1971年12月26日 TBS
あらすじ
なな江と祝言をあげるはずだった弥八は、理由も言わず芝の久助棟梁の婿養子になった。自分の出世のために仲間と恋人を裏切ったと、弥八は皆にひどい目に合わされるが、決して口を割らなかった。

2025.12.21 時代劇専門チャンネル録画。懐かしの『日曜劇場』時代劇。カラー。
1971年12月は木下恵介アワーだと「太陽の涙」のころ。「ありがとう」は第1シリーズが1970年の10月に終わり、第2シリーズが1972年の年明けから始まるので、ちょうど狭間の時期だったのね。「肝っ玉母さん」第3シリーズをやってたみたい。
原作:武田八洲満
*
脚本:隆巴
*
音楽:山下毅雄
*
弥八:中村吉右衛門…字幕黄色
*
なな江:大空眞弓…字幕水色
*
金次:前田吟
惚の字:尾藤イサオ
*
大三:小林勝彦
梅屋の親爺:今福正雄
六助:園田裕久
殺陣:大沢眞吾
*
政吉:清水俊男
男:肥土尚弘
弥八(子供時代):高野浩幸
末吉(子供時代):児玉裕一
*
為造:鈴木瑞穂
みつ:桜むつ子
*
おたえ:音無美紀子
*
*
協力:東宝株式会社
*
プロデューサー:石井ふく子
*
タイトル:篠原栄太
*
演出:坂崎彰
*
制作著作:TBS
寒い中、店の外で掃除していたなな江に声をかける弥八。掃除の手を止めたなな江は猫の手も借りたい大晦日だもの、女将さんに叱られちゃうわと言いつつ嬉しそう。なかなか話しださない弥八に今日で年季奉公が明けるから一生懸命やっとかないと気が済まないと急かす。
突然別れを切り出す弥八。祝言の約束はなかったことにしてほしいと言い出す。
ふた月前、なな江ちゃんの年季が明けたら祝言をしようと言ったのは弥八のほうだった。
訳は言えないが返事だけ聞かせてほしいという弥八。なな江は、もう一度よく考えて、今夜、除夜の鐘が鳴りだしたら店に来てと頼んだ。
子犬を抱き上げ「末吉…とうとう言っちまったぜ」とつぶやく弥八。
子どものころの回想。両親は亡く、弥八と弟の末吉は別々の奉公先へ行く。弥八が犬は飼ってもらえないよというと末吉は弥八にすがりついて泣いた。
子犬に末吉と名付け、抱いたまま店の前に戻ってきた弥八。ここで待ってろと地面におろした。一膳めし屋というのかな、店は忙しく、弥八の仲間たちも店に来ていて、一緒に飲もうと誘うが、弥八は、店で忙しく働いているなな江のもとへまっすぐ進む。
なな江「これで私の8年の年季奉公もやっと明けるの。弥八さん…それでもやっぱり?」
弥八「返事、聞かせてくれ」
なな江は弥八をビンタ。「返事は、これよ!」もう1発ビンタして泣きながら店の奥へ。
弥八は店を出て、寄ってきた子犬を抱き上げて、去っていった。
仕事場
金次「女が2つも殴るなんて…それも人前でだ。よくよくのことだぜ。どうしたんだ? 弥八」
惚の字「水くせえな、弥八兄(あに)ぃ。おいらたち3人はよ、ガキのときからの相弟子だぜ。いや、みんな、ひとりっぽっちで江戸に出た、お互い筋金入りの貧乏百姓の血筋じゃねえか」
前田吟さんと尾藤イサオさんといえば「高原へいらっしゃい」で見たばかり。でも、「高原へ~」では尾藤イサオさんは若者、前田吟さんは、もうちょっと上の年齢に見えるような役柄だったな。見た目が変わらない芸能人トップ2。
金次「もういい。墨壺、こっち入れろい。砂っぽこりが入っちまうわな」
惚の字「ああ」
金次「弥八、なな江ちゃんだってそうだぜ。そこいらのわがまま娘とは、わけが違う。俺たちと同様、年もいかねえときから他人に使われて人並み以上に我慢も辛抱もできる娘だぜ。利口で気風(きっぷ)がいい。情は深(ふけ)え。それが一体、なんだって、あんなことしたんでえ?」
健坊が育を褒めてる!
