徒然好きなもの

ドラマの感想など

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(6)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

女子放送員の試験まであと2日となった。元子(原日出子)は叔父の洋三(上條恒彦)に相談に出かけるが、その留守に、入営した正大(福田勝洋)からの手紙が家に届く。宗俊(津川雅彦)が上機嫌で手紙を読み上げていると、元子が女子放送員の試験を受けることが書かれていて、大騒動に。怒った宗俊は絶対許さないといきまくが、トシ江(宮本信子)に説得されてしぶしぶ折れる。試験当日、元子は神棚に柏手を打って試験場に向かう。

monparis

絹子「あっ、お帰りなさい」

元子「お帰りなさい」

洋三「おっ、来てたのか」

元子「ちょっと寄らせてもらったの」

絹子「暑かったでしょう、今日も」

洋三「ああ、徴用じゃないだけ、まだましだけどさ、えっ? モンパリのマスターが工員さんの雑炊作りでもって大釜の前でふうふう言ってるなんぞは昔のおなじみさんには見せられないねえ」

 

テーブル席に全部布がかかってるから今は店自体はやってないのかな。

 

元子「贅沢は敵です」

洋三「はいはい」

絹子「もっちゃん、はい」カウンターからおしぼりを手渡す。

元子「はい」そのおしぼりを洋三へ。

洋三「おお、ありがとう。お父っつあん、どうしてる?」

元子「うん…ポケ~ッとしてる」

絹子「何つったって正大ちゃんに出ていかれたのがこたえちゃってんのよね~」

洋三「あれでなかなか子ぼんのうだもん。こういう時世になりゃ、俺たち子なしの方がずっと気が楽ってもんだよ」

 

服部先生の時はこんな早口だったかな~? 

 

元子「大丈夫よ。そのかわり、私がうんと悩ませてやるから」

洋三「ヘッヘッヘ…」

絹子「もっちゃん、あなたに相談したいことがあるんですってよ」

洋三「へえ~、ガンコちゃんの相談なら、叔父さん喜んで乗るよ」

 

服部先生も国井先生も進路指導は得意!(違) どうもこの2人が並ぶと「金八先生」が浮かぶんだよね~。第2シリーズ終わって半年後くらいだしねえ。

peachredrum.hateblo.jp

元子「女子放送員のことなんだけど…」

洋三「ああ…。そのことなら正大君にくれぐれもよろしくってくどいほど頼まれてるからね」

元子「え…あんちゃんが?」

洋三「うん。まあ、こういう時代に自分のやりたいことがあるってことだけでもすばらしいことだもの。叔父さん、とことん応援するぞ」

元子「本当?」

洋三「うん…。ただ叔父さんね、せっかくの専門学校が中退になってしまうってのがちょっと気になるな」

絹子「だけどさ、その前に、あの兄さんが受けさせるかどうかが問題じゃない?」

洋三「そのことならもはや黙って受けてしまうよりしかたがないだろう。大変なのは受かってからだよ。受かるかな?」

元子「受ける以上、私だって頑張るわよ。募集要項にだって専門卒と同等の学力を有する者ってあるんだし、私が同等の学力を発揮すればいいんでしょ? フフッ。それに…はい、叔父さん」灰皿を手渡す。

洋三「はい、ありがとう」

元子「私みたいのが工場へ行って大事な兵器のオシャカばっかり作るより放送員の方がず~っと向いてると思うのよ」

洋三「フフフ…向いてるかどうかは放送局の人が決めるんでしょ? まあ、芝居好きは親譲りなんだからそういう方でもってやらせてもらえるんだったら、その方が向いてるに決まってるさ」

元子「やっぱり叔父さんは話せる人でした」

洋三「で、願書はもう出したんだろ?」

元子「はい」

絹子「試験はいつ?」

元子「あさって」

絹子「頑張って!…って言いたいところだけど、受かったら受かったで、また一騒動ありそうだねえ…」

洋三「はあ~…」

元子「だから、その応援を頼みに来たんです。その時はどうぞよろしくお願いいたします!」

笑顔でうなずく、洋三と絹子。

 

吉宗

郵便配達員「郵便ですよ~、吉宗さん」

順平「は~い」

配達員「おっ、坊や。はいよ」

順平「あんちゃんからだ! わ~い、あんちゃんから手紙が来たよ~!」

 

茶の間

宗俊「お~、来たか! おいおい、ハサミ、ハサミ!」

縁側で上半身裸になっていた宗俊。トシ江が順平から手紙を受け取る。

宗俊「ほらほら! これはお前、俺に来たんだ」トシ江から手紙を取る。

トシ江「危ないじゃないの!」

宗俊「何だと!? 手紙が来てんだぞ? 正大から俺ん所へ!」

トシ江「そんな能書きはいいから、早く開けてくださいよ」

順平「早く読んでくれってば!」

宗俊「よ~し、そこへ座れ」

順平「早く、早く!」

宗俊「うるせえな」

巳代子「早く」

 

宗俊「今、やってるだろう、お前。よし。(せきばらい)『前略 父上様はじめ、皆々様、過日は不肖私の為に盛大なる送別会とお見送りを頂きまして誠に感謝にたえず、熱く御礼申し上げます』。バカが、他人行儀に何言いやがる」

巳代子「いいから先へ進んでちょうだい!」

宗俊「バカ。こういうものは間が大事(でえじ)なんだ。せかすんじゃねえ! え~『ただ、この世に生を受け、山より高きご恩をこうむりながら子としての孝養もつくせぬうちにお手元をはなれなければならなかったことが」

dictionary.goo.ne.jp

トシ江、顔を覆って涙を拭いている。

宗俊「返すがえすも心残りにて何とぞ不孝の段、お許し頂きたく伏してお願い申し上げます』。(トシ江に)バカ、こういうもんは決まり文句なんだ!」

トシ江「分かってますってば」

宗俊「だったらいちいち人(しと)の腰を折るんじゃねえ! (せきばらい)『さて、いま一つ四人兄妹の総領として心残りがございました。元子のことです。何度かお願い申し上げようと試みながら、ついにその機会がないままに出立の時を迎えてしまいましたが、元子はこの度、放送局の女子放送員なるものを受験いたしたき希望を持ち』…」無言で手紙を読み進め始める。

トシ江「ねえ、あんた。ちょっと」

巳代子「ねえ、放送員がどうしたの?」

宗俊「うるさい!」

順平「ケチ。自分一人だけずるいや」

宗俊「うるさい! これは俺に来た手紙だ」

 

あんちゃん、立派な手紙だな~。

 

吉宗

元子「ただいま!」

店先に出てきた宗俊(シャツ着てる)。「俺は承知しねえからな」

元子「え?」

宗俊「放送局なんざ俺は承知しねえっつってるんでい!」

元子「お父さん」

 

