NHK 1987年7月6日(月)
あらすじ
長女が誕生し、蝶子(古村比呂)と要(世良公則)は、アパートから一軒家に引っ越した。ところがお隣は大工の中山音吉(片岡鶴太郎)・はる(曽川留三子)夫妻が暮らしており、鳴り響くトンカチの音が要のバイオリン練習の邪魔をする。怒り心頭の要は、お隣に駆け込み、大工仕事で音を出すなと文句をいうが、音吉も黙っておらず言い争いとなる。蝶子は要に、そんなに静かな環境が良いのなら、一緒に滝川に帰ろうと提案するが…
2025.6.23 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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演奏:新室内楽協会
テーマ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
指揮:円光寺雅彦
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考証:小野一成
タイトル画:安野光雅
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バイオリン指導:磯恒男
黒柳紀明
方言指導:曽川留三子
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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中山音吉:片岡鶴太郎
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中山はる:曽川留三子
劇団いろは
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野々村泰輔:前田吟
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制作:小林猛
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演出:秋山茂樹
岩崎家
蝶子「82センチ…」
⚟♬~(バイオリン)
<チョッちゃんがこの家に引っ越してきて約1週間が過ぎました。何せ古い建物だったものですから家の中の作りつけや改造にチョッちゃんは大忙しです>
のこぎりで木材を切っている蝶子。
はる「なかなか器用なもんだねえ」加津子を抱っこしている。
蝶子「うちの人、何にもできないから」
はる「へえ~」
蝶子「専門家に頼めば、お金もかかるしね」
はる「うちの商売、上がったりだ」
蝶子「はるさんのご主人に頼める仕事じゃないしね」
はる「近所のよしみだもの。何だってやらせるわよ」
要は部屋にこもってバイオリンの練習をしている。
<要さんという人は練習の時は、いつもこんなすごい顔をしてるんです>
要は練習をしていると、金づちの音が気になり、練習の手が止まり、楽譜を弓で叩いた。
はる「お邪魔してま…」
はるを無視してまっすぐ台所へ向かう要。その間もたたく音が聞こえる。
要「やめないか! 音がうるさい」
蝶子「だって…」
要「落ち着いて練習ができんじゃないか!」
⚟隣家の金づちの音
蝶子が、うちじゃないと手を振る。
はる「静かにさせます」
蝶子「いいのよ、はるさん」
はる「いいえ…加津子ちゃん」蝶子に加津子を返す。
⚟金づちの音
中山家
鼻歌を歌いながら金づちをたたく音吉。
はる「ちょっともう少し静かにできない?」
音吉「静かにしろってか?」
はる「ううん、口では言わないけどさ」
音吉「じゃあ、気ぃ回すこたぁねえよ」
はる「けど、音が気になるらしいんだよ」
音吉「知らねえよ、お前! 一番近くにいる俺がうるさくねえんだよ。いい音だと思ってんだから」
はる「理屈はそうだ」
音吉「うるせえってのはな、こういうこと言うんだよ!」強く打つ音
はる「ちょっと、あんたおやめよ! 壊れちまうじゃないか。やめなさい!」
⚟金づちの音
岩崎家
要「何なんだ? あれは」
⚟金づちの音
要「金づちの音だろ!」
蝶子「はい」
要「『はい』じゃないでしょう。お前ね、ちょっと行って、あれ、やめさしてきなさい」
蝶子「そんなこと言ったって、向こうも仕事なんだから」
⚟金づちの音
要「いい。俺が行ってくる」
蝶子「要さん! あ! 加津ちゃん、ちょっとごめんね」抱っこしていた加津子をベビーベッドにおいて、要を追いかける。
