NHK 1987年7月2日(木)
あらすじ
蝶子(古村比呂)が野々村家をたずねると、泰輔(前田吟)が活動写真館でトーキーを上映したいと考えていた。そこで泰輔は連平(春風亭小朝)を自宅に招き、無声映画を守り続けると約束したことを反故にさせてほしいと頼む。泰輔は、暮らしに余裕がない姪の蝶子や甥の道郎のためにも、そして楽士としての仕事を失った連平のためにも、自分の役目は稼ぐことなのだと訴える。連平は、泰輔の頼みを聞き入れる。
2025.6.19 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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国松連平:春風亭小朝
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田所邦子:宮崎萬純
河本:梅津栄
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宮内:藤田啓而
桑山:真鍋敏
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梅花亭夢助:金原亭小駒
玩具屋:前沢迪雄
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杉浦:山根久幸
鳳プロ
劇団いろは
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
野々村家前の路地では女の子2人が遊んでおり、その脇を日傘を差した蝶子が通りかかる。
野々村家
蝶子「こんにちは!」
蝶子が持ってきた風呂敷包みの中身は干物や昆布。
泰輔「ほほ~、う~ん、こいつは酒のさかなにいいな。え!」
富子「わざわざすまないねえ」
蝶子「ううん」
泰輔「知らせてくれたらさ、取りに行ったのに」
蝶子「いいの。体はね、動かした方がいいって、母さんの手紙にもあったし」
富子「ああ、なるほどね。う~ん」
泰輔「チョッちゃん」
蝶子「ん?」
泰輔「叔父さんね、とうとう決意したぞ!」
蝶子「何?」
泰輔「活動写真、トーキーにすることに決めた!」
蝶子「本当!」
泰輔「うん!」
富子「やっとね」
蝶子「そう! でも、もっと早くにそうしてればよかったのよ…連平さんは知ってるの?」
泰輔「あ、うんうん…今日さ、会うんだよ。ここで話、することにした」
蝶子「そう」
富子「連平、何て言うかね」
泰輔「あ? ああ…」
富子「あ、お茶でいい?」
蝶子「すいません」
富子「うん、そいじゃ」干物を持って台所へ。
泰輔「ところで要さんとはどうだ?」
蝶子「いや、それが!」
泰輔「おう!」
蝶子「何だか最近、仕事に意欲的なのよ」
泰輔「ふ~ん」
蝶子「そりゃ、嫌なものは別だけど、今までは断ってた仕事でも、最近、興味を持ったり考えたりしてるの」
泰輔「ふ~ん!」富子に視線を送る。
台所から戻ってきた富子。「あ、そう!」
蝶子「要さんて、ほら、外見は、ああいうふうに奔放そうだけど、気の小さいとこあるじゃない」
富子「うん」
蝶子「音楽に関しても、そうなのよ。小心だし、用心深いし、慎重だし、だからいつも完璧を目指すの。だから、音楽に関しては自分にも他人にも厳しいのよ」
うなずく泰輔。
富子「でも、よかったじゃない、やる気になって」
泰輔「うん!」
富子「ねえ。父親になるっていう自覚、出てきたんだよ、きっと」
蝶子もうなずき、笑う。
泰輔「よかった、よかった。な!」
⚟玄関の戸が開く音
富子「(小声で)来たよ!」
夢助「若、お連れしやした!」
連平「こんちは!」
泰輔「…まあ、どうぞどうぞ」
連平「あ、来てたの?」
蝶子「こんにちは」
夢助「いらっしゃい」
泰輔「連平君、わざわざすまんな」
連平「いえいえ、何ですか?」
泰輔「あ、ああ…」
富子「あ、お湯は、まだかね」台所へ。
連平「あの…」
泰輔「連平君」
連平「何か?」
泰輔「私は以前、君に私の活動写真は絶対にトーキーにはしないと約束した」
連平「ええ」
泰輔「『君のことは見捨てない』とも言った」
連平「覚えてます」