トシ江「何ですよ、そんな店先で大きな声出してみっともない」

宗俊「声の大きいのは俺の地声だ!」

トシ江「だからと言ってなにもそんなに…」

宗俊「そんなこんなもあるか。正大が出ていった時のことを胸に手ぇ当てて、よ~く考えてみろ」

トシ江「それと元子の希望とどう関わり合いがあるんですか?」

宗俊「おめえにゃ、それも分からんのか。このウスラトンカチ!」

 

元子「ちょっと待ってよ、お父さん」

宗俊「てやんでえ! あのラジオを見てみろ、あのラジオを!」

トシ江「ラジオが一体どうしたっていうんですか?」

宗俊「おめえ、母親としてよくもそんなのんきなことが言えるな。あの朝、東部軍管区情報とか何とか言いやがって、正大の一世一代の壮行会をおじゃんにしやがったのは放送局の野郎どもなんだ!」

元子「そんなバカな」

宗俊「すると何か? あれはラジオが自分で勝手にしゃべったってのか? そうじゃねえだろ! えっ? アナウンサーのキザな野郎が『ただいま警戒警報が発令されました』とか何とか、こっちの都合も考えず、気取った声でしゃべりやがったからよ!」

元子「むちゃくちゃだわ、もう!」

宗俊「いいか? この話はご破算だ。どうしても行きたけりゃ親子の縁を切ってから行きやがれ! (巳代子に)どけ!」大きな物音を立て、奥へ。

 

夜、元子たちの部屋

巳代子「それでお姉ちゃん、どうする気?」

元子「決まってるでしょ。こうなったら徹底抗戦あるのみよ」

巳代子「だからってまさか家を出ていくなんてことはしないでしょ?」

元子「それは成り行き次第です」

巳代子「お姉ちゃん…」

元子「ともかく一人にしておいて」

巳代子「変なこと考えるつもりじゃないでしょうね?」

元子「何言ってんのよ。大学、高専卒と同等の学力がいるんだもの。試験まではみっちり勉強しなくっちゃ」

巳代子「フフ…フフフッ。そうかあ…フフフッ」

元子「何よ?」

巳代子「受かるとは限ってないものね。お父さんだってあんなに頭から湯気立てることなかったんだわ」

ぷーっと頬を膨らます元子。「純ちゃんの応援歌」の純ちゃんにちょっとヒロイン像は似てるかもな??

 

縁側

宗俊と芳信が将棋を打っている。宗俊はまた麻の葉柄浴衣。

芳信「そうだよ。勘当だ、何だって騒ぐのは、まずめでたく合格通知が来てからのことですよ」

宗俊「何がめでてえもんかい。女はね、黙って嫁に行って丈夫な子供産んで育てりゃ、それが一番だい。そもそもあれだけ反対したのに専門学校なんてもんまで行きやがるからろくでもねえもんにかぶれんだ」

 

茶の間

繕い物をしているトシ江。「私は別に放送局がろくでもないものとは思いませんけど」

 

宗俊「何だと?」

 

トシ江「えっ、独り言ですよ。聞こえましたか?」

 

宗俊「聞こえるように言いやがって何が独り言だ」

芳信「ほれ、これで王手飛車取りだ」

宗俊「えっ? あら? そりゃないよ、ご隠居」

芳信「まあ、女ってものは嫁に行くのが一番幸せだろうが、女学校出たまま、ず~っとうちにいる百合子みてえに縁遠いのもうっとうしいもんだよ」

 

謎の近所の女性、百合子は友男の妻かと思ったら、芳信の娘(未婚)か。

 

宗俊「いや、だからってさ、この8代続いた吉宗から、えっ? 女の給料取り出してみなさいよ。稼業を傾けたみてえでご先祖様に申し訳が立たねえ」

芳信「でも、お前さんが稼業、傾けたわけじゃなし。日本って国が傾きかかってんだ」

 

トシ江「シッ! 『壁に耳あり』。そんなこと誰かに聞かれたらどうするんですか?」

 

宗俊も辺りをキョロキョロ見渡す。

芳信「でもさ、そうは思わねえかい?」

宗俊「ええ…そりゃまあ…」

芳信「東条内閣が辞めたんだってね、ありゃ、サイパンを取られたからなんだろ? ああ、旗色が悪いんなら悪いでしょうがねえじゃねえか。それを転進だなんて言い方が気に入らねえな」

peachredrum.hateblo.jp

転進…「芋たこなんきん」にも出てきたね。こっちは昭和18年ガダルカナルからの転進という話だったけど。

 

芳信の過激な考えに宗俊もトシ江も気まずく目を合わせる。

芳信「そもそも江戸っ子なんてものは判官びいきなんだから、はっきり負け戦って言ってくれりゃあ、こっちもその覚悟で一緒に心中でも何でもやらかそうじゃねえか。進め、一億火の玉だ」

宗俊「まあまあ、まあまあ…。いや…ご隠居、ほら…」

宗俊の慌てっぷりにクスッと笑うトシ江。

 

「ヘボ将棋 天下国家を斬る 夕べかな」字余り。

 

順平が部屋に入ってきてラジオをつけようとしている。

 

宗俊「さてと…」

 

順平「ほら、今日は『宮本武蔵』のある日だろ?」

 

宗俊「おっと、そうだった。聴き逃すところだったい」ラジオのそばに行きチューニング。ラジオから『宮本武蔵』の朗読が聞こえる。こっちには字幕付けてくれないのね。芳信もトシ江も宗俊の顔を見る。

 

宗俊「俺はラジオを聴くんじゃねえ。『宮本武蔵』を聴いてるんだよ!」

ドッカと座って目をつぶりラジオに聞き入る。トシ江はまたクスッと笑う。

www2.nhk.or.jp

時期がちょっとズレてるけど、これかな。

 

カーテンを閉め、文机に向かう元子。鉢巻きを締めてる。

 

ともあれ、必勝を期した元子はまず常識問題から猛勉強。受験戦争のスタイルはいつの時代も変わりはないようです。

 

1階

カーテンを閉めるトシ江。「ねえ、放送局、受けるだけ受けさせてやってくださいな」

ひとりで将棋盤に向かう宗俊。

トシ江「そしたら元子だって気が済むんだしさ。それに正大だってそうさせてやってくれって言ってきたんでしょ? あの子の顔も立ててやってくださいよ」

宗俊「そんなら、受けるだけでいいんだな?」

トシ江「ええ…」

宗俊「よ~し、仮に受かったところで、その先の話は別だ。いいな?」

 

さて、そうこう言ううちに試験当日の朝が来ました。

 

神棚に手を合わせる元子。

心の声「神様、仏様、明神様に水天宮様、どうぞよろしくお願いいたします」

 

宗俊「ふん! かなわぬ時の神頼みか」

元子「お父さん!」

 

宗俊「おい、彦さん行くぞ!」

彦造「へい! ああ、行ってまいりやす」

 