中山家
要「あ…うるさいんですがね」
音吉「ああ!?」立ち上がる。
蝶子「要さん!」
要「この、金づちの音ね、これ、どうにかなりませんか?」
音吉「あいにくですがね、こればっかりはどうにもなりませんな!」
はるが奥から出てくる。「言ってんですけどねえ」
音吉「何でお前が言い訳すんだよ」
はる「だって…」
音吉「むちゃおっしゃってんのは、こちらさんだよ、お前!」
蝶子「そうなんです、すいません。要さん!」
要「練習中はね、音は、させないでいただきたい」
音吉「冗談じゃないですよ! 魚屋に包丁持つなと言ってんのと一緒なんだよ!」
要「音が邪魔なんだ」
音吉「こっちだってね、お宅の、その西洋三味線の音が邪魔なんだよ!」
要「バイオリンというんです」
音吉「そ、そ…それだよ、それだ! な! こっちが鉋(かんな)をス~ッ、ス~ッとかけてる時にバランバラン、バランバラン、音出されちゃったらな、千鳥足に鉋になっちまうんだよ。それと金づち打ってる時だ。な! 釘打ったり、ノミの頭たたく時にはトントントンといきたいわけだ。そん時にそのヒ~ラヒラ、ヒ~ラヒラ訳の分かんないふぬけた音出されたらな、手元が狂ってしょうがねえんだよ。あ!」
要「訳の分からん?」
音吉「そうだよ!」
要「ふぬけた音!」
音吉「ああ!」
はる「ちょっと!」
要「訳の分からん音だと!?」
蝶子「要さん!」
要「じゃあ、言うがね」
音吉「ああ、言ってみろ!」
要「せめて練習中は、その、音のしない道具を使っていただきたいわけだ!」
はる「そうだね」
音吉「冗談じゃない、お前! え!? 何でこっちがお宅に合わせなきゃなんねえんだよ!」
蝶子「そうよ」
音吉「そんなに邪魔だったらな、お宅がこっちに合わせてもらいてえな!」
蝶子「そうよ。中山さんだって悪気があって音出してるわけじゃないんだから」
音吉「そう! 奥さんのおっしゃるとおり! はい、こっち! 奥さん、こっち!」建具を挟んで会話していた要と音吉だったが、音吉が自分側に蝶子を引き入れる。
蝶子「仕事なんだから」
音吉「そう!」
要「お前は、あれか。俺に練習させたくないわけか!」
蝶子「誰もそんなこと…」
要「言ってる!」
はる「奥さんは言ってません!」
音吉「ねえ、旦那、ここはお互い我慢してやってきやしょうや」
要「我慢できんから、こうやってやってきてるんだよ!」
蝶子「要さん! 金づち使う仕事の中山さんに音出すななんて理不尽でしょ! 音出さないでバイオリン弾けって言われたら、どうするの!」
要「そんなことはできん!」
音吉「じゃあ、俺もできん! やめた、やめた!」
要「(蝶子に)裏切り者!」家に戻っていった。
蝶子「すみません」音吉たちに頭を下げる。
岩崎家
イライラして家に戻った要は、屑籠を蹴る。「え~い! えい!」
蝶子が戻ってきた。
要「お蝶!」
蝶子「はい?」
要「お前はね、何でさっき向かいの肩なんか持ったんですか!」
蝶子「肩を持ったとか持たないの問題じゃないでしょう?」
要「いいえ! それが問題です! 大体ね、君が僕の妻ならだ、夫の味方をして当たり前でしょう!」ちゃぶ台に座る。
蝶子は屑籠のゴミを拾って入れる。
要「音楽を仕事とする者の妻なら、うるさくない環境で練習させてあげたいなと、そう思って当たり前なんです!」
蝶子「本気かい?」
要「当たり前です!」
蝶子「分かりました。いい環境のとこに引っ越ししましょ? 私、そういうとこ、知ってます。周りは、もう何もない。人の姿もない。シラカバの林だけ。うるさい音なんて何もないの。風の音だけ」
要は立ち上がって、ベビーベッドのそばへ。
蝶子「時々、鳥の声もする。川の音もするかもしれない」
要「おい!」
蝶子「林が嫌なら野原に出たらいい」
蝶子がベビーベッドのそばへ行くとまた移動して座る要。
蝶子「冬は最高だわ。一面、雪。滝川になら、そんなとこいっぱいあるわよ。そこに小屋建てて暮らしたらいい」また要のそばに移動。「東京引き払って、北海道行きましょ。そしたら、もう、うるさい音もなく思いっきり弾けるわよ。そうしましょ?」
要「むちゃを言うな!」
蝶子「なんもです。そういうことむちゃと言うなら、それよりもっとむちゃなことお向かいに言ったのは誰よ」
⚟男「岩崎さん、お荷物です!」
蝶子「はい! は~い!」
要は奥の部屋へ。
箱を開けると、昆布やじゃがいもが入っていた。「うわぁ~! あら~、あらららら。すごいね、これ」
⚟豆腐屋の笛…ラッパじゃない!?