何回か語られているエピソードだけど、49話は野々村泰輔役が前田吟さんに変わった回でもあるんだな。
泰輔「だけどね、ここに至って我が泰明座は閑古鳥の巣だ。お客は、みんな、トーキーにしてる小屋に持っていかれた。いやいやいや、私のもう一つの方の事業の方が順調に行っていれば、ま、問題ないんだけども、そっちの方もパッタリだ。今、両方、転機に立たされてんだよ」
連平「はっきり言ってくださいよ、社長」
泰輔「あ、うん…連平君との約束をだな、ほごにしたい」
連平「というと?」
泰輔「泰明座、トーキーにしたいんだ」
連平「やっぱり…」
泰輔「トーキーにしてさ、盛り返したいんだよ! 今がこの勝負時なんだ! いやいや、言っとくけど、なにも金もうけだけで言ってんじゃないぞ。私にも生きていかなきゃいけないしね、女房ってもんがいる。生活の不安定な亭主持った、めいっ子もいる。小説家になれるか、なれないか分かんないような、おいっ子もいるしさ、そういう身内がいるんだ。俺はね、そういう周りの身内を支えていかなきゃいけないわけだよ」
蝶子「叔父さん…」
泰輔「俺さえ、きちっと城持ってりゃ…身内だけじゃない。連平君や夢助君、邦子ちゃんや神谷先生、万一って時には手助けのしようもあろうってもんじゃないか。ね! 誰が決めたってわけのもんでもないんだけどさ、俺の役目ってのは、そういうもんじゃないかって、最近、そう思ってさ」
連平「あたしのことなんかどうでもいいですよ、社長! 好きにしてくださいよ。ご時勢ってもんにゃ勝てませんやねえ、いずれも様!」
<半月後、トーキーになった泰明座には客が戻り、泰輔さんは一段落という、あんばいです>
花のワルツ
大東キネマ豪華篇
オール・トーキー
大東キネマオール・トーキー
原作脚色 野田高梧 監督 野村活将
月夜の純情
×原 謙 主演
×野通子
泰明座の外壁には”オール・トーキー”という看板が増えた。野田高梧ってホントにいる脚本家だけど、あとは架空っぽい? 限りなく上原謙さんだろうけど。
泰明座事務所
三島「私んとこじゃ、ヨーヨーなんて作ったことはねえんですよ」
泰輔「できませんか?」
三島「できねえことは、ねえけど…」
泰輔「だったら、お願いしますよ。これからヨーヨー、もっともっと売れると思うんだよ!」
三島「う~ん。ねえ」
泰輔「三島さん、試しにひとつ作ってみてください!」
三島「…分かりやした。なんとかやってみましょう」
泰輔「あ、そう。じゃ、この丸い型だけじゃなくて、星型のやつとか三角のやつとか見本に作ってください。ね!」
三島「へへへ、じゃ、早速」
泰輔「あ、よろしくお願いしますよ!」
三島「はいはいはい」
泰輔「頼みましたよ!」
三島「はいはい、はいはい」
泰輔「ハハハハッ!」三島と入れ違いに蝶子と邦子が入って来た。「よっ!」
蝶子「叔父さん、盛況おめでとう!」
泰輔「あ、ありがとう!」
邦子「トーキーにしてよかったでしょ?」
泰輔「うん! まあ、どうぞどうぞ。座った、座った、座った」
蝶子「やっぱりトーキーの方が臨場感があるのよ」
邦子「そうそう!」
蝶子「ヨーヨー?」
泰輔「うん」手にヨーヨーを持っている。
蝶子「叔父さんの?」
泰輔「うん」
邦子「私も持ってる」
泰輔「へえ!」
邦子「ほら!」ハンドバッグからヨーヨーを取り出し、立ち上がって使って見せる。
泰輔「今度ね、ヨーヨー作って売り出そうと思ってるんだよ」
蝶子「へえ!」
泰輔「これ、チョッちゃんにやる」
蝶子「え? ありがとう!」
泰輔「やってみろ」
蝶子「うん」立ち上がる。
邦子「こうやってやるのよ。はい」
蝶子がヨーヨーをやってみる。
泰輔「お~、ホホホ! うまい、うまい、うまい…ハハハハ!」拍手を送る。
蝶子「どうして上まで行くの?」
邦子に教わりながら続ける。
「澪つくし」でも昭和8年年末、久兵衛が縁側でヨーヨーをやっていて、ちょうど「スケバン刑事」放送の時期でもあり、リアルタイムの流行りも取り入れたのかな?と思っていました。
しかし、「岸壁の母」では昭和8年頃、ヨーヨーが大流行りだとナレーションで説明がありました。意外と、朝ドラの方が説明なしに入れ込んでくるんだね。
玩具屋の前沢迪雄さんは「岸壁の母」では石田の父!
