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【ネタバレ】別れて生きる時も 第三十三章「別離の渚」その五

TBS 1978年2月17日

 

あらすじ

井波(中野誠也)に召集令状がきた。紙一枚で愛する夫が奪われるのだ。泣く美智(松原智恵子)に井波はいった。たとえ別れて生きていても二人は一つの絆に結ばれている…。二年が過ぎた。麻子を連れ松本(織本順吉)の工場に通う美智に九州の見知らぬ人から手紙がきた。「麻子に会いたい」。満州にいるはずの夫のメモが入っていた。

愛の花

愛の花

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2024.10.2 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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井波美智:松原智恵子…字幕黄色

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吉岡俊子:姫ゆり子

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野村:寄山弘

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野村久枝:山田孝子

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吉岡純子:神林由香

井波麻子:羽田直美

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谷よしの

秩父晴子

ナレーター:渡辺富美子

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

吉岡家

俊子「ふ~ん。これ、ほんとに井波さんの書いた手紙かしら?」

美智「それは絶対に間違いないんです」

俊子「だったらどうしてこれ野村久枝って人の名前で出さなきゃならないの?」

美智「さあ、それは私にも…」

 

純子「どうしたの? おじちゃんから手紙来たの?」

俊子「ええ、そうよ。よかったわね。あっ、そうだわ、純子。お二階にお人形さんがあったでしょ? あれ、麻子ちゃんにだっこさせてあげましょう、ねっ。そうしましょう、そうしましょう」

美智「麻子は階段上るの好きでしょ? ほら、純子おねえちゃんに遊んでもらいなさいね。麻子、いい? おとなしく遊んでもらうのよ」

俊子「ほら、暗いから気をつけてちょうだい。すぐ電気つけるのよ」

純子「はい」

 

子供たちだけで2階へ行かせる…結構怖い。

 

美智「ねえ、奥さん。私、思うんだけど自分の名前で手紙が出せない事情があって人の名前を借りたんじゃないかって気がするの」

俊子「でも、満州にいる人が九州から手紙出せるかしら? あっ…でも、ほら内地に帰る人に手紙出すようにって頼んだのかもしれないわね」

美智「私、井波は長崎にいるような気がするわ」

俊子「そうかしら? あっ、お願い」ヤカンを持たせる。

美智「はい」

 

俊子「ん~、でもなんだかわけが分かんないわね、その手紙」

美智「私、長崎へ行ってきます」

俊子「でも、軽はずみなことしたら、かえって井波さん迷惑するかもしれないわよ」

美智「井波はきっとこの手紙で私や麻子を呼んでるんだと思うんです」

俊子「うん。気持ちはとってもよく分かるけど、今は戦争の真っ最中だし、軍の許可もなしに会いに行ったりしたら…」

美智「とにかくこの手紙の差出人の野村っていう人に会ってみます。そしたら…」

俊子「そう。じゃ、気の済むように行ってらっしゃい。あなた、言いだしたら聞かない人だから」

 

最初から長崎に行くという話を俊子にすればいいのに、お伺い立てて反論されて、長崎に行きますって。友人でもなく、たまたま近くにいた知り合いレベルで、基本的に俊子さんは親切な人だとは思うけど、つくづくかみ合わない人たちだな~。

 

朝早く、俊子が井波家を訪れた。「あら、おすし作ってんの?」

美智「ええ」

俊子「はい。シャケとカニの缶詰」

美智「こんな貴重な物を…」

俊子「ううん。だって、せっかくごちそうを作って持ってったって長崎に着くのが2~3日先じゃ傷んじゃうんじゃない?」

美智「そう思って、おすし作ってるんです」

俊子「でも缶詰なら大丈夫でしょ? 井波さんに食べてもらってくださいな」

美智「すいません。じゃ、お言葉に甘えて」

 

美智の作ってるお寿司っていうのは、握り寿司じゃなく押し寿司みたいなものかなあ?

 

俊子「麻子ちゃんは、まだおねんね?」

美智「ええ」

俊子「でも…ほんとに井波さんに会えるかしら? 無駄足にならなきゃいいけどね」

美智「無駄足になってもいいんです。麻子に会いたいっていうのは井波の心の声だと思うんです。私にはよく聞こえるの。とにかく行ってみないと」

俊子「羨ましいわ。私もそんな気持ちになって見たいけど、もうね…あっ、ごめんなさい、朝からこんな愚痴っちゃって。留守は心配ないから頑張ってきてね」

美智「はい。あと、お願いします」

 

そういや、井波さんのお母さんが麻子を引き取りたいという話は美智が断ったということで終わった?

