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【ネタバレ】別れて生きる時も 第三十六章「慟哭の妻」その三

TBS 1978年2月22日

 

あらすじ

美智(松原智恵子)は麻子を連れ、九州の海辺の村にかけつけた。南方へ送られる井波(中野誠也)は死を覚悟し、上官の命を破り妻へのメモを知人に託したのだ。親子三人わずか五時間の再会だった。 一年が過ぎたある日、美智は石山(速水亮)に会った。彼は松本(織本順吉)の軍需工場の担当将校だった。独身の石山に結婚を勧める美智。やがて井波の戦死公報がきた。

愛の花

愛の花

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2024.10.7 BS松竹東急録画。

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原作:田宮虎彦(角川文庫)

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井波美智:松原智恵子…字幕黄色

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松本:織本順吉

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吉岡俊子:姫ゆり子

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井波麻子:羽田直美

ナレーター:渡辺富美子

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石山順吉:速水亮

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音楽:土田啓四郎

主題歌:島倉千代子

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脚本:中井多津夫

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監督:八木美津雄

 

<この日、石山は、昨日起きた美智との再会が心から離れなかった>

 

療養所の石山の部屋

ノックして俊子がドアを開け、挨拶した。

 

俊子「お呼びだそうで」

石山「ええ、どうぞ。いや、特にお呼び立てするほどの用があるわけでもないんですが、昨日、あなたを見かけましてね。どなたかお子さんを連れた方とご一緒でしたが…」

俊子「ええ。昨日、お芋の買い出しに行ったもんですから」

石山「ご一緒だった方は、お友達か何かで?」

俊子「ええ、まあ、そうですけど。井波さんとおっしゃって近所の奥さんなんですよ」

石山「井波さん…」

俊子「井波さんが何か?」

石山「あっ、いえ。昔、よく知ってた方と似てたもんですから」

 

松本製作所

上着を脱ぎながら歩いてきた松本社長が、美智のいる部屋の窓を開けた。「全く情けなくなっちゃうよ。旋盤が故障しても、誰一人、直せるヤツがいないんだからね。私の作業服、取ってくれないか?」

美智「はい」

 

松本「麻子ちゃん」

麻子「はい?」

松本「お砂遊び、面白いか?」

麻子「うん」

松本「よかったね。ハハッ」

 

美智「はい、社長」作業着を渡す。

松本「はい」

 

美智「麻子、お山作ってごらん」

 

大日本帝国海軍の紺の制服と制帽姿の石山が松本製作所に現れた。海軍の制服は紺や白で陸軍のカーキ色とはまた違う趣がある。

 

砂場で遊んでいる麻子を見つけた石山が近づく。「お山、作ってんだね」

麻子「富士山」

石山「富士山。そう。おじさんも手伝っていいかな?」

麻子「うん」

石山「そう」手袋を外して山作りを手伝う。

 

やっぱり麻子ちゃんは「ほんとうに」の明ちゃんに似てると思うな。

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だんだん顔だけじゃなくしゃべり方も似てる気がしてきた。全然違ったら恥ずかしいけど。

 

石山「名前は、なんていうの?」

麻子「麻子」

石山「そう。じゃ、麻子ちゃんか」

麻子「そう」

石山「昨日、おじさんと会ったの覚えてる?」

麻子「うん」

 

仕事をしていた美智が窓の外を見て石山に気付き、外へ。石山も気付いて立ち上がるが、美智は無視。「麻子、こっち、いらっしゃい」

 

麻子は砂遊びを続ける。

 

美智「麻子、さあ、こっちへいらっしゃい」

 

石山「美智さん」

美智「お願いですから私たちに近づかないでください」

 

松本「石山中尉、石山中尉じゃありませんか」

 

美智は麻子を連れて立ち去る。

 

松本「いらっしゃるんだったら、前もって、そうおっしゃってくださればよかったのに。いや、あんまりみすぼらしい工場でびっくりなさったでしょう。さあ、どうぞ」

石山「いえ、今日は失礼します」

松本「せっかくいらっしゃったのに…さあ、どうぞ」

石山「いえ、今日は近くに用事があっただけですから。これで」去っていく。

松本「石山中尉」

 