ノック
泰輔「はい、どうぞ!」
杉浦「大東キネマの杉浦です」
泰輔「おお、杉浦さん!」
杉浦「やあ、大入りだったそうですね!」
泰輔「今、かかってる『月夜の純情』、この続編、是非、やってもらいたいな」
杉浦「ああ、それ、評判がいいんですよ」
泰輔「やっぱりねえ!」
蝶子「私は『花のワルツ』の方がいいな」
邦子「あ、私は『月夜』」
蝶子「『ワルツ』」
邦子「どうして?」
蝶子「音楽や歌のふんだんに入った『花のワルツ』の方がトーキーらしくていいわよ」
邦子「だけど、筋立ては『月夜』の方がいい」
泰輔「めいっ子と、その親友です」
杉浦「2人のご意見は、この…大いに参考にさせていただきますよ」
笑顔の邦子と蝶子。
岩崎家
要が蓄音機にレコードをかける。ちょっと不気味な音楽。「知ってるか?」
首を横に振る蝶子。
要「『暗い日曜日』っていう歌だ」
蝶子「ああ、これが!」
要「うん。借りてきたんだ」
♬~(「暗い日曜日」)
蝶子「暗いね」
要「うん」
<この年は1月からなぜか女学生の自殺が頻発したんです。この「暗い日曜日」は、えん世ムードをあおるとしてレコードは発売禁止になっていたのです>
蝶子「今日ね、私ね、叔父さんの映画館に行ってきたのよ」
要「大きいおなかであんまり出歩くなよ」
蝶子「歩いた方がいいのよ」
要「転んだらどうするんだ!」
蝶子「気をつけてるから」
要「…それで?」
蝶子「それでね、私は『花のワルツ』っていう映画の方が好きだったのよ。音楽がふんだんにあって、トーキーにはふさわしいのよ。そう言ったら、たまたま映画会社の人が来て、『参考にします』だって! フフフフッ。私の意見、参考にされたのよ、フフフッ」
要「フフッ。お前は単純だな」
蝶子「え?」
要「まあ、いいけど」
♬~(「暗い日曜日」)
ちょっとムッとする蝶子。
カフェ泉
河本「お待ち遠さまでした」
泰輔「ああ」
邦子「あ、おじさん」
河本と泰輔が同時に返事をする。
河本「あ、どうも!」
泰輔「ハハハッ、いやいや!」
邦子「こちら、チョッちゃんの叔父さんなの」
河本「そうですか。蝶子さんには音楽学校の生徒の頃から来ていただいておりまして」
泰輔「こっちの話もね、ちょくちょく伺ってましたよ」
河本「そうですか。あ、どうぞ、ごゆっくり」
泰輔「あ、はい」
河本がカウンターに戻る。
泰輔「邦子ちゃん、いくつだ?」
邦子「あ、1つ」
泰輔「お、1つか。おい!」コーヒーに砂糖を入れる。「なかなかいい店だね」
邦子「…あ、話って?」
泰輔「ん? うんうん…邦ちゃん、あれ?」
邦子「え?」
泰輔「映画女優になるつもりないか?」
驚いてコーヒーを吹きそうになる邦子。
泰輔「この間、ほら、チョッちゃんと2人で私の映画館に来たでしょ。あの時、映画会社の人がいたでしょ?」
邦子「ああ…」
泰輔「あの人が邦ちゃんを見て『大東キネマの女優にしたい』って言うんだよ」
驚く邦子。「…からかってる」
