NHK 1987年7月4日(土)
あらすじ
ついに出産の日を迎え、病院で無事に長女を生んだ蝶子(古村比呂)。彦坂頼介(杉本哲太)や神谷(役所広司)が見舞いに訪れ、安産を祝う。一方、要(世良公則)は泰輔(前田吟)や連平(春風亭小朝)とともに、娘をなんと命名すべきか頭を悩ませていた。やがて蝶子も退院し、長女の名前も「加津子」と決まる。蝶子が無事出産を終えたとの報せを受けた滝川の父・俊道(佐藤慶)と母・みさ(由紀さおり)は…
2025.6.21 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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北山みさ:由紀さおり
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野々村富子:佐藤オリエ
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国松連平:春風亭小朝
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中山音吉:片岡鶴太郎
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彦坂頼介:杉本哲太
田所邦子:宮崎萬純
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北山道郎:石田登星
梅花亭夢助:金原亭小駒
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中山はる:曽川留三子
彦坂安乃:近藤絵麻
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鳳プロ
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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北山俊道:佐藤慶
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野々村泰輔:前田吟
病室の犬張子のアップ
頼介「蝶子さん…本当におめでとう」
蝶子「ありがとう」
頼介「蝶子さんが母親か…」
安乃「出産は楽だったの?」
蝶子「うん、大安産。ツルリと産まれたの」
安乃「へえ、ツルリと」
蝶子「そう」
笑顔の安乃。
ノック
蝶子「はい。安乃ちゃん、お願い」
安乃がドアを開けると、神谷先生が入って来た。「蝶子君、おめでとう!」
蝶子「はい」
神谷「よう!」
頼介「お久しぶりです」
安乃「こんにちは」
神谷「こういう時でないと、なかなか会えないもね。あらららら…いた、いた、いた、いた! いやあ、大してめんこい」
赤ちゃんのアップ。恐らく別撮り。
蝶子「母親似だわ」
神谷「いやあ、したっけ、この子は幸せもんだわ」
蝶子「なして?」
神谷「音楽学校の声楽科ば出たお母さんに子守歌、歌ってもらえるべさ」
蝶子「いやいや、それはそうだ」
神谷「あ、名前は?」
蝶子「それはまだ」
神谷「したっけ、そろそろお七夜だべ?」
蝶子「そうなんだけど」
病室の隅にいた頼介が安乃と目配せし、安乃がうなずく。
頼介「自分は、そろそろ」
蝶子「いや、もうかい?」
神谷「よし! したら、私も」
蝶子「いやいやいや」
神谷「いや、あんまり長居はね」
蝶子「アパートの方には叔父さんや要さんがいるはずだ」
神谷「これから出版社行かんきゃならないんだわ」
頼介「自分は隊に戻らないと」
蝶子「そう。わざわざありがとう」
神谷「したらな、お大事にな」
蝶子「はい。ありがとう!」
病院を出ていく頼介たち。
役所広司さんと杉本哲太さんを見ると「いだてん」を思い出すなあ。
岩崎家
泰輔「う~ん」
連平「5月…5月だから『さつき』」
要「岩崎さつき」
泰輔「舌かみそうだな、よくない」
連平「そうかなあ」
要「…『みさお』」
泰輔「う~ん」
要「『たまき』」
連平「それ、竹久夢二の愛人の名前でしょ?」
夢助「カミさんでしょ?」
連平「そう?」
夢助「ええ」
要「じゃあね、『浪子』」
連平「ああ、『不如帰』の浪子はね、結核で死んでますから」
泰輔「そりゃ、よくない」
要「そうか…」
連平「『弥生』」
泰輔「それは3月だよ」
連平「『百合』」
夢助「あ、きれいですねえ」
連平「ね?」
泰輔「ダメ、ダメ!」
連平「う~ん。『トモエ』」
要「ん?」
連平「『正代』」
要「あ!?」
連平「ハハッ、覚えてた?」
