NHK 1987年7月27日(月)
あらすじ
蝶子(古村比呂)が長女・加津子(椎野愛)とともに新しい学校の面接に出かけて半日が過ぎようとしていた。心配する要(世良公則)ら家族たち。面接の結果が待ちきれない神谷(役所広司)やお向かいの大工・中山音吉(片岡鶴太郎)・はる(曽川留三子)夫妻も一緒に帰りを待つ。ようやく帰ってきた蝶子は、安堵の表情を浮かべ、入学が決まったと報告する。加津子は校長先生とふたりきりで4時間もお話をしたのだと聞き、皆は驚く。
2025.8.4 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
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考証:小野一成
タイトル画:安野光雅
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バイオリン指導:磯恒男
黒柳紀明
方言指導:曽川留三子
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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中山音吉:片岡鶴太郎
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山口信江:岡本舞
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中山はる:曽川留三子
岩崎加津子:椎野愛
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彦坂安乃:貝ますみ
岩崎雅紀(まさのり):河野純平
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鳳プロ
早川プロ
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神谷容(いるる):役所広司
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制作:小林猛
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演出:清水満
先日の邦子の「28歳」発言について
モデルになった黒柳朝さんは明治43/1910年生まれ
大正12/1923年 岩見沢高等女学校入学
ドラマだと
初回、昭和2/1927年の年末で蝶子は16歳。となると明治44/1911年生まれになる…のに、卒業証書がモデルと同じ明治43年生まれとなっていたので矛盾が生まれてしまった…のかな?という結論。まだ4月だし、蝶子も邦子も誕生日が来てなくて28歳。これなら納得。
<この前、加津子ちゃんの担任の先生に2度目の呼び出しを受けたチョッちゃんは加津子ちゃんが周りにいかに迷惑をかけているかをさんざん聞かされたあげく、事実上の退学命令を言い渡されてしまったんです>
95話の回想シーン。担任の先生は回想シーンのみの出演か。
<チョッちゃんと要さんは話し合いました。話し合った結果、加津子という人間を理解してくれる学校を探すことになり、小学校1年生にして加津子ちゃんは退学になったのです>
某掲示板で見かけたのですが、最初に入学した学校が徒歩圏内だけど越境入学した進学校だったそうで、普通の公立小学校じゃないのなら”退学”というのも納得がいきました。
<そして、この日、チョッちゃんと加津子ちゃんは杉山学園の校長先生との面接に出かけていきました>
蝶子と加津子を玄関を出て見送る要。「おう、行ってらっしゃい!」
加津子「行ってきま~す!」後ろを向いて歩き、倒れそうになる。
蝶子「あ~!」
要「あっ…!」
岩崎家茶の間
俊継を抱っこし、雅紀がコリントゲームをしているのを見ている要。
柱時計は2時15分。
⚟︎神谷「こんにちは!」
要「はい!」