泰輔「いやいや、向こうもね、邦ちゃんの顔は雑誌の表紙とかポスターで知ってたらしいんだ。私が『古い知り合いだ』って言ったら『是非、気持ち、聞いてほしい』って言うんだよ」
邦子「女優?」
泰輔「うん。ほら、活動がトーキーってことになったでしょ。だから…あれだ、新しい女優が必要なんだよ」
ちょっと顔がほころぶ邦子。
泰輔「どうだ? もし、その気があるんだったら『是非、会いたい』って向こうが言うんだよ」
ちょっとあいまいな感じの邦子。
岩崎家
蝶子「映画女優に!?」
うなずく邦子。
蝶子「何て返事したの?」
邦子「考えさせてくださいって」
蝶子「どうして考えるのよ! 『やります』って言えばいいのに」
邦子「だって!」
蝶子「嫌なの?」
邦子「嫌じゃないけど」
蝶子「じゃあ、受けるべきよ。私だったらすぐに…食べよ」
邦子「うん。でも、女優っていったら演技しなきゃいけないのよ」
蝶子「うん、そうそう」
邦子「私、自信ないもの」
蝶子「ふ~ん」
邦子「それはチョッちゃんはさ、小学校の頃から学芸会やなんかの芝居によく出てて上手だけど、私はダメなの。高女の3年の時、創作劇やったことあったじゃない?」
蝶子「『麗しき友情』!」
邦子「うん」
蝶子「うん、やったね! 台本も自分たちで作ったり、衣装もふだん着、作り直したり、作ったり、背景の絵も自分たちで描いたり…楽しかったねえ!」
邦子「うん」
蝶子「私、男役やったのよ。邦ちゃんがやった女学生に思いを寄せる中学生の役! 食べないの?」
邦子「…あの芝居の発表会の時、私、見てる人の前でセリフ忘れたのよ」
蝶子「うん、そうそう!」
邦子「何度やり直しても同じとこでセリフ出なかったわ。私、舞台の上で泣いちゃったじゃない」
蝶子「結局、途中で幕を下ろしたんだ」
邦子「それ考えたら迷うわよ」
多分、邦子が手土産で持ってきたケーキを食べ始める蝶子。「う~ん、でも、7~8年も前じゃない」
邦子「私には傷になって残ってるの」
蝶子「ふ~ん」
邦子「演技に自信ないの」
蝶子「けど、もったいないなあ」
邦子「もちろんやってみたいことは、やってみたいのよ」
蝶子「映画だもんね!」
邦子「うん」
蝶子「女優だもんね!」
邦子「うん!」
蝶子「いいなあ! やってみりゃあ、いいじゃない」
邦子「う~ん」
蝶子「やるべきよ!」
無言でケーキを口に入れる邦子と蝶子。
要「ただいま」
蝶子「お帰りなさい」
要「ほら、ケーキだよ、ケーキ! ウインドーに並んでるの見たらね、無性に何か買いたくなっちゃってさ」
蝶子「食事まだでしょ?」
要「うん。ねえ、中身、見ないのか?」
蝶子「後で…」
要「うん…」ケーキの箱をテーブルの上に置き、着替えへ。
蝶子は台所でキャベツのみじん切り。
要「ねえ、どうかしたの?」
蝶子「…何が?」
要「ああ、何がって、ちょっと変じゃないか?」
蝶子「どうして?」
要「別にどうしてってわけじゃないんだけどさ」
<チョッちゃんは邦子さんに少~し嫉妬していました>(つづく)
要が怒鳴ってるだけじゃなく、蝶子に振り回されてる感じがもっと見たいね。

