね、嫁の悪口を言うノータリンがどこにいる」
植辰「ヘッ、ああ言やあ、こう言いやがって。どうぞごゆっくり」
やり取りを見ていたマリ子が笑う。
はる「さあ、そろそろ出かけましょうか」
タマ「はい。それじゃあお供いたしましょうか」
はるとタマは湯河原のホームへ行くという。
タマ「エヘヘッ、あのね、ウラマドさんの所ですよ」
マチ子「うわ~、いいな。今度私も行くって言っといてください」
タマ「はいはい、伝えておきましょう」
マリ子「ほら、ご覧なさい。マチ子が漫画やめたおかげで、お母様の湯河原通いも生き生きしてること」
マチ子「とんでもない。我が家のワンマンは娘のことなど我関せず、いつだって生き生きしてらっしゃるわよ」
マリ子「あっ、それはそうだわね」
道子「あっ、紙粘土買い足してまいりました」
マチ子「あ~、ご苦労さま。サンキュー、サンキュー」
マリ子「あら、もう始めるの?」
マチ子「そうよ。だって注文が多いんですもの」
マリ子「注文?」
マチ子「そうよ。道子ちゃんでしょう、正史さんでしょう、それにお琴さんにお千代ねえやに日暮里のおばあちゃま」
マリ子「おや、まあまあ」
道子「だってすごくお上手なんですもの、マチ子先生」
マリ子「そうなのよ。この子、意外と手先が器用なのよね」
道子「あの…漫画よりお上手なくらいですね」
マリ子とマチ子顔を見合わせる。マチ子はダイニングテーブルの上で紙粘土で人形作りを始めた。
自由の身となったマチ子にマリ子は来る日も来る日も好きなように人形を作らせます。次は刺しゅうです。
応接間のテーブルクロスがマチ子の刺しゅうでウメがそれを見ている。隣には塚田さん。
ウメ「へえ~、マチ子さんがこれを?」
マリ子「そうなんですよ。意外ときれいでしょう」
ウメ「いや、驚いたね。私はウサちゃん作ってくれるとは言われたけどもさ、マチ子さんってのは、あんた…漫画のほかには何にもできない人だとばっかり思ってたよ」
マリ子「人は見かけによらぬものでしょう」
塚田「そんなふうに褒めていいのかね?」
マリ子「どうしてですか?」
塚田「マッちゃんってのは昔から芸術家肌っていうか職人かたぎというかそういうもんがあってな凝りだすとどういうことになるか分からんぞ」
マリ子「どういうことって?」
塚田「漫画なんか諦めちまって手芸家になるって言いだすかもしれんじゃないか」
マリ子「それでしたら構わないんです」
塚田「構わないっていったって、君…」
マリ子「人間、やりたいことはどんどんとやれ。母もそう申しておりましたし」
塚田「母…」
マリ子「はい」
塚田「お宅のワンマン…いやいや、失敬、おかあ様には昔からその…風変わりで困ってるんだよ」
ウメ「困るって誰がですか?」
塚田「いや、あのね、この新聞社、雑誌社にとってはですね、女流漫画家、磯野マチ子を失うってことは大変な損失なんでしてね、これは」
ウメ「ほら、ご覧。困るのはあんたたちだけでこのうちの人は誰も困っちゃいないんですからね」
塚田「しかしですな…」
マチ子がウサギのぬいぐるみを持って入室。「おばあちゃま、遅くなってごめんなさい。あら、塚田さんもいらしてたんですか?」
塚田「元気そうじゃないか」
マチ子「おかげさまで。おばあちゃま、あと、おリボンつけたら出来上がりなんだけど何色がいい?」
ウメ「あら、そうだね~、黄色かな~? ええっ、赤がいいかな? ねえ、マリ子さん」
マリ子「私、ピンクの方がいいと思うけど…」
塚田「ああ、いや、これは赤の方が絶対いいな。うん。この釣り合いがよく取れると思う」
マリ子「あら、塚田さん。縫いぐるみのご趣味もあったんですか?」
塚田「あ、いや、別に…」
マチ子「構いませんのよ。今度はね、象を作ろうと思ってるんです。それ、差し上げましょうか?」
塚田「いや…僕は今日は君の見舞いに来ただけなんだから」
マチ子「本当にご心配かけました。でもね、胃の調子は至極いいんです」
