NHK 1987年7月22日(水)
あらすじ
加津子(椎野愛)が小学校に入学する前日。蝶子(古村比呂)が三児の母となり、日々てんてこ舞いだと聞いた彦坂安乃(貝ますみ)が、自分を家政婦として使ってほしいと家まで押し掛けてくる。だがあいにく岩崎家に人を雇えるほどの稼ぎはない。それでも安乃は給金はいらないから滝川時代の恩を返させてほしいと頑なだ。兄の頼介(杉本哲太)も、これで軍人の自分がいつ死んでも妹のことは安心だと喜ぶのだった。
2025.7.30 NHKBS録画
脚本:金子成人
*
*
音楽:坂田晃一
*
語り:西田敏行
*
岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
*
岩崎要:世良公則
*
北山みさ:由紀さおり
*
中山音吉:片岡鶴太郎
*
彦坂頼介:杉本哲太
田所邦子:宮崎萬純
*
中山はる:曽川留三子
岩崎加津子:椎野愛
*
品子:大滝久美
彦坂安乃:貝ますみ
*
岩崎雅紀(まさのり):河野純平
鳳プロ
*
神谷容(いるる):役所広司
*
北山俊道:佐藤慶
<加津子ちゃんの小学校入学を明日に控えた日であります>
岩崎家茶の間
テーブルで何かを書く加津子とそばで洗濯物をたたんでいる蝶子。
♬~(バイオリン)
⚟︎木づちの音
練習室から要が出てきてせきばらいする。「加津(かっ)ちゃん」
加津子「なあに?」
要「ちょっと」
⚟︎木づちの音
蝶子に聞こえないように要が加津子に話している。
加津子「は~い」
要「よ~し! 行ってらっしゃい」
蝶子「また、お向かいに?」
要「うん」
蝶子「お向かい、あんまり困らせないでよ」
要「でも、俺が行ってケンカになるよりは、ずっといいだろ? ね!」
蝶子「加津子を悪魔の使者にしてもかまわないの?」
要「平和の使いだよ」
蝶子「中山さんにしたら悪魔よ」
せきばらいする要。
⚟︎木づちの音
テーブルの上の加津子が書いた紙を手にする要。「あら! あららららら。え~! ああ、加津子は、あれだね。絵もなかなかうまいんだね」
蝶子「字、書いてるの」
⚟︎木づちの音
要「…」
ぐちゃぐちゃのカラフルな線と”ポ”という字。
⚟︎木づちの音
中山家
音吉が木づちを使って作業しているところに加津子をが顔を出した。ため息をつく音吉。「うるさいって?」
うなずく加津子。
しかたなく木づちを床に置く音吉。
岩崎家
戸の開閉音がしたので、せきばらいして立ち上がる要。
加津子「お父さん、お母さん、安乃おねえちゃん、来た!」
要「やあ!」
安乃「こんにちは」
加津子「今、表で会ったの!」
要「ああ、そうですか」
蝶子「どうしたの?」
安乃「今日、目黒に引っ越してきました」
蝶子「え?」
安乃「目黒からだと、ここ、近いんです。あ、私、畳みます」洗濯物を畳み始める。
要「安乃ちゃんね、うちでは、その話、まだ決まってないんだよ」
蝶子「そうなのよ」
安乃「私が来たら、迷惑だとおっしゃるならやめますけど」
蝶子「あ、そうじゃないわよ」
要「うん」
安乃「この前、久しぶりに兄に会いました」
蝶子「頼介さん?」
安乃「その時、千駄木の野々村のおじさんの家で出た話をしたんです。そしたら、『お手伝いに行け』と言われました。『近くに引っ越しして通え』と言われました」
蝶子「けど…」
安乃「私も兄も蝶子さんに恩返しできるのは、これからだと思ってますから」
蝶子「恩なんて…」