要「何言ってんだ、お前は!」
泰輔「な、な、何だよ、それ?」
連平「要さんの昔のコレの名前」小指を出す。
泰輔「連平君、そりゃないんじゃないか?」
要「バカヤロー!」
泰輔「ものに名前を付けるってのは大変なんだから。商店の名、小料理屋の名前だって、それなりに思いが込められてんだよ! ましてや、人の子だぞ! チョッちゃんの子供の名前に、そんなふざけた名前をよくも!」
連平「社長、冗談ですよ」
泰輔「冗談にも程がある!」
連平「すいません」
ホント、それだけは気持ち悪いと思う。
夢助「『ツネ』ってのはどうでやしょ?」
要「ああ、何だい、それ?」
夢助「いや、あたしのおふくろの姉さんの名でして」
泰輔「夢ちゃん、そういう名前はさ、自分の子供に付けてよ!」
連平「あのね、そういう時は伯母さんの名前じゃなくて母親の名前を言うの!」
夢助「お恥ずかしい」
連平「何だい?」
夢助「いや、もう、どうか先に進んでください。どうぞ、ええ」
要「ああ『美音子(みねこ)』っていうのはどうです? 美しい音の子」
泰輔「う~ん、もうひとつだね」
要「ああ…じゃあね、セレナーデの『小夜子(さよこ)』」
泰輔「セレナーデって何?」
連平「ほら、小夜曲っていうでしょ?」
泰輔「うん、うん…」
要「じゃあ『小夜』」
泰輔「もうひとつピンと来ないねえ。夢ちゃん、おふくろさん、何て名だよ?」
連平「そうだよ」
夢助「『クマ』ってんです。太田黒クマ」
連平「そんな名前…!」夢助の首を絞める。
夢助「いや、あたしのせいじゃない!」
泰輔「もう、しかたがない! 要さん、この名前に関して、私に一任しませんかね?」
連平「何で社長に一任しなくちゃいけないんです?」
要「ああ、そうですよ。どうして?」
泰輔「だって、私、チョッちゃんの叔父だから」
要「私は…夫です」
泰輔「赤ん坊にとっちゃ大叔父だ!」
要「父親です!」
連平「あ~、社長、なんでしょ? 名付け親になろうって魂胆なんでしょ」
泰輔「何だと!?」
連平「分かってますよ。だから、あたしたちが何か言ったって異を唱えて。な!」
夢助「ふ~ん」
要「ああ、もう、いいです。名前は私が決めます!」
連平「そう、それが一番!」
夢助「しかし、腹減りましたね」
連平「そう言われてみりゃあね。どうです、そばでもたぐりに行きますか?」
要「近くにね、洋食屋があるよ」
泰輔「洋食、いいねえ!」
要「そこの『カツライス』なかなかいけます」
泰輔「カツ、久しぶりだ」
要「じゃ、カツでいきますか?」
泰輔「よし、そうしよう!」
夢助「ありがてえ!」
泰輔「さあ、行こう!」
<それから3日後。加津子(かつこ)、これがチョッちゃんと要さんの最初の子供に付けられた名前です。その名前の由来を私はあまり知りたくありません>
命名 加津子
昭和八年五月十八日生
野々村家
蝶子「どうだった?」
邦子「めんこい!」
道郎「要さん」
要「え?」
道郎「加津子っていう名前は、どういうところから?」
蝶子「あ、それは私も聞いておきたいわね」
要が泰輔を見、泰輔はせきばらいする。
要「あ、つまり…」
富子「うん」
要「え~、物事にぶつかり、打ち勝つという勝つですね」
泰輔「なるほどねえ!」
要「まあ、勝利の勝つだと少々、女の子にしてはカタすぎるかなと思い、三文字(みもじ)にしたわけです」
連平「要さん、うまい!」
要「うん。アハハハッ!」
富子「要さん…汗」
蝶子「暑いの?」
要「いや、そんなことないよ」
蝶子「ふ~ん」
要「アハハハッ、うん」
カツライス連発してて…加津子なのに、最初気付いてなくて、何で”名前の由来を知りたくありません”なんだろ?って思ってしまった。
邦子「チョッちゃんが母親か!」
神谷「町なかで焼き芋、買い食いしては校長に呼び出され、やることなすこと校長に怒られてた北山蝶子が一児の母だもねえ」
泰輔「そういうことです、ええ」
玄関の戸の開閉音
頼介が敬礼であいさつ。
夢助「いらっしゃい!」
頼介「遅くなりました!」
泰輔「上がった、上がった!」
道郎や要が拍手する。
連平「待ってましたよ!」
泰輔「まあ、狭いけどね、ええ、その辺で、その辺で」
富子 泰輔 道郎 安乃
要
蝶子 夢助
邦子 連平 神谷 頼介
夢助「はい、どうぞ」
神谷先生の隣に座っていた夢助が移動して、頼介が座る。
頼介「岩崎さん、この度は、おめでとうございました」
要「いやいや、どうもありがとう」
泰輔「おお、酒、酒!」
頼介「いえ、自分は酒は」
泰輔「あ、そう」
頼介「はい」
蝶子「あ、じゃ、食べて」
連平「あ、そうだ。酒は、あたしらだけで、ね!」
安乃「兄ちゃん、名前」
頼介「『カズコ』ですか?」←字幕”カズコ”だけど”カヅコ”じゃない!?
