TBS 1978年2月15日
あらすじ
井波(中野誠也)に召集令状がきた。紙一枚で愛する夫が奪われるのだ。泣く美智(松原智恵子)に井波はいった。たとえ別れて生きていても二人は一つの絆に結ばれている…。二年が過ぎた。麻子を連れ松本(織本順吉)の工場に通う美智に九州の見知らぬ人から手紙がきた。「麻子に会いたい」。満州にいるはずの夫のメモが入っていた。
2024.9.30 BS松竹東急録画。
今回に限り?冒頭に「この作品には、配慮が必要と思われる表現がありますが、作者の意図を尊重して、一部修正の上、放送いたします。ご了承ください。」のテロップ付き。「おやじ太鼓」のときとか音声消されてもこういうテロップは出なかったのに。
原作:田宮虎彦(角川文庫)
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井波美智:松原智恵子…字幕黄色
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吉岡俊子:姫ゆり子
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吉岡純子:神林由香
ナレーター:渡辺富美子
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小野木宗一:伊藤孝雄
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音楽:土田啓四郎
主題歌:島倉千代子
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脚本:中井多津夫
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監督:八木美津雄
麻子を抱いて吉岡家を訪れた美智。
俊子「あら、今、お帰り?」
美智「主人は無事出征しました」
このドラマやっぱりあえて出征の場面とか極力省いてるんだろうね。「岸壁の母」じゃ何度も出征兵士を送る集団とすれ違ったり、近しい人で出征するシーンは必ずあったもんね。石田さん、三浦先生、新二…
俊子「そう。さっきから何度かお宅へ伺ったのよ。遅いからどうしたんだろうって心配してたの」
美智「すいませんでした。この度は大変お世話になりまして、ほんとにありがとうございました」
俊子「ヤだわ。水くさい。お互いさまじゃありませんか。まあ、とにかく上がってちょうだい」
美智「今日はこれで」
俊子「ちょっとぐらい、いいじゃありませんか」
美智「麻子も疲れてますし、このまま失礼します」
俊子「うん、そう? ちょっとご相談したいこともあったんだけど。じゃ、この次にでも」
美智「それじゃ」
俊子「あっ、いけない。渡す物があったんだわ。ちょっとかけて待っててくださる?」奥から戻ってきて封筒を渡す。「はい、ラブレター。昨日の朝ね、井波さんからお預かりしたの。出発したら渡してくださいって。フフッ、ロマンチックで羨ましい」麻子を抱いて両手が塞がっている美智の懐に手紙を差し込んだ。「井波さんが出征したからって、そんなにしょんぼりしないで、まだまだ帰ってくるって希望があるじゃないの。うちみたいに戦死しちゃったらおしまいだけど。あなたには希望があるじゃない。そうでしょ?」
美智、うなずく。
俊子「さあ。じゃあ、またあしたにでもゆっくり」
美智、頭を下げて玄関を出て、振り返って会釈して帰っていく。
俊子「元気出してよ」
井波家
封筒を開ける美智。
井波の手紙
「美智殿
実は今日、田舎の父と母に手紙を出しておいた。もし、僕に万一のことがあった場合には必ず訪ねていくように。君と麻子を温かく迎えてくれるはずだ。君に身寄りのないことを思うと、そうせずにはいられなかったんだ。君には必ず生きて帰ると約束したけど、万一ということが十分にありうるということを今のうちから覚悟しといてほしい。君に強くなってもらうためにあえてこう書くのだ」
井波さんは声だけの出演だけど、キャストクレジットに名前なし。
美智は手紙から手を離し、写真立てをつかむ。「バカ! バカバカ、うそつき。あんなに固く約束したのに万一の場合だなんて…」
<夫が出征していって半月ほどは寂しい日々ながらも無事に過ぎていった。美智は毎日、必ず近くの神社に詣でて武運長久を祈った。しかし、この美智に思わぬ変化が訪れようとしていた>
不精髭を生やした小野木が井波家のドアをノック。
美智は乳母車を押して歩いていた。
吉岡家
俊子「次、いくわよ。『大勢にして味方は小勢なり』」と純子の勉強を手伝っていると、美智が訪ねてきた。「あっ、いらっしゃい」
美智「ちょっとお伺いしたいことがあったものですから」
俊子「あら、そう? じゃ、どうぞ。あっ、いいのよ、いいの。純子、ちょっと戸閉めてあげて、ねっ?」
純子「はい」
美智「ごめんね、純子ちゃん」
俊子「麻子ちゃん、あららららら。おや、眠そうね」
美智「ええ」
俊子「あっ、あっちで寝かしたらどう? ねっ?」
美智「すいません」
今が何年かもう考えるのをやめたけど、今回は純子ちゃんは赤と黒のチェックのスカート、俊子も美智もブラウスにタイトスカート。この前の千人針の回で初めてモンペ姿で歩く女性が数人いたけど、きっと今後もこのままかな?