 

蒸気機関車(C11 227)が走る。バックに流れる主題歌。麻子を膝に乗せて長い時間乗ったあとは船に乗って移動。船の映像から2番の歌詞になる。美智も含め、周りの乗客も戦時中っぽい服装だけど、船は窓枠がアルミサッシで今っぽい。荷物も載せた”はな丸”が港に到着した。

 

ほんとに長崎まで行ってロケしたのか、千葉辺りでロケしたのか不明。

 

美智「麻子、もう着くわよ」

 

港に下りた美智は、掃除をしていた地元住民に話しかけた。「あの…すいません」

女性「は?」

美智「水産局の寮は、どう行ったらいいでしょうか?」

女性「はあ、この裏の岬ば1つ越えた所ですけん。そこの道、右へ曲がって一本道じゃけん。すぐ分かりますたい」

美智「どのくらいかかるでしょうか?」

女性「女足で40~50分かねえ」

美智「どうもありがとうございました」

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この女性は「思い橋」で団体旅行客とか「幸福相談」で仲居などの木下恵介アワーや「男はつらいよ」シリーズにも度々出演されてる秩父晴子さんだと思います。

 

麻子の手を引いて歩く美智。女足で40~50分で子供なら!? それにしても麻子の服装が水色の上下おそろいの長袖長ズボンで当時の服っぽく見える。パジャマのような。

 

麻子「お母ちゃん、あんよ痛いよ」

美智「あんよ痛いの? はい」リュックを前に掛け、麻子をおぶって歩き出す。

 

更に山道を進む美智。「ほら、あそこよ。もうちょっとね」

 

遠くに見える住宅街がまるっきりドラマ放送当時の風景そのまま。

 

民家で洗濯物を干している女性に話しかける美智。「あの…すいません。水産局の寮はどこでしょうか?」

女性「ほら、見えるでしょうが。2階建ての」

美智「あっ…どうもありがとうございます」

 

洗濯物を干しながら美智が歩いて行くのを見ていた女性が谷よしのさん。

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谷よしのさんも「男はつらいよ」の常連で木下恵介アワーも知りうる限り「兄弟」「あしたからの恋」「たんとんとん」「思い橋」「太陽の涙」「幸福相談」と多数出演している。谷よしのさん秩父晴子さんはセットで出演も多い。

 

美智「ほら、麻子、着いたわよ。下りなさい、よいしょ」麻子をおろし、リュックを背負い直して、水産局の寮へ。「ごめんください、ごめんください!」

 

⚟女性「は~い。あっ、うちが管理人ですばってん。ああ…あんた、井波さんの奥さんでしょ?」

 

美智「はい、お手紙下さった野村さんでしょうか?」

久枝「はい。井波さんから写真見せてもろうて、お顔だけは、よう知っとるとですよ」

美智「あの…主人は?」

久枝「ああ、惜しいことじゃった。奥さんがもう一日早かったら井波さんに会われたとに」

美智「じゃあ、主人はもう…」

久枝「井波さんはな、今日かあしたには出発することになっとるちゅうとなすったけん。多分、もう…」

落胆の色を見せる美智。

 

久枝「まあまあ、お疲れになったでしょ。どうぞお上がりになって。さあ、どうぞどうぞ。さあ。はい、どうぞ。まあ、かわいかお嬢ちゃんね。ああ、井波さんはな、私が手紙ば出してから三度ばかりここに来られたっですよ。昨日も昼過ぎにここにみえられたとですよ」

美智「昨日の昼過ぎ?」

久枝「はい。あっ、まあ、どうぞ。お上がりになって。どうぞ」

美智「あの…井波は今どこに?」

久枝「あっ、奥さん。今日、よしの浜の港に船で着かれたっでしょ?」

美智「はい」

久枝「あそこから2時間ばっかりの所に仮の兵舎があるですたい。さあ、どうぞお二階へ。さあ、どうぞどうぞ。はい、お嬢ちゃんもどうぞ」

 