台所から安乃が出てくる。「私が…」
要「いいよ、いいよ、神谷先生だよ。どうぞ!」
玄関
神谷「失礼します!」
安乃「いらっしゃい」
神谷「やあ!」
茶の間
要「あ、これは」
神谷「面接の結果が気になって」
要「まだ帰らないんですよ」
安乃が座布団を敷く。
要「どうぞ。9時に出たんですけどね」
神谷「2時過ぎか…」
要「あ、先生、昼ごはんは?」
神谷「まだ」
要「じゃ、何かあったね?」
安乃「はい、すぐに」
コリントゲームで遊ぶ雅紀。
要「すごいじゃないか」
音吉「ちはっ!」
神谷「よっ!」
はる「神谷さんも心配で?」
神谷「ええ」
音吉「まだみたいだね?」
要「うん」
音吉たちが縁側に座ったので、神谷は要の向かい側に移動。
音吉「大丈夫だよね?」
はる「神谷さん、どうでしょうね?」
神谷「はあ」
音吉「ちょっと…そんな自信ないの?」
要「今まで5つか6つの学校に頼んで断られたでしょ? そのうちの3つはね、面接までこぎつけて、で、まあ、途中であきれられてね、入学はお断り」
音吉「そんなに?」
はる「だけど…加津(かっ)ちゃんみたいないい子をどうして断るんだろ?」
安乃「ホント」神谷先生のお昼を運んできた。
神谷「いや、悪いね」
要「マー君、こっち」
コリントゲームをちゃぶ台からおろす雅紀。
神谷「じゃあ、いただきます」
音吉「けどなあ。いや、加津ちゃんは、いい子だと思うよ。いや、実際、そう」
はる「じゃ『けど』ってのは何?」
音吉「いくら俺たちがいいっつてもよ、ま、例えばの話だ、ね! 大工道具に興味を持つ。それは別に悪いこっちゃないですよ、ね! それを学校に持っていく、これも悪いこっちゃないですね。けど、やっぱりなあ、鉋で机、削ったとなるとなあ」
はる「悪いかい?」
音吉「いや、俺は、ほほ笑ましいことだと思うよ。けど、やっぱり、そういうことは、な? そういうことをする子は悪い子だと思う先生もいるかもしれねえってことよ」
神谷「そのとおり!」
音吉「ね! ですよね! そういうの…先生、何て言いましたっけ、あの、チ、チ…」
神谷「秩序!」
音吉「そうそうそう、秩序を乱すとか何か言ってね」
安乃がお茶を運んでくる。
音吉「な!…あ、どうもどうも」
神谷「そうそう、秩序を乱すといえば高女時代の蝶子君も大して」
音吉「乱してた?」
神谷「いや、私は乱してるとは思わなかったけども当時の校長先生には、そう映ったらしくて」もぐもぐしながらしゃべってる。
音吉「何だ、それじゃ母親譲りじゃねえかよ、ったくもう、何だよ!」
はるが要の視線を感じて、音吉の膝をつねる。
音吉「…あ、痛っ!」
要「神谷さん」
神谷「は?」
要「その杉山学園というのは、どういう学校なんですかね?」
神谷「いや、私は大して知らないんだわ。そこを教えてくれた友人の話だと大したいい学校だっていうもね。全校で生徒は50人ぐらいの小さな学校だけども、校長の思想が隅々にまで行き届いていて、生徒たちは実に伸びやかに生活しているらしいんです。生活です」
要「生活?」
神谷「勉強だけでなく、生活していると友人は言うんです」
要「はあ…加津子のやつどうでしょうね」
要の隣にいる雅紀もじーっと神谷先生を見つめ、俊継はおとなしく寝ている。
神谷「う~ん…いや、私が校長なら加津子ちゃんみたいな子はすぐに入れますけどねえ」
うなずくはる。
音吉「そうだよ。加津ちゃんを断りやがったら、俺がただおかねえや!」
はる「ホントだね!」
音吉「ああ! その学校、乗り込んでよ、校門に小便引っかけてやるよ、俺! な! ねえ、先生!」
神谷が笑う。
岩崎家前の路地をスキップして帰ってきた加津子。「ただいま!」
玄関
要「あ、お帰り。どうだった?」
加津子「お話しした!」廊下の奥へ
要「お話?」
ちょっと遅れて蝶子が玄関へ入って来た。
要「…どうだった?」
笑顔でうなずく蝶子。「うん」
要「そうか!」
茶の間
神谷「いやいや、ともかく決まってよかったでない?」
蝶子「はい!」
要「しかし、どうしてこんな時間かかったんだ?」
蝶子「私も信じられないのよ。加津子と2人で校長室に入ったでしょ。そしたら、校長先生が2人っきりで加津子と話したいって言われて、私は出されたの。運動場で待とうと思ったら、いろんなものがあったのよ。滑り台とかブランコとか。そういうもん見てたら遊んでみたくなって…疲れたなあと思って時計見たら4時間近く過ぎてた」
音吉「4時間?」
蝶子「うん」
要「で、4時間も何してたんだ?」
蝶子と雅紀は隣の部屋で遊んでいる。
蝶子「校長先生に話、してたんだって」
はる「4時間も?」
要「ああ。で、学校はどうだった?」
蝶子「それはもうよさそうなとこ。校長先生、一目見て安心したわ。何か気が楽になるような人」
要「いや、しかし、4時間も何、話、してたんだよ?」
神谷「加津ちゃん!」
加津子「なあに?」
神谷「校長先生と何、話したのさ?」
加津子「んとね…今日、乗った電車がすごく速かったこと。んと…そいでもって駅から出る時、改札口のおじさんに『たまってる切符、少しちょうだい』って頼んだけど、くれなかったこと」
神谷「ふ~ん」
加津子「神谷先生のことも話した」
神谷「ほう」
加津子「童話や絵本を作ってくれるってこと。それから洋服は、いつもお母さんが作ってくれること。それから邦子おばちゃんの映画を見たことでしょ。あと、加津子は建具屋さんになること」
音吉「おっ、出た!」
はる「うん!」
音吉「アハハ、それだ!」
加津子「北海道の滝川というとこには、おじいちゃんとおばあちゃんがいること。それと…」
蝶子「もう、いいでしょ?」
要「4時間はかかりますね」
神谷「そうかい。校長先生、話、聞いてくれたんかい?」
加津子「ニコニコ笑いながら聞いてくれたの」
音吉「いい人だね」←字幕は”神谷”になってたけど、音吉さんだと思う。
加津子「うん、そう思う」
蝶子「加津ちゃん、加津ちゃんの話がなくなった時、校長先生、何ておっしゃったんだっけ?」
加津子「『君はこれでこの学校の生徒だよ』って」
要「そうか!」
音吉「ああ、うん」
神谷「よかった、よかった」
要「先生、どうもありがとうございました」蝶子も一緒に頭を下げる。
神谷「いやいや、私は、なんもなんも」
蝶子「神谷先生が紹介してくださったのも同じです」
神谷「いやいや」
はる「で、学校はいつから?」
蝶子「明日から早速」
加津子「お弁当の中には海のものと山のものを入れなきゃいけないんだよ。『おかずには山で採れたものと海で取れたものを必ず1つずつ持ってきなさい』って」
蝶子「先生が?」
加津子「そう」
要「これは母親への宿題みたいなもんですかね?」
神谷「なるほど」
加津子「じゃ、お願いね」雅紀との遊びに戻った。
音吉「山のものってえと…」
蝶子「野菜はそうでしょ? 芋とかカボチャとか…」
安乃「大根!」
蝶子「あ~、そうそう」
要「あ、豆もかな?」
蝶子「そうそう」
音吉「コンニャクは?」
神谷「山のものです」
はる「あ、やっぱり!」
音吉「お前、何だと思ってたんだよ」
はる「いいじゃないか!」
蝶子「チクワは海のものということになるわよね?」
要「カマボコと一緒だ」
蝶子「魚は大体、海よね?」
音吉「アユは?」
神谷「川!」
音吉「あ、川?」
蝶子「川のものはどうなるの? 山の中の川で取れたら、川のもの?」
要「バカ! アユを子供の弁当のおかずに入れる母親がどこにいるんだよ!」
神谷「ハハハ」
安乃「あの~、鮭(しゃけ)は、どうなるんでしょうか?」
音吉「あれは海でしょう?」
安乃「でも、私たちは小さい頃、川で鮭を取りました」
はる「川なの?」
蝶子「川で産まれて、一度、海に出て、また川に戻るのよ」
音吉「そうすると…」
蝶子「先生、鮭の場合、どう考えたらいいんでしょうか?」
手で鮭の動きを再現している神谷。「いや~、鮭かい?」
それぞれの頭に”?”マークが浮かぶ蝶子たち。
<ともかく加津子ちゃんは杉山学園に行くことになりました>
桜でんぶがご飯にのり、卵焼き、シイタケやニンジンの煮物の上に酒の塩焼きがのった弁当が出来上がった。ランドセルに定期券?をつけ、ランドセルを背負わせる蝶子。「はい、加津ちゃん。あ、お帽子ね」帽子をかぶせる。「はい」靴袋?を差し出す。「行ってらっしゃい」
玄関
加津子「行ってまいりま~す!」
蝶子「行ってらっしゃい!」
路地で掃き掃除をしていたはる。「行っといで!」
加津子「行ってまいりま~す!」手を振って元気に歩いていった。
はる「よかったねえ」
蝶子「はい」
茶の間
蝶子が俊継を背負って家の中を掃いていると、雅紀が枕の中身のそば殻をばらまいていた。
蝶子「マーちゃん! ちょっと…」そば殻を撒きながら逃げ出す雅紀を追いかける。「マーちゃん!」枕を取り返したものの、さかさまにしてしまい、俊継も泣きだす。
音吉が自宅で木づちでたたいて作業していると、加津子がスキップして帰ってきた。
加津子「ただいま!」
音吉「お帰り!」
加津子「うん!」
岩崎家茶の間
加津子「ただいま!」
ミシンで作業していた蝶子。「お帰り。どうだった? 学校」
加津子「あのね、あのね!」
蝶子「ん?」
加津子「学校ね、面白いんだよ」
蝶子「ふ~ん」
加津子「今までの学校だと自分の机、決まってたでしょ? 決まった机につかなきゃいけなかったでしょ?」
蝶子「違うの?」
加津子「杉山学園は違うの。その日、座りたいと思う机に座っていいの!」畳に座る。
蝶子「へえ!」加津子と向き合うように座る。
加津子「それにね、時間割もないの」
蝶子「ん?」
加津子「今までの学校だと1時間目は何、2時間目は何って決まってたけど、杉山は違うの」
蝶子「うん」
加津子「朝ね、1時間目の前に女の先生が来て『今日は国語と修身と理科と算術をやります』って言うの」
蝶子「うん」
加津子「そしたらね、生徒は、どの科目から始めてもいいの。1時間目に算術やる子もいれば国語をやる子もいるの」
蝶子「加津ちゃんは?」
加津子「国語をやった!」
蝶子「ふ~ん」
加津子「お母さん、加津子、あの学校、気に入っちゃった!」
蝶子「よかったね」
加津子「うん!」
蝶子「じゃあ、お弁当箱、台所にね」
加津子「は~い!」台所へ走る。「あ!」
蝶子「ん?」
台所から戻った加津子。「鮭のことだけどね」
蝶子「うん」
加津子「海のものか川のものかっていう問題」
蝶子「うん」
加津子「先生に質問したら、明日、生徒たちみんなで、えっと~…討論会開いて決めるんだって」
蝶子「へえ~、そう」
加津子「うん!」
<たった一人の生徒の疑問を生徒全員の問題として取り上げてくれる。そんな学校に入れてよかったなとチョッちゃんはホッとしました>
夜、坂上と向き合ってご飯を食べている要。
<しかし、世の中は、ますます息苦しくなっていました>
要「しかし、困ったもんだ。何でドレミファがよくないんだ?」
坂上「まあ、外国語っていやあ、外国語だもんな」
蝶子「ドレミファがどうしたの?」
坂上「うん、学校で音楽教える時はドレミファソラシドを使っちゃいけないって決まるらしいんだ」
蝶子「そしたら音楽できないでしょ」
要「そのかわりにね『ハニホヘトイロハ』だそうだよ」
何でこの順番?って思ったけど、”ド”みたいに最初と最後の音が同一ってことか。
坂上「よう、俺たちもドレミがダメって言われたら、どうする? 『今のファの音が違う』なんて言えないわけよ。『ヘの音が違う』って言わなきゃいけないわけよ?」
要「その、ヘの音って言うのも嫌だけどな、もっと心配なのはな、そのうち、『洋楽は演奏しちゃいかん』と言われだすことだ」
坂上「ああ?」
要「うん」
坂上「そしたら、俺たちどうなるんだ?」
要「分からん」
蝶子は台所へ行き、ガスに火をつけた。
<チョッちゃん、悩みは尽きないね>(つづく)
この週末、杉山校長は誰なんだろな~と検索かけてもそれらしい人が出てこないので、学校の描写は加津子の話のみかな!?
それと、陸軍省後援の昭和19年の映画内で意外とカタカナ語を使っていたのが意外だったな。だから、やっぱり終戦80年記念ドラマとかじゃなく、戦時中の映画を地上波でやったらいいのになと思う。今の戦争ものって涙涙の大熱演なんだけど、なんか違う。
