NHK 1987年7月8日(水)
あらすじ
引っ越しと映画会社所属のお祝いを邦子(宮崎萬純)に届けに邦子の自宅を訪ねたいと、連平(春風亭小朝)が蝶子(古村比呂)に付き添いを頼みにくる。邦子が引っ越したのは、以前蝶子が要(世良公則)と暮らしたアパートだった。連平はさっそく邦子に祝いの品を渡す。それは高級なオルゴールだった。連平は邦子への気持ちが抑えきれず、どうやったら邦子と結婚できるのか教えてもらおうと、結婚相談所を訪れるのだが…
2025.6.25 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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中山音吉:片岡鶴太郎
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田所邦子:宮崎萬純
河本:梅津栄
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中山はる:曽川留三子
結婚相談所員:及川ヒロオ
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宮内:藤田啓而
鳳プロ
劇団いろは
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
岩崎家玄関
蝶子「どうしたの? 上がらないの?」
玄関の戸から顔を半分だけ出して話す連平。「チョッちゃん…」
蝶子「ん?」
連平「今日、時間ある? これからさ…」
蝶子「何?」
連平「ちょっとつきあってもらえないかな?」
蝶子「な~に?」
連平「邦ちゃんの部屋に一緒に来てもらえないかな?」今度は手だけ出してる。
蝶子「ん?」
連平「いやね、引っ越しのお祝いとさ、大東キネマ入りのお祝いをあげようと思って…」
蝶子「どうして私がついていかなきゃいけないの?」
連平「いや、だって、そ…え~!? 女の子1人の部屋に男が行くのは、まずいよ、やっぱり…」
蝶子「じゃ、外で会ったらいいじゃない」
連平「どうしてそういうこと言うの? あたしはね、邦ちゃん…邦ちゃんの部屋に行きたいの!」
蝶子「どうして?」
連平「だってさ、1回行っときゃ、あと、行きやすいでしょ? それにほら『またどうぞ』なんて言われるかもしれないし…」
蝶子「ふ~ん」
連平「それにね、あたし…邦ちゃんの暮らし向きも気になるんだ。見たくない?」
蝶子「う~ん」
連平「何よ? 一緒に行くの、嫌なの?」
蝶子「嫌じゃないわよ。外へなら出たいの」
連平「でしょ? じゃ、頼むよ」
蝶子「え~と、要さんは6時ぐらいだし」ちょっと考えて「行く!」
連平「ホント!?」
蝶子が一旦奥へ行くと、「やった!」と一人喜ぶ連平。
邦子のアパート
邦子「加津(かっ)ちゃん、よく来たわねえ」
加津子をあやしている邦子に無言でプレゼントの箱を差し出す連平。
邦子「あ…何?」
連平「あの…これ」
邦子「え?」
連平「これ、どうぞ!」
邦子「どうして?」
連平「ええ、あの…これ」
邦子の後ろの鏡に映る連平の顔がアップになる…面白い撮り方。
蝶子「引っ越し祝と大東キネマ入りのお祝いでしょ?」
連平「あ、そうなんです」
邦子「そんな、わざわざいいのに」
連平「受け取ってやってください」
邦子「あ、じゃあ、遠慮なく」
連平「はい。あの…開けてみてください」
邦子が包みを開ける。
蝶子「加津ちゃん、何だろう?」
箱を開ける邦子。
蝶子「え? あら? これ…」
♬~(オルゴール「花嫁人形」)
蝶子「オルゴールじゃない!」
邦子「いい曲」
連平「あ、そう思います?」
蝶子「連平さん、選んだの?」
連平「もちろん」
邦子「あ、チョッちゃんはどうしてこっちに?」
蝶子「どうして?」
邦子「連平さんと一緒なんて」
連平「千駄木の方、行くんでしょ? ね? そうなの、そうなの。で、ついでに…」
蝶子「そうそう」
連平「ダメだよ、忘れちゃ」
加津子を抱いて立ち上がった蝶子。
連平「ちょっとチョッちゃん、どこ行くのよ?」
蝶子「外、見るだけ」
窓の近くに移動した蝶子。「お母さんとね、お父さんは、この部屋に住んでたのよ。ほれ、ほれ。懐かしいな」
邦子「新婚時代の部屋だもんね」
蝶子「うん」
邦子「私は、いつこういう時代が来るやら…」
蝶子と邦子が窓を向いている背後でオルゴールを聴かせる連平。
カフェ泉
連平「なるほどね。邦ちゃんもね、独り身がさみしいのかもしれないな。『私の新婚時代は、いつ来るの?』。さみしさが漂ってたもんな」
お、おえーっ!!!