元子「もう~」

トシ江「受ける以上はしっかりおやり。奮発して卵焼き入れといたからね」

元子「ありがとう、お母さん」

トシ江「お礼を言うなら、あんちゃんにお言い。間違ったことじゃなきゃ、どんなことでもさせてやってくれって、あんちゃんそう言ったんだから」

元子「はい」うつむいて涙を拭く。

トシ江「頑張るんだよ」

元子「うん…」

 

巳代子「お姉ちゃん、途中まで一緒に行こう!」

元子「うん。行ってきます」

トシ江「うん」

巳代子「行ってきます」

トシ江「はいよ。行ってらっしゃい!」

元子・巳代子「行ってきます!」

 

当時、放送会館は日比谷公園の近く、内幸(うちさいわい)町にありました。

 

元子の後ろの背景はボケてるけど、絵。

 

放送会館に入っていく元子。

 

来週も

このつづきを

どうぞ……

 

3年B組金八先生」第2シリーズから半年後に始まった朝ドラですが、80年代から90年代は金八先生が数年ごとに再放送していたことに比べると、朝ドラの再放送はBS2だったこともあり見る機会もなく、初視聴。

 

セリフの量が多いのは2年半前の「マー姉ちゃん」と同じだけど、しかしこの1週間、ヒロイン・元子のセリフは必ずしも多くない。金八シリーズもそうだけど、毎回、いろんな生徒にスポットが当たるし、群像劇みたいで面白いなと思います。金八好きとしてはキャストがかぶってるのがまた最高。

 

戦時中の暮らしが丁寧に描かれてるのがいい。でもこの1週間、ツイッターを見ると、さすが戦争が近い世代の描いた戦争は違うという人と古すぎて見てられないって人とで分かれる感じ。

 

これを真に受けて平成のばっかり続きませんように。気の早い話だけど次の朝ドラは多分平成の作品が来るだろうと思うけど、昭和→平成のペースが崩れませんように願います。ツイッターの声が視聴者全ての声と思わないで!

【連続テレビ小説】本日も晴天なり(5)

公式あらすじ※初見の方、ネタバレ注意 

ついに正大(福田勝洋)の入営の日がやってきた。トシ江(宮本信子)の心づくしの食事に舌つづみを打つ正大。元子(原日出子)の放送局受験のことを何とか父・宗俊(津川雅彦)に話そうとするが、正大はついに言いそびれてしまう。宗俊が精魂をこめて手がけた祝いののぼり旗が吉宗の表を飾り、近所の人たちの歓呼の声に送られて、いよいよ出発の万才三唱の最中、突然、警戒警報のサイレンが鳴り、集まった人たちは散り散りになる。

裏庭

井戸で顔を洗っている正大。手探りで手拭いを探す正大に駆け寄り、手拭いを手渡すトシ江。「はいよ」

正大「あっ、どうも」

トシ江「あたふたしててろくな話もできなかったんだけど、ごめんね」

正大「母さん…」

トシ江「どこ行ってもね、母さん、毎朝ここで手ぇ合わせて、おてんとさん拝んでいるからね」

正大「はい」

トシ江「それから生水には気を付けて。あんた小さい時から夏になると決まって腸

正大「はい」

トシ江「(今にも泣きだしそうになりながら)命を…粗末にしないこと」

正大「はい」

トシ江「何たってさ、たった一つしかないんだからさ」

正大「母さん…」

トシ江「でもまあ本当にこんなに立派になっちゃって…」泣き出す。

正大「はい…」

すすり泣くトシ江。

 

さて、今日はあんちゃんが晴れて入営の昭和19年8月4日。宗俊が精魂込めて作った祝いののぼり旗が吉宗の店先をキリッと飾り立てました。

 

 壮途 桂木正大君

 

 武運長久 桂木正大君

 

いくつかバリエーションがあったのね。

 

のぼり旗をひもで結わえ付けている彦造。

幸之助「いよっ、豪気だねえ。さすが日本橋の吉宗だ。大将の気合いが入(へえ)って染めの色がさえてんじゃねえかな、彦さん」

彦造「…」

幸之助「どうしたい? 彦さんもゆんべは飲み過ぎたかい?」

彦造「わしゃ人の災難をさかなにタダ酒かっ食らう趣味はありませんや」

幸之助「違(ちげ)えねえ。何せ彦さんにとっちゃなあ、若大将は孫同然だもんなあ。けど、何事もパ~ッとやりてえのが大将のこれまでよ。なっ? どうせ送り出すんだ。威勢よく送ってやろうじゃねえかよ、おい」

鼻をすする彦造。

 

元子「彦さん、ごはんにしようって。(幸之助に)どうもご苦労さまでございます」

幸之助「朝から忙しいね、もっちゃんも」

元子「おこわが炊けたとこなんですよ。後でお握りしなきゃいけないし。おじさんも召し上がってくださいな」

幸之助「ありがとよ。でもこれからちょいと段取りがね…。まあ、お祝いだから1つだけもらおうか。1つだけ取っといてくんねえな」

元子「はい。そんじゃ、彦さん。彦さん、あんちゃんも待ってるのよ。みんなそろわないでどうすんのよ」

幸之助「ほれ! さっさと行かねえか。このへそ曲がりじいさんが、もう!」

 

食卓には鯛の尾頭付き。

宗俊「そんじゃ、まあ、おめでとう」

トシ江「元気で帰ってきたら、もっと盛大にやるつもりなんだけど、今日のところはまずおなかいっぱい食べてっておくれ」

正大「はい、ありがとうございます。それでは頂きます」

元子「頂きます」

巳代子「頂きます」

順平「頂きます! すげえな、今日はタイだ」

キン「そうですよ。とにかくお祝いなんだもの」

正大「あんちゃんがまず箸をつけるから、あとはみんなで食おうよ。なあ、順平」

順平「うん!」

トシ江「だけどうれしいじゃないの。今朝早く河岸の魚金さんが届けてきてくれてね。でなかったら、こんな本物のタイ、今どきお目にかかれやしないんだもの。ねえ?」

誰も返事をしない。

 

食事が済む頃から集まってきた女衆は、また大仕事。

 

絹子「あら、そのキュウリ、いい色に漬かってるじゃないの」

百合子「はばかりながらもぎたてよ? うちの路地に作ったんだけど、まだピクピクしてるうちにぬかみそに押し込んどいたんだから」

絹子「はあ…だけどさ、何つったって人形町で生まれて、まさか畑仕事やるようになると思わなかったねえ」

百合子「けど、ここなんかあんな広い干し場があるんだもの。畑にしたら売れるほど野菜が取れるじゃないの? もったいなくてたまんないわ」

キン「大きなお世話ですよ!」

元子「キンさん」

キン「だってさ…」

 

金太郎「ねえ、おかみさんこっち私も手伝うからさ、そろそろ支度をなすった方がいいんじゃない?」

トシ江「でも支度だなんて…」

絹子「あら、駄目よ。何つったって出征兵士のお母上なんだから、ほら、もっちゃんも巳代ちゃんも。ねっ」

巳代子「はい」

 