塚田「いや、胃のことじゃなくてだな…」
ウメ「あら、あらあら、本当だ。やっぱり赤の方がいいわね」
マリ子「きれいですよね」
ウメ「私、ここ持ってようか?」
マチ子「ありがとう、おばあちゃま」
ウメ「いいんですよ、ええ。ヘヘヘッ。それはそうとさ、今日はヨウ子ちゃんの顔が見えないようだけど」
マリ子「ええ、久しぶりに正史さんの休みが取れたので2人で映画を見に行くと言ってました」
ウメ「あら~、ランデブーってやつだね。おばあちゃん、なかなかハイカラだろ?」
マリ子「本当」
マチ子「はい、おばあちゃま」
ウメ「ええ、ええ。でも、いいね。マチ子さんの調子がいいとさ、ええ? うちの人はみ~んなのんびりしてられるし。ねっ? 私も遠慮なく遊びに来られるしね」
メガネなしの正史「いらっしゃいませ。ただいま戻りました」
マリ子「どうしたの? 映画を見に行ったんじゃなかったの?」
正史「ええ、まあ…」
マチ子「眼鏡どうしたの?」
正史「いや、今、取り替えてくるところですから」
ヨウ子が取りに行こうとするが、おばあちゃまがいらしてるからお相手してと言って出て行こうとした。
ウメ「まあ、お優しいお婿さん」
正史「(ギョッとして)あっ! どうも!」と慌てて部屋を飛び出す。ん? ウメさんじゃなく塚田さんがおばあちゃまに見えてたのか??
マチ子「どうかしたの? ヨウ子ちゃん」
ヨウ子「私、正史さんを傷つけてしまったかもしれないの」
塚田「話してごらんよ。若夫婦の中に口挟むわけじゃないけども男の気持ちは男でなきゃ分からんぞ」
ヨウ子「ええ」
塚田「傷は浅いうちに手当てをしなきゃ」
ウメ「そうともさ。おばあちゃんだってだてに年を取ってるわけじゃないんだからね。これまでだってあんた出るの引っ込むのっていった夫婦、幾組も元のさやに収めた実績持ってんだから」
マリ子「まさかそこまでけんかしたわけじゃないでしょうね?」
ヨウ子はけんかしたわけじゃないと否定。正史が夢中になるとよく眼鏡を外して一生懸命に拭くことがあり、今日もバスの中で拭いていた。バスが揺れて手元から落として自分で踏んでしまった。「今日は映画はやめましょう」とヨウ子が言ったものの大丈夫だからといった。
塚田「何だそんなことか」
しかし、その後、ロードショーの切符を買って映画館に入って正史の後をついていったらどんどんどんどん行って非常口から外へ出てしまった。入り口から入り直すという正史に「眼鏡なしでは無理でしょう」とヨウ子は言う。近視で字幕も読めない。正史は「そうだね、帰ろう」と言ってどこにも寄らずにまっすぐ帰ってきた。
ヨウ子「どうしたらいいんでしょう?」
塚田「あ…う~む、いや、まあ…しかし、状況がよく分からんから何とも言えんが…」
マリ子「まあ、そんなの無責任ですわ」
塚田「いやいやいや…だから島村君は、ふだん近視についてひどいコンプレックスを持ってるかどうかなんだが…」
ヨウ子「ええ、それでしたら…」
正史は丸眼鏡をかけて再登場。映画に行くという。
正史「君の言うとおりだよ。これからはやっぱりスペアの眼鏡を持って出るべきだよね。では、皆様ごゆっくり」
ヨウ子はまっすぐ帰ったのは傷ついたせいだと思ったけど、正史は単に替えの眼鏡を持ちに戻っただけなのね。
マリ子「『えっ?』じゃないわよ。早くついていってあげなさい」
ヨウ子「はい!」
ウメ「今度はあの…非常口からなんか出るんじゃないよ」
ヨウ子「はい!」
ヨウ子が出て行き、応接室は笑いに包まれた。
塚田「かわいいね、2人ともまあ」
マリ子「それが男の気持ちですか?」
塚田「えっ?」
ウメ「でも、いい組み合わせだね。おっとりしたヨウ子ちゃんに少し忙しい旦那様」
マチ子「いえいえ、少しぐらいならいいんですけども、そそっかしさではマー姉ちゃんといい勝負」
マリ子「まあ! いくら何でも私は他人のお月給袋まで持って帰ってきたりはしませんわ」
ウメ「えっ!?」
