1973年12月9日 TBS
あらすじ
妻・すず(森光子)を東京に残し、林中(中村勘三郎)は盛岡にやって来た。そこへ常磐津びいきの芸者屋「梅乃井」の女将・おせき(一の宮あつ子)が芸者たちの稽古を頼んできた。梅乃井に腰を落ち着けた林中は東京に残したすずを呼び寄せようと弟子の米吉(市川子団子)を使いに出すが、すずは林中の修行の邪魔になると考え、盛岡に行こうとはしなかった。その後、米吉を東京に帰し、一人で修行を積むことにした孤独な林中に芸者のみよじは想いを寄せる。ある日九代目の成田屋から林中の語りで歌舞伎座の舞台を踏みたいとの依頼が舞い込むが、素直に応じることができない林中の元へすずがやって来た。

2025.10.26 時代劇専門チャンネル録画。懐かしの『日曜劇場』時代劇。カラー。
林中のもとを盛岡の番街の梅乃井の女将・おせきとみよじが訪ねた。覚えてない林中。しかし、ようやく思い出す。
原作:鈴木彦次郎
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脚本:平岩弓枝
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音楽:平井哲三郎
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林中(りんちゅう):中村勘三郎…字幕黄色
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みよじ:浜木綿子
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せき:一の宮あつ子
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米吉:市川子団次
渋善:神田隆
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小文(こふみ):波乃久里子
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松子:大鹿次代
方言指導:斉藤千恵子
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藤野克平:山本学
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すず:森光子…字幕水色
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プロデューサー:石井ふく子
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タイトル:篠原栄太
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演出:山本和夫
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制作著作:TBS
小文が教本を見て歩きながら歌う。
♪ 将門山の古御所に
妖怪変化棲家(すみか)を求め
人倫(ずんるん)を…人倫を悩ます由(よす)
申す 申す
光国(みつくに)…
申す 申す…
そういえば、以前は朝ドラでも、民謡とかそういう感じの歌は”〽(いおりてん)”で示されることが多かったのに、今は”♪”か”♬”の音符になっちゃったな。
波乃久里子さんは、またしても親子共演なのね。
藤野が小文に鍛冶町の曲三亭(まげさんてい)にはどう行ったらいいか聞いた。
小文「ああ、曲三亭そうでやんすなら、この道まっすぐ行きやんして2つ目を左さ曲がって、もう少し行きやんすと、おじやもじありやんすから、その角をまた曲がって…」
早口の方言に困惑する藤野は、そのまま行こうとしたが、紙を落とした。いくら方言が分からないからといって微妙に失礼。
小文「あっ! お前(めえ)さんは絵描きさんでござんすがんす」
藤野「そうなんだ。まだ卵なんだが」
小文「絵描きさんの書生さんでござんすがんす」
盛岡弁難しいし、同じ県内だけど、全くなじみのない言い回し。
藤野「ああ、そのようなもんだ、君は?」
小文「はい、梅乃井の小文でござんす」
風呂屋と勘違いする藤野に芸者屋だと説明する小文。
藤野「すると君は芸者さんですか?」
小文「はい、そうでござんす」
藤野「どうりできれいだと思った」
小文「あっ、やんだ」
藤野は、ある人を追いかけて東京から来たと話す。「常磐津林中っていう人なんだ」
小文「あいや、お師匠さんを?」
東京
長い手紙を読んでいるすず。髪が乱れ、やつれている。
金兵衛「何て書いてあるんだい? 忠(ちゅう)さんの手紙」
すず「いえね、盛岡にすっかり落ち着いてるんですって」
米吉「梅乃井って芸者の女将さんで、おせきさんっていう人。こりゃもう盛岡の花柳界じゃ5本の指に数えられる大姐(おおねえ)さんなんだ。これがまた大変な、まあ、常磐津贔屓で、なんとしても師匠に盛岡に逗留していただいて、是非、芸者衆の稽古をしてもらいたい。それにも師匠おひとりじゃ何かとご不自由だろうからって、その梅乃井さんへね」
金兵衛「へえ~、芸者屋に居候かい。忠さん、うまいこと…(すずをチラ見)いや、つまりだよ、その、にぎやかでいいだろうな」
米吉「ああ、もう、にぎやかは、にぎやか…でも別にきれいな芸者衆がいるってわけでもございませんし」
すず「おや、米(よね)さん、雪国には、きれいな人が多いって聞いてますよ」
