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【ネタバレ】好人物の夫婦

1956年 日本

 

あらすじ

微妙にすれ違う夫婦の心の機微を描く、志賀直哉の同名小説を映画化した中編。名匠・千葉泰樹監督が、お節介な隣人夫妻なども効果的に、一筋縄ではいかない夫婦の在りようを探求する逸品。日本画家の池島(池部良)は、妻とし子(津島恵子)とお手伝いの滝(青山京子)と葉山で暮らしていたが、病気の祖母(滝花久子)が会いたがっていると知った妻は大阪に発つ。看病が長引き、2か月後に帰宅したとし子は、夫と滝にまつわる気になる話を耳にし、胸をざわめかせる。

2025.10.8 日本映画専門チャンネル録画

 

蔵出し名画座

評論家川本三郎こう観た

 

志賀直哉の同名の短編の映画化。監督はこのシリーズの「鬼火」「下町」を手がけているベテランの千葉泰樹

peachredrum.hateblo.jp

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原作は大正六年の作で、当時、直哉が住んでいた手賀沼のある千葉県の安孫子を舞台にしているが、映画は製作当時の現在の逗子にかわっている。

冒頭、時計塔のある鎌倉駅が映し出される。津島恵子演じる奥さんは駅からバスで逗子の海沿いの家に戻る。池部良演じる夫は画家。(原作では志賀自身を思わせる作家)

二人のあいだに子どもはいない。かわりに若い”女中”(青山京子)がいる。

この女中が妊娠したことがわかり、妻は相手が夫ではないかと疑う。以前、夫は浮気をしたことがあるらしく妻は心おだやかではない。中産階級の家庭に女中が普通にいた時代。主人や息子が若い女中と関係することがよくあった。

直哉は若い頃、女中と結婚しようとしたことがあったが、父親に猛反対された。原作にはないが、夫婦のことに興味津々の隣人夫婦(有島一郎東郷晴子)が笑わせる。津島恵子の着物と帯の柄がモダンなのにも注目。画家の夫のデザインだろうか。

 

東宝株式会社

 

最初は白い文字で書かれた題字が次のシーンでは額に入って壁に飾られている。これ、志賀直哉・書だったりして!?

 

製作:佐藤一郎

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原作:志賀直哉

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脚本:八住利雄

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音樂:伊福部昭

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夫・池島:池部良…字幕黄色

妻・とし子:津島恵子…字幕水色

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女中滝:靑山京子…字幕緑

りの夫:有島一郎

その妻:東郷晴子

大阪の姉:中北千枝子

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大阪の母:滝花久子(大映)

恋人:石原忠

りの子:市川かつじ

兄:山田彰

お仙に似た女:立花滿枝

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監督:千葉𣳾樹

 

鎌倉駅。時計塔の時刻は4時6分。バスが止まると、車掌が「ありがとうございます」と乗客を送り出す。バスから降り、後ろを気にしながら歩くとし子。後ろを歩いていた女性を先に行かせる。

 

結局、別の方向に行った女性を見送り、自宅へ向かうと、隣の家の男の子が子供用の車に乗り、クラクションを鳴らした。

 

とし子「お母様、いらっしゃる?」

男の子「うん」

 

頼まれた東京土産を渡した。

男の子「おばちゃん、ありがとう」

 

庭先で鶏を飼っている池島家。とし子が女中の滝を呼んだ。

滝「おかえりなさいませ。ちっとも存じませんで」

 

滝は旦那様の肩をもんでいたと言う。とし子が様子を見に行くと、池島は仰向けになって寝ていた。とし子はふすまを閉じて出ていこうとした。

池島「おい」

とし子「あら、起きてらしたの? 嫌だわ」

 

池島は考え事をしていたと言い、涼山先生、どうだった?と聞いた。お土産をウイスキーにしたらとても喜んでいたと、とし子が報告した。秋の展覧会の仕事をしていると池島のことも知らせていた。

 

池島は半月とひとつきの間、旅行すると言い出し、とし子を驚かせた。上方から九州。

とし子「そんなに長いの、嫌」

池島「『嫌だ』ったって、しかたがない」

 

とし子が展覧会に間に合うのか聞くと、描けないから旅行でもすりゃ、気が変わると答えた池島。旅行してもいいけど、嫌なことなすっちゃ、嫌よとはにかむとし子。バスの中で京都のお仙さんに会ったと言う。あの時のことを思い出して顔も上げられなかった、わたくしのほうが恥ずかしくて…でも、よく見たら違う人だった。

 

驚いて身を起こした池島も「バカ」と一言。

とし子「嫌! もう嫌、嫌」

 