職場に連れてきている末吉を抱き上げる弥八。
金次「お前、近ごろ変わったな。こうやって3人集まっても、ろくに口も利かねえ」
惚の字「なあ、昔は何だってしゃべったじゃねえか。別れ別れに奉公してた、お前の弟が風疹にかかって死んじまったときもよ。ヘヘッ…3人して泣き泣き語り明かしたじゃねえか。なあ? 金次兄ぃ」
やっぱりここでも尾藤イサオさんのほうが年下設定なんだな!
金次「弥八、ええ? お前(めえ)のほうが悪くってよ、なな江ちゃんに謝りそびれたっていうんなら俺が仲に立ってやるぜ。なな江ちゃんは、いい女房になる。めったにいねえぜ、弥八。弥八、俺はお前たちにより戻させてえんだよ、ええ?」
弥八「さあ、仕事だ」立ち上がり、ここは俺一人でやる、組んで仕事すんのは、よしにしようと1人で作業を始めた。
雨の日、一人で飲んでいる弥八をにらみつける梅屋のおやじ。酒の量が上がったねと嫌みっぽく言い、早じまいしたいんだよと右手を差し出した。お金を払って店を出ると、惚の字が「金次兄ぃが寺の裏で待ってる」と伝えた。
寺の裏
金次「お前、婿養子になるってのは本当かい? 芝の久助棟梁のとこに」
弥八「ああ」
相手は棟梁の一人娘で弥八は棟梁の後継ぎになる。
金次「今だからこそ言うが、俺は、なな江ちゃんに惚れてたんでえ。惚の字もでえ、それを諦めたのはな、惚の字は、まだガキだし、俺は、ちっとばかり悪い遊びした。お前がいちばんなな江ちゃんを幸せにするとおもったからなんだぜ。弥八、なんとか言ったらどうでえ!」
「すまねえ」と頭を下げる弥八。
何か訳があるんだろう?と聞かれても答えない弥八。誰でもむやみに棟梁になれないよう棟梁は株を持っている。家柄のない平の大工は棟梁になれない。
金次「やっかみもあるには違(ちげ)えねえがな、やっぱり腹立つぜ! 12年間、俺はお前のことを買いかぶってたんだろうか」納得いかない、なぜ言えないんだと詰め寄っても、弥八は「棟梁の娘に惚れただけ」と訳を言わない。
惚の字「噓つけ! おいら知ってるぜ! お前はな、なな江ちゃんに心底惚れてんだい!」
弥八「惚れたんでえ、棟梁の娘に!」
金次「嘘でえ! 惚れた真似までして棟梁の株がほしいのかい?」
金次、惚の字にボコボコにされても訳を言わない弥八。泥水に突っ込んだところを末吉が来て、顔をなめた。フラフラで末吉を抱っこして帰る。
弥八「おっ母をなくしたのが手始めだ。お父をなくし、故郷(くに)をなくし…たったひとりの弟をなくし…おいらは、なくしものの名人だな。なな江…今度は、おいら、お前までなくした。すまねえ。すまねえ…」
道具箱を抱えて歩く弥八を見かけた男たちが飲み屋に引っ張り込み、水をぶっかけた。末吉にかけるな! 逃げるように去っていく弥八。
仕事場
為造「鋸(のこ)の目をつぶされたのか?」
弥八「親方…」
為造「職人がそうまでされてなぜ怒らねえんだい」
何も言わずに鋸の目立てをする弥八。
子犬のキューンと鳴く声と男たちの下品な笑い声。弥八がすぐ近くにつないでいた末吉を抱き上げる。末吉に危害を加えるのは許せん!
為造「弥八、嫌な噂聞いたぜ。婿入りは本当かい?」
うなずく弥八。
為造「じゃ、気をつけるんだな。普請場で物が落ちてきたり、足場が崩れたりしねえとも限らねえ。犬なんぞかまうんじゃねえ。職人は腕で勝負しろい!」
男の嫉妬、怖ぁ…命にかかわる。な~にが女は陰険だよ! 人によるだろ!!!
