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【ネタバレ】太陽の涙 #26(終)

TBS 1972年5月30日

 

あらすじ

小川(三島雅夫)は赤帽として生きていく。正司(加藤剛)や良子(沢田雅美)、勉(小倉一郎)がいる今、孤独ではない。正司と寿美子(山本陽子)は愛を育むだろう。勉も良子というよき友を得た。それらの人々の上に、太陽は輝く。

2024.4.23 BS松竹東急録画。

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はじめに戻りましょう

この人間喜劇は

太陽の前に顔を押え

嬉し泣きに泣いた

ある人生の

ささやかな挿話です

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1話の詩の後半部分と同じ。

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。20歳。

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

前田政代:村瀬幸子…寿美子の母。

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

*

篠田清:桐原新…宮沢泰子の夫の弟。

前田昭三郎:山本豊三…新作の三男。

*

前田賢一郎:小笠原良知…新作の長男。

前田竜二郎:早川純一…新作の次男。

女性:三島千枝…小川が世話になっている家の主婦。

*

板前:浅若芳太郎

看護師:坂田多恵子

仲居:小峰陽子

*

仲居:伊沢理恵

板前:大西千尋

仲居:大槻俊子

ナレーター:矢島正明

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。

*

小川:三島雅夫…1年半入院していた病院の主。

 

病院の売店

 

アイスコーヒー 60円

ミルクコーヒー 60円

おしるこ 70円

 

良子が看護師に760円のおつりを渡した。この看護師さんは何度か出演している坂田多恵子さんだろう。

 

店先に昭三郎が立って良子を見ていた。「何か差し上げましょうか?」と声をかけると、店に入って椅子に掛けた。

 

昭三郎はメニューを見て、良子に紅茶のレモンがないと言われるとコーヒーを注文し、小川さんという患者のことを聞く。

良子「ええ、よく、あの…来ましたけど、もう退院しちゃっていないんです」

昭三郎「えっ? いつ退院しちゃったの?」

良子「もう、ひと月半にもなりますけど」

昭三郎「そうか。退院しちゃったのか」

 

コーヒー ¥60

紅茶 ¥60

ジュース ¥30

 

紅茶とジュース安くなってる!?

 

良子「お知り合いですか?」

昭三郎「うん、ちょっとね」

良子「あっ、そうですか」

 

昭三郎「それでどこ行ったのか、君、知ってる?」

良子「ええ、この間の日曜日に会ったんです」

昭三郎「じゃあ、近くにいるの?」

良子「下曽我です。御殿場線の」

昭三郎「へえ、そんな所へ行っちゃったのか」

良子「でも、働いてる所は熱海です」

 

昭三郎「熱海? 熱海で何してんの?」

良子「駅にいるんです」

昭三郎「駅か。じゃあ、お弁当でも売ってるのかな」

良子「いいえ、赤帽さんしてます」

昭三郎「赤帽? あの荷物提げてる?」

良子「ええ」

 

今ならこんなにペラペラしゃべっちゃいけないんだろうけどね。

 

鉄板焼き屋「新作」厨房

新作の後ろに映る若い男性が大西千尋さんかなあ?

 

寿美子は忙しく働き、新作にうちへ帰って昼寝してきたら?と言う。寿美子につきあって毎晩遅くまで飲んでいる。「兄弟」の紀子もだけど、寿美子もかなりの酒豪。

 

新作「やれやれですよ。やっとあしたが日曜日で」

寿美子「あら、そうだったかしら」

新作「何が、あらだ。指折り数えてたくせに。おかげでこっちはひどい目に遭ったよ」

寿美子「じゃあ、もう一晩ね。今晩は眠れるかしら」

新作「冗談じゃありませんよ。それでまたあしたは、いなり寿司でしょ?」

寿美子「ええ、そうよ。そうそう、おいなりさんの中へ酢蓮(すばす)入れたらどうかしら?」

新作「何が酢蓮だ」

 

厨房の電話が鳴る。新作が出ると、井上のおばちゃんからだった。

 

新作のマンション

先に入った新作が寿美子にスリッパを出した。「なんですか、その情けない顔は。また次の日曜にすりゃいいでしょ?」

ため息をついてソファに掛ける寿美子。

 

台所からお茶セットを手にする新作。「あっ、お茶よりもコーヒーを入れようか。おいしく入れてやるよ」←マメマメしいなあ。

寿美子「ブランデーのほうがいいわ」

新作「何を言うんですか、お前は。しかたがないでしょう。及川さんにだって都合はあるんだから」

寿美子「都合なもんですか。私と一緒に行きたくないのよ」

新作「すぐそんなふうにひがむんだから」

 

寿美子「ひがみたくもなりますよ。この間の日曜日だって、そう。それでまたあしたですからね」

新作「うん。そりゃ、まあがっかりするのは分かるけど…」

寿美子「飲みますからね、ブランデーを」

新作「ああ、少し酔って寝るんだな。寝不足ですよ、お前は。だからプリプリするんですよ」

寿美子「お父さんはプリプリしないんですか?」

新作「しませんよ、私は」

寿美子「娘の私がこんなひどい目に遭ってるのに?」

 

新作「いや、及川さんにはちゃんとした理由がありますよ」

寿美子「飲むんでしょ? お父さんも」ブランデーグラスに注いでいる。

新作「しかたがないよ。つきあってやるよ」

寿美子「ちっとも親身じゃないんだもん」

新作「そんなことありませんよ」

 

寿美子「はい、乾杯」

新作「乾杯はないだろ?」

寿美子「もうさっぱりしたの。これほどはっきり失恋すれば、もう思い残すことはないわ」

新作「考えすぎですよ、お前の」

 

ブランデーを飲んで苦い顔をする寿美子。

 

はつのアパート

老眼鏡をかけているはつが電話をしている。「ええ、ええ。ですけどね、こればっかりはしかたがないでしょ? 急にヨーロッパ行くことになったんですもの。それに引っ越しでしょ。あしたの日曜日しかないんですよ。引っ越しするのは。そうですよ、団体を連れていくのは忙しいんですよ、発つ前が」

 

アパートの玄関ブザーが鳴る。「あっ、ちょっと待ってちょうだい。誰か来たようだから」

 

玄関ドアを開けたはつの表情が明るくなる。「どなた? あら、いらっしゃい」

笑顔の正司。「こんばんは」

はつ「どうぞ上がってちょうだい。今、ちょうど分からず屋の親父と電話で話してたんですよ。(再び受話器を取り)もしもし。今、ちょうど正司さんがみえたんですよ。出てもらいましょうか? ええ、そのほうがいいですよ」

 

はつから新作の電話に出るように言われた正司は「でも、困っちゃうなあ」と困惑。会ったこともないと言うが、はつから雑でそそっかしい親父さんですけどねと紹介され、電話に出る。

 