順平「大原中尉殿が来たよ~!」

トシ江「えっ、本当?」

金太郎「さあさ、代わりましょう」

キン「すいませんね。すいません、もう少しなんですけどねえ」

金太郎「はい」

 

茶の間

朝からコップに酒を注ぐ宗俊。「まあ、グッとやってください、グッと。『駆けつけ三杯』って言うじゃないですか」

正道「ああ、しかし、自分は…」

宗俊「堅いことは言いっこなしだ。ねえ、正大もまたまた面倒見てもらわなきゃなんねえんだし」

正道「はあ…」

正大「『またまた』と言っても中学へ入る時のとは違うんだよ?」

宗俊「それぐらいのことは言われなくても分かってる」

正道「しかし、佐倉に入隊することになれば自分の部隊とも近いですし、何かと連絡は取りやすいと思いますから」

トシ江「ひとつよろしくお願いいたします」

peachredrum.hateblo.jp

銚子が舞台の「澪つくし」もヒロイン・かをるの異母弟・英一郎は佐倉の部隊へ。でも昭和12年の出来事だったか…従軍長かったんだな~。英一郎は多分、正大より10歳以上年上だと思う。

 

正道「貴様は中学の時から読書家だったから言っとくが」

正大「はい」

正道「本は読み続けろ。まあ、軍隊だから内容によっては制限されるんだが本が読めないっていうわけじゃないんだ」

正大「はい」

正道「自分の愛読書は寺田寅彦だが、いつも手放さずに持ってる」

元子「わあ~、すてき。やっぱりあんちゃんの先輩ね」

正道「あ~、ガンコさんにも薦めたいな。まあ、腹の足しにはならんが優れた本は心の糧になります」

元子「私は元子」

正道「ああ、失礼しました」

 

絹子「あ…義姉(ねえ)さん。出来上がったお握りどうします?」

トシ江「ここの出発9時だから皆さん集まってきなさるのを見計らって表へ並べといてもらえますか」

絹子「はい、分かりました」

宗俊「よし、そんじゃ俺も」

正大「すいません、その前にちょっと時間を頂けませんか?」

宗俊「(順平に)こら! 軍刀なんかで遊ぶんじゃねえ!」

正大「あ…あの…」

トシ江「ちょいとお前さん」

宗俊「ヤミの酒は駄目だ。頭の芯がズキズキしやがる」席を立ってしまう。

 

絹子「もう、悪い癖だわ。いざって時、いつでもああなんだから」

正道「自分の父もそうでしたが、改まるのが嫌なんじゃないですか?」

絹子「それにしたって…」

 

元子「あのことなら本当にもういいのよ、あんちゃん」

正大「いや~、けど…」

元子「ううん。自分でできないようじゃ結果だって知れてるもの。だからこれは自分でやります」

元子と正大に挟まれて座ってる正道には分からない話。

正大「そうか。それじゃやってみるんだな」

元子「はい」

 

そうこうするうちにも時間は遠慮なく時間どおりに過ぎていくもの。

 

吉宗前でお握りを配る。彦造や友男も人垣の後ろで手伝う。

子供「お握り頂戴!」

金太郎「はいよ」

子供「何だ、お前。さっきも食ってたじゃんか!」

金太郎「もめないんだよ、お祝いだからね。はいよ」

子供「ありがとう」

金太郎「はい。はいよ」

女性「すいません。うちじゃ子供が3人待ってんだけど私の分と4つもらえないかしら?」

幸之助「え~、そらまずいよ。これは送りに来た人へのもんなんだから、こらなあ」

 

元子「いいじゃないの、おじさん。4つね。はい」

女性「そんなら、あの…私、5つ」

元子「はい、4つ」

金太郎「ちょいといいかげんにしておくれよ」

友男「ちょっと待ちなよ。あまり見かけねえ顔だけどな」

女性「ええ、そうですよ。この先で用足ししてたら、ここでお赤飯の大盤振る舞いがあるっていうから大急ぎで飛んできたんですよ」

友男「これだ…」

金太郎「だけどね、ここは配給所じゃないんですよ」

女性「じゃ、何なんですよ!?」

幸之助「見りゃ分かんだろ!? ここの若大将がご入営なんだよ。だからご近所の人たちへだな…。ちょっと…おいおい!」

友男「泥棒!」

元子「やめてよ、もう! お祝いなんだから誰でもいいから配ってください」

東島「お~、なかなか盛大じゃのう。うん。しかし、そろそろ時間じゃなかとか? ん?」←新キャラ! 警官かな。

 

茶の間

正大「それでは、父さん」

長火鉢を前に座る宗俊と隣に座っているトシ江。着替えてる。宗俊は長火鉢の引き出しから何かを取り出す。「これ、持ってけ」

正大「は…?」

宗俊「迷子札だ」

正大「迷子札?」

宗俊「ガキの頃からどこへでもちょこまか行きやがる子だったからな、江戸彫金の名人・辰造に頼んで特に念入りに彫り上げてもらったやつだ。学校上がるまでおめえ、首にぶら下げてたんだから覚えはあるだろう?」

正大「本当だ」

宗俊「なくすなよ」

正大「はい」

トシ江は顔を覆って泣き出す。

宗俊「それさえ持ってりゃあ、おめえ、どこで迷子になったって、ちゃんと帰(けえ)ってこられる」

正大「父さん」

宗俊「ケッ、あん時は捜したぜ、おい。ちんどん屋だか紙芝居だかについていきやがって忘れもしねえ、千住までだ。ええ? 涙とはなでドロドロになりやがって連れて帰ってきてもらったの、おめえ覚えてるか? おい」

正大「覚えてるよ」

 

♪天に代りて不義を討つ

忠勇無双のわが兵は

歓呼の声に送られて

今ぞ いでたつ父母の国

勝たずば生きて還らじと

誓う心の勇ましさ

日本陸軍

日本陸軍

  • provided courtesy of iTunes

peachredrum.hateblo.jp

マー姉ちゃん」でも天海さん出征の折、皆で歌ってました。↑で引用した「澪つくし」の英一郎の時も歌ってました。

 

吉宗の前では正大を中心に家族が立ち、近所の人が「日本陸軍」を歌う。モンパリの叔父さん(上條恒彦さん)の歌声がなかなか聞けないのが残念だなあ。歌い終わり、拍手が起こる。

正大「盛大なるお見送り、ありがとうございました。それでは桂木正大、これより行ってまいります!」

幸之助「桂木正大君、万歳!」

一同「万歳!」

幸之助「万歳!」

一同「万歳!」

両親は深く頭を下げる。

幸之助「万歳!」

一同「万歳!」

 

警戒警報

男性「警戒警報だ…」

芳信「秀美堂さん、あんた警防団長だったろ」

幸之助「(持っていたメガホンで)警戒警報発令! 警戒警報発令!」叫びながら吉宗の前を歩いていく。近所の人たちも帰っていく。

宗俊「チクショー! アメ公の野郎め!」

 

