NHK 1987年8月14日(金)
あらすじ
昭和16年の11月。邦子(宮崎萬純)の結婚式の後、岩崎家に帰ってきた、蝶子(古村比呂)、要(世良公則)、神谷(役所広司)。やはり家に帰って食事するという神谷を見送りに出てきた安乃(貝ますみ)。神谷は安乃をデートに誘う。結婚相手の大川(丹波義隆)を連れて挨拶に来た邦子を誘い、神谷の家に、安乃と結婚するように説得しに行く。最初は年の差もあり断った神谷だが、熱心に説得され、頼介(杉本哲太)に会いに行き…
2025.8.22 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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中山音吉:片岡鶴太郎
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彦坂頼介:杉本哲太
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大川邦子:宮崎萬純
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大川信吾:丹波義隆
岩崎加津子:椎野愛
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中山はる:曽川留三子
彦坂安乃:貝ますみ
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岩崎雅紀(まさのり):河野純平
早川プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
”大川”邦子になってる!
<11月になり、すっかり秋です。今日は邦子さんの結婚式だったのです>
はるが家の前を掃いていると、蝶子たちが帰ってきた。
はる「お帰り!」
蝶子「ただいま」
神谷「こんにちは」
はる「こんにちは」
要「先生、どうぞ」
蝶子「これ、はるさんのうちの分」折詰を渡す。
はる「うちにまで? いただきます」
岩崎家茶の間
要「文金高島田か…。いや~、いいもんですねえ」
神谷「いや~、似合ってましたね」
蝶子「私の時は?」
神谷「いや、あん時も大した似合ってた」
蝶子「ウフフフ」
要「え、何?」
蝶子「私の高島田」
要「いつの?」
蝶子「『いつ』って…」
神谷「あれ?」
安乃「あの…」
要「ん?」
安乃「あの時は蝶子さんが高島田の時は要さん、いらっしゃいませんでした」
蝶子「あ、そうだ!」
神谷「ああ…!」
要「いや、でも、あの日の夜、うちについた時、確か、君、高島田つけて衣装、着てたか」
蝶子「花嫁姿、見たことは見たんだ」
要「ああ…。いや、でもね、あの時、どこの芸者が来てるのかと思ったんだよ」
神谷と要が笑う。
蝶子「式にも出ないで、何言うのよ!」
神谷「したけど、式は挙げんでも夫婦には、なってるんだから」
蝶子「結婚写真もないのよ」
要「え? 写真、ないか?」
神谷「いや、それは、うまくない」
要「まずいですか?」
神谷「いや、私なら式は挙げんでも写真は残しときたいもね」
安乃「へえ…」
安乃の反応をチラ見する蝶子。
要「そうか、写真もないのか」
蝶子「うん」
せきばらいする神谷。「…あ、私、やっぱし帰るわ」
要「え?」
蝶子「晩ごはん、食べてってください」
神谷「いや、したけど、考えてみたら折詰もあるし。部屋帰って食べることにするわ」
要「いいんですか?」
神谷「はい。…したら」
蝶子「私はここで」
神谷「なんも、なんも」
蝶子「安乃ちゃん、お送りして」
安乃「はい」
神谷「したら」
要「あ、では…」
神谷先生と安乃が茶の間から出ていく。
要「おい、送って出なくていいのか?」
蝶子「鈍いわね」
要「あ?」
蝶子「2人にしてるのよ。2人にしてるの!」
要「?」
笑顔でうなずく蝶子。
玄関前で折詰を神谷先生に渡す安乃。
帰りかけた神谷先生が立ち止まる。「ああ…」
安乃「?」
神谷「あ、いや…」
安乃「先生?」
神谷「ん?」
安乃「明日、何か用事とかあるんですか?」
神谷「なんも」
安乃「私も」
せきばらいする神谷。「安乃ちゃんは、え~と…」
安乃「はい?」
神谷「明日は、え~と…休みかい?」
安乃「休みです」
神谷「何かあれかい? 予定っちゅうか、そういうもんはあるんかい?」
安乃「なんも」
神谷「したら…」
安乃「はい?」
神谷「映画でも見に行くかい?」
うつむいて泣きそう?になる安乃。
神谷「いやいや、そういう暗いとこでなくていいんだ。日劇でも帝劇でもいいし、いや、浅草だって、いいんだ」
涙を拭く安乃。
神谷「いや、あれだ。何やかやと日頃、世話になってるお礼に…」断られたと思い?「したら…」と歩き出す。
安乃「あの! 明日、待ち合わせは、どこで?」
神谷「あ、いやいや、いやいやいや、それを決めんきゃ、どうにもならんもね」
安乃「はい!」
神谷「いや~、どこにするべ?」走って戻ってくる。
安乃「どこでも」
神谷「う~ん、したら、銀座! 泉のあったとこ」
安乃「はい!」
神谷「うん。…したら!」また歩き出す。
安乃「あっ、あの、時間?」
神谷「ああ、そうだわ、時間!」走って戻る。「10時」
安乃「はい!」
神谷「うん。したら」
去っていく神谷先生に頭を下げて見送る安乃…を見ていた中山夫婦。今日の鶴ちゃんは、ここだけだったか!