正司「及川正司です。はじめまして、どうも」

新作「いやいや、わたくしは、あなたのことはよく存じ上げているんですよ。いや、いやいや、こちらこそ、どうぞよろしく」

正司「どうも申し訳ありません。いろいろ予定が狂ってしまいまして」

新作「そうでしょう? お忙しいんでしょう? いや、娘がどうも何しろあなたに夢中なんですよ」

 

赤チェックパジャマの寿美子が起きてきた。「そんな変なこと言わないでちょうだい」

新作「いつの間に起きてきたんだ」

寿美子「及川さんでしょ? ちゃんと分かるわよ、寝てたって」

新作「ああ、もしもし、失礼しました。今、寿美子が起きてきましてね。酔っ払って寝ていると思ったもんですからね」

寿美子「お父さんったら」背中をバシッと叩く。

新作「痛いよ、お前は」

 

受話器の向こうで揉めてるのが聞こえ、正司は戸惑う。

 

新作は寿美子に出るように言うが、寿美子は出ない。はつが受話器を持って聞いていると、新作が話し始めた。「寿美子がは恥ずかしがっていましてね」

寿美子「いいのよ、そんな余計な」

新作「とにかく井上のおばちゃんから聞いたでしょ? もっとも、あのおばちゃんは早とちりですからね。ええ、それにちょっとそそっかしいところもあるし」

 

はつ「まあ…」

正司「どうかしたんですか?」

 

新作「そんなことでいろいろゴタゴタしましたけどね」電話が切れてしまった。

 

はつ「どうして私が早とちりでそそっかしいんですか。一生懸命でしたよ、私は。それをゴタゴタしたのは向こうのほうじゃありませんか」

正司「今もゴタゴタしてましたからね」

はつ「そうですよ。あした寿美子さんが1人で行くんですって。それなら勝手に行かせればいいでしょ」

 

再び着信音が鳴るが、はつは出ようとしないので、正司が出ようとする。

はつ「でも、出たら、断るわけにはいきませんからね。どうも話はそこまでいきそうですからね」

正司「そうか」

はつ「そのつもりでないとね」

 

着信音がやむ。

はつ「諦めたわ、ハァ~」

正司「諦めたほうがいいのかな」

 

新作のマンション

新作「引っ越しとヨーロッパ行きか。どうもこの話は初めっからスラスラいかないよ」

寿美子「ヨーロッパ行けば3週間ね」

新作「それからになるんだな。下曽我へ行くのは」

寿美子「いいえ。私1人でも行きます、あした」

新作「1人で行ったってつまらないだろ?」

寿美子「つまらなくたって、しょうがないわ」

 

新作「そうだ、そうだよ。お前はヨーロッパ行けばいいんだよ。その団体に入って」

寿美子「えっ? 私も?」

新作「そうだ、それがいい。そのほうが手っとり早いよ」

寿美子「いいの? 行っても」

新作「いいに決まってるよ。もう一度電話をかけてくる」

 

寿美子「ちょっと待って、お父さん。よします、私」

新作「どうして?」

寿美子「イヤです。そんな押しつけがましいこと」

新作「かまわないじゃないか、そんなこと」

寿美子「だって分からないんですもん、及川さんの気持ちが」

 

お金持ちっていいね!

 

正司のアパート

あねさんかぶりで本の束にはたきをかけるはつ。「それにしても勉さん、どうしたんでしょう? 肝心なときに来ないなんて…」

正司「寝坊したのかな」

はつ「まさか引っ越し先へ行ったんじゃないでしょうね」

正司「いいえ、こっちへ来るって言ったんです」はつからはたきを受け取る。

はつ「これで運送屋さんが来たらおいてきぼりですよ」頭の手ぬぐいを外す。

 

正司「少し遅れるって言ってましたから」

はつ「やれやれですね。この部屋も住めば都でお名残惜しいでしょ?」

正司「そうですね。いろんなことがありましたからね」

はつ「お父さんと一緒に引っ越しできたら、どんなによかったでしょう。こんな暗い部屋で正司に気の毒だなんて、しょっちゅう言ってましたものね」

正司「いいえ。我慢してくれたのは父のほうですよ。こんな一間の中に一日中いたんですからね」不意に涙がこみ上げ、はつの入れてくれたお茶を飲む。

 

この顔がまた、カッコいいのよ。

 

はつ「いよいよ、この部屋ともお別れ。苦労しましたよね、お父さんも」立ち上がり、仏壇の前へ。

 

正司は手で顔を覆う。

 

鈴を鳴らし、手を合わせるはつ。

 

正司は姿勢を正す。「おばちゃん。いろいろありがとうございました」と手をつく。

はつ「いいえ。お礼を言われるようなことじゃないんですよ。私は好きでしたんですからね。お父さんが好きでしたからね」

正司「どんなに慰めになったか知れないんです。独りぼっちで寂しいことが多かったですから」

はつ「考えてみれば、私だって独りぼっちですよ。息子や嫁や孫がいたって同じことです。なまじっか期待しないほうがいいと思って、それでアパートへ一人暮らししたんですからね。ダメですね、身内って。赤の他人のほうがよっぽどいいですよ。自分の得になることは当たり前で、そのくせ、赤の他人より冷たいときがあるんですからね。勝手ですよ。もっとも勝手なことが言えるから身内なのかもしれないけど。フフフ」

 

正司「奥さん、あの…これからも身内だと思って、よろしくお願いします」

はつ「何を言ってるんですか。さっきはおばちゃんでもう奥さんなんだから」

正司「ハッ、そうか。すいません。気持ちではおばちゃんなんだけど」

はつ「そんならそう言ってくださいよ」

 

勉「うわ~、遅くなっちゃった。おばちゃん、すいませんすいません。これでも急いだんだけどね」

はつ「ほら、こういうふうに言ってもらわなくちゃ」

正司「じゃ、引っ越しを記念してそうしますか。ハハハッ」

 

勉「一体、なんの話?」

はつ「あんたはね、いい子になったんですよ」

勉「へえ~、いい子か。ハハッ」

正司「今頃まで寝てたのか?」

勉「とんでもない。職探し、職探し。おばちゃん、すいません、お茶をね」

はつ「お茶はいいけど、なんだってこんな日に職探しに行ったの?」

 

勉「日曜日でなきゃ親方がいないんですよ」

はつ「えっ? 親方?」

勉「そう、親方がね」

正司「なんだ? 親方って」

勉「決めたんだ。タイルにね。タイルの職人になるよ、僕は」

 

はつ「それを頼みに行ってきたの?」

勉「うん、そう」

正司「少しとっぴじゃないか?」

勉「とっぴなもんか。大穴だよ。もうこれからは腕に職がなきゃダメじゃないの?」

 

正司「おばちゃん、どうだろうね?」

はつ「とってもいいわよ。あんた、いつの間にそんなに偉くなったの?」

勉「病院かな」

はつ「病院は頭じゃなくて足でしょ」

勉「フフフッ」

 

