公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意
夜通し描いて挿絵を完成させたマリ子(熊谷真実)。だが翌朝、落とした通帳が家に届き、マチ子(田中裕子)にも貯金がないことがバレてしまう。怒るマチ子に、事情を知っていたヨウ子(早川里美)が事の成り行きを話し、なだめる。挿絵が採用され、画料を受け取ったマリ子は細谷(下條アトム)に言われるまま、田河(愛川欽也)を訪ねる。出版社への紹介状を用意していた田河は、皆がマリ子の力になろうと動いていたと話し…。
[rakuten:book:10973793:detail]
朝食を食べ終えたマチ子が自分の食器を流しに置き外へ掃き掃除に行った。ヨウ子も食べ終え、学校へ出かける支度。
マリ子とはるが二人きりになった。
はる「ねえ、一家のことだもの。この際、我が家の状態をあの子たちにも話しておいた方がいいんじゃないかしら?」
マリ子「言う時が来たら言います。でもせっかく糸口がつかめかかったんですもの。もう少し暮らしのめどがつくまで馬耳東風でいいんじゃないですか」
はる「マリ子がそう言うとならそうしましょうか」
言った方がいいと思うけどな~。
はる「あのね、私にできる仕事を何か探してみようかと思うとるの」
マリ子「それだけはやめて! またそこの人たちと喜びや苦しみを分かち合ったりしたらそれこそ我が家はパンクです」
はる「そうかしら」
マリ子「そうよ!」
これからマリ子の仕事が忙しくなるのなら、はるが家にいてお台所や買い物をしてくれた方が助かると必死に説得。
お見事、マー姉ちゃん。この時、一家の主導権を確かにその手に入れられたのですが…。
マチ子は母や姉を不審に思いながら掃き掃除をしていると、巡査がはるの通帳を届けてくれた。空の通帳と聞いてマチ子は驚く。学校に出かけようとしていたヨウ子もお金がないせいでマリ子がトミ子の結婚式に行けなかったことも説明した。マリ子は挿絵の仕事で働くつもりでいることも知ったマチ子。マリ子も突然聞かされたのだと知って、「あの人に母親失格を宣言してくる!」と息巻くマチ子を止めるヨウ子。
マチ子「だってそうでしょ? 私が心配してたとおりじゃないの。何も通帳がゼロになるまで人の面倒にお金ばらまくことないじゃないの。そのために才能あるマー姉ちゃんに挿絵描かせるなんて私絶対に許せない!」
そんなこと言ってもマリ子を悲しませるだけ、いつかきっと私たちにもちゃんと話してくれるというヨウ子。その時まで陰で力を合わせたら…。いざとなったら女学校をやめるとまで言う。
ヨウ子「お金もないのにあんなお嬢様学校行くことないし」
さらに知ってしまったことは黙っておこうというヨウ子にマチ子は何も言えなかった。
陽談社。マリ子の挿絵は採用され、その場で画料が支払われた。この後も仕事が頂けるかという問いには追って連絡をするという塚田だったが、同席していた細谷が田河先生の家に顔を出すように言った。
細谷に言われたその足でマリ子は田河水泡氏を訪れました。
均が「心配してたんですよ」と出迎えてくれ、水泡の仕事部屋に行くと今日のめくりは「要談中」になっていた。春秋文学社、近代婦人社、昭和書房、文学館…水泡の知っている編集者がいる出版社に紹介状を書いてくれていた。細谷が昨日、水泡宅を訪れ、マリ子のことを話して、心配していた。お礼を言うマリ子にそんなこと覚えている必要ないと笑う水泡。
顔が利くといっても、優先的に会ってくれるということであって、マリ子の絵がお金をもらえるだけの値打ちがなかったらそれでも使ってもらえるかどうかは分からないという。お金になる絵を描きますというマリ子に笑顔で頷く水泡。お茶を持って来た均も座って話を聞いている。
女流挿絵家というのは「乙女の友」に描いてる深井深雪くらいしかいない。
戦前の女流挿絵家の情報は見つけられないなー。腕が認められれば珍重されるべき存在であることは間違いないと水泡が言ってくれた。均を部屋から出した水泡は細谷も褒めていたし、すぐに画料を払うように言ってくれていた。
マリ子「このことはしばらくの間、マチ子には伏せておいてほしいんです」
水泡「それは無理だね」