池島の部屋を出て居間に戻ったとし子は滝に買ってきたソーセージとマヨネーズを冷蔵庫に入れるように命じた。海苔は東京のほうが安い。カレー粉、しば漬け。

 

滝は今夜、逗子の兄の所へ行く予定。とし子は、あまり遅くならないようにねと応じた。滝が入れた紅茶は、とし子が池島の所へ持っていった。

 

池島がとし子に滝の兄のことを聞いた。逗子の小さな食堂のコックをやってて、よさそうな人。

 

とし子「ねえ、『しない』ってハッキリおっしゃい」

池島「旅行か?」

とし子「旅行はいいのよ。嫌なことですよ」

池島「俺もきっとそんなことしようってんじゃないよ。しないかもしれない。いや、多分しない。なるべくそうする」

とし子「まあ…」

池島「しかし、必ずしもしなくないかもしれない」

とし子「ハッ、何言ってらっしゃんの」

池島「自分でもどうだか分からない」

 

とし子「男の方って、どうしてそうなんでしょうね」

池島「男がみんなそうじゃないさ」

とし子「みんな、そうよ。そうに決まってるわ」

池島「そんなことはないさ。俺だって昔は、そうじゃなかったもの」

 

とし子「じゃあ、なぜ今はそうじゃなくおなりになれないの?」

池島「今は前と違ってしまったんだ。今でもいいとは思っていないよ。しかし、前ほど非常に悪いという気がしなくなったんだ」

とし子「非常に悪いわ。わたくしにとっては非常に悪いわ」

 

タバコを取りに行こうと今を出ようとする池島にタバコを出すとし子。

池島「マッチ」

マッチを渡すとし子。

池島「そうだね。そりゃ、お前の言うとおりだ」

とし子「そんならハッキリ『しない』って言ってくださる?」

池島「ん? 断言するのか。そりゃちょっと待ってくれ」

とし子「そんなことおっしゃっちゃ、もうダメ」

 

池島が旅行をやめると言う。

とし子「いいのよ、あなた。『多分しない』って、おっしゃってくださすったんですもの。わたくしが何か言ってやめさしちゃ悪いわ。上方なら大阪のおばあさんの所へいらっしゃればいいわ。あなたの監督、お頼みしておくから」

池島「もう、よすよ、旅行は。お前のおばあさんの所へ泊まっていてもつまらないし」

とし子「悪かったわね。せっかく思い立ちになったんだから、おいであそばせ。ねえ、そうしてちょうだい」

池島「うるさいヤツだな。もうやめると決めたんだ」

 

怒ったわけじゃなく、旅行も少し億劫になってきたのだと言い、寝ようか、と寝室へ。

 

とし子「わたくしね、なんだかだんだんヤキモチが激しくなるようよ。京都のお仙さんが来たとき、あなただけ残して出かけていったことなんか、今、考えると不思議なようですわ」

池島「あれは安心して出かけていった、お前のほうがよほど利口だったよ。あのあと、話も何もなくなって閉口したよ」寝室に行き、着物→寝間着に着替えてるけど、違いがよく分からない。

とし子「今はとってもそんなことできませんわ」

 

池島「俺がそんな不安心な人間に見えるかね」

とし子「いいえ。あなたがそうだっていうんでもないのよ」

池島「それなら向こうが危ないっていうのか?」

とし子「それもあるわ」

池島「欲目だね。俺は、あんまり女に好かれるほうじゃないよ」

 

そんなわけない! めちゃくちゃかっこいいよ。

 

とし子「だって、ご旅行だと、どうだか」

さすがに池島もうんざりして話を打ち切り、滝の帰りが遅いという話に。

 

とし子「裏木戸が開けてございますから」

池島「それにしても」

とし子「わたくし、起きてますわ」

 

もう10時。とし子は、どうしてそんなに気にするのか聞く。

池島「いや、裏が開いてんなら、お前もお休みよ」と布団をかぶった。

 

郵便物を取りに出たとし子は、隣の奥さんと男の子が出かけるのを見かけてあいさつした。奥さんは昨日のお礼を言い、これから海岸を歩くと言う。ゆうべ、主人が帰らなかった。「マージャンだと思いますけど、おたくと違って、役所勤めは、そんな義理が多くて困りますのよ。このごろは1週間に何日も」と言いつつ、実際は何をしてるか分からない、主人はウソつきだからと笑う。

 

池島が大阪の姉から届いた手紙を読んでいた。祖母がだいぶ悪いらしい。池島が気の毒なので、とし子を呼ばなくてもいいと言っているが、「会いたいことの山々なのは、よそ目にも明らかで、昔かたぎでそう言えないところが、なお、かわいそうです」と書かれていた。祖母は74歳。「もし会わずに目をつむることでもあると、祖母や妹はもちろん、わたくしどもにも甚だ心残りのこととなりますので」