正司「違うんですよ。病院は病院でも売店なんですよ」

勉「まあね、ぴったりかな」

はつ「じゃ、あんた、おいなりさん食べて狐が憑いたんでしょ? フフフ…」バシッと勉の肩をたたく。

勉「痛いなあ」

正司「狐さまさま。そのお狐さんがよっちゃんかな?」

勉「はっきり言うなったら」

はつ「ステキよ。あの子なら絶対よ。偉いわよ、あんた」

勉「分かった、分かったよ」

 

正司「じゃあ、お父さんに報告したらどうだ?」

勉「あっ、そうだ。報告、報告。だけど、よっちゃんはどうしたの? まだ来ないの?」

はつ「とっくに来ましたよ」

正司「掃除に行ってもらったんだ。おばちゃんとこのケン坊と」

勉「ああ、そうか」

 

はつ「あんた、ホントにしっかりしなきゃダメよ」

勉「します、します。今、仏様に約束するからね」

はつ「正司さんもホッとしたでしょ?」

正司「ええ、おかげさまで」

 

鈴の音がする。

 

はつ「あとは自分のことだけね」

正司「まあ、そうなんだけど…」

 

手を合わせ終わった勉が振り返る。「前田さんはどうなの? 寿美子さんは」

はつ「ねっ、そうでしょ?」

勉「うん、いいと思うけどな。お金はあるし、器量はいいし」

はつ「気持ちだって優しいんですよ」

正司「ええ、そうだと思うんです」

はつ「じゃあ、考えることないじゃないの」

勉「そう簡単にいかないのかなあ」

はつ「混ぜっ返しちゃダメですよ」

 

正司が玄関先に目をやると花束を持った清が立っていた。「こんにちは」

正司「なんだ、また来たのか、君は」

清「引っ越しですか?」

正司「忙しいんだよ、座る場所もないしね」

清「いいえ、すぐ帰ります。ただちょっと見てもらいに来たんです」

正司「何を見るの?」

 

廊下のほうを向いた清。「来なよ。いいんだよ、来なよ。恥ずかしがってるんです」

はつ「どうぞ。かまいませんよ」

清「あっ、セイ子さん、待ちなったら。逃げていっちゃったんです。彼女、純情なんです。あっ、これ、どうぞ。失礼しました」花束を置いて出て行く。

 

しかし、清が廊下で転ぶのを玄関まで出た勉が目撃した。

 

はつ「誰なの? あの人」

勉「廊下が濡れてたもんだから滑っちゃったよ。夢中だね、彼氏。かわいいじゃないの、こんな花、持ってきちゃって」赤いカーネーションと白いカーネーション

正司「あれが青春だよ。夢中で追いかけてさ」

はつ「ああ、あの人なの? 泰子さんのご主人になった人の弟さん」

正司「ええ、そうです」

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そうだよ、スターサファイア見せながら話をしたんだもんね。

 

はつ「その人が恋人を見せに来たのね」

正司「迷ってんたんですよ」

勉「何を?」

正司「自分でも不安だからさ、愛していけるかどうか」

勉「なんだ、そんなことか」

 

はつ「そんなことかって、あんたはどうなの?」

勉「もちろん」

正司「もちろん愛していけるよな?」

勉「まあ、任しといて」

はつ「あんたは調子が良すぎるから心配なのよ」

勉「大丈夫だよ。偉くなったんだよ、僕だって」

 

正司「おばちゃん。おばちゃんにね、もらってもらいたい物があるんだ」仏壇の下の引き出しからなにやら取り出す。「父もお世話になったし、これから僕たちがお世話になるし」スターサファイアの指輪!

 

おばちゃんに渡すのが一番いいね。寿美子はもちろんダメだし、かと言ってよっちゃんってわけにもいかないし。

 

「新作」に集まる前田一家

新作「なんだと? 調べた?」

賢一郎「とにかく1年半も入院してたあげくに今度は足をねんざして他人の家にやっかいになってるんですからね」

新作「それがどうしたっていうんだ?」

賢一郎「それじゃ困るでしょ?」

政代「困るんじゃありませんよ。真っ平ですよ。前田家をなんだと思ってんでしょうねえ」

竜二郎「そういう人の息子じゃ情けないですよ、僕たちとしても」

昭三郎「寿美子だってかわいそうですからね」

 

新作「バカ者」

寿美子「一体何を調べたの?」

昭三郎「何をって病院の売店に行ったんだよ」

寿美子「ああ、だから…」

 

政代「だから、じゃありませんよ。なんですか、こんな所へ通して、お茶1杯も出さないで」

新作「犬だって残飯ぐらいは出るからな」

賢一郎「お父さん」

竜二郎「その言い方はあんまりじゃないですか」

昭三郎「とにかく重大な話だから、わざわざ来たんですからね」

新作「お前たちの重大なことはバカの一つ覚えだ」

政代「頭が悪くて頭取になれなかったのは誰でしょうね」

 

新作「フン、そんなもの。こっちから蹴っ飛ばしてやったんだよ」

賢一郎「相変わらずだな」

政代「負け犬の強がりですよ」

 

新作「とにかくはっきり言っておこう。あした、家庭裁判所へ持ち出すよ。お前たちとは離縁だ。寿美子の結婚の邪魔になるからな」

竜二郎「邪魔ですって?」

賢一郎「前田家の我々が邪魔なんですか?」

新作「ああ。猫や杓子だって役に立つからな」

政代「ええ、結構でございますね。あたくしのほうもそのほうがサバサバしますからね」

 

寿美子「お父さん、勘違いしてるんですもの。小川さんのことははっきり言えばいいのよ。病院の売店で聞いてきたことは大間違いですからね」

新作「待ちなさい、寿美子」

寿美子「だって…」

新作「お前は小川さんの息子さんと結婚するんだ。秀行さんとな。赤帽さんの息子さんだって結構だよ。こんなヤツらよりは数等、人間らしいよ」

 

電話が鳴る。

 

寿美子「ええ、そう、私だって…」

 

賢一郎「お母さん、帰りましょう」

政代「とんだ田舎芝居でしたね、ハハハ…」

新作「今どき田舎芝居だって鬼ババアは出ませんよ」

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この映画と同じ展開来たー! 新作は旧姓に戻すんだろうな。

 

厨房の電話に出ている寿美子。「ええ…あっ、ええ。じゃ、すぐ行きます。はい」

新作「すぐ、どこ行くんだ?」

寿美子「秀行さんから電話があったの。これからすぐ行こうって」

新作「こら、いなり寿司はどうするんだ?」と言いつつ、笑顔。

 

新幹線に乗り、あっという間に下曽我へ。正司と寿美子はタクシーを利用して道を聞きながら、小川の住んでいる家へ。

 

女性「ついさっきまでいらしたんですけれど、少し歩けるようになったもんですから足の練習でその辺へ散歩にいらしたんじゃないですか」

正司「そうですか。どうしましょうね」

女性「私が見てきましょうか」

正司「いいえ。僕たちで捜してみます。(寿美子に)ねっ? そのほうがいいね」

寿美子「ええ、じゃあ、それ預かっておいていただいたら」

正司「あっ、そうだ、奥さん。これ、駅のいなり寿司なんですけど預かっといてください」

女性「はあ、どうぞ」

正司「じゃ、いってきます」

寿美子「また後ほど」

 

今度は歩いている。いや~、絵になる。

 

寿美子「あの…お願いがあるんですけど」

正司「えっ? なんですか?」

寿美子「来週でしたね、ヨーロッパへいらっしゃるのは」

正司「ええ、そうですよ」

寿美子「あたくしもその団体へ入れていただけないでしょうか?」

正司「ええ、大歓迎しますよ」

寿美子「ああ…うれしいわ。お願いします」

正司「いや、こちらこそ、お願いします。商売ですからね」

寿美子「あっ…フフッ」

 

やだっ、正司ジョーク(ハート)

 

古い木造の小学校

オルガンで「歌を忘れたカナリヤ」を弾いている音が聴こえる。

かなりや

かなりや

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男性がオルガンを弾いていて、小川が椅子に掛けて聴いている。このオルガンを演奏してる人って木下忠司さんじゃないよねえ?