マリ子「なぜですか? だって先生のおかげでマチ子は今、好きな漫画を伸び伸びと描いていられるんです。あの子にまでお金のための絵は描かせたくないんです」
水泡「私は反対だな」
マリ子「反対?」
水泡「そうだよ。だっていいかい? たった一コマの漫画で生計を立ててるやつだっているんだ。そりゃ今のうちはいいが、趣味でなんかやっていたら、そういう連中にマチ子さんだって迫力で水をあけられるに決まってるんだ」
マリ子「もちろんそうだと思います。でももうしばらくの間…」
水泡からマチ子も全部知っていると言った。今朝、水泡宅に来たマチ子はうちの金庫はもうゼロだと言って、仕事を世話してほしいと言ってきた。「少女倶楽部」だけじゃなく「幼年倶楽部」の方も。
水泡「まあ、いいじゃないの。人間どうせ生まれてきた時はみんな裸。君たちが素っ裸になるまでには大勢の人がさ、そのお母さんの病気で救われたと思えば心晴れやかじゃないか」
マリ子「はい…」
水泡「いや、お母さんのこと病気だなんて言って、これはごめんな」
マリ子「いいえ、やっぱり母は病気なんでしょうね」
水泡「いや~、あれは天使かもしれんよ」
マリ子「天使なら少し老け過ぎていませんか?」
水泡「ハハッ、これは手厳しい。しかし御言葉を信じるっていうのは童女のようなもの…いやいや、生まれたばっかりの真っ白な赤ん坊の心かもしれん」
マリ子「多分童女だと思います。赤ん坊ならあんなふうに歩き回るようなことはしませんもの」
噂話にくしゃみをするはる。珍しく台所仕事してる。
マリ子が帰って画料を机の上に置き、受け取ろうとしたはるを阻止したのはマチ子。
マチ子「ダメよ、マー姉ちゃん、お母さんにまた渡したらどんなことになるか分かんないじゃないの」
マリ子「いいじゃないの、それでも」
マチ子「そんな…。だってあとひとつき分の生活費だってないんでしょう?」
マリ子「そうよ。でもね、これはマー姉ちゃんが生まれて初めて働いて入ったお金なの。今までお母様のすねをかじってきたんだもの。このお金だけはお母様に渡したいの。分かってよ」
すねをかじってるとはまた違うような…?
マチ子「気持ちは分かる。でも現実問題としてもうしばらくの間、生活費は共同管理ってことにしないと…」
はる「どうだと言うんですか?」
マチ子「また右から左ではかないません」
マリ子「マチ子」
マチ子「だって…。マー姉ちゃんがどんな気持ちで雑誌社回ったかと思うと…」
マリ子「マチ子だって私にないしょで田河先生にお願いしてくださったでしょう? わたし、どんなにうれしかったか分かんないのよ」
マチ子「だってそれは…」
はる「そうですよ。そういうふうにみんなで力を合わせたからこそ、マリ子の初めての挿絵も無事に乗り切れたんでしょう?」
マチ子「この問題についてはお母様に発言の権利なんてない」
ヨウ子「マッちゃん姉ちゃま…」
マチ子「細谷さんから聞いたけどこの稿料だって田河先生がご自分の受け取りの分の中からでいい早く渡してやってくれって、そうおっしゃってくださったからこそ今日にだって頂けたのよ」
はる「ありがたいことじゃありませんか」
マチ子「だからお願い。お母様、この稿料は…」
はる「お黙り」
マチ子「お母様…」
はる「そういうふうに皆さんの力があったからこそのこのお金でしょう。だったらそういう力を必要としてる人たちにお分けできることを私たちはむしろ幸せだと考えなければいけません」
マチ子「だからといって…」
はる「人間はまっとうに暮らしていさえすればやもめとみなしごの家に粉は尽きることがない。そう御言葉に書いてありますよ。もしたった今、お金がないためにお医者様にもかかれず死にかけているご病人がいたとしたら私は迷わずこのお金を差し上げます。だってあなたたちはこのように元気でピンピンしているじゃありませんか。そのことに感謝できないとしたら、お母様は断固、あなたを勘当します。人に道に恥じなさい!」
病気というか童女というかとにかく母親の確固たる人生観はいまだ健在だったというほかはありませんでした。
説教までするか…という感じだが、マリ子もまた洗脳されかかっているというか母に従ってる感じがある。マチ子が今のところ一番まともなのにな。でもそういうのに飲み込まれて、後の姉妹の不仲があるのかな…とまたそこにたどり着く。