NHK 1987年6月27日(土)
あらすじ
蝶子(古村比呂)の前に、軍服姿の彦坂頼介(杉本哲太)が現れる。姿をくらましてから2年の月日が経っていた。野々村家で再会した安乃(近藤絵麻)は、顔を見るなり兄の頬を引っ叩く。滝川でも東京でも逃げた兄は卑怯だと責める妹に、「もうこれからは逃げない。戦場からは逃げられない。」そうつぶやく頼介の心は、ますます頑なになっていた。一方、遊び人の恋人に振り回され、邦子(宮崎萬純)の心はますます荒んでゆく。
2025.6.14 NHKBS録画
脚本:金子成人
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音楽:坂田晃一
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語り:西田敏行
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岩崎蝶子:古村比呂…字幕黄色
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岩崎要:世良公則
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彦坂頼介:杉本哲太
田所邦子:宮崎萬純
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河本:梅津栄
彦坂安乃:近藤絵麻
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小山:坂田祥一郎
女:かとうゆかり
劇団いろは
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神谷容(いるる):役所広司
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野々村富子:佐藤オリエ
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野々村泰輔:前田吟
<2年前、チョッちゃんたちの前から姿を消していた彦坂頼介君が今日、突然、現れたのです>
野々村家茶の間
富子「そう兵隊に…」
頼介「はい」
泰輔「手紙をもらった時は確かまだ東京にいたよね?」
頼介「あのころは品川の近くで船の荷役作業をしていました。そのうち、ますます失業者が増え、この先どうなるか分からなくなってきました」
泰輔「う~ん」
頼介「自分もこのままじゃダメだと思いました。なんとかしなきゃと思いました。野々村さんが自分の住所をあのままここにしていてくださったおかげで東京で志願して陸軍に入りました」
泰輔「ああ、そう」
頼介「自分は軍隊に入り、やっと天職を見つけたような気がします」
頼介を見ている蝶子。
頼介「自分も役に立つ人間だと分かりました」
蝶子「安乃ちゃんには?」
頼介「まず、こちらにと思い…」
蝶子「そう」
富子がお茶を出す。
頼介「はい。すいません」
泰輔「じゃ、あれだ。チョッちゃんのことは、まだ知らないわけだ」
蝶子「結婚したんだわ。岩崎要と」
頼介「おめでとうございます」頭を下げる。
蝶子も頭を下げる。苦笑の富子と泰輔。
頼介「いつ?」
蝶子「…去年の5月」
富子「そろそろ1年半ってとこ」
泰輔「そうそう、1年半だ」
頼介「幸せですか?」
蝶子「はい」
富子「お茶、どうぞ」
頼介「あ、いただきます」
富子「ゆっくりしておいきよ」
頼介「はい」
泰輔「そうそう、安乃ちゃんもこっちへ呼んでさ」
頼介「いやあ、しかし…」
泰輔「遠慮はなしだ」
蝶子「それに頼介さんには要さんに一度会ってほしいし。嫌?」
頼介「自分もお会いしたいです」
蝶子「はい」
頼介「はい」
岩崎家
勢いよく玄関のドアを開ける蝶子。「要さん!」
要「ああ、お帰り。どうした?」
蝶子「時間ない?」
要「ん?」
蝶子「頼介さんに会ってほしいの」
要「頼介君?」
蝶子「千駄木に現れたの」
野々村家
台所から茶の間を気にする富子。
頼介「岩崎さん、あの節は腕を痛めさせまして申し訳ありませんでした」
(要「ああ、いえ」)
頼介(「その上、謝りもせず姿をくらまし)恥ずかしいです」
()内は字幕が出てなかった。収まり切れなかったのかな? なぜ?
要「いや、あのころはね、僕も不真面目だったんだ。蝶子に対しても何に対してもだ。だから、君をからかうようなことを言ってしまった」
頼介「いえ、自分が未熟でした」
微笑んでうなずく要。
泰輔「おい、まだか?」
富子「もうすぐだよ!」
要「頼介君、今はどこに?」
頼介「歩兵第三連隊であります!」←声がでかい!