蝶子も連平を見て「?」な表情をしていたが、加津子をあやしているマスターに「もらいましょうか?」と話しかけた。
河本「ううん、今、暇だから」
連平「チョッちゃん!」
蝶子「あ、ごめん、話ね。何?」
連平「いや、そんな改まらなくたっていいけどさ。あれかね? 邦ちゃんは今、誰かつきあってる男なんかいるかね?」
蝶子「さあ」
連平「聞かない? いるよね?」
蝶子「どうかなあ」
連平「いるよ~。いなきゃ、おかしいもん」
蝶子「どうして?」
連平「例えばね、うちの中に1匹ゴキブリを見つけたとするでしょ? そのうちには最低でも、あと10匹は、いるっていうよ」
蝶子「そうなの?」
連平「うん…ね! 邦ちゃんのことを1人、好きな男がいるとすればだね、ほかに10人は、いるってことになるからね。邦ちゃんが誰ともつきあってないというのは、おかしいんだよ。うん」
蝶子「1人いるって誰のこと? 連平さん?」
連平「誰っていうことじゃないけどさ」
蝶子「ふ~ん」
蝶子の背後で加津子をあやし続けるマスター。
連平「あたしね、このごろ、こう、何て言うかな、無性に結婚したいなって思ったりするんだよね」
蝶子「邦ちゃんと?」
連平「いや。特定の誰っていうんじゃなくてさ」
蝶子「結婚できるなら誰とでもいいの?」
連平「チョッちゃん、近頃、意地悪くなったんじゃない?」
蝶子「そ~う?」
<…かもしれないね>
連平「ね!」
蝶子「ん?」
連平「邦ちゃんだけどさ、あれかね? 神谷さんとは、あれかな?…何ともないのかな?」
蝶子「さあ」首を傾げつつ、クリームソーダを飲む。
河本「はい、お母ちゃん! ほら、ほらほら」
連平に背を向け、加津子にアイスクリームを食べさせる蝶子。
連平「チョッちゃん?」
蝶子「聞いてみたら?」
連平「え? 誰に?」
蝶子「邦ちゃんに直接」
連平「そういうこと言うわけ?」
蝶子「直接、ぶつかってみなきゃ」
連平「それができれば…」
蝶子「あ、そうだ! いっぺん、あそこ行ってみたら?」
連平「どこ?」
蝶子「最近『結婚相談所』っていうのができたっていうじゃない?」
連平「『結婚相談』?」
蝶子「新聞で見た」
連平「出雲大社の出張所かな?」
蝶子「何、それ?」
連平「いやいや。へ~え。結婚相談所ね…うまいこと教えてくれるかもしれないな」
蝶子「…と思うわよ」
連平「そうか…」
東結婚相談所
連平「結婚したいんです!」
所員「はい。どうぞ掛けてください」
椅子に座る連平。所員も向かい側に座る。
所員「お名前をどうぞ」
連平「あの、恥ずかしいんですけど、田所邦子さんていいまして、大東キネマの女優さんなんです」
所員「あ、いや」
連平「間違わないでくださいよ。まだ会ったこともない憧れの女優さんに近づこうなんて、そういうあれじゃないんですから」
所員「いやいや、そういうことでなくて。あんたのつまり…」
連平「あたしと邦子さんと、まあ、4~5年前に知り合ったんですけど」
所員「いや、だ…だから」
連平「邦子さんがまだ苦労してる時に、あたしがデパートのマネキンガールに紹介した間柄ではあるんです」
所員「ちょっと、あの…」背後の事務員に声をかける。
連平「ただね、どうやって伝えていいか分かんないんですよ、この思いを。どうしたらうまく伝わるんだろうと思って。教えてください、おじさん!」
所員「あのね、ここ、そういう相談するところでないの」
連平「また…」