とし子「姉さんったら、そんな余計なこと書いて」

池島「お前、すぐ行くといいよ」

 

でも…と渋るとし子に今夜の急行で東京をたてるよう支度しなさいと命じた。「ゆっくり看病してあげるんだね」

 

とし子は顔を見れば、早く帰れと言うはずだと言い、よくならなかったらなるべく長くいてあげるように言う池島。「お前は小さいときから、ほとんど、おばあさんの手で育ったんだから」

とし子はお礼を言い、涙ぐんだ。

池島「お前、どんなことになっても自分の感情に負けないように気を張ってなきゃダメだよ」

とし子「はい。でも、なるべく早く帰ってきますわ。うちのことも心配ですもの」

 

荷造りするとし子。

 

池島は上半身裸になり、滝に背中に薬を塗らせていた。洗濯物を干しながら、そんな2人を見ている隣の奥さん。

 

池島「滝や、奥さんを駅まで送ってあげなさい」

滝「はい」

池島「バスの時間を見てね」

滝「はい」部屋を出ていき、池島は着物を着た。

 

とし子「あなた、もう出かけますわ」部屋の障子を閉め、甘え、キス! しかし、そっち側ばっかり閉めても、隣の奥さんから丸見えかも…!?

 

玄関

池島「俺は品行方正にしてるからな」

とし子「そりゃ、安心してますわ。でも、そうおっしゃってくだされば、なお、うれしいわ。あなた、バスの停留所までね」池島の手を握る。

池島「ああ、行くよ」

 

門の前で滝が荷物を持って待っていて、3人で停留所に向かう。

 

池島のもとに隣の夫が遊びに来た。今日は日曜日でちょうどよかった、助け船だったと言う。我が家の細君にもう少しでヒステリーを起こされるところだった。

 

とし子が大阪へ行って20日

 

池島「ええ、いろいろ不便でしてね。うちの中のことが」

夫「いやあ、ごもっとも。しかし羨ましいな、チョンガーは」

 

チョンガー(総角)…朝鮮語で独身の男。

 

池島が誘って、碁を打ってるのね。

 

大阪

とし子「ねえ、お姉様。大丈夫かしら? おばあ様」

とし子の姉「そりゃ、なんとも言えへんけど気の勝った、お方やから」

とし子「でも、痰がでないと、とても苦しそうで見ていられないわ」

とし子の姉「そやなあ。病気そのものより、その苦しみのためにだんだん衰弱していくんやって、お医者さんも言うてはるけど」

 

とし子はしばらく帰れそうにないと手紙に書いたと言うと、姉は、そんなにいつまでも女中任せでいいのかと心配した。

とし子「うーん、その子、とてもよく気が付くのよ。だから、大丈夫」

とし子の姉「そうかて…」

 

大阪に帰っても、大阪弁にならないとし子。実家だよねえ!?

 

碁を打ちながら浮気談義。隣の夫は浮気したことを白状したら、夫は妻に対して一生、敗北者、頭が上がらなくなるので、あくまでも知らぬ存ぜぬで通す。今度の女も女房には「マージャンだ」とつっぱねている。女というのは、たとえどんなに疑(うたぐ)っていても白状されるよりは「そんなことは覚えはない」と言われたほうが安心している。

 

そうですかねと懐疑的な池島。過去が過去だし、独身時代には女中とも一度ならずあった。だから、結婚したときから「そういうことには自信がない」とハッキリ言っている。家内もある程度は認めるような返事をしていた。それから何度も、危険性が自分にあることを言い、あるときは実際にやっているようにも言った。

 

しかし、意地悪い、嫌がらせを言う調子で言っていた。ずるいことだと自覚している。自分としては打ち明けることが主であるのに、聞く者には嫌がらせが主であると取れるように言っている。聞く者には多少、半信半疑になる。それだと、正直さが足りない。

 

池島の考えが理解できない隣の夫。

 

家内は露骨にそういうことを打ち明けられることは恐れていた。それで、初めは、ある程度認めると言っていた家内も、いつとはなしに認めないと言うようになった。

 

その意見には同意する隣の夫。ヒステリーを起こさないという、とし子のことを感心する。

 

寺の境内

隣の奥さんにみつ豆か何かおごってもらった滝。奥さんは「そう長いこと奥さまがお留守で大丈夫?」と聞いてきた。

滝「何がでございますか?」

奥さん「いいえ、おたくの旦那様がね、何か…」ニヤニヤ

滝「あら」

奥さん「そんなことは万ないでしょうけど」

 

拍子木の音が鳴り、隣の奥さんと一緒にいた男の子が紙芝居を見てくると走って行き、滝もすぐ帰ることにした。

 

池島家に帰った滝。池島は「暑いから水浴びたんだ」と上半身裸!