戸が開く音がした。
⚟安乃「安乃です!」
蝶子「こっちよ!」
玄関の戸が閉まる音がし、障子が開いて、安乃が顔を見せた。正座していた頼介が振り向き、少しだけ安乃に向かってほほ笑んだ。
頼介をビンタする安乃。「逃げるんはひきょうだわ、兄ちゃん! 兄ちゃん、いつも逃げてばっかりでない! 滝川からも逃げ、東京でも逃げ…」泣き出す。
頼介「すまなかったなあ」
泣いている安乃に駆け寄り、抱きしめる蝶子。
頼介「もう逃げないから。兵隊になれば戦場に行く。そこでは逃げられないべさ。そういう場に自分の身ば置いて…鍛え直したかったんだ」
野々村家の玄関を出た頼介はビシッと敬礼。「行こうか」と安乃の肩に手を置いて去って行った。
富子「何だか」
蝶子「え?」
富子「ますますかたくなになったみたいだね」
泰輔「軍隊に入りゃあな。でもさ、ま、現れただけでも」
蝶子「そうだね」
要「さ、俺は仕事に行こうかな」
泰輔「明劇(めいげき)?」
要「はい」
蝶子「じゃあ、私も」
要「そうか、よし。じゃ!」
富子「それじゃ、また」
蝶子「はい」
泰輔「じゃ、また」
要にぴったりくっついて歩いていく蝶子。
泰輔「ヘヘヘッ、おう?」
富子「何だい?」
泰輔「今日は久しぶりに浅草へでも行くか? うん!」腕を差し出す。
富子「いいねえ! フフッ」泰輔と腕を組む。
ま~、正直さ、妹が兄を、女が軍人を殴るってのにすごい違和感あった。逆は、あるあるだけどね(-_-;)
カフェ泉
邦子が泣きだしそうな表情で駆けこんできた。
河本「どうしたの?」
小山「おい邦子、彼女とは何でも…」
河本「おい! お前、この子まで泣かすようなことするのか!」
小山「いえ」
女「小山ちゃん、何してんの?」
河本「出てけ!」
小山「おい」女と出ていった。
マスター、いつもとは全然違い、迫力のある怖い声だったな。
んで、小山と一緒に出ていった女・かとうゆかりさんは最近、再放送で見ている「不良少女とよばれて」でも毎日のように見てる。
何気に「不良少女とよばれて」と「チョッちゃん」出演者がかぶってる。
たみ→中川景子(笙子と同じ少年院にいる妊娠した少女)
俊介→朝男の幼少期
女→辻村晴子(笙子の親友)
蝶子と神谷が深刻な顔をして並んで歩いている。
邦子の部屋
柄物のブラウスに赤いカーディガンの邦子。
蝶子「邦ちゃん、あの男の人はね…」
邦子「知ってるわよ。みんな知ってる」
神谷「みんなって…?」
邦子「あの人は絵描きじゃないってこと!」
蝶子「邦ちゃん…」
邦子「ただの遊び人だってこと」
蝶子「別れるんでしょ?」
邦子「…」
蝶子「どうして黙ってるの?」
邦子「私のことは、ほっといて!」
神谷「田所君」
邦子「去年の大みそかよ。仕事仲間と踊りに行ったのよ。踊り明かして新年迎えようとしたの。けど、一緒に来た連中、だんだん減ってくじゃない? 家に帰るって人、恋人のとこへ行くって人。私…一人残ったのよ。一人、お酒飲んでたら彼が声をかけてきたの。『一人だ』って言うじゃない? 『一人で年越しだ』って言うじゃない。2人で朝まで店にいた。『楽しかった』って向こうが言ってくれたの。優しいのよ。話し相手になってくれるのよ」
蝶子「そんなこと!」
邦子「何よ!」
蝶子「私や神谷先生、いるじゃない!」
邦子「あんたは結婚してるっしょ!」
蝶子「結婚してちゃ、どうして話し相手にならないの?」
邦子「世界が違うっしょ!」
蝶子「だからって、あんなウソつき男とつきあうことないじゃない!」
邦子「チョッちゃんには分からないんだわ」
蝶子「ああ、分からない。お金もせびられたんじゃない? どういう男か知ってて、そんなことする邦ちゃん、私には分からない!」
そっぽを向く邦子。
