NHK 1987年7月11日(土)
あらすじ
蝶子(古村比呂)の長女・加津子が生まれて半年が過ぎた。要(世良公則)はオーケストラのコンサート・マスターとして迎えられ、邦子(宮崎萬純)もいよいよスクリーンにデビューを果たす。その映画を叔父・泰輔(前田吟)の映画館で鑑賞した蝶子だったが、ふと気づくと加津子の様子がおかしい。原因は高熱だった。要はまだ幼い娘を頻繁に外に連れ出すからだと蝶子を叱り、蝶子も母親の責任を痛感する。
2025.6.28 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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野々村富子:佐藤オリエ
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国松連平:春風亭小朝
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中山音吉:片岡鶴太郎
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田所邦子:宮崎萬純
中山はる:曽川留三子
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梅花亭夢助:金原亭小駒
鳳プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
岩崎家
柱にひもでつながれている赤ちゃん。
<これはチョッちゃんの娘、加津子(かつこ)ちゃんです。生まれて半年がたちました>
蝶子「すぐ終わるからね。ん? 待っててね」
<11月に入り、秋は一段と深まっています>
⚟♬~(バイオリン)
蝶子は庭で洗濯物を干し、要は練習中。
<この秋口、要さんは新交響楽団にコンサートマスターとして迎えられ張り切っています>
泰明座
映画「甘い誘惑 戀愛篇」の舞台挨拶
男女5人が舞台に立っている。
観客たち「よっ、日本一!」拍手を送る。
神谷、連平、夢助、富子、加津子を抱っこした蝶子が並んで座る。
連平「邦ちゃん、邦ちゃん!」
<そして、邦子さんもまたこれから羽ばたこうとしています>
邦子「槇子(まきこ)役の田所邦子です。今回の新作『甘い誘惑』では医者として将来有望株である主人公の青年をたぶらかす悪女として登場します」
泰明座事務所
泰輔「おお、終わったか、終わったか、ハハハッ。どうだった? 邦子ちゃん」
蝶子「いや、何て言っていいのか」
連平「最高ですよ、最高!」
夢助「セリフもちゃんと言ってましたしね」
連平「いやね、主役の子よりいいね!」
蝶子「叔父さん、邦ちゃんは?」
泰輔「ああ、ほかの劇場にも行かなきゃいけないってんでね、挨拶が終わったら、すぐ」
連平「帰ったの?」
泰輔「ああ」
連平「夢!」
夢助「へえ」
連平「帰る」
泰輔「お…おいおい!」
連平「帰るよ」部屋を出ていく。
夢助「若旦那!」後を追う。
泰輔「連平君! ハハハハ、現金なやつだな」
事務所にあるポスターを見る蝶子たち。
甘い誘惑 戀愛篇
大東キネマ豪華巨篇
松本公子
山本 章
新星田所邦子
森川まさみ 斎藤達雄
出雲八重子 坂本 武
草香由鶴子 岡村文子
河村黎吉 吉川満子
1930年代の映画も何本か見てるけど、時代劇ばっかりだから、邦ちゃんが出演したような現代劇も見てみたい。
1935年版「かぐや姫」は、おなじみのあらすじと違っていて面白かった。
富子「邦子ちゃんがねえ」
神谷「ねえ」
富子「チョッちゃん」加津子に触れる。
蝶子「ん?」
富子「ちょっと変じゃない?」
加津子がせきこむ。
泰輔「ん? せきか?」
蝶子「あれ、熱がある!」おでことおでこを合わせる。
額に触る神谷。「どれどれ?」
神谷先生、今日はここだけ。
岩崎家
要「先生、どうもありがとうございました」
医師「はい、お大事ね」
玄関先が映るだけで医師は声のみ。
茶の間
要「お蝶! 加津子をこんなにしたのはね、お前だ。先生も言ってたろ。生まれて間もない赤ん坊を外に連れて出たりするからだ。外に出たがってる、お前の加津子は犠牲者だ! 母親として配慮が足りんのだ!」