しばらく石山を見送っていた松本社長は、窓の外を見ていた美智に気付いた。「あっ、美智さん、ちょっと」

美智「はい」

松本「石山中尉、どうかしたのかね。どうしたんだろう、おかしいな。いや、あの人はね、以前、うちの工場の監督をされてた人でね、ほら、この前、吉岡君の奥さんに仕事を世話してもらったのも、あの人の口利きなんだよ」

 

美智「石山さんは私が京都にいた時分、よく存じ上げていた方なんです」

松本「京都にいた時分?」

うなずく美智。

松本「美智さん、無理にとは言わないが、よかったら話してくれないか?」

美智「はい」

 

社長室に入ってきた松本社長と美智。

松本「いや、しかし、不思議な巡り合わせだね。石山中尉が美智さんの初恋の人とはね。しかしね、美智さん。人は誰だってね、若いときの心の痛みっていうか秘密っていうか、そういうものをしょって生きてると思うんだ。みんな、それを乗り越えて一人前の人間に成長していくんだからね。まあ、そこへかけなさい」

うなずく美智。

松本「その傷はね、美智さんだけにあるんじゃなく、石山中尉のほうにあるのかもしれないしね。まあ、こんなこと言うのはなんだけども、小野木なんかと違って石山中尉は立派な人のように思えるしね。まあ、そんなことはともかく美智さんは今、幸せなんだから。出征されて離れ離れになっていても、井波さんのようないいご主人がいるし、麻子ちゃんのようなかわいいお嬢さんがいるんだし」

美智「はい」

松本「ねっ、そう思ったら、そんなにメソメソなんかすることはないと思うよ」

美智「私、メソメソなんかしてません。ただ…あのころの自分があんまり惨めでしたから。社長のおっしゃるとおり、今はそれだけ幸せなのかもしれませんけど」

松本「うん。いい機会があったらね、私から石山中尉によくお話ししておこう。美智さんは今ね、いいご主人に恵まれて幸せに暮らしているって。そしたらきっと石山中尉も喜んでくれると思うよ」

美智「…」

 

松本「しかしね、石山中尉もびっくりしたろうね。こんな所で突然、美智さんに会えるなんて」

美智「実は昨日も偶然、買い出しに行く途中の駅でばったりお会いしたんです」

松本「ほう。じゃ、石山中尉は美智さんに会いに来たのかね。でも、ここは教えてないんだろ?」

美智「はい」

松本「じゃ、どうしてここが?」

美智「さあ…」

松本「うん。私に会いに来た様子ではなかったしね」

 

井波家

俊子「奥さん、こんばんは」

美智「はい。いらっしゃい、どうぞ」

俊子「いえ、純子が待ってますから。はい、これ角砂糖。また将校さんに頂き物しちゃったのよ」小さな紙袋を渡す。

美智「すいません、いつも頂き物を」

俊子「いいえ、はい。ねえ、いい話、聞かせましょうか。昨日、奥さんと一緒に買い出しに行くところをうちの将校さんに見られちゃったらしいの。そしたら、その将校さん、奥さんのこと、しきりに聞くのよ。昔、知ってた人によく似てるからって。でも、奥さんの話、したら人違いだって言ってたけど。きれいな人は得ね。フフッ。奥さん、器量よしだから、うちの将校さんのお目に留まったのよ、きっと。フフフフッ。じゃ」

美智「あっ、どうもすいませんでした」

俊子「おやすみなさい」

美智「おやすみなさい」

 

いつまでたってもお互いを”奥さん”呼びし合うよそよそしい2人。

 

<思いがけない形で石山が自分の身近にいることを知って、美智は大きな戸惑いを覚えずにいられなかった>

 

療養所

石山「じゃ、松本さんは自分が塩崎さんと…いえ、美智さんとどういう関係であったか聞いてくださったんですね」

松本「ええ、伺いました。美智さんとは、ひょんなことで知り合いましてね。私も震災で美智さんと同じ年頃の娘を亡くしたもんで、なんだか美智さんが自分の娘のような気がしましてね。井波さんとも私の印刷所で知り合ったし、私が仲人役を務めたし、まあ、そんなこんなで、ずっと親代わりのようにしてきたもんですから。しかし、偶然というのは不思議なもんですね。お話を伺ってびっくりしてるんですよ」