マリ子「先月なんです。みんなの前で『はい、ヨウ子』ってさっそうとお月給袋を出したのはいいけど、それがなんと2人分も!」
塚田さん、大爆笑。
鬼の塚田がこれほど無邪気に笑えるのですから、マチ子が仕事をやめた磯野家の雰囲気はまさに平和そのものだったでしょう。
ダイニングの食器奈棚の上にはマチ子お手製の縫いぐるみが並ぶ。電話の音がし、マリ子が出た。縫いぐるみ作りをしながら何となく電話を気にするマチ子。
そして、夢のような数か月が過ぎると、ある時、ハッとこれでいいのかと夢から覚める思いにとらわれるのも、マチ子特有の症状でした。
はるは教会へ行くので縫いぐるみを包むように言う。「だって、いい年をしたのがそろっていて毎日だっこしていても始まらないでしょう。ほらほら、施設の子供たちにあげるのよ」
マチ子「はい」
マリ子「変な電話。おもちゃ屋さんからだったわ」
はる「まあそれでもう切ってしまったの?」
マリ子「うん。だって、変な注文なんですもの」
はる「注文? おもちゃ屋さんの注文だったらこっちからするとこだったのに」
マリ子「いいえ、かるたの注文です」
はる「かるた?」
マリ子「ええ。暮れに向けて『サザエさんかるた』を売らせてもらえませんかって」
マチ子「『サザエさんかるた』?」
マリ子「うん。あの…『犬も歩けば』っていうあれを『サザエさん』の漫画でやりたいんですって」
はる「まあさすがにおもちゃ屋さんだわ。目の付けどころがいいですよ。子供たちの喜ぶのが目に見えるようだわ」
マリ子「だってもうマチ子、漫画やめたんですし…」
マチ子「いや、でも面白そうじゃないの?」
マリ子「えっ?」
マチ子「『犬も歩けば棒に当たる』…。い…『いびきに寝言のマー姉ちゃん』」
マリ子「何ですって!?」
マチ子「『大バーゲン 浮かれて出かける マー姉ちゃん』」
マリ子「マッちゃん!」
マチ子「『ヒトラーがワンマンになって平和かな』」
はる「?」
マリ子「ちょっとあんた!」
マチ子「『ヨウ子ちゃん 我が家のタラちゃん まだかしら』『サザエさんの初夢 ミス日本』『迷子で泣くのは ワカメちゃん』」
はる「いいですよ、いいですよ。子供さんが喜びそうだわ。それに老人ホームの方たちも大変に楽しそう」
マチ子「私、やってみようかな」
マリ子「だって…」
マチ子「ううん、売る売らないは別として面白そうですもの」
ということで「サザエさんかるた」は実現し、マリ子社長は初めてのおもちゃ屋さん相手のこの仕事で再び大車輪の活動を開始するはめとなりました。
マリ子「そうね…やっぱりかるたっていうのはパンパンと畳をたたいて取るものでしょう。だからやっぱり丈夫な紙質の方がいいわね。あと、色はちゃんと出るのかしら?」
関屋「いや~、たとえ出ないと言ってもね、出してみせますよ」
マリ子「関屋さん…」
関屋「いや~、当たりますよ、このかるた。だからなおさらのことね、マチ子先生のこの色がちゃ~んと出ないことにはね全国の子供さんたちに言い訳ができませんでしょう」
マリ子「本当ね。よろしくお願いします」
関屋「一生懸命、やらせていただきます」
関屋役の松村彦次郎さんは「おしん」の商店街の役員、「けものみち」の医者役だそうで…ああ~、そういえば見たことあるかも!?
セルフサービスの店を始めた時に文句を言ってきた近隣商店主かな?
はる「いびきに寝言のお父さん」
正史「はい!」
磯野家の客間。お正月、晴れ着でかるた。
売れました、このかるた。一度に30万個出たとは、やはり一家がたっぷり休み、たっぷりと充電した結果なのでしょう。ともあれ、姉妹出版と「サザエさん」はまだまだ続くことになりそうです。
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今日は28分で終了し、久しぶり?の小さなシャベル
ああ、残り少なくなってきたなあ。自費出版は強いね。