 

オルガンの音に合わせて口ずさむ小川。

♪ぞうげの船に 銀のかい

月夜の海に 浮か…

 

ふと校庭に目をやる。

 

小学校の校庭に入ってきた正司と寿美子。

正司「きっとあの歌のとこにいるんですよ」

寿美子「『歌をわすれたカナリヤ』ですね」

正司「僕がベニスから絵葉書を出したとき、いつか一緒にゴンドラへ乗りましょうって書いたんです」

 

小川「ああ…」急いで窓のほうへ移動し、手を振る。

 

正司「あっ、やっぱりいましたよ。小川さん!」

 

小川はオルガンを弾いてくれた男性に「すいません。ありがとうございました」と出て行こうとしたが、引き返し「この歌のおかげですよ。ベニスから息子が来たんですよ」と出て行った。

 

「秀行! 秀行! 秀行!」と叫びながら正司に抱きつく小川。

 

天気雨が降りだす。

 

正司「小川さん」←ここで”お父さん”と言わないのが正司さん。

小川「えっ?」

正司「一緒にベニスへ行きましょう」

小川「えっ?」

正司「ゴンドラに乗るんですよ、約束したでしょう、僕が」

 

今度は顔を手で覆い、泣きながら座り込む小川を支える正司と寿美子。小川さん、下駄であんなに走ったのか!?

 

こんな雨を狐の嫁入りと人は言います。でも、今日の雨は、まだ地球の片隅に残っていたささやかな愛情に、つい太陽も涙を落としたのではないでしょうか。

 

新しいアパートにいる勉と良子。2階の角部屋。日当たりもよさそう。

勉「よかったね。お天気が良くて」

良子「今頃、小川さん喜んでるでしょうね」

勉「いいだろうな」

良子「えっ? 何が?」

勉「こういうアパートでさ…」

良子「こういうアパートでなんなの?」

勉「まだ先の話だけどね」

良子「そうね。まだ先の話ね」

ベランダから空を見上げる勉と良子。(終)

 

ラストシーンが勉と良子ってなんかいいね。いや~、よかったよ。小川さん、ほんとによかった。木下恵介アワーでまた好きな作品が増えた。

 

1つ気になることは、正司の実父である高行の扱いがちょっとかわいそうだったかな。

 

時系列の整理

「太陽の涙」初回は1971年12月7日(火)なので、仮に12月7日と設定。

正司はベニスに行く前に勉に会いに病院に来て、小川に会う。

 

2話(1971年12月14日(火))

小川は”昨日”出会った正司と何やら約束をした。正司は3週間のヨーロッパ団体旅行の添乗員としてベニスに出発。ドラマ内は1971年12月8日(水)

 

3話(1971年12月21日(火))

正司がベニスで絵葉書を書く。

 

4話(1971年12月28日(火))

ベニスからの絵葉書を心待ちにする小川。正司はローマで泰子と再会。

 

5話(1972年1月4日(火))

泰子が、あしたの飛行機で帰国し、お正月は日本だと発言。まだ年末くらい?

ベニスから絵葉書が届く。小川の後ろのカレンダーは1月2日(日)。

 

6話(1972年1月11日(火))

正司帰国。翌日、病院へ行き、寿美子と出会う。3週間前に出会った小川を思う正司。

 

7話(1972年1月18日(火))

正司と寿美子がタクシーに乗り合う。正司は、その夜、スナックに足を運ぶ。6話と7話は同じ日。

 

8話(1972年1月25日(火))

正司がスナックに行った翌日、高行がのり巻きを作って勉の病院に届けさせた。今日とあしたが休みだという正司は泰子と再会。

 

9話(1972年2月1日(火))

堀さんの調子が悪い。売店で小川、勉、寿美子が偶然、顔を合わせる。夜、正司と良子は喫茶店で会い、良子が正司に小川の息子のふりをしてほしいと頼む。

 

10話(1972年2月8日(火))

寿美子と顔を合わせた翌日に、あした退院だという勉。堀を亡くして泣いている小川の病室に息子のふりをして励ます正司。

 

11話(1972年2月15日(火))

勉、退院の日。9話で良子と正司が会ったことが2日前のこと。9~11話で2日しか経ってない。

 

12話(1972年2月22日(火))

正司、良子、はつが待ち合わせて「新作」へ。11話と同じ日。売店に来た寿美子は、翌日以降。

 

13話(1972年2月29日(火))

矢場退院。小川を見舞った寿美子が正司がしばらく来てないという話をしている。

 

14話(1972年3月7日(火))

あと2日で3月というセリフから1972年2月27日(日)であることが分かります。正司が小川を見舞い、正司が帰った後、寿美子が病院へ。

 

15話(1972年3月14日(火))

日曜の昼、勉を起こすはつ。正司と良子は銀座で清に会う。14、15話は同じ日。

 

16話(1972年3月21日(火))

翌日、はつのアパートに行って寿美子の話をする新作。正司と泰子の再会。さらに翌日、はつが小川に会いに来たのだとしたら、16話は1972年2月29日(火)。

 

17話(1972年3月28日(火))

前回と同じ日、病院に行ったはつは新作のマンションへ。良子は店を早じまいして、勉のアパートに行き、正司と会う。正司は、はつのアパートへ。

 

18話(1972年4月4日(火))

正司が”昨日”の話し合いの後、昼に会社を抜けて売店へ来て、これから小川と話をするという。18話は1972年3月1日(水)。

 

19話(1972年4月11日(火))

前回と同じ日。小川と話をした正司は病室へ行き、またベニスに行くとあいさつ。家に帰り、「信濃路」に電話して、高行がいることを確認して出かけた。はつに会いに寿美子も来店していた。

 

20話(1972年4月18日(火))

また同じ日。正司は「信濃路」から帰宅。清からの電話。寿美子が小川を見舞い、36個のいなり寿司を買って帰る。良子が「新作」に半月前に行ったと語る。はつからすべてを聞く新作。翌日の昼時、清に会うために出かけた正司。ラストは1972年3月2日(木)かな。