 

夜、何か御用はございませんでしょうかと滝が言うと、池島は喉が渇いたから水を持ってきてくれと頼んだ。寝床に水を持ってくる滝。

 

な~んか意味ありげな表情するなよ、池島ぁ!

 

裏庭の鶏に餌をやっていた池島は家の裏口で滝が男と話しているのを目撃した。滝を呼び出し、今のは誰だと聞くと、逗子の兄だと答えた。うちへ上げたらいいという池島に、すぐ海水浴場のほうへ行くと言っていたと答えた。店を任されている兄。

 

この家、池島は昼間、だいたい家にいるからなあ。

 

池島が広げた新聞

 

著作権法の…

今秋には草案を

絶えぬいざこざに対処

 

大阪

もう季節はお彼岸。おばあさまはだいぶよくなった。とし子の実家は使用人が何人もいるような大きな家っぽい。

女中「御寮はんたち、お帰りやした」

 

祖母「どうやった? 文楽

とし子「よかったわ、とっても」

 

東京へのみやげは、それぞれの店から送ってもらうことにしたと報告。とし子は祖母へはアイスクリームを買ってきた。

祖母「ほう、珍しいアイスクリンやな」

とし子「さあ、召し上がれ」

 

とし子の姉「ねえ、おばあさん。やっぱり東京のお嫁さんはハイカラやねえ」

祖母「そら、旦那さんの趣味がええさかいな」

とし子「あら、うちの主人なんか」

祖母「いいや、ふたつき近(ちこ)うも勝手さしてくれはって、いっぺんも文句らしいことも言うてきやらへん。ほんまにええお人や。すまんこっちゃったな」

とし子「ううん。かえって、したい放題して、のうのうしてると思いますわ」

 

女中さんにはなにかいいものをあげないとという祖母と姉。キャストクレジットは、なぜか”とし子の母”になってる。

 

新聞に出てるお献立はだいたい5人前で中途半端だと滝に言う隣の奥さん。並んで歩いていたが、男の子がお菓子を欲しがり、とし子は先の電器屋まで歩いていたが、気分が悪くなり、道端でしゃがみ込んだ。隣の奥さんが気遣う。

 

池島家

絵を描いていた池島。タバコ休憩していると、隣の夫が庭で採れたというイチジクと持ってきた。日曜だというのにまた女房と険悪だと愚痴る隣の夫。しかし、おたくも大変ですなと声を潜める。「女中さんがつわりだっていうじゃありませんか」

 

池島は知らずに驚き、条件がそろっている、アリバイがないと言って困っている。

 

夫「言い訳なんかしたら、かえってやぶへびですよ。あなたは一切、口をつぐんで今のうちになんとか処理してしまうことですな」

池島「あなた、何を言ってるんですか?」

 

いや、池島も紛らわしいこと言うなよ~。

 

「殷鑑(いんかん)遠(とお)からず」という隣の夫。

戒めとすべき例はごく身近なところにあるものだというたとえ。

 

完全に誤解してるだろ!

 

家事をしている滝のもとに行った池島。「お前、どっか、悪いんじゃないのかね」なんでもなきゃいいんだとイチジクを渡して、すぐ部屋に戻った。

 

自宅近くのバスから降りたとし子に「あ~ら、奥さま」と隣の奥さんが話しかけてきた。「留守中は、いろいろごやっかいをおかけしまして」と頭を下げるとし子。隣の奥さんは、おたくの滝さんがね…と話し出した。

 

家にいた池島が滝を呼ぶ。滝は台所で倒れかかっていた。滝の背中をさすっているところにとし子帰宅。

 

「おばあさんどうだった?」と聞いた池島だが、とし子は「おかげさまで」と言ってすぐ部屋に戻り、滝は泣き出し、池島は2人の間でオロオロ。

 

とし子は庭、池島は仕事部屋、滝は裏口から出たが、とし子がいたので、表から外へ出ていった。

 

アイロンがけをするとし子。

池島「お前、疲れてるんだろう。滝にさせりゃいいじゃないか、そんなこと」

とし子「滝は出ていったようですよ」

池島「どこ行ったんだ?」

とし子「存じません」

 