洋三「ガンコちゃん、早くラジオを」

元子「はい」

 

ラジオ「関東地区、関東地区、警戒警報。東部軍管区司令部より関東地区に警戒警報が発令されました」

ラジオを止める宗俊。「誰だ!? ゆんべ悪い遊びをしやがったのは!?」

正道「大丈夫です。自分も隊へ戻らねばなりませんので正大君は自分が途中までしっかりとお送りします」

トシ江「ひとつよろしくお願いいたします」

正道「さあ、正大君」

正大「はい。じゃあ、行ってくるからね」

キン「若旦那…!」手を握る。

絹子「気を付けてね」

正大「はい。叔父さん」

洋三「帰ってきなよ」

正大「彦さん」

彦造「体、大事(でえじ)にね」

正大「あとはよろしくお願いします」

元子「あんちゃん」

正大「力になれなくてすまなかったよ」

元子「ううん。ちゃんと自分でやるから」

トシ江「大丈夫。私が承知してるから」

元子「それよりあんちゃん。あの人は?」

 

宗俊「いつまで何を言ってるんだ。早く行かねえとおめえ、途中でアメ公にやられちまったら何にもなんねえぞ! いいか、さっさと行ってこい! 行って…敵、やっつけてこい!」

正大「ああ、やっつけてくるともさ! じゃあ!」宗俊とがっちり握手。

順平「頑張れよ! あんちゃん!」

正大「おう!」

 

絹子「手紙出すからね」

巳代子「しっかりね!」

正大「お前たちもな!」

順平「頑張れよ~!」

 

このころの東京は昭和17年に初空襲は受けましたが、まだまだ警戒警報も珍しい時でした。宗俊がせっかく染めたのぼり旗だけが不粋な警報で散ってしまった人々に代わっての見送りとなったのです。

 

そして同じ日…。東京初の集団疎開の児童たちが12時50分、上野駅から親元を離れ、何も分からぬ遠足気分で旅立っていきました。

 

資料映像。駅に見送りに来た大勢の人と笑顔の子供たち。列車が走り出すと、子供たちは学帽を振る。

 

ブルーバックのつづくのあとに「明日もこのつづきをどうぞ……」。

 

マー姉ちゃん」と同じ小山内脚本だから序盤からすごいセリフの量!って思ったけど、「マー姉ちゃん」はマリ子とマチ子のやり取りとかちょっとくどく感じたところもあったんだけど、「本日は晴天なり」の方がちゃんとお芝居を見せるシーンもそれなりに多いと思うけどなあ。

 

集団疎開の子供たちが笑顔だったのが悲しかったな…。あの音楽も悲しげだったしな。

【ネタバレ】岸辺のアルバム 第12話

1977/09/16 TBS

 

あらすじ

東京郊外の多摩川沿いに住む中流家庭。一見すると幸せそうに見える家族4人。しかし、実はそれぞれが問題を抱えていた。母・則子(八千草薫)は良妻賢母型の専業主婦。だが、見知らぬ男から電話がかかってくるようになる。はじめは知らん顔をするも、やがてその男と会うようになり…。父・謙作(杉浦直樹)は有名大学出の商社マン。しかし、実のところ会社は倒産寸前の状態だった…。娘・律子(中田喜子)は大学生。なかなかの秀才で大学も簡単に合格したはずだったが、ここ一年は家族に対して心を閉ざしている。やがて、アメリカ人男性と交際するようになるのだが…。息子・繁(国広富之)は大学受験を控えた高校生。決して勉強のできる方ではないが、心の優しい性格の青年だ。だが、両親や姉の異変に気付き、思い悩むことに…。

 

第12話

繁(国広富之)は勉強どころか、何も手につかなくなって荒れてしまう。久しぶりに一家4人が揃ったある日曜日、田島家は川岸に並んで家族写真を撮影するのだった。

2022.9.21 日本映画専門チャンネル録画。

Will You Dance?

Will You Dance?

ドラマが始まる前に「この番組は1977年9月に放送されたものです。番組中、一部に不適切な表現がありますが、作品の時代背景およびオリジナリティを考慮し、そのままお送りいたします」の注釈が出た。前も出たけど東南アジアの女性云々のところかな? 何がヤバいってみんなヤバく思えるんだけどな。

 

アパートの前を掃いている堀先生。先日から再放送が始まった「本日も晴天なり」のチャキチャキの江戸っ子とは大違いの津川雅彦さん。則子が訪ねてくるので掃除をしてたのか。もう卒業した生徒の母親が自宅を訪ねてくるなんて先生も大変。

 

則子は繁のことを堀先生に話していた。学校に電話したのか~。繁は黙り込んだり、怒ったり、突然大きな声で演歌を歌ったり、則子たちに突っかかるようになり、わざと階段をひどい音を立てて上がってみたり、勉強もしてないと相談する。

 

田島家

自室で大音量のロックをかけ、寝転んでいる繁。律子もたまらず注意するが、カセットデッキ(って言うんだっけ?)を止めただけで鍵は開けない。

律子「赤ん坊がすねるようなことしないでよ。男らしくないわよ。何よ、お母さんに突っかかって膨れっ面してドアは必ずバタンって閉めて…あなたね、ホントならもう大学生なんだから、あんまり子供っぽいこと…」

ドアが開く。

律子「ハァ…いいかげんにしてよ。何よ? 何が気に入らないのよ?」

繁「俺のことだと派手に怒るじゃないか」

律子「誰だって怒るわよ。あんな音立てて怒らない人間いるもんですか」

繁「親父やおふくろには怒らないんだな!」またドアを閉める。「何聞いたって怒らないじゃないか!」

律子「ハァ…あんたみたいに迷惑じゃないもの。大の大人が自分の責任で何したって勝手でしょ」

 

いつものスナック

タバコ吸ってる堀先生と繁。もう昔のドラマで見慣れてしまったけど、生徒の前でタバコ吸うって今だったらありえない光景だよね。堀先生から則子が何を言ったか聞く繁。受験勉強がつらすぎるのではないかという返答にそんなことじゃないという繁。謙作は繁を殴ると言っているが、繁がもっと頑固なところに入り込むのが怖くて則子が止めていると聞かされた。

 

堀「先生は殴ったほうがいいんじゃないかって言った。いい年して親を困らせるようなヤツは殴ったほうがいい。憂さ晴らしに親に当たる年じゃないだろう」

うちをメチャメチャにしてやりたいという繁に理由を尋ねるが、繁は言いたくないという。

堀「勝手な印象を言えば、君はぜいたくを言ってる。いいお母さんじゃないか。よくは知らないが、お父さんだって悪い人じゃないだろう。幸せだと思うね。浪人した君をうちじゅうで気にしてくれてる。カネの心配もない。自分の部屋だって持ってる。商売の手伝いをするわけでもない。うるさい音で困ってるっていうこともない。そんな環境はご両親のおかげじゃないのか。お父さんやお母さんが努力して今の家庭つくったんだ。その家庭を子供の君が壊すってことはこれは大変なことだ。どんな理由があるか知らないが、そんな権利、君にはないんじゃないのかな?」