蝶子の前では見せなかっただけかもしれないけど、神谷先生の照れてる感じが対邦子だとあまり見られなかったから新鮮。ずっと邦子のことは生徒としか思ってない感じ、に見えていた。
野々村家茶の間
寝転がってくつろいでいる要。
雅紀「早く、やれ!」
⚟︎加津子「こんにちは」
富子「はいは~い!」
泰輔「お~、来た来た」こっちも寝っ転がってる。
寝転がったまま障子を開ける要。「来た! ハハハハハ」
雅紀「からになったら!」と富子に話してかけてる。俊継は立ち上がって謎踊り。
蝶子「何よ、2人とも」
要「随分、早かったな」
蝶子「診察、すぐ済んだの」
要「ああ、そうか」
泰輔「ふ~ん」
加津子「探検に行こう、マーちゃん、俊ちゃん! 探検に行こう!」弟たちを連れて2階へ。
要「行ってこい、行ってこい」
富子「ホントにいつまでゴロゴロしてんだよ!」
要「あ~!」大きく伸びをする。
泰輔「大きな声、出すなよ」起き上がる。
富子「そうだ、チョッちゃん」
蝶子「何?」
富子「神谷先生と安乃ちゃん、時々、2人だけで会ってるらしいよ」
蝶子「ホント?」
富子「ね?」
泰輔「ああ、俺は顔見なかったんだけどね、おとつい、2人で泰明座に来たらしいよ」
要「へえ…」
蝶子「なるほど。ひそかに進展はしてるんだ」
泰輔「ん? 何よ、2人はそういう仲か?」
蝶子「そうなればいいなって、私は思ってるの」
富子「ねえ、安乃ちゃんと先生、くっつけちゃおう!」
泰輔「バカ野郎。ノリでくっつけるわけにいくかい!」
蝶子「私は、くっつけようと思うの」
せきばらいする要。「いや、しかし、その肝心の2人の気持ちっていうのは、どうなんだ?」
蝶子「気持ちは、もう出来上がってると私は見る」
⚟︎戸が開く音
⚟︎連平「ちは~!」
富子「お入り!」
連平「ちは!」
要「よっ!」
連平「おや、おそろいで何事?」
泰輔「色っぽい話」
連平「よう!」
富子「神谷先生とね、安乃ちゃんをくっつけちゃおうって話」
連平「何だ」
蝶子「連平さんにも協力してほしいな」
連平「おあいにく。あたし、今、それどころじゃないの。女の魔の手から、どうやって逃げようかと思ってさ」
要「カ~ッ、ウソつけ!」
連平「ホントよ」
泰輔「悪さしたんだろ」
連平「違いますよ! 何を勘違いしたかね、女の方から言い寄ってきたの」
泰輔「へえ」
蝶子「あ、もしかして、看護婦のたまさん?」
連平「!」
蝶子「病院行ったら、連平さんのこと聞かれたのよ」
連平「何つってた?」
蝶子「『住まいを替えたのか』とか」
連平「はあ…」
要「へえ、住まいにまで呼ぶ仲か」
連平「いや、違う違う、違う違う」
蝶子「でも、たまさんは知ってたわよ」
要「ふ~ん」
連平「うん、住所教えたからね」
要「ああ、それは魂胆があったから教えたんだろ?」
連平「違うの! あのね、無理やり白状させられたの」
泰輔「お前さんね、女に追いかけられるなんてことは、めったにないんだからさ、ここいらで身固めたらどうだ?」
富子「そうだね」
連平「嫌ですよ、そんな…」
蝶子「よし! くっつけよう」
連平「ちょっとチョッちゃん、やめてよ!」
蝶子「安乃ちゃんと先生の方」
一同の笑い声
泰輔「勘違いだよ!」
前回、たまさんと立って並んだ時も思ったけど、意外と連平さん、でかい。
岩崎家
台所で洗い物する安乃。
⚟︎大川「先日は、わざわざ式においでくださりありがとうございました」
茶の間
蝶子「どう? 落ち着いた?」
邦子「ウフフ、まだよ」
大川「なかなか」
蝶子「やっぱり」
大川「あの…」
蝶子「はい」
大川「結婚のこと、満州の道郎君にも知らせました」
驚く蝶子が邦子を見るとうなずき、蝶子もうなずく。
お茶を運んできた安乃。「おめでとうございました」
邦子「どうもありがとう。今度は安乃ちゃんの番」
はにかみながら台所へ戻る安乃。
蝶子「そのことでね、邦ちゃんに話あったのよ」
邦子「!?」
<その、何日かあとのことです>
神谷の部屋
蝶子と邦子が並んで座り、どちらが切り出すか小突きあっている。
神谷「なした?」
蝶子「先生、結婚してください」
神谷「ん?」
蝶子「安乃ちゃんと」