石山「松本さん、こんなことをお願いしていいかどうか…いえ、ほんとは美智さんに申し上げるのが筋道だと思いますが、会ってもいただけないでしょうし、また会ってくださいと言う資格が僕にあるとは思えません。松本さんは美智さんが一番信頼されてるお方だと聞いて、あえてお願いするんですが、前から考えていたことなんです。もし、美智さんにお目にかかれるときがあったら、一度は申し上げなければならない。それを松本さんには…」

松本「ちょっと待ってください。美智さんにお話しになるんだったら、やっぱりご自分でお話しになったほうが…」

石山「いや、しかし…そうかもしれませんね」

 

松本製作所

松本「私は、なにもね、立場上、石山中尉に会ってくれと言ってるわけじゃないんだよ。会いたくなかったら会わなくてもいいんだ。しかしね、石山中尉もだいぶ苦しんでおられる様子だったから、私もつい見かねてしまってね。まあ、昔の恋人同士が道ですれ違ったんなら、それだけで済んだのかもしれないが、たまたま私という人間が間にいたもんだから…石山中尉もね、あんたに会って特別な話があるというわけじゃないと思うんだ。しかしね、美智さん、これだけは聞いといてもらったほうがいいと思う。同僚の方から聞いたんだけどもね、石山中尉は今までにいろんな縁談があったそうだ。しかし、それを頑として受けつけなかったそうだ。まあ、戦争のさなかという事情もあるんだろうが、一生、結婚するつもりはないとおっしゃってね。これはね、私の勝手な想像なんだが、石山中尉がそう考えるようになったのもなんか心の傷があるからじゃないんだろうか。それもひょっとしたら美智さんのことが…ねえ、美智さん。思い切って石山中尉に会ってみたらどうかね」

美智「いえ、今更、お会いしても…」

松本「会って、早くお嫁さんをもらいなさい。そう言ってあげたほうがいいんじゃないのか?」

首を横に振る美智。

 

美智と石山の出会いが昭和15年、今は昭和19年か20年のはずだから、別れて何十年とかならまだしも、まだ石山はんだって20代前半あるいは半ばくらいなんだから、結婚してないとしてもそう急かすことはないと思うが。

 

井波家

外に出て洗濯物を干そうとしている美智。「麻子もお手伝いしてくれるんでしょ?」

麻子「うん!」

美智「じゃあね、次のを取ってちょうだい。はい、ありがとう」

 

洗濯物を干してる美智の背後に石山登場。「松本さんから今日はお休みだと伺ったもので…先日は失礼しました」

美智「こちらこそ」

 

結局勝手に来るんだね。

 

石山「こんにちは」

麻子「こんにちは」

石山「麻子ちゃんだったね」

麻子「うん」

石山「工場の砂場で富士山作ったね。覚えてるかな?」

麻子「覚えてる!」

石山「そう」

 

子供「麻子ちゃん! 麻子ちゃん、遊ぼう」都合よく友達が麻子を呼びに来た。

麻子「お母ちゃん、遊んでいい?」

美智「いいわよ。あんまり遠く行っちゃダメよ」

麻子「うん」

美智「仲よく遊ぶのよ」

麻子「うん」

 

石山「かわいいお子さんですね。おいくつですか?」

美智「3歳になります」

石山「松本さんからこちらの住所を伺いました。ご迷惑でしたか?」

美智「いいえ。どうぞ」

 

家に上がって茶の間の座布団を出した美智。「どうぞ」

石山「いいえ。あの…すぐに失礼しますから、こちらで」靴を脱いで家には上がらず、上がり框に座る。

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小野木が来たときと一緒。

 