富子「『カツコ』」
頼介「…いい名前です」
要「あ、そうですか?」
頼介「カツというのは心強いです」
要「うん!」
頼介「諸外国の圧力の中にあって日本は打ち勝たねばならない状況ですから」
連平「そうなんですか、先生?」
神谷「まあ、状況としては、そうでしょう」
道郎「国際連盟も脱退したし」
連平「ああ、聞いた聞いた」
富子「いじめられてんだってね、日本は」
神谷「もともと日本がよくないんだわ」
泰輔「悪いといいますと?」
神谷「この前、日本が満州国なんてもん作ったっしょ」
泰輔「うん」
神谷「あれは日本が無理やり作ったもんだもね」
道郎「軍のごり押しさ」
頼介「満州国建国は日本のためです。その恩恵をこうむる国民が批判するのはどうかと思います」
道郎「いやあ、頼介君」
連平「まあまあ、まあまあ」
神谷「したっけ、頼介君」
頼介「はい」
神谷「日本のためとしゃべって外国に武力で入っていくのは、どうかと思う。諸外国が承認しないっていうのは、そういう背景があるからだべや」
頼介「ですけど、満州国も『日本が統治するのは認めん』と言いながら『各国が集まっての国際統治なら満州国を承認する』という矛盾したことを諸外国は言ってるんです」
神谷「しかし、頼介君!」
富子「(大声で)やめ! 今日は、めでたい祝いの席だ、ね。小難しい話は、もうやめ!」
富子さんは台所を行ったり来たりするから、さっきは要と泰輔の間。今のシーンだと道郎と安乃の間に移動している。
連平「そうだ、そうだ!」
⚟赤ちゃんの泣き声
泰輔「どんどん食べた、食べた!」
蝶子は隣の部屋に寝かされている加津子の様子を見に行った。
泰輔「富子、お前の声だぞ!」
富子「あら~!」
連平「『いやさ、お富、久しぶりだなあ』」
富子「バカ」
連平「『そういう、お前は?』」
富子「富子だよ!」
笑い声
連平「ちゃんとつきあってくださいよ!」
連平は芝居がかった歌舞伎っぽいしゃべり方をしたが、頼介だけは笑ってない。そんな頼介の顔を見ている安乃。
蝶子が加津子をあやしながら連れてきて、富子と邦子もあやす。
北山家の縁側
手紙を読んでいた俊道が、みさに渡した。
みさ「蝶ちゃん、安産でよかったね。『体動かすように』って、お父さんがしゃべったこと手紙で教えた、その成果でないですか?」
ぼんやり庭に立ち尽くす俊道。
みさ「いや~、いやいや、蝶ちゃんが母親にねえ。あの蝶ちゃんがね。アハハハ、ウフフフ」
俊道「何がおかしいんだ?」
みさ「したっけ、そこら辺、ちょこまか走り回ってた、あの蝶ちゃんが…アハハハ!」
俊道「ちょっと見せろ」手紙を奪い返す。
みさ「うん?」
俊道「名前が書いてないな」
みさ「蝶ちゃんからお父さんに『付けてほしい』って手紙来るんじゃないんですか?」
俊道「紙と鉛筆!」
みさ「はい!」
俊道「いや、いい! もう、名前は付いてるべ?」
みさ「さあ?」
俊道「いやあ…父親が付けてるべさ」
みさ「そうかい? もし付いてたら、道郎さん、手紙に書いてくるんでないんですか?」
俊道「書き忘れたんだべさ」
みさ「何か…祝い送らなきゃいけないしょ?」
俊道「任せる」
みさ「…はい。赤ちゃんの写真ば送るよう、手紙出しますから。フフフフッ…」
俊道「さっきから、何、笑ってんだ?」
みさ「したっけ、お父さん、『じいちゃん』だもね」
俊道「したら、お前は『ばあちゃん』だべや」
みさ「ああ」
俊道「何だ?」
みさ「そういうことになりますね」
俊道「当たり前だわ!」
みさ「アハハハハ!」
フンッて感じで庭を見ている俊道。