大三が泥をぶつけ、いい男だな、支度金もたんまりもらったことだろうなと六助たちと笑い、泥を弥八の顔にこすりつけ、男妾とののしる。為造が騒ぎを止めるが、弥八に当分仕事に出るなと命じた。
為造は久助棟梁の婿をこき使っちゃ申し訳ねえし、みんなへの示しもつかねえという。弥八は根っからの職人だから仕事だけはさせてくだせえと懇願するものの聞き入れてもらえなかった。
弥八は久助棟梁の家まで行ったが、久助は品川に建て前に行っていて不在。帰ろうとしたが、おたえがお父っつぁんがこしらえた振袖だと見せに出てきた。紫綸子(むらさきりんず)、束ね熨斗(のし)模様。祝言のお色直しにどうかしら?と聞く。
弥八は戸惑いながらも褒める。
おたえは帯も笄(こうがい)も新しい鏡台もできてきたと嬉しそう。上がって見ていきませんか?と誘う。母のみつは弥八が何を話しに来たか気にし、どうぞあなただけが頼りですからお願いますね、と泣き出しそうな表情で言う。
弟思いで犬に末吉と名付けたことに驚いたおたえ。私も風疹にかかったことがあると話し、弥八と3つ違いだから、生きていれば末吉と同い年だという。一人っ子のおたえは弥八が兄さんのように思えてくる。
弟には何もしてやれなかったと後悔する弥八。末吉は板橋の棟梁に奉公へ行き小さな橋の上で別れた。当時7つの末吉は泣かないようにあかんべえをしてみせたと思い出を語る。三月目には風疹で死んだという知らせが入った。末吉が死ぬとき、手ぇひとつ握ってやれなかったと自分の手を握りしめる。
おたえ「私が死ぬときには手を握ってくださいね」
弥八「おたえさんが死ぬなんて、そ…そりゃ…」
おたえ「ええ。ずっと先のことですけど。弟さんの分と両方、ねっ? 両方の手を握ってくださいね」
弥八「へい」
おたえ「私、怖いほど幸せ者ね。これからは孝行はするし、いいおかみさんにもなります。もし、私がわがまま言ったら叱ってくださいね、ねっ? 本当に」
弥八「へい」おたえと指切り。
お父っつぁんは、すっかり泣き上戸になってしまったと話すおたえ。
玄関先では帰ってきた久助棟梁とみつが話を聞き、みつが涙を拭く。
加東大介さんがテレビドラマに出てるの初めて見たかも! いつも映画だし。もっと若いころのだし。
久助がタイミングを見計らって、みつと部屋に入ってきた。久助は弥八のために黒紋付と紺木綿の印半纏も作っていた。弥八は結局、久助たちに何も話せなかった。久助も弥八の苦労を察してるなら、自分とこの職場に引き取るとかしてくれねえ!?
弥八「何があろうとお約束だけは果たします」
為造のところに黒紋付を着ていった弥八。
為造「俺も祝言には行くが、しかし、これは招きなすった久助棟梁の顔を立ててのことだ。そのつもりでいてもらいてえ」
弥八「長(なげ)え間、お世話になりました」
なな江が駆け込み、左官の連中が今日の祝言に嫌がらせをするとたくらんでいることを話した。「あっしだけで済ませてえ。棟梁やほかの連中につれえ思いはさせられません」となな江にお礼を言う。なな江は捨てられて腹いせに嫌がらせ知ってて知らん顔してたと思いたくない、今でも弥八の仕打ちには怒っているという。
弥八は黒紋付のまま走り出す。
おたえは花嫁衣装を着て久助、みつにあいさつ。
寺の裏
大三たちに囲まれる弥八。職人をコケにした弥八に仕置きをすると言って、羽織を破き、犬のように四つん這いになれ、と殴る蹴る。
大三「よせ、もうそのぐらいでいいだろう、政。顔に傷でもつけちゃ、あとで訴えられたときに逃げが利かねえ。おう、その形(なり)で祝言に出るんだな。だが、とうに刻限は過ぎちまってるぜ」
草履で顔を踏むんじゃねえ!