 

21話(1972年4月25日(火))

清と会った正司。同じスーツで仕事してるところを矢場に目撃されたから同日なんだろう。その足で病院へ行った矢場も同日としたら、1972年3月2日(木)。

 

22話(1972年5月2日(火))

夜、はつのアパートに行った正司。翌日(1972年3月3日(金))、はつは新作のマンションに二日酔いで行く。病院へ行った寿美子が良子に真実を聞かされ、小川に会わずに帰る、退院する小川、高行が倒れたのもみんな同じ日と思われる。

 

23話(1972年5月9日(火))

高行の命日が1972年3月3日(金)とすると、四十九日は1972年4月20日(木)だけど、ドラマ内はもう5月になっている模様。ちょっと日付がずれるね。正司は高行が亡くなって、約1カ月ぶりで良子に再会。熱海駅で、はつが小川を目撃した。

 

24話(1972年5月16日(火))

熱海から帰った翌日?売店の良子の元を訪れた寿美子は、その足で熱海へ。正司と偶然再会する。その日が金曜日で日曜日にまた会う約束をする。例えば、この金曜日を1972年5月5日とする。

 

25話(1972年5月23日(火))

日曜日、正司からドタキャンされた寿美子。勉と良子が小川を訪ねた。前回からの流れだと1972年5月7日(日)。

 

26話(1972年5月30日(火))

翌週日曜日。正司は引っ越し作業。1972年5月14日(日)。大安。

 

まあ、どこもかしこも全然合ってないのかもな(^-^; ただ、正司と秀行が同一人物であることをバラすバラさないみたいなのは、何週にもわたって描かれていたけど、案外ドラマ内時間は数日の出来事だったのです。相当ヤキモキしたけどね~。

 

小川役の三島雅夫さんは、このドラマから約1年後の1973年7月にお亡くなりになったそうで、「太陽の涙」以降は、ほぼ同時期にTBSで放送されていた「知らない同志」、テレ朝の「出雲の阿国」「黄色いトマト」というドラマに出演。「黄色いトマト」が遺作となったみたいです。

 

「知らない同志」TBS/1972年2月24日~1972年6月29日

山田太一さん、ジェームス三木さんなどが脚本で、田宮二郎さんが主演、杉浦直樹さん、栗原小巻さんが夫婦役、山本陽子さんがホステス、賀原夏子さん(「3人家族」の敬子の母)など共演。木下恵介アワー出演者が多くて面白そう。山本陽子さんもこのドラマと掛け持ちだったのか。「高原へいらっしゃい」の元になったような話らしい。

 

出雲の阿国」テレ朝/1973年1月1日~1973年4月16日

有吉佐和子原作で2006年にもNHKでドラマ化されている。進藤英太郎さん、小夜福子さんの名前もあった。時代劇。

 

「黄色いトマト」テレ朝/1973年5月17日~1973年8月30日

このドラマ、なんと加藤剛さんと江利チエミさんのラブコメディ! 加藤剛さんはフランス料理のコック。三島さんは大工で江利チエミさん演じるヒロインの父の友達。杉浦直樹さん、沢村貞子さん、東山千栄子さん…杉浦直樹さんは次の再放送作「わが子は他人」にも出るけど、大忙しだね。加藤剛さんと三島雅夫さんは木下恵介劇場の「今年の恋」でも共演してるんだな。

 

三島雅夫さんは私が生まれる前に亡くなったというのもあり、木下恵介アワーを見なければ知らない役者さんだった。その後、古い映画にもたくさん出ていることが分かったけど、もっと長く見たかったなあ。

 

そして、この「太陽の涙」や「3人家族」「あしたからの恋」「二人の世界」などの監督で名前をよく見かけた川頭義郎さん(川津祐介さんの実兄)も1972年末に46歳で亡くなってる。だから、1973年スタートの「思い橋」には名前がなかったんだと思うと顔を知ってるわけでもないのに寂しく思う。

 

「おやじ太鼓」17話。三保の松原回。若者たちは歌を歌う。

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18話は神尾の祖母初登場回。「東京物語」の優しいお母さん、東山千栄子さん。

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「わが子は他人」シリアスそうだから、気が早いけど次は「幸福相談」を願う!

【ネタバレ】太陽の涙 #25

TBS 1972年5月23日

 

あらすじ

正司(加藤剛)と一緒に小川(三島雅夫)の見舞いに行く日、寿美子(山本陽子)は朝早くからいなり寿司作りに大わらわ。しかし、正司に仕事が入り延期に。その頃、良子(沢田雅美)と勉(小倉一郎)が小川のもとを見舞いに訪れていた。

2024.4.22 BS松竹東急録画。

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ある日少年は

青空を見つめていて

悲しくなりました

何処まで行っても

果しない宇宙の

その恐ろしさに

 

青年になったとき

彼はふとその恐さを

思い出しました

愛しても愛しても

遂に恋人は他者である

その空しさに

 

でも、ある日

夕陽を見つめていて

楽しくなりました

もう傷つくことのない

永遠の愛のうれしさに

その時、老人でした

 

及川正司:加藤剛…添乗員。33歳。字幕黄色。

*

前田寿美子:山本陽子鉄板焼屋「新作」の娘。25歳。字幕緑。

*

池本良子(よしこ):沢田雅美…病院の売店の売り子。20歳。

*

及川勉:小倉一郎…正司の義弟。20歳。

*

女性:三島千枝

ナレーター:矢島正明

*

井上はつ:菅井きん…そば屋「信濃路」の女将。

*

前田新作:浜村純…寿美子の父。「新作」マスター。

*

小川:三島雅夫…1年半入院していた病院の主。

 

日曜日の早朝。寿美子が新作を起こす。新作は家の中でかぶっていたのはナイトキャップだったのかな?

 

寿美子「まるで誠意がないんだから。私なんて、もう1時間も前から起きてるのよ」

 

新作がベッドサイドの時計を確認すると、まだ6時半。寿美子はとっくにご飯は炊けていると手伝うように言い、たばこを吸おうとする新作を止める。

 

新作「ああ…一服しないと目が覚めないんですよ」

 

「おやじ太鼓」の武男もだけど、枕元でタバコ吸うのは危ないと思う。

 

寿美子「お父さん、起きたでしょうね」

新作「起きましたよ。寝ていられますか、あれで」

寿美子「じゃあ、ぼさぼさしてないでこのうちわであおいでちょうだい」

新作は椅子に掛けて、うちわで仰ぎ始める。「ひどいもんだ。苦いお茶どころじゃないじゃないか」

寿美子「ブツブツ言わないの」

新作「お前ときたら朝っぱらからすることが大ごとですよ」

寿美子「ダメよ。もっとパッパとあおがなきゃ」

 

同じことだと言う新作に「立つの、立つの。腰掛けててあおげますか」と立たせる寿美子。

新作「えらい迷惑な話だ」

寿美子「それもこれも娘のためですからね。愚痴なんかこぼさないの」

新作「こんな面倒くさい。いなり寿司ぐらい東京駅でも売ってるのに」

寿美子「いいの。黙って、あおいでてくれれば」

新作「フラフラするよ」

 