米吉が言うには、林中は盛岡に落ち着いてから太って若返った。金兵衛も芸者屋にいたら若返るだろうといい、すずを見て、そういうわけじゃないけど、盛岡は田舎でのんびりしてるから若返るんだろうと苦しい言い訳。
米吉は、すずを迎えに来た。2年か3年、盛岡で水入らずで暮らしてほしいとお願いした。
しかし、断るすず。「その気持ちは、ありがたく神棚に上げて、あたしは東京で待ちますよ」
金兵衛も米吉を迎えに寄こすくらいだから、芸者の女といい仲になってるわけじゃないと言うが、すずは自身も盛岡に行けば、林中が盛岡の太夫になってしまうことを恐れた。盛岡で所帯を持って、とっぷりぬるま湯につかったような気持ちになって、夫婦そろって動くのが嫌になったら…
おすずは東京ではなく、林中の芸に未練がある。金兵衛に林中の書いた手紙を読むように言い、手渡す。見知らぬ他国の空、場末の寄席を渡り歩くなんてことは、林中にとっては生まれて初めてのこと。今までの客は芸の分かる人ばかりだった。今は常磐津なんて何だか知らない人にも語って聞かせ、分かってもらわなくてはならない。
そのことが今の林中に役に立っているのが目に見えるようだと、すずが言う。奥庭の八重垣姫じゃないけれど、「翼が欲しい。羽があったら盛岡へ飛んでいきたい」と思うけど、東京で待つ。すずが東京で頑張ってる限り、林中の芸に磨きがかかる。林中は、すずを通して東京をにらんでいる。
そうかもしれないけど、忠さん、寂しいよと金兵衛が目を潤ませた。
盛岡に戻る米吉に林中の着物と下着を預けるすず。米吉の分も用意していた。金兵衛も送ると言って一緒に家を出ていった。
1人になり、改めて手紙を眺めていると、金兵衛が戻ってきた。すずは涙を拭き、鏡を見ながら「あたし、老けたね」という。きれいだという金兵衛だが、すずは「うちの人と遠く離れたまんま、このまんま老けてくのかと思ったら、あたしは、なんだか寂しくなっちまって」とこぼす。
♪ 桑名のお殿さま
時雨で ぶぶ漬け
歌いながら泣き出してしまうすず。
盛岡
♪ 富士の~ 白雪ゃ~
朝日で~ 溶ける~
小文に稽古をつける林中。歌い出した小文にダメ出し。
林中「『ふず』は、まずいね。『ふじ』っていかないと。いいかい? よっ!」
♪ふず…
林中「ちょっとお待ちよ。『ふず』じゃない。『ふじ』だっつってるじゃないかよ。お前ね、あの…富士の山のこと何て言うんだい?」
小文「ふずの山」
方言だからしょうがないけど、常磐津をやる以上は富士のことを「ふず」はいけない。
しかし、方言をしゃべる者から言わせると、歌は不思議と訛らないものなんだけどな。
しかし、小文は「ふず」と歌い出してしまう。林中は「将門」のときも、「申し申し」を「申す申す」と言ってたが、直ってきたとフォローし、また稽古。
林中「私のね、口を見てごらん、口を。横を広げる、いいかい?」
今度は林中まで♪ ふず…と歌い出してしまった。
別の部屋にいる、おせきは帳簿をつけながら稽古を聞いていて、寝坊したみよじを咎めた。
みよじ「まんつまんつ、お申し訳なござんすなっす」
せき「あんた、ゆんべも渋善(すぶぜん)の旦那さんのお座敷すっぽかすて、それで世間の義理が済むと思ったら大間違いでがんすよ」
みよじ「まんつまんつ、お申す訳…」あくび「ござんすなっす」
せきは、台所にお寿司があるから、林中に持っていくように言う。
外で薪割りしている藤野。
小文は何度言っても「ふず」としか歌えず、やめちまえ!と林中にダメ出しされ、肩を叩かれていた。米吉が帰ってきたと知らせを受けた林中は、鏡の前で口を見て、よく稽古してごらんと言って、部屋を出ていった。
小文が裏庭に出てきた。
藤野「だいぶ叱られてたじゃないか」
小文「わたすが悪いんです。いくら叱られても鈍なもんで」
しかし、藤野は常磐津を稽古するようになってから、だいぶ標準語に慣れてきたと驚く。
小文「土地(とつ)の人間同士で話すこすたら分かんねえども、お師匠さんや藤野(ふずの)さんの…」
また「ふず」と言ってしまった小文に、歯をかみ合わせ、舌を近づけるんだと「じ」の発音法を教える藤野。「ず」だと唇がとんがるが、「じ」は唇を横に引く感じ。
口の端に指をあてながら
♪ 富士の 白雪~とうまく歌え、藤野の手を握る小文は我に返って手を離す。「わたす、常磐津は、ものにならねえかもすれなっす」もうダメ、お師匠さんもうんざりしていると弱音を吐く。藤野は師匠は小文を特に気にかけてると励まし、笑顔を見せる。
やっぱりかっこいいわ~、山本學さん。
米吉に帰れという林中。10年、盛岡にいても田舎大関にならないだけの自信はある。「下手は凝る、上手は、きれい、名人は離れる」。離れるの意味が分かってきた気がする林中は、米吉には東京で修業しなきゃ駄目だという。歌は和歌太夫、三味線は式左(しきさ)さんに習えばいい。
おそばへ置いてくださいましとお願いする米吉。「私はお師匠さんじゃなくちゃ駄目だ。お師匠さんが好きなんですから、お師匠さん、そばに置いてください」
林中は、ついに破門を言い渡し、♪ 春風や、春風や…と米吉を無視して歌い出す。
♪ 春風や~
黒い羽織に~
小脇差しを差して~
船場へ降りやる
米吉「分かりました。米は東京へ帰ります」
♪ 請い願わくば 船衆 急ぐべだよ
こちらも急ぐ送り船
歌いながら懐から米吉の前に財布?を投げ出す。
米吉「お師匠さん…」
♪ チャチャチャン
チャラリチャリ チャチャチャ
程なく着岸
さあ ひとつ 聞こし召せ
ところを重ねて
香り つんつん 花に風
軽く来て吹け 酒の泡
泣きながら出ていった米吉に「米、幸せになれよ」とつぶやく林中。
やりとりを聞いていたみよじは泣きながら林中の部屋に入ってきた。独りぼっちになってしまったと泣くみよじに、ここにいておくれという林中。え! 何する気!?