所員「またって、ここ、結婚相談所ですよ」
連平「でしょ?」
所員「どうしても相手の見つからない人に相手を紹介すると、そういう仕事をやってるとこなの。だから、あなたのように目指す相手がいる人に恋の手ほどきをするっていう、そういう場所じゃないんだ、ここは」
連平「ん?」
所員「ん?」
ゆっくり振り返り改めて社名を確認する連平。
所員「ほれ」
連平「違ったか?」
所員「だいぶ違うよ」
及川ヒロオさんは北海道出身なのに、北海道編のキャストじゃないのね~。つい先日、「不良少女とよばれて」の再放送でもお見かけしたばかり。
野々村家
蝶子「叔母さん、私!」
富子「チョッちゃん、早く来て!」
蝶子「え! 何してんの?」
富子「あ、あ、あ…」黒い機械を指さす。
蝶子「電話!」
富子「さっきついたばっかり」
蝶子「へえ!…で、何してんの?」
富子「ん? いや、さっきまでね、うちの人もいたんだけど、事務所に戻って、こっちにかけるから私に出ろっていうの」
蝶子「ふ~ん」
風鈴の音に驚く富子。「あ~っ、嫌だ! 嫌だ嫌だ、来た!」
蝶子「叔母さん! 違うって! これこれ、風鈴だって、これ。ほらほら」立ち上がって風鈴を鳴らす。「これだ」
富子「あ~、やだ、もう、私、ダメ、怖くって。とってもダメ」
蝶子「私、出る」
富子「お願いね。ああ、やだやだ」
蝶子「よしよし。まだかね?」
☎電話が鳴る。
富子は悲鳴を上げる。
蝶子「はいっ!」
☎
2人「あれ?」
蝶子「まだ鳴ってるよ。あれ?」
富子「その…その、取っ手みたいなのを取って、それで耳に当てる、ね!」
蝶子「これ?」
蝶子「はい!」
☎泰輔「え~、もしもし?」
蝶子「はい?」
☎泰輔「え~、もしもし?」
蝶子「叔父さん、私!」
泰明座事務所
泰輔「チョッちゃん? ハハハハハ! 最初はね『もしもし』って言わなきゃいけないんだよ。うん。聞こえてるか? ウフフフ。そりゃそうだな。ハハハハ…ちょっと富子出して、富子」
野々村家
蝶子「代わってって」
加津子の泣き声…顔見ると泣いてないけどね。
☎泰輔「もしもし?」
富子が受話器を耳に当てる。「ん?」
☎泰輔「もしもし?」
富子「何か言ってるよ」
蝶子「いや、叔母さんも何かしゃべんないと」
富子「何を?」
蝶子「何でもいいのよ」
☎泰輔「何、ブツブツ言ってんだよ!」
富子「聞こえてんの!?」
☎泰輔「当たり前だよ、もしもし?」
富子「何だい?」
☎泰輔「何、怒ってんだよ」
富子「怒ってなんかいないよ」
☎泰輔「どうだ? 電話ってのは便利だろ?」
富子「あんた、ホントに事務所にいるの?」
☎泰輔「どこにいるっていうんだよ」
富子「いや、何かさ、隣にいるみたいだよ」
☎泰輔「そうなんだよ。それが電話の威力!」
蝶子「私、帰りに寄るって…」
富子「チョッちゃんね、帰りに寄るって」
☎泰輔「待ってる!」
富子「待ってる」
蝶子「うん!」
泰明座事務所
昭和八年度新人決マル
邦子はじめ新人たちの顔写真、名前、出身地が書かれたポスターが貼ってある。字がぼやけ気味なのでよく見えない。蝶子がポスターを見ている。
泰輔「邦子ちゃん、有望らしいよ」
蝶子「そう」
2本サイダーの瓶を持ってきた泰輔は1本を宮内の机の上に置く。「こないだね、邦子ちゃん、撮影に入ったらしい」
蝶子「さっき会ったけど何も言ってなかったわよ」
泰輔「うん…サイダー」
蝶子「うん」
泰輔「加津ちゃんも飲め」