<7月になりました。チョッちゃん一家3人は手狭になった乃木坂のアパートを引き払い、ここ、洗足(せんぞく)に引っ越しをしてきたのです>
乃木坂は東京都港区、洗足は東京都目黒区…どちらも大都会だね~。
男たちは大きい荷物を運び、邦子や安乃は食器を出したりしている。
赤ちゃん、メチャクチャ髪が増えた。
蝶子は向かいの家に挨拶に出かけた。「こんにちは!」
⚟音吉「バカヤロー、冗談じゃねえよ!」
⚟はる「じゃ、言ってごらんよ! ゆうべの行動、一から言ってごらんよ!」
蝶子「こんにちは!」
音吉「このバケベソが全く、お前…」
はる「まだ、話は…」
奥から玄関に出てきたので、蝶子が頭を下げた。
はる「ゆうべの相手は、この子かい?」
音吉「何言ってんだ、バカ!」
鶴太郎さん! このビジュアル、懐かしい! 妻の曽川留三子さんは北海道の方言指導もしている。大体、方言指導の役者さんは、地元の役が多い気がするけど、バリバリの江戸っ子役なんだね。
蝶子「あの~、私、今日、向かいに越してきた岩崎です」
音吉「あ、そう…どうもとんだとこお目にかけちゃって、どうも」
蝶子「これからよろしくお願いします」
音吉「ああ、こちらこそ、どうも」
はる「すると、あなたはお向かいのお嬢さん?」
蝶子「あ、いえ、あの~、主人と子供とあの…」
はる「あ、奥さんですか!」
蝶子「はい」
音吉「バカ!」
はる「だって」
音吉「見りゃ分かるじゃねえかよ! ねえ、奥さん! 奥さんだよ」
岩崎家
邦子「お疲れさま。お茶にしましょ」
連平「ああ、待ってました」
泰輔「まあ、これだけ片づきゃ、あとは楽だ」
要「皆さん、大変、ありがとうございました。助かりました」
連平「どういたしまして」
泰輔「なんの、なんの」
端材を持って帰ってきた蝶子。「よいしょ、はい!」
泰輔「チョッちゃん、何だ、それ?」
蝶子「お向かいからもらったの。あ、中山さん、ちょっと!」
音吉「どうも…こんちは、どうも」
蝶子「お向かいの中山さんです」
要「ああ、これは、岩崎です」
音吉「向かいで、あの建具屋をやっております、中山音吉です」
はる「よろしく」
要「いや、こちらこそ」
泰輔「まあ、今後とも…」
蝶子「中山さん、ちょっと」手招きする。「お願いします」
音吉「じゃ、ちょいと」
蝶子が縁側のガラス戸を開けたり、雨戸を開けたり。
音吉「ああ、こりゃあ、いけねえや! こら!」
要が蝶子の肩をたたく。
蝶子「ん?」
要「何だ、こりゃ、一体どういうつもりなんだ?」
蝶子「このうち、あちこち立てつけがおかしいから専門家に見てもらって、私が直そうと思うの」
要「お前が?」
音吉「あとは?」
蝶子「あ、あとはこっちです」
音吉「すいません」
奥の障子をチェック。
音吉「ああ…」
蝶子「閉まりがね…」
障子を開けたり閉めたり。引越しの手伝いは泰輔、連平、道郎、邦子、安乃で、富子、夢助は不在かな?
<チョッちゃんの新しい生活の始まりです>(つづく)
「チョッちゃん」再放送の真裏ではBS-TBSで「不良少女とよばれて」が再放送中。こちらは山田邦子さんがレギュラー出演中、「澪つくし」には明石家さんまさん、ひょうきん族メンバーがバラエティだけにとどまらず、いろいろ活動してたんだね。「たけしくんハイ!」がドラマ化されたのは1985年で、たけしさんが冒頭に出てきた。
お笑い芸人をドラマに出すな勢もいるけど、私は結構好き。というか鶴太郎さんは芸人の中でも達者な方だし、今回からの出演なのに違和感ない。
しかし、ドラマは徐々に戦争に向かってるな~。