寿美子「やっぱり年なんですかね。これぐらいのことで」

新作「疲れますよ、手が」

寿美子「じゃあ、手をかえたらいいでしょ」

新作「まるで親を虐待するようなことを言うんだから」

寿美子「たまよ。そのうちうんとかわいがってあげる」

新作「さてさて、いつのことですかな」

 

寿美子はお茶の缶のところにあるゴマを取るように言い、新作にふりかけてもらう。「いや、ゴマは栄養があるんだからな。多すぎてもいいだろ?」

 

しかしなあ…と「このごろは黒ゴマだって染めるんだからな。栄養になるんだか毒になるんだか」と心配し始める新作。

寿美子「イヤなこと言わないでちょうだい。さんざん入れちゃってから」

新作「いや、そういうものなんだよ。さんざん食べさせておいて、あとでこれは毒だったって言うんだから」

寿美子「このゴマ、お店から持ってきたんですからね」

新作「それだって危ないもんだよ」

寿美子「ん~、イヤなこと言わないでちょうだいったら」

 

ちょっと一服。新作は天気を気にする。

寿美子「曇ってるようだけど、晴れてくるでしょ」

新作「イヤな空だな」

寿美子「晴れるわよ。きっと晴れてくるわ」

新作「さあ、どうかな。今にも降りだしそうな空だけどな」

寿美子「イヤなお父さん。人が喜んでるのにいちいちケチをつけて」絶対晴れると信じている。

 

新作「そりゃお父さんだって、そう願うさ。とにかくお前の思いが叶うかどうかっていう大事な日だからな」

寿美子「そうよ。やっとたどりついたみたい」

 

11時の待ち合わせだけど、寝ていられなかった寿美子。

新作「下曽我か。お父さんも一緒に行きたいようなもんだな」

寿美子「そうね。ちょっと心細いわ」及川さん、私をどう思っているかしらと気にする。秀行さんだと気が楽だけど、及川さんだと困っちゃう。

 

電話の着信音が鳴る。新作が出ると、はつだった。はつもまだ寝巻き姿。団体を連れて九州に行っていたガイドが病気になったため、正司が急に交代することになり、鹿児島に向かっている。

 

私、一人でも行くという寿美子。外は雨が降りだした。

 

寿美子「いいの。もとはといえば、みんな私が悪いんだから」とがっかり。新作は「お父さんがいなり寿司を作ってやろう」と手を洗って作りだす。

 

正司も今日の空のような気分でした。降るならいっそサッと気持ち良く降ればいいのに、じっと目を凝らさなければ見えないようなかぼそい雨なのです。そうかといって、青空が見えてきそうな希望は、まったくないのです。好きな人なのか遠ざかろうと思う人なのか正司自身にも自分の気持ちがはっきり捉えられないのです。なまじっか今日会えなかったことは中途半端な気持ちで会うよりもよかったのかもしれないとさえ正司は思ったのです。

 

飛行機の座席の正司を左斜め前、正面、横顔とあらゆる角度から撮っても美しい。

 

はつのアパート

勉と良子が来ていた。勉はこれから映画へ行こうかと思ったが、その前に何か食べようとはつのアパートに寄った。

 

はつ「だって、たまに2人で出たんでしょ」

勉「日曜日だもんね」

はつ「それなら渋谷だって有楽町だって、おいしい物はいっぱいあるでしょ」

 

勉はおばちゃんにごちそうになったほうが儲かるという。

はつ「おや、儲かっちゃうは恐れ入っちゃうわね」

良子「聞かないんですよ、言ったって」

勉「だってさ…」

 

はつは来てくれてうれしいという。

勉「そう。だから、おばちゃんは好きなんだ」

はつ「じゃ、何をごちそうしましょうかね」

勉「うなぎはどう? うなぎは栄養あるしさ。ねっ」

 

ちょうど再放送の「おやじ太鼓」16話は、高円寺のおばちゃんのうなぎの回だった。

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お敏さんはざるそばをたくさん食べた回。

 

はつ「それがダメなの。今日はお休み。うなぎ屋さん」簡単な物も「信濃路」もみんなお休み。

 

外食して、おばちゃんも映画を見ようという勉だったが、2人で簡単に食べるぐらいのごはんはあるとはつが言い、鮭を焼いてあげると台所に立つ。良子は謝るが、はつは突然訪ねてきてくれるのがうれしいと言う。

 

はつ「鮭ならね、PCBが少ないでしょ? 他の魚は恐ろしいですからね」

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PCB…Poly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の略称で、人工的に作られた、 主に油状の化学物質。

 

「思い橋」でもセリフとして出てきたんだから、問題になってたんだね。

 

勉は、いやに簡単になっちゃったとがっかり。

はつ「そんな了見じゃ結婚してから困りますよ」

勉「結婚?」

良子「そうよ。あんたの給料だって、どうせ安いんでしょ」

勉「どうしてさ?」

良子「そんなもんよ」

勉「いいの? おばちゃん、こんなこと言って」

はつ「いいでしょ。今のうちなら」

良子「まさか、私と結婚するわけじゃないんですもんね」

勉「あっ、そう? そうね、そうそう」

はつ「焼けるのは鮭ばっかり。あんた方の口ゲンカはホントに楽しいわ。仲が良くって」

 

電話が鳴る。良子に鮭を見ておくように言い、電話に出たはつ。新作から小川さんの住所を聞かれたが、はつは知らなかった。

 

電話を切った新作は、しょんぼりしている寿美子に及川さんは次の日曜日に行くんだよと伝えた。寿美子と一緒に行くつもりなので住所を言い残していかなかったんだろうと言う。今度の日曜日にまた作るから、おいなりさんはせっせと食べてちょうだいと言う寿美子。

 

新作「やれやれ。また起こされて、うちわだからな」

寿美子「それが親の務めよ。さあ、食べて食べて」

 

はつは正司が急に鹿児島に行くことになったことや寿美子が5時起きでおいなりさんを作ったことを勉たちに話した。寿美子は、よっぽど正司のことが好きなのだろうとはつと良子が言い合う。

 

勉「そうだ。よっちゃん、行こうよ、下曽我へ。小川さん、かわいそうだよ。だってさ、せっかくいなり寿司が食べられたのに、おじゃんになっちゃってさ」

良子「分かんないでしょ、住所が」

勉「分かる、分かる。すぐ分かるよ」

はつ「どうして分かるの?」

勉「分かるさ。下曽我で赤帽さんやってる人なんか他にいやしないよ。駅の人に聞けば、すぐ分かるよ」

 

こういう勉の行動力いいね。もう赤帽さんの数も少なくなってる頃なんだろう。

 

電車に乗っている勉と良子。

 

結局、2人のごちそうは駅弁になってしまったのです。一駅一駅止まっていく普通電車のそのもどかしさも、むしろ久しぶりに心のくつろいだような楽しさでした。

 

それぞれ通路側の席に座り、向き合って駅弁を食べている。

勉「これで300円は高いよね」

良子「だから安いほうでいいって言ったのに」

勉「だって期待するよ。特製なんて言えば」

良子「お金のありがたみを知らないんじゃない」

勉「結局、買うほうが悪いのかな」

 

良子「こんなお弁当でも小川さん喜んでくれるかしら?」

勉「そりゃ喜ぶさ。気持ちだもん」

良子「ねえ、なんか包む物(もん)がないと困るわね。降りてから」

勉「どっかにあるさ。降りるとき、探していこうよ。この電車ん中。新聞紙ぐらいあるよ」

良子「そっか、そうね」

 

電車を降りた勉と良子が橋の上を歩いている。

勉「すぐ分かるって言ってたけど、さっぱり分かんないじゃないか」

良子「あの森じゃないかしら? お宮さんって」

 

小川さんが住んでるのは神社!?