神谷「いやいや、何、言うかと思ったら…」急に手に持っていた原稿にキリで穴を開け始める。
邦子「安乃ちゃんのこと嫌いですか?」
神谷「なんも。嫌いなわけではない」
蝶子「安乃ちゃんは先生のこと好きだと思います」
神谷「いやいや…」
蝶子「恋してると思います」
邦子「いくらチョッちゃんのお母さんに言いつかったといっても、先生の食事作ったり、洗濯したり、部屋の掃除もしてるって聞きました」
蝶子「男一人の部屋とは思えないもね」
邦子「そういうことを続けるっていうのは好きでなきゃできませんよ。安乃ちゃんの気持ちは先生も気付いてるんでしょ?」
神谷「いや…したけど、こういうことは他人に言われて決めることではないんだわ。自分の道は自分で決める。君たちにもそういう教育してきたべ」
蝶子「じゃあ、決めてください」
神谷「むちゃ言うんでない」
邦子「安乃ちゃんでは嫌だということですか?」
蝶子「嫌なことを私たちが押しつけると言うなら、それはむちゃだし、先生の教えにも反するとは思いますが…」
邦子「先生は嫌じゃないはずです」
蝶子「私たちは、だから、先生の決断を促してるだけです」
神谷「そんなこと言われても…」
蝶子「先生!」
横を向く神谷先生。
蝶子「10年後、先生はいくつ?」
神谷「49」
蝶子「その年になって独り暮らししてる姿、想像してください。朝、のそっと起きる。例えば『いい天気だな』って、つぶやいても返事してくれる人もいない。夕方、外の仕事から帰る。『お帰り』って言う人もいないから『ただいま』っていう言葉も忘れる。食事を作る。1人分の食事。時には少し残したりもする。そういう時、誰かいたら残すこともないのになと思う。病気になる。看病する人もいない。医者も呼べない。薬ものめない。50男がそういう生活してると思ったら、私たち教え子としては切なくて、切なくて、どうしようもないもね。先生が安乃ちゃんを嫌でないなら何としても一緒になってほしいんだ」
神谷「したけど…」
邦子「はい?」
神谷「私には生活力というか稼ぎがあまり…」
蝶子「『一人口は食べられなくても二人口は』って言うでしょ?」
神谷「それに年の差も…」
蝶子「『亀の甲より年の功』です!」
邦子「こんな時、使うことわざでない」
蝶子「あ、そうだね」
邦子「そういうことを安乃ちゃんさえ承知ならいいんかい?」
神谷「…」
蝶子「先生、返事」
うなずく神谷先生。
岩崎家茶の間
頼介「こんな妹でかまいませんか?」
神谷「是非」
頼介「神谷先生なら自分に異存はありません」
蝶子「よかったね」
うなずく安乃。
神谷と頼介が向き合って座り、神谷の後方に蝶子と要。頼介の隣に安乃。
頼介「先生」
神谷「はい」
なが~い間があって、手をつき、頭を下げる頼介。「よろしくお願いします」
神谷「はい」
岩崎家の庭の池に落ち葉が浮かぶ。縁側に並んで座る蝶子と要。
蝶子「落ち着くところに人が落ち着くと、うれしいのと一緒に何だか気も抜けるわね」
要「う~ん、そうかね」
蝶子「どうして?」
要「ん? 秋だからね」
要を見てほほ笑む蝶子。
要「フフッ」
庭を眺める蝶子と要。
要「うちに芋、あったか?」
蝶子「あるけど」
要「加津(かっ)ちゃん、マーちゃん、おいで! 焼き芋、作るぞ!」
⚟︎加津子「焼き芋?」
要「ああ!」
子供たちが庭に出てくる。
要「はい、落ち葉を集めてね、庭で火をたくから。ほら。始め!」
<緊迫する世情とは裏腹に岩崎家は、のどかな秋の夕暮れです。しかし、この少~し先、思いもかけないことが待ち受けていることは、チョッちゃんには分かるはずもありません>
枝についていた枯れ葉が落ちる。(つづく)
結婚の圧! だけど、これは昭和の話だから当然。こうやってちょっと煮え切らないような人もバンバンくっつけてたから結婚してる人が多かったんだろうね。今の時代も周りの後押しがあれば結婚していた人もいるんだろう。
頼介があっさり許したのは自分に何かあったらという気持ちがあるからなのか。同じ北海道出身というのもあるかもね。いや、これは前々から私がうらやましいと感じる地元が一緒の人と東京で結婚生活を送るというケースだから、余計、そう思うのかも。
