NHK 1987年9月21日(月)
あらすじ
蝶子(古村比呂)は洋服の仕立て直しの看板を掲げやる気満々、一方泰輔(前田吟)は相変わらず覇気がない。蝶子が外で火を起こして料理していると、行商のよね(根岸明美)が声をかける。弁当を作る暇がなかったので、行商に行ってる間に米を炊いておいてほしい、と言う。炊いてやると、お礼と言って少額置いていき、また頼めるかと聞くので、引き受ける。どんどん仲間が増えて行くので、よねには商売にしたらどうだと提案され…。
2025.9.29 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
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考証:小野一成
タイトル画:安野光雅
方言指導:曽川留三子
十日市秀悦
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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北山みさ:由紀さおり
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土田よね:根岸明美
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岩崎加津子:藤重麻奈美
岩崎俊継:服部賢悟
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駅員:市川勉
復員兵:小池雄介
男:石沢徹
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行商の女:小沢悦子
関悦子
阿部光子
本庄和子
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女:生島三保子
鳳プロ
早川プロ
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
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制作:小林猛
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演出:富沢正幸
<チョッちゃんは、ついに洋服の仕立てと直しの看板を掲げました>
洋裁承ります
仕立て直しもします岩﨑
元々書いた木の看板に「仕立て直しもします」という紙を貼る。
<戦争は終わったというものの東京に帰れず、収入とてない今、何でもやらなきゃしかたありません>
駅の時刻表
早番號 摘要 發時刻 行先
東北線 上り
六、三一 宇都宮
九、一六 白河
一一、二六 上野
一三、五〇 上野
一八、一六 一ノ關
一九、三六 一戸
駅の待合室で時刻表を見つめる泰輔。
<泰輔さんは相変わらず覇気がありません>
汽車が到着し、客が降りてくる。親子連れ、行商の女性たち、復員兵…1人の男が待合室のベンチに座ると、すかさず泰輔が話しかけた。「兵隊さん、復員ですか?」
うなずく復員兵。
泰輔「東京の様子、どうでした?」
復員兵「駅の外さば出てねえすから」
泰輔「そうですか」
<ですから、チョッちゃんは頑張っているんです>
倉庫
仕立て作業している蝶子。
富子「ああ!」バケツで水を運んできた。
蝶子「すいません」
富子「ううん、水くみくらい。義姉(ねえ)さんは?」
蝶子「加津(かっ)ちゃんたちと山の方に」
富子「ああ」倉庫に入ってくる。「どうだい?」
蝶子「ん? うん…」
⚟︎男「ごめんください」
蝶子「あ、はい」
男「看板に仕立て直しとあったすけ」
蝶子「はい! いらっしゃいませ!」
男「頼めるべか?」
蝶子「はい! あの、どんな?」
風呂敷包みを開ける男。「これば普通の上着にしてもらいてえんだ」国民服。
蝶子「背広みたいに?」
男「んだんだ」
蝶子「ちょっとすいません。復員ですか?」
男「んだ」
蝶子「どこから?」
男「南方だ」
蝶子「お名前は?」
男「沢田信次郎だ」
蝶子「あ、承知しました。どうもありがとうございます!」
泰輔が駅で話してたのは復員兵役の小池雄介さん。で、蝶子に背広を頼んだ沢田信次郎役は石沢徹さん。秋田出身か、やっぱりね。東北の人ではないかと思ったよ。
富子「チョッちゃん」
蝶子「ん?」
富子「男物、できんの?」