 

勉「あの屋根の格好は、お寺だろ? それに鬼瓦がのってるしさ」

良子「すぐなんて言ってたけど、結構遠いわね」

勉「まあ、いいさ。いい気持ちだよ。こうやって知らない道を歩いているのは」

 

良子「それにしては、さえないお天気ね。ちっとも日がささないんだもの」

勉「降りださなくてよかったよ」

良子「空気がいいでしょうね。この辺は」

勉「そりゃ東京とは大違いさ」

 

良子「小川さん、どんな顔するかしら」

勉「びっくりするだろうな。まさか僕たちが来ると思わないよ」

良子「そうね」

勉「たまには人を喜ばさなきゃね」

良子「そう。ホントにそう」

勉「いいとこあるよ。よっちゃんだって僕だって」

良子「そうよ。当たり前よ」

 

勉「だからさ…」

良子「ええ」

勉「よせよ。そんな人の顔ばっかり見て」

良子「フフッ。だって面白いじゃない」

勉「何が?」

良子「気がつかないの? 自分で」

勉「なんのこと?」

 

良子「いつの間にか俺が僕になったんだもん」

勉「な~んだ、そんなことか」

良子「いいのよ。そんなことでも」

勉「そんなことで女の子が喜ぶんなら簡単だよ。だから、すぐ引っ掛かるんだぜ、甘い女の子は」

良子「私なんてちっとも甘くないわよ」

 

勉「でも、いいよ」

良子「何がいいの?」

勉「いいだろう、どうだって」

良子「いいもんですか、失礼ね」

 

勉「あれ? 通り過ぎちゃったかな?」

それぞれ傘を持った2人が走って引き返す。

 

布団に横になって外を見ている小川。

 

⚟女性「小川さん、寝ているんですか?」

 

小川「はい、どうぞ」

女性「うどんを茹でたんですけどね、あがりませんか?」

小川「それはどうも」

女性「きつねうどんにしましょうか? それとも卵を落としたほうがいいの?」

小川「いえいえ、あの…せっかくですけどね…」

女性「ダメですよ、食べなきゃ。朝だって、ほんの1膳食べたっきりでしょ」

 

小川「それがね、どうも…」

女性「どうしたんですか? 一体。足をねんざしただけでしょ? そんな病人みたいな顔をして」

小川「へへへへ…いえね、どこも悪いわけじゃないんですけどね」

女性「そんなら、少し向こうの部屋へ来て、テレビぐらい見ればいいんですよ。背中が痛くなっちゃうでしょ? 寝てばっかりいたら」

 

小川「いや、それがね、すっかり慣れてるんですよ」

女性「おやおや」

小川「あの…病院のベッドに1年半も寝てたでしょう? 他にすることがないもんですからね」

 

女性「だから寝てばっかりいたんですか?」

小川「いえ、一日に一度、売店行きましたけどね。それだけが楽しみでしてね」

女性「売店にも、うどんかおそばかあるんですか?」

小川「いや、そんな物はないんですよ。いなり寿司はありましたけどね」

女性「じゃあ、きつねうどんなら似たようなもんでしょ。作りますよ。食べなきゃダメですよ」

小川「ああ…」

 

女性は出て行った。小川さんと顔が似てるなと思ったら、実の娘さん。「兄弟」の紀子さんとか「たんとんとん」の中西さんの奥さんとかと同じ発声っぽい感じ。

 

小川さんはいつも思い出しているのです。病院のこと、売店のこと、そして親切だった人たち。そして、とんでもないウソから生まれた思いがけない息子。たとえ、僅かな間ではあっても老残の小川さんにとっては、ただ一つの頼り、ただ一つの夢、ただ一つの愛情の実体だったのです。

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思ったよりひどい意味だった。

 

ごめんくださいと声がする。聞き覚えのある声に布団から起き上がる小川。

 

女性が玄関に出た。

良子「あの…こちらに小川さんいらっしゃいますか?」

女性「ええ、いらっしゃいますけど」

良子「あの…私…」

 

⚟小川「よっちゃん」

 

襖を開けた小川が這って出てきた。「ああ…さあさあ…勉さんもよく来てくれましたね」

勉「こんにちは」

良子「やっと捜してきたんです」

小川「そうでしょう、そうでしょう」

 

女性「さあ、どうぞ上がってください」

良子「じゃあ、お邪魔します」

小川「いや、ホントによくね…」

 

女性「小川さん、お茶入れますからね」

小川「あっ、すいません。さあさあ」手招きして、ハイハイで部屋に戻る。

 

良子「まだ歩けないのね」

勉「とんだ災難だな」

小川「いや…いや…やっぱり年ですからねえ。さあさあ、座布団がないからね、足をね、崩していてください。ねっ? さあ」

 

良子「重い荷物持ってたんでしょう?」

小川「そう、両手にね。それをまた後ろから駆け下りてきたヤツがあって」

勉「そいつに突き飛ばされたの?」

小川「そう。後ろからでしょう。私のトランクをね、ドーンと前へ突きやったんですよ。階段ですからねえ」

勉「ぶん殴ってやりゃいいんだ」

良子「危ないわね、気をつけないと」

 

女性「番茶ですけどね」

小川「あっ、すいませんね、奥さん」

女性「どうぞ」良子に渡す。

良子「すいません」

 

女性「ちょうどきつねうどんを作っていたんですけどね、こちらへもお持ちしましょうか?」

良子「いえ、いいんです、私たちは」

女性「いいんですよ、遠慮なんかしなくったって。小川さんちょうど寂しがってたの。ちょうどいいところに来てくれたんですよ。ねえ? 小川さん」

小川「フフフッ。ああ、そうそう。あのね、こちらはこのうちの奥さん、せがれさんの」

良子と勉は名前を名乗る。

 

せがれさんが若い赤帽さん?