みさの手紙「蝶ちゃん、手紙ありがとう。蝶ちゃんからの手紙が届いて、お父さんも私も喜んでます。加津子という名前、何とも勝ち気そうですが、きっと元気に育つでしょう。お祝いを何にしようかいろいろ考えました。結局、お金がいいだろうということになり、同封しました。また、石沢牧場の嘉市さんも大変喜んで『蝶ちゃんに送ってやれ』とジャガイモとカボチャを下さいました。ご賞味ください。では、とり急ぎ…」
読み終え、封筒に軽く頭を下げる蝶子。「加津ちゃん! これがコマイ。これが昆布。これがジャガイモだよ~」ベビーベッドにいる加津子に見せる。
せきばらいして立っている要。「…さっきは、すまなかったな」
蝶子「私よりお向かいに謝ってください。要さんが悪いんだから」立ち上がって要のそばへ。「私もついていくから。こういうふうだと私が近所づきあいできないでしょ?」
要「だったらね、しなきゃいいんだ!」
蝶子「そういうこと言うなら、私は主婦などできません」
中山家
蝶子「奥さん!」
はる「あら!」
蝶子「さっきは、すみませんでした」
はる「お互いさまよ」
蝶子「あの~、これ、うちの郷里(くに)から送ってきたものなんですけど」かごにカボチャなどが入っている。
はる「そう? 悪いわね」
蝶子「あの、ご主人は?」
はる「奥でふててんですよ」
蝶子「要さん!」
中山家に入ってきた要は、はるに会釈。
蝶子「何だか『謝りたい』って言うもんだから」
はる「ちょっと、あんた!」
音吉「ん?…何だよ?」奥から出てきた。
要「先ほどは、どうも失敬」
音吉「いえ、こっちこそ言い過ぎちまって…ま、今後ともひとつ…」
要「はあ」
岩崎家
泰輔が足踏みミシンを広げる。「よっ! 遅ればせながら出産と引っ越しの祝いです」
要「いや~、でも、こんな高いものを…」
泰輔「中古、中古! 知り合いからね、安く分けてもらったんだ」
蝶子「いや~、うれしい!」泰輔に抱きついて回る。
泰輔「お~!」
蝶子「いや~、ミシンあると助かるなあ」
泰輔「富子も言うんだよ。チョッちゃんが一番喜ぶのはミシンだって」
蝶子「うん、喜ぶ!」
要「どうもありがとうございました、本当に」
泰輔「いえ、何の何の何の…」
蝶子「私の古い洋服ほどいて加津子に服作ってやるわ」
泰輔「うん」
蝶子「ワンピースやスカート」
要「服作ってくれんだって」加津子に話しかける。
泰輔「ふ~ん。加津ちゃん、よかったねえ。おいおい!」舌を鳴らす
要「いや~、最近、だんだん似てきましてね」
泰輔「うんうんうん」
要「いや~、女の子が父親に似たらしょうがないんですけどねえ」
泰輔「ん? 要さんに?」
要「はい! いや、みんな、そう言いますよ」
泰輔「そう?」
要「(加津子に)そうだよね~」
泰輔「チョッちゃん!」
蝶子「何?」
泰輔「ちょ、ちょ…ちょっと!」
蝶子「加津ちゃ~ん!」
泰輔「どれどれ? う~ん。アハハ、はっきり言って両親には似てる」
蝶子・要「はい!」
泰輔「ハハハハ」
要「(加津子に)似てんだって、よかったね」
蝶子「叔父さん、麦茶でいい?」
泰輔「ああ、ありがとう」
蝶子「はい」台所へ
泰輔「あ、そうそう!」
蝶子「何?」
泰輔「邦子ちゃん、決まったらしいよ。大東キネマに入るんだってさ」
蝶子「そう」
泰輔「昨日、正式にね」
蝶子「そう」麦茶をちゃぶ台に置く。
要「彼女、乃木坂のアパートの俺たちの部屋に入るとか入らないとか言ってたね」
蝶子「うん」
泰輔「いや、もうね、何か入ってるって聞いたな」
要「ああ、そうですか」
泰輔「うん」
蝶子「邦ちゃんが女優か…」ゆっくりとちゃぶ台を拭いていたが、ミシン台に向かって座る。「邦ちゃんも新しい人生の始まりね」ミシンを回してみる。
加津子が泣く。
要「こら! お前、急に音出すからだよ!」
蝶子「ごめん、ごめん!」
泰輔が加津子を抱き上げ、蝶子に渡す。
<母親、チョッちゃんの人生もまた始まったばかりです>(つづく)
まだ邦子にはちょっとモヤモヤしてる!? 要さんはなあ、蝶子にまず文句言うからね。そこが俊道さんに似たところなのかもしれないが、ちょっと笑えないんだよな。