池島「滝は病気だよ」

とし子「病気ならお医者さんに診てもらったらいいでしょう」

池島「おい、お前、知ってるね。あれは、つわりだよ。お前、すぐ分かったのか?」

とし子「あなたが知ってらっしゃるほうがよっぽどおかしいわ。男のくせに」

 

お互い、隣の奥さんや旦那さんから聞いて知っていた。

 

池島「ほっといて、何か不自然なことされると困るな。田舎にはよくあるよ。子どもを堕ろすために」

とし子「でも、相手がいるでしょ?」

 

池島「おい、お前、疑ってるね」

とし子「…」

池島「そうか。やっぱり俺を疑ってるんだね。お前は、ふたつき近くもうちにいなかったし、それに俺は疑われてもしかたがない人間だ。しかし、お前に疑われたからといって驚いたり、怒ったりするのも、少しそらぞらしい気がするし、それに恥ずかしいことだと思うから、俺はなんにも言わないことにするがね」

床に突っ伏して泣きだすとし子。

池島「しかし、不愉快だね」

 

桟橋を歩く池島。

 

隣の家では奥さんが東京へ行ってハッキリ証拠を握ってきたと夫を追い詰めていた。亭主の言うことより、他の者の言うことを信用するのはおかしいじゃないかと落ち着き払ったような態度でタバコを口にするが、奥さんはタバコを取り上げ、バラバラにちぎった。

 

夫「おい、くだらんヤキモチやくな。醜態だぞ」

妻「なんですって!」←すごい金切声。

夫「お…お前、まあ、お…落ち着いたらどうだい」

妻「どうして落ち着けんの。真面目なお方だと思ってた、お隣のご主人だって、女中さんと…」

夫「おい、お隣のことは、お隣のことだ。余計な世話焼くんじゃないよ」

 

池島家

食事の支度をしているとし子。散歩から戻った池島は滝を気にするが、「滝のことは俺じゃないよ」とはっきり言う。「まあ、俺は、そんなことしかねない人間だがね。俺は滝が嫌いじゃない。何かのはずみにドキドキと血が動くときもあった。しかし、それは不意に来て不意に通り抜けていくんだ。これを道徳的にどうのこうの言われてもしょうがないよ」

とし子「でも、あなた、お仙さんのときだって」

池島「そうだよ。淡い放蕩だと言われれば、それに違いないが謝れと言うなら、謝ってもいいよ。しかし、俺には家庭の調子を乱したくないという気持ちが知らず知らずのうちに働いてたんだ。俺は見え透いたウソは言わないつもりだ。お前も素直に受け入れてくれたらと思うから、少々残酷な気もするが、何もかも打ち明けてるんだよ。疑う種は、いくらでも出てくるだろうが、そのために両方で不愉快な思いをするのは、つまらないね。ちょっと押しつけがましく聞こえるかもしれないが、お前はなかなか利口なはずだからね」

 

滝が戻ってきて、とし子を台所に呼び出し、謝った。「わたくし、お暇を頂きたいと思いまして。恥ずかしくてお世話になっておられませんので、わたくし…」

 

裏の戸口に若い男が立っていた。滝と結婚するつもりで責任も持つという。

 

滝から話を聞いたとし子が「あなたじゃなかったのね」と池島に言った。

池島「ハハッ、俺じゃないよ」

とし子「ありがとう」と泣き出す。いつそれを言ってくださるか待っていた。

 

池島「2か月近くも1人でいるのは少し長かったよ。時には俺もイライラした。別に変な意味からでなくてもだよ。幸い、何事もなかったからいいが、あっても、俺だけの責任とは言えないと思ったよ。その気持ちは分かってくれるね」

 

男は帰り、滝は女中部屋に。明日の朝、滝の兄さんが正式に引き取りに来る。滝にはできるだけのことをしてやりましょうと話し合うとし子と池島。安心したとし子は震えが止まらなくなり、水を飲みに行った。

 

隣の家は男の子が泣き、何かが割れる音がする。

 

池島「お隣のことは、お隣に任しておこうよ。俺は主義が違うんだから」

 

隣の奥さんは物を投げ、暴れていた。

 

お隣は倦怠期というとし子。子どもがいなくても、お前と俺なら大丈夫だという池島。食事が済んだら海岸を散歩しようと言い、月夜の中、2人で散歩した。(終)

 

本編50分と映画としては短いけど、よくまとまった作品。

 

でもさあ、池島がもっとはっきりした態度でいたらいいのに、浮気の前科もあるせいかそういうことはしかねないかもしれないとか常に言うのはどうかと思うよ? 隣の夫婦は完全に疑ったままなんだろうな。

 

それにしても池部良さん、髪型もナチュラルだから今っぽく、かっこよかった。津島恵子さんと美男美女でお似合い。