蝶子「や、や…やってみるわよ」
富子「そう言ったって…」
蝶子「俊ちゃんのはね、作り直したことあるのよ」
富子「子供服とは違うんだから!」
蝶子「いや、同じようなもんよ。大丈夫、大丈夫。やってみるわよ!」
糸をほどく蝶子。富子も仕立て直しを手伝う。
蝶子「それでいいのよ」
富子「そうかね?」
蝶子「和裁も洋裁も縫うことに違いはないわよね」
富子「けど、私ね、『洋』ってついただけでオロオロしちゃうんだよ。『洋食』とか『洋行帰り』とか」
蝶子「いや、フフフ。けど、叔母さんに手伝ってもらうとなると、いやいや、助かる、助かる」
⚟︎みさ「ただいま!」
加津子「ただいま!」
蝶子「お帰り!」
加津子「栗だよ、栗!」
蝶子「うわぁ~!」
俊継「栗、拾ってきたんだ、栗!」
蝶子「こんなにいっぱい!?」
みさ「あっちにコロン、こっちにコロンて、まあ、いっぱい落ちてたんだ!」
富子「栗なんて久しぶりだよ~」
みさ「う~ん」
⚟︎女「ごめんください!」
蝶子「はい!」
⚟︎女「洋服の仕立て直しば頼みてんども」
蝶子「はい!」外へ
倉庫
栗を食べる一同。
加津子「おいしいね」
蝶子「うん、おいしいね」
富子「あ…」部屋の隅でうつぶせになっている泰輔に栗を持っていく。
泰輔「何だよ?」
富子「義姉さんや加津ちゃんがこうして食べ物探してきてくれてるのに、あんた、日がな一日、何やってたのさ?」
顔を伏せて寝たふりをする泰輔。
俊継「もう一個、食べていい?」
富子「ああ、いいよ、いいよ。おじさんの分もお食べ。はい!」泰輔に持っていった栗を俊継に渡す。
蝶子「あ、母さん、ハガキどうした?」
みさ「あ、あれかい? やっと1枚だけ書けた」
泰輔「何?」
蝶子「いや、知り合いに、ほら、今いるとこ知らせておかないとと思って」
みさ「ちょっと読んでみるかい?」
蝶子「うん」
泰輔は数粒残った栗を食べ始める。
みさ「したら、読みます。『皆様、お変わりありませんか? 私たちも元気です。戦争は終わりましたが、私たちは、まだ青森にいます。前、住んでた所は台風で壊れてしまったので、現在は表記の住所にいます。そこで泰輔と富子さんと6人、元気に過ごしています。それでは』」
加津子「誰に出すの?」
蝶子「石沢のおじさんでしょ? 邦ちゃん、神谷先生、中山さん、それに滝川の三代治さん」
富子「みんな、無事だといいね」
蝶子「うん」
泰輔「俺たち、この先、東京に帰れるのかね?」
誰にも答えられない問い。
⚟︎汽笛
蝶子は倉庫の前で鍋にとろろ?を入れていた。すいとん説も見かけた。私の地元だともっと固くて、ちぎって入れるものだから、すいとんとは思わなかった。
よね「あの~」
蝶子「はい?」
行商姿のよねが話しかけてきた。「この家の人すか?」
蝶子「はい」
よね「頼みあんだども、いいべか?」
蝶子「何か?」
よね「米、炊いてもらえねべか?」
蝶子「あの…」
よね「おらの昼飯ば」
蝶子「はあ?」
よね「おら、行商さ行かねばなんねえだじゃ。で、昼になったら昼飯食べて、午後からも行商だんだ。今日は弁当、作る間ねくて」
下を向く蝶子。
よね「あ、アハハ。ほれ、米は、あんだ」小さな袋を出す。
蝶子「あ、炊いておけばいいんですか?」
よね「んだんだ」
蝶子「分かりました!」
よね「んだば、頼めるすか?」
蝶子「いいですよ」
よね「いや~、助かります! んだば」
蝶子「預かります」
よね「おら、土田よねってへるんだ」
蝶子「私は岩崎です」
よね「この看板の名前だべ?」
蝶子「はい!」
よね「んだば!」
蝶子「行ってらっしゃい! 行ってらっしゃい」
富子も倉庫の中から出てきた。「お昼ごはんがお米とは豪勢だねえ」
女「あの…仕立て直し、いいべかなす?」
蝶子「はい! どうぞどうぞ!」
富子「どうぞどうぞ!」
蝶子「失礼します」預かった風呂敷包みを開ける。
釜で炊かれたごはん。
蝶子「少し冷めたかもしれませんけど」
よね「いや~、悪かったなす」
蝶子「いいえ」空の弁当箱を開けるよねに茶碗としゃもじを渡す。
よね「何から何まで」
蝶子「あ、いいえ。あの、お茶もありますんで、ご遠慮なく」
よね「ご親切に」
蝶子「ごゆっくり」
みさ、富子、泰輔は何となくよねの食事が気になる。
よね「奥さんたちは、どこから?」
蝶子「東京です」
よね「んだすか」
蝶子「おばさんは?」
よね「八戸でなす」
蝶子「大変ですね」
よね「なんも」
口々に「ごちそうさま」と言って食事を終える蝶子たち。富子が食器を流しに持っていく。
蝶子「おばさん、お茶は?」
よね「あ、もらえるすか?」
蝶子「はい」お茶を注ぐ。
よね「うん…」
蝶子「おばさんのうちは漁師さん?」
よね「父ちゃんがんだ」←”父ちゃん、ガンだ”じゃなく”父ちゃんが、んだ”ね。
蝶子「ふ~ん」
ごはんをかきこむよねをうらやましそうに見る泰輔、富子、みさ。
よね「うん、ごちそうさん!」
蝶子「はい」
手早く片付け始めるよね。
蝶子「また、行商?」
よね「んだ」財布からお札を出す。「あ、お礼っこだすけ」
蝶子「いや、あの、そんなつもりじゃ」
よね「おらもただで頼むつもりなかったすけ」
蝶子「けど…」
よね「米も研いでもらった。たきぎも使わせた。釜も洗わせるべ。取ってもらわねば困るじゃ」蝶子の手にお札を握らせる。
蝶子「あ…あの…あの…」よねが荷物を背負うのを手伝う。
よね「あ~、ありがと!」立ち去る。
蝶子「どうも」
戻ってくるよね。「あ、奥さん、また頼んでもいいすか?」
蝶子「ああ、そりゃあ、もう、はい!」
よね「うん」
蝶子「どうもありがとうございました!」嬉しさが隠し切れない。
女の人だから家事の大変さ、分かるもんね。
<それから、よねさんは行商に来る度にチョッちゃんに飯炊きを頼むようになりました>
行商の女性が2人蝶子を訪ねた。「すみません。土田よねさんに聞いてきたんだども」
行商の女B「このうちだば、飯炊き頼めるってなす?」
行商の女A「いいべか?」
行商の女B「なんとか頼みやす」
蝶子「けど、釜が一つしか…」
行商の女A「なんもなんも。2人分いっぺんに炊いてもらっていいすけ」
行商の女B「んだんだ」
富子と顔を見合わせる蝶子。「分かりました」
行商の女B「よかった!」
行商の女A「んだば、米っこ」
蝶子「預かります」
行商の女A「頼むっす」
蝶子「行ってらっしゃい!」
行商の女、小沢悦子さんは秋田出身で「おしん」「はね駒」にも出演。関悦子さんは「別れて生きる時も」で美智の新婚時代のお隣さん。京都人なのよね。
<こんなことが何度かあり、そのうち…>
行商の女性たちが数人集まる。「なんとかなんねえべか?」
「頼んます!」
蝶子「こんな大勢だと鍋や釜や七輪もないし…」
行商の女「んだすか…」
泰輔「チョッちゃん! 鍋釜は俺がなんとか探してみるよ」
蝶子「ある?」
泰輔「探しゃ、どっかにあるだろう。引き受けておあげよ」
行商の女「頼みやんす!」
行商の女「頼んます!」
蝶子「いや、数が多いので炊きたてというわけにはいきませんけど、いいですか?」
行商の女C「おらは、かまわねども」
行商の女D「炊いてもらうだけでいいですけ」
行商の女B「んだんだ」
蝶子「分かりました。引き受けましょう!」
一同の歓声
⚟︎汽笛
泰輔は一斗缶に穴を開け、即席のカマド作り? 加津子、俊継が見守る。
蝶子「あ、美江さんとウメさんね。それで、よねさんと信江さんが私と。叔母さん、これ、2つ」預かった米の入った小袋を富子に渡す。
富子「はい」米をかまどに入れる。
即席かまどに火を起こし、泰輔がうちわであおぐ。「強く強く、吹いて」
みさがせきこむ。
泰輔「吸っちゃったんだろ! 吹かなきゃダメなんだよ。鼻から吸って、口から吹くと。フ~ッと!」
蝶子たちの住む倉庫の前で6~7人の行商の女性たちが食事をとり、蝶子がお茶をいれる。
よね「奥さん」
蝶子「はい?」
よね「みんなから集めた分だ」お札を手渡す。
蝶子「こんなに!?」
よね「集めだっきゃ、こうなったんだ」
蝶子「けど…」
行商の女C「これからもずっと頼みたいもんだなす」
よね「みんな、喜んでるすけ」
行商の女「頼みます!」
よね「いっそのこと、飯炊きば商売にしたらいがべえ」
賛同する声
蝶子は台所にいた富子、みさのところへ。「いやいやいや、いや~」お札を見せる。「…商売?」
ちゃぶ台の上にお札を置き、見つめる蝶子たち。蝶子はその場を離れて子供たちに布団をかけ直した。
泰輔「よし、やろう! うん! よねさんたちが賛成してくれたんだ。商売としてやろうじゃないか」
富子「商売として割り切った方が遠慮なくやれるかもしれないね」
泰輔「今日みたいに手分けしてやれば、なんとかできるって」
みさ「そうだね」
富子「一日中、忙しいわけじゃないし、チョッちゃんは洋裁の方もできる」
蝶子「でも、行商の人たち増えてきたら鍋や釜、足りなくなるわよ」
泰輔「そいつは俺に任せろ!」
蝶子「やろう」
<…ということになりました>(つづく)
泰輔がいるのが心強い。やっぱ、男手がないと。「おしん」のときみたいに変な客が来ると困るので昼間だけの営業がいいと思う。