弥八「星がきれいだぜ。星がこんなにきれいに見えたことはなかったよ」ボロボロになった羽織を抱えてフラフラと歩きだす。
ロウソクもすっかり短くなったころ、祝言が始まった。弥八は大工の印半纏姿。久助は婿は職人で印半纏は職人の裃(かみしも)。お侍さまで申せば、ご登城のお姿だとフォローした。
初夜…
弥八「今日は疲れたろう。さあ、布団かけてあげよう」
おたえ「ええ」
弥八「おやすみ」
おたえ「末吉さんにもこうしてあげたの?」
弥八「ああ…毎晩。江戸の春と違って、山国の夜は冷える。あいつは、すぐ風邪ひきやすいんだよ」
おたえ「おやすみ、お兄ちゃん。ウフフフ…弥八さんはね、私のご亭主で、それからお兄ちゃんなの」
弥八「おたえは、おいらのかみさんで、それでもって妹だ」
夫婦なのに兄妹設定…というか、なんか嫌だな…
おたえが弥八さんと呼ぼうとするので、人に笑われらぁと止める弥八。「お前さんって呼んでごらん」というと、おたえは照れて、半年か1年くらいかかると笑うと、弥八は、おたえの両手を包み込むように握った。
弥八「半年…か」
久助棟梁からおたえの命は祝言から半年くらいだと聞かされていた弥八。二十歳までもたない。乳飲み子のときに患った風疹がもとで、元気そうなのは、うわべだけで心の臓がひどく悪い。蘭方の医者も「薬石、効なし」と、さじを投げた。おたえの好きなようにさせてやれと医者に言われ、みつは婿探しを始めた。せめて女として人並みに花嫁衣装も着せてやりたいと思った。
男らしく、気立ても優しく、口の堅い若者…久助は弟子から捜したが、おたえが気に入らない。海晏(かいあん)寺に紅葉を見に行った時に、弥八を見初めた。
久助は、おたえの命のある間だけでいいから、婿になってほしいと頼んだ。みつからも命でもお金でも何でもあげると言われても引き受ける気はなかったが、両親に泣きつかれ、引き受けるしかなかった。
おたえが弥八を呼んでいる。
おたえとなな江の顔が交互に浮かぶ弥八。
次の冬までもたないと久助に言われ、決意する。
死の床についたおたえを久助、みつ、弥八が囲む。秋の虫の声に耳を澄ませるおたえ。弥八はおたえの手を握り、おたえは「お前さん…」と言い、ゆっくり目を閉じた。
何もかも終わったと弥八にお礼を言う久助。
弥八「祝言から五月(いつつき)、あっしも心から人の情けの中に住まわせてもらいました。ただ、せめて、もう半年…いや三月。人形のように大事に扱ったつもりでも、やっぱりあれには所帯が重荷になったんじゃねえかと…」
久助「なぁに、これでいいんだよ」
棟梁の株は譲り、嫁をもらい、この桧屋を好きなように切り回してもらいたいという久助の申し出を断り、元の職人に戻るという弥八。久助は為造には葬式の時にすべて話したという。
弥八は本当に棟梁の株を狙う気なんかない。自分の心に決めたことだから、誰が笑わなくても自分の心の中に笑う奴がいる。今年いっぱい、あと二月半、この家で働かせてもらいたいとお願いした。
これからも時々遊びにきてもらいたいという久助。みつは泣き崩れた。
惚の字が弥八を訪ねた。金次と寺の裏で再会。殴ってくれという金次と惚の字。親方から話は聞いたという。
今日は大晦日。家に帰って新しい気分で会おうという弥八だったが、金次は何が何でも決着をつけたいとなな江も呼んでいた。なな江は、いつもひとりだけいい子になって!と責める。弥八は友達を取り戻したいという金次、惚の字、なな江を順番に殴った。ヒェッ!
貸し借りは、なし。昔のまんまの仲間だという弥八。
昔には戻れないというなな江。おたえの亡くなる2日前、なな江は金次と仮祝言を挙げたという。
ああ、そうか、おめでとう、と言うしかない弥八。おいら、ちっとも知らなかったぜ。みんなで年越しそばを食べに行こうと鼻をすすって歩き出した。
弥八「過ぎし去年(こぞ)か。ああ、もう戻っちゃこねえな」(おわり)
なんちゅーバッドエンドよ、つらすぎるわ! 邦画とか昔の日本の創作物でハッピーエンドって少ないよねえ。そこがいい場合もあるけど、これはなあ…何か引きずるわ。そして、男の世界の嫉妬の怖さを思い知る。左官仲間にあそこまで嫌がらせされる覚えないよ。