ストローの刺さったサイダーを飲む蝶子。泰輔も飲む。
蝶子「何だか邦ちゃん遠くに行ってしまうみたい」
泰輔「そんなことはないよ。邦子ちゃんは邦子ちゃんだよ」
抱っこした加津子の顔を見る蝶子。
泰輔「チョッちゃん、何か欲しいものないか?」
事務作業していた宮内がじろりと見ている。
泰輔「春から、ほら、例のヨーヨーの大流行で叔父さん、大もうけしちゃったんだよ。ねえ、宮内さん!」
宮内「ですが、ほとんどは借金の返済に回しましたから」
せきばらいする泰輔。扇で顔を隠しながら蝶子にこっそり言う。「あの人さ、用心深いからね。何でも買ってやるぞ」
蝶子「考えとく」
泰輔「うん、フフフフ」水から飲んでいたサイダーを加津子に差し出す。
蝶子は振り返ってもう一度、邦子の載ったポスターを見る。
夕方、岩崎家についた蝶子は玄関の貼り紙に気付く。
御主人は
うちにおられます
中山
蝶子は向かいの中山家へ。「あの…岩崎です」
要が飛び出してくる。
蝶子「ここで何してるの?」
無言でネクタイを緩める要。
蝶子「ん?」
はる「お帰りなさい」
蝶子「あ、どうも」
音吉「どうも」
蝶子「フフフフ、寄り合いですか?」
要「どこ行ってたんだ!」
蝶子「連平さんに頼まれて、ちょっと」
はる「それは伝えましたよね?」
要「何で連平と出かけなきゃいけないんだよ! 連平とどこ行ってた?」
蝶子「頼まれて、ちょっと」
要「ちょっとじゃないじゃないか、ちょっとじゃ! 昼頃から出てるっていうじゃないか」
蝶子「すいません」
要「あのね、うちに入れなかったんだからね」
蝶子「どうして?」
要「カギ忘れたんだよ」
はる「奥さんいなくて、うちに入れないっておっしゃるから」
音吉「酒でもと思ったら、旦那、下戸だっつうから」
蝶子がおんぶしていた加津子がぐずり始める。
蝶子「ご迷惑かけました」
音吉「ああ…うちはいいんですよ、そんな」
要「どうして出かけなきゃいけないんだ?」
蝶子「だって…」
要「『だって』じゃない! 加津子、連れて出て、万が一のことがあったらどうするんだよ!」
蝶子「だって、置いて出るわけにいかないでしょ?」
要「だったらね、外、出かけなきゃいいんだ!」
音吉「まあまあ、そんな」
要「止めないで!」
はる「だけどね…」
要「ほっといてください!」
音吉「そういう言い方ないでしょ、旦那!」
要「これはね、我が家の問題なんですから」
音吉「だけどね、目の前でこうやってケンカされてね、黙って見てるわけにいかないでしょ!」
要「口出し、無用!」
音吉「こうやってさ、隣同士になってさ、え! 顔も突き合わし、ケンカもした仲で余計な口出しするな、なんて、それじゃあまりに他人行儀じゃありませんか?」
要「いや、中山さん、時には立ち入られたくないということもあるでしょうが」
音吉「ああ、分かった! もう上等だよ!」
はる「ちょっと!」
蝶子「なんさ! 私だって…私だって用事はあるのよ! 外に出る用事はあるのよ! カギ持って出るの忘れたからって、そのあげくにうちに入れなかったからって、子供みたいにわめくことないでない! うちの中にじっとしてろって言うの!? 一歩も外に出るなって言うの!? 私だって…私だって、まだまだ輝いていたいんだから!」
背中の加津子が本当に泣いている。
<悩める一児の母であります>(つづく)
ここ数日、ずーっと蝶子がモヤモヤしてたから吐き出せてよかった。