神谷「田所君。君は、その男、好きなんかい? 好きなら好きでいいんだ。したっけ、私には、どうも君、見てると、ただ、気ぃ紛らしてるとしか見えないんだわ。一人で仕事して大変だべさ。気ぃ紛らすことも必要だわ。したっけ、そう簡単に見切るんでない。手近な…手近にあるもんで間に合わすんでない」
神谷先生を見る邦子。
神谷「優しい言葉は誰でも言えるもね。惑わされるんでない。君は、その男のウソの言葉にも気付いてたべ?」
蝶子「そうなのかい? 知ってて、その男と?」
神谷「そりゃ、逃げだぞ、田所君! 逃げたらうまくないべ!」
泣きだした邦子に寄り添う蝶子。
<チョッちゃんにも邦子さんの寂しさが何となく分かりました>
岩崎家
お釜で米を研ぐ蝶子。ノック音がし、手を洗った。「は~い!」
邦子「チョッちゃん、開けて!」
蝶子「あ、邦ちゃん!」
ケーキの箱持参で訪れた邦子。
蝶子「何よ、もう、びっくりするじゃない」
邦子「ごめん、ごめん!」
蝶子「あ、入って!」
邦子「ケーキ食べよう。ケーキ」蝶子より先に今に入り、ソファに座る。
蝶子「どうしたのよ?」
邦子「あの男とは別れたわ」笑顔でうなずく。
蝶子「そう! 紅茶にしよう!」
邦子「うん」
台所でヤカンに火をかけ戻ってきた蝶子。
邦子「この前、来てくれてありがとう。うれしかった」
うなずく蝶子。
邦子「焦ってたのよ…結婚したチョッちゃんを見るにつけ夫婦ってものを見るにつけ」
蝶子「ん?」
邦子「こっちは一人じゃない? 女が一人、社会に出て仕事してるわけじゃない」
蝶子「うん」
邦子「…結婚して何にもしてないチョッちゃんなんかより、私の方が偉いわよっていうのが心のどこかにあったのよ」
蝶子「ふ~ん」
邦子「だから無理するじゃない? だけど、つらいことやさみしいこともちゃんとあるのよ。だけど、無理して押し隠して強がってたのよね」
蝶子「…そう」
邦子「強がるってことはチョッちゃんを羨んでたのよ」
蝶子「結婚を?」
邦子「そばに誰かがいてくれるってこと。けど、もう大丈夫。無理しないことにしたの。強がらないことにしたから」
蝶子「うん!」
邦子「あ、お湯まだ?」
蝶子「う~ん、まだみたい」
邦子「あ、じゃ先に食べよう、先に」
蝶子「うん」
箱にかかった紐を外す邦子。
蝶子「これ『エクレア』でしょ」
邦子「分かるの!?」
蝶子「うん、最近、においに敏感なのよ」
邦子「ふ~ん」
蝶子「何か…どうも妊娠してるみたいなのよ」
邦子「え!?」
蝶子「どうも」
邦子「本当!?」
蝶子「要さんにも誰にも話してないけど」
邦子「病院には?」
蝶子「まだ」
立ち上がった邦子。「火消して!」
蝶子「何?」
邦子「病院行くのよ、病院!」
蝶子「うちの父さん、産婦人科なのよ」
邦子「だからって、何? 滝川に行くわけにいかないんだから。近くの病院探すの!」
蝶子「うん」
よくある洗面所に駆け込むみたいな描写じゃなかったね。
夜、要が帰ってきた。「ただいま!」
蝶子「フフフフフフ」
要「何だ?」
蝶子「ウフフフフッ」
要「何なんだ?」蝶子のおでこに手をあてる。
蝶子「ウフフフッ」
要「変なやつだな。どうかしたのか?」
蝶子「出来た」
要「ああ、晩飯か? サバは大好きだよ」
蝶子「赤ちゃん」
要「うん?」
蝶子「妊娠したのよ」
要「何!?」
うなずく蝶子。
要「本当か?」
蝶子「ウフフフ。私、妊婦」
要「あ、ちょっと、腹…腹出して!」
蝶子「え?」
要「いや、いい!」
バイオリンを手にする要。「で? やあ、どっちだ?」
蝶子「うん?」
要「男か女か?」
蝶子「さあ?」
要「いい。そこへ立ってろ」
蝶子「はい?」
要がひざまずいて「ブラームスの子守唄」を演奏しだした。
要「父親のバイオリンの音、覚えさせないとな」
蝶子「はい!」
要「うん!」
<チョッちゃんは妊娠3か月でした>(つづく)
頼介君だけで終わるのかと思ったら、結構いろいろ詰め込まれていた。兄をビンタする安乃、男と別れた邦子…昭和末期というかバブル期の女性たちって感じがした。