俊子「はい、この毛布使って」
美智「すいません」
純子は茶の間のテーブルの上に広げたノートや教科書を片づけ、自分の文机の上へ。
俊子「ハハッ、麻子ちゃん、おお、眠い眠い眠い。いい子でねんねしててね。お母ちゃんとお話があるからね」
純子「お母ちゃん、遊びに行ってくる」
俊子「はいはい。遅くなっちゃダメよ、ねっ?」
純子「はい」
俊子「なあに?」
美智「あの…お宅のご主人、出征されて何日目ぐらいにお便りがあったんでしょうか?」
俊子「うん、そうね。初めは名古屋の連隊だったから4~5日目ぐらいで葉書をくれたけど」
美智「2週間以上になるっていうのに何も便りがないもんですから、ちょっと心配になって…」
俊子「そのうちあるわよ。いきなり戦地に連れていかれることはないんだから。初めは訓練を受けるんでしょうから、まだ内地にいるはずよ」
不安な表情でうなずく美智。
俊子「きっと毎日毎日、猛訓練で便りを書く暇もないのよ」
美智「でも、内地にいるんでしたら、どこにいるかぐらいは…」
俊子「うん。でも、それは軍の秘密だからしょうがないのよ」
美智「…」
俊子「奥さん。元気をお出しなさいな。クヨクヨしたって始まらないじゃない。あっ、そうだわ、いい物があった。おいしい干しリンゴ。フフッ」台所に立つ。
美智「クヨクヨしてるわけじゃないんですけど、やっぱり心配なんです」
俊子「うん、その気持ち、分からないわけじゃないけどさ。そうね、私も主人が出征していったときのこと思い出すわ。毎晩毎晩、私の隣で大きないびきをかいて、うるさくてかなわないと思ってた人でもいなくなってみると、逆に眠れなくなっちゃって。なんだか体の中まで火が消えたみたいで、毎晩、主人の寝巻きを抱いて寝たもんよ。その主人も戦死しちゃって…イヤ…イヤイヤ。ハァ…私、またイヤなこと思い出しちゃった。私ね、ほんとは主人が戦死したなんて思いたくないの。きっとなんかの間違いだわ。主人は戦死なんかしないで、どっかで生きてる。うっ…生きてる。ああ…ああ…」
美智「奥さん、ごめんなさい」
俊子「あっ…イヤだわ、私ったら。ほんとはね、いつも寂しそうにしてる奥さん見てて、私、今日は、うんと慰めてあげようって思ってたの。ごめんなさい…私のほうよ。あっ、お茶にしましょう。ねっ、ねっ。はい、お茶にしましょうよ」
美智が乳母車を押して帰宅。俊子と同居する話はどうなった? 美智の後ろを小野木がつけていた。鍵を開け、麻子を抱いて家の中に入った。中から鍵はかけられないのね?
勝手に玄関を開けて入ってくる小野木! おい!
ベビーベッドに麻子を寝かせていて、小野木に気付かない美智。「おとなしくおねんねしててね」
美智が振り向くと、小野木がいて、小野木は少し笑って上がり框に掛けた。「どや? その子、ちゃんと…ついとるか?」
今回の配慮が必要な表現は、ここか。男か女かの意味だと思っていたけど、五体満足かどうかを聞いたのではないかという旧ツイッターのつぶやきに目からウロコ! そういうことか。
美智は麻子を隠すようにふすまを閉めた。「帰ってください。警察呼びますよ」
小野木「好きなようにしたらええわ」
美智は家から飛び出そうとした。
小野木「子供、ほっといてええのんか?」
そうだよ、美智!
美智「お願いですから、もう…」
小野木「乱暴はせん。ほんまや。亭主、兵隊に取られたそうやな。一人で寂しいやろ?」
美智「子供がいます」
小野木「ああ…俺は寂しゅうてな。性懲りもなく会いに来た。少しは察してくれてもいいやろ?」←今の住まいは東京?
目線をそらす美智。
小野木「なんや、その顔。見下げたようなツラしよって。軽蔑してんのんか? 何様やと思っとるんや。犯罪者の娘やないか。お前、思い上がるのもええかげんにしとけ。今でも未練持ってる思うたら大間違いやで。ほんまはな、用があって来てやったんや。お客様やで。座布団、出さんかい」
美智「用ってなんですか?」
小野木「素直に座布団出したらええんや」
美智が出した座布団に座り、ゆっくりタバコを吸う小野木。
美智「早く言うてください」
小野木「灰皿」
戸棚から灰皿を取り出して小野木の前に置く美智。
小野木「フフッ、昔を思い出すな。ほれ、2人で所帯持ったとき、俺、神経質やったさかいな、汚れた灰皿が大嫌いやった。お前、どなられるたんびに走って灰皿をかえよったわ。『はい、はい』と素直でかわいかったで。その姿、見るのが好きでな、俺、わざとどなりつけてやったもんや。今、思うとみんな懐かしい思い出や。お前、ここ(胸の辺りをさす)にホクロあったな。ほいからここ(腰)と…忘れへん。俺が惚れた、たった一人のおなごや。何がなんでもお前を女房にしようと、まず、邪魔なおふくろを満州へ行ってしまうようにしむけて…次があの大学生。石山やったな。あいつとの仲を引き裂いて…フフッ、えらい苦労やった。あないに好かれて女冥利に尽きるってやつや」
気持ち悪い新婚時代の回想シーン
美智<<よしておくれやす>>
小野木が無理やりキスしようとしてるのをかわす。<<誰ぞ…誰ぞ来たら…>>
小野木<<誰も来いひん>>
美智<<イヤ…あんた。イヤや、もう>>
小野木がお姫様抱っこで寝室に運ぶ。
回想終わり。回想長いし、こんな気持ち悪いシーンじゃなくてもいいだろ!