2階の部屋

久枝「さあ、どうぞ。大変だったですねえ。はい、荷物下ろしましょう」

美智「あっ、すいません」

久枝「実は井波さんの小隊はですね、この月初めにひと月ばかり、ここに駐屯されとったとですよ」

美智「そうだったんですか」

久枝「はい。まあ軍の機密っちゅうことで、うちら知らされとらんだったですばってんんね。上陸作戦の訓練ちゅうこっだけは、うすうす…」

 

美智「主人は満州にいるとばかり思ってたんです。あっ、いつから九州に?」

久枝「ああ、そうたいね…かれこれ、ふた月ばかりになるちゅう話ですたい。さあさあ、どうぞ。あっ、お荷物こっち置きましょう」

美智「すいません。ほら、麻子」

部屋の隅にリュックを置き、久枝のそばに座る美智と麻子。

 

美智「ふた月も前から…」

久枝「はい。ところがな、軍の命令で家族には絶対便りをしちゃならんっていうことになっとるそうですたい。そやけん、私が代わりに奥さんば呼んであげようち、そげん思いまして」

美智「で、主人はどこへ出発するんでしょうか?」

久枝「さあ…それも軍の秘密でなんとも分からんばってん。噂じゃ南方に送られるんじゃなかろうかっち…」

美智「南方へ?」

久枝「まあ、噂じゃけん。もしかしたら、井波さん、もういっぺんぐらい…大抵、兵隊さんは出発する前の日には外出も大目に見られるっていいますけんね」

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熊本が舞台の「サンダカン八番娼館望郷」にも出演されてた山田孝子さんは福岡出身の「マー姉ちゃん」の10話でもはるの友人として登場してるので、九州の人なんだろうなあ。「おしん」では島原のことば指導としてクレジットされていたみたい。「おしん」で島原?と思ったけど、佐賀で知り合った佐和が島原の元・女郎…ほ~。

 

野村「おい、帰ったぞ。桶ば取っちくれんか?」

久枝「は~い。ちょっと待っとって」

野村「うん」

 

久枝「今日な、東京から井波さんの奥さんが来られたんじゃが」

野村「東京から奥さんが…」

久枝「うん。せっかく来られたんじゃけん。井波さん、もういっぺんうちに来られるとよかっちゃがね」

野村「お子さんも一緒にか?」

久枝「うん。井波さんに似て、もう、そらあ、かわいかお嬢ちゃんたい」

 

野村「ばってん井波さんはもうここには来られんじゃろう」

久枝「うん」

野村「岬のはなを船が何杯も何杯も兵隊さんをいっぱい乗せて佐世保のほうに行ったけえのう。噂じゃ佐世保から船に乗って、みんな南方に連れていかれるらしか」

久枝「それじゃ、井波さんも」

野村「ああ、奥さんには気の毒でもそういうあんばいらしか」

久枝「はあ…」

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寄山弘さんも九州の言葉を自然に話されているように見えて東京浅草出身! 「二人の世界」で17話ではおしぼりパーンのお客さん。「幸福相談」では麗子の通う自動車学校の同期。「兄弟」では静男と紀子が出会ったレストランの鍋ふりのうまいコックさん。しかし、後半は土田桂司さんが演じてました。

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土田桂司さんは井波さんが赤紙を受けとったときに挨拶に来た町会長・森川役。

 

美智たちの部屋

美智「麻子、お父ちゃんに会えるかしら。もしも会えなかったらどうしよう。悲しいね」

麻子「うん」

美智「麻子、お父ちゃんに会えるようにね、神様にお祈りしましょう」

麻子「うん」

美智「ねっ」

パンパンと手を打ち、合わせる。

美智「どうかお父ちゃんと会えますように」

麻子「お父ちゃんに会えますように」

 

茶の間

久枝「さあさあ、なんもごちそうがなかですばってん。お魚だけは新しかですけんね。たくさん食べてください。はい、お豆ちゃんも。フフフッ」

美智「すいません」

久枝「お嬢ちゃん、お代わりしましょうか」

麻子「うん」

美智「あっ、どうも」お茶碗を久枝に渡す。

久枝「はい」

 

美智「麻子、そんなに食べて大丈夫?」

麻子「うん」

野村「ハハハッ。奥さん、この辺は魚がおいしかけん。子供にもよう分かるとですよ。ハハッ。たくさん食べさしてあげてください」

美智「ありがとうございます。じゃあ、麻子。いっぱい食べなさいね。こんなおいしいお魚ね、東京に帰ってもありませんからね、ほら」

 

久枝「こげん大きかお嬢ちゃんになって、お父さん、びっくりしなさるですわ。お父ちゃんのね、持っとんなさる写真の麻子ちゃんはね、こげん小ちゃか赤ちゃんだもんね」

久枝たちと一緒になって笑う麻子。かわいいなあ。

 

何気に麻子ちゃん、うまいよ。麻子役の羽田直美で検索するとこの作品と前後して3作品しか出てこない。「別れて生きる時も」の前年、1977年の石井ふく子プロデュースドラマ「今日だけは」に出演。あ、このドラマに松原智恵子さんも出てる。で、羽田直美さんの兄役は羽田勉さん。この子って「ほんとうに」の明だ!