 

女性「そりゃ、まあ、ようこそ。それにしても小川さん、随分、お若いお友達があるんですね」

一同、笑う。

小川「ほら、あの…さっき話したでしょう。あの病院の売店の」

女性「ああ、じゃ、いなり寿司の」

良子「アハッ、そうです」

勉「とってもおいしいんですよ」

女性「どうもそうらしいですね。じゃあ、うちのきつねうどんも食べてってくださいよ。すぐ作りますからね」

小川「あっ、すいませんね、奥さん」立ち上がって部屋を出て行く…おなか大きいのかな。

 

勉「じゃあ、これどうしようか?」新聞紙に包まれた駅弁を良子に見せる。

良子「(小川に)ああ…これ買ってきたんです。駅弁だけど、あの…小川さんどうかと思って」

小川「ああ、それはそれは。ああ、ありがとうありがとう」受け取る。

 

小川は駅弁、良子と勉はきつねうどんを食べている。

 

小川「そうですか。今度の日曜日にね」

勉「そうそう。前田さんがね、うんとたくさんいなり寿司を作ったんだって、今朝」

小川「そう」

良子「あっ、そうか。それ、もらってくればよかったんだわ。あんた、どうして気がつかなかったの?」

勉「そんなこと言ったって、自分だって気がつかなかったじゃないか」

良子「間が抜けてるわね、私たち。駅にばっかりいる人に駅弁買ってくるなんて」

 

小川「いえいえ。駅にいたってね、駅弁なんか買えませんからね」

勉「そうだよね、300円じゃ」

良子「そうよ」

小川「いいえ。2人そろって来てくれたんですもの。それでね、もうもう。フフッ」

 

駅弁を食べていた小川が舌を鳴らす。それを見ていた良子、勉。良子は勉に向かって舌を鳴らし、勉も同じく舌を鳴らす。笑い合う2人と、それを見てニコニコする小川。

 

小川さんはしみじみとうれしいのです。そして、次の日曜日…しかし、世の中のことはなかなかうまくいかないものです。(つづく)

 

やっぱり小川さんがニコニコしてる回はいいね。寿美子がヒロインなら良子みたいな役にしたらよかったのに、なぜあんな役だったんだろう。

 

次が最終回なんて寂しい。

 

お、三保の松原回じゃないか!

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次に見たい作品

劇◎「喜びも悲しみも幾歳月」(1965年4月6日 - 9月28日)

劇◎「二人の星」(1965年10月5日 - 1966年3月29日)

劇◎「記念樹」(1966年4月5日 - 1967年2月14日)

劇◎「今年の恋」(1967年2月21日 - 4月11日)

ア◎「女と刀」(1967年4月18日 - 10月10日)

ア◎「もがり笛」(1967年10月17日 - 1968年1月9日)

◎「おやじ太鼓」(1968年1月16日 - 10月8日)

◎「3人家族」(1968年10月15日 - 1969年4月15日)

◎「おやじ太鼓2」(1969年4月22日 - 10月14日)

◎「兄弟」(1969年10月21日 - 1970年4月14日)

◎「あしたからの恋」(1970年4月21日 - 11月24日)

◎「二人の世界」(1970年12月1日 - 1971年5月25日)

◎「たんとんとん」(1971年6月1日 - 11月30日)

ア◎「太陽の涙」(1971年12月7日 - 1972年5月30日)

ア◎「幸福相談」(1972年6月6日 - 9月26日)

ア・「おやじ山脈」(1972年10月3日 - 1973年3月27日)

◎「思い橋」(1973年4月3日 - 9月25日) 

ア・「炎の旅路」(1973年10月3日 - 1974年3月27日)

ア◎「わが子は他人」(1974年4月3日 - 9月25日)

 

昨年から始まったBS松竹東急での木下恵介アワーの再放送でありがたいことに見たことある作品が増えました。ただ、やっぱり「おやじ山脈」や「炎の旅路」は望み薄かな~とは思ってます。この2作品とあさってから始まる「わが子は他人」を覗くと、あとは3作品となりました。

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「幸福相談」は「太陽の涙」の次の作品で、「あしたからの恋」が思いもかけず(?)延長して「二人の世界」以降ズレた放送時期を正すためなのか全17話と短め。倍賞千恵子さんと沢田雅美さんが姉妹、山口崇さんと小倉一郎さんが兄弟。高円寺のおばちゃんも出てる。「太陽の涙」の次にそのまま再放送してほしかったー。

 

倍賞千恵子さんが連ドラに出てるのって珍しく感じる。しかし、「男はつらいよ」ファミリーは前田吟さん以外のおいちゃん、おばちゃん、タコ社長も同じように思っちゃうけど、昭和のドラマを見ていると結構見かけるよね。

 

あとの2作品は「おやじ太鼓」前の白黒作品

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「女と刀」は全26話で明治・大正・昭和を描いた朝ドラっぽい作品に思える。木下恵介さん、山田太一さんが脚本を書いている。

 

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「もがり笛」木下恵介脚本で全13話。「おやじ太鼓」前の竹脇無我さんが出てる。

 

木下恵介アワーもだけど、それより前の白黒の木下恵介劇場も見たい!

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「記念樹」は、前よりずっと言ってるけど、一番これが見たい。全46話と長めですが、1話完結、ゲスト多し。主人公は「太陽の涙」の正司さんの元カノ・宮沢泰子こと馬渕晴子さん。これも木下恵介さん、山田太一さんが脚本。

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「喜びも悲しみも幾年月」原作・木下恵介、脚本・植田芳子

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この映画も見たし、あらすじは大体想像はできる。この映画には「太陽の涙」の新作の境遇によく似た婿養子のお父さんが出てくるんだけど、このドラマにも出てくるのかな? 映画のほうは晩年になって籍を抜いて、子供たちまで苗字変えたからね。

 

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「二人の星」こちらも木下恵介脚本。笠置シズ子さんが出てるんだ~。武男兄さん、山口崇さんなど「おやじ太鼓」キャストもチラホラ。

 

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「今年の恋」木下恵介劇場最後の作品のせいか全8話。加藤剛さんと秋野太作さんが兄弟、栗原小巻さんと渡辺篤史さんが姉弟で、弟同士が友達。これも面白そう。

 

「記念樹」以外は「幸福相談」「もがり笛」「今年の恋」の短めの作品をポンポン見たいな。どうか再放送を引き続きお願いいたします。

 

関係ないんだけど、今度始まるドラマを見て、伊東四朗さんと小倉一郎さんが同じ”老人”の枠なのに驚く。小倉一郎さん、改名してた。

 

外山福太郎…伊東四朗(1937年6月生まれ)

吉田桃子……日色ともゑ(1941年6月)

村井サキ……三田佳子(1941年10月)

吉田武………前田吟(1944年2月)

林春子………白川和子(1947年9月)

竹下勇三……小倉蒼蛙(1951年10月)

山本和美……高橋惠子(1955年1月)

 

親子役でもおかしくない…とも思ったけど、プロフィールを確認すると、伊東四朗さんと加藤剛さんって同世代だった。別におかしくないのか。今、二十歳そこそこの小倉一郎さんを見ているせいか、感覚がバグりました。

 

この枠のドラマは面白いのにNHKではやらないのがちょっと残念。