美智「じゃ、これを」座布団を持ってきた。

石山「あっ、すいません。松本さんからは、いろいろ伺ってます。ご立派な方と結婚されたとか。うれしく思ってます。ご主人は今、どちらに?」

美智「よく分からないんですけど、南方のほうに行ってるようです」

石山「あっ、そうですか。早く戦争が終わって無事に帰られるといいんですが…」

美智「ええ」

石山「日本は資源の乏しい国ですからね、世界を相手にそういつまでも戦争が続けられるわけがない。我々の間でもそういう見方をする者が増えてます。帰ってくるまで、もう少しの辛抱だと思います。美智さん、僕が今日、お伺いしたのは一度は美智さんに会っておわびがしたい。そう思ってたからなんです。失礼な言い方だということは重々承知してます。僕がおわびしたいというのは、むしろ自分自身の弱さとか愚かさに対してなのかもしれません」

 

回想…お、小野木だ…

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小野木<<石山はん、あんたに言う必要もないことやけどな、念のため言うてあげまひょう。美智の母親、知ってますやろ? あの母親がなんでかわいい娘を捨てて満州に行ける思います? 私と美智が一緒になる、そういう約束ができてたからこそ、美智を1人残していかはっただけのことや。まだ女学校のことやったかいな。母親が私ん所に来て、犯罪者の娘やよって、嫁のもらい手もないさかい、私にもろうてくれ、そない頼まれましてな>>

石山<<いえ、美智さん、一度だって、そんなこと…>>

石山の父<<順吉>>

小野木<<第一、あんた、将来裁判官にならはるそうやな。どうどす? お父さん>>

石山の父<<そのとおりでございます>>

小野木<<裁判官にならはるくらいのお人やったら、よう知ってはるな? 犯罪者の娘とは結婚できんちゅうしきたりがあるっちゅうことを。あんた、それ知ってて美智に結婚する言わはったんか? それやったら結婚詐欺ちゅうやつやな>>

 

石山<<いや、僕は決して、そんな…>>

小野木<<私が言いたいのは、それだけやない。あんた、もっとひどいことしてはる。あんた、美智に何をしてくれた? よう傷物にしてくれはったな。そんな澄ましたツラしよって、ただで済む思うたら大間違いやで。人の許婚に手ぇつけたっちゅうことは人妻に手ぇ出したことより、もっとひどい罪になるんやで。ええか? 裁判所に訴えて、ちゃんと決着つけたるわ。裁判官になる? アホぬかせ。俺のほうがお前を裁判にかけたるわ>>

石山の父<<小野木さん、お腹立ちでしょうが、何分せがれは先のある身ですから、ここはひとつ…>>

小野木<<あんたかて同罪や。こんな息子さんを持って、よう校長先生が務まりますな>>

回想終わり。長いよ~。

 

石山「小野木に脅迫されて震え上がってる父が僕には哀れでならなかったんです」

美智「小野木は、そんなことまで…」

石山「だといって、私の裏切りが許されるわけではありません。あれ以来、罪の意識で苦しんできました。おわびします」

美智「なんだか遠い昔のような気がします。確かに石山さんのこと恨みがましく思ったときもありました。でも、お話をお伺いすると石山さんも私も苦しんだんですね。いえ、石山さんこそ随分、お苦しみになったに違いない、そんな気がします。私たちがお互いに苦しんだことは青春の懐かしい思い出。そう思っていいんじゃないでしょうか。それより石山さん、松本さんから聞きましたけど、いい縁談がおありになるとか。早く家庭を持って幸せになっていただきたいと思います」

 

長い沈黙のあと、石山は「じゃあこれで」と立ち上がった。

美智「なんのお構いもしませんで」

石山「いえ」

 

出ていく石山を呼び止めた美智。「石山さん。吉岡さんの奥さんのこと、よろしくお願いします。あの方には、とてもお世話になってるんです」

石山「はあ」立ち去る。

 

<美智の胸に切ない思いがこみ上げていた。しかし、それは、昔、感じたような石山への愛しさからではなく、彼は、やはり自分が信じたとおりの人だったというホッとした気持ちと懐かしさからであった>

 

洗濯の続きをする美智。(つづく)

 

回想多めだからエンディングの歌がないのかな。それを思うとやっぱり冒頭に毎回同じシーンはあったにせよ、「岸壁の母」は回想が少なかったように思うな~。

 

残りが7話。木曜日から最終週だね。結局、男が途切れないんだね~っていう感想になってしまうんだよね(-_-;)