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苗字が同じで顔も似てたような気がするし、本当の兄妹かも!? 「今日だけは」というドラマは「ほんとうに」の後番組でシリアスっぽく面白そう。BS11でやってくれないかな? ここでも山口崇さんと大空眞弓さんは夫婦役なんだね。

 

目をぱっちり開けて横になってる麻子。

美智「♪ねんねんころりよ おころりよ

麻子はよい子だ ねんねしな」

 

子守歌を歌うと目を閉じたが、まぶたは動いている。

 

麻子を寝かしつけた美智が1階へ。「すいません、お邪魔します」

久枝「はい、どうぞ」

美智「ちょっとお伺いしますけど、井波は夜でもお邪魔することがありますでしょうか?」

野村「井波さんはこのうちをご自分のうちのように気安く出はいりされとりますけん。来られるときは、どんな夜中でも、こんばんはって声をかけてくれます。安心して早く休まれたらええ」

美智「どうもありがとうございます。でも、ちょっと表見てきます」

 

美智は草履をはいて外に出て、見ていると、野村も出てきた。「奥さん、この辺は夜は冷えますけん。これでも着ちょるとよか」

美智「いえ、結構ですから」

野村「いや、そんなこと言わんと…はい、さあさあ」上着をかける。

美智「ありがとうございます」

 

野村「ハァ…戦争さえなかったら井波さんのような人は大学の先生でもやっちょったほうが一番、似合うようなお方じゃが…」

美智「主人もそれが夢だったんですけど、いろいろと事情がありまして」

野村「そいもみんな聞いちょります」

美智「そんなことまで…」

野村「二人っきりで船に乗って釣りをしていますと、この世の煩わしいことは、みんな忘れてしまいますけん。井波さんも世の中のなんもかも忘れたついで、ひょいとしゃべられたんかもしれまっせん」

 

久枝「奥さん。お茶いかがですか?」

野村「奥さん、腰ばかけてお待ちになったらどげんですか?」

久枝「さあ、どうぞどうぞ」

野村「さあさあ、はい」

美智「すいません」

 

いい意味でも悪い意味でほっとかれない美智。みんな寒い玄関に出てきちゃった。

 

久枝「さあ、どうぞ。奥さん、井波さん、うちに来てお話しになることっていえば、もう奥さんのことばっかり。お嬢ちゃんと奥さんの写真ば見せちゃ、今頃どげんしとっとだろかって心配ばっかりして。井波さん、言いよなさったですよ。毎日、写真ば見ちゃ、朝と晩におはよう、おやすみなさいって言うとですて」

美智「私、あした、港へ行ってみます。きっと来てくれるような気がするんです」

野村「井波さん、まだ佐世保に行っとらにゃあよかがね」

久枝「お嬢ちゃんなら私が預かりますけん。岬ば越えるたら大変ですもん」

美智「お願いします」

 

翌朝、ひとり山道を歩く美智。

 

井波さんは「麻子に逢ひたい」んじゃなかった?

 

<井波は、あの岬を越えた向こうにいるという。別れて生きる時も2人は互いの心の中に生きている。その言葉を忘れたわけではなかったが、今の美智はなんとしても井波に会いたかった>

 

久枝が折り鶴を作って麻子と遊んでいた。

 

岬で海を見ている美智は、船が港に向かってくるのを目撃した。

 

<はるかかなたから向かってくる小船が美智には井波に違いないと思えた。幻覚かもしれない。しかし、美智はなぜか井波に違いないと確信した>(つづく)

 

そういや、「サンダカン~」の映画で船が港に来て、兵隊たちが大挙して女郎屋にやって来るシーンもあったけど、井波さんは、そういうとこには行かずに普通?の家に来てたって感じなのかな。井波さんに会えますように。