NHK 1987年7月24日(金)
あらすじ
小学校に呼び出された蝶子(古村比呂)は、加津子(椎野愛)が大工の音吉から借りた道具を学校に持ち込み、そこら中に線を引いたり釘を打ったりしていると知らされる。担任の教諭は、加津子を厳しくしつけ、注意するよう蝶子を諭す。だが蝶子は、かつての恩師・神谷容(役所広司)に相談し、加津子を叱るのではなく優しく見守ることにする。ところが加津子の行動はまずます学校で問題視されてしまい…
2025.8.1 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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田所邦子:宮崎萬純
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山口信江:岡本舞
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北山道郎:石田登星
岩崎加津子:椎野愛
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大川信吾:丹波義隆
彦坂安乃:貝ますみ
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吉崎雅代:松岡由利子
鳳プロ
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神谷容(いるる):役所広司
岩崎家茶の間
畳の上の墨壺で引いた線を見た神谷。「あ~あ~、あ~あ~、やってる、やってる! ハハッ」
安乃「先生、お茶を」
神谷「ありがとう」
蝶子「先生、私、どうしたらいいんですか?」
神谷「加津子ちゃんの担任に注意されて、どうした?」
蝶子「言いたいこともありましたけど、黙ってました」
神谷「君がなして先生に呼ばれたか、加津子ちゃんにはしゃべったかい?」
蝶子「いいえ」
神谷「うん、そんなことは言わんくていいんだ」
蝶子「はい」
神谷「叱るほどのことでもないもね」
蝶子「そう思って」
神谷「うん」
蝶子「だけど、最近、加津子の様子がおかしいんです」
神谷「どんなふうに?」
加津子「先生に分からないこと、どうして聞いちゃいけないのかな。『どうして空は青いの?』って聞いたの。『どうして花には、いろんな色があるの?』って聞いたの。『どうしてせっけんは泡が出るの?』って聞いたの。そしたら先生、嫌な顔したんだよ」
蝶子「学校の話も以前ほどしなくなったし、時々、ため息もついてるんです」
神谷「う~ん。そうかい、そんな教師がいるんかい。小学校の教師というのは簡単には、やれないんだわ。したって、ほれ、子供にとっては初めての社会だべ? 家から出て他人に触れ合う初めての世界だべさ」
蝶子「はい」
神谷「そういう時期の教師というのは、なかなか大変なんだわ。教育してやろうなんてつもりしてたら、うまくないもね。子供の目の高さで接しないと、うまくないんだわ。墨壺か…私が教師ならクラス全員に墨壺の使い方ば教えるな」
蝶子「どうしたらうまくやれるとか」
神谷「そうそう、そうそうそう。一人がそういうもんを学校に持ってきたら全員に興味持たせたらいいと思う。私なら、まずそうする。うん。金づちの使い方も覚えさして修繕係なんか作って」
蝶子「はい!」
神谷「うん」
蝶子「そうですよね」
⚟︎加津子「ただいま」
神谷「し~っ」障子の影に隠れる。
安乃「お帰り」
蝶子「お帰り」
障子の影で縮こまっていた神谷が顔を上げる。「お帰り」
加津子「わっ! 先生だ!」
神谷「ハハハ! お帰り! よいしょ」加津子のランドセルを降ろす。「加津子ちゃん、お母さんに聞いたけど、建具屋さんになるっていうでないの?」
加津子「でも、やめようかと思って」
神谷「なして?」
加津子「先生。加津子って、いけない子?」
神谷「なして? なしてさあ」
加津子「学校の先生が『悪い子』だって」
神谷「そんなことはない! フッ」
加津子「ホント?」
神谷「おう! 私は加津子ちゃんのいいとこ、いっぱい知ってるもね」
加津子「ホント?」
神谷「お父さんのバイオリンば、ないしょで修理に出したっていうっしょ? 人に会ったら『こんにちは』って元気よく挨拶するっしょ? 雅紀君に童話、聞かせたりするっしょ?」
加津子がうなずく。
神谷「そんないい子がどこにいる! な?」
やっと笑顔になった加津子に蝶子も微笑む。
カフェ泉
♬~(レコード)
<悩める人物がもう一人いました>
道郎「会社の先輩の大川さん」
大川「大川です」
邦子「田所邦子です」
道郎「何年も前から邦ちゃんの出た映画見てたっていうんだ」
邦子「ありがとうございます」
頭を下げる大川。
道郎「蝶子にも言ったけど、僕が邦ちゃんの知り合いだって言ったら、是非、会わせてくれって言うもんだから」
大川「無理を言って、すいません」
邦子「あ、いえ」
吉崎「お待ち遠さまでした」
道郎「しばらくでした」
吉崎「ホント。邦子さんも」
邦子「チョッちゃんは来てます?」
吉崎「え~…ひとつきぐらい前に」
邦子「そう」
吉崎「どうぞごゆっくり」
大川「『純情三人娘』『月夜のバラ』『花を召しませ』。邦子さんの映画の中でその3本が好きです」
邦子「は?」
道郎「よく見てるなあ。ハハハハ」
大川「3年前の『月夜のバラ』の時、男と抱擁する場面がありましたが、2人の顔と顔が近づくにつれて2人の姿がだんだん遠景になっていったんですが、あの時は、ホントに口づけをしたんですか?」
ちょっとムッとする邦子。
道郎「よ…よくも、そんなこと…」テーブルの下で脚を蹴る。「邦ちゃん、ごめん」
ムッとする邦子。
大川「邦子さんの日常というのは、どういうあれですか? いや、そのつまり、女優としての生活といいますか」
邦子「普通の生活です」
大川「いや、普通がいいです」
コーヒーに砂糖を入れる邦子。
大川「食べ物は何がお好きですか?」
邦子「嫌いなものはありません」
大川「ああ、いいですねえ。好きな花というと」
邦子「バラです」
大川「ああ、やっぱり!」
道郎「大川さん」
大川「ん? 何だ?」
道郎「邦ちゃん、ちょっと疲れてるみたいだから」
大川「そうなんですか?」
邦子「はあ…ちょっと」
大川「田所さん、あなたには戦争映画にだけは出てほしくありません」
岩崎家
蝶子「嫌ねえ。兄さん、そんなずうずうしい人、連れてきたの? 戦争映画だって何だって大きなお世話よね」
邦子「だけど、私、ちょっとグサリきたの。話、来てるのよ。そういうものしか声、かからないのよ」
蝶子「邦ちゃん…?」
邦子「もう28だもの。若い人出てきたら、脇に回るか、つまんない作品の主役しかないのよ。映画の方もいろいろ厳しくてね。いい作品作ろうとしたって、なかなかね」
蝶子「そう」
邦子「うん。私…今、岐路に立ってるのよ。女優としての岐路、人生の岐路」
に…28!? 蝶子と同じ明治43/1910年生まれで30じゃないのかなあ!?
⚟︎加津子「ただいま!」
邦子「あら、お帰り」
蝶子「お帰り」
加津子「邦子おばちゃん!」
邦子「学校は、どう?」
加津子「あっ!」ランドセルの中から封筒を取り出す。「先生が『お母さんに』って」
蝶子「何だろうね」手紙を広げる。「『明日、学校に来てほしい』って」
加津子「ふ~ん」
邦子「何事?」
蝶子「ん? うん…」
教室
ため息をつく山口。「お宅のお嬢様には本当に困ってるんです」
蝶子「はあ。あの…また墨壺で何か?」
後ろの習字は”ヒカウキ”
山口「授業中、何十回となく机のフタを開けたり閉めたりするんです」
蝶子「?」
山口「そこで私が『用もないのに開けたり閉めたりしてはいけません』って申しますと、お嬢様、その用事を作ってしまうんです」
蝶子「?」
山口「つまり、お帳面から教科書から筆箱を全部、机の中にしまってしまうわけです。書き取りをするとしますね」
蝶子「はい」
山口「そうすると、お嬢様は、まずフタを開けて、お帳面を取り出したと思うが早いかパタンとフタを閉めてしまいます。そして、次に、またフタを開け、筆箱から『ア』を書く鉛筆を取り出すと、フタを閉めて『ア』を書きます。アイウエオの『ア』」
蝶子「『ア』?」
山口「ところが、うまく書けなかったり間違ったりしますね。そうすると、ふたを開けて、また頭を突っ込んで消しゴムを出し、急いで閉めると消しゴムを使い、次にすごい速さで開けて、消しゴムをしまって、フタを閉めます。で、またフタを開けて『ア』だけ書いて、また鉛筆などを全部中にしまい、またフタを開けて、お帳面を出し閉める。また開けて鉛筆を出し、閉めると、やっとアイウエオの『イ』を書くといった具合なんです。机のフタが開いたり閉まったり、私、目が回るんです」
蝶子、はあ…という感じにうなずく。
山口「でも、まあ一応、用事があるわけですから『いけない』とは申せません」
蝶子「そういえば…入学したての頃、学校の机の自慢をしてました。すごい、すごいって。うちの机の引き出しは、こう引っ張るんだけれども、学校のは上に上がるんだって。あの~、ゴミ箱のフタと同じだけれども、もっとツルツルでいろんな物がしまえて、とってもいいんだなんて。いや~、ホント、ツルツルですね」
ため息をつく山口先生。「それだけならよろしいんですけど…机で音を立ててないなと思うと、今度は授業中、立ってるんです。ず~っと」
蝶子「…といいますと?」
山口「あの窓の所に立ってるんです」
蝶子「何をしてるんですか?」
山口「昨日のことです。また授業中、窓の所に立っているので何をしているのかと思いました」
蝶子「はい」
山口「そしたら、あの大きな声で『何をしてるの?』って呼びかけるんです」
蝶子「誰にですか?」
山口「私も気になりまして、誰に呼びかけているのか返事を待ちましたが、返事がなく、お嬢様だけが何度も何度も『ねえ、何してるの?』って言い続けるんです。授業に差し支えると思いまして、お嬢様のそばへ参りましたら、お嬢様、木の枝に止まっている小鳥に話しかけているじゃありませんか」
窓辺に立つ加津子。「ねえ、何してるの?…ねえ、何してるの?」
小鳥のさえずり
加津子「ねえ、何してるの? ねえ、何してるの?」
山口「そりゃ、私も子供の気持ちが分からないではございませんから、小鳥に話しかけているのをバカげてるとは申しません。でも、授業中に、しかも、あんなに大きな声で小鳥に何をしてるのか聞かなくてもいいと思うんです。お母様」
蝶子「あ、はい」
山口「数日前は、こんなこともございました。図画の時間のことです。『国旗を描いてごらんなさい』と申しましたら、ほかの子供たちは日の丸を画用紙に書きました。でも、お宅のお嬢様は軍艦旗を描き始めたんです」
山口「まあ、それならそれでいいと思って、見ておりましたら、ちょっと目を離した隙に房をつけ始めたんです。それがまあ、机の上に黄色い房をドンドン描いてるじゃありませんか。画用紙をどかしたら、もう黄色いクレヨンで机の上に房がギザギザに描いてあって、拭いてもこすっても取れるものではございません。そうしましたら何を思ったのか、翌日、学校に大工さんの使う鉋を持ってきて削ってるじゃありませんか」
蝶子「はあ」
山口「お宅のお嬢様がいらっしゃると、クラス中が迷惑をするんです。できれば、よその学校にお連れくださいませんでしょうか」
岩崎家
要「やめろって? 『退学しろ』っていうのか!?」
蝶子「よその学校にって」
要「同じことだ! それは。何でこんなことぐらいでやめさせられなきゃ、いかんのだ!」
蝶子「そうだけど」
要「君は何て言ったんだ? 承知したのか?」
蝶子「承知するもしないも『そうしてほしい』って言われたんだもの」
要「冗談じゃないよ! 俺がかけ合ってくる!」
蝶子「やめてください!」
要「君ね! このまま黙って引き下がるのか!」
蝶子「先生は、この時間、もう学校にはいらっしゃらないわよ!」
<一体どうなるんでしょうか>(つづく)
先生との相性も悪すぎたってのもありそう。神谷先生ほどでなくても、もう少しうまくあしらえる?先生ならよかったんだけど、山口先生は気まじめすぎたというか、加津子より山口先生の方が参ってしまいそう。クラス中が迷惑というより、先生が、なんだろうなあ。
私自身は大きな声や音に恐怖を感じるタイプだから、同じクラスに居たら楽しそうというよりは、ちょっと怖かったかも!? そういう生徒から先生が守ってくれたともいえる。