小野木「女が逆らえば逆らうほど男の火は燃え上がるもんや。嫌がるお前を抱きすくめて言うこと聞かすときのええ気持ちは忘られへん」
美智「女を物みたいに思ってるんです。女の心が分からないから」
小野木「お前かて、この腕ん中に抱かれて…」
美智「いいえ」
また回想!
この回か? 家から逃げようとした美智を追いかけた小野木が何度も殴る。
美智「あなたは私を愛したって言いますけど、私は愛された思いは一度も…愛してもいない、愛されてもいない。ですから別れたんです」
小野木「井波には愛されたんか?」
美智「ええ。そして、愛しました」
小野木「よう言うわ」
美智「こんなことより用件を言うてください」
小野木「お前のおふくろから来た手紙や。もっとも俺が京都にいるときのことやさかい、古い話になるけどな」
テーブルの上に無造作に置かれた手紙の一通を読み始める美智。
小野木「ろくなこと書いてへんわ。金の無心ばっかりや。うまくいかへんかったらしいな。いっぺん10円送ってやったことがあったが、それっきりなしのつぶてや。最後の手紙には満州も雲行きが怪しいのでシンガポールに行くって書いてあった。今もシンガポールかもしれへんな。二度とお前に会われんさかい、お前に渡そう思うてな」
小野木の顔を見る美智。
小野木「なんや、迷惑やったか?」
美智「いいえ」
小野木「一度くらいお前を喜ばそう思うて」
美智「わざわざすいませんでした」
小野木「俺もとうとう年貢の納め時や。赤紙が来てな。お前に嫌われたまま死にとうない。そやさかい…いや…そやない。戦地行って戦わされる思うたら怖(こお)うて怖うて…一人で寝てるとな、なぶり殺される夢見て、悲鳴上げて目ぇ覚めるんや」
美智「いつ出征するんです?」
小野木「あさって。大阪の連隊や。今になってお前を大事にするんやった。そない思うて。そら、殴ったり蹴ったり、お前が逃げ出したのも無理はない。けど、ほんまに好きやったんやで。好きやったさかい思いどおりにならんのが悔しゅうて。俺はな、生まれたときから人からほんまに好かれたことはなかったんや。母親が早(はよ)うに死んで、親父は他の女とどっかへ行ってしもうた。おじのうちに引き取られて人の顔色ばっかり見て育ったんや。いじけたガキやった。京都に出て区役所の給仕をしながら夜間中学を出て、ほんまはビクビクしながら、けど、虚勢を張って人の足元をすくうても人にはすくわれまい。そないにして生きてきたんや。こんなヤツをお前が好きになるはずはない。心の奥でいつもそう思ってたんや。今考えるとバカバカしいわ。なんのためにこんな無理な生き方してきたんや。そやろ? どうせ戦争で殺されるんやったら、もっと素直に生きてきたほうが得だったんやないやろか。お前に嫌われることもなかったやろしな」美智の顔を見て近づく。「美智、頼む。握ってくれ」
両手を差し出した小野木の手を包むように握る美智は涙を流してる。情の深い女性、の表現かもしれないけど、しらけた~、この展開。下手したら最後にもう一度…と暴行されてもおかしくないのに! それでも美智は許すのかな?
美智の手にすがりついて泣いてる小野木。美智は小野木の頭をなで肩をさする。そこまでするぅ~? 小野木は顔を上げ「おおきに」とお礼を言う。
美智「どうかご無事で」
小野木「ああ。赤ん坊、大事にな」
美智「はい」
小野木「じゃ」出ていった。(つづく)
つくづく男性の原作で脚本なんだな~って思った。あんなぶん殴られ続けた人に普通に接することできないし、まして接触されるなんて…美智もつくづく情の深い優しい女性なのでしょう…やっぱり「思い橋」の幸子とかぶってイヤなんだよね。
大体さ、小野木の家庭環境なら犯罪者の娘だろうが籍に入れても誰かが反対するはずもないのに、小野木のプライドだったのか? 見せ場づくりのための後付け設定って感じがしてさめてしまった。これで小野木は終わりだろうけど、もし帰ってきたらどうすんの!?
しかし、伊藤孝雄さん、うまかったな~。石山はん、松本社長、井波さんと出てきて、何だかんだ一番顔が好きなのは小野木なんだよな~! そこがまた複雑。