徒然好きなもの

ドラマの感想など

【ネタバレ】新しい背広

1957年 日本

 

あらすじ

戦争の影を引きずる男女の恋の顛末を、美しき兄弟愛なども絡めて描く人間ドラマ。シリーズ化された「サラリーマン太閤記」でも筧監督と組む小林桂樹が、結婚に踏み切れない貧しくも弟想いの兄の葛藤を巧演。設計事務所で働く隆太郎(小林桂樹)は、同僚の綾子(八千草薫)との結婚を夢見つつ、終戦直後に台湾で両親を亡くし、二人きりで生きてきた秀才の弟・泰助(久保明)の受験を控えて悩みを深めていたが、同じく母と二人暮らしの綾子に背中を押される。

2025.9.10 日本映画専門チャンネル録画

 

蔵出し名画座

評論家川本三郎こう観た

 

原作者は映画化もされた「足摺岬」「銀心中」で知られる田宮虎彦

主演の小林桂樹が作品を読んで感動し、自ら会社(東宝)に企画を持ち込んで実現した。

監督は小林桂樹主演でシリーズ化された「サラリーマン出世太閤記」の筧正典。成瀬巳喜男の助監督を務めた人で生活描写が丁寧。

戦争で両親を失った兄弟の苦しい生活のなかの兄弟愛をさわやかに描いている。大学に行きたいという夢を持つ弟。その夢を叶えさせるためには兄は恋人との結婚を延ばさなければならない。三人それぞれの悩みを優しくとらえている。

昭和三十年代のはじめ。日本がまだ貧しかった時代の若者たちの青春はけなげだった。兄弟が部屋を借りている家があるのは井の頭線池ノ上駅近く。恋人の家は同線の高井戸駅近く。また兄と恋人が働く設計事務所があるのは四谷。新しくなる前の聖イグナチオ教会がとらえられているのが懐かしい。

父親の仕事の関係で兄弟が台湾で育ったというのも興味深い。兄弟の家の家主を演じる俳優座のベテラン、岸輝子が笑わせてくれる。

 

田宮虎彦って聞いたことあるなと思ったら、「別れて生きる時も」の原作者だった。

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1970年代くらいまでは、たくさんの作品が映画やドラマ化されている。解説では一切、ダイヤモンド・シリーズには触れられてなかったな。

 

文 部 省 特 選

東京都教育委員会 選定

映倫青少年映画審議会 推薦

母の会連合会 特薦

主婦連合会 推薦

東京都地域婦人団体連盟 推薦

機関紙映画クラブ 推薦

東京映画愛好会連合 推薦

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東宝株式会社

*

製作:金子正且

*

原作:田宮虎彦

脚色:沢村勉

*

音楽:馬渡誠一

*

斎藤隆太郎:小林桂樹…字幕黄色

斎藤泰助:久保明

吉崎綾子:八千草薫…字幕水色

*

三浦:佐原健二

叔父保昌:北沢彪

森山しげ:岸輝子

常子:夏川静江

のぶ:中北千枝子

*

寺尾:清水一郎

池田鶴吉:瀬良明

久保賢

及川先生:今泉廉

紺野加代:藤波洸子

叔母かね:水の也清美

*

母ミツ:三田照子

娘君枝:岩本紀子

津田一馬

春日井宏往

のぶの子供:岩瀬一男

父隆信:草間璋夫

*

息子邦夫:谷川勝己

大友博義

関口淳

水谷勇

佐藤紘

上野明美

*

監督:筧正典 

 

池ノ上駅

雨の日、電車を降りた隆太郎は傘もささずに帰宅。家主のしげに部屋代を渡し、自室に戻った。弟の泰助は、肘が抜けた隆太郎のスーツを繕う。隆太郎は会社に傘を忘れ、安物の靴も底に穴が開いた。

 

泰助やしげの娘・君枝にしょうゆを借りに行き、明日返すと約束した。

 

しげが”受け取り”を持って部屋に入って来た。領収書ってことかな? 泰助が針仕事してるのを見て、嫌がるが、泰助は、これでも小学校で裁縫を習ったと気にしない。

 

隆太郎は30歳。しげは早くお嫁さんをもらった方がいい、男やもめに蛆がわくと言って笑う。泰介がしょうゆを借りたことも聞いていて、明日返すんですよと念を押し、出ていった。

 

しげさんは「おやじ太鼓」のイネさん。

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「おやじ太鼓」の11年前なのでちょっと若いけど、声は変わらない。

 

風の強い日になると台湾にいた頃を思い出すと言う隆太郎と泰助…”たいすけ”と思ったら”やすすけ”だって。言いづらい名前。

 

風の強い次の日は庭にパパイヤがたくさん転がっていた。家の庭にもバナナの木があった、と話していると、泰助は父さんや母さんが生きていたらなあと本音を漏らす。

 

泰助は今年、高校卒業だが、大学へ行っちゃいけない?と隆太郎に聞く。先生に東大を勧められた。と、東大!? そりゃまたすごい。泰助はアルバイトで肉体労働やってでも行きたいから、このうちに置いてほしいと頼んだ。

 

隆太郎は家にいるのは当たり前だが、働き口があるかどうかと心配する。教科書は高等学校の倍はする。しかし、隆太郎も大学へ行かしてやりたい気持ちはある。

 

綾子が池ノ上駅を降り、砂利の坂道を歩いて、隆太郎の下宿先へ。綾子は隆太郎に傘を借りていて返しに来たが、隆太郎は既に出勤していた。

 

しげは庭に逃げた鶏を小屋に入れた。夜店で買ったひよこ10羽のうち、雌鶏は3羽だけ。あとは大きなとさかが生えてきたと言う。しげの息子の邦夫は、さっさと殺して食っちゃおうぜと言うのだが、娘の君枝は絶対ダメと止めた。

 

綾子は寝坊した泰助に傘と風呂敷包みを渡して帰った。

 

杉山建築設計事務所

割と大きい事務所。綾子は8分遅刻よ、と隆太郎に言う。隆太郎は、よそへ行ってきたと詳しく言わず、デスクでパンを食べ始めた。

 

同僚の三浦は23歳で結婚すると言うので、隆太郎の所に加代が100円を徴収しに来た。結婚をうらやましがる加代に寺尾という社員が結婚したら女は女房の座に納まればいいと言うが、加代は3人も家族をしょっていて、その3人まで養ってくれる男の人なんていないから簡単に結婚はできないと言う。

 

加代が言い返したことにやられましたねと笑う三浦と寺尾。斎藤君と結婚したら君も辞表書かされちゃうよと綾子に言う寺尾自身は結婚が遅く、苦労したらしい。綾子は母と2人暮らし。

 

泰助の通う高校で東大も模擬テストの結果が発表された。結果は2位。泰助は兄も承知してくれたと先生に言い、東大を受けると宣言した。

 

会社帰り、野球のユニフォームに着替えた三浦が隆太郎を昭和セメントとの試合に誘ったが、隆太郎は総務の中村さんを誘ってと言って断った。心配になった綾子は隆太郎の後を追う。

 

三浦が佐原健二さんか~。へ~。

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若い頃はゴジラモスラなどの特撮作品に多く出てたから、あんまり見たことなかったんだな。「さらばラバウル」はノンクレジットで特攻隊員として出演してたらしい。

 

隆太郎は綾子を映画に誘うが、綾子は1時から歯医者に行く。金を入れるから、健康保険でもお金はかかる。そうそう、土曜日だから半ドンなんだね。

 

明日はハイキングに行こうと約束する。2人ともお金がない。

 

帰りの電車で肘がボロボロのスーツを見た綾子は洋服の生地を持っていったから、見てほしいと言う。綾子の知り合いで仕立て代込みで8000円でスーツを作ってくれる人がいる。明日の10時、井の頭の駅でと言って別れた2人。

 

隆太郎が帰宅し、洋服の生地を広げて見た。しげは結婚のお仕度でしょう?と一緒に見始めた。

 

泰助は学校帰りに叔父の保昌の所へ寄った。来年は卒業でアルバイトして東大へ行きたいと話すと、兄さんは賛成なのか?と聞いてきた。兄には反対されている、でも何か仕事をさせてくださいとお願いした。

 

道でホッピングする子供たち。隆太郎は、綾子の家を訪ねた。吉崎家にいたのぶにまだ帰ってないと言われたものの、すぐ綾子が帰ってきた。のぶと夫の鶴吉が出てきたが、隆太郎は背広を作るのをやめようと思って…と生地を返した。

 

やっぱり泰助を大学に行かせようと思ってと話し、僕も大学行きたかったからなあという。のぶたちは一度に払わなくてもいいなどと食い下がるが、隆太郎は背広作りは断った。

 

のぶたちは台湾の引揚者で、さっき道端にいた子供たちの中で一人だけホッピングを持っていない子供が、のぶたちの子供だった。のぶたちは高雄、隆太郎は台北にいた。父が砂糖会社に勤めていて、昭和17年にマニラに支社ができて、転勤になったため、隆太郎と泰助だけ日本に帰ってきた。

 

両親はフィリッピンの戦争で亡くなった。山の中に逃げ込んで餓死…え…

 

基隆(キールン)の波止場で別れる時、これで最後のような気がした隆太郎。泰助はまだ幼く船に乗るのを楽しみにしていた。隆太郎もまだ学生なのに、よく2人で帰したな。回想シーンで学生服の隆太郎とまだ幼い泰助と両親の隆信とミツの別れのシーン。さすがにここのシーンは小林桂樹さんではない。隆太郎が今、30で泰助が18だから、一回り違うのか。

 

保昌から日本に帰ってきたのは泰助5歳の時で、それ以来、兄さんが育ててくれたのだから、兄さんの言うことは素直に聞かなきゃいけないよと諭す。中学も高等学校も隆太郎が泰助の進学に一生懸命だった。

 

教育大学附属中学校に入学した泰助と一緒に合格発表を見に行った隆太郎。合格祝いに2人で五目そばを食べに行った。お金の心配する泰助に隆太郎は今日は会社から金を借りてきたと胸をたたいて、2杯目の五目そばは2人で分け合って食べた。ここも泰助は坊主頭の子役。短い映画の回想シーンでいちいち子役を変えるのが珍しい。

 

キャストクレジットの役名の分からない人たちは子役の子かな?

 

綾子は隆太郎がこれから4年、弟のために働くと分かり、偉いと思う反面、複雑。

 

保昌とかねは泰助に隆太郎を結婚させようと思っていたが、今朝、隆太郎が訪れて、同じ会社の吉崎さんという好きな人がいると言って、見合いを断った。かねは隆太郎は結婚するつもりだから、泰助の進学を反対したのではないかと推察した。

 

叔父の所に税務署の所から督促が来ていた。玄関に向かいながら、いい加減兄さんを解放してやるんだなと泰助にいう。

 

綾子は夕食を勧めたが、隆太郎は弟が待っていると断った。綾子の母は綾子が結婚したら出ていってくださいと、のぶたちに言っていたので、のぶは「あなた、あの方と結婚なさるんですか?」と綾子に聞いた。貸間を探さないといけないが権利金が高い。

 

隆太郎を送りがてら、結婚後も母と一緒に暮らすつもりだと話す綾子。私は一生結婚できないかもしれない。親一人子一人は面倒。しかし、父が生きていたら、綾子も終戦まで青島(チンタオ)にいて、洋服屋さんと同じ境遇だったかもしれないと話す。

 

何年前に引き揚げてきたのか知らないけど、1957年ということは戦後10年以上経ってるのに、それでもまだ自分の家を借りるのもままならないというのが厳しいなあ。

 

隆太郎は綾子に結婚を申し込もうと思っていた。今日言おうか、明日言おうか。弟が働けば、余裕ができ、綾子が会社を辞めてもやっていけると思った。しかし、弟が大学に行くなら、4年待ってほしいと言う。4年待てば、綾子は26歳。他にいい人ができるかもしれないと綾子は心配するが、隆太郎も34になり、君だけが年取るわけじゃないと答えた。まあまあの年の差だね。

 

しかし、結婚が決まったことに喜んだ隆太郎は明日、婚約旅行に相模湖へ行こうと誘った。9時に吉祥寺駅で。

 

自宅に戻った綾子。石段の途中に池田洋服店の看板が出てる。母の常子が帰ってきていた。綾子は父の洋服を隆太郎にあげたいと言う。隆太郎は170センチ。常子は「尺で言うと?」と聞く。5尺6寸でお父さんと同じくらい。

 

帰り道、泰助と合流した隆太郎。泰助はマヨネーズを買って、これからサラダを作ると言う。肉屋でしげに会うと、しげは君枝にナイショで雄鶏を1羽潰してもらったと話した。

 

家に帰ると、泰助は叔父のところで使ってもらい、働いて余裕ができたら夜間の大学に行くつもりだと言う。学校だけが勉強の場じゃない。それより、兄さんは早く結婚した方がいい。

 

夜、隆太郎は「兄さん、結婚していいのか?」と聞く。泰助は隆太郎が結婚したら叔父の所に住み込むつもりだと言う。隆太郎は泰助のために新しい背広を作ってやると言うと、泰助は布団をかぶって泣いた。

 

君枝は鶏小屋の鶏が減っていたことに気付き、しげを呼びに行った。

 

そこに綾子が大きな風呂敷包みを持ってきた。サンドイッチを作るという約束をしていたので隆太郎は「サンドイッチ?」と聞くが、大きくて平たい箱だよ! 鶏小屋の鶏が逃げてしまい、しげ、泰助、君枝が家の外まで逃げた鶏を追いかけた。(終)

 

えっっっ!! こんな終わり!

 

物語は金曜の夜から日曜日の朝までというコンパクトさ。映画の上映時間も57分と短い。今なら泰助は働きながら奨学金を借りて東大に行けるだろうし、綾子も仕事を辞めなくてもいいだろう。あの仕立て屋夫婦はどうなるかな?

 

小林桂樹さんと八千草薫さんの組み合わせは何度か見ている。

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ここでは中年夫婦。

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でもこっちの映画だと戦災孤児を育て上げ、結婚する男という組み合わせで、ちょっとキモ!って思っちゃったんだよね。役では一回りくらい違う設定だった。

 

小林桂樹さんは大正12/1923年生まれ、八千草薫さんは昭和6/1931年生まれとこの映画の役設定と同じ年の差か。当時34歳と26歳。

 

若い頃恋人役で年取って夫婦役やれるってお互い芸能界に残ってて、同じくらい売れてて…となかなか難しいのに、八千草薫さんは鶴田浩二さんとも若い頃と年取ってから共演してて、すごいなあ。