安乃「滝川にいた頃、病気の母のため、私たちきょうだいのため、よくしてくださいました。私には絶対忘れられないことがあるんです。蝶子さんが高女に行ってらっしゃる頃です。うちの貧しい食事を『おいしい、おいしい』って、私たちと一緒に食べてくれました。うれしかったんですよ。だから、私も蝶子さんのためだったら、どんなことでもするつもりですから」
これ?ともちょっと違うかな…でも懐かしい北海道時代。
蝶子「安乃ちゃん、大げさよ」
安乃「いいえ」
要「どうだ? ここまで言われて断れるかね?」
蝶子「じゃ、お願いしようかな」
安乃「はい! お茶いれさせてください」
蝶子と要がほほ笑む。
台所
ヤカンに水を入れる安乃。要と蝶子も台所へ。
要「給金のことなんだけどね」
安乃「それは頂けません」
要「いや、そういうのは、よくないぞ」
安乃「兄にもそう言われてます」
蝶子「そういうこと言うなら断るわよ」
要「相場というのは、どれぐらいなんだね?」
安乃「月30円。でも、半分でいいです」
蝶子「だけど…」
安乃「いいんです」
蝶子「じゃ、1日置きに来てちょうだい」
要「うん」
安乃「でも…」
蝶子「うちに来ない日は、よそで働かないと生活できないでしょ? いいわね?」
安乃「はい」
蝶子「よし、決まり!」
要「じゃ、よろしくね」
安乃「こちらこそ」深く頭を下げる。要は茶の間へ。
蝶子「今日は要さん、うちにいるけど、それは仕事のない時か、稽古場の使えない時だけ」←稽古場が使える日もあるってことね。
安乃「はい」
蝶子「ふだんは、こうだけどね、バイオリン持つと、人、変わるんだから」
うなずき合う安乃と蝶子。
茶の間にいた要がせきばらいし、膝に乗せた加津子に話しかける。「そんなことないよね?」
加津子「うん…」
縁側に現れた音吉。「あの…中山です」
要「ああ!」
蝶子「はい!」
要「これは、これは…」
音吉「バイオリンの音がしないんで来てみたんですけど、あの…木づち使っちゃいけませんかね?」
蝶子や安乃も茶の間へ。
要「いや、結構ですよ。どうぞ、どうぞ、思いっ切り使ってください」
音吉「あ、そう? じゃ、遠慮なく!」
蝶子「どうもすみません」
要「危ないですよ! 変な人だね」
蝶子「(安乃に)近所の人の音にもうるさいのよ」
要「…」
庭で雅紀と電車ごっこして遊ぶ安乃。
頼介「妹を引き受けてくださり、本当にありがとうございます」
蝶子「引き受けるなんて…」
頼介「この前、あいつに蝶子さんの家に家政婦に行くと聞かされて、うれしかったです。やっと何か恩返しのまねごとができるなと」
蝶子「いや…そんな、かたく考えないでね」俊継を抱いたまま立ち上がる。「よしよし、よし」俊継をベビーベッドに寝かせる。
頼介「それに自分は兵隊です。命令次第でいつまた戦地に赴くことになるか分かりません。おととし、戦地に行った時は肩先をやられただけで済みましたが、いつも生きて帰れるとは限りません。自分にもしものことがあった時、心残りは、やはり妹のことです。結婚してるならまだしも、いまだに独り身です。自分がいなくなったら、あいつは本当に一人です。妹を引き受けてくださって、ご迷惑とは思いますが、自分は…自分はホッとしてます。自分がいなくなっても、あいつには岩崎さんや蝶子さんがついていてくださる。そう思うと、自分は安心して動けます。よろしくお願いします」
蝶子「私もうれしいのよ。何だか安乃ちゃん納まるとこに納まったなっていう気がして」
頼介「ハハッ、そんな言い方は何か嫁入りしてきたみたいですね」
蝶子「アハハ、そうだね。でも、結婚のことも考えないとね」
庭で遊んでいる安乃と雅紀を見る蝶子と頼介。
蝶子「頼介さんは何年、滝川に帰ってない?」
頼介「12年ですか。公次の手紙には先生方もお変わりないそうで」
昭和3年の春に蝶子、高女卒業。その後、東京の音楽学校へ進学し、夏休みに帰省。東京に戻るタイミングで頼介に託され、安乃を連れて東京に戻った。
うなずく蝶子。「でも、じいちゃんとばあちゃんになったけどね」
2人が笑う。
蝶子「あ、お茶」
写真館
家族写真を撮る岩崎家。
蝶子の手紙「父さん、母さん、加津子の入学祝、今日、頂戴いたしました。ありがとうございます。加津子は毎日楽しそうに学校に通っています。学校から帰ると、毎日、その日の出来事を私に話します。嫌というぐらい、話したがります」
北山医院
診察室で家族写真を見ている俊道と手紙を見ているみさと品子。
みさ「アハハ、したけど、加津子ちゃんが学校から帰ってくるなり、ベラベラしゃべるっちゅうのは、やっぱり蝶ちゃんの子だわ。蝶ちゃんも小学校の時、そうでしたもね」
俊道「蝶子がかい?」
みさ「はい。いや、もう大したベラベラしゃべってましたもね。エヘヘ」
すねたような表情の俊道。
みさ「え?」
俊道「ワシは…ワシには蝶子はなんもしゃべらなかった。そんなことしてたのも知らないわ。そうかい。蝶子は、お前にはしゃべってたんかい?」
みさ「したけど…お父さん、ほれ、診察してたり、往診中だったりして…」
俊道「父親っちゅうもんは、うちの中では損なことばっかりだわ」
年老いてめんどくささに拍車がかかってるな~。
岩崎家茶の間
加津子「わ~、先生、ありがとう!」手作りの絵本を受け取る。
神谷「なんも、なんも!」
蝶子「わざわざ作ってくださったんですか?」
神谷「いや~、なかなかいい紙が手に入らなくてね。寄せ集めの紙だ」
蝶子「『クリちゃんの冒険』」
神谷「作るのに5日かかったんだわ」
蝶子「あら~、ありがとうございました。あれ~、面白そうだね。あ、安乃ちゃん、ちょっと見て」
お茶を運んできた安乃。「ええ」
蝶子「ほれ、かわいいでしょ?」
神谷「加津子ちゃんは字は読めるんかい?」
加津子「まだ」
神谷「う~ん。したけど、すぐ読めるようになるっしょ?」
加津子「イッキョセンメイ字を覚えます」
神谷「『一生懸命』かい?」
加津子「そう、イッキョセンメイ」
神谷「ハハハハ!」
戸が開く音
⚟︎邦子「こんにちは」
蝶子「邦ちゃん?」
⚟︎邦子「そう」
蝶子「どうぞ!」
ちょいと気まずそうな?神谷先生の表情。
加津子「邦子おばちゃん!」
邦子「加津ちゃん、入学おめでとう!」
加津子「ありがとう」
蝶子「ありがとう」
邦子「あ、ご無沙汰してました」今日は真っ赤なスーツ。
神谷「おっ!」
邦子「先生も贈り物を届けに?」
神谷「いや、贈り物などという代物ではない」
加津子「おばちゃん、先生にもらったの!」
邦子「あら、よかったね~!」
加津子「うん!」
邦子「あ、先生の童話、よく本屋で見かけますよ」
神谷「そうかい」
蝶子「売れてるんですか?」
神谷「まあまあなんでないかい?」
邦子「そしたら収入も増えました?」
神谷「いや、それは大して」
邦子「じゃ、やっぱり日雇いを?」
神谷「うん。この5日ばかりは休んだ。腰、痛めてね。したけど、絵本作るのにちょうどよかった」
蝶子「すいませんでした」
神谷「いやいやいや」
⚟︎俊継の泣き声
蝶子「ちょっとすみません。俊ちゃん。あ~、よしよし」ベビーベッドへ。
邦子「腰、まだ痛みます?」
神谷「うん」
邦子「さすりましょうか?」
神谷「そうか。じゃ、頼もうかな。よいしょ。あ~」うつぶせになる。
邦子が腰をもむのを加津子が見ている。
神谷「最近は紙不足なんだわ。その上、書きたいもんの内容にも制約があるんだ」
邦子「制約っていいますと?」
神谷「新体制に沿わんもんは、いかんとか。いや、世の中、うまくいかないもんだわ。ああ、気持ちいい…」
邦子「私、うまいでしょ」
お茶を出す安乃。「いらっしゃいませ」
邦子「あら、安乃ちゃん!」
安乃「はい」
神谷「ここにお手伝いに来てるんだと」
邦子「あ、そう!」
安乃「よろしくお願いします」
邦子「こちらこそよろしく」
加津子「先生! 絵本、読んで」
神谷「うん、よしよし! 明るい方、行こう」
安乃「そうしましょう」
加津子、神谷、安乃は縁側へ。
神谷「『クリちゃんはウサギの名前です』」
邦子は、お茶を飲んで溜息をつく。
戻ってきた蝶子。「どうしたの? 元気ないわね」
邦子「あ、別に」
蝶子「あ、そうそう、私、邦ちゃんに頼み、あったのよ」
邦子「なあに?」
蝶子「うちの兄の会社の先輩の人がね、邦ちゃんの映画、よく見てて、『一度会いたい』って言ってるのよ」
邦子「へ~え、私にね?」
蝶子「どうってことないらしい人なんだけど頼まれて、しかたないのよ」
邦子「もっと若い女優じゃなくていいの?」
蝶子「相手は『邦ちゃんと』って」
邦子「いいわよ」
蝶子「うん」
ため息をつく邦子。
蝶子「やっぱり変」
加津子「おばちゃん!」
はるが縁側に姿を見せた。
蝶子「何か?」
はる「うちのバカが『道具がない』って騒いでるんですよ。それで、もしかして加津ちゃんが知ってるんじゃないかなと思って」
加津子「何?」
はる「丸ノコ」
加津子「それは…」
はる「うん」
加津子「入って、左側の棚の…いい。加津子が行ってあげる」
蝶子「どうして知ってるの?」
加津子「いつも片づけしてあげてるもん」
はる「悪いねえ!」
加津子「なんも、なんも!」
笑い声
蝶子「はい、行ってらっしゃい!」
<その日の夕方です>
要が自宅前の路地を歩いてくると、玄関から神谷先生が出てきた。「おっ!」
要「おっ、これは!」
安乃「お帰りなさい」
要「ただいま」
神谷「お邪魔してました」
要「もう、お帰りですか?」
神谷「ええ」
蝶子「安乃ちゃんも帰る時間だから」
要「ああ。では、今度ゆっくり」
神谷「はい、じゃ」
蝶子「気を付けて」
要「(安乃に)ご苦労さま」
路地を歩いていく神谷先生と安乃を見送る要と蝶子。
要「へえ、似合いだな」
振り返って手を振る神谷先生と頭を下げる安乃。
要「あっ!」
蝶子「あっ!」
<チョッちゃんは何だか変な予感がしていました>(つづく)
蝶子は1910年生まれで今、昭和15年ってことは1940年で30歳。邦子も頼介も同い年。要は5歳上。道郎も同じくらい。安乃と俊介は4歳下だったと思うので26歳。神谷先生は年齢不詳だけど、高女の時に若い先生っぽいから、そんな年上でもないと思うけど…安乃から見たら10歳くらい違うんだろうか??
神谷と安乃の運命の出会いとか何とか言ってたな~。気になる…。
邦子も今や中堅で年齢いじりでもされ始めたんだろうか。昔の方が露骨そうで嫌。