寂しいよ、とこぼす林中の背中に抱きつくみよじ。え!
雪の降る頃、藤野と小文はすっかり仲良くなっていた。初めて会った時、何を言っているか分からなかったという藤野。しかし、方言ってのはいいもんだという。「故郷(ふるさと)の言葉、土のにおいと空の明るさがあるな。どんな文明開化の世の中になっても、人間、故郷を忘れたらおしまいだ」
文明開化…着物の人しか出てこないけど、藤野のざんぎり頭からいっても江戸時代じゃないんだ。
藤野の故郷は東京。兄貴には見放されていて、清国との戦争も始まった。
日清戦争は明治27(1894)年勃発。
戦時下でのんびり絵なんか描いてたら非国民呼ばわりされそう…って、日清戦争時代に”非国民”なんて言ってたんだろうか? もっと後の時代じゃない? 召集令状が来たら東京へ帰らなきゃならない。
藤野「小文くん、君は僕のこと、どう思ってる?」
小文「どうって…親切ないい人でやんす」
藤野「それだけか? 君は師匠が好きなんじゃないのか?」
小文「そんたなこと言うなら、わたす、帰(けえ)る」
藤野「『けえる』じゃなくて『かえる』だ」
帰る、と言って笑う小文。師匠ともやらしいことなんかない。藤野こそ、お師匠さんが好きだから、ずっと盛岡にいるのだろうと指摘した。最初は林中の魅力につかれてやってきたが…「けど今は…君が好きなんだ」と告白し、プロポーズ!
松子から東京から電報が来ていると知らされた藤野。
なぜか傘をさした林中が現れ、小文は一緒にそば屋へ。「藤野さんが好きかい?」と聞き、一緒になりたかったら、私から梅乃井の女将さんに話をしてやってもいいという。
小文は芸が箸にも棒にも引っかからないから嫁に行けと言われたと思い、川に飛び込んで死ぬと言いだした。林中は見込みがあるから一生懸命に教えているというが、今は藤野を東京へ帰したらいいという。東京で勉強し、きっと偉い絵描きになる。それまで常磐津に打ち込めばいい。未練がなくなった時、常磐津をやめて、藤野と一緒になればいい。今のままでは2人ともどっちつかずでおしまいになる。
もう藤野さんには会わない。また巡り合えて、2人の心が1つになれたら…と小文が言う。
林中と小文が雪の中歩いていると、藤野が赤紙が来て、これから汽車に乗るという。藤野が差し出した手を握ってお別れ。「小文くん、『す』じゃなくて『し』だよ」
藤野を追いかける小文を無視して歩き続ける。転んだ小文はその場で泣き崩れた。
やがて雪もなくなり…
小文「帰んないでくだんせ。いつまでもお稽古してくだんせ」
みよじ「お師匠さん、そったな大事なこと…」
金兵衛「変なとこ口挟まないでくれよ。こっちは、わざわざ忠さん呼び戻そうと、はるばる東京からやって来たんだから」
お! 玉之輔と玉子がそろった~! ちょうど「ありがとう」第3シリーズと同時期だったんだね。
東京へは帰らないという林中。天下の成田屋の9代目が常磐津林中の語りでなきゃ歌舞伎座の幕は開けられないと言っており、金兵衛は、その遣いで盛岡まで来た。林中は盛岡には手塩にかけた弟子を捨てて帰れない。盛岡に恩がある、世話になってる、どうしても東京に帰らないと断る。
せきが入ってきて、盛岡に恩があると言ったことにお礼を言い、頭を下げた。「ですが、お師匠さん、どうぞもうそのご斟酌(しんしゃく)は無用になさってくなんせ。お師匠さんの芸は盛岡だけのもんじゃなござんすよ。東京の皆さんだって…いえ、日本国中、津々浦々のお客さんがお師匠さんの芸を待ってるんでござんすよ。成田屋さんは、お師匠さんが東京へ帰らねば『関の扉(と)』は、やらないとおっしゃる。それじゃ、ご見物衆に申し訳が立たなござんせ。このお方が9代目のお手紙を持って盛岡さ、お出ったとお考えになるから意地にもおなりになろうというもの。このお方が背中に背負(しょ)って、お出ったのは常磐津林中の芸を聴きたいと待ってらっしゃる多くのご贔屓さんのお心なんでござんすよ。盛岡の芸者屋の女子(おなご)が差し出たことを申すて申す訳なござんす。どうぞお師匠さん、お考え直してくなんせ」
方言での長台詞、すごいな~!