繁「平穏ならいいんですか? うちってものは平穏無事ならいいんですか?」

堀「当たり前じゃないか。どんな家庭だって、ほっといて平穏無事なわけじゃない。努力してそうしてるんだ。家庭の平穏無事なんてもろいもんだ。例えは悪いが、お父さん病気になったらどうする? たちまち今のままじゃいられなくなる。君はすぐにでも働いて家計を助けなきゃならなくなる。大学どころじゃない。もろいもんだ。君がいらだって壊す権利はない」

繁「…」

堀「みんなね、やりくりしてようやく平和に暮らしてるんだ。平穏無事が気に入らないなんて、あんまり安っぽい不満じゃないのかな?」

 

律子も堀先生も大人だし、正論だね~。

 

夜、川の土手に佇む繁。

 

繁のナレーション「そうだろうか。食わしてもらってる僕に家庭を壊す権利はないのだろうか。お母さんが浮気をしても、姉さんが子供を堕ろしても、お父さんが東南アジアから女性を輸入しても黙って受験勉強してればいいのだろうか。確かに黙っていれば平穏無事だ。何も起こらなかったと思えば、そんな気がしてくるくらいだ。でも、それでいいのだろうか。平穏無事ならそれでいいのだろうか」

 

いや、いいと思うけどな~。

 

夜、田島家

則子と談笑している信彦。

則子「それじゃまるで女学校みたいじゃない」

信彦「ええ、気がつくと女ばっかりの教室に1人でいたりして」

則子「モテるでしょう?」

信彦「ええ、まあ、しつこいのがいたりして、もう…」

則子「あら、ウフフ」

信彦「ブスなんですけどね」←これこれ(^-^;

則子「まあ、フフフ…」

 

帰ってきた繁はそのまま2階へ。信彦も2階へ。則子から繁がノイローゼだと聞いた信彦が遊びに来てくれた。

繁「先生の次はお前だ。人を呼んで俺と向き合わねえように向き合わねえようにしてるんだ」

信彦「キツいこと言うなよ…。お母さん、お前が怖いとよ。何怒ってんだ?」

繁「お前はモテモテかよ」

信彦「バカ、モテるかよ」

繁「そう言ってたじゃないか」

信彦「ハハハ、聞いてたのか」

繁「俺のことなんか忘れやがって」

信彦「そう言うな、お前」

繁「電話したっていやしねえ」

信彦「だけどよ、お前だってよ、急に女が80%の教室入ってみろよ。男と会う気なんか全然なくなるって」

繁「よく言うよ」

信彦「ハッ、とにかくよ、お前、積極的なのがいてよ。すげえんだから、お前」

繁「フッ…コンニャロ」やっと笑顔を見せる。

信彦「ホントだって、今度会わせるって」

繁「コンニャロ」とふざけて殴る振りをしてるが、のろけやがってと泣きながら殴り続ける。

 

日曜日

庭に水をまいている謙作。台所にいる則子にうちじゅうで散歩しようと誘う。則子は繁が一緒に行くわけない、また大声でどなるの聞きたくないから、お父さん呼んでとすっかり恐れている様子。

 

謙作「知らん顔して誘えばいいんだよ。繁! 散歩行くぞ、散歩。律子も下りてこい」階段下から呼びかけるが、返事がなく階段を上る。「久しぶりにお父さん、日曜にいるんだ。散歩ぐらい行こうじゃないか。律子、散歩だ散歩」

律子「分かった」

謙作「あのコーヒー屋でまた飲もうじゃないか。繁? キャメラ、お前んとこか? 久しぶりで写真撮らないか? どうだ? 繁」反応がないのでドアを開けるとカーテンを閉め、布団で寝ていた。「繁。めったにこんな日曜はないんだ。みんなで散歩して写真撮らないか? うん? アルバム、随分、間があいた。起きないか。うん? キャメラ、お前んとこだよな?」

繁「お父さんの…」

謙作「うん?」

繁「うちのアルバムなんてインチキだもんな」

謙作「フッ…何がインチキだ?」

繁「アルバム見るといつも4人一緒じゃないか。いつも4人で仲良く笑ってるみたいじゃないか」

謙作「アルバムなんてのはそういうもんだ。どこのうちがケンカしてるときの写真を貼る。先生にうちが平和なのが気に入らないとか言ったそうだな。まあ…若いうちはそういうことでもイライラするのかもしれないが、ハッ…無理を言うな。平和なら結構じゃないか。おい、機嫌直して下りてこい。ん? どこにある? キャメラ。起きろよ、どこにある?」

繁「棚だよ」やっと布団から起き上がった。フィルムは入ってない。

 

だいぶ古くなったから買うかななどと話す謙作に去年、渋谷で則子が男と歩いているのを見た人がいると話す繁。謙作は大した動揺も見せず、一緒に歩いてたのは川田かもしれないと言い、そのまま部屋を出て行った。

 

土手

則子と律子の写真を撮る謙作。河川敷で犬と戯れている繁に家族写真を撮るように話しかける。

謙作「お前が一番、4人そろうのをいつも喜んだじゃないか」

繁「撮るよ」

謙作が中心に則子と律子の肩を抱く。

謙作「アルバム、1年ぐらいブランクだったからな。ニコニコニコニコ!」

則子「ご無沙汰しました、ウフッ」

謙作「ハハハハハ…」

シャッター音

 

繁「なぜあんなに笑えるんだ? 女房が男と腕を組んで歩いてたって聞いてなんとも感じないのかよ?」

 

素直に写真を撮るところが繁ちゃんらしいとこなのかもしれない。

 

モスバーガー

カウンター席でポテトを食べている繁。雅江が話しかけた。信彦が店に来て、繁がノイローゼだから電話かけてやれと言われたという。信彦は「このごろ俺は女に飽きた」と余裕を持っている。繁は人に言えることじゃないと言いつつ、雅江の家庭の事情を知ったので、則子の浮気のことを話す。前回も言ってたので知ってると答える雅江。しかし、客が来て話は中断。

 

雅江「いらっしゃいませ」

北川「えーっとね…」

北川の妻「私、やっぱりコーヒーにするわ」

北川の娘「私はモカシェーク」

くるっと振り向いた北川を繁は目撃! ホントに生活圏が近いんだね。北川は気付いてない。

 

雅江「いらっしゃいませ。ご注文、伺います」

北川「コーヒー2つ」

雅江「はい」

北川「チーズバーガー1つ」

雅江「はい」

北川「普通のバーガー2つ」

雅江「はい」

北川「モカシェーク1つ」

雅江「コーヒー、ツーにチーズバーガー、ワン。えーとハンバーガーがツーにモカシェークがワンでございますね。少々お待ちくださいませ」

妻「パパ、大丈夫? 1つで」

北川「大丈夫さ、フッ」

娘「帰ってビール飲めばちょうどいいわよ」

妻「やだ、太りだしたのよ。困るわよ、ビールばっかり」

北川「ハッ、ばっかりなんて飲んでないじゃないか」

娘「ママがそばから飲んじゃえばいいのよ」

妻「じゃ、ママが太るじゃないの」

北川「太ったほうがいいさ、ママは」

妻「やだ、こんな所で大きな声で。さあ」

北川「ハハ…」

北川の妻は娘を連れてテーブル席へ。

 

繁「あいつもインチキだ。和気あいあいじゃないか。浮気しといてケロケロしてるじゃないか」

 

北川は会計をし、商品を持って席へ。

娘「パパ、ここ」

北川「うん」

妻「あら、もう冷房効かせてるのかしら」

北川「そんなことないだろ、はい」

娘「風邪ひいたんじゃないの? ママ」

妻「そうかしら?」

 

北川の妻の水原英子さん。何か見たことあるなと思ったら、「二人の世界」では恒雄の憧れの年上女性・片桐弓子だった。20代後半でブティック経営。このドラマでは竹脇無我さんとは一緒のシーンはなかったような気がする。

peachredrum.hateblo.jp

 

繁「こんばんは!」

カウンター席から振り向いて声かけたー!

 

北川「こんばんは。ああ…こんばんは」

 

いやあ! 北川さんっていろんな意味ですごい。全く動揺の色を見せず、さらに繁に笑顔まで見せる。

 

繁「一家団らんですね」

北川「ああ、一家団らんだ。ハッ…じゃ」

妻「誰?」

北川「いや、ちょっと駅んとこでな」

妻「駅んとこで?」

北川「定期落としたの拾ってやったんだ」

妻「へえ」

 

北川さん、すげーや! 紳士で妻子にも優しく、バレずに浮気する人!

 

自動販売機コーナーの前にバイクに乗った青年が集まっている。中では雅江と繁がビールを飲んでいた。

雅江「あんたバカよ」

繁「どうして?」

雅江「ケロケロしてるって言うけど、心の中では分からないじゃない。一生懸命ケロケロしてるのかもしれないじゃない」

 

ケロッとしてるとかじゃなく、ケロケロっていう表現が面白い。

 

繁「そうかもしれないけど」

雅江「お父さんだってショック受けても子供の前でもめたくなかったかもしれないじゃない」

繁「うん」

雅江「親の浮気をもう一人の親に言うなんて最低よ」

繁「ほっとけばいいのかよ?」

雅江「当たり前じゃない」

繁「臭いものに蓋をして和気あいあいかよ」

雅江「ぶち壊してなんになるのよ?」

繁「インチキじゃなくなるさ。俺んちなんかインチキでいっぱいなんだ」

雅江「人間なんてそんなもんよ」

繁「あんたのお父さんはそうじゃないじゃないか」

雅江「最低よ」

繁「ちゃんとお母さんの浮気にショックを受けてるじゃないか」

雅江「浮気じゃないわ。飛び出してっちゃったんだもん。本気よ」

繁「それも立派だよ。コソコソ浮気して口拭ってるよりずっと人間らしいよ。ショックを受けて起き上がれないお父さんだって人間らしいよ」

雅江「帰ってみなさいよ。今頃お父さん、お母さん問い詰めてメチャメチャになってるから」

繁「そうかな?」

雅江「そうよ! よくそんなことができるわね。あんたの親、これで終わりかもしれないじゃない。帰んなさいよ。よくこんな所にいられるわね。あんたバカよ、1人で立派ぶって…大バカ野郎よ! 帰んなさいったら! 今頃お母さんあんたのおかげで追い出されてるかもしれないじゃない!」

 

雅江、最初のころは、すごいカンチガイ女だと思ったら全然違った。何で繁も雅江の父に感銘を受けたんだ。

 

家の前まで来た繁は、包丁を握って則子を問い詰める謙作を想像する。謙作が則子を刺し、謙作は自らの腹を刺す…。

 

鍵を開けて家に入ろうとした繁は則子の楽しそうな声を耳にする。

則子「フフッ、違うのよ、違うの、ウフフ…伊豆でやるんじゃなくて、伊豆へ老人ホームの人が行くでしょ」

謙作「うん」

則子「でもバスが大変で旅行できないお年寄りもいるわけ。そういう人たちを慰問するから歌でもなんでもいいから歌えって言うのよ」

謙作「それで『ソーラン節』か?」

則子「だって変に気取った歌、歌うなんてイヤらしいじゃない。思い切って『ソーラン節』」

謙作「ハハハハ…こっちが聴きたいな」

則子「やだ、とってもとっても…」

謙作「ハハハハハ…」

談笑している両親の声を聴いて苦々しげな表情をする繁。謙作にお父さんの相手しないか?と言われても、そのまま2階へ。

 

則子が月に3回、老人ホームに行っていると知り、見直したと笑顔を見せる謙作。

 

繁は律子の部屋へ。律子は編み物をしていた。

繁「男ができると編み物か」

律子「イヤな言い方しないでよ」

 

律子に両親がケンカしていたか聞くが仲良さそうにしていたと答え、繁は謙作に則子の浮気のことを話したことを律子に言った。お父さんに弱みがあるんじゃないかという律子。騒ぎにして何が面白いのよとここでも正論を言われる。

 

繁「インチキだからだ。姉さんもお父さんもお母さんもインチキだからだ」

律子「あんたはインチキじゃないの? インチキに食べさせてもらってる、あんたはインチキじゃないの? いいかげんにしてよ」

 

ダイニングでくつろぐ則子と謙作の前に繁が姿を見せた。

謙作「どうした?」

則子「どうしたの? いらっしゃい」

繁「お父さん」

謙作「なんだ?」

繁「気が狂ってるのかもしれないけど頭の中がいっぱいでどうしようもないんだ」

則子「何がいっぱいなの?」

謙作「何がいっぱいなんだ?」

繁「みんなのインチキだよ」

謙作「インチキ?」

繁「お父さんは仕事に誇りを持ってる?」

謙作「ハッ…なんだ? それは」

繁「質問さ! 仕事に誇りを持ってる?」

謙作「もちろんだ、仕事には…」

繁「お母さん! お父さんが何をしてるか知ってる?」

則子「何を?」

謙作「何をしてるっていうんだ」

繁「繊維機械なんて言ってるけどね、兵器作ったり東南アジアから女を輸入したりしてるんだぞ!」

謙作「繁…」

繁「女を輸入してクラブやキャバレーへ送り込んでるんだ! 誇りを持ってね!」部屋を出る。

謙作「繁!」

則子「繁ちゃん」

 