蝶子「はい」
加津子の枕元でうたた寝しながらついている蝶子。「ごめんね。ごめんね」
<チョッちゃんもいろいろ反省していました>
昭和の終わりでも、ほら! 要様の言うとおり!みたいな女性の方が多かったんだろうか? 蝶子だって悪かったって思ってるだろうに、さらに追い打ちかけるようなこと言わなくていいのに…って思っちゃう。
庭で洗濯物を干している蝶子。
邦子「チョッちゃん!」
蝶子「ん? 邦ちゃん!」
邦子「この前、映画館で会えなくてごめんね」
蝶子「忙しいんだね」
邦子「…あ、続けて」
蝶子「うん」
庭から入ってきて縁側に座る邦子。「映画、どうだった?」
蝶子「ん? 内容とか何かより、私、別のこと考えてた」
邦子「何?」
蝶子「邦ちゃんが何か別の世界に行ってしまったような」
邦子「チョッちゃん!」
蝶子「変な意味じゃなく…」邦子の隣に座る。「邦ちゃんとは小さいころから一緒だったじゃない?」
邦子「うん」
蝶子「小学校、高女、そして東京。そりゃ考え方なんかは違うけど、何だかずっと同じ道、歩いてた気がしたんだ。だから、いつだったか邦ちゃんが結婚した私を羨んだみたいに、私もこの間、世の中に出て仕事してる邦ちゃんを羨んだの。けど、違ったんだね。人それぞれ道は違うんだね」
邦子「そうだね」
頼介が小学校までの同級生、邦子は同じ市内ながら高女からの同級生だと思っていた。
邦子には頼介を小学校の同級生と紹介している。
加津子の泣き声
蝶子「目、覚ました! あ、加津ちゃん! はいはい!」
加津子の泣き声
ベビーベッドから加津子を抱き上げ、あやす。「よしよし、よしよし。邦ちゃん、これが私の道だわ。母の道」
うなずく邦子。「加津ちゃん!」
岩崎家玄関
出かけようとしている要。
<そして、今日、要さんはラジオでバイオリンのソロを演奏することになったのです>
要「時間は、いいな」
蝶子「3時」
要「うん」
蝶子「失敗しないように」
玄関から出ようとした要が一旦戻る。「…バカもん!」
笑顔で送り出す蝶子。
柱時計は 2時52分
茶の間
音吉「こいつに聞いたんだけど、コ…コンサート何とかっつうのは偉いんだってね?」
蝶子「いや、偉いっていうか…」
音吉「大将だっていうじゃない」
蝶子「いや、大将は大将でもガキ大将」
音吉「エヘヘヘ、違(ちげ)えねえや!」
はる「あんた!」
蝶子「いいの、いいの、いいの! うん」
音吉「だけどまあ、夫婦ゲンカの数じゃ、どこにも負けねえと思ってたけど、ここんちと、いい勝負だもんな!」
はる「まあね!」
3人で笑う。
連平「おにぎやかなこって!」
蝶子「あ、連平さん!」
音吉「あら~!」
連平「どうも、中山さん」
蝶子「連平さん、今日は随分、晴れやかね」
連平「うふ~ん、そうですよ」
はる「お茶、入れてくる」
蝶子「すいません」
連平「いや、実はね、仕事が決まったの」
蝶子「あ、そう!」
音吉「仕事ってえと?」
連平「『笑いの王国』ですよ」
音吉「ほう~」
蝶子「あの、古川緑波の?」
連平「そうそう! そこの私は文芸部」
音吉「ふ~ん、文芸部ってえと?」
連平「まあ、台本書いたりとかね」
音吉「うん」
蝶子「ふ~ん」
連平「バイオリンも弾けるし、音楽部も兼ねてるんだけど」
音吉「ふ~ん、大したもんだ、そら」
蝶子「うん」
連平「ただ、まあ、あと…照明係やったりとかね、小道具係やったりとか、ま、雑用係みたいなもんですけどね」
音吉「あ、雑用ね、ふ~ん」
蝶子「あ…でも、いいじゃない!」
連平「そう思う?」
蝶子「思う!」
連平「そう! 私もそう思う。邦ちゃんに会ったらさ、『連平もやっと自分の道を見つけました』って言っといて」
蝶子「分かった」
連平「そのうちね、邦ちゃんのためにいい台本書くから!」
蝶子「そうなるといいね!」
連平「なるよ!」
音吉「へ~え、ふ~ん!」
古川緑波さんは終戦直後の映画にも出演している。これ、昭和20年製作、昭和21年年明けに一般公開された終戦直後の混乱を描いた映画。終戦から1年もしないでこんな映画が作れるのがすげぇなと思った。
お茶を運んできたはる。「どうぞ」
連平「あ、すいません。いや、実はね、その話の筋は、もうできてんですよ」
音吉「へえ~」
蝶子「聞きたい!」
音吉「聞きてえなあ!」