金兵衛は、すずが鏡を見て「老けた」と言っていたこと、「うちの人と別れ別れで年老いてくのは寂しい」と泣いていたことを話し、帰ってくれと説得すると、みよじも東京へ帰ってくれと言いだす。みよじは無理心中したいほど惚れていたと言いだし、金兵衛を驚かせた。しかし、おかみさんにはかなわないと泣き笑い。
みよじ「みよじは命懸けでお師匠さんに惚れやんした。だとも、お師匠さんのおかみさんにも惚れてしまいやした」
帰って、帰ってと何度も言いながら泣くみよじ。すずと米吉も盛岡を訪ねてきた。林中とおすずの涙の再会。
林中とすずが並び、送別会が開かれた。遅れてきたみよじは駆けつけ三杯とお酒を飲んだ。渋善の旦那が乗り込み、「色男の師匠は、東京さお帰りでやんすか」と絡んできた。明日の汽車で盛岡を発つという林中に酌をする渋善。みよじが惚れるだけのことはあるとすずの前でバラし、常磐津をやれという。
林中「御酒(ごしゅ)をちょうだいいたしましたから、その…常磐津はどうかご勘弁ください」
なおもからむ渋善に林中がキレた。「冗談じゃないよ。あっしは芸人だが、太鼓持ちじゃないんだよ。何言ってるんだい」
まだ暴れる渋善に「おすず、かっぽれやろう」と提案する林中。
♪ 沖の暗いのに
白帆がさ
見ゆる ソレ ヨイトコラ サ
あれは紀伊の国
林中が踊りながら歌い、すず、松子が三味線、みよじも一緒に踊り出す。
♪ よし ソレ
みかん船
みかん船じゃえ~
見ゆる ソレ ヨイトコラ サ
あれは紀伊の国
ヤレ コノコレワイ サ
ヨイト サッサッサ
泣きながら踊るみよじ。
♪ みかん船じゃえ
豊年じゃ 万作じゃ
明日は お師匠さんのお帰りで
ソレ
小束にからげて
ちょいと投げた
投げた サッサ
庭先で話している林中とみよじを目撃したすず。
舞台裏
林中の楽屋を小文が訪ねた。小文は、お墓参りをしてきたという。藤野は向こうで病気になって日本に帰ってきて亡くなったと友達が知らせてくれた。お墓は浅草の西得寺(さいとくじ)。芝居が終わったら食事しようと誘う林中だったが、小文は、まっすぐ帰るという。「わたす、お師匠さんの常磐津、忘れません。教えられたこと、一生…」
林中「私のこの年になっても花の咲く日が来たんだよ。ねっ? 若いお前に花の咲く日が来ないということはないんだ。気を落とさずにおやりよ。自分を大事にするんだよ」
泣きながら楽屋を出ていった小文。すずは、みよじより小文にやきもちをやいていた。「芸で結ばれてるっていうのは、いいもんですね」
すずは改めて「おめでとうございます」と頭を下げ、林中はお礼を言った。
舞台へ出ていく林中。
♪ 待ち得て今ぞ 時に遇(あ)う~
関次をさして急がん~
楽屋にそのまま残り、手を合わせて常磐津を聴くすず。
観客「待ってました!」
観客「林中!」
♪ 昔々~
昔噺の~
その~
さまに~
(一同)しばしば似たる…(おわり)
”芸”を見たって感じだね。女優さんも日本舞踊、三味線をやってるから、歌声も踊りも美しい。
でも、いつもながら十七代目中村勘三郎さんの役年齢、かなり若い設定じゃない? 芸者にモテたり、色男と言われてたりすると、う~ん…でも常磐津も踊りもよかった。