繁は階段へ。「お父さんはお母さんが何をしてるか知ってるか? 僕の言ったことウソだと思ったんだろ。ウソじゃないぞ! お母さんは男と何度もホテルへ入ってるんだ。渋谷の連れ込み行って聞いてみりゃいいさ。はいはい、その方はお得意様で…」

謙作「よさないか、繁!」

繁「もっと驚くこと言ってやろうか!」

律子「繁!」部屋から出て階段の上に立っている。

繁「そうだよ! 姉さんの番だよ!」

律子「バカなこと言わないでよ!」階段を駆け下りてくる。

繁「姉さんはね…姉さんはアメリカ人の男とできてて、ひどいことされて子供堕ろしたこともあるんだぞ」

律子「やめてよ!」繁をつかみ合いになるが、謙作が律子をよけて、繁をポカポカ叩く。

繁「殴ったって無駄さ! 俺を殴ったって消えるわけじゃないんだ!」

取っ組み合いになり、繁が謙作を殴った。今度は繁が謙作に馬乗りになり、殴りつける。

繁「これが俺んちさ、これが本当の俺んちさ!」

則子も律子も止めることが出できない。組み合って階段に殴り倒された謙作。

繁「俺を殴ってどうなるんだ!? お母さんだって!」

律子がなんとか繁を止め、律子は謙作を心配する。

繁「いいかい? これがホントの俺んちさ!」2階に駆け上がる。

 

助け起こそうとした則子を拒絶して部屋に行く謙作。則子は律子に聞こうとするが、律子は2階へ。

 

繁の部屋

繁「俺が悪いかよ? 俺が悪いかよ!?」

 

ひとり残された則子は謙作のところへ。謙作は繁を呼べと怒鳴りつけたが、則子は「繁が何を知ってるか知らないけど、もう終わったことなの。とっくに終わったことなの」と弁解。

謙作「終わってれば罪はないのか?」

則子「悪いと思ってるわ」

謙作「空々しいことを言うな」

則子「どうしたらいいの?」

謙作「どうしたらいい? 勝手なことしといてその始末を俺に聞くのか? 繁を呼べと言ってるんだ! 繁! 繁!」

 

階段を下りてきた繁と目が合った則子は繁を避ける。繁は謙作のいる部屋に行き、大学へは行かないと宣言。食わしてもらってちゃ言いたいことも言えないと明日家を出て働くという。

謙作「明日になりゃあ、何食わぬ顔してすねかじりに来るんだ」

繁「見てろよ、見てりゃいいさ」

謙作「お前は働くっていうことがどういうことか分かってないんだ」

繁「すぐそうやってもったいつけるんだ。働くってどうってことないじゃないか」

謙作「お前は働いてないじゃないか!」

繁「だから働くって言ってるだろ! 自分1人で働いてるみたいに言って、さも大変で難しくて神聖みたいに言いたがるけど」

謙作「そんなことは言わん」

繁「働くなんて大したことないじゃないか。女を輸入しなきゃ食ってけないってもんじゃないだろう。バカにして見てりゃいいさ。立派に1人で食べていくから見てりゃいいさ」

謙作「お母さんの…ことを聞こう」

繁「本人に聞けよ」

謙作「律子のこともだ」

繁「だから本人に聞けよ! 本人がいるのになぜ僕に聞くんだ? 本人に聞けよ!」部屋を飛び出し、階段を駆け上がり2階へ。

 

謙作は2階に上がり、律子の部屋へ。もう済んだことだから大騒ぎしないでという律子。乱暴なら立派な犯罪だ、泣き寝入りすることはないと謙作は言うが、制裁はしたと律子は答える。繁が殴り込みに行ったこと? 

 

ようやく忘れたので蒸し返さないでほしい、ほっといてほしいという律子に、つきまとわれているんどということはないんだな?と聞くが、中絶したことは生死に関わることだから親に話せという。

 

1階に下りてきた謙作は今度は則子と話をする。

謙作「相手の男のことはきくまい。聞きたくない。まだ続いているっていうなら別だが…」

則子「終わったことだわ、とっくに」

謙作「終わったことか。律子もそう言った。じゃあ、いつ始まって、いつ終わったんだ!? お前らは平然と俺をだました。お前らはいつも変わらなかった。律子のことは知ってたのか?」

則子「いいえ」

謙作「一日うちにいて娘のそんなことにも気がつかないのか」←一日うちにいてって嫌な言い方だね~。

 

正座して小さくなっている則子。

謙作「それじゃ…それで勝手をしてりゃ世話ない」

則子「痛そうだわ」

謙作「なんだと?」

則子「腰、痛そうだわ」

謙作「調子のいいこと言うな! 俺のことが心配か」

則子「心配だわ。何言ってもいい気なもんだと思うでしょうけど心配だわ」

謙作「話をそらすな!」

則子「横になってください。できたら明日にしてください」

謙作「そんなことがよく言えるな。大体、俺は明日何時に帰れるか分からないんだよ」

則子「休めないの?」

謙作「休む? なぜ休む? お前と話するために休めっていうのか?」

則子「ひどい顔だわ。アザになってるわ。腫れてきたわ」

謙作「腫れてきた? アザになってるか?」

則子「ええ…」

鏡を見た謙作。左目の下が赤く腫れている。

 

本業の繊維機械の久しぶりの大仕事が月曜日、正念場を迎えようとしていた。日曜はたっぷり休んで月曜は全力投球だと部下の中田や宮部と話していた謙作。

 

謙作は部長の俺がこんな顔で出るのはまずいと結膜炎の時に余分に買った眼帯を則子に探させた。この期に及んで仕事仕事と言ってる謙作に非難するような態度の則子を怒り、泣き出した則子を殴りつけた。もー! やめなさい! 謙作は部屋のものを投げつけ当たり散らす。

 

翌日

眼帯をした謙作が出社。「さあ、今日は契約ですよ、契約。がっちりトリオを組んで絶対駆け引きさせない線でいきましょうや、ハハハハハ…」

中田に目のことを聞かれると、結膜炎だと答えた。

 

田島家

繁は家を出て行こうとしていた。則子は裸足になって家を飛び出し、止めようとしたが繁は出て行った。家に戻った則子に律子はタオルを渡した。律子は則子と謙作がどうなったか聞き、則子は律子の体が何ともないか聞いた。

 

律子は相手の人のところに行くのか、お母さんがその方がいいなら応援するというが、則子はとっくに終わったことだという。家を出ていきたくないという則子。則子の浮気をかばう律子だったが、謙作を悪く言う律子を則子は止めた。

 

商談

カラ元気で話す謙作。途中から音声オフで主題歌が流れる。謙作は笑っているけど、両側に座る中田や宮部が手ごたえを感じてない表情をしてるのが何とも言えない。

 

則子はいつものように掃除機をかける。

 

修羅場。これ今の地上波で放送したら盛り上がりそう。やっぱり繁が非難されるかなあ。されるよねえ。別にやりようありそうだもんねえ。北川さんの平静さが恐ろしい今日この頃。