連平「ホント!? 聞きたい? じゃあね、実はね…」
音吉「あ、それ、いいなあ!」
<チョッちゃん、要さんの放送の時間だよ!>
柱時計は 3時28分
連平「いいでしょ? これ」
音吉「それ、いいなあ!」
連平「この終わり方、最高!」
蝶子「ハハハハッ!」
音吉「へ~、そりゃあいいや! ねえ」
連平「おかしい?」
蝶子「うん!」
音吉「さあ、そろそろ引き揚げるか?」
はる「そうだね」
連平「帰ります?」
音吉「うん、また、じゃ」
蝶子「はい、どうも」
音吉「どうもすいません、どうも」
はる「どうも」
音吉「ああ、よかった、よかった」
連平「ねえ、ところでさ、要さん、今日、遅いの?」
ハッとする蝶子、音吉、はる。
連平「何よ?」
蝶子が慌ててラジオの電源を入れる。
連平「どうしたの?」
蝶子「3時から要さんが演奏してたのよ…」
音吉「終わってる…」
連平「まずいよ!」
家の前の路地を歩く要。
はる「来た」
音吉「来たか。よし、行くぞ!」
はるが鼻歌を歌いながら家の前の路地を箒で掃き出した。「あ、お帰りなさい!」
要「や、どうも」
音吉「旦那、今日、聴きやしたよ! あのコ…コンサート何とかっつうの!」
はる「ね!」
音吉「いや、大したもんだよ、あれは!」
はる「ねえ!」
音吉「目頭熱くなっちゃったよ!」
要「…」
岩崎家
要「ただいま」
蝶子「要さん、聴きました!…やあ、すごくよかった。やっぱりあれは日頃の練習のたまものね! うん、まあ、疲れたでしょう。うん!」ニコニコしている要を座らせて肩をもむ。
要「放送してないのに、よく聴けたね?」
蝶子「え…あ…あの~」
要「いやあ、今日の放送ね、あれ、中止になったんだよ。聴いたの? ラジオ、つけ忘れたね?」
蝶子「すいません」
要「よくもまあ、いい加減なことを」
蝶子「あの…」
要「ん?」
蝶子「お向かいの2人がいて」
要「うん」
蝶子「連平さんが来て、話し込んでるうちに、その…あっ、あの! 連平さん、仕事が決まったそうです!
うなずく要。
蝶子「…はい!」
要「もう、いい」自室へ。
蝶子「あ…はい」
⚟加津子の泣き声
自室でバイオリンの練習をしている要だが、加津子の泣き声が気になる。
蝶子「よしよし、よしよし…!」あやすが、なかなか泣き止まない。
要「静かにさせなさい」
蝶子「はい」
要「次の演奏会近いんだから」
蝶子「はい」
泣き止まない加津子。
要「加津子!」
蝶子「加津子に当たったってしかたないでしょ。いくつだと思ってるんですか」
要「だったらね、お前がなんとかしなさい!」ふすまを閉める。
♬~(バイオリン)
Googleの曲検索で出てきたのはショスタコーヴィチの交響曲第5番だけど、この曲ができたのが1937年だって。今、1933年。違う曲?
練習しながらも急に静かになったことに気付く要。
路地を加津子をあやしながら歩く蝶子。「ブラームスの子守歌」のハミング。
加津子は激しく泣いている。
回想
みさ「声楽家ちゅうもんになったら舞台に立つんだべ?」
蝶子「うん」
俊道のあきれたような表情。「ならなかった時は?」
みさ「そん時は…蝶ちゃんが将来、子供産んで育てる時、いい声でたくさんの歌、子供に聴かしてやれるっしょ?」
回想終わり
激しく泣く加津子。
蝶子「はい、ほら、よしよしよし!」
「ブラームスの子守歌」のハミング
外に出てウロウロ歩く要。
蝶子が「ブラームスの子守歌」をハミングしながら戻ってきた。
要が目の前に来た。
蝶子「やっぱり歌は下手?」
要「声楽家としてはね。母親としては…今のでよろしい」
蝶子「はい!」
要「さあ! 寒いだろ」
<昭和8年、秋の風が吹く夜でした>
家の前の路地を仲良く歩く蝶子と要。(つづく)
まあ、当時(?)としてはカッコいいんだろうけど??
でもさ、時代は違うけど、「おやじ太鼓」などの木下恵介アワーって、昭和ながらこういう男女のモヤモヤをあまり感じずにすむから好きなんだよね。「おやじ太鼓」も怒鳴り散らす分からず屋おやじの話かと思ったら全然違った。怒鳴るし、無知とか言うけど、でも妻や子供への愛情は感じるし、明治男が割とこまめに動くよ。
それでも要さんはカッコイイ!って思う人は思うだろうけど、多分、私はモヤモヤしっぱなしだろうとは思う。ただ、それはそれとして話は